Trademark Appeal Case
立体商標の識別力
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 平成11年審判第10629号 |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
1.本願商標
本願商標は、別掲のとおりの構成よりなり、第9類「ピペット」、第37類「ピペットの修理又は保守」を指定商品および指定役務とし、平成9年4月10日に立体商標として登録出願されたものである。
2.査定の理由
原査定は、「本願商標は、商品『ピペット』の一種を表したものと認識させる立体的形状よりなるものであるから、これをその指定商品に使用するときは、商品の形状を表示するにすぎないものと認める。また、これをその指定役務に使用するときは、取引者・需要者に、修理の対象であるピペットを表示したものと認識させるにとどまり、単に役務の質(内容)を表示したにすぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」として、本願を拒絶したものである。
3.当審の判断
(1)平成8年法律第68号により改正された商標法は、立体的形状若しくは立体的形状と文字、図形、記号等の結合又はこれらと色彩との結合された標章であって、商品又は役務について使用するものを登録する立体商標制度を導入した。
立体商標は、商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物(以下「商品等」という。)の形状も含むものであるが、商品等の形状は、本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり、あるいはその商品等の形状の持つ美感を追求する等の目的で選択されるものであり、本来的(第一義的)には商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として採択されるものではない。
そして、商品等の形状に特徴的な変更、装飾等が施されていても、それは前記したように、商品等の機能又は美感をより発揮させるために施されたものであって、本来的には、自他商品を識別するための標識として採択されるのではなく、全体としてみた場合、商品等の機能、美感を発揮させるために必要な形状を有している場合には、これに接する取引者・需要者は当該商品等の形状を表示したものであると認識するに止まり、このような商品等の機能又は美感と関わる形状は、多少特異なものであっても、未だ商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないと解するのが相当である。
また、商品等の形状は、同種の商品等にあっては、その機能を果たすためには原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから、取引上何人もこれを使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものであって、一私人に独占を認めるのは妥当でないというべきである。
そうとすれば、商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合はともかくとして、商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成される商標については、使用をされた結果、当該形状に係る商標が、取引者・需要者間において、当該形状をもって同種の商品等と明らかに識別されていると認識することができるに至っている場合を除き、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として商標法第3条第1項第3号に該当し、商標登録を受けることができないものと解すべきである。
(2)立体商標制度を審議した工業所有権審議会の平成7年12月13日付け「商標法等の改正に関する答申」(30頁)においても、「3.(1)立体商標制度の導入 需要者が指定商品若しくはその容器又は指定役務の提供の用に供する物の形状そのものの範囲を出ないと認識する形状のみからなる立体商標は登録対象としないことが適当と考えられる。...ただし、これらの商標であっても使用の結果識別力が生ずるに至ったものは、現行法第3条第2項に基づき登録が認められることが適当である。」としている。
また、商品の形態を不正競争防止法により保護を求めた事件の判決においても、例えば、「商品の形態自体は、その商品の目的とする機能をよりよく発揮させあるいはその美感を高める等の見地から選択されるものであって、本来、商品の出所を表示することを目的とするものではないけれども、二次的に出所表示の機能を備えることもありうべく、この場合には商品の形態自体が特定人の商品たることを示す表示に該当すると解すべきである。」(東京地裁 昭和52年12月23日言渡 昭和50(ワ)3035号)との判示がなされており、これと同旨の判示をした判決はこの他にも多数存するところである。
したがって、前記(1)の解釈は、本件独自の見解でないことは明らかである。
(3)これを本願についてみれば、本願商標は、別掲のとおりであって、グリップボデイ部に容量設定リングのある四角形の操作口を貫通状に設けたり、四角縦長の表示窓や滑り止め溝を設け、また、ボデイ上部に対象液の吸引・吐出を行うためのプッシュボタンやチップ交換のためのエジェクトボタンを設けるなど、各部について固有の配置・形態を有するとしても、全体として、ピペットそのものを表した立体的形状よりなるものであるから、これをその指定商品「ピペット」に使用しても、取引者・需要者は、単に商品の形状を表示するにすぎないものとして理解するに止まり、自他商品を識別するための標識とは認識し得ないものと判断するのが相当である。
また、本願商標をその指定役務「ピペットの修理又は保守」に使用しても、取引者・需要者は、単に当該役務の対象物「ピペット」の形状を表示するにすぎず、当該役務の質又はその提供の用に供する物の形状を表したものとして理解するに止まり、自他役務を識別するための標識とは認識し得ないものと判断するのが相当である。
これに対し、請求人は、本願商標の立体形状は、その各部において外観形態上の特異性を有し、それらが機能的な必然性に由来せず、総合的なデザイン上の観点から選択されたものであり、全体の立体形状が出所表示機能をもつものである旨主張する。
しかしながら、本願商標は、前記認定のとおり、ややその形状が特徴的なものであっても、それはピペツトの機能又は美感をより発揮させるために施されたものであり、ピペットの形状を普通に用いられる方法の範囲で表示する標章のみからなる商標というべきであって、請求人の主張するようにその意図において、本願商標における各部の形状が、機能的な必然性に由来せず、総合的なデザイン上の観点から選択されたものであったとしても、その形状に特徴をもたせたことをもって自他商品の識別力を有するものとは認められないことは(1)で述べたとおりである。
(4)立体的形状からなる商標であっても、商品等の形状をもって構成されるものについては、本来的又は直接的には他の知的財産制度で保護されるものであることなど、平面的な商標とは明らかに異なるものであるため、商標法においては、立体商標制度導入に当たって、商標法第4条第1項第18号等が設けられ、また、前掲工業所有権審議会答申でも、「...指定商品やその容器の形状そのものの場合には不登録とする運用を厳しくすること...」としている(前掲答申31頁参照)。
そして、商品等の形状であっても、使用により自他商品の識別力を取得する場合があり、そのときには、識別力を認めて登録することは前示のとおりである。
(5)請求人は、「本願商標は、使用の結果、自他商品を識別する機能を具有するに至っているものであるから、登録されるべきである」旨主張し、当審において証拠資料1ないし同14を提出した。
(ア)ところで、商品等の形状に係る立体商標が、商標法第3条第2項に該当するものとして登録を認められるのは、原則として使用に係る商標が出願に係る商標と同一の場合であって、かつ、使用に係る商品・役務と出願に係る指定商品・役務も同一のものに限られると解される。
そして、出願に係る商標が立体的形状のみからなるものであるのに対し、使用に係る商標が立体的形状と文字、図形等の平面標章より構成されている場合には、両商標の全体的構成は同一でないことから、出願に係る商標については、原則として使用により識別力を有するに至った商標と認めることができない。ただし、使用に係る商標の形状の全体を観察した場合、その立体的形状部分と出願に係る商標が同一であり、その立体的形状が識別標識として機能するには、そこに付された平面標章部分が不可欠であるとする理由が認められず、むしろ平面標章部分よりも立体的形状をもって需要者に強い印象、記憶を与えるものと認められ、かつ、需要者が何人かの業務に係る商品等であることを認識することができるに至っていることの客観的な証拠(例えば、同業組合又は同業者等、第三者期間による証明)の提出があったときは、直ちに商標の全体的構成が同一ではないことを理由として商標法第3条第2項の主張を退けるのではなく、提出された証拠から、使用に係る商標の立体的形状部分のみが独立して、自他商品等を識別するための出所表示としての機能を有するに至っていると認められるか否かについて判断する必要があるというべきである。
また、使用に係る商品・役務が出願に係る指定商品・役務の一部である場合は、使用に係る商品・役務に指定商品・役務が限定されない限り、出願に係る商標については、使用により識別力を有するに至った商標と認めることはできないものである。
(イ)そこで、請求人提出の証拠について検討する。
証拠資料1は、商品カタログであるところ、その1頁、4頁ないし7頁には本願商標と同じ形態の立体的形状を有するピペットが示されている。そして、当該立体的形状には「pipetman」の文字が表示されている。
前示のとおり、商品等の形状は、本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり、或いは、その美感を追求する等の目的で選択されるものであって、本来的(第一義的)には、商品の出所を表示し自他商品を識別する標識として採択されるとはいえないものであり、その識別機能を果たすものとしては文字、図形又は記号等が適しているため、専らこれらが自他商品の識別標識として採択、使用されていることは顕著な事実であること及び前示認定のとおり、本願商標に係る形状がピペットの−形態を表示するに過ぎないものであることからすれば、前記証拠資料1(1頁、4頁ないし7頁)中の本願商標に係る商品「ピペット(容量可変式マイクロピペツト)」は、「pipetman」の文字商標により、識別されているというべきである。
証拠資料5には、全社販売推移として各モデルに対応した数量と思われる数字が挙げられているが、このうち、例えばモデルの「P−2」が前記資料1(4頁ないし5頁)のP−2に当たるものだとしても、当該商品カタログには「pipetman」の文字を付した商品ピペットを見いだせるに止まり、本願商標のみの使用を示すものは見いだせない。
したがって、「pipetman」の文字を有する使用商標と本願商標とは同一のものとは言い難く、これらは、「pipetman」の文字を有する商品に関する資料とみることはできるとしても、直ちに、立体的形状のみからなる本願商標の使用数量等を示している資料とみることはできないといわざるを得ない。
証拠資料2ないし同4、同6ないし同7は、平成7年(ワ)第3580号販売等差止請求事件についての訴状、答弁書、準備書面、証人調書、及び和解調書であり、また、証拠資料8ないし同10は、平成7年(ワ)第2691号販売等差止請求事件についての訴状、準備書面、及び和解調書であるが、いずれの事件においても、商品の形態が争点となったことが窺え、結局、原告と被告の間で和解が成立するに至ったものである。その間、当事者により本願商標に関連する主張や証言がなされているが、当該主張や証言あるいは和解内容をもって、本願商標そのものが独立しても自他商品・役務の識別機能を有するに至っていることを客観的に示しているものとは言い難いものである。
また、証拠資料13の1ないし同13の16は、大学の教授や助手、公的機関の研究所の職員等による証明ではあるが、これら証明書はいずれも同様に、上部に本願商標を記載した「証明書」を表題とする一枚の用紙のみであり、その証明の対象としている2項目をみると、「(1)上記図形をもって表現されたピペットは、...(略)...ピペットマンである。(2)そのピペットマンは、私共の業界において周知著名であり、他社の容量可変式ピペットと一見して区別できるものである。」との記載があり、その下段に「上記証明する。平成 年 月 日」と印刷したものに対して、年月日を記入のうえ証明者が署名、押印している。しかして、これらは、上記2項目にあるとおり、証明対象が「ピペットマン」の称呼をもって特定されるものであることを前提としているばかりか、如何なる具体的状況のもとで証明者が「私共の業界において周知著名である」と証明をなし得たのかも定かでなく、これによっては、立体的形状のみからなる本願商標が特定の出所を認識する程度のものとなっていることを証明するものとはいい難い。
同資料14は、請求人の代表取締役(田宮僊三)の陳述書であるところ、この陳述書の中で、「市場占有率約60%を占めている」旨の記述が認められるけれども、前記資料5と同様、「ピペットマン」の称呼をもって特定される商品に関するものと理解させるに止まるものといわざるを得ない。
同資料11及び同12も、立体的形状のみよりなる本願商標の使用実績などに関して、客観的・直接的な証明をしているものとは認められない。
(ウ)その他、請求人提出の証拠を総合してみても、本願商標それ自体が、その指定商品及び指定役務について、自他商品・役務の識別標識としての機能を有するに至っているとするには十分とはいえないものであるから、先の認定を覆すに足りない。
4結論
以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものであって、同法第3条第2項の要件を具備するものとも認められないから、登録することはできない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
次の一手につながるサービス
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。