結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 平成11年審判第35167号 |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
第1.本件商標
本件登録第1445447号商標(以下、「本件商標」という。)は、「ワールドカップ」及び「WORLDCUP」の各文字を二段に書してなり、昭和50年8月7日に登録出願され、第21類「頭飾品、かばん類、袋物、造花、化粧用具」を指定商品として、同55年11月28日に設定登録され、その後、平成2年12月21日に商標権の存続期間の更新登録がされているものであるが、商標登録の取消の審判により、本件商標の登録を取り消すべき旨の審決がされ、その確定審決の登録が同12年2月9日にされているものである。
第2.請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べるとともに、証拠方法として甲第1ないし第12号証(枝番号を含む)を提出している。
1.サッカーのワールドカップを取り巻く国内及び国外での社会的・経済的な環境の以下のような変化に鑑みると、一私人の被請求人が本件商標を独占的に使用することができる商標権者であり続けることは、ワールドカップ・サッカー大会の権威を損なうとともに、現在においては、もはや世界のサッカー界・スポーツ界のみならず、世界の経済界の国際信義に反し、商品取引上の秩序を害するおそれがあるといわざるを得ないから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当し同法第46条第1項第5号の規定により、その登録は無効とされるべきものである。
(1)日本における「ワールドカップ」の一般の人々の認識度
サッカーは、今日、世界中で最も競技人口の多い国際的なスポーツであることは広く知られている。本件審判の請求人である国際サッカー連盟(Federation International de Football Association。以下「FIFA」という。)は、サッカーの振興、各国の協会と選手間の親善の促進等を目的として1904年に設立され、現在、190ケ国以上の国がFIFAに加盟している(甲第2号証の1212頁)。
ワールドカップ・アメリカ1994年大会は、NHKが衛星放送で全52試合のうち44試合を生中継で、残りは録画で独占的に放映した(甲第1号証の1199頁)。1998年にフランスで開催されたワールドカップ第16回大会は、NHKが全試合放映した(甲第4号証の2)。日本代表は、1998年大会に初出場を果たし、最高で60.9%の高世帯視聴率を記録した(甲第4号証の1の20頁)。ワールドカップに関する新聞報道においても、1998年大会期間中(1998.6.10〜7.12)、各紙スポーツ面では、「ワールドカップ」の記事が毎日大きく掲載されていたことは周知の事実である(甲第5号証の1ないし3)。
2002年ワールドカップ大会の日本、韓国への招致等により、「ワールドカップ」・「WORLD CUP」は、従来のスポーツ、サッカーファンにとどまらず、女性や中高年層を加えた実に幅広い層に認識されるに至ったといえる。
また、請求人が提出した証拠より、サッカーのワールドカップに関しては、「SOCCER」・「サッカー」の語を入れずに独立して、「WORLD CUP」又は「ワールドカップ」の語のみで大会名を表示する場合の方が一般的であり、「WORLD CUP」・「ワールドカップ」の語のみで使用・認識されていることがわかる。
(2)「2002年ワールドカップ」の日本における社会的な位置づけ
2002年ワールドカップ第17回大会は、日韓共催で行われる。(財)2002年FIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップ日本組織委員会(JAWOC)は、政官財界をあげて組織され、顧問には、現職内閣総理大臣、元内閣総理大臣、現職各大臣等が名を連ね、幹事には、経団連副会長、各省庁事務次官経験者等が就任し、「2002年ワールドカップ推進国会議員連盟」には、合計280名の両院議員らが加盟している(甲第5号証の1、甲第6号証)。
政府は、平成8年7月に関係各省庁の局長レベルで構成する「2002年ワールドカップサッカー開催準備問題に関する関係省庁連絡会議」を総理府に設置し、大会の準備等について連絡・調整を図っており、平成10年5月には、長野オリンピック競技大会と同様に、寄付金付郵便葉書等の発行や公務員の組織委員会への派遣に関する特例等を定めた、大会支援のための「平成14年ワールドカップサッカー大会特別措置法」も制定されている(甲第7号証の1及び2)。
このように、日本において「2002年ワールドカップ」は、東京オリンピックや長野オリンピックに匹敵する国をあげてのイベントである。
(3)世界におけるワールドカップを取り巻く経済的側面
世界的で大規模なスポーツ大会では、幾つもの企業がスポンサーとなって、大会の広告・宣伝等のために、企業が自己の製品に関してその大会名を使用することは、よく行われていることであり、知られていることでもある。
ワールドカップの場合、このスポンサーには幾つかの種類がある。FIFAの公式スポンサーは、競技場内に看板を出したり、大会マスコットを使って宣伝したり、オリジナル商品を作ることができる。商品の品目ごとに権利を持ち、権利商品に関しては提供の義務を負う。現在、FIFAの公式スポンサーは12社で、そのうちの3社が日本企業である。このほかのスポンサーとして、オフィシャル・サプライヤーと呼ばれる形態のもの(一業種一社しか認められない)や、各国の地域や協会が独自に持てるスポンサーがある。そして、ワールドカップにおいては、国を越えた全世界的な規模で、スポーツ関連商品に限らないあらゆる商品についてライセンス・ビジネスが展開されており、企業は権利を取得するために、巨額の金額を支払っている。
本件商標は、日本において、「ワールドカップ」が今日ほど一般に広く認識されていない段階(1980年当時)に登録されたものであり、「ワールドカップ」が今日ほど一般のあらゆる階層にまで広く浸透するに至った状況には何ら寄与した訳ではない。
本件商標の登録が現在及び将来に亘って存続するならば、「ワールドカップ」を取り巻く全世界的な枠組みの中において、本件商標の登録を独占的に維持するという手段により商業的利益を継続して得ることとなり、これは、オリンピックに匹敵する又はそれを上回るといわれる、現在の「ワールドカップ」大会の権威が損なわれるとともに、「ワールドカップ」商標の持つ利益吸引力を不当に利用(フリーライド)する行為であり、FIFAのワールドカップ大会に関連して、全世界的に展開されるライセンス・ビジネスに大きな混乱を招き、正当な商秩序及び国際信義に反する行為であるといわざるを得ない。
2.このような本件商標の登録が今後も存在し続けるとすれば、登録制度をもって正しい商標の使用と被保護利益の帰属を確保し、公正円滑な取引秩序を育成・維持しようとする商標法の本旨、及び内外の情勢変化に対応することを目的とした平成8年改正商標法の趣旨に決して適うものではない。
3.商標法第4条第1項第7号が適用された過去の審査・審判の判断例としては、甲第11号証(商願昭57ー34040、商願昭63ー114906、商願平1ー147680、審判昭56ー18562)がある。
また、外国(南アフリカ、フランス、韓国)の判断例(甲第12号証、甲第12号証の2ないし5)もあり、本件商標の登録も無効とされるべきである。
第3.被請求人の答弁
被請求人は、請求人の主張に対して何ら答弁していない。
第4.当審の判断
本件商標は、上記第1に示すとおり、「ワールドカップ」及び「WORLDCUP」の各文字を二段に書してなり、第21類「頭飾品、かばん類、袋物、造花、化粧用具」を指定商品とするものであるところ、請求人は、サッカーのワールドカップを巡る今日の状況に鑑みると、一私人の被請求人が本件商標の商標権者であり続けることは、現在においては、ワールドカップ・サッカー大会の権威を損なうとともに、国際信義に反し、商取引上の秩序を害するおそれがあることから、本件商標は、商標法第46条第1項第5号に規定する同法第4条第1項第7号(商標登録がされた後において、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標)に該当する旨主張している。
1.「ワールドカップ」・「WORLD CUP」の認識度について
(1)請求人の提出に係る証拠によると、甲第1号証(朝日新聞社発行「知恵蔵’99年版」)、甲第2号証(集英社発行「imidas」’99年版)、甲第3号証の1(岩波書店発行「広辞苑(第5版)」)、甲第3号証の2(講談社発行「日本語大辞典(第2版)」)及び甲第3号証の3(講談社発行「最新カタカナ語辞典」)のそれぞれの「ワールドカップ(World Cup)」の項には、いずれも複数のスポーツ(サッカー、ラグビー、スキー、バレーボール、陸上競技等)の世界大会(国際選手権大会、国際競技大会)を指称する旨の解説が掲載されている。そして、同じ甲第1及び第2号証のスポーツ欄などには、「サッカー(の)」、「フランス(大会)」、「2002年」等のサッカーに関係した語をそれぞれ伴った「ワールドカップ」、「WORLD CUP」、「W杯」の語が、サッカーに関する解説ないし記事とともに掲載されている。
甲第4号証の1(NHK放送文化研究所発行「放送研究と調査(’98・10月号)」)、甲第4号証の2(日本放送出版協会発行「放送文化(’98・7月号)」)、甲第5号証の1(平成5年10月29日〜同11年3月6日の「朝日新聞、讀賣新聞及び東京新聞紙面」)、甲第5号証の2(平成10年6月3日〜同年6月7日の「朝日新聞紙面」)、甲第5号証の3(平成10年6月3日〜同11年3月21日の「朝日新聞紙面」)、甲第5号証の4(平成11年4月22日〜同11年5月9日の「朝日新聞紙面」)、甲第6号証(’99・2・2インターネット情報の「財団法人2002年FIFAワールドカップ日本組織委員会の概要」)、甲第7号証の1ないし3(ワールドカップサッカー大会特別措置法に関する「平成10年5月27日付官報」及び「現行法規総覧抜粋」)、甲第8号証の1(文部省発行「平成10年度我が国の文教施設」)、甲第8号証の2及び3(文部省発行「文部時報(平成8年8・12月号)」)、甲第8号証の4(文部省体育局監修「スポーツと健康(’98・10月号)」)、甲第8号証の5(’99・3・19インターネット情報の「文部省ニュース」)、甲第9号証の1及び2(プレジデント社発行「プレジデント(’98・6月号)」)及び甲第10号証(宣伝会議発行「トッププロモーションズ月刊販促会議(’98・4月号)」)には、「サッカー(の)」、「FIFA」、「フランス(大会)」、「2002年(の)」、「平成14年(の)」等のサッカーに関係した語をそれぞれ伴った「ワールドカップ」、「World Cup」、「W杯」の語が、サッカーに関する解説ないし記事とともに掲載されている。
甲各号証の一部(前示の甲第1号証、第4号証の1、第5号証の2、第10号証等)には、サッカーと直接には無関係の他の文言(〜観戦ツアー中止、日本人を虜にした〜、〜事情、〜フェア等)をそれぞれ伴った「ワールドカップ」、「W杯」の語が、サッカーに関する解説ないし記事とともに掲載されている。
(2)以上の事実を踏まえると、我が国におけるサッカーのワールドカップの周知の程度については、同競技に関心を有する者の人数及びその推移を明確に示す証拠はないが、1993年5月のJリーグ(日本プロフットボールリーグ)発足とともにサッカーに関心を有する者が増加し、前示の甲第1号証(1119頁)の「ワールドカップ・サッカーUSA94」欄の解説(全世界で延べ320億人がテレビ観戦したといわれる。日本ではNHKが衛星放送で全52試合のうち44試合を生中継、残りは録画で独占的に放映した)及び日本が同大会の最終予選まで進出した当時のマスコミ報道等を併せ考えると、同大会が開催された1994年(平成6年)6月以降に、「サッカーのワールドカップ」は、我が国のサッカーファンを初めとするスポーツ愛好者はもとより、一般の人々にも広く知られるようになったものと認められる。
一方、「ワールドカップ(WORLD CUP)」の語については、単に「ワールドカップ(WORLD CUP)」といった場合には、サッカーを含む複数のスポーツの国際大会を意味することの事実が認められるものの、「サッカーのワールドカップ(W杯)」や「FIFA(国際サッカー連盟)」のみを指称するとの事実は認められず、また、新聞・書籍・雑誌等で使用されている「ワールドカップ」、「WORLD CUP」及び「W杯」の語も、上記のとおり、それらの語にサッカーと関係のある他の語が伴っている態様のものとか、あるいはサッカーに関する解説ないし記事が伴っている態様のものであって、いずれも一般の人々に、サッカーのワールドカップ(W杯)を意味することが了解できるような全体の使用態様となっているものであるから、請求人の提出に係る全証拠をもって、「ワールドカップ(WORLD CUP)」の語が、「サッカーのワールドカップ(W杯)」あるいはその主催者の「FIFA」を表すものとして一般に認識されているとは言い難いものといわざるを得ず、他にこれを左右するに足りる証左はない。
2.本件商標の商標法第4条第1項第7号該当の可否について
(1)本件商標の登録無効審判事件は、商標法第46条第1項第5号に基づくものであり、いわゆる後発的公益的不登録事由を規定する同法第4条第1項第7号に本件商標が該当するかどうかが論点である。
ところで、我が国において、著名な外国の団体(国際的な団体を含む。以下同じ。)と無関係の者が、当該団体の承諾を得ずに当該団体の名称又はその略称、あるいはその者が行う事業を表す標章と同一又は類似の商標の登録を受ける出願については、その商標が商標法第4条第1項第8号、第15号、第19号等によって登録を受けることができない場合に当たらないとしても、当該団体やその者が行う事業の名声を僭用して不正な利益を得るために使用する目的、その他不正な意図をもってなされたものと認められる限り、商取引の秩序を乱すものであり、ひいては国際信義に反するものとして、公序良俗を害する行為といえるから、その場合には、同法第4条第1項第7号によってその商標の登録を受けることができないものと解すべきであるが、その商標の登録出願の際には、当該団体もその者が行う事業も我が国において著名ではなく、そのため登録出願が上記のような不正な意図を伴うものでなかった場合には、その登録出願後に、当該団体の名称又はその略称、あるいはその者が行う事業を表す標章が我が国において著名となったとしても、そのことをもって、直ちに当該商標権に係る商標が公序良俗を害するものになるとは解し難い(東京高裁平成10年(行ケ)第11号・第12号審決取消請求事件判決、同11年3月24日言渡参照)。
もし、そのことをもって、当該商標権に係る商標が公序良俗を害するものであるとして、その登録を無効にするとすれば、それまで平穏無事に当該商標権に係る商標をその指定商品に使用して獲得してきた信用等の利益を一方的に奪うことになるおそれがあり、経済活動の衡平性の観点から妥当性を欠くものといわざるを得ない。
(2)これを本件商標についてみると、上記認定のとおり、本件商標の構成文字と社会通念上同一の範囲と認められる「ワールドカップ」・「WORLD CUP」が、直ちにサッカーのワールドカップやその主催者のFIFAを特定する語とはいえず、一般的にも、それらを表す語として広く認識されているとは認められない以上、本件商標の登録自体がサッカーのワールドカップやその主催者のFIFAの権威を損ね、ひいては国際信義に反するものになっているとはいえない。
また、仮に「ワールドカップ」・「WORLD CUP」がサッカーのワールドカップの著名な略称といえたとしても、サッカーのワールドカップが我が国において著名となったのは平成6年(1994年)6月以降であって、本件商標の登録出願があった昭和50年8月当時は、サッカーのワールドカップの存在及びその主催者のFIFAが我が国において広く知られていたとは認められないこと等から、本件商標の登録出願が上記(1)にいうような不正な意図をもってなされたとはいえないばかりでなく、他に本件商標をその指定商品「頭飾品、かばん類、袋物、造花、化粧用具」に使用しても、直ちにこれが商取引の秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものとして、公序良俗を害するおそれがあるものになっているともいえない。
なお、本件商標の商標自体が、矯激、卑わい、差別的又は不快な印象を与えるようなものでないことはいうまでもない。
(3)請求人は、商標法第4条第1項第7号に該当するとされた過去の審査及び審判の判断例(甲第11号証の1ないし4)を引用し、本件商標も同号に該当するとして、その登録は無効とされるべきである旨主張している。
しかしながら、引用に係る過去の判断例は、いずれも本件商標とその商標の構成、指定商品・役務、証拠関係、判断時期等を異にするものであるほか、第7号該当の判断時点についても、本件商標は設定登録された後の当該時であり、引用に係る判断例の商標はいずれも設定登録時である点でも事案を異にするものであるから、これらが、上記認定を左右するとは認められない。
さらに、請求人は、外国での判断例(甲第12号証、甲第12号証の2ないし5)をも引用しているが、当該商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるかどうかは、それぞれの国の社会・経済状況や文化、生活慣習、法制度等の相違により異なるものといえるから、外国の判断例が直ちに上記認定を左右するとは認められない。
請求人のその余の主張も、上記認定・判断に影響を及ぼすものとは認められない。
3.むすび
以上のとおり、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に該当するものとなっているとはいえないから、その登録は、商標法第46条第1項第5号により無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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