結論テキスト
審判費用は被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 平成9年審判第16888号 |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
本件登録第3273682号商標(以下「本件商標」という。)は、「LAYDENT」の欧文字と「レイデント」の片仮名文字を二段に横書きしてなり、第1類「化学品,のり及び接着剤(事務用又は家庭用のものを除く。),高級脂肪酸,非鉄金属,非金属鉱物,原料プラスチック」を指定商品として、平成6年7月5日に登録出願され、同9年4月4日に設定登録されたものである。
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第367号証を提出した。
一 請求の理由
1.商標法第4条第1項第11号該当について
(1)本件商標はその商公平8−80033号公報から明白なように、第1に示す構成からなり、第1に示す商品を指定商品として、平成6年7月5日に後述の株式会社吉崎メッキ化工所から出願されたものであり、件外商標登録第2043365号商標(以下「件外先行登録商標」という。)、並びに件外商願平6−55388号との連合商標をなしている。そして、その出願後の平成8年1月30日に上記出願人から吉崎晴好氏に名義変更されたものである。
(2)上記件外先行登録商標は甲第1号証から明白なように、片仮名文字「レイデント」を横書きした標章からなり、「第1類、金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定商品として、昭和60年12月18日に出願されたものである。
これに対して、請求人は商標法第4条第1項第10号と同法第47条括弧書き(不正競争の目的で商標登録を受けた場合)の規定に基づく登録無効審判(審判平7−3632号)を請求する一方、「第1類、金属材料の表面黒化・改質並びに防錆処理のための金属表面処理剤,その他の化学剤」を指定商品として、以下の4件の商標登録出願を行なっている。その出願経過書類の写しを甲第2号証ないし同第5号証として提出する。
平6−52638号 平成6年5月26日 レイデント RAYDENT
平6−52639号 平成6年5月26日 冷電鍍
平6−56155号 平成6年6月 6日 レイデント工業株式会社
平6−65317号 平成6年6月29日 KEN★RAYDENT
(3)上記件外先行登録商標の無効審判事件は目下審理中にあり、又上記4件の出願商標については、その件外先行登録商標を引用例とした商標法第4条第1項第11号の規定に基づく拒絶理由通知があり、そのうち商願平6−52638号と同6−52639号並びに同6−56155号については拒絶査定不服審判の請求を行なっている。
(4)つまり、本件商標と件外先行登録商標とは連合関係にあり、その互いに類似するため、上記4件の出願商標が本件商標と類似することに疑問の余地はない。しかも、本件商標はその出願商標の出願日後に出願されたものであるため、明らかに商標法第4条第1項第11号に所定の登録無効理由を有する。
(5)更に言えば、件外先行登録商標に対しては、請求人から不使用取消審判(審判平6−9256号)を請求していた。その予告登録日は、平成6年6月23日であり、これに徴すと、本件商標は上記件外先行登録商標の取消しを想定して、平成6年7月5日に出願されたことが明確である。
しかも、その件外先行登録商標の無効審判事件での登録無効理由に徴すると、本件商標は被請求人から不正の目的で懲りずに再出願されたものであり、そのため改正商標法(平成8年法律第68号)第4条第1項第19号の規定にさえ該当すると言わねばならない。
なお、同19号の主張は、同11号の主張とは独立の主張である。
2.商標法第4条第1項第8号該当について
(1)本件商標は請求人の名称の著名な略称を含んでおり、しかも請求人の承諾を受けていないため、商標法第4条第1項第8号の規定にも該当する。この登録無効理由を説明するに当り、
(イ)請求人の業務内容を示す証拠として、甲第6号証ないし同第9号証を、
(ロ)請求人が本件商標の出願日(平成6年7月5日)当時までに、自己の金属表面処理した各種試供品について、民間企業や公的機関の試験を受けていた事実を示す証拠として、甲第10号証ないし同第46号証を、
(ハ)請求人の金属表面処理剤とその使用による金属表面処理法の新らしさと高い技術的評価が紹介報道されていた事実を示す証拠として、甲第47号証ないし同第58号証を、
(ニ)請求人の広告と出展並びに文献への引用などによる商標使用状況を示す証拠として、甲第59号証ないし同第90号証を、
(ホ)請求人が多方面のユーザー層から注文・依頼を受けて、各種機械部品や機械材料などの表面処理を行なってきた実績を示す証拠として、甲第91号証ないし同第270号証を各々提出する。
(2)請求人は甲第1号証の会社登記簿謄本から明白なように、その名称(商号)を「レイデント工業株式会社」として、昭和39年12月17日に設立登記され、現在に至っている。
本件商標は、請求人の名称(商号)の略称「レイデント」を含む文字標章からなり、しかもその請求人の業務内容に属する商品を指定している。
(3)請求人は、現在の代表取締役−小川郁生の父である小川 賢によって、昭和36年に創設された「大日表面処理工業」から初まり、その後の屋号「冷電鍍工業」を経て、上記のように「レイデント工業株式会社」として設立登記され、その登記目的の「機械部品及びその材料の表面処理並びに調質」に関する業務を、上記屋号「大日表面処理工業」の当初から現在まで、永年に亘って継続的に営なんでいる。
(4)そして、その間の平成6年7月5日(本件商標の出願日)までには、甲第10号証ないし同第46号証の試験検査成績表や試験結果報告書などから明白な通り、請求人の独自に開発した特殊な触媒を用いて表面処理した各種試供品について、ユーザー層(需要者・取引者)の民間企業である例えば理学電機工業株式会社や株式会社島津製作所、株式会社京都科学研究所、松下電器産業株式会社、立石電機株式会社などの試験を受けると共に、公的機関である大阪府立工業奨励館や京都市工業試験場などの試験も反復的に受け、その防錆や改質などの技術的効果が徐々に高く評価されるに至った。
(5)このような技術的効果とその新らしさが認められた事実は、甲第47号証ないし同第51号証として提出する昭和46年10月8日付、昭和50年10月16日付、昭和51年3月12日付、昭和59年12月5日付並びに平成6年3月25日付の各「日刊工業新聞」を初め、甲第52号証ないし同第54号証として提出する昭和60年1月30日付、昭和60年3月20日付並びに昭和63年7月10日付の各「日本工業技術新聞」や、甲第55号証として提出する昭和61年5月13日付の「日本工業新聞」により、再三報道された紹介記事から明白である。なお、上記甲第51号証の記事中にある「小西鍍金工場」は、当時から請求人とフランチャイズ方式での契約を締結している合資会社である。
(6)また、上記事実としては第21回名古屋工業技術試験所研究発表会(開催日−昭和51年12月2日)の予稿集(甲第56号証)にも、請求人から新らしい触媒の使用により金属表面処理した試料を提供・協力した旨が掲載されていたほか、その予稿集は昭和58年6月15日発行の専門書籍「表面技術総覧」(甲第57号証)にも引用された経緯である。
(7)更に、請求人の代表取締役−小川郁生は請われて、その独自に開発した金属表面処理技術(表面改質加工技術)を専門雑誌「塗装と塗料」の1991(平成3)年2月号(甲第58号証)などに紹介することも行なっていた。
つまり、従来一般の金属表面処理剤による金属表面処理法が平均20ないし50°Cに加温された浴中へ浸漬する方法(黒色クロムメッキ法)であるに反し、上記甲第47号証ないし同第58号証の各種日刊新聞紙や書籍、月刊雑誌などに大きく紹介された通り、請求人の独自に開発したそれはマイナス5ないし20°C以下の特殊な触媒を使用した加工液に浸漬する新らしい方法であり、金属表面の防錆や改質などに優れた技術的効果を発揮するものとして、当時高く評価されていたのである。
(8)そこで、請求人はその独自に開発した金属表面処理剤とその使用による金属表面処理法について、技術上の重大なノウハウがあるため、その技術内容を特許出願の公開による代償として独占する方策を選ばず、寧ろフランチャイズ方式での契約によって、賛同する同業者のフランチャイジーに上記金属表面処理剤を継続的に販売すると共に、その使用による金属表面処理上の技術指導や技術提携などを行ない、高品質の維持と普及に努める方策を貫いてきた。そのために、この種金属表面処理業界では稀有な定価表も作成して、ユーザー層(需要者・取引者)に広く配布してきたのである。
(9)本件商標の出願日当時に、請求人とフランチャイズ方式での契約を締結することにより、所謂レイデントグループを形成していた同業者は、つぎの通り各地域に及んでおり、現在では更に一層増加している。
株式会社鈴幸鍍金工業所(東京都大田区西椛谷4丁目31番12号)
株式会社トープロ表面処理研究所(神奈川県相模原市東淵野辺5丁目2番7号)
有限会社ユタカ鍍金工業所(名古屋市西区枇杷島2丁目6番29号)
合資会社小西鍍金工場(新潟県長岡市鉄工町2丁目1番2 0号)
高木特殊工業株式会社(愛知県豊田市広田町稲荷山20番地)
(10)他方、請求人は協力関係にある上記フランチャイジーを、技術的並びに営業的に支援する意味もあって、その独自に開発した上記金属表面処理剤とその使用による金属表面処理法を示す商標として、自己の名称(商号)(レイデント工業株式会社)に冠している「レイデント」と云う簡略な片仮名文字を与え、その片仮名文字とアルファベット文字「RAYDENT」を自己の業務用パンフレット(甲第7号証ないし同第9号証)や、顧客先各位への案内用リーフレット(甲第59号証ないし同第62号証)に表示使用して、多方面のユーザー層(需要者・取引者)に多数配布してきた。
(11)また、甲第63号証ないし同第80号証として提出する各種の日刊新聞や月刊雑誌などにも、その商標としての片仮名文字「レイデント」又は/及びアルファベット文字「RAYDENT」を繰り返し広告すると共に、甲第81、82号証から明白な通り、昭和60年4月17日には日本半導体製造装置協会へ加入し、その会員としての名簿にも請求人の上記商標が登載され、現在に至っている。
(12)更に、甲第83号証ないし同第88号証から明白な通り、請求人の上記金属表面処理法とこれにより処理した機械部品や機械材料を、1986(昭和61)年から「セミコン・ジヤパン」や「セミコン・大阪」にも出展・紹介し、その見本市会場のブースには上記商標を常に見やすく表示使用してきた。この「セミコン・ジヤパン」はアメリカでの「セミコン・ウエスト」と比肩する半導体製造産業分野の中心的且つ著名な工業見本市であり、世界的な規模を誇っている。
(13)そのほか、甲第89号証ないし同第90号証に示すとおり、やはり請求人の表面処理法とその処理した機械部品や機械材料を、「MTフェア京都 ’87」と1989(平成1)年の「第4回大阪国際繊維機械ショー」などにも出展・紹介し、請求人の金属表面処理剤とその使用による金属表面処理法についての技術的効果を訴求し続けてきた。
(14)甲第91号証ないし同第270号証は各種機械部品や機械材料などの設計図、注文書、依頼書、伝票類であるが、これらから明白な通り、請求人は本件商標の出願日までに、全国各地のユーザー層(需要者・取引者)から広く設計図での指定注文・依頼を受けて、その各種機械部品や機械材料などの表面処理を実際にも継続的に行なってきた。甲第91号証ないし同第270号証はその一例を示すに過ぎない。
その各設計図や注文書、依頼書などにはユーザー層からの「レイデント」、「レイデント処理」又は「レイデント加工」と云う指定文字が記載されているように、請求人の名称(商号)(レイデント工業株式会社)の略称「レイデント」や「RAYDENT」が、その金属表面処理剤とその使用による金属表面処理法を示す商標として、多方面の認知を受けていた実績もある。
(15)したがって、甲第6号証ないし同第270号証から総合的に裏付けることができる通り、請求人の永年に亘る営業努力の結果、その請求人の名称の略称「レイデント」並びに「RAYDENT」は金属表面処理剤とその使用による金属表面処理法を示す商標として、遅くとも本件商標の出願日(平成6年7月5日)当時、金属表面処理業界やユーザー層(需要者・取引者)では全国的に著名になっていたと言うべきである。
(16)つまり、本件商標は商標法第4条第1項第8号に規定された「他人(請求人)の名称の著名な略称を含む商標」に該当し、しかもその他人(請求人)の承諾を得ていないものである。
また、仮りに上記略称としては著名でないとして譲歩したとしても、請求人の永年使用してきた上記文字標章「レイデント」並びに「RAYDENT」が、本件商標の出願日当時に、少なくとも近畿の金属表面処理業界とユーザー層(需要者・取引者)の間で周知されていたことは甲第6号証ないし同第270号証から明白であると言えるため、本件商標は同法第4条第1項第10号の規定にも該当する。
3.審判請求の利害関係について
(1)請求人は甲第2号証ないし同第5号証に示す4件の商標登録出願を行なっており、これらが本件商標と類似し、その商標法第4条第1項第11号の規定に基き登録を受けられない点で、本件審判請求に及ぶ利害関係を有しているが、更に言えば本件商標は被請求人から不正の目的で出願され、その登録を受けたものであるため、請求人としては到底看過できず、特別に重大な法律上並びに事実上の利害関係を有している。
(2)このことを詳述するに当り、上記甲第49号証(昭和51年3月12日付の日刊工業新聞)のほかに、請求人も過去に本件商標と実質的に同一の商標登録出願を行なっていた経緯を示す証拠として、甲第271号証を、被請求人並びに同人の所属していた件外有限会社吉崎メッキ化工所(現株式会社吉崎メッキ化工所、以下「吉崎メッキ」という。)と、請求人との相互間に商品販売取引や技術支援関係があった事実を示す証拠として、甲第272号証ないし同第283号証を提出する。
(3)請求人は、上記した商号「冷電鍍工業」の時代から永く使用し続けてきた文字標章「レイデント」について、本件商標の指定商品に包含される商品を指定して、昭和50年6月20日に商標登録出願(商願昭50−81252号)を行ない、これは昭和54年6月12日に出願公告(商公昭54−19754号)され、引き続き同年11月9日に登録査定を受けることができたが、商標管理上の不手際により登録料の納付手続を看過したため、昭和55年5月9日に出願無効となった。
(4)しかし、その間にはもとより、その後も現在まで上記文字標章「レイデント」を使用継続しているが、上記出願無効の事実がやがて被請求人や同人の所属していた吉崎メッキに知れる結果となった。
蓋し、その吉崎メッキ(代表取締役−吉崎周良氏)は請求人との同業者であり、本件商標の願書からも明白なように、その後現商号一株式会社吉崎メッキ化工所(代表取締役−吉崎−紘氏)となっているが、旧商号の当時(昭和47年)から請求人と技術的な協力関係にあったからである。
(5)すなわち、その吉崎メッキ(住所一東京都田無市芝久保1−9−5)の「LAYDENT・レイデント」と大書されたパンフレット(甲第272号証)の第1頁には、「京都のレイデント工業(株)の支援を得まして此の度東京での第一号工場が誕生致しました。」と明記されている。
また、その昭和55年以後に発行された同社(住所一束京都立川市砂川町4−73−3)の同じ表題を冠したパンフレット(甲第273号証)の第1頁や、同社(住所一束京都立川市1番町4−73−3)の「LDレイデント」と大書されたパンフレット(甲第274号証)には.何れも「本技術は昭和47年より京都のレイデンド工業(株)の支援を得まして研究を続けて参りました。」と明記されている。
更に、上記した昭和51年3月12日付の日刊工業新聞(甲第49号証)にも、「吉崎メッキ化工所は超薄膜防錆加工を目的にした『レイデント』処理の受注活動に本腰を入れる方針である。.........(中略).........レイデントはレイデント工業(京都)の技術援助を受けて実用化を進めているもので、耐蝕、防錆を目的とした黒化仕上げ.........」と掲載報道されている。
ここに、「京都のレイデント工業(株)」や「レイデント工業(京都)」とあるは、請求人自身を意味しており、このことも金属表面処理業界やユーザー間での周知事実である。
(6)上記のようなパンフレットや新聞の記事ばかりでなく、被請求人の所属していた吉崎メッキと請求人との相互間では、実際にも甲第275号証ないし同第277号証の注文書や売上元帳から明白な通り、請求人の上記金属表面処理剤を売買する商取引が行なわれていたのである。
(7)被請求人は吉崎メッキの代表取締役−吉崎周良氏の次男であり、また現株式会社吉崎メッキ化工所の代表取締役−吉崎一紘氏は同じく吉崎周良氏の長男である。
そして、吉崎メッキの昭和59年5月31日付登記簿謄本(甲第278号証)によれば、その当時被請求人は同社に所属しつつも、取締役になっていなかったが、その後の昭和60年4月8日付同社の登記簿謄本(甲第279号証)によれば、同社の取締役として就任している。
その意味から、被請求人が同社の上記パンフレットや新聞に掲載の事実と経緯についてはもとより、請求人の上記金属表面処理剤とその表面処理法に使用していた文字標章「レイデント」の存在を知らぬ筈はない。
(8)まして、この昭和50ないし60年当時には、請求人と吉崎メッキとの相互間において、フランチヤイズ方式での金属表面処理に関する契約締結の商談が進行中にあり、そのための「レイデント基本契約書」を請求人から同社へ送付していた。
その「レイデント基本契約書」の調印・返送を催促する昭和59年5月20日付の書簡(甲第281号証)や同年5月31日付の別な書簡(甲第282号証)も、請求人から同社へ送付したが、これらに対する同年6月9日付の返信書簡(甲第283号証)では、被請求人が同社の担当総務部長として、上記基本契約書の内容に種々の条件を付与することにより、その契約締結に難色を示してきた一方、同社から請求人に対する上記金属表面処理剤の補給注文なども途絶えたままで、現在に至っている経緯がある。
(9)件外先行登録商標が上記商談を始めてからの昭和60年12月18日に出願された事実に鑑みれば、その商談進行中に被請求人や同人の所属していた吉崎メッキにおいて、請求人の出願していた上記商願昭50−81252号(商公昭54−19754号)が出願無効になったことを知り、その被請求人の個人名義として本件商標を秘かに出願すると共に、これに基づき上記基本契約書の締結を反古したものと考えられる。
(10)つまり、上記した甲第57号証ないし同第277号証から明白な通り、件外先行登録商標の出願日(昭和60年12月18日)当時において、請求人の文字標章「レイデント」が永年の使用実績に基き、その名称(商号)の略称として周知であったことを、被請求人の知らなかった筈はなく、少なくとも請求人の使用していた上記文字標章「レイデント」の存在は、これを当然熟知していたのであるから(特に甲第283号証参照)、その被請求人による件外先行登録商標とこれに続く本件商標の取得は、他人(請求人)の信用を利用して不当な利益を得る目的(不正の目的)に出たものと言わざるを得ず、不正競争行為に該当する。まして、本件商標は上記した吉崎メッキから出願され、その後被請求人(吉崎晴好氏)への出願人名義変更届が提出されているのである。
(11)本件商標が請求人の商号(レイデント工業株式会社)に冠した同じ片仮名文字から同一称呼を生ずるに反し、被請求人が自己の氏名と無関係な件外先行登録商標と本件商標を取得することには、その必要性と合理的な理由が認められないからでもある。
その件外先行登録商標の無効審判事件(審判平7−3632号)の審理中において、これとの連合関係にある本件商標を追加的に取得することには、その無効審判事件を水泡に帰させんとする意図も看取され、明らかな不正競争行為と言わざるを得ない。
(12)なお、請求人は先に一言した通り、件外先行登録商標に対して不使用取消審判(審判平6−9256号)を請求していたところ、その審決書の謄本(甲第284号証)を平成8年6月6日に受領した。
その審決によれば、「請求人は、『レイデント』の標章を使用してきており、かつ、被請求人が通常使用権を許諾したと主張している件外有限会社はるさんの取引先である件外株式会社吉崎メッキ化工所とは、商品の売買取引や技術協力関係があったと認められることから、請求人は『レイデント』の標章と無関係の者ということはできず、請求人には、本件商標が存在することによって法的不利益があるものとみるのが相当である。よって、請求人には本件審判請求をなす法的利害関係があるというべきである。」と認定されたが、この認定は本件審判事件にも妥当する。
4.以上のように、本件商標は商標法第4条第1項第8号、第10号並びに第11号の規定に該当するため、その何れにしても同法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。
二 答弁に対する弁駁
1.商標法第4条第1項第7号該当について
(1)被請求人は乙第2号証の1ないし25や乙第3号証の1ないし3に基づき、あたかも被請求人が件外先行登録商標及び本件商標2件の文字標章を考えていたかの如くに答弁している。
しかし、考えるにとどまることと、出願行為にまで及ぶこととは別個の問題である。問題は上記文字標章を考えていたか否かでなく、これが他人(請求人)の使用商標であることを知り乍ら秘かに出願し、その商標登録を受けたことにある。まして、本件商標は件外先行登録商標に対する不使用取消審判(審判平6−9256号)の予告登録日(平成6年6月23日)後、追加的に出願されたものであり、如何に答弁しようと、本件商標までも取得したことの正当な理由には到底なり得ない。
乙第2号証の2ないし5はあくまでも被請求人自身の秘蔵していた実験メモノートであるに過ぎず、本件商標の取得に及んだ行為と直接結び付く不可分な因果関係を有さない。
(2)被請求人が吉崎メツキに在職中であった当時には勿論のこと、これよりもはるか以前の昭和47年から吉崎メッキは、請求人から独自に開発した特殊な金属表面処理法の技術的な指導・支援やそのための金属表面処理剤(商品)の供給を受け、同社の各種パンフレットに文字標章「レイデント」や「LAYDENT」を使用していたのであり、この事実を被請求人の知らなかった筈はなく、その知らなかったとすることこそ著しく不自然・不合理である。
(3)請求人の出願無効となった商標と件外先行登録商標とは、あたかも複写したかの如く完全に同一であって、その指定商品の内容も全く同一である。その文字標章の字体が筆文字(手書き風の明朝体)の名残りをとどめていることとも相挨って、偶然の一致とは到底考えることができない。
そして、件外先行登録商標に対する不使用取消審判の予告登録日の直後に、本件商標が追加的に出願され、更に件外商標登録第4096355号も重複的に出願された結果となっている。その何れも、吉崎メツキから件外先行登録商標の連合商標として出願され、その出願中に同社から被請求人へ名義変更されており、不正の目的がなければ、到底あり得ない両者の共謀による故意行為として、極めて悪質である。
(4)更に言えば、被請求人自身は勿論のこと、金属表面処理加工業を主目的として設立された筈の「はるさん」も、未だ金属表面処理剤の製造に必要な設備を有さず、その金属表面処理業を営なんでもいない。又、被請求人目身が各種資格を取得していることと、実際に金属表面処理業を営なんでいることとは別個の問題であり、その各種資格を取得しているからと言って、必らず金属表面処理業を営なんでいるとは限らない
(5)この点、請求人は件外先行登録商標に対して、先の審判に引続き、再度不使用取消審判(審判平9−20002号)を請求しているが、その被請求人の答弁によれば、被請求人とはるさんとの相互間では、件外先行登録商標につき通常使用権の許諾契約が締結されているに反し、被請求人と株式会社吉崎メツキ化工所との相互間では使用権の許諾契約が締結されていない。この旨の証拠に基く答弁は全然なされていない。
(6)つまり、件外先行登録商標の指定商品は、単なる「工業用薬品」でなく、「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤」であって、金属表面処理業者以外には使用することがあり得ない専門技術分野の特殊品(劇毒物)として、その役務(金属表面処理業)と密接不可分の関係にあり、そのための許可を受けた設備がなければ、商品(上記金属表面処理剤)の製造や役務の提供を行なえるものではない。
他方、吉崎メツキは請求人と競争関係に立つ同業者として、金属表面処理業を営なんでいるが、件外先行登録商標並びに本件商標につき、被請求人との相互間において使用権の許諾契約を締結しておらず、それにも拘らず甲第288、289号証から示唆されるとおり、文字標章「レイデント」や「LAYDENT」を使用している様子である。
(7)その意味から結局、被請求人としては件外先行登録商標の指定商品につき、その文字標章「レイデント」を所有しなければならない必要性と法律上の理由はなく、それにも拘らず自己の氏名(吉崎晴好氏)と無関係な文字標章「レイデント」や「LAYDENT」の取得に固執していること自体、請求人の使用商標に化体した信用を利用せんとする意図であり、その利用者が吉崎メツキであることも明白と言える。
(8)件外先行登録商標に対する不使用取消審判の予告登録日後、しかも吉崎メツキから本件商標が連合商標として出願されたことや、その吉崎メツキは旧商号の当時(昭和47年)から、請求人の開発した金属表面処理法の技術的指導・支援やその金属表面処理剤(商品)の供給を受けていたことなどに徴しても、件外先行登録商標と本件商標との重複的な取得は、被請求人を所謂ダミーとして、実質的には吉崎メツキが行なったと言うこともでき、何れにしても信義誠実の原則に反し、公正な競業秩序を乱すばかりでなく、請求人が独自に技術開発し、永年の営業努力を積み重ねてきた上記金属表面処理法と金属表面処理剤の名声にただ乗りし、又はその名声を毀損させる不正行為として、商標法第4条第1項第7号の規定に該当すると言わざるを得ない。
(9)甲第49号証や甲第272号証ないし同第274号証、甲第290、291号証の記載内容に徴せば、「レイデント液」(商品)と云う用語が請求人のみの自称ではなく、吉崎メツキも頻繁に使用していた言わば他称であることや、甲第272号証ないし同第274号証の各種パンフレットなどに記載された「支援」の実情が、薬液(レイデント液)の提供を「いっとき」受けたにとどまる内容でないこと、更には請求人の液販活動を吉崎メツキが奨励していたことも、極めて明白な事実である。
上記吉崎メツキが自己の各種パンフレットや会社案内に、請求人の文字標章「レイデント」を表示して、強調・宣伝していた事実からも、この文字標章を宣伝文句として使用すれば、これに化体された技術的効果の訴求と、その金属表面処理剤(商品)の拡販(液販)並びに金属表面処理するユーザー層の獲得上役立つと考えたからにほかならない。それだからこそ、これに一早く気づいた同社の旧代表取締役−吉崎周良氏が、昭和46年10月8日付けの日刊工業新聞を見るや、甲第292号証の名刺を持参して、請求人の旧代表取締役−小川 賢に面会を求め、その金属表面処理剤(商品)の購入とこれによる金属表面処理上の技術導入や支援を懇請されたのである。更に言えば、請求人から吉崎メツキに対する「レイデント液」(商品)の販売も、被請求人の答弁するような「いっとき」にとどまらない。この事実は甲第275号証ないし同第277号証のみならず、甲第293号証ないし同第298号証からも明白である。また、請求人と吉崎メツキとの相互間において、商品の売買取引や技術協力関係にあったことは、甲第284号証(審判平6−9256号の審決)でも肯定されている。
(10)吉崎メツキの代表取締役−吉崎一紘氏自身が手書きして、請求人に送付してきた昭和54年8月24日付けの書簡(甲第290号証)によれば、当時の技術担当者であったという吉崎一紘氏が、請求人の技術開発した金属表面処理法とそのために液販していた金属表面処理剤(商品)を示す商標として、その文字標章「レイデント」を請求人が使用していた事実を知り得なかったとは到底考えられず、その書簡の記載内容に反する。
更に、1984年(昭和59年)6月9日付けの被請求人の返信書簡(甲第283号証)における記載は、「レイデント」の意味・内容を承知していなければ、到底できない主張である。
(11)被請求人は、「通常、毒物劇物の譲受けを行う際の譲受書の提示はなく、また、薬品納品時、請求人が『レイデント液』と自称し持参した薬品の容器には『商品名』『薬品名』『白地に赤字にて医薬品用外劇物の表示』『数量』『製造者の名称及び住所』『販売者の名称及び住所』『レイデント』の表示はなかった」と主張している。
しかし、一方では「1回目の納品は請求人が薬品をトラックで持参し吉崎メッキが用意した容器に移し替えることにより行った」と、その商品売買取引の具体的事実を容認している。このことは、請求人と吉崎メツキとの当事者間における合意に基き、当時の商品売買取引やその取引方法として問題なく成立したことを意味しており、今になって一般的な書籍の記載を引用し、その商品売買取引の事実を否認することは、所謂禁反言の法理からも到底許されないし、乙第4、8号証も、本件事案に個別具体的な当時の古い証拠ではなく、反証たり得ない。まして、吉崎メツキから請求人に宛てた注文書(甲第275、276号証)には、「レイデント液」と云う薬品名又は商品名や数量、発注者と受注者の住所・名称などの商品売買取引を特定するために必要な事項が表示されており、その商品の金額も吉崎メツキから請求人に支払われたのである。
(12)甲第283号証の記載を見れば、その「レイデント基本契約書」が請求人から被請求人の手元に届いていたことは明確な事実であり、今さら請求人から証拠として提出するまでもない。又、請求人との相互間では、商品(金属表面処理剤)の売買取引(液販)が繰返し行なわれていたのであり、吉崎メツキとしても甲第272号証ないし同第274号証などから明白なように、自己の各種パンフレットに文字標章「レイデント」を表示して、その金属表面処理の具体的な内容説明や試験成績書に基づく技術的な効果(優れた防錆力)の強調を行なっていたのである。薬品名などの内容を知らずして、その技術の効果を自己のパンフレットに繰返し説明できる筈がない。
2.商標法第4条第1項第8項並びに第10号該当について
(1)甲第6号証ないし同第9号証のほか、甲第300号証ないし同第313号証によれば、請求人が現商号「レイデント工業株式会社」として昭和39年12月17日に設立登記される以前、その屋号を「大日表面工業」(本件審判請求理由補充書にある「大日表面処理工業」は誤記であるため、補正した。)、「大日表面工業桃山研究所」或いは「冷電鍍工業」と称して、既に機械部品やその材料の表面処理並びに調質などの業務を営なんでいた事実が明白である。
(2)甲第300号証(昭和43年度京都商工会議所法定台帳控)には、業種内容として「特殊な黒色防錆鍍金」と云う記載や、事業沿革として「昭和36年5月現住所に於て、大日表面工業桃山研究所を設立す、昭和39年12月法人に組織替えし、レイデント工業株式会社と改名す、昭和42年5月府下久世郡久御山町に新工場設立す」という記載があり、昭和39年12月17日までの当時には、過渡的に「冷電鍍工業株式会社」という屋号も併用していた。この当時の住所は「京都市伏見区桃山町泰長老110番地」であって、この住所から昭和56年6月26日に現住所へ移転している。また、上記「大日表面工業」を昭和36年5月に設立した「小川 賢」は、昭和50年6月16日に死去(甲第308号証)したため、その子の現代表取締役−小川郁生が上記業務を引き継いで、現在に至っており、上記住所移転などの記録にも徴せば、業務の承継関係は明白である。(そのため、万一日付の不明な甲号証にあっても、上記住所の記載や旧代表取締役−小川 賢の死亡日などから、何時のものであるかが判明する。)
(3)甲第8、9号証のみを摘出すれば、そのパンフレットの表紙にはなる程アルファベットの文字標章「LAYDENT」や「RAYDENT」が表示されているが、これらの内容を記載した個所には、片仮名の文字標章「レイデント」が使用されており、又請求人の業務内容を示す別な各種パンフレット(甲第303、304、309、310号証)や甲第59号証ないし同第62号証の案内リーフレット、甲第47、52、63、64号証の新聞広告、甲第65号証ないし同第80号証の雑誌広告、甲第81号証ないし同第90号証の出展広告などから明白なように、請求人は片仮名の文字標章「レイデント」を自己の技術開発した金属表面処理法とそのための金属表面処理剤につき、常に使用してきた。
(4)その使用は、甲第303、304号証のように、旧屋号「大日表面工業」を創設した当初の昭和36年から現在まで継続しており、上記片仮名の文字標章「レイデント」は請求人の名称(レイデント工業株式会社)に冠した略称(レイデント)として、遅くともその設立登記した昭和39年12月から使用し始めている。
(5)被請求人は、請求人の使用商標につき、その文字標章の構成が統一されていない旨答弁しているが、片仮名の文字標章「レイデント」として統一的に表示されている。その字体までは必らずしも一定しない。しかし、上記文字標章「レイデント」の字体に若干の相違変化があるとしても、「レイデント」と云う称呼を生じることに変りはなく、その称呼上本件商標と同一であって、本件商標は商標法第4条第1項第8号に規定された「他人の名称の著名な略称を含む商標」である。また、同第10号の規定には類似の商標も含まれているところ、上記文字標章「レイデント」の字体に若干の相違変化があるとしても、本件商標と類似の外観構成と同一の称呼並びに観念を有することに変りはなく、全体として本件商標に類似する商標である。
一般に「金属表面処理」や「メッキ」と言えば、役務に固有の普通名称であり、又「金属表面処理剤」や「メッキ浴液」と言えば、商品の固有名称であるに過ぎず、その何れも商標としての自他商品・役務識別力や品質保証機能、広告機能などを発揮しない。ところが、片仮名により表示された上記文字標章「レイデント」は、その字体に若干の相違変化があったり、仮りに手書きのありふれた字体であったりしても、上記金属表面処理(役務)や金属表面処理剤(商品)の固有名称ではなく、商標としての上記諸機能を発揮することができ、このことはパンフレットや新聞、雑誌などの説明文章中へ一連に羅列した状態として表示されても、言わば浮き彫り的に看取されるため、決して失なわれるものではない。
その意味から、各種パンフレットや案内リーフレット、新聞・雑誌・出展の広告などには、標章「レイデント」が常に表示されており、これは請求人の永年に亘る使用の結果、商標としての特別顕著性を発揮しており、業務上の信用を獲得するに至っている。
請求人が自己の名称(レイデント工業株式会社)の略称(レイデント)として使用してきた上記標章「レイデント」は、金属表面処理法とそのための金属表面処理剤を示す商標として、遅くとも本件商標の出願日(平成6年7月5日)当時、金属表面処理業界やユーザー層(需要者・取引者)の間では全国的に著名になっていたというべきである。
(6)被請求人は、「レイデントハイブラックL−SLの組成の詳細は不明との記載があり、浴液を組成している薬品名を特定することすらできていない」と主張しているが、請求人の独自に開発した金属表面処理剤とその使用による金属表面処理法には、既に本件審判請求理由補充書に説明済みの通り、技術的なノウハウがあるために、その甲第57号証に係る専門書籍への公表を意図的に断った意味である。
(7)更に、被請求人は、「甲第47、48、50、52ないし58号証は、『レイデント』が商品商標として使用されてことを示すものではない。」と言い、同じく、「甲第63、64、67ないし76、79、80号証は、『レイデント』が商品商標として使用されたことを示すものではない」と言い、同じく、「甲第83ないし90号証は『レイデント』が商品商標として使用されてことを示すものではない」と言い、又同じく第20頁の「商標法上の商品」と題する項中において、「実際の商品の販売形態(例えば、いかなる容器にどのような商標を付し定価をいくらとして販売しているのか)を示す証拠の提出がない」と主張している。
しかしながら、被請求人の答弁では商標や定価をラベルなどにより表示した容器へ、包装した形態だけが販売商品であるかの如く解釈している様子に見受けられるが、例えば自動車用ガソリンがガソリンスタンドで販売されているように、仮令容器に包装しなくても商品として販売することができ、その販売形態は商品の特殊性と密接に関係することである。
これを本件事案について言えば、請求人の技術開発した金属表面処理剤(商品)は、金属材料の表面黒化並びに防錆処理のためのものであって、薬局において一般個人などの消費者向けに市販されている薬品と異なり、金属表面処理業者以外には使用することがあり得ない高度な専門技術分野の特殊品(危険物)として、その役務(金属表面処理業)と不可分の関係にあり、そのための許可を受けた設備がなければ、商品の製造や役務の提供を行なえるものではない。
つまり、その商品(金属表面処理剤)と役務(金属表面処理業)とは、ユーザー層(需要者・取引者)の範囲や用途、販売場所と提供場所などが悉く一致し、商品の製造・販売と役務の提供とが必らず同一業者によって行なわれ、互いに類似する関係にある。その意味から、本件審判請求理由補充書にも説明済みの通り、請求人の名称(レイデント工業株式会社)に冠した略称としての文字標章「レイデント」は、請求人の独自に技術開発した金属表面処理法とそのための金属表面処理剤を示す商標として使用されてきており、その商標としての諸機能を商品(金属表面処理剤)と役務(金属表面処理法)に切り離して考えることはできない。
請求人は、全国各地のユーザー層(需要者・取引者)から注文・依頼を受けて、各種機械部品や機械材料の表面処理を行なっていたばかりでなく、その金属表面処理剤(商品)を多方面の同業者(金属表面処理業者)へ販売することも行なっていたのである。
特に甲第290号証の内容から明白なように、請求人が多方面の金属表面処理業者へ金属表面処理剤(商品)を販売(液販)していたことは、吉崎メッキも認めている事実である。
請求人の金属表面処理法とこれに使う金属表面処理剤の新らしさと技術的効果が甲第47号証ないし同第49号証の新聞に掲載報道された初期(昭和46ないし53年頃)に、請求人は甲第293、294号証や甲第348号証ないし同第354号証から明白な通り、広島営業所(略称−広島レイデント、北迫祥弘氏)と東京営業所(押田直一氏)を設置すると共に、第1、2号のフランチャイジーであった東大阪レイデンド工業所(福間哲郎氏)や神戸レイデント(大西健治氏)とも協力して、各地の金属表面処理業者に対する金属表面処理剤(商品)の拡販(液販)に努めていた。そのフランチャイジーにはユーザー層からの金属表面処理も、請求人から委託していた。
(8)他方、昭和55年頃までには甲第355号証ないし同第360号証から明白な通り、上記金属表面処理剤(商品)の拡販グループを形成していた卸売業者の山崎 隆氏や五社タイル直売センター(佐藤夫左夫氏)、レイデント工業販売(佐藤昌平氏と花岡孝吉氏)などの協力も得て、金属表面処理業者である例えば金属化研工業株式会社や野田プレイティング、アガツマ精機株式会社などへ、その金属表面処理剤(商品)を販売していたのである。
(9)また、甲第361号証ないし同第365号証から明白なように、その後の昭和59ないし6年には、岐阜レイデント工業株式会社や株式会社鈴幸鍍金工業所とフランチャイズ方式での契約を締結して、これらの金属表面処理業者にも請求人の金属表面処理剤(商品)を供給すると共に、その使用による金属表面処理法(役務)の技術的な指導・支援を行なってきた。
甲第364号証に記載されている「岐阜鋼化」は、岐阜レイデント工業株式会社の代表取締役−川島俊介氏の兄弟が経営する会社であり、ここにも請求人の金属表面処理剤(商品)を販売していた。甲第365号証はその当時のパンフレットを例示している。
(10)請求人の開発した金属表面処理剤(商品)は、本件審判請求理由補充書に説明済みの通り、新らしく特殊な触媒として、これを添加した金属表面処理液(メッキ浴液)の濃度調整や熟成などについて、独自の技術的なノウハウがあり、設備としても特殊な冷凍機(冷却機)などを必要とするため、その金属表面処理剤を上記同業者(金属表面処理業者)の注文に応じて納品した場合には、必らず請求人の技術者が立ち合って、その使用による金属表面処理法の技術的な指導と協力を行なっていた。
(11)念のため、上記金属表面処理剤の販売容器について言えば、この種金属表面処理剤の場合薬局での一般消費者向けに市販されている薬品のそれと異なり、必らず使用しなければならない規格品・定形品があったわけではなく、輸送上の安全性を確保できる限り、売買当事者の合意があるものであれば、足りていた。
その意味から当時、請求人としては甲第356、358号証から示唆されるように、注文書との関係から容器を指定された場合には、その指定品を使用・納入し、特に指定されていない場合には、注文量に応じた大きさのアトロン缶やドラム缶、所謂ボリ容器、その他の類似する容器を使い分けていた。
(12)この点、被請求人は、「1回目の納品は請求人が薬品をトラックで持参し吉崎メッキが用意した容器に移し替えることにより行った」と説明しているが、「第1回目の納品」が甲第275号証の注文書や甲第294号証の電話連絡内容と対応する昭和48年当時のそれを意味しているのであれば、その時の納品は請求人において予じめ上記金属表面処理剤の添加により適正に濃度調整した金属表面処理液としてトラック輸送し、被請求人の説明通り移し替えた。但し、昭和52年以降には、輸送上の安全性に関する規制が厳しくなったため、請求人からはその金属表面処理剤とクロム液とを固体粉末として安全に輸送・納品し、吉崎メツキの用意したメッキ浴槽へ投入する際に、適正な金属表面処理液としての濃度調整などを行ない、熟成させていた。
(13)この種の限られた金属表面処理業者しか使わない金属表面処理剤では、まして請求人の独自に技術開発した特殊なそれでは、薬局での一般消費者向けに市販されている薬品と異なり、仮令その封入された容器ごと販売されなくとも、又その販売容器に品名や数量、製造者名、商標などを表示したラベル類が貼付されていなくとも、その請求人(売主)への注文書やその他の取引書類に、注文者(買主)から上記文字標章「レイデント」の記載指定がありさえすれば、その商品(金属表面処理剤)の内容は特定されていると言え、その納品方法や定価なども売買当事者が予じめ電話などにより合意した上での納入であるから、商品(金属表面処理剤)の売買取引形態として法律上も実際上も何等の問題なく成立する。
その商品売買取引の行なわれていたこと自体、請求人が法規上適正な金属表面処理業者であったことを、吉崎メツキも認めていたことにほかならず、今さら請求人から劇毒物製造業や販売業の登録証などを提出するまでもない。
3.商標法第4条第1項第11号該当について
件外先行登録商標に対する不使用取消審判の予告登録日後すぐに、本件商標と件外商標登録第4096355号までも追加的・重複的に出願取得する程の被請求人が、甲第2号証ないし同第5号証に係る先願商標を不知とは驚くばかりである。本件商標と前記の先願商標とが、互いに類似の外観構成と同一の称呼並びに観念を有することは明白であり、その全体として類似するため、本件商標は本号の規定に該当する。
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、その理由及び弁駁に対する答弁を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第16号証(枝番を含む。)を提出した。
一 答弁の理由
1.本件商標及び件外先行登録商標の採択理由等について
(1)被請求人は、昭和44年12月頃に吉崎メッキからの委託実験に関連して、クロム廃液の電気分解処理実験をしていたとき、実験に使用していた鉄の陰極が茶色に変色したのを発見した。そして、この「茶色をした薄い緻密なめっき層」の英訳が「Layer Density Obtained from a Dun Tone Film」であり、「電気めっき」のことを「電鍍」(デント)ということを勘案し、前記英訳の「Layer」「Density」「Tone」の頭文字を採り語呂も良いため「Laydent」「レイデント」と命名し密かに心に暖めていた。その後、後述の独立に備え、件外先行登録商標「レイデント」を取得した。
(2)被請求人は、昭和51年1月に吉崎メッキに就職し、同59年7月に同社の取締役に就任した。在職中は、労務管理、販売管理、経理等に従事し、主に総務関係の仕事に携わった。同63年7月に吉崎メッキを退職し、かねてより考えていた自分のプラン(「工業用薬品」の販売)を実現するために、吉崎メッキ社長の了承を得たうえで、同62年10月に妻とともに有限会社はるさん(以下「はるさん」という。)を設立した。
2.商標法第4条第1項第10号該当について
(1)現実に使用の結果商標の諸機能が発揮されて業務上の信用が蓄積されているような未登録周知商標を保護しないとするならば出所の混同を招来し、業務上の信用が毀損され法目的を達成することができないこととなる。そこで、商標法は登録主義に基づく弊害を防止して使用主義との調和をはかり法目的を達成するため未登録商標でも一定の要件を具備する商標を保護することとし、商標法第4条第1項第10号等の規定を設け未登録周知商標の保護をはかっている。したがって、本件審判において、本号を適用して本件商標の登録を無効にするに当たっては、請求人が主張する未登録商標が、本件商標の出願時、査定時において我が国内の需要者の間に広く認識され保護に値する財産的価値が生じる程度に周知でなければならないと解される(商標法第4条第3項)。
(2)商標法第4条第1項第10号の規定に関する周知性の立証に当たっては、例えば次の〔1〕ないし〔7〕のような事実を総合勘案して判断することが客観的に妥当であり、本件商標の登録を無効とする障害要件の立証責任は請求人にあることよりして、請求人はそのための証拠を提出すべきと思料する。〔1〕実際に使用している商標と役務(商品)〔2〕使用開始時期〔3〕使用期間〔4〕使用地域〔5〕広告宣伝の方法、回数及び内容〔6〕営業の規模(店舗数、営業地域、売上高等)〔7〕請求人の商品が「毒物劇物」である場合には毒物劇物製造業あるいは販売業の登録証
そこで、上述を踏まえ、請求人が提出した証拠に基づき、請求人の役務・商品を表示している標章の周知性について検討する。
(イ)請求人の売上高の推移、従業員の伸張、事業所数の推移を示す証拠は提出されていない。請求人は、「請求人は、現代表取締役‐小川郁生の父である小川賢によって、昭和36年に創立された「大日表面処理工業」から初まり、その後の屋号「冷電鍍工業」を経て、上記のように商号「レイデント工業株式会社」として設立登記され、その登記目的の「機械部品及びその材料の表面処理並びに調質」に関係する業務を、上記屋号「大日表面処理工業」の当初から約35年間に亘って継続的に営み、現在に至っている」旨述べているが、この点、甲第10号証左上欄に「大日表面工業」(甲第10号証左上欄の表示は「大日表面工業」であって請求人が言うように「大日表面処理工業」ではない)の文字が、また、甲第11号証及び同第12号証の右上欄に「冷電鍍工業kk」の文字が読み取れるものの、請求人と「大日表面処理工業」、「冷電鍍工業」の業務の承継関係を示す証拠は何ら提出されていない。
(ロ)甲第7号証ないし同第270号証をもとに請求人の標章の使用の態様及び使用実績について見てみるに、甲第8号証のパンフレットにはレイデント処理液の商品名として、「レイデント処理液の商品名
レイデント‐ハイブラツク #501 (建浴液)
レイデント‐ハイブラツク #502 (調整液)
レイデント処理液ご購入の件につきましては、当社営業部迄 御下命 願えれば幸甚です。」の記載が、また、甲8号証の表紙と思われる頁には「Radiant LAYDENT」の標章の記載が見られる。しかしながら、これ以外に請求人が商品商標として使用していることを窺わせる確固たる証拠の提出はない。また、甲9号証のパンフレットには、「RAYDENT」「レイデント処理について」の記載が見られる。しかしながら、甲第7号証ないし同第9号証の証拠の印刷日、配布先は不明であり、真に顧客に配布されたものであるとの立証もない。更に、甲第8号証、同第9号証に表記された標章の構成(態様)は上記のように統一されたものではなく、また、甲第271号証の商公昭54−19754号の商標の構成とも一致していないため、甲第8号証及び同第9号証が本件商標の出願前に真に顧客に配布されたものだとしても、請求人が本件商標出願前に実際に使用しているとする商標の構成はどのようなものなのか被請求人には特定できない。
(ハ)また、請求人は、本件商標の出願日当時までに、自己の金属表面処理剤を用いて表面処理をした各種試供品について、民間企業や公的機関の試験を受けていた事実を示す証拠として甲第10号証ないし同第46号証を提出し、「本件商標の出願日までには、試験検査成績表、試験結果報告書等(甲第10号証ないし同第46号証)から明白なとおり、請求人の独自に開発した金属表面処理剤を用いて表面処理した各種試供品について、ユーザーの民間企業の試験を受けると共に、公的機関の試験も反復的に受け、徐々にその防錆や改質などの有効性が高く評価されるに至った」旨主張しているが、乙第4号証(神奈川県メッキ工業組合編「めっき基礎読本」第135頁ないし第141頁)の、「めっきの検査」に関連した記述によると、請求人が提出した甲第10号証ないし同第46号証の証拠は、めっき加工業者である請求人がめっき処理した製品に上記の「塩水噴霧試験」による検査を行った検査結果を示す資料であり、めっき皮膜が製品として適正なものであるかどうかを判定するものであって、めっき加工業者であれば当然に行う製品の検査結果を示すものに過ぎない。しかして、甲第10号証ないし同第46号証は、請求人が主張するように、「本件商標の出願日までには、請求人の独自に開発した金属表面処理剤を用いて表面処理した各種試供品について、ユーザーの民間企業の試験を受けると共に、公的機関の試験も反復的に受け、徐々にその防錆や改質などの有効性が高く評価されるに至った」ことを示すものでない。
(ニ)また、甲第47号証には請求人が提供する「黒色防錆薄膜処理法」が「レイデント法」であることが記され、甲第48号証には請求人が提供する「黒色防錆薄膜処理法」が「レーデント処理法」であること並びに「レイデント処理液で通電する...」旨の記載がある。また、甲第50号証には請求人が提供する「黒色防錆薄膜処理法」が「レイデント処理法」であること、同様に甲第52号証(昭和60年1月30日付「日本工業技術新聞」3面)及び甲第53号証(昭和60年3月20日付「日本工業新聞」2面)には請求人が提供する「黒色防錆薄膜処理法」が「レイデント処理法」であることが記されている。しかしながら、甲第52号証及び同第53号証には「(レイデント処理法)が20年も前に開発されたのに関わらず、これまで一部の超精密機器の分野でしか使われてこなかった...」旨の記載もある。更に、甲第56号証には、「資料をレイデント工業(株)の協力のもとに製作し、...」と記載され、甲第57号証の第779頁の表1.7には浴液名が「レイデントハイブラックL-SL」であることが記されている。しかしながら、この甲第57号証の779頁の表1.7によればレイデントハイブラックL-SLの組成(g/l)の詳細は不明との記載があり、浴液を組成している薬品名を特定することすらできていない。いずれも「レイデント」が商品商標として使用されたことを示すものではない。
更に、甲第64号証、同第67号証ないし同第76号証に示す新聞或いはめっき化工に関する雑誌広告において、例えば、「レイデント処理」の標章が使用され、甲第80号証のアルバイト求人広告において「レイデント処理(表面処理工法)」の標章が使用されている。しかし、いずれも「レイデント」が商品商標として使用されたことを示すものではない。
そして、請求人は、「文字標章『レイデント』が、金属表面処理剤とその使用による金属表面処理法の商標として、多方面の認知を受けていた実績もある」旨主張しているが、この主張は甲第91号証ないし同第270号証中のどの証拠に基づくものか具体的でない。そもそも、甲第91号証ないし同第270号証は、請求人の相手先より真正な取引書類であったとの証明もない。ちなみに、請求人の法人名はレイデント工業株式会社であるが、甲第121号証の名宛人は「京都レイデント工業」となっている。甲第91号証ないし同第270号証を精査してみても、請求人は極めて限られた商品のめっき加工という役務(サービス)を提供するに当たって、商標の構成を特定せずに気ままに使用していることをせいぜい窺わせるに過ぎない(請求人が主張する未登録周知商標の商標の構成の特定がなされていない。)。
(ホ)商標法上の商品とは、少なくとも、一般市場で流通に供されることを目的として取引対象となる動産であって大量生産が可能なものをいうと解される。請求人が提出した証拠を精査してみても、商品との関連で特定の構成を有する商標が使用されていることを窺わせるのは、わずかに甲第8号証において、レイデント処理液の商品名の記載があるのみであり、実際の商品の販売形態(例えば、いかなる容器にどのような商標を付し定価をいくらとして販売しているのか)を示す証拠は一つも提出されていない。
(ト)被請求人は、役務「電気めっき」と商品「化学品」が類似関係にあるとの確かな知識を持ち合わせてはいないが、もとより、被請求人は、商品に類似するものの範囲に役務が含まれるものがあること及び役務に類似するものの範囲に商品が含まれることがあることを否定するものではない。
3.商標法第4条第1項第8号該当について
本号の規定は、著名な略称等の人格権及びこれから派生する法律上の利益を保護することを趣旨とするものである。
甲第6号証及び同第82号証によれば、請求人会社は昭和39年12月16日に資本金100万円(現在400万円)にて設立された法人であり、創業25年を経過した1990年時点での総売上高9000万円、従業員10人程度の会社である。
請求人は、「請求人の永年に亘る営業努力の結果、その名称『レイデント』並びに『RAYDENT』は金属表面処理剤とその使用による金属表面法を示す商標として、遅くとも本件商標の出願日当時、金属表面処理業界やユーザー層では全国的に著名になっていたというべきである」旨主張する。しかしながら、甲第6号証ないし同第270号証の証拠を精査し、甲第82号証におけるロゴマークが「RAYDENT」である旨の記載並びに甲第87号証における出展時の写真が真正なものであるとしても、甲第6号証ないし同第270号証の証拠は、請求人が「レイデント」ないし「RAYDENT」の標章を役務(サービス)「金属表面処理」を提供する際に単に使用していることをせいぜい窺わせるに過ぎない。請求人会社が「レイデント」ないし「RAYDENT」の略称で本件商標の出願時に広く知られていたとは到底思われない。
しかして、本件商標が本号の規定に違反して登録されたものであるとの請求人の主張は、妥当性を欠くものである。
4.商標法第4条第1項第11号該当について
本件商標が、請求人の商標登録出願である昭願平6−52638号、同6−52639号、同6−56155号、同6−65317号の後願に相当するため、本号の規定に違反して登録されたものであるとの知識を被請求人は持ち合わせていない。
5.本件商標が不正の目的で出願・登録されたものであるかについて
(1)乙第8号証である日刊工業新聞社発行「初級めっき」によれば、次の記述がある。
「電気めっきは、化学、物理、金属、電気、機械などの領域にまたがる技術であり、広い範囲の知識を必要とするが、基礎知識を土台にして実務経験を重ねることによって、技術を習得することができる。めっき工場では、公害防止管理者などの多くの資格や免許が必要である。とくに重要な資格は、a公害防止管理者 b毒物劇物取扱責任者 c危険物取扱者であり、いずれも国家試験である。めっき技術を認定する資格として、職業訓練法による「電気めっき技能士」の国家試験がある(乙第8号証の第2頁ないし第4頁)。
(2)また、乙第4号証の記述によれば、めっき工場において薬品を取り扱うに際しては、a薬品を確認すること bレッテルのないもの、あいまいなものは絶対に使わないこと、などを遵守する必要がある(乙第4号証第157頁ないし第160頁)。
(3)被請求人が提出する乙第2号証によれば、被請求人は昭和51年1月6日から昭和63年7月20日まで吉崎メッキに在職(乙第2号証の資料10参照)し、昭和59年7月21日に吉崎メッキの取締役に就任している(甲第279号証参照)。
(4)上述のとおり、被請求人はかって吉崎メッキに在職していたがその間に、次の資格の免状、免許の取得あるいは修了証の取得等をしている(乙第2号証)。
〔1〕特定化学物質等作業主任者技能講習終了
〔2〕危険物取扱者免除取得
〔3〕一般毒物劇物取扱者試験合格
〔4〕衛生管理者免許取得
〔5〕有機溶剤作業主任者技能講習終了
〔6〕水質関係公害防止管理者等研修終了
(5)請求人が提出した甲第272号証等に関して吉崎メッキの代表者である吉崎一紘氏より伺ったところによれば、あるいは被請求人の当時の記憶をたどれば次のとおりである(乙第2号証参照)。
(イ)甲第272号証ないし同第274号証について
「吉崎メッキ...(昭和47年)から請求人と技術的な協力関係にあった」旨、請求人は主張している。しかしながら、吉崎メッキと請求人との関係は、吉崎メッキが請求人が自称「レイデント液」と称していた薬液の提供をいっとき受けたことがあるに過ぎない。甲第272号証ないし同第274号証として提出された吉崎メッキのパンフレット中の“支援“の文言の実情は、上記のことを単に意味する程度に過ぎず請求人との間に特別な協力関係は存在していない。
(ロ)甲第275号証ないし同第277号証について
甲第275号証及び同第276号証は、吉崎メッキの注文書と思われる。この注文は、吉崎メッキの前社長吉崎周良が行い、現物の受け取りの際の立ち会いは当時の現場の責任者であった吉崎一紘氏(吉崎メッキの現在の代表者)が担当したものである。その際、1回目の納品は請求人が薬品をトラックで持参し吉崎メッキが用意した容器に移し替えることにより行った。通常、毒物劇物の譲受けを行う場合は、商品名、薬品名、数量を確認後「毒物劇物譲受書」に記名押印するが、請求人からはそのような譲受書の提示はなかった。また、上で述べた薬品納品時、請求人が「レイデント液」と自称し持参した薬品の容器には「商品名」「薬品名」「白地に赤字にて医薬品用外劇物の表示」「数量」「製造者の名称及び住所」「販売者の名称及び住所」「レイデント」の表示はなかった。「被請求人が...請求人の上記金属表面処理剤とその表面処理法に使用していた文字標章『レイデント』の存在を知らぬ筈はない」旨主張しているが、上述のとおり、当時の現場監督者であった吉崎一紘氏が知り得なかった事実(商標「レイデント」が付された商品の存在)を被請求人は知りうる立場にはなかったし、現に知らなかった。甲第277号証における元帳の日付は昭和55年1月6日、甲第275号証に示される注文書の日付は昭和48年10月15日、甲第276号証に示される注文書の日付は昭和52年3月23日となっている。吉崎メッキには甲第277号証の支払い内容を特定できる資料が残っておらず、何の支払いに関するものか不明である(日付の前後関係からして、甲第277号証の支払いが同第275号証、同第276号証のものとは考えにくい。)。
(ハ)甲第283号証について
甲第283号証によれば、1984(昭和59)年6月9日には吉崎メッキの総務部長として請求人提示に係る「基本契約書」に対し請求人に申入れを行ったことになっている。請求人はこの「基本契約書」をどうしたわけか証拠として提出していない。10年以上前のことで、被請求人はこの「基本契約書」の子細を記憶していないが、甲第283号証を見る限りでは、「基本契約書」では当時請求人が提供しようとしてした触媒の薬品名が確認できないため、それ等の確認を行うことによって薬品を取り扱う者としての責務を果たすために甲第283号証に示される申し入れを行ったものである(乙第7号証に示すように、請求人が提供するとするレイデントハイブラックL-SLの組成物は不明であり、被請求人等の要望をかなえる状況にはなかった)。請求人の主張するように、契約締結に難色を示したものでは断じてない。
(6)請求人は、「請求人は『冷電鍍工業』の時代から永く使用し続けてきた文字標章『レイデント』について、甲第271号証から明白なように、本件商標と全く同一の商品を指定して、商標登録出願をし、登録査定を受けたが、商標管理上の不手際により登録料の納付手続きを看過したため出願無効となった」旨述べている。請求人は商品については標章「レイデント」を使用しておらず、真に商標権を確保する必要がなかったため商標登録を得なかったものと推察される。この点、請求人は商標登録出願に関し、商標管理上の不手際により登録料の納付手続きを看過したため出願無効となった旨主張するが、甲第271号証を見る限りでは代理人弁理士を通じての出願であり、ましてや出願無効後に再度出願し商標登録を得られたことを考えると、「商標管理上の不手際により登録料の納付手続きを看過したため出願無効となった」との主張は常識的に通る話ではない。
二 弁駁に対する答弁
1.本件審判は平成9年10月7日付で請求され、その後、請求人は平成9年11月18日付で「審判請求理由補充書」を提出し、被請求人は「審判答弁書」及び「審判答弁書(第2回)」をそれぞれ提出し、平成1l年3月31日に庁において第1回口頭審理が開廷され、本件審判の争点整理が既に済まされている。そして、第1回口頭審理調書写し(乙第9号証)によれば、請求人は「平成9年11月18日付『審判請求理由補充書』第4頁で商標法第4条第1項第19号の主張は、同法第4条第1項第11号の主張の付随的主張ではなく、独立した主張である。」旨陳述している。
しかるところ、請求人は平成11年5月7日付で手続補正書を提出し、該手続補正書において、「審判請求理由補充書の「『請求の理由』」及び「『証拠方法』」中において、第4頁第19〜20行目に『改正商標法(平成8年法律第68号)第4条第1項第19号』とあるのを『商標法第4条第1項第7号』と補正する。」としている。
請求人は上記のとおり「請求の理由」を補正しているが、この補正は争点整理を済ませた第1回口頭審理後の補正であり、この補正を認めることは口頭審理における争点整理を無に帰するばかりでなく、被請求人の防禦にも重大な影響を与え、ひいては審理の遅延を招くこと必定であり、上記補正は認めるべきではない。請求人は、別途、無効審判を請求して争うべきである。
2.請求人の前記主張が認められるのであれば、これに対しては次のとおり反論する。
(1)請求人は弁駁書において、「問題は上記文字商標を考えていたか否かでなく、これが他人(請求人)の使用商標であることを知り乍ら密かに出願し、その商標登録を受けたことにある」旨主張するが、被請求人が件外先行登録商標を中核とし本件商標等を採用した経緯並びに被請求人の経歴、更に被請求人は吉崎メッキに勤務当時から将来の独立に備えて各種資格を取得する等地道な努力を重ね、その上で件外先行登録商標を出願し登録を得たこと等の詳細はすでに答弁したとおりである。また、請求人の上記主張によっても乙第2号証の1ないし25、乙第3号証の1ないし3の証拠価値はいささかも減殺されるものではない。
次に、商標権者は取得した登録商標を10年一律同じ態様で使用する場合もあるが、通例は、時代の要請によりまた商品を内包する容器のモデルチェンジ等に伴い登録商標の態様を多少なりとも変更して使用することが多いと思われる。この点、商標権者が自己の登録商標に類似する商標を使用する場合、専用権を確保する必要から、既に登録を得ている商標とは別に登録を得ることが肝要であり、平成9年4月30日までは連合商標登録制度を利用することにより専用権の確保が行われていた。請求人の主張は、連合商標制度が設けられた趣旨の理解不足に基づく主張である。
更に、本件商標と件外先行登録商標を当初吉崎メツキから出願した経緯は、代理人の状況把握が完全でないときに受任した出願であり、代理人の認識不足により出願人を誤った結果吉崎メツキを出願人として出願したものである。このため、出願後に代理人は出願人(吉崎メツキ)を説得し名義を本来の名義人である被請求人に変更した経緯がある。
(2)被請求人が吉崎メツキに在職中であった当時には勿論のこと、これよりもはるか以前の昭和47年から吉崎メツキは、請求人から特殊な金属表面処理法の技術的な指導・支援やそのための金属表面処理剤の供給を受け吉崎メツキの各種パンフレットに文字標章「レイデント」や「LAYDENT]を使用していたのであり、この事実を被請求人が知らなかった筈はないとの請求人の主張に対しては、乙第13号証の1に記載された吉崎−紘氏(株式会社吉崎メツキ化工所の代表取締役)の陳述内容並びに乙第13号証の2乃至乙第13号証の9の内容と同じであるので、これらの陳述内容を援用して被請求人の主張とする。
(3)甲第283号証,甲第286号証の文面は、被請求人が文字標章「レイデント」の意味・内容を承知していなければできないことであり、単に知っていた程度にとどまらず、その商標登録の有無に注意していたことは明白であり、その後被請求人の在職中にあった吉崎メッキと、請求人との相互間におけるレイデント基本契約が反古にされた結果となっているとの請求人の主張に対しては、乙第13号証の1に記載された吉崎−紘氏の陳述内容を援用して被請求人の主張とする。
(4)「請求人の出願に係り出願無効の処分がなされた商願平50‐81252号商標と件外登録商標は同一であり指定商品にも相違がない」と請求人は主張する。
件外先行登録商標の出願は、鈴江弁理士を代理人としての出願である。被請求人は、件外先行登録商標の出願の指定商品についての説明及び商標についての指示はしたが、出願内容の詳細(指定商品の具体名及び商標のロゴの特定)については代理人に任せたものである。ところで、はるさんが販売している商品はそれぞれ「光沢剤」「安定剤」として作用する金属材料の表面黒化並びに防鏡処理のための金属表面処理剤であり、「レイデント−D」は「硝酸10%含有」の成分組成からなり、また「レイデント−E」は「苛性ソーダ10%含有」の成分組成からなるものである(乙第14号証)。請求人の出願に係り出願無効の処分がなされた商願昭50−81252号における願書の指定商品の表示と件外先行登録商標の指定商品の表示に相違がないとしても、「金属材料の表面黒化並びに防鏡処理のための金属表面処理剤」という商品の中には多種多様な商品が存在する筈と思料する。
(5)被請求人が妻とともに設立したはるさんは、乙第2号証の25にあるように工業用薬品の販売を一目的として設立された法人であり、工業用薬品の販売を行なっている。請求人は「はるさんは未だこの種金属表面処理に必要な設備を有さず、その金属表面処理業を営んでもいない」旨主張するが、その主張の意図を被請求人は理解できない。被請求人は本件商標権及び件外先行登録商標権について、はるさんに通常使用権を許諾し(乙第10号証及び乙第11号証)、はるさんは「レイデント−D」「レイデントーE」の商標を付した工業用薬品を販売している(乙第14号証参照)。はるさんが販売している商品はそれぞれ「光沢剤」「安定剤」として作用する金属材料の表面黒化並びに防鏡処理のための金属表面処理剤であり、「レイデント−D」は「硝酸10%含有」の成分組成からなり、また「レイデントーE」は「苛性ソーダ10%含有」の成分組成からなる。したがって、「レイデント−D」、「レイデントーE」の商標を付した薬液は普通物であって「毒物及び劇物取締法」にいう毒物劇物ではない。すなわち、「レイデントーD」、「レイデント−E」の商標を付した薬液は設備がなければ使えないという商品ではない。しかして、はるさんが提供している「レイデント−D」「レイデント−E」の商標を付した薬液は、毒物劇物製造・販売業あるいは電気メッキ業の許可を受けた設備がなければ商品の製造や役務の提供を行なえない商品ではない。
(6)(イ)審判平6一9256号は不使用取消審判請求であり、不使用取消審判における争点は、商標権者、使用権者が取消に係る商品について予告登録前3年の間に登録商標を使用していたか否かの点にあり、「吉崎メツキと請求人とが商品の売買取引や技術協力関係にあったこと」については答弁する必要がないため応答しなかったに過ぎない。
(ロ)また、吉崎メツキと請求人会社との関係、甲第49号証、甲第272号証、甲第273号証、甲第274号証、甲第275号証、甲第276号証、甲第290号証、甲第291号証、甲第293号証、甲第294号証、甲第295号証、甲第296号証、甲第297号証、甲第298号証、甲第355号証等の証拠に関する被請求人の答弁の内容は、乙第13号証の1に記載された吉崎一紘氏の陳述内容と同じであるので、これらの陳述内容を援用して被請求人の主張とする。
(ハ)甲第292号は、吉崎周良氏の名刺は昭和48年3月頃に請求人会社の旧代表取締役−小川賢氏が所持するところとなった名刺と思われ、甲第47号証の「日刊工業新聞」の日付が昭和46年10月8日であることを勘案すると、甲第47号証と甲第292号証には時間的な隔たりがあり過ぎ、請求人の主張、「昭和46年10月8日付の『日刊工業新聞』(甲第47号証)を見るや甲第292号証の名刺を持参して請求人の旧代表取締役−小川賢氏に面会を求め、その金属表面処理剤(商品)の購入と、これによる金属表面処理上の技術的導入や支援を懇請されたのである」との請求人の主張は、不自然であり吉崎周良氏の名刺を悪用するものであって請求人のこの点に関する主張はにわかには信じ難い。
3.(1)甲第6号証ないし同第9号証、甲第300号証ないし同第313号証を精査してみても、同300号証より「大日表面工業桃山研究所」と「レイデント工業株式会社」との間の業務の承継関係は分かっても、「冷電鍍工業株式会社」と「レイデント工業株式会社」との間の業務の承継関係は依然不明のままである
(2)請求人は、金属表面処理法並びに金属表面処理剤に使用してきた商標は、片仮名の文字標章「レイデント」であり、請求人会社のパンフレットが過去に実際に配布されたことを主張している。
しかしながら、甲第7号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第303号証、甲第304号証、甲第309号証は、15年〜36年も前に配布されたとするパンフレットであり、甲第314号証乃至甲第324号証において、15年〜36年も前のことを証明者は一体何を根拠に証明したものなのか、証明の拠り所、証明者の当時の肩書き等一切明らかにされておらず全く証拠価値はないものと思料する。
更に、甲第325号証が仮に真正な取引書類だとしても具体的に何についての契約なのか不明であり、甲第326号証は真に相手に送られたものか不明である。また、甲第327号証ないし同第330号証、甲第332号証ないし同第334号証、甲第336号証は日付より昭和42、43、44年、54年頃の書類と思われるが、仮に真正な取引書類だとしても、試験片の作成の依頼があったこと、見積の依頼があったこと、請求人会社が提供していたとする皮膜処理について他社が質問していることを示す書類に過ぎない。甲第331号証、甲第335号証は取引先名簿とのことであるが真に相手に送られたものか不明である。
(3)(イ)商標審査基準によれば、商標法第4条第1項第10号に規定する「需要者の間に広く認識されている商標」の周知性の認定に当たっては、実際に使用し周知になっているとする商標の特定が必要不可欠の筈である。この点に関し、今仮に、各種パンフレットや会社案内等が顧客などに真に配布されていたとしても、請求人の主張に係る商標の使用態様は一様ではなく(請求人が金属表面処理業並びに金属表面処理剤に使用してきたとする片仮名横書きの文字商標の使用態様ですら一様ではない。ちなみに、アルファベットの使用態様も一様ではない)、又どの使用態様の商標を中核とするものなのかさえ特定できていない状況にある。この点、請求人自身、使用に係る商標「レイデント」の書体は一定ではない旨自白している。
(ロ)請求人は、「商標法第4条第1項第10号の規定には類似の商標も含まれている処、上記文字標章『レイデント』の字体に若干の相違変化があるとしても、本件登録商標と類似の外観構成と同一の称呼並びに観念を有することに変りはなく、全体として本件登録商標に類似する商標であると言えるからである」旨を主張している。しかしながら、前記第10号は、出願に係る商標(本件商標)が他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標またはこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務またはこれらに類似する商品もしくは役務について使用するものである場合には商標登録を受けることができないと規定するものである。してみると、周知商標の特定が必要不可欠の筈であり、請求人の主張は失当である。
(ハ)当時の金属表面処理業者としては、請求人がその規模の大きさとユーザー層の広さが際立っており、請求人は金属表面処理剤(薬品)を同業者(金属表面処理業者)へ販売することを行なっていたと請求人は主張する。
しかし、甲第306、310号証は実際に配布されたか不明であり、甲第326、331、335号証は前述の如く真に相手に送られたものか不明である。また、甲第341号証は請求人会社が昭和40年9月17日に台風による自然災害を受けたことを窺わせるだけであり、甲第342号証は御見積書、甲第343号は請求人と本件外日本プラント(株)との間で何らかの売買契約が締結されたことを窺わせるに過ぎない。
更に、甲第348号証は請求人会社の人間と覚しき者の名刺写し、甲第360号証は請求人の取引会社の者と思われる名刺写しにしか過ぎない。甲第349号証は真に株式会社帝国データバンク作成に係る書類なのか、この文書からは判断不能である。甲第352号証は本件外株式会社東大阪レイデント工業所が請求人のフランチャイジーであることを示す証明書であるが、この甲第352号証No.4には「業種 塗装」との記載があり、この記載よりすると、株式会社東大阪レイデント工業所は劇物毒物である「金属表面処理剤(薬品)」を販売したり、劇物毒物である「金属表面処理剤(薬品)」を使用してめっき業を営むことはできない筈である。甲第354号証は本件外金属化研工業株式会社より冷凍機、クーリングタワーの注文があったことを窺わせるものではあるが、請求人は真に受注したかは不明である。甲第355号証は昭和52年12月1日に締結されたと覚しき契約書写し、甲第356号証は甲第355号証の契約当事者である山崎隆氏の注文書写しと思われるが、これらの文書を見ても継続的な取引関係が実際にあったことを窺い知ることはできない。甲第358証は本件外五社タイル直売センターより調合する必要のあるレイデント液の注文を受けたことを窺わせる注文書写しであるが、請求人が真に受注したかは不明である。甲第361号証は「金属表面処理剤製造用触媒」及び「その触媒の利用技術」等についての契約書(写)しと覚しき文書であるが、真正に成立した文書であるとしても、その取引状況については甲第362号証の域を出ない。また甲第363号証のうち御註文請書の日付は被請求人に送達された書類を見る限りでは確認できない。甲第365号証は真に配布されたか不明であり、この甲第365号証を見ても株式会社東大阪レイデント工業所、有限会社神戸レイデントがどうしたわけかレイデントグルーブに加えられていない。
(ニ)乙第16号証として提出する民間の調査会社である帝国データバンクの企業情報(調査時点が1998年のもの)によると、請求人会社は、1998年に至っても従業員が14人、売上高順位は全国同業者513社中359位、京都府における同業者9社中7位の程度の法人である。してみると、甲第356、358、362、363号証には請求人が金属表面処理剤(薬品)を販売したことが示されているとしても、これらの証拠から請求人会社は金属表面処理業者として、その規模の大きさとユーザー層の広さが際立っていたとする請求人の主張には到底首肯できない。
1.請求人が提出した甲各号証によると、以下の事実を認めることができる。
(1)請求人は、本件商標及び件外先行登録商標の登録出願日より前から、片仮名文字よりなる標章「レイデント」(以下「引用標章」という。)を、自社の開発した黒色金属表面処理剤及びこの処理剤を用いて行う黒色防錆薄膜処理法という金属表面処理法(以下「黒色金属表面処理」という。)に使用してきた(甲第8号証、同第47号証、同第52号証、同第64号証、同第67号証及び同第68号証、同第300号証及び同第301号証、同第303号証ないし同第306号証、同第309号証、同第326号証、同第340号証及び同第341号証、同第361号証、同第361号証)。
そして、前記証拠中において、引用標章を冠した「レイデント液」「レイデント処理液」「レイデント処理触媒液」等の表示が使用されているが、これら表示中の「液」「処理液」「処理触媒液」は、いずれも上記黒色金属表面処理剤を指すものと認められる。また、上記「黒色金属表面処理」については、これと同一又は同種の表面処理を表す語として、他に「金属材料の表面黒化」「黒色皮膜処理」「超薄膜黒色法」等の表示が使用され、さらに、引用標章を冠した「レイデント処理(法)」「レイデントメッキ」「レイデント加工」等の表示が使用されているが、これら表示中の「処理(法)」「メッキ」「加工」等も、黒色金属表面処理を指すものと認められる。
なお、上記「黒色金属表面処理剤(商品)」と「黒色金属表面処理(役務)」とは、その処理工程上密接な関係にあるものといえるから、以下において、これらを併せて「黒色金属表面処理等」という場合がある。
(2)黒色金属表面処理等は、引用標章を冠し「レイデント処理」や「レイデント加工」と称していることが多いが、この黒色金属表面処理等に関する取引は、多くが近畿地方の企業を相手として行われていたほか、東京や名古屋等の企業との間においても行われていた(甲第92号証ないし同第270号証、甲第327号証ないし同第330号証、同第332号証及び同第333号証、同第336号証ないし同第339号証、同第356号証、同第358号証)。
また、引用標章を用いた黒色金属表面処理等の広告宣伝は、これに関する正確な費用・回数・地域等が明確ではないものの、昭和46年10月、同59年11月から同60年9月にかけて、新聞や雑誌などにおいて行われており(甲第47号証、同第52号証、同第63号証)、さらに、日刊工業新聞紙上において「レイデント工業株式会社は、自社開発でクロムメッキ法の十倍以上の防錆力をもつ金属表面加工技術・黒色防錆薄膜処理法(レイデント処理法)の自動化ラインを完成した」、「吉崎メッキが『レイデント』処理の受注獲得に本腰をいれる方針」、「黒色防錆薄膜処理法=レイデント処理法が半導体の分野で注目され、引き合いが活発化している」旨の記事が掲載され(甲第47号証ないし同第51号証)、日本工業技術新聞紙上においても「半導体分野で脚光 防錆薄膜処理法『レイデント処理法』ーレイデント工業」、「レイデント工業の開発した画期的な表面処理法である黒色防錆薄膜処理法『レイデント処理法』がクローズアップされてきており関係ユーザーに大きな注目を集めている」旨の記事が掲載されている(甲第52号証ないし同第54号証)。
(3)請求人と件外吉崎メッキは同業者であり、昭和59年5月ないし6月当時、両者の間には、「レイデント処理」の契約に関する書簡のやりとりがあり、この時の吉崎メッキ側の書簡発信人名が同社総務部長吉崎晴好であること(甲第282号証ないし同第283号証)、吉崎メッキのパンフレット(表題「金属表面処理新技術 LAYDENT レイデント」)において、「本技術は昭和47年より京都のレイデント工業(株)の支援を得まして研究を続けて参りました」旨の説明があること(甲第273号ないし同第274号証証)、さらに、被請求人は、答弁書で「1回目の納品はレイデント工業が薬品をトラックで持参し、吉崎メッキが用意した容器に移し替えることことによりおこなった」旨答弁していることが、それぞれ認められる。
(4)請求人は、昭和50年6月20日に、第1類「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を指定商品として、片仮名文字「レイデント」からなる商標について登録出願をした(商願商50−81252)。該出願は、出願公告されたが、最終的には出願無効処分(昭和55年5月9日)がなされた(甲第271号証)。
一方、被請求人は、上記出願の無効処分後の昭和60年12月18日に、片仮名文字「レイデント」からなり、かつ、前記出願とその書体もほぼ同一の商標を、指定商品の範囲及び表示も全く同一として出願し、件外先行登録商標の商標登録を得た(甲第1号証)。そして、本件商標は、「レイデント」の文字を構成要素とし「レイデント」の称呼を生じるものであり、かつ、前記商品を指定商品中に包含してなるものである。
さらに、本件商標は、件外先行登録商標の連合商標として出願されたものである。また、本件商標及び件外先行登録商標ともに、吉崎メッキが出願し、その後被請求人に名義を変更したものである。
2.以上の事実を踏まえ、さらに、本件商標と引用標章について検討する。
(1)請求人及び吉崎メッキ以外の「レイデント」の使用者をみると、その多くが請求人との間での黒色金属表面処理等の取引先企業であって、各種の取引書類(注文書、加工依頼書、納品書等)において「レイデント」を使用していたことが認められるけれども、「レイデント」が同業他社の間で広く使用されたという事実は見出せない。また、「レイデント」が金属表面処理剤あるいは金属表面処理法についての一般名称や品質・質・加工方法等を表すものであるとする証左もない。
そして、上記取引書類や広告宣伝、新聞記事等においては、例えば、「レイデント処理」「レイデント加工」「レイデント処理(法)」「レイデントメッキ」「レイデントトソウ」「レイデント・ハイブラック」「レイデントLSL」にみられるように、「レイデント」に他の文字が付加されているものも少なくない。しかし、ある商標に他の一定の文字(商品の普通名称、品質・材料・加工方法等の表示)を付加して使用することは、商標使用の際の一般的な実情といえるから、これに照らせば、上記使用例はいずれも「レイデント」の文字部分を要部とする商標の使用というべきである。また、書体等の表示態様(手書きを含む。)が相違するものもあるが、これらは、社会通念上で同一のものとみて差し支えない程度の差異である。
そうとすれば、請求人の引用標章「レイデント」は、本件商標の出願以前に請求人が命名した造語というべきものであり、その使用に係る黒色金属表面処理剤あるいは黒色金属表面処理について、自他商品・役務の識別標識としての機能を果たしていた請求人の商標というべきである。
この点に関して、被請求人は、「上記各種取引書類(注文書、加工依頼書、納品書等)は、請求人の相手先より真正な取引書類であったとの証明がない」旨主張しているが、当該取引書類は、それぞれの記載内容・様式・取引相手等からして、真正に成立したものの写しと認められるから、上記主張は採用することができない。
また、被請求人は、「引用標章を使用した実際の商品の販売形態(例えば、いかなる容器にどのような商標を付して定価をいくらとして販売しているのか)を示す証拠は一つも提出されていない」旨主張している。しかしながら、実際の商品の販売を示す直接的な証拠の提出がなくても、標章の使用について規定する商標法第2条第3項の「商品又は役務に関する広告、・・・に標章を付して展示し、又は頒布する行為」に該当する証拠の提出があり、これにより使用の事実を認められることから、被請求人の主張は採用することができない。
(2)件外先行登録商標は、上記1.(4)のとおり、請求人が先に出願し出願公告された商標「レイデント」とその構成・態様が同一であるばかりか、指定商品の範囲及び表示も全く同一のものであること、「レイデント」が請求人の造語と認められることを勘案すると、被請求人の採択に係る件外先行登録商標がこれと偶然に一致したものとは認め難い。
そして、本件商標は、この被請求人の件外先行登録商標の指定商品を包含し、商標の構成中に「レイデント」の文字を有してなり、件外先行登録商標と商品の出所を表示する機能を同一にする商標というべきものである。
さらに、上記のとおり、黒色金属表面処理等に関して、被請求人が在職していた吉崎メッキと請求人との間で、件外先行登録商標の出願前に一定の取引があったと推認されること、当時、請求人宛に吉崎メッキの総務部長(吉崎晴好)の名で「レイデント基本契約」に関する書簡を送付したことを併せみると、被請求人(吉崎晴好)及び吉崎メッキは、件外先行登録商標の出願前において、被請求人自らが、あるいはその関係者を通じて、引用標章ないし請求人の出願に係る商標やその指定商品を知っており、その上で、被請求人の名義をもって件外先行登録商標の出願の名義を取得して商標登録を得、さらに本件商標の商標登録を取得したものと認めざるを得ない。
この点に関して、被請求人は、「レイデント」と命名した事情として、昭和44年12月頃にクロム廃液の電気分解処理実験をしていたとき、実験に使用していた鉄の陰極が茶色に変色し、この「茶色をした薄い緻密なめっき層」の英訳が「Layer Density Obtained from a Dun Tone Film」であり、「電気めっき」のことを「電鍍」(デント)ということを勘案し、前記英訳の頭文字の一部を採り、語呂もよいため「Laydent」「レイデント」とし、密かに心に暖めていたものであって、独立に備え、件外先行登録商標「レイデント」を取得した旨主張し証拠を提出している。
しかしながら、被請求人提出の証拠を検討するに、いずれも被請求人本人の作成に係る実験手続書及びメモと認められるものであり、証拠の客観性の点で疑義なしとしないばかりでなく、それらの作成年月と思われる日付(「昭和44年7月」や「1971年2月」)が記載されているが、それらの日付以前から黒色金属表面処理について「レイデント加工」、「レイデントメッキ」等が既に請求人により使用されていたことが認められるから、結局これらの証拠をもって上記判断を左右するに足りるものとはいえず、他に上記判断を左右するに足りる証左はない。
3.上記1.及び2.を総合すると、引用標章が商標法第4条第1項第10号のいわゆる「未登録周知商標」に該当するか否かについてはおくとして、引用標章は、件外先行登録商標の出願前(本件商標の出願前である。)から、請求人の開発した黒色金属表面処理剤及びその処理剤を用いる黒色金属表面処理について継続的に使用され、件外先行登録商標の出願日の前、そして、本件商標の出願時には既に、取引上一定の信用や顧客吸引力が形成(化体)されていたものというべきである。さらに、被請求人は、前記1.(3)における吉崎氏と同一人と認められるから、前記出願日の前において、その取引に関与したことのある当業者として、かかる引用標章の状況について知り得る立場にあったというべきである。
しかして、被請求人が、請求人の開発した黒色金属表面処理剤、又はこの処理剤を用いる黒色金属表面処理と密接な関係にあると認められる「金属材料の表面黒化並びに防銹処理のための金属表面処理剤、その他の化学剤」を含み、これと関連のある商品を指定商品として、引用標章と同じ片仮名文字をその構成中に有しかつ称呼を同一にする本件商標を出願して商標登録を得たことは、先行件外登録商標についてと同様、上記引用標章に形成(化体)された信用や顧客吸引力を利用し、あるいは希釈化させるなどの不正競争の目的があったものといわざるを得ず、その行為は、信義則に反するとともに公正な商取引秩序を乱すおそれがあるといわざるを得ないものである。
4.被請求人は、請求人会社とその前身である「大日表面工業」、「冷電鍍工業」の業務の承継関係が依然不明である旨主張している。しかしながら、詳細な業務内容の承継関係を示す証拠の提出がないとしても、請求人提出の他の甲各号証から、請求人会社は、昭和39年12月17日に設立登記され、その後、本件商標が出願されるまでに、上記1.のとおり、黒色金属表面処理等に関する事業活動や引用標章の使用実績が認められることから、被請求人の上記主張は理由がない。
被請求人のその余の主張及び証拠も、上記認定・判断に影響を及ぼすものとは認められない。
してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたというべきものである。
なお、被請求人は、前記条項の請求人の主張について、口頭審理後になされた新たな理由の追加であって審理を遅延させるものであるから、新たに審判請求をすべきであるという。しかし、請求の理由の全体に照らし、かつその後の条項の訂正を併せみても、当該主張の理由が請求時の理由において主張されたものと全く別異の新たな理由を実質的に追加したものとはいえないから、当該理由について審理して差し支えがないものである。
5.したがって、請求人主張のその余の理由について判断するまでもなく、本件商標は、前記の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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