結論テキスト
審判費用は被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 平成10年審判第35450号 |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
1.本件商標
本件登録第4083616号商標(以下「本件商標」という。)は、平成8年3月4日に登録出願され、別掲(1)に示したとおりの構成よりなり、第18類「かばん類,袋物」を指定商品として、平成9年11月21日に設定登録されたものである。
2.請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証を提出している。
請求人は、イタリア国において別掲(2)に示したとおりの構成よりなる商標「coin」(以下「引用商標」という。)を永年に渡って大々的に使用してきており、該商標はイタリア国内のみならず国際交通網及び国際通信網の発達した現在においてはわが国でも著名なものとなっていた。したがって、本件商標の登録は商標法第4条第1項第19号、同第15号、同第7号の規定に違反してされたものであって、商標法第46条第1項の規定により無効とされるべきである。以下その理由を詳述する。
(1)商標法第4条第1項第19号違反
(1−1)引用商標のイタリアにおける著名性
請求人は1920年代にヴェネツアで設立された被服、家庭用の繊維製品を販売する「COIN」「OVIESSE」「BIMBUS」の名前のチェーンストアを有し、1995年〜1996年にかけて214のローカル市場、600万人の顧客、4700人の従業員を有し、1兆3000億リラ(日本円で約1700億円)の売上を挙げていた。店舗数はフランチャイズを含めて83店舗に上り、被服を中心にアクセサリー、家具、織物、香水等の家庭用品を取り扱っている。
次に、これらの事情から引用商標が本件商標が出願された1996年(平成8年)当時イタリアで著名であったか否かを検討する。
イタリアの人口は約6000万弱であり(甲第3号証)、1995年〜1996年時点で請求人の顧客が600万人であるとすれば、イタリア人の10人の一人が請求人の店舗で買物をした計算になる。請求人は1920年代に設立され、販売活動を行っていたものであるから、1995年から1996年以前にも請求人の店舗で買物をした者がいることは明白であり、これら1995年〜1996年以前の顧客には上記600万人以外の者もいることは明らかである。
以上のことからして、イタリアの需要者中かなりの割合の者が請求人の店舗及び商標たる「coin」を知り得ていると言える。
また、請求人は4700人の従業員を雇用していたが、この従業員数は、わが国において著名と思われる小売店のチェーン店(甲第4号証及び第5号証)の方が従業員数が少ない。イタリアの人口がわが国の約半分である以上、請求人の4700人の従業員はわが国では倍の9400人にも当たると考えられる。このように、わが国における著名チェーンストアの従業員数の比較からも請求人はイタリアで著名なチェーンストアといえる。
さらに、請求人は引用商標の著名性を補強するものとしてイタリアにおける登録状況を証するリストをここに提出する(甲第6号証)。
以上述べたことからして、本件商標が出願された当時には引用商標は請求人の店舗及び商標として著名なものとなっていた。
(1−2)本件商標と引用商標との類否
本件商標は、その構成からして「LA」と「coin」の語からなることは容易に認識される。しかるに、本件商標の前半部分である「LA」はイタリア語の定冠詞である(甲第7号証)。商標類否判断において、定冠詞を含んだ商標はその定冠詞を除いて称呼されることもあるとされており、この取扱はすでに確立している。
本件商標の指定商品であるかばん類,袋物はイタリアが本場であり、イタリア語の商標がこれら商品に使用されることが多く、共に該指定商品の取引者・需要者はイタリアとの交流が深く自然とイタリア語にも精通している。言語においては定冠詞は基本的事項である。その結果、本件商標の指定商品である取引者・需要者は本件商標の「LA」が定冠詞であることを容易に理解できる。したがって、本件商標は「coin」の部分をもって称呼されることもあり得る。それ故、本件商標は引用商標に類似する。
(1−3)不正の目的
請求人が使用する引用商標は請求人の1994年ないし1997年までの年度報告書(甲第8号証)に示す如く、「i」の文字の点が〇になっていることに特徴があり、本件商標の「coin」の部分も「i」の文字の点が〇になっており、その特徴部分の一致から本件商標は請求人の引用商標をそのまま取り入れたことは明らかである。すなわち、被請求人はイタリアで著名な請求人の引用商標の存在を知り、この商標をそのまま盗用し、これに定冠詞の「LA」を付加したもの過ぎない。
以上のことから明らかなように、本件商標は商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。
(2)商標法第4条第1項第15号違反
(2−1)わが国における引用商標の著名性
国際交通網及び国際通信網の発達した現在においては海外の事情をわが国の取引者、需要者は時を置かず直ちに知ることが可能となっている。
また、ここ近年(本件商標が出願された前)数多くの日本人観光客がイタリアを訪れ、これら観光客は必ずといってよい程ファッションの本場であるイタリアでの買物を行う。であるとすれば、日本人観光客がイタリアで83店舗あるチェーンストアである「Coin」を目にすることも充分考えられる。この点でも、請求人の引用商標はわが国の需要者の間で著名なものと言える。
以上述べた如く、本件商標が出願された前に請求人の引用商標はわが国の取引者、需要者の間でも著名なものとなっていた。
(2−2)出所の混同の可能性
引用商標は、被服を中心にアクセサリー、家具、織物、香水等の商品に付され取り引きされている。これら商品はいわゆるファッション商品と呼ばれるものである。ー方、本件商標の指定商品である「かばん類、袋物」も同じくファッション商品と呼ばれている。これらファッション商品である被服、アクセサリー、かばん類、袋物はーつのファッションメーカーの取扱に係ることが多い商品であり、また、ファッション関係の商品として同一店舗で販売されることも多々ある。したがって、本件商標がその指定商品に使用された場合には、当該商品は請求人ないしは請求人と資本的又は人的に関係のある者の取扱に係る商品であるとその出所について混同を生じるおそれのあるものである。
以上のことからして、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第7号違反
(3−1)商標の盗用
仮に、被請求人が本件商標の採択に際して不正の目的がないとしてもその構成からして引用商標から盗用したことは明らかである。すなわち、被請求人は、引用商標を無断でこれに定冠詞を付加しただけで自己の商標として採択したものである。
(3−2)商業道徳違反
商標の採択は本来自由であるが、そこには当然商業道徳による制約が存在する。引用商標のような著名商標はその顧客吸引力が大きく財産的価値も大きいものである。この大きな財産的価値ある商標を無断で自己の商標として採択することは商業道徳に反するものである。
そして、商標法第4条第1項第7号における「公の秩序」とは商標法の趣旨から「競業秩序」をも含むと当然解される。他人の大きな財産的価値ある商標を無断で採択するような商業道徳に反する行為は競業秩序に反することは明らかである。
このように、商業道徳に反して競業秩序を損なう意図の下で出願されて登録された本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反したものである。
(4)被請求人の答弁に対する弁駁
(4−1)商標法第4条第1項第19号の規定は登録要件である以上、その施行された平成9年4月1日時点で未登録の出願については適用されるべきものである。そして、附則において、その施行前にされた出願についてはこの規定が適用されない旨の規定は何ら設けられていない。したがって、平成9年11月12日に登録された本件商標には商標法第4条第1項第19号の規定が適用される。
(4−2)請求人は審判請求書に添付した資料で引用商標のイタリア国内における著名性は十分立証できると確信するが、さらに、その著名性を裏付けるものとして、1991年及び1992年にイタリア国で放映されたテレビのスポット広告のビデオを提出する(甲第10号証)所存である。
テレビのスポット広告によって、商標が短期間の内に極めて著名になることは洋の東西を問わない。
したがって、このテレビのスポット広告のビデオのみでも引用商標の著名性は十分立証できる。
審判請求書で述べたように、請求人は1920年以降今日に至るまで営業を行っており、しかも、一般消費者を対象とする関係で、1991年及び1992年以降も宣伝広告を行っていたことは明らかである。ちなみに、請求人は1992年〜1995年まで以下の金額を宣伝広告費としてつかった。
1992年:9,559,000,000リラ
1993年:7,019,000,000リラ
1994年:6,295,000,000リラ
1995年:6,550,000,000リラ
これら宣伝広告費はテレビ、ラジオ、新聞、雑誌等の各種のマスメディアによる広告につかわれた。
以上、本弁駁書とともに提出した証拠方法並びに審判請求書の主張及び該書類とともに提出した証拠方法を総合的に勘案すれば、引用商標は本件商標の出願時にはイタリア国内で著名なものとなっていたことは明らかである。
(5)以上述べた如く、被請求人の答弁はいずれも妥当を欠くものであって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号、同第15号、同第7号の規定に違反して登録されたものである。したがって、その登録は商標法第46条第1項によって無効とされるべきである。
3.被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第5号証を提出している。
(1)商標法第4条第1項第19号について
商標法第4条第1項第19号の規定は改正商標法(平成8年法律第68号)によって新設されたものであり、その施行日前に出願(平成8年3月4日)された本件商標については、適用されない。
まして、その商標法第4条第1項第19号の規定には「前各号に掲げるものを除く。」と括弧書きされている通り、同条同項第7号や第15号と重複的に適用されることは、あり得ない。
(1−1)念のために、請求人が本件商標を商標法第4条第1項第19号違反であると主張する根拠に対して答弁する。
即ち、請求人は「イタリアの需要者中かなりの割合の者が請求人の店舗及び商標たる『coin』を知り得ていると言える。」、又「本件商標が出願された当時には引用商標は請求人の店舗及び商標として著名なものとなっていたと言える。」と主張しているが、本件商標の出願日前僅か2年間余り(1994〜1996年)に発行された請求人の年度報告書を唯一の根拠として、イタリアの人口や日本の同業会社との比較から単純に割り出したあくまでも机上での計算・想定であるに過ぎず、その主張する引用商標の具体的な商品に対する使用事実を示す詳細な証拠が提出されていない。
仮りに、甲第2号証や甲第8号証の年度報告書には粉飾的な記載がなく、それ相当の店舗規模を有する請求人であるとしても、本件商標の出願日前僅か2年間余りの年度報告書のみに基いて、「イタリア国において引用商標を永年に渡って大々的に使用してきており」と主張することはできず、本件商標の出願当時イタリア国内においてさえも、著名であったと客観的に認めることは困難である。
まして、本件商標と類似する旨を主張する引用商標は不明であり、その構成態様が具体的に特定されていない。
なる程、甲第6号証にはイタリアでの商標登録出願やその登録状況が記載されているが、その記載通りであるとしても、その記載の商標が本件商標の出願前に実際上使用されていたか否かとは別問題である。
(1−2)この点、請求人は「本件商標と引用商標との類否」と題して比較検討の上、「本件商標は『coin』の部分をもって称呼されることもあり得る。それ故、本件商標は引用商標に類似する。」と結論しているが、上記4種類の商標からはすべて「コイン」と云う称呼を生じ得るため、未だ本件商標と比較すべき引用商標の構成態様が、特定されていないと言わざるを得ない。
(1−3)万一、請求人の主張するように、「コイン」と云う称呼を生じ得る商標が、すべて引用商標になると考えるならば、乙第1〜4号証に示す他の登録商標も悉く商標法第4条第1項第19号に所定の登録無効理由を有する結果となり、殊更乙第1号証に記載の商標登録第2127947号は、請求人の主に販売していると云う被服類を指定商品にしているものである。
(1−4)本件商標は甲第1号証から確認されるように、「coin」と云うアルファベットの4文字のみならず、その接頭側に「LA」と云うアルファベットの2文字も具備しており、全体的な文字数も少ないため、必らずや「ラコイン」と云う称呼を最も自然に生ずると言うべきである。
その場合、接頭側の2文字「LA」がイタリア語の定冠詞であるとしても、その定冠詞であることを日本における指定商品(かばん類、袋物)の需要者が、当然理解しているとみなすことには無理がある。
そして、本件商標の構成態様については乙第5号証から明白なように、上記2文字「LA」が公知のティタス・ミディアム書体によって、上記4文字「coin」がやはり公知のホラティオ・ミディアム書体によって各々表示されており、請求人が問題視する小文字「i」を形作る「点部分」も、至極ありふれた大きさと態様のもとに表示されているに過ぎず、特別の独創性を有さない。
甲第9号証が本件商標の出願日後に発行されていることや、請求人の主張する引用商標が日本国内において未だ使用されていないことに徴しても、本件商標を商標法第4条第1項第19号の規定に該当すると言うことはできない。尚、この点については引用商標が請求人によって特定され次第、追って詳しく説明する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
請求人は、本件商標を商標法第4条第1項第15号違反であるとし、その根拠として引用商標が日本国内でも著名なものとなっていたと主張している。
しかし、その引用商標を本件商標の出願日前に、請求人が日本国内で具体的な商品に使用していた事実を示す証拠の提出は皆無である。その請求人の主張する「現在」が本件商標の出願日当時を意味するとしても、国際交通網や国際通信網の発達、イタリアを訪れる日本人観光客の存在、ファッション商品と云う暖昧な概念などを好都合な理由として、やはり机上でのあくまでも想定を述べているに過ぎない。
(3)商標法第4条第1項第7号について
請求人は、本件商標を商標法第4条第1項第7号違反であると主張してもいるが、引用商標は本件商標の登録査定時にはもとより、現在でも未だ日本国内において具体的な商品に使用されていないため、本件商標との競業関係も存在しない。
まして、本件商標の構成態様は請求人の主張する引用商標と格別に相違し、その商標「coin」の独創的な特徴を具備していないため、これを盗用とみなすことは到底不可能である。
以上のように、請求人の主張には全然理由がないため、速やかに答弁の趣旨通りのご審決を求めるものである。
4.当審の判断
本件商標は、別掲に示したとおり「LA」の文字と「coin」の文字よりなるところ、その構成は、「LA」の欧文字を小さく、「coin」の欧文字を大きく、書体を替えて書してなるものであって、しかも、小さく書された「LA」はフランス語(又はイタリア語)で定冠詞を示す語であることは一般的に知られており、他の語に冠してしばしば用いられる語といえものであるから、この構成に照らすと大きく肉太に書された「coin」の欧文字部分が着目され、この文字部分より生ずる称呼をもって商取引に資されることも決して少なくないものとみるのが相当であり、本件商標よりは、「コイン」の称呼をも生ずるものと認められる。
これに対して、請求人の業務に係る商品(主に、被服)について使用する引用商標は、甲第8号証によれば、一貫して「coin」の文字が使用されていることが認められる。
ところで、商標法は、公正な競争を図り、取引秩序を維持することを目的とする競業秩序を維持する面をもっているものであるが、商標法第4条第1項第7号は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標は、商標登録を受けることができない」旨を規定しており、その趣旨は商標の構成自体が公序良俗に反する場合だけでなく、指定商品(又は指定役務)について使用することが社会公共の利益に反し、又は一般に国際信義に反する場合も含まれると解される。
そこで、本件商標をみるに、本件商標は前記したとおりであるところ、その要部ともいえる「coin」の文字部分の書体(ロゴ)は、引用商標の書体とは肉太に書されている点、丸く書された「o」及び「n」の文字、さらに、「i」の上部の点に相当する部分が大小の差はあるものの、共に正円で表されている等の点で酷似してなるものであって、被請求人が引用商標を知得することなく、無関係にこれらが偶然の一致によるものとは到底認め難い。
そうとすると、引用商標が、請求人の甲各号証を総合すれば、イタリア国において被服及び家庭用の繊維製品を販売するチェーンストアの名称として長年に亘り使用されてきたものであり、イタリア国(及びイタリア国に旅行した者等)において相当程度知られていたことが認められるものであるから、この請求人の使用に係る引用商標である「coin」に「LA」の文字を小さく冠したにすぎない本件商標は、その指定商品(かばん類、袋物)が請求人の業務に係る商品(被服)と密接な関係を有するファッション関連の商品であることを合わせ考えると、不正の利益を得る目的があったと認められ、加えて、引用商標の出所表示機能を希釈化させ、又は請求人の業務上の信用を毀損させるなどのおそれがあるばかりでなく、商取引秩序を乱すものであって、ひいては国際信義に反するものといわなければならない。
5.むすび
したがって、本件商標は、他の請求人の主張について判断するまでもなく、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものというべきであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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