結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 平成11年審判第35238号 |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第4103951号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、平成6年4月12日登録出願、第30類「天ぷら粉その他の食用粉類」を指定商品として、平成10年1月16日に設定登録されたものである。
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判の費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第19号証を提出した。
(1)請求人の製造販売する天ぷら粉「揚げ上手」の周知性
(ア)請求人は、明治10年、創業者鳥越彦三郎が米穀の取扱を開始したことに由来する老舗である。
請求人は、福岡県浮羽郡に本店(登記上)を有し、小麦粉及びライ麦粉の製粉(ライ麦粉の製粉を行ったのは請求人が日本で初めてである)、プレミックス、製菓・製パン改良剤、フィリング材、食品改良剤、冷凍食品、押麦、圧ぺん飼料の製造(一部輸入)を行っており、本社を福岡に、研究所を吉井、福岡、東京に、営業所を鹿児島、福岡、広島、大阪、東京、仙台に、工場を吉井、久留米、福岡、広島、大阪、東京に、有しており、売上高は1996年12月終了の年度で185億7400万円である(甲第1号証)。
(イ)請求人は、昭和63年9月、請求人の製造に係る、米粉50%入り、国内産小麦使用の天ぷら粉(1kg袋入り)を「揚げ上手」の商標の下に販売を開始した(甲第2号証及び甲第3号証)。
(ウ)請求人は、「揚げ上手」の天ぷら粉を、昭和63年から、全国農業協同組合連合会(「全農」)から指定を受けて、各都道府県経済農業協同組合連合会(「経済連」)に納入しており、今日に至る迄引き続き、各都道府県経済連においては、加盟農業協同組合(「農協」)及び組合員に直接ダイレクトメールで、又は、各都道府県農協の経営するAコープの店舗を通じて、農協加盟組合員その他一般顧客に対して、「揚げ上手」が販売されている。
「揚げ上手」は、国産米50%及び国産小麦を使用した天ぷら粉であり、わが国の農業振興にも貢献している。
したがって、各経済連、農協及びAコープの店舗においては、積極的に組合員等に「揚げ上手」の購入を斡旋した(甲第4号証ないし甲第13号証)。
「揚げ上手」は、昭和63年から本件商標の登録出願された年である平成6年迄、全国の各都道府県の経済連並びに各地の生協及びAコープ、小売店において、甲第14号証の数量販売された。売上数量はkg単位であるから、「揚げ上手」1kg袋が売上数量の数だけ販売されたことになる。
甲第14号証において、「その他全農」とあるのは、請求人が同業他社(日本製粉、富士製粉、星野物産、熊本製粉)に販売し、当該同業他社が各都道府県経済連(北海道、中部、関東及び東北、南九州及び沖縄)に販売しているものを意味する。
すなわち、請求人の天ぷら粉「揚げ上手」は、昭和63年以降、全国の都道府県の経済連加盟の農協の組合員に対して及びAコープの店舗において、販売されている。
農協の組合員は非常に多数に昇る。甲第9号証の示すように、人口の少い山口県においてすら、正・准組合員戸数は145,124戸であり、人数にすれば、この2倍を下回らない。
したがって、請求人の天ぷら粉「揚げ上手」を購入販売した上記経済連傘下農協の加盟員はゆうに数百万人にのぼるものであり、かかる多数の人に請求人の「揚げ上手」のパンフレットや購入申込書(甲第4号証及び甲第6号証)が配布され、各経済連傘下農協から購入が促進されたのである(甲第4号証ないし甲第13号証)。
また、甲第14号証の示す、請求人が天ぷら粉「揚げ上手」を昭和63年から販売している生協や小売店は、国分(株)近畿第一支社(大阪)大阪いずみ市民生協、(株)風見(千葉)千葉生協等である。
(エ)上記のことから明らかなように、請求人が請求人の製造販売する天ぷら粉に使用する商標「揚げ上手」は、本件商標の登録出願された平成6年に先立ち遅くとも平成2年末には既にわが国において極めて広範囲にわたり周知であった。
(2)本件商標は、被請求人において、「揚げ上手」が請求人がその製造販売する天ぷら粉に使用している商標であり、かつ周知であることを知りながら、登録出願をし、登録したものである。
被請求人は、わが国における大手の製粉業者である。
被請求人は、平成6年頃本件商標中の要部「揚げ上手」を使用して、天ぷら粉の製造販売を開始し、平成6年2月全農福岡支所に販売のため商談に行った際、既に請求人が「揚げ上手」の商標で天ぷら粉を製造販売し広く販売されているから取り扱えない旨、同支所に申し渡された。
そこで、被請求人は、全農福岡支所から取り扱わない旨申し渡された直ぐ後、平成6年3月、請求人を訪ね、「鳥越さんが『揚げ上手』という名前で天ぷら粉を売っているのを知らなかった。申し訳なかった」と詫びた。
したがって、既に平成6年3月に、被請求人は、請求人が「揚げ上手」の商標の下に天ぷら粉を製造販売している事、「揚げ上手」が請求人がその製造販売する天ぷら粉に使用する商標として周知である事、を知っていた(甲第15号証)。にもかかわらず、被請求人は、本件商標を平成7年に登録出願し、登録を得、かつ、「揚げ上手」を付した商品の製造販売を継続しており(甲第16号証及び甲第17号証)、テレビ広告までしている。
なお、上記のことから明らかなように、請求人は、被請求人に対し、被請求人の製造する天ぷら粉に「揚げ上手」を使用することに同意したこともなく、商標登録に同意したこともない(甲第15号証)。
(3)本件商標と請求人の周知商標「揚げ上手」とは類似する。
本件商標は、「日清製粉」及び「揚げ上手」を上下2段に間を置いて配してなり、「天ぷら粉その他の食用粉類」を指定商品とするものである。
被請求人は、甲第16号証の態様の本件商標に類似する標章を袋にプリントして、天ぷら粉を販売している。
本件商標において、「日清製粉」も「揚げ上手」も本件商標の構成上明確に区別でるものであり、「揚げ上手」は、本件商標の要部をなすものである。現に、甲第17号証の示すように、被請求人の天ぷら粉も「揚げ上手」(「アゲジョウズ」)として識別され、販売されている。
そして、該要部「揚げ上手」は、請求人の周知商標「揚げ上手」と称呼観念において同じであり、外観においても類似するから、本件商標は請求人の周知商標「揚げ上手」と類似する。
(4)本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。
本件商標は、指定商品を「天ぷら粉その他の食用粉類」とし、「揚げ上手」を要部とするものであるが、「揚げ上手」が請求人がその製造販売する天ぷら粉に使用する周知な商標であることを知って、被請求人が登録出願し登録したものである。
被請求人は、請求人と全く同じ製粉業界に属する企業であり、しかも、最大手の企業であり、由緒ある業界のリーディングカンパニーであり、健全な業界の秩序を率先して維持確立すべき立場にある会社である。
かかる業界のリーディングカンパニーである被請求人が、「揚げ上手」が同業他社である請求人が既に同一の商品である天ぷら粉に使用しており、周知の商標であることを知りながら、「揚げ上手」を要部とする本件商標を「天ぷら粉その他の食用粉類」を指定商品として登録出願し登録したことは,健全な業界の秩序に反し、信義に著しく反する行為であり、本件商標を付した商品は、請求人が先に使用を開始し企業努力をもって周知させた「揚げ上手」を付した請求人の商品と出所についての誤認混同を生じさせるものであって、これを被請求人が使用することが商標法が擁護しようとする健全な取引の秩序を害することになるものであるから、かかる本件商標は、公序良俗に反するものである。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当するから、本件商標の登録は無効とすべきものである。
(5)本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
上述のごとく、「揚げ上手」は、請求人がその製造販売に係る天ぷら粉に使用する商標として、本件商標の登録出願に先立つ遅くとも平成2年末には周知であった。
本件商標は、「揚げ上手」をその要部とし、請求人の周知商標「揚げ上手」と類似する。
本件商標の指定商品は「天ぷら粉その他の食用粉類」であり、周知商標「揚げ上手」を使用する請求人の商品である「天ぷら粉」と同一、類似である。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当するから、本件商標の登録は無効とすべきものである。
(1)同業他社が既に天ぷら粉という商品に広く使用している「揚げ上手」という標章を、これを知りながら、敢えてこれを商標として登録出願し、登録をし、天ぷら粉及び食用粉類という同一及び類似の商品に使用することは、「公正な取引の秩序」を害する以外の何ものでもなく、本件商標の被請求人による使用が公序良俗に反することは明白である。また、被請求人によるかかる本件商標の登録出願、登録、使用が「取引の信義」に反することも明白であって、被請求人の主張に理由が無いこと明白である。
また、乙第13号証は、信用性がなく、被請求人の主張は理由がない。
本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することは明白である。
(2)請求人の「揚げ上手」天ぷら粉は、各地の経済連・Aコープ、生協、小売店において取引され、農協の組合員(消費者である)及び一般消費者に販売されたものである。かかる店舗の数及び組合員の数は多数に上るものである。そして、かかる商品情報は、現実の取引の有無に拘わらず、また、現実の購入の有無に拘わらず、取引者及び需要者の間に流布されるものであり、特に、現実の取引の有無に拘わらず取引者の間に流布されるものであり、売上数量の多い少ないということが周知性の有無の唯一の尺度であるわけではない。
請求人の天ぷら粉は「揚げ上手」として認識され広く流布していたものである。少なくとも、取引者又は需要者の半分程度の者には認識されていたものである。
よって、「揚げ上手」が商標法第4条第1項第10号の「広く認識された」商標であることは明らかであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(1)商標法第4条第1項第7号の公序良俗を害するおそれのある商標には、商標自体が矯激、卑猥、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるように文字又は図形のみならず、商標自体がそのようなものでなくてもこれを指定商品に商標として使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような商標も含まれる。そして、近時、審決例、裁判例において公序良俗の範囲を広く解釈する傾向がある。
(ア)他人の商標を冒用する商標は公序良俗に反する
他人の採択した商標を先回りして登録出願する行為は、公正な取引秩序を乱すものであり、条理上許されるべきものではない。したがって、かかる商標は公序良俗に反する商標として排除されなければならない。
(イ)この場合、他人の採択した商標は周知であることを要しない。また、かかる他人の採択した商標は被請求人のいう外国剽窃行為にかかる商標であることを要しない。したがって、被請求人主張(請求人の商標「揚げ上手」が商標法第4条第1項第10号と同じ程度に周知であることを要するとの主張、外国剽窃行為に限られるとの主張)は誤りであり、理由がない。
(ウ)上記(ア)及び(イ)は、以下の判決例及び審決例から明らかである。
(a)母衣旗(ほろはた)事件判決(東京高裁平成10年(行ケ)第18号審決取消請求事件、平成11年11月29日言渡)、「母衣旗」の名称を町おこしに商標として使用されることを知って、「母衣旗」を冒用登録出願して登録した事件。
かかる冒用登録出願に係る登録商標は公正な競争秩序を害するものであり、公序良俗に反すると判断。
なお、「他人の採択した商標」である「母衣旗」について、周知性は法4条1項7号適用の要件とされていない。
(b)「DUCERAM」事件判決(東京高裁平成10年(行ケ)第185号審決取消請求事件、平成11年12月22日言渡)、日本の貿易会社が外国の歯科医材料メーカーの日本進出を予想し、同社の商標「DUCERAM」を冒用登録出願して登録した事件。かかる冒用登録出願に係る登録商標は公正な取引秩序を乱し、国際信義に反し公の秩序を害すると判断。
なお、「他人の採択した商標」である「DUCERAM」について、周知性は商標法第法4条第1項第7号適用の要件とされていない。
(c)「昭和大仏」事件(昭和60年審判第18883号、平成4年3月5日審決)、青森県に建立された昭和大仏の名称を冒用して登録出願して登録した事件。かかる冒用登録出願行為は社会の一般的道徳観念に反し、公の秩序を害するおそれがあると判断。
(エ)上記判決例からも明らかなように、他人の商標の冒用行為により登録出願して登録された商標は公序良俗に反する。そして、かかる「他人の採択した商標」は周知であることを要しない。いわんや、かかる冒用行為は被請求人のいう海外剽窃行為に該当するものであることを要しない。
(2)本件商標は、冒用登録出願に係る商標であり、公正な競争秩序に反するものであり、商標法第4条第1項第7号に該当する。
被請求人の本件商標を登録出願した行為は冒用行為であり、本件商標はかかる冒用登録出願にかかる商標であり、公正な競争秩序を害するものである。
(3)被請求人は「揚げ上手」は被請求人のオリジナリティーに係る商標であると主張するが、かかる主張は証拠の裏付けを欠く。単なる商標調査と創作とは別である。
さらに、そもそも、商標法第4条第1項第7号の適用の関係で意味があるのは冒用の有無であって、オリジナリティーの有無ではない。被請求人の主張は、主張自体失当であり、 かつ、証拠の裏付けを欠く。
被請求人は、結論同旨の審決を求める、と答弁し、その理由及び請求人の第1回弁駁に対する答弁を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第32号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当しない。
請求人は、被請求人による本件商標の登録出願は、健全な業界の秩序に反し、信義に著しく反する行為で、公序良俗に反するものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張するものである。
しかしながら、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」とは、商標を構成する文字、図形自体が、矯激、卑隈、若しくは他人に不快な印象を与えるような場合、或はその商標を指定商品について使用することが社会公共の利益、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合等をいうものと解されている(乙第1号証)。
しかして、本件商標は、それを構成する文字、図形自体が、矯激、卑隈、若しくは他人に不快な印象を与えるものでないことは、その構成から一見して明確なところである。
また、本件商標を指定商品たる「天ぷら粉」に使用することは、何ら社会公共の利益、又は社会の一般的道徳観念に反するものでもない。
請求人の主張は、主張自体からして失当なこと明らかなものであるが、念の為に、被請求人による本件商標のネーミング調査、登録出願、登録並びに使用に至るまでの経緯を述べれば次のとおりである。
(ア)被請求人による「揚げ上手」のネーミング
被請求人は、昭和50年頃より、から揚げ粉を発売して(乙第2号証の1、2)、ヒット商品になっているものであるが、天ぷら粉、から揚げ粉、パン粉等は、揚げ物関連の商品として被請求人が力を入れている商品群である。
「揚げ上手」は、被請求人によって昭和58年頃から、揚げた時の仕上がりの良さや、揚げ易さを示す表現として、これら商品群のストック商標として採択されていたものである(乙第3号証の2)。
(イ)「揚げ上手」の調査
被請求人の商標調査件数は多数に上がっており(平成9年実績で640件)、これら調査の依頼及び回答(乙第4号証の1、2)は、後日商標問題が発生した場合の基礎資料として、又類似商標の調査があった場合の参照資料として10年を目処に保管している。そして、これら保管資料を参照するための索引として、商標調査リスト(乙第3号証の1)が作成されている。
同調査リストによれば「揚げ上手」は乙第3号証の2ないし乙第3号証の4のとおり、過去三回調査している。
(ウ)「揚げ上手」との文字のみについての商標としての登録性
被請求人は、平成1年4月21日の「揚げ上手」の商標調査後、同年6月14日に、「揚げ上手」との文字のみからなる構成の商標について、指定商品を旧第32類として登録出願を行った(乙第5号証)。
しかしながら、この登録出願については、平成3年2月12日付にて拒絶理由通知を受け、同年5月24日付で拒絶査定になった(乙第5号証)。
すなわち、「揚げ上手」の文字のみからなる商標には、出所識別能力はないとの判断が特許庁から被請求人に対して明示されたのである。
ちなみに、乙第6号証ないし乙第10号証等についても、いずれも商標法第3条(顕著性を欠くという理由)で拒絶されている。
以上のような被請求人自らの「揚げ上手」登録出願についての審査経過、他の拒絶事例等の示すとおり、「揚げ上手」の文字からなる構成については、単に商品の品質・製法を表示する「キャッチフレーズ」の如きものであって、出所識別能力を欠くものであり、何人も登録して独占することはできず、したがって、誰でもが使用できるものであるという明確な判断が特許庁によって示されているのであり、したがって、そのようなものとして、当然のことながら、被請求人も理解したものである。
(エ)本件商標の登録
「揚げ上手」の文字のみからなる商標は、上記のとおり商標法第3条第1項第6号で拒絶され、登録することは不可能であるが、被請求人は「揚げ上手」との文字を記載する自己の商品の具体的な商標の構成について商標権を取得しておくことは当然の商標管理であるところから、平成6年4月12日には、出所表示機能を有する著名な社標である「日清製粉」の「社標」と「揚げ上手」を結合してなる商標として乙第11号証の商標(本件商標)を、平成7年6月2日には著名な「社標」と「揚げ上手」、「コツのいらない天ぷら粉」、図形の表示された包装袋の全形よりなる商標(乙第12号証)を夫々登録出願し、いずれについても出所識別能力が認められて前者は本件商標、後者は登録第4096000号を以て夫々登録されるに至った。
(オ)本件商標の使用の経過及び本件商標を使用した商品の販売実績
本件商標を使用した「天ぷら粉」の販売開始直後の平成6年2月25日に、全農の福岡支所に商談に行った際に、請求人が「揚げ上手」の文字を記載した包装袋で天ぷら粉を販売している、との情報が入った。請求人の商品は「パリッと天ぷら揚げ上手」というものであった。そこで、会社内で検討すると共に弁護士とも相談したところ、「揚げ上手」の文字自体には商標としての顕著性はないという判断が特許庁から既に示されて被請求人の登録出願が拒絶されており、他社にも登録は認められていないので、商標法上の問題はないが、不正競争防止法の問題が起こり得るのかどうかの観点から、請求人の販売状況については、事実調査を行っておくのが良く、いずれにしても早急に請求人に被請求人の見解についての事情説明をした方が良いのではないかとのアドバイスを得た。そこで同年3月8日、全農の福岡支所と、請求人を訪問して、請求人が「揚げ上手」の文字を記載した包装袋で天ぷら粉を販売していたことは全く知らなかったこと、しかし「揚げ上手」との文字自体は商標としての出所識別力を有さない語であることを被請求人は特許庁の審査で確認していること、等の事情を説明したところ、「揚げ上手」の使用について理解を得たのである(乙第13号証)。
そこで被請求人は「揚げ上手」を使用した商品の販売を継続すると共に、今後商標をトラブルなく使用する目的で、上記のとおり本件商標(乙第11号証)と包装袋全形の乙第12号証の商標を登録出願したものである。
本件商標を使用した天ぷら粉は、テレビ等による宣伝広告と、商品の品質の評価、料理の簡便性等の理由により、平成6年2月の販売以降売上が好調で、現在シェアトップのヒット商品となっている(乙第14号証の1〜3)。
その市場占有率は、平成6年が7.8%、平成7年が18.6%、平成8年が21.3%、平成9年が22.6%と、順調に伸びている。ちなみに請求人のシェアは、平成8年が0.1%、平成9年が0.2%である(乙第15号証の1、2)。
以上、本件商標の登録及び使用に至るまでの経緯に記載のとおり、「揚げ上手」とのネーミングは被請求人が独自に創作したものであり、乙第3号証の2に示す通り、昭和58年4月19日に最初の商標調査を行っている。この調査時点は、請求人が主張する「揚げ上手」の文字を使用したとする天ぷら粉の発売時点より5年も前である。
さらに、被請求人は平成1年4月に自らのネーミングにかかる「揚げ上手」の文字からなる商標について再調査して(乙第3号証の3)、同年6月14日に登録出願しているが、この時点において被請求人は、請求人が「揚げ上手」の文字を記載した包装袋を使用していたか否かなどという事実は一切了知していない。
そして被請求人による「揚げ上手」の登録出願は、審査によって同文字は単に商品の品質・製法を表示するキャッチフレーズの如きものであって出所識別力を有し得ないとして拒絶査定を受けたのである。
さらに、平成5年に「揚げ上手」(乙第7号証)、或は平成6年にも「揚げ物上手」(乙第8号証)、等の登録出願が顕著性がないという理由で拒絶されているのである。
このような審査例は、特許庁における「揚げ上手」は商標としての出所識別力がなく、何人も「揚げ上手」を登録して独占できないこと、したがって、何人も使用可能な文字であるという判断を明確に示すものであり、被請求人もかかる認識を有するに至ったことは当然の事理である。
しかも被請求人は、平成6年2月の商品発売時に、請求人の「パリッと天ぷら揚げ上手」と記載した商品の存在を知るやいなや、直ちに平成6年3月8日に請求人を訪問して、「揚げ上手」の文字に対する特許庁の審査結果に基づく事情を説明するとともに、今後の使用についての理解を得てすらいるものである(乙第13号証)。
請求人は、甲第15号証という本件申立のために作成した報告書(平成10年5月30日に作成したものであり、平成6年当時のものではない)で、使用の承諾をしたことも、商標登録に同意したこともない、と記載しているが、事実は平成6年3月9日という時点で事実に即して作成された乙第13号証のとおりなのである。
被請求人の提出した乙第13号証は、面会した翌日である平成6年3月9日に社内の報告書として、面会に同席した担当者が作成したものであり、信憑性については疑義の余地のないものである。本件申立のためにことさらに作成された甲第15号証とは信憑性において比すべくもない。
被請求人が面会して理解を得た事実は、同報告書に記載のとおりであるが、特に本件商標を使用した天ぷら粉についてはテレビ宣伝や売上、市場占有率等を同業者であれば、十分知見していた筈であるから、平成6年3月8日の訪問の際、請求人が若し使用を了解していなかったのであれば、同日以降の販売を黙認することなどはありえないことであり、直ちに使用中止の要請等がなされた筈である。
しかしながら、かかる中止要請は何ら請求人によってなされていないのであり、かかる事実は何よりも請求人による了解の存在を如実に示すものである。
以上のとおりであるから、本件商標はその登録出願の経緯から見ても、何等健全な業界の取引秩序を乱しているものではなく、又、公序良俗に反するところは全くない。
本件商標はいかなる点からしても商標法第4条第1項第7号に該当する余地はない。
(2)本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当しない
請求人が「天ぷら粉」に使用していたという表示について
請求人は「揚げ上手」との商標を昭和63年9月から天ぷら粉に使用し、「揚げ上手」との商標が請求人の業務に係るものとして平成2年末には周知になったと主張している。
しかして、請求人が現実に商品に使用しているとして甲号証として提出している商標の態様は、甲第3号証に示されているもののみである。そして甲第3号証に示される商品に記載されている文字の構成態様は、「パリッと天ぷら揚げ上手」というものである。
請求人は「揚げ上手」との商標を使用していたと主張するのであるが、「揚げ上手」の文字のみからなる商標を使用していたなどという事実は一切甲号証によって立証されていない。
請求人の提出する甲第1号証ないし甲第14号証によっては、「揚げ上手」との文字が請求人の業務に係る商品を表示する商標として自他識別力を獲得ししかも本件商標登録出願時(平成6年)及び登録時(平成10年)において周知性を取得していたとは到底立証されないものである。
以上いかなる点からしても、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当する余地はない。
(1)本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当するとの請求人の主張に対する反論
平成2年以降の4年ないし7年間の使用状況を一切立証することすらできない以上、甲第1号証ないし甲第15号証をもってしても、本件商標の登録出願時(平成6年)及び登録査定時(平成9年)のいずれの時点においても、請求人の使用する商標が「揚げ上手として」、「周知であった」との請求人の主張はその立証を欠き、成り立ち得ないことは明白である。
本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するとの請求人の主張は成り立たない。
(2)本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当するとの請求人の主張に対する反論
乙第13号証は、請求人の甲第3号証商品の存在を全農福岡支所からたまたま知らされた被請求人が、大事な本件製品の販売の差し障りに些かでもなることがないよう、請求人に事情説明をするとともに今後の使用継続を伝え、請求人の了解を得るために面会に及んだ結果を、面会の直後に担当専務宛に報告したものであり、かかる作成経過からして信憑性は完全なものである。
昭和58年の創作から本件商標の登録出願に至るまでの全経過に示されるとおり、被請求人による本件商標の登録出願も、登録も、使用も何ら公序良俗に反するものではない。
しかも請求人は被請求人による本件商標の使用についても了解をしてすらいる。
したがって、いかなる点からしても本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。
(1)請求人の引用する商標「揚げ上手」(以下「引用商標」という。別掲(2)の商品写真に表示されたもの。)の著名性について
請求人は、引用商標が本件商標の登録出願時には、周知であった旨主張し、証拠を提出しているので、この点について検討する。
請求人の提出に係る甲第1号証は、請求人の会社案内の写し(平成8年12月31日現在)であって、会社の概要を示すものである。
甲第2号証は、商品の袋及び購入申込書の印刷代請求書を、甲第7号証は、山口県農業協同組合中央会から請求人への受注通知書を、甲第8号証は、山口県経済農業協同組合連合会から請求人への発注書を、甲第11号証は、「米需給均衡化緊急対策に係る消費純増呼応製品(米加工品)取扱要領」をそれぞれ示すにすぎないものであって、いずれも引用商標の具体的態様が表示されていない。
甲第3号証は、本件商標の登録出願日後の1998年(平成10年)8月11日の日付のある商品の写真を示すにすぎない。
甲第4号証は、高知県経済農業協同組合連合会が配布した商品の購入申込書を、甲第5号証は、岡山県経済農業協同組合連合会の作成した「暮らしの運動品目知識」を、甲第6号証は、大阪府農協婦人組織協議会の作成した共同購入パンフレットを、甲第9号証は、山口県農業協同組合連合会の作成した「山口県産米加工品消費拡大運動要領」を、甲第10号証は、山口県経済農業協同組合連合会の作成した購入申込書を、甲第12号証は、「昭和64年度米消費純増に係る取り扱い商品(案)」を、甲第13号証は、東奧日報の記事をそれぞれ示すにすぎないものであって、いずれも請求人の業務に係る商品であることを何ら示すものではない。
甲第14号証は、請求人によって作成された表にすぎず、何らの帳簿、伝票等による裏付けも示されていない。
甲第15号証は、請求人の社員が作成した報告書を、甲第16号証は、本件商標に類似する標章を付した商品の写真を、甲第17号証は、商品の領収書をそれぞれ示し、甲第18号証は、請求人の会社案内(1999年制作)、甲第19号証は、請求人の会社概要(平成12年12月31日現在)である。
したがって、請求人の提出に係る甲各号証は、いずれも引用商標が本件商標の登録出願前より取引者、需要者に広く認識されていたことを立証するものとしては関係がないか、立証するには不十分なものである。
そうとすれば、請求人の提出に係る証拠によっては、引用商標が本件商標の登録出願時には請求人の業務に係る商品「天ぷら粉」の商標として取引者・需要者の間に広く認識されていたということはできない。
(2)商標法第4条第1項第7号について
請求人は、被請求人は引用商標が周知であること及び引用商標が商品「天ぷら粉」に使用する商標であることを知りながら、本件商標を出願し登録したことを前提として、本件商標を被請求人が使用することが健全な取引の秩序を害することになるから、本件商標は、公序良俗に反するものである旨主張している。
しかしながら、(1)で述べたように、引用商標は本件商標の登録出願時には取引者、需要者の間に広く認識されていたものとは認められないこと。 また、被請求人の提出に係る乙第3号証の1ないし乙第3号証の4、乙第4号証の1、乙第4号証の2及び乙第5号証によれば、被請求人は「揚げ上手」に関する事前調査及び登録出願をしていた事実、さらに、請求人の提出に係る甲第15号証及び被請求人の提出に係る乙第13号証によれば、それらの内容が相違しているとしても、請求人と被請求人との間で事前に話し合いがもたれていた事実等より、本件商標を被請求人が使用することが健全な取引の秩序を害するものとはいい難いものである。
この点について、請求人は、近時、審決例、裁判例において、公序良俗の範囲を広く解釈する傾向があるとして、「母衣旗(ほろはた)」事件判決(東京高裁平成10年(行ケ)第18号審決取消請求事件、平成11年11月29日言渡)、「DUCERAM」事件判決(東京高裁平成10年(行ケ)第185号審決取消請求事件、平成11年12月22日言渡)、「昭和大仏」事件(昭和60年審判第18883号、平成4年3月5日審決)、を引用して、本件商標は、冒用登録出願に係る商標であり、公正な競争秩序を害するものである、と主張している。
しかしながら、これらの引用例は、何れも、登録出願までの経緯が上記の本件商標の場合とは明らかに異なるものであるから、請求人のこの点に関する主張は、採用できない。
そして、本件商標は、別掲(1)に示すとおりの構成であって、構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるようなものではなく、その指定商品に使用することが、社会公共の利益又は一般的な道徳観念に反するようなものともいえない。また、法律によって使用が禁止されているものでもない。
してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものであるとすることはできない。
(3)商標法第4条第1項第10号について
請求人は、引用商標が周知であることを前提としているが、(1)で述べたように、引用商標は本件商標の登録出願時には取引者、需要者の間に広く認識されていたものではない。
そして、本件商標中の「揚げ上手」及び引用商標「揚げ上手」の文字は、商品「天ぷら粉」との関係において、天ぷら等を「上手に揚げること」を端的に表したものと理解させるにすぎず、結局、自他商品の識別機能を有しないか、若しくは極めて弱いものとみるのが相当である。
してみると、本件商標と引用商標とは、本件商標の構成中の「揚げ上手」の文字部分を抽出して引用商標と比較することはできないものであって、他に、両商標が称呼、観念及び外観上類似するとみるべき要素は見出せない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものであるとすることはできない。
(4)結び
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第10号のいずれにも違反して登録されたものではなく、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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