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Trademark Appeal Case

ビール品種名の記述性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号平成10年審判第35125号
審判種別不服
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

登録第2517883号の指定商品中「ビール(ラオホビールを除く。)」についての登録を無効とする。
その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。
審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第2517883号商標(以下、「本件商標」という。)は、「RAUCH」の欧文字を横書きしてなり、平成2年8月15日に登録出願、第28類「酒類(薬用酒を除く)」を指定商品として、同5年3月31日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張

請求人は、「本件商標の登録は、これを無効とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第11号証(枝番を含む。)を提出した。

(1)審判請求の理由

本件商標を構成する欧文字「RAUCH」は、ドイツ語の「煙」を意味する語であり、これを接頭辞として「薫製」「くん蒸」の意味合いで各種の語が存在しているところである。尚、微細な語尾変化は、英語の「スモークドサーモン」と「スモークサーモン」程度の差異でしか過ぎない。

同「RAUCH」の語は、本願の指定商品中、特に「ビール」との関連において、「燻煙した麦芽でつくるビール」(甲第3号証)等に示される如く、ビールの製造方法により分類される「ヴァイツェン」「ラガー」「ピルスナー」「メルツェン」等と並ぶ「ビールの一種類」を指称するものである。

特に、近年の交通・貿易の発達は、欧州の一地方の名産品でさえ直ちに輸入され、販売されるに至っている状況であり、まして、ラオホビールに至っては、本願出願前からも日本国内で周知され、販売されていた商品である。

又、この様な「ヴァイツェン」「ラガー」「メルツェン」等の製法は、地ビールが解禁された昨今、各地で各種ビールの製造が開始されること明白であり、このような時期にビールの品種名の登録が現存することは、商品流通市場の妨げとなるところである。

従って、本件商標は、商標法第3条第1項第1号又は同第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものとして、同法第46条第1項第1号に、また、少なくとも同法第4条第1項第16号に該当するものとして、同法第46条第1項第5号に該当する商標といわざるを得ない。

(2)被請求人の答弁に対する弁駁

本来第3条第1項各号は、商品の説明語句として必要な用語の登録を阻止する目的で設けられているものであり、これを誤って独占排他権を設定することは、同業者の自由な営業活動を阻害するため、極めて公益的な見地から利害関係が判断されるべきものである。

従って、請求人は、商品「ビール」の製造・販売を行っていることは、特許庁に於いても顕著な事実であると考えられることから、本件商標の登録の存続は営業活動の制限を受ける立場にあり、これだけでも十分利害関係者と認められるべきものである。

より具体的には、甲第7号証に示す如く請求人は、同一称呼よりなる表示を商品「ビール」に商品の品質を説明するため現に使用しているところであり、本件商標の存続に対しては、重大な影響を受ける立場にあるものである。尚、3条関係につき、同業者であれば重大な影響を受けるとして利害関係を認めているとする理論は確立した理論であり、これを甲第11号証として提出する。

第3 被請求人の答弁

被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由を次のように述べた。

無効審判の請求は、独立の職権を有する審判機関に対して司法手続きに準ずる手続きによる審理判断を求めるものであり、したがって、「利益なければ訴権なし」との民事訴訟法上の原則が適用されると解すべきであるから、審判請求人は、その請求につき請求人が有する「審判請求の利益」を具体的に主張・立証することが必要である。

しかるに、請求人は、本件審判請求につき請求人が有すべき「審判請求の利益」について何らの主張も立証もしていない。

よって、本件審判請求は、請求人適格を欠く者によってなされた不適法な審判の請求であるから、商標法第56条が準用する特許法第135条の規定に基づき、もしくは、右各規定の趣旨に基づき、本件審判請求は審決をもって却下されるべきである。

請求人は、「本件商標は、商標法第3条第1項第1号又は同第3号に該当する」と主張するが、本件商標が右第3号に列挙された「産地」「販売地」等のいずれに該当すると主張するのかを明らかにされたい。請求人は、「本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する」と、その結論のみを主張するが、いかなる理由もしくは根拠により本件商標が右第16号に該当すると主張するのかを明らかにされたい。

請求人の主張のうち、本件商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとの主張については、必要があれば、前記の求釈明に対する請求人の答弁を待って行うこととし、以下、主として「本件商標が同法第3条第1項第1号に該当する」との請求人の主張に対して反論する。

請求人の右主張は、要するに、本件商標は、ドイツ語の「煙」を意味する語であり、その指定商品中特に「ビール」との関連においては、「燻製した麦芽でつくるビール」等の意味を有し、ビールの一種類を指称するものであるから、商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当するという主張であろうと解されるが、右主張が法的に有効な主張として成立するためには、当然のことながら、その要件として、本件商標が、酒類の普通名称の表示であるといえることが必要である。

しかるに、請求人の主張によっても、「RAUCH」なる語は、ドイツ語の「煙」等を意味する語であるに過ぎず、その語自体が「燻製した麦芽でつくる」などという意味を有するものでないばかりか、わが国における酒類の取引者・一般需要者にとって、「煙」等を意味する語であることさえ一般的には認識されておらず、更には、右の語が接頭辞として使用された場合に「燻製」「くん蒸」の意味合いを有するに至るなどという認識が成立していないことは、極めて常識的に考えても明らかである。

ましてや、「RAUCH」なる語がビールとの関連において使用された場合に、わが国における取引者・一般需要者により「燻製した麦芽でつくるビール」等の意味を有する語として認識されていないことは明白であるから、本件商標が酒類の普通名称の表示であるとは到底いえない(この点につき、外国語が、商品について、その特性をあらわし、その普通名称であるといえるかどうかも、結局、その語がわが国における当該商品の取引者・一般需要者によりそのようなものとして認識されるかどうかを基準にして判断されるべきであって、外国語の意味自体のみによって決定すべきものでないことはもとよりである。)。

なお、甲第3号証ないし甲第7号証は、いずれも本件商標の登録査定時である平成4年10月9日後に発行された文献であるから、少なくとも「本件商標が商標法第3条第1項第1号又は同第3号に規定する商標に該当する」との請求人の主張を基礎付ける証拠とはならない。また、甲第2号証はその発行年月日も明らかでなく、更に、甲第8号証ないし甲第10号証は、その訳文も添付されていないばかりか、右各文献はいずれも外国で発行されたものであるから、わが国における酒類の取引者・一般需要者によって本件商標がどのように認識されているかについての証拠方法としては不適格である。

以上のとおりであるから、その余の点について検討するまでもなく、請求人の前記主張には理由がない。

なお、本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとの請求人の主張が、仮に本件商標が「品質もしくは原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するとの主張であるとすれば、上記で述べたのと同一の理由により、本件商標は、酒類の「品質もしくは原材料」の表示であるとはいえないから、右主張にも理由がないこととなる。また、本件商標が商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標に該当するとの請求人の主張の理由もしくは根拠がいかなるものであれ、上記のとおり、本件商標は酒類の「品質」の表示であるとはいえないのであるから、本件商標が同第4条第1項第16号に該当するとの請求人の主張は、その前提を欠き、理由がないことは明らかである。

第4 当審の判断

1.利害関係について

請求人が商品「ビール」の製造・販売を行っていることは、当庁においても顕著な事実である。そして、もし本件商標がビールの品質等を表示するものとしてその登録を無効とすべきものであるならば、その存在により、請求人は、直接重大な不利益を被る関係にあるということができるから、本件審判請求をなすについて法律上の利益を有する者と認められる。

2.「RAUCH」標章の品質等表示について

(1)請求人提出の証拠によれば、例えば、「世界ビール大百科」(1997年12月10日大修館書店発行)の「ラオホビール RAUCHBIER」の項に、「燻煙した麦芽でつくるビール。スモークド・ビールともいう。」との記載、「居酒屋第4号」(1997年6月15日、(株)フード・ビジネス発行)の「ラオホ(Rauch)」の項に、「ラオホビールを直訳すれば『煙ビール』となります。・・・煙臭がするコクのある黒ビールが飲めるビアホールには、常連客の男性が朝からラオホを飲んでいます。」との記載及び「ビール大事典」(1997年6月27日、日経新聞社発行)には、ビールの醸造法による分類として「ラオホ(スモーク)(ドイツ)」との記載が認められる。

(2)当審における職権に基づく証拠調べの結果、「Rauch Beer」「Rauchbier」「ラオホビール」「ラオホビア」「ラオホ」及び「燻製ビール」などの各文字が、以下の各種雑誌、新聞等の記事に掲載されている事実が認められる。

・「南独バンベルク(バイエルン州)の『燻製(ラウホ)ビール』。麦芽を乾燥させる際、薪を燃やして煙を送り込むので、燻煙がとけ込む。」(「世界のビール」昭和54年7月10日朝日新聞社発行)

・「この地で有名なラウフビアRauchbierは麦を製造過程でいぶすため変わった香りがする。いわば燻製ビール。はじめは妙な感じだが、そのうちやめられなくなる。」(「ブルーガイド・ワールド ドイツ」1992年5月1日実業之日本社発行)

・「【ラオホ・ビール】Rauch Beer」の項、「煙臭ビール。バイエルンの州都ミュンヘンの北150キロメートルにニュールンベルグがあるが、さらに北へ50キロいくとバンベルグ(Bamberg)という街がある。ここだけで造られている下面発酵ビールにラオホビール(Rauch−bier、ドイツ語で『煙ビール』の意)がある。」(「地球ビール紀行 世界飲み尽くしビール巡礼」1994年6月9日東洋経済新報社発行)

・「ここしか飲めない燻製ビール−バンベルク」の項、「『ラオホビア(燻製ビール)』が有名なバンベルクは、フランケン地方の麗しい古都だ。・・・ラオホビアは褐色で泡も少し茶色味を帯びている。喉を通るとき燻製の香りがほのかにする。」(「ドイツ地ビール夢の旅」1996年9月7日東京書籍発行)

・「ラオホビア(Rauchbier)」の項、「生のブナを燃やして乾燥燻蒸させた麦芽を使用した、バンベルク特産の濃色ビール。」(「ビールを愉しむ」1997年6月20日筑摩書房発行)

・「このシュレンケルラというお店は、この街の名物ラオホビア(Rauchbier)を飲ませるところだ。ラオホビアは、生のブナを燃やして乾燥燻蒸させた麦芽(スモークモルト)を使用した濃色ビールである。燻製ビールというわけだ。これに私も川口ビール園でお目にかかったことがある。・・・。ラオホの癖のある味は、人によっては 初め抵抗があるのかも知れない。」(「世界のビール案内」1998年4月20日晶文社出版発行)

・「地元の人たちをとりこにするラオホビールは、原料の大麦を煙にいぶしてからつくる。色が茶褐色のものと黒に近い二種類あり、アルコール度はそれぞれ6.8度、8.5度と高い。」(1990年11月24日、日経新聞夕刊)

・「『サッポロビール川口ビール園』では、いぶした麦芽を原料にしたドイツのビール『燻製ビール(ラオホビール)』を限定醸造、7月上旬から販売を開始した。『燻製ビール(ラオホビール)』とは、ドイツ・バイエルン地方のハンベルグに古くから伝わるビールで、ラオホとはドイツ語で煙の意味。広葉樹などを燃やし、その煙でいぶした麦芽を原料にしたスモーキーな独特の香味が特徴。」(1997年7月25日、日本食糧新聞)

・「・・・地ビール醸造所兼レストラン『シルバンズ』が20日開店した。一般的なビールに加え、麦芽を乾燥させるときに燻煙したラオホという独特のビールを醸造、販売するのが特徴。・・・。ビールの名称は「富士櫻高原麦酒」で、ラオホのほか、ピルス、果物の風味をもったヴァイツェンの三種類。」(1998年4月21日、日経流通新聞)

・「木と麦の香りがするビール『ラオホビール』登場−−ゆふいん麦酒館/大分」の見出し、「木と麦の香りがするビール『ラオホビール』が湯布院町川南の『ゆふいん麦酒館』に登場する。・・・。『ラオホ』とはドイツ語で『煙』の意味。」(1999年6月12日、毎日新聞大分地方版)

・「全国地ビール品評会 シルバンズ醸造の地ビール『ラオホ』が金賞に輝く/山梨」の見出し、「・・・地ビールレストラン『シルバンズ』(河口湖町船津)で醸造している地ビール『ラオホ』が、全国の地ビールの品評会で最優秀の金賞を受賞した。」(1999年6月18日、毎日新聞山梨地方版)

(3)以上の事実を総合すれば、「Rauchbier」(ラオホビール)及び「Rauch」(ラオホ)の語は、ドイツを発祥とするビールの一種類であって、生のブナを燃やして乾燥燻蒸させた麦芽を使用した濃色な下面発酵ビールを指称するものということができる。そして、該「Rauchbier」(ラオホビール)は、その紹介記事のみでなく、我が国においても、ビール醸造の規制緩和(1994年)による「地ビール」ブームによって、日本各地でその土地毎に特徴を持たせた多種類の「地ビール」が醸造・販売されるようになった結果、その一種類として醸造・販売されていることが認められる。

そうとすれば、「Rauchbier」(ラオホビール)及び「Rauch」(ラオホ)の語は、本件指定商品中「ビール」との関係からみれば、「ラガー」「ピルスナー」「スタウト」等と同様にビールの種類を表すものとして普通に使用されているといい得るものである。

(4)ところで、商標法等の一部を改正する法律(平成8年法律第68号)によって新たに規定された商標法第46条第1項第5号は、商標登録がされた後において、その登録商標が同法第4条第1項第1号ないし同第3号、同第5号、同第7号及び同第16号に掲げる商標に該当するものとなっているときを商標登録の無効事由とする旨規定するものであるが、商標登録後にその登録商標が商品の品質の誤認を生ずるおそれのある商標となっているとき、即ち、同法第4条第1項第16号に該当する商標となっているときもこの規定に含まれる。

そして、これを本件についてみるに、本件商標は、「RAUCH」の文字を書してなるものであるところ、前示のとおり、「Rauchbier」(ラオホビール)及び「Rauch」(ラオホ)の語が、ビールの種類を表すものとして普通に使用されているといい得るものであるから、その指定商品中「ビール」に使用した場合、取引者・需要者は、該商品が「ラオホビール」であることを表示したものとして把握、理解するものと判断するのが相当である。

してみれば、本件商標は、遅くとも本件審判請求の登録日には、これをその指定商品中「ラオホビール」以外のビールに使用した場合、それが「ラオホビール」であるかの如くその商品の品質について誤認を生ずるおそれがある商標となっていたもの、即ち、商標法第4条第1項第16号に該当する商標となっていたものといわざるを得ない。そして、このことは現在においても継続しているというべきである。

3.本件商標が商標法第3条第1項第1号、同第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するか否かについて

本件商標を構成する「RAUCH」の文字は、独和辞典に「煙」の意味を有する語として、或いは、「薫製」の意味合いの接頭辞として記載されているとしても、我が国における独語の普及度の点からみれば、これに接する取引者・需要者に、直ちにその意味合いを表示したものとして理解されるとはいい難く、また、請求人提出の証拠を以てしては、本件商標の登録査定時において、該文字が「ビール」の普通名称若しくはその品質を表示するものとして取引上普通に使用されていた事実も認めることができない。

してみれば、本件商標は、その登録査定時においては、自他商品の識別標識としての機能を果たし得たものであり、また、これをその指定商品に使用しても、商品の品質について誤認を生じさせるおそれもなかったものといわなければならない。

4.結論

以上によれば、本件商標は、その指定商品中「ビール(ラオホビールを除く。)」については、商標法第46条第1項第5号に該当するものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。

また、本件商標は、その指定商品中「ビール(ラオホビールを除く。)」を除く残余の商品については、商標法第3条第1項第1号、同第3号及び同法第4条第1項第16号の規定に違反して登録されたものでないことは前記3.のとおりであるから、これら商品についての登録は無効とすることができない。

よって、結論のとおり審決する。

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