Trademark Appeal Case
DNAポリメラーゼの薬剤該当性
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 判定2000−60116(T2000−60116/J6) |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | other |
理由テキスト
1 本件商標
本件登録第2516194号商標(以下、「本件商標」という。)は、「PLATINUM」の欧文字を書してなり、昭和63年1月20日に登録出願、第1類「薬剤」を指定商品として、平成5年3月31日に設定登録されたものである。
2 イ号標章
被請求人が商品「DNAポリメラーゼ」について使用する標章として請求人が示すイ号標章は、別掲に表示した構成よりなるものである。
3 請求人の主張
請求人は、「被請求人が商品『DNAポリメラーゼ』に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属する。」との判定を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第17号証を提出した。
(1)判定を求める必要性
請求人は、本件判定請求に係る本件商標の商標権者であるが、被請求人が、商品「DNAポリメラーゼ」にイ号標章を使用をしていること(甲第2、3号証)について、平成12年6月2日、被請求人に対し、本件商標の商標権を侵害するものである旨の警告を発した(甲第4号証)。
これに対して、被請求人に代わって、その親会社である「LifeTechnologies,lnc.」が、「イ号標章は、本件商標の商標権を侵害するものではない」旨主張するので、特許庁による判定を求める。
(2)イ号標章が商標権の効力の範囲に属するとの説明
(ア)商標の類否について
本件商標とイ号標章からは、いずれも該文字に相応して「プラチナ」の同−称呼が生じることについては彼此論じるまでもなく、本件商標とイ号標章は、同一の商標であることは明らかである。
(イ)商品について
被請求人がイ号標章を使用している商品は、「DNAポリメラーゼ」であり、さらに詳細に甲第2号証及び同第3号証のカタログの記載を説明すると、PCR用のTaq抗体(Taq Antibody)、Taq DNA ポリメラーゼ(Taq DNA Polymerase)、Pfx DNA ポリメラーゼ(Pfx DNA Polymerase)、Taq PCRx DNA ポリメラーゼ(Taq PCRx DNA Polymerase)、Taq DNA ポリメラーゼハイフィデリティ(Taq DNA Polymerase High Fidelity)、ゲノタイプ Taq DNA ポリメラーゼ(GENOTYPE Taq DNA Polymerase)、ゲノタイプ Tsp DNA ポリメラーゼ(GENOTYPE Tsp DNA Polymerase)、PCR スーパーミックス(PCR SUPER MIX)であり、この「PCR用」とは、「ごく微量のDNAを数時間のうちに数百万倍にも増幅させる方法。DNA鑑定や遺伝病診断に応用される方法」、「特定の遺伝子を増幅することにより、病原体等の遺伝子を検体中から効率良く検出する方法」に用いられることを表示するものである(甲第5号証:「現代用語の基礎知識」及び同第6号証:「農林水産省ホームページ」参照)。
すなわち、イ号標章を使用している商品は、疾病診断に使用されるものであり、「商品及び役務区分解説」(甲第7号証)によると「医薬品」に該当し、「薬剤」に含まれるものであることが明らかである。
また、「DNAポリメラーゼ」は、株式会社エスアールエルのホームページ(甲第8号証)に「DNAポリメラーゼ(DNA−P)活性は、変異ウイルスも測定できる点で優れている。」、「肝炎経過中のウイルス量の評価、インターフェロン等の抗ウイルス剤の投与の指標となり、効果判定および経過観察に有用である。」と掲載されていることから、医療の研究等に使用されるものであると解される。
さらに、イ号標章の使用に係る商品カタログ(新製品ニュース)の6頁右上(甲第3号証)には、「あらゆる分野でお役にたてます。」と記載されていることからも、医療の分野においても当然、役にたつものであることが伺える。
また、被請求人のおもな得意先(甲第9号証参照)には、試薬メーカーである「ナカライテスク株式会社」(甲第10号証)、「岩井化学薬品株式会社」(甲第11号証)の名称が掲げられていることからも、イ号標章が使用されている商品は、「薬剤」として取引されていることが裏付けられる。
(3)答弁に対する弁駁
まず、判定請求書における請求人の主張に対しては、答弁書において被請求人は反論していない。
すなわち、イ号標章を使用している商品「DNAポリメラーゼ」が、PCR法(「DNA鑑定や遺伝病診断に応用される方法」、「病原体等の遺伝子を検体中から効率良く検出する方法」)に用いられることから、当該商品は「医薬品」に該当し、「薬剤」に含まれるものであるとする請求人の主張に対して答弁書には直接的な反論がなかったので、この請求人の主張を被請求人は認めたものと解される。
また、被請求人は、イ号標章が使用されている商品「DNAボリメラーゼ」は、「製品総合カタログ(1999‐2000)」及び「新製品ニュース(No,1)」に「診断・治療用のものではなく、研究用のものである」旨が明記されていることを理由に、分子生物学分野の研究用試薬であると主張している。
しかし、上記「製品総合カタログ(1999‐2000)」の用途の欄には「高いフイデリティ(正確性)を必要とするPCR」、「正確性を必要とするPCR」等と記載され(甲第2号証:55、56ページ参照)、さらに、「新製品ニュース(No,1)」の5ページには大きく「PCR用DNAポリメラーゼ」と記載されており(甲第3号証参照)、PCR法が上述のように疾病診断に有用であることから、被請求人の主張する「このカタログ(パンフレット)に記載されている製品は,全て研究用です。」という表示は、実際の使用とは矛盾するものである。
また、被請求人のホームページの事業展開には、「...DNAの大量増幅技術PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の原理が考案されました。この技術から、その後次々と新しい変法が生まれ、その結果DNAクローニング、遺伝子診断などさまざまな用途に利用されているのです。」とあり(甲第12号証)、この事実についても診断用のものではないとする被請求人の主張は矛盾するものである。
すなわち、被請求人の主張する「...全て研究用です。」とする表示は、本件商標の効力の範囲から逃れることを意識して、あらかじめ意図的に記載されたものと思われる。
さらに、被請求人は、「DNAポリメラーゼ」が化学品として出願されている例を挙げているが、「商品及び役務区分解説」(4、6ページ)における「化学品」の解釈は、「未だ用途が限定されていない取引段階にある場合」は化学品に含まれるが、「同物質であっても他の用途に限定された取引の段階にあるもの」は含まれないとする考え方である(甲第13号証参照)。
したがって、この考え方からすれば、上記出願例は、未だ用途が限定されていない取引段階にあるものとして出願されたものであり、イ号標章が使用されている商品を指すものではない。
すなわち、イ号標章が使用されている商品は、PCR用として用途が限定されていることから、化学品に属するものではないことが明らかであり、未だ用途が限定されていない上記出願例の指定商品とは異なる商品である。
また、仮に百歩譲って、被請求人が主張するとおり、イ号標章が使用されている商品が化学物質であったとしても、その性質からして薬剤と類似する商品である。
なぜなら、そもそも被請求人の主張する分子生物学分野は、遺伝子工学に代表されるように医療、薬品に深い影響を及ぼすものであり、例えば「癌の研究」等が分子生物学分野で行われている(甲第14号証参照)ことからも、医療の分野と厳密に区別されるものではないと考えられるからである。
また、「DNAポリメラーゼ」が「変異ウイルスの測定」等に使用される商品(甲第8号証参照)であることから、医薬品と同等に医療の研究等に使用し得るものと解される。
すなわち、「DNAポリメラーゼ」が「疾病診断」、「変異ウイルスの測定」に使用される商品(甲第6.8号証参照)であり、被請求人の主業務が「医薬品卸売業」(甲第9号証参照)であること、その製造元の親会社「Life Technologies,Inc.(ライフテクノロジーズ)」が製薬会社(甲第15、16号証参照)であることから、当該商品の「DNAポリメラーゼ」は、用途、販売及び生産の各部門が「薬剤」と一致する。
よって、イ号標章が使用されている商品は、商標審査基準における商品の類否の判断基準に基づいて総合的に考慮すると、判断要素の「用途部門、販売部門及び生産部門」が「薬剤」と一致し、「薬剤」と類似する商品と判断されるのが相当である(甲第17号証182ページ参照)。
(4)おわりに
したがって、イ号標章は、本件商標と同一の商標であり、使用されている商品も本件商標の指定商品「薬剤」と類似する商品であることから、イ号標章の使用は、本件商標の商標権の効力の範囲に属するものである。
4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の判定を求めると答弁し、その理由及び弁駁に対する答弁を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第6号証を提出した。
(1)答弁の理由
請求人は平成12年8月11日付けの判定請求書に添付してイ号標章を提出しているが、そのイ号標章が使用されている「DNAポリメラーゼ」は、以下に述るように、「薬剤」の範疇に属する商品ではなく、「化学品」の範疇に属する商品である。
したがって、「商品『DNAポリメラーゼ』に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲内に属するものである」旨の請求人の主張は不当なものである。
(ア)イ号標章が使用されている商品は、分子生物学分野の研究者が使用する研究用試薬であり、診断用試薬ではない。また、それらの商品は、医薬品・医薬部外品ではなく、薬事法が適用される分野の商品ではない。
請求人が甲第7号証として提出している「商品及び役務区分解説」には、「薬剤」に含まれるものとして、「(1)薬事法(昭和35年法律145号)の規定に基づく”医薬品”の大部分」及び「(2)同法にいう”医薬部外品”の一部」が挙げられているが、上述のように、イ号標章が使用されている商品は医薬品・医薬部外品ではなく、上記(1)及び(2)のいずれの規定にも該当しないものである。
(イ)また、請求人は、被請求人の製品総合カタログ(1999−2000)の一部写しを、甲第2号証「イ号標章の使用に係る総合商品カタログの写し」として提出しているが、同カタログのB−1ページの「ご案内」の「製品」の項目には、「製 品:1999年6月1日現在、弊社が供給している細胞培養用、分子生物学用、細胞生物学用および関連製品を記載しています。このカタログに記載されている製品は、全て研究用です。これら研究用製品は、ヒト、動物の診断あるいは治療用としては承認されていません。研究用以外の目的には使用しないで下さい。」(同カタログからの抜粋)(乙第1号証)のように明記されている。
このことからも明らかなように、同カタログ内に記載されている「DNAポリメラーゼ」は、「診断(あるいは治療)用」のものではなく、「研究用」のものである。
(ウ)さらに、請求人は、被請求人の新製品ニュース(NO.1)の一部写しを、甲第3号証「イ号標章の使用に係る商品カタログ(新製品ニュース)の写し(カラー)」として提出しているが、同新製品ニュースの17ページには、「このパンフレットに記載されている製品は、全て研究用です。これらの研究用製品は、ヒト、動物の診断あるいは治療用として承認されていません。」(同新製品ニュースからの抜粋)(乙第2号証)のように明記されている。
このことからも明らかなように、同新製品ニュース内に記載されている「DNAポリメラーゼ」は、「診断(あるいは治療)用」のものではなく、「研究用」のものである。
(エ) 最後に、「DNAポリメラーゼ」は、特許庁において、第1類(類似群コード:01AOI)の範疇に属する商品であると判断されており、このことからも、「DNAポリメラーゼ」は「化学品」の範疇に属する商品であり、「薬剤」の範疇に属する商品ではない、という被請求人の上述の主張が裏付けられていることを申し添える(乙第3号証)。
(2)弁駁に対する答弁
(ア)「PCR法」とは、「二つのプライマーで挟まれたDNA部分を試験管内で大量に増幅させることができる革命的な方法」のことであり、その技術はさまざまな目的で利用される技術であることから(乙第4号証)、例えば「PCR用DNAポリメラーゼ」とは単にそのような技術を用いる際に使用される「DNAポリメラーゼ」であるということを意味するにすぎず、イ号標章が使用されている「DNAポリメラーゼ」(以下、「当該商品」という。)が「PCR用」であるということでもって直ちに、請求人の主張するように、当該商品が「医薬品」であり「薬剤」に含まれるものであるという結論に到るものでは決してない。
(イ)まず、被請求人が、平成12年10月11日付け提出の答弁書においても述べているように、当該商品は、医薬品・医薬部外品のいずれでもなく、薬事法が適用される分野の商品ではない。
(ウ)また、上述のように「PCR」の技術は、さまざまな目的で利用されるものであるが、甲第2号証及び同第3号証に係る当該商品に係る「PCR」の技術はその使用目的に関し、「研究及び開発」の用途に限定してライセンスを受けているものである(乙第5号証及び同第6号証)。このことからも、当該商品が「診断(あるいは治療)用」に使用されるものではないことは明白である。したがって、請求人が述べている遺伝病診断等の疾病診断に関する「PCR法」の応用分野については、当該商品には該当しないものである。
(エ)なお、被請求人は、上記「答弁書」において、甲第2号証及び同第3号証に係る「製品総合カタログ(1999−2000)」及び「新製品ニュース(NO.1)」において、それらカタログ及びパンフレットに記載されている製品は全て研究用である旨明記されている点を指摘している。それに対し、請求人は、「被請求人の主張する『...全て研究用です。』とする表示は、本件商標の商標権の効力の範囲から逃れることを意識して、あらかじめ意図的に記載されたものと思われる。」旨述べている。しかしながら、請求人のこのような主張は何ら合理的な根拠のない不当なものであることは上述の議論からも明らかである。
(オ)請求人が引用している「商品及び役務の区分解説」の該当箇所は、「化学品」の中の<(1)無機酸類>ないし<(9)空気>に関連する記述であり、そもそも当該商品が該当する<(23)たんぱく質及び酵素>に関連する記述ではないものである。なお、「PCR用」という文言のみでもって直ちに当該商品が「化学品」に属する商品ではないと判断できるものではないことは上述の議論からも明らかであり、当該商品は上述のように診断用のものではなく研究用のものであることから、「薬剤」ではなく「化学品」の範疇に属する商品である。
(カ)請求人は「分子生物学」について種々述べているが、それらの議論は、分子生物学がどのような分野であるかということと、分子生物学の研究成果がどのような分野に影響を与えているかということを混同した議論であると言わざるをえず、不当に当該商品の類似範囲を拡大しようとするものである。そもそも分子生物学の研究成果が如何なる分野に影響を与えているかということ自体は当該商品の性質を直接規定するものではない。被請求人が上記「答弁書」において述べているように、当該商品は分子生物学分野の研究者によって使用される研究用試薬であり、診断用試薬ではなく、また、医薬品・医薬部外品のいずれでもなく、薬事法が適用される分野の商品ではない。よって、当該商品は「薬剤」の範疇に属する商品ではない。
(キ) 請求人は「DNAポリメラーゼ」の用途についても述べているが、「DNAポリメラーゼ」の用途が如何なるものであるにせよ、当該商品である「DNAポリメラーゼ」が、「薬剤」の範疇に属する商品ではないことは上述のとおりである。なお、請求人の提出している甲第8号証に係る「DNAポリメラーゼ」の説明は試薬としての「DNAポリメラーゼ」の説明ではなく、HBVに天然に存在する「DNAポリメラーゼ」に関する説明であり、そこでは、HBVのP遺伝子のコードする蛋白の一部がDNA−ポリメラーゼ(DNA−P)活性を保有し、そのDNA一括性の検出により変異ウイルスの測定ができることが説明されているにすぎない。従って、同証拠(甲第8号証)からも、当該商品のような研究用試薬としての「DNAポリメラーゼ」が、請求人が主張するように「変異ウイルスの測定」等に使用される商品であるという結論は導けないものであると思料する。
また、請求人は「DNAポリメラーゼ」が「疾病診断」に使用される商品であるとして、甲第6、8号証を参照の旨述べているが、いずれの証拠にも、そのような旨の記述はなされていないものである。
(ク)請求人は、被請求人の主業務、また、被請求人の親会社に関して述べているが、それらが如何なるものであるかということは当該商品の性質を直接規定するものではなく、そのような議論は、上述の「分子生物学」に関する議論と同様、不当に当該商品の類似範囲を拡大しようとするものである。本判定事件においては、あくまでも、請求人の提出した甲第2号証及び同3号証に係る当該商品が具体的に請求人の主張する商標権の範囲に属するか否かという点において判断されるべきものである。そして、上述の議論から明らかなように、当該商品は請求人の主張する商標権の範囲外のものである。
5 当審の判断
商品「DNAポリメラーゼ」について使用するイ号標章が本件商標の効力の範囲に属するか否かについて判断する。
(1)標章の類否について
本件商標及びイ号標章は、その構成は上記したとおり、共に「PLATINUM」の欧文字を書してなるものであるから、これより該文字に相応して「プラチナ」の称呼が生じ、また、プラチナ(白金)の意味を有することから、その外観、称呼、観念において同一の標章であることは明らかである。
(2)商品について
請求人は、被請求人がイ号標章を使用している商品は、「DNAポリメラーゼ」であり、これは、疾病診断に使用されるもので「医薬品」に該当し、「薬剤」に含まれるものであるから、本件商標の指定商品と類似するものであると述べている。
他方、被請求人は、イ号標章を使用している商品「DNAポリメラーゼ」は研究用試薬であり、診断用試薬としての「薬剤」の範疇に入るものでなく、「化学品」の範疇に属するものであるから、本件商標のその指定商品とは類似しないと主張している。
(ア)そこで、被請求人がイ号標章に使用している上記の商品「DNAポリメラーゼ」は、「薬剤」と類似するか否かについて検討する。
1996年12月25日社団法人発明協会発行「商品及び役務区分解説改訂第3版」3ないし5頁「解釈」の項(甲第7号証及び同第13号証)によれば、化学品について「化学品・・・この概念には一般に無機工業薬品、有機工業薬品、界面活性剤と呼ばれる商品及び化学的製品を用途的にとらえた化学剤の大部分が含まれる。」とし、また、<(10)芳香族>乃至<(25)有機金属化合物>に関連する項には、「工業原料又は実験用として使用される有機の化学的基礎製品である。<(1)無機酸類>乃至<(9)空気>に属する商品と同様に、同物質であっても他の用途に限定された取引の段階にあるものは含まれず、未だ用途が限定さないで取引の段階にある場合には、それが後に大部分他の用途に使用されようと現段階ではこれらの概念に属する。」と記載している。
同じく、同「区分解説」25頁によれば、「薬剤」に含まれるものとして、「(1)薬事法(昭和35年法律145号)の規定に基づく”医薬品”の大部分」及び「(2)同法にいう”医薬部外品”の一部」と記載している。
また、本件商標の登録出願時の商標法施行規則第3条により定めた旧別表(改正、昭和50年通商産業省令第85号)の第1類「化学品」に属する商品として「タンパク質及び酵素」が例示されているものであり、現在適用される別表においても同様に「化学品」に属する商品として例示されている。
そうすると、一般に、工業原料又は実験用として使用されるもの及び未だ、薬剤等に用途が限定されていないものは、たとえば化学的物質の「酵素」は商標法上の商品としては化学品として取り扱われているというのが相当である。
そして、「DNAポリメラーゼ」についてみるに、「1999年現代用語の基礎知識」(甲第5号証)1365頁PCRの項、「農林水産省ホームページ」PCR法による各種疾病の迅速診断技術や効率的な多価・混合ワクチン等による衛生管理の項(同第6号証)、日経BP社発行「日経バイオ最新用語事典第4版」665頁ポリメラーゼ連鎖反応法の項、1997年東京化学同人発行「分子細胞生物学辞典」PCRの項(乙第4号証)、インターネットにより情報を公開しているサイト「遺伝子組み替え食品の分析(PCR法)」(http://www.venus.dti.ne.jp/~centerkb/01-01.htm)等によれば、例えば、遺伝子組み換え食品の判別を行うため遺伝子組換え体等のDNAを検出する方法としてPCR法などが用いられるが、このPCR法は、「特定のDNA領域をはさんだ2種類のプライマーとDNA合成酵素によるDNA合成反応の試験管内における繰り返しで、その特定DNA領域を数十万倍に増幅する方法でPCRと略称される」と定義される技術であり、そのDNAポリメラーゼは、換言すればDNA断片を(プライマー)を複製、即ち、その「DNAを合成する酵素」とされ、現在では耐熱性菌から得られる耐熱性DNAポリメラーゼが開発されている。そして、PCR法については遺伝子診断、ウィルスや細菌の検出ほか研究用、環境、食品検査等、多様な用途に用いられ、PCRの診断薬としての応用も進み、診断キットが実用化し販売され、さらに研究用途にPCR用の酵素は、商品化され、販売(Gサーチ株式会社による新聞情報1996年2月2日付け日刊工業新聞に東洋紡株式会社、1996年12月11日付け同新聞に宝酒造株式会社株式が販売と掲載)がなされているものである。
また、酵素について、前出日経BP社発行「日経バイオ最新用語事典第4版」227頁酵素の項には「生体内の触媒。生命現象のほとんどの化学反応が酵素により触媒される。・・・酵素反応などの生産物などが酵素と結合構造的な変化を引き起こして活性が変化する・・・など酵素は治療酵素や診断酵素、産業酵素などとして生活に役立てられ、選択的な触媒作用をもつ蛋白を主成分とする生体高分子物質。」と記載されているものである。
さらに、特許庁に登録された商標権の指定商品の採用例として、被請求人が示す(乙第3号証)外に商品区分第1類の「化学品」の範疇に入るものとして「DNA増幅用酵素」、「特に核酸すなわちRNA及びDNAにおいて分離・精製・単離・安定化及び増幅すなわちポリメラーゼ連鎖反応及びNASBAのために使用される化学品」、「個別に又はキットとして販売されるポリマー連鎖反応又はポリメラーゼ連鎖反応用の化学品」「連鎖反応ポリメラーゼ」等が扱われていることが認められる(特許庁電子図書館 商品・役務名リスト参照)。
(イ)しかして、被請求人がイ号標章に使用している「DNAポリメラーゼ」をみるに、請求人の提出に係る甲第2号証及び同第3号証の被請求人の製品カタログ(1999−2000)には前記商品「DNAポリメラーゼ」が扱われイ号標章が使用されているものと認められるところ、被請求人の提出した乙1号証、即ち、請求人の提出に係る甲第2号証の被請求人の製品カタログ(1999−2000)のB−1頁の「ご案内」の「製品」の項目には、「製品:1999年6月1日現在、弊社が供給している細胞培養用、分子生物学用、細胞生物学用および関連製品を記載しています。このカタログに記載されている製品は、全て研究用です。これら研究用製品は、ヒト、動物の診断あるいは治療用としては承認されていません。研究用以外の目的には使用しないで下さい。」と記載がされている。なお、他社製品(例えば、株式会社医学生物研究所インターネットホームページ参照)にも「本品は研究用試薬です。ヒトの体内に用いたり、診断の目的に使用しないで下さい。」の表示が同様に記載されていることが認められる。
さらに、被請求人の提出した乙第2号証、即ち、請求人の提出に係る甲第3号証の被請求人の新製品ニュース(NO.1)の17ページには、「このパンフレットに記載されている製品は、全て研究用です。これらの研究用製品は、ヒト、動物の診断あるいは治療用として承認されていません。」と記載されている。
同じく、乙第5号証及び同第6号証及び請求人の主張によれば、「PCR」の技術は、さまざまな目的で利用されるものであるが、甲第2号証及び同第3号証に係る当該商品に係る「PCR」の技術はその使用目的に関し、「研究及び開発」の用途に限定してライセンスを受けていることが認められる。
(ウ)以上、上記(ア)及び(イ)の事実を総合すると、「DNAポリメラーゼ」は、「PCR法」の技術におけるDNAを伸張し、増殖するために使用されるその種の生体高分子物質の「酵素」であって化学物質と認められる。また、PCR法は遺伝子診断、ウィルスや細菌の検出等の診断薬としてキットが実用化し、販売される一方、ほかに研究用、環境、食品検査等、多様な用途に用いられ、そのPCR用の研究用途としての「DNAポリメラーゼ」が販売されているものである。
次に、この「DNAポリメラーゼ」を商標法上の商品の観点から考察すると、生体高分子物質の酵素としての化学物質であって、これが実験、研究用、そのほか多様な用途にあるものであること、この内、薬剤でないものであり、また、化学物質の「酵素」が、(商標法施行規則(別表1類))に商品区分第1類「化学品」として区分されていること、特許庁に登録された商標権の指定商品の採用例に同様のものが多々化学品の範疇の商品として扱っていることからすれば、当該商品は化学品の範疇に属するものとみるのが相当である。
即ち、本件商標の指定商品の「薬剤」と「化学品」に含まれる「DNAポリメラーゼ」とは、商品の品質、用途、生産場所、取引・販売系統需要者が異なり、非類似の商品と認められるものである。
しかして、これを被請求人がイ号標章の使用に係る商品「DNAポリメラーゼ」についてみるに、該商品は、PCR法用の研究用途、実験、研究用ものであることが乙第1、2号証及びないし同第5、6号証より認められ、また、被請求人が同商品に「この研究用製品は、ヒト、動物の診断あるいは治療用として承認されていません。」と表示しているように、薬事法の対象になる薬剤に属する商品として認可されていないものであることからして、「薬剤」には含まれず「化学品」の範疇に含まれるものと判断される。そして、この判断を覆す証拠はない。
(エ)この点請求人は、「DNAポリメラーゼ」は、それを使用するPCR法が疾病診断に用いられ、また、「DNAポリメラーゼ(DNA−P)活性は、変異ウイルスも測定できる点で優れている等から効果判定および経過観察に有用であり、さらに、イ号標章の使用に係る商品カタログに、「医療の研究等に使用されるものである」、「あらゆる分野でお役にたてます。」、「高いフイデリティ(正確性)を必要とするPCR」と記載されていることから、薬剤の範疇に属するものであると主張している。しかしながら、それらのことをのみもってしては前記事実を総合し、薬剤の範疇に属するものとまでは判断できない。そして、外に該商品が薬剤であるとする証拠はない。
また、被請求人の主張する「...全て研究用です。」とする表示は、本件録商標の効力の範囲から逃れることを意識して、あらかじめ意図的に記載されたものと思われると主張しているが、提出の全証拠を及び、これらの研究用他社製品においても安全確保のために記載して販売しているところであり、請求人の主張を首肯できる不自然な意図は認められない。
さらに、PCR法は、分子生物学分野において利用され、遺伝子工学に代表されるように医療、薬品に深い影響を及ぼすものであり(乙14号証)、また、被請求人の主業務が「医薬品卸売業」(甲第9号証参照)であること、かつ、その製造元の親会社が製薬会社であることから、当該商品の「DNAポリメラーゼ」は、用途、販売及び生産の各部門が「薬剤」と一致し類似すると主張しているが、被請求人も述べるように「DNAポリメラーゼ」が、分子生物学分野における研究成果に影響を与えることは当該商品の商標法上の商品としての性質に直接影響するものでなく、これは、被請求人の商品「DNAポリメラーゼ」は薬事法に認可されている商品でなく研究用に販売されるものである。そして、単に被請求人の主業務が「医薬品卸売業」、かつ、その製造元の親会社が製薬会社であることをもってしては直ちに、被請求人の商品の「DNAポリメラーゼ」が薬剤と類似する商品であるということはできない。請求人の主張はいずれも採用できない。
(3)まとめ
したがって、本件商標とイ号標章とは、その標章において類似するとしても、イ号標章の使用に係る「DNAポリメラーゼ」は「化学品」に属する商品であって、本件商標の指定商品の「薬剤」とは非類似の商品と認められること前記のとおりであるから、被請求人が商品「DNAポリメラーゼ」に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属しないと判断すべきである。
よって、結論のとおり判定する。
Next Action
次の一手につながるサービス
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。