結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2001−35377(T2001−35377/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第4335416号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成10年10月9日登録出願、第18類「かばん類,袋物,かばん金具,がま口口金,傘」及び第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻類,下着,水泳着,水泳帽,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)」を指定商品として、同11年11月19日に設定登録されたものである。
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録商標は以下のとおりである。
1.登録第1342698号商標は、「gap」の文字を横書きしてなり、昭和49年9月26日登録出願、第21類「装身具、袋物、その他本類に属する商品」を指定商品として、同53年8月25日に設定登録され、その後、平成13年9月13日に権利放棄による商標権抹消登録がなされたものである。
2.登録第1384695号商標は、「gap」の文字を横書きしてなり、昭和49年9月26日登録出願、第17類「被服(但し、洋服、コートを除く)布製身回品、寝具類」を指定商品として、同54年7月31日に設定登録され、その後、平成13年9月13日に権利放棄による商標権抹消登録がなされたものである。
3.登録第1579390号商標は、「THE GAP」の文字を横書きしてなり、昭和51年10月13日登録出願、第17類「被服、布製身回品、その他本類に属する商品」を指定商品として、同58年4月27日に設定登録され、その後、平成5年9月29日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
4.登録第1634640号商標は、「ギャップ」の文字を横書きしてなり、昭和55年11月6日登録出願、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、同58年11月25日に設定登録され、その後、平成6年4月27日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
5.登録第1634641号商標は、「ザ ギャップ」の文字を横書きしてなり、昭和55年11月6日登録出願、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、同58年11月25日に設定登録され、その後、平成6年4月27日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
6.登録第2237980号商標は、「GAP」の文字を横書きしてなり、昭和62年10月2日登録出願、第21類「皮製ベルト、布製ベルト、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成2年6月28日に設定登録され、その後、平成12年4月11日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
7.登録第2481552号商標は、「GAP」と「ギャップ」の各文字を二段に横書きしてなり、昭和60年4月11日登録出願、第22類「はき物(運動用特殊靴を除く)かさ、つえ、これ等の部品及び附属品」を指定商品として、平成4年11月30日に設定登録され、その後、平成13年9月13日に権利放棄による商標権抹消登録がなされたものである。
8.登録第2481553号商標は、「THE GAP」と「ザ ギャップ」の各文字を二段に横書きしてなり、昭和60年4月11日登録出願、第22類「はき物(運動用特殊靴を除く)かさ、つえ、これ等の部品及び附属品」を指定商品として、平成4年11月30日に設定登録され、その後、平成13年9月13日に権利放棄による商標権抹消登録がなされたものである。
9.登録第2584331号商標は、「GAP」の文字を横書きしてなり、平成1年2月8日登録出願、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、同5年10月29日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
10.登録第3035792号商標は、「ギャップ」の文字を横書きしてなり、平成4年7月13日登録出願、第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ」を指定商品として、同7年3月31日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
11.登録第3035793号商標は、「GAP」と「ギャップ」の各文字を二段に横書きしてなり、平成4年7月13日登録出願、第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ」を指定商品として、平成7年3月31日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
12.登録第3040951号商標は、「ギャップ」の文字を横書きしてなり、平成4年7月13日登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,運動用特殊衣服」を指定商品として、同7年4月28日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
13.登録第3040952号商標は、「GAP」と「ギャップ」の各文字を二段に横書きしてなり、平成4年7月13日登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,運動用特殊衣服」を指定商品として、同7年4月28日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
14.登録第3359883号商標は、「GAP」の文字を横書きしてなり、平成5年12月9日登録出願、第14類「貴金属,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・こしよう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製の花瓶・水盤・針箱・宝石箱・ろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製のがま口・靴飾り・コンパクト及び財布,貴金属製喫煙用具,身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,時計,記念カップ,記念たて」を指定商品として、同9年11月14日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。(上記1.ないし14.の登録商標をあわせて、以下「引用商標」という。)
請求人は、「本件商標の登録は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第29号証(枝番を含む。)を提出した。
1.引用商標の周知性について
(1)引用商標は、請求人であるザ ギャップ インコーポレイテッドが、被服、履物、かばん類等に長年にわたり使用している著名商標である(甲第16号証ないし甲第23号証)。ファッションブランド「GAP」の誕生は、1969年にサンフランシスコに衣料ストアとして創業されたことに溯る。「GAP」スタイルは、ジーンズ、カーキー、ティーシャツ、ジャケットに代表されるアメリカン・カジュアルスタイルであり、そのシンプルなデザインに加えて、手ごろな価格が消費者を引き付けてきた。そして「GAP」ではその独特のマーケティング手法を取り入れることで販売高を順調に伸ばし続けている。過去3年をとってみても、1997年6,507,825,000米ドル、1998年9,054,462,000米ドル、1999年11,635,398,000米ドルと178.8%の驚異的な伸びを示している。その店舗数も、1999年度末において「GAP KIDS」も含め、米国、カナダ、フランス、ドイツ、日本、英国に合わせて2160店舗を展開するに至っている(甲16号証及び甲17号証)。日本には1995年に、東京の数寄屋橋阪急に1号店を出店した(甲第18号証)のを皮切りに、店舗を増やし続け、1998年度末時点で31店舗、1999年度末時点で全国に53店舗を数えるに至っている(甲第17号証及び甲第17−2号証)。特に1999年秋には米国外では最大規模の旗艦店を東京原宿にオープンしたことで話題を呼んだ。1999年にはその斬新なテレビコマーシャルで雑誌「広告批評」の1999年度CMベストテンで第2位(第1位なし)に選ばれている(甲第18号証及び甲第19号証)。
請求人は、著名商標「GAP」を保護すべく、日本を始めとする世界各国において「GAP」及びその関連商標に係る商標権を獲得している(甲第20号証)。
請求人の商標「GAP」の著名性については、特許庁において過去になされた登録異議の申立て事件(異議2000−90241、異議2000−90242)の決定においても認定したところである(甲第22号証及び甲第23号証)。
以上より、引用商標は、本件商標の出願時である平成10年10月9日には米国及び日本を含めた世界各国において請求人の販売する衣服、履物、かばん類等を表示するものとして著名になっていたと確信する。
(2)被請求人は、請求人が主張した無効理由及びこれを立証する各証拠は、請求人が先に本件商標に対して請求した登録異議の申立て(2000−90242)において主張、立証した理由及び証拠とほぼ同一であり、本件においては甲第21号証ないし甲第23号証が追加された点のみが異なる旨主張する。
ここで、登録異議の申立ては、商標登録に対する信頼性を高めるという公益的な見地から、特許庁自らが登録処分の適否を審理し、瑕疵ある場合にはその是正を図ることを目的としている。したがって、当事者対立構造は採用されておらず、審判官合議体による簡易な手続により判断がなされるものである。一方、登録無効審判は、特許庁が行った登録処分の是非を巡る当事者間の争いを解決することを目的とし、この目的を達成するため、審理手続には当事者対立構造が採用されている。また、登録異議の申立てにおける維持決定に対して、登録異議申立人に審決等取消訴訟の提起が認められていないのは、当該登録異議申立人は登録の是非を巡る争いを解決する手段として、別途無効審判を請求することができるからである。
上記事情を勘案すれば、前記登録異議の申立て事件において、甲第1号証ないし甲第20号証を提出し、本件無効審判と同様の主張をしたにもかかわらず本件商標の登録維持決定がなされたことは、本件無効審判に何ら影響を与えるものではない。よって、請求人の主張及び提出した甲第1号証ないし甲第20号証に対する被請求人の上記主張は、意味をなさない。
本審判における主張及びこれを立証する証拠は、当事者対立構造の下で、改めて検討されるべきものである。
なお、甲第21号証は、請求人が、被服・履物・かばん類等について長年にわたり引用商標を使用してきた結果、本件商標の出願時及び登録時に既に著名となっていたことを証明するために提出したものである。すなわち、上記宣誓書において、署名者である上級法人顧問弁護士が、請求人の会社の歴史、その発展の過程を説明した上で、売上高・市場占有率・全世界においてクレジットカードにより購入された請求人の商品の売上高・広告費、等の客観的な数値を提示して、いかに引用商標に係る商品が、世界中で購入され、愛用されているかを証明しようとしたものである。
また、甲第22号証及び甲第23号証(異議の決定)は、引用商標が「カジュアルファッションブランドとして著名である」旨認定していることから、引用商標の著名性を示す一例として提出したものである。
2.商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標は、その文字に相応して「エヌギャップ」の称呼が生じるところ、語頭の「n」は小文字で表記され、「GAP」部分は大文字で表記されていること、当該「GAP」部分が請求人の著名商標「GAP」と同一の綴りよりなることから、本件商標に接した需要者は、「GAP」の文字を認識し、「ギャップ」と称呼する可能性が認められる。このように「ギャップ」と称呼され得る本件商標と引用商標は称呼上明らかに類似する。
なお、「G」と「A」の間に配置された逆三角形の図形は本件商標から「ギャップ」なる称呼が生じることを否定し得る程の存在ではないと思料する。
さらに、本件商標は引用商標と同一又は類似の商品に使用されるものである。
(2)被請求人は、本件商標の「n」部分は、小文字「n」のレタリングとして普通一般に使用されている表現方法であるから、当該部分は「n」「G」「A」「P」の各文字を同書・同大に表したものであり、かつ、「G」と「A」の文字間には三角形の図形が顕著に描かれているところから、これに接する需要者が当該部分を「n」「G」と「A」「P」に分離して看取する場合があるとしても、これを「エヌジーエーピー」と一連にのみ称呼するものとみるのが自然である旨主張する。
しかしながら、単語の最初の文字が大文字であって、その後ろの文字が小文字であるならばともかく、本件商標のように、最初の文字が小文字の「n」であって、その後ろに大文字の「G」「A」「P」が続く場合に、需要者が当該4つの文字を常に一連一体にとらえると考えるべき合理的な理由はない。むしろ、これに接する需要者は、当該部分を小文字の「n」と、「隔たり」等を意味する語として広く親しまれている英単語「gap」を直感させる大文字の「GAP」部分に分けて認識すると考える方が自然である。そうすると、大文字の「GAP」部分から「ギャップ」のみの称呼が生ずると考えられる。
また、「G」と「A」の間に描かれた三角形は、上記(1)で述べたとおりであり、本件商標から生ずる称呼に直接的に影響を及ぼすものではないと考える。被請求人においても、当該三角形の存在にもかかわらず本件商標の上段から「エヌジーエーピー」の一連の称呼が生ずると主張しており、当該三角形が上段部分から生ずる称呼に特段の影響を与えるものでないことを認めているに等しい。それどころか、「A」の文字が右側に傾いている点を加味すると、三角形が存在しない場合の方が、「G」と「A」の間に隙間ができるため、当該欧文宇部分が「n」「G」と「A」「P」に分断して看取される可能性が高い、とも考えられる。そうすると、当該三角形の存在は、むしろ「G」と「A」の間の隙間を埋めることにより、両者の結合を強めているともいえるから、より「GAP」の結合性が顕著になるであろう。
以上より、本件商標は、外観上「n」と「GAP」に分離してとらえられ、「GAP」部分から「ギャップ」のみの称呼が生ずるものと考えられる。
(3)本件商標の最初に位置する図形が、常に欧文字の「n」と認識されるとはいい難く、ここから連想される様々な形態、例えば「U」字型の磁石や、かばんの持ち手部分、或いは「U」字型のブロックを輪切りにしたもの、トンネルの断面、等を表す図形とも認識され得るものである。当該図形が非常にシンプルな形状であるだけに、明らかに欧文字の「GAP」と認識される2文字目以降と比較すると、これが欧文字と認識されない可能性の方が高いといわねばならない。
そうすると、当該図形部分から称呼は生じないのであるから、「ギャツプ」のみの称呼が生ずるものである。
(4)「GAP」の前に位置する記号が「n」と認識されようと、一種の図形と認識されようと、いずれにしても本件商標が「GAP」という欧文字を含んでいることには変わりがない。また、引用商標が、カジュアルファッションブランド名として、本件商標の出願時及び登録時に既に著名になっていたことは、各証拠からも明らかである。
ここで、現行の商標法第4条第1項第11号の審査基準中、周知・著名商標の類否判断に関する部分には、「指定商品について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字を結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として当該他人の登録商標と類似するものとする。但し、当該他人の登録商標の部分が既成語の一部となっているもの等を除く。」と記載されている(甲第24号証)。
本件商標は、「被服」などに周知・著名である引用商標「GAP」と、「n」(又は一種の図形)が結合してなる商標であって、当該部分が既成語の一部になっているともいえないから、両者は類似する。
3.商標法第4条第1項第10号について
本件商標は、請求人の商品を表示するものとして著名な引用商標と同一又は類似し、その商品と同一又は類似の商品に使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
4.商標法第4条第1項第15号について
(1)前述したとおり、引用商標は、本件商標の出願時・登録時には、既にカジュアルファッションブランドとして著名になっていたと考えられる。また、本件商標が著名商標である「GAP」の文字を含んでいることは、外観上明白である。しかも、「n」(若しくは一種の図形)と、後ろに続く「GAP」は、分離してとらえられる可能性が非常に高いものである。
そうすると、仮に本件商標と引用商標とが、外観、称呼及び観念上類似しないと考えられる場合であっても、引用商標が周知・著名となっている「被服」や、これと関連性の深いファッション関係のアイテムである「かばん類,袋物」等ついて本件商標を使用すると、需要者が本件商標から引用商標を連想・想起したり、当該商品を請求人又は請求人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、その出所について混同するおそれがあることは十分に推認できる。
(2)本件商標については、現に「n」部分と「GAP」部分を、完全に分離した態様で使用がなされている事実がある。
甲第25号証(株式会社集英社発行の月刊誌「Men’s NON−NO」2002年3月号)には、被請求人に係る被服のブランドを「N GAP」のように表示している。すなわち、「N」を大文字にし、「GAP」との間にスペースを入れ、「N」と「GAP」を異なる色で表わし、かつ、「G」と「A」の間には三角形もない。このような使用態様の下では、「N」と「GAP」は完全に分離して認識され、引用商標中の、特に登録第2237980号商標とは、区別することが困難なほど近似するものとなっている。
商標法第4条第1項第15号は、具体的出所混同を防止する規定であり、本号に該当するか否かは、「当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他の取引の事情などに照らし」判断すべきである、と最高裁判所の判決によって示されている(甲第26号証)。 よって、被請求人による上記のような商標の現実の使用態様は、取引の事情の一例として、本号の判断において考慮されるべきものと考える。
また、甲第25号証は、本件商標の出願時及び登録時における使用態様を証明するものではないが、現時点において、実際の取引過程で、このような態様での使用が行われていることは、本件商標の出願時及び登録時においても、著名な引用商標との間で出所混同が生ずるおそれがあったことを十分に推認させるものである。出願後、登録後の事情であっても、出願時、登録時の事情を推測する証拠としてそれを斟酌することは、許されるからである(甲第27号証)。
なお、甲第25号証においては、当該ページに写っているモデル着用の被服やかばん等の商品について、「NGAP」の商品である旨の記載があり、問い合わせ先として「アンダーカバー青山 Men’s店」の記載があるのみであるから、これが被請求人に係る商品であると断定し得ない感も見える。しかしながら、「NGAP」は、被請求人の商号から「有限会社」の文字をとり、かつ、これをローマ字表記したものである。また、男性モデルが頭に掛けている袋の側面には、本件商標が付されているように見えるため、当該ページの商品が被請求人に係るものであることは容易に推認できる。
(3)現行の特許庁の審査基準においても、他人の著名商標を一部に有する商標について、それが当該著名商標と類似しない場合であっても、商品の出所混同が生ずるおそれがあるときには、原則として商標法第4条第1項第15号に該当する旨記載されている(甲第24号証)。
特許庁の審決例において、著名な商標の前後に欧文字1文字を付加した態様からなる商標が、当該著名商標との関係で混同を生じさせることを理由として、商標法第4条第1項第15号に該当すると認められた事例が存在する(甲第28号証及び甲第29号証)。
上記審決例からも、著名商標「GAP」に欧文字「n」又は一種の図形を付加したに過ぎない本件商標が、請求人の引用商標を想起・連想させる、という請求人の上記主張が妥当であることは、明白になると考える。
5.商標法第4条第1項第7号について
カジュアルファッションブランドとして著名な引用商標と相紛らわしい本件商標を、請求人とは何ら関係のない他人が自己の商品について商標として採択し使用することは、本来みずからの営業努力によって得るべき業務上の信用の維持をはかる商標法の目的に反し、該名称の著名性にフリーライドするものであり、また、著名商標「GAP」に化体した莫大な価値を希釈化させるおそれがあるといわざるをえない。
商標法第4条第1項第7号によって登録が拒絶されるものには、商標の構成自体が公序良俗に反する場合だけでなく、一般に国際信義に反する場合が含まれるとされている。例えば、甲第28号証においても、著名商標にただ乗りするような商標は、「社会一般道徳に反する商標といえるものであって、かつ、国際信義にも反する商標といわざるを得ない」と認定されている。
被請求人は、カジュアルファッションブランドの商標として著名になった引用商標の文字を明らかに含む本件商標を、「被服」や「かばん類」に使用することにより、請求人の長年にわたる使用によって引用商標に化体した業務上の信用、名声、顧客吸引力にフリーライドしていると考えられる。商標権者は「被服、かばん類」等を指定商品としている以上、アパレル業界に属する者、又はその関係者であろうから、周知・著名である引用商標の存在を出願前に当然知っていたものと推認できる。商標選択の幅は広いにもかかわらず、被請求人は「GAP」を含む本件商標をあえて選択した上、上述のように「N」と「GAP」が完全に分離するような態様での使用をしていることにも鑑みると、被請求人による不正な「ただ乗り」の意思が一層明白に推認できるものである。
海外において周知・著名なファッションブランドが、次々と日本に直接参入している現在、このような本件商標の登録を認めることは、国際信義に反するといえよう。
したがって、本件商標は、公正な競業秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものであり、商標制度の趣旨に則しないものである。
6.むすび
以上の理由により、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第10号、同第15号及び同第7号に該当し、同法第46条第1項の規定により無効にされるべきものである。
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べた。
1.本件商標に対して、登録無効の審判請求が提出されたところ、該無効の理由は、先に登録異議の申立ての際に主張、立証された理由及び証拠とほぼ同じであり、異なるところは証拠方法において甲第22号証及び甲第23号証(異議2000−90241、同2000−90242に対するそれぞれの異議の決定謄本の写し)と甲第21号証(同人が異議2000−91300事件において提出した証拠方法;登録異議申立人ザ ギャップ インコーポレイテッド/ジュリーハーバーによる宣誓書本文の写し及びその翻訳文)が追加されたものである。
しかしながら、異議の決定謄本は合議体の判断を示したものであり、宣誓書は、ザ ギャップ インコーポレイテッド上級法人顧問弁護士が「GAP」商標について同社の関連記録から得た自分個人の知識、信じるところ又は情報からなるものを宣誓書としてまとめた作成文書である。
2.商標法第4条第1項第11号について
請求人は、本件商標はその構成文字に相応して「エヌギャップ」の称呼を生じるところ、構成中の「GAP」の文字部分が請求人の著名商標「GAP」と同一の綴りよりなるので需要者は「GAP」の文字を認識し「ギャップ」と称呼され得るものと主張する。
しかしながら、本件商標は、レタリング化して表された欧文字「n」「G」と「A」「P」の文字間に斜め型の三角形の図形を配した構成よりなるものである。そして、該文字中「n」は小文字であるがその形状は大文字の「U」を逆さまにした態様で表示されているところ、これは「n」のレタリングとして普通一般に使用されている表現方法であって、該部分は「n」「G」「A」「P」の各文字を同じ書体、同じ大きさで表されており、かつ、「n」「G」「A」「P」の文字間には三角形の図形が顕著に描かれているところから、これに接する取引者・需要者は、「n」「G」と「A」「P」との文字部分に分離して看取する場合があるとしても、これを称呼する場合には、常に「エヌジーエーピー」と一連にのみ称呼するものとみるのが自然なものであるというべきである。
そうとすると、本件商標の構成中より「G」「A」「P」の文字部分のみを抽出して、これより「ギャップ」の称呼をも生ずるとした上で、本件商標と引用商標とが類似するという請求人の無効審判の請求理由は適切なものとはいえないものである。
また、本件商標と引用商標とは前記の構成態様よりなるものであるから、外観及び観念上類似するものとはいい得ないものであり、本件商標と引用商標とは類似するものとはいえない。
3.商標法第4条第1項第10号及び同第15号について
請求人は、本件商標は、請求人の商品を表示するものとして著名な引用商標と同一又は類似し、その商品と同一又は類似の商品に使用するものであるから著名商標「GAP」との間に出所の混同を生じるおそれがあると主張する。
しかしながら、引用商標がカジュアルファッションブランドとして需要者間に広く認識されているものであっても、本件商標と引用商標とは上記に述べたごとく、外観はもちろんのこと、称呼、観念上において著しく相違する別異な商標と認められるものといえる。
そうとすれば、商標権者が本件商標をその指定商品について使用しても、取引者、需要者が引用商標を想起し、その商品が請求人又は請求人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのごとく、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものというべきである。
4.商標法第4条第1項第7号について
請求人は、カジュアルファッションブランドとして著名な引用商標と相紛らわしい本件商標を請求人と何ら関係のない他人が自己の商品について商標として採択使用することは公正な競業秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものであると主張している。
しかしながら、本件商標は、矯激、卑猥、差別的な印象を与えるような文字からなるものではなく、また、本件商標を指定商品について使用することが社会公共の利益・一般道徳観念に反するものでないものであり、かつ、他の法律によってその使用が禁止されているともいえないものである。
5.むすび
本件商標は、先の異議の決定で述べている記載理由のとおりであり、被請求人がその指定商品について使用しても、商標法第4条第1項第11号、同第10号、同第15号及び同第7号に何等違反して登録されたものではないから、その登録を無効にすることはできないものである。
1.商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標は、別掲のとおり、レタリングした「nGAP」の文字及び該「nGAP」の文字部分中の「G」と「A」の間に、黒塗り直角二等辺三角形を配した構成よりなるものであるところ、該直角二等辺三角形は、直角の内角部分が左上部に位置し、右隣の「A」を構成する左斜め線に沿うように、かつ、右隣の「A」と左隣の「G」との隙間を埋めるかのように配されており、また、本件商標中の「n」「G」「A」「P」の各文字が同一の大きさで、いずれもレタリングされて表されていることも相俟って、本件商標は、構成全体の一体不可分性は決して弱いということはできない。
してみると、本件商標は、構成全体もって、特定の観念を想起させない造語よりなるものであって、これが「n」と「GAP」とに分離され、「GAP」の文字部分のみが独立して把握、認識されることは極めて少ないといわざるを得ず、「nGAP」の文字部分に相応して「エヌジーエーピー」の一連の称呼を生ずるというのが相当である。
(2)引用商標は、前記した構成よりなるものであるから、その構成文字に相応して「ギャップ」、若しくは「ザギャップ」の称呼を生ずるものであり、「隙間、隔たり」の観念を生ずるものである。
(3)本件商標より生ずる「エヌジーエーピー」の称呼と引用商標より生ずる「ギャップ」、若しくは「ザギャップ」の称呼は、構成する音数の相違、音質・音感等の差などにより、それぞれを一連に称呼した場合においても、互いに紛れるおそれはないものである。
また、本件商標は、全体として特定の観念を有しないこと前記のとおりであるから、引用商標とは観念上比較することはできない。
さらに、本件商標と引用商標は、前記した構成よりみて外観上明らかに区別し得る差異を有するものである。
したがって、本件商標と引用商標は、称呼、観念及び外観のいずれの点においても非類似の商標といわなければならない。
(4)請求人は、本件商標は、これより生ずる称呼は、「エヌギャップ」であり、また、その構成中の「n」は小文字で表記され、「GAP」は大文字で表記されており、「GAP」の文字部分が請求人の著名商標と同一の綴りよりなることから、「ギャップ」の称呼を生ずる旨主張し、さらに、本件商標の語頭の文字は必ずしも欧文字の「n」とはいえない旨主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、本件商標は、その外観上の一体不可分性が強いうえ、「nGAP」の文字部分が親しまれた外国語を表したと理解されいないことから、このような場合に生ずる自然の称呼は、アルファベットを1字ずつ読む「エヌジーエーピー」とみるの相当である。また、本件商標は、その構成中の三角形図形が、「nGAP」の文字部分中の「G」と「A」との間に存在するところから、「nGAP」の文字部分から「GAP」の文字部分を抽出して、「ギャップ」と称呼するものとは考え難く、したがって、本件商標からは「ギャップ」の称呼は生じないといわなければならない。さらに、左端の「n」のみが図形を表したとみるべき格別の理由は見出せない。よって、請求人の主張は理由がない。
2.商標法第4条第1項第15号について
(1)「GAP」商標が本件商標の登録出願前より著名性を獲得していたとして提出された甲第16号証ないし甲第23号証を検討するに、
ア.甲第16号証は、平成12年(2000年)6月26日付けの「GAP」web−siteの写しと認められる。また、該書証は、商標法施行規則第22条第8項で準用する特許法施行規則第61条第1項に規定する「訳文の添付」がされていないものである。
イ.甲第17号証は、1998年度及び1999年度の「Gap Inc.Annual Report」と認められるところ、1999年度末には米国、カナダ、フランス、ドイツ、日本、英国を合わせて2160店舗を展開したこと、わが国における出店数は、1998年度末時点で31店舗、1999年度末時点で53店舗であったこと、「Net sales」は、1997年6,507,825,000米ドル、1998年9,054,462,000米ドル、1999年11,635,398,000米ドルであったことなどが認められる。
ウ.甲第18号証は、「日経テレコムデータ」と認められるところ、該データは、1999年(平成11年)1月1日から2000年(平成12年)6月21日までの「GAP」に関する検索結果であり、これによれば、GAPは1995年(平成7年)に東京の数寄屋橋阪急に1号店を開設し、1999年(平成11年)5月2日現在首都圏を中心に37店舗を出店したこと、1999年(平成11年)11月に日本最大の旗艦店を東京原宿に開店すること、請求人の取り扱うカジュアルウエア等のテレビコマーシャルが「広告批評」1999年度の第2位に選ばれたこと、2000年(平成12年)の秋に名古屋市に開店する見込みであることなどが認められる。
エ.甲第19号証は、「GAP」のインターネット検索結果と認められるところ、その検索の日付は、平成12年6月26日である。これによれば、雑誌等に「GAP」の商品が紹介されていることは認められるものの、雑誌等の発行日は、「popeye」(1998年2月10日発売)、「INN HEADLINE NEWS」(1997年5月発行)以外のものは、本件商標の登録出願日以降のものか、掲載の日付が不明のものである。加えて、「INN HEADLINE NEWS」における「GAP」の内容は、「GAPがインターネット上でフレグランスをプロモーション」とするものであり、「GAP」商標がカジュアルウエア等について著名であるとする請求人の主張を立証するものではない。
オ.甲第20号証は、「GAP」商標等についての世界各国の登録及び出願の一覧表であり、甲第21号証は、請求人の顧問弁護士の宣誓書と認められる。
(2)上記(1)によれば、請求人は、本件商標の登録出願前である1995年(平成7年)に東京の数寄屋橋阪急に1号店を開設したことは認められるが、わが国において展開した店舗が増えたことを立証する証拠、あるいは「GAP」商標を使用したカジュアルウエア等についての宣伝広告をしたことを立証する証拠などは、そのほとんどのものが本件商標の登録出願日以降のものである。また、世界各国において、「GAP」商標等の登録及び出願がなされたことが、必ずしもその著名性を立証する証拠とはなり得ないものであり、したがって、請求人が提出した証拠からは、「GAP」商標が、請求人の取扱いに係るカジュアルウエア等を表示するものとして、本件商標の登録査定時には、わが国の被服等を取り扱う分野において、その取引者、需要者の間で知られていたことは認め得るものの、本件商標の登録出願日(平成10年(1998年)10月9日)前に、わが国の被服の取引者、需要者の間に広く認識されていたとまでは認めることはできない。
さらに、前記1.で認定したとおり、本件商標は、その構成中の「GAP」の文字部分のみが独立して認識されるものではなく、構成全体をもって、1つの商標を表したと理解され、「GAP」商標とは商標において非類似のものである。
したがって、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、請求人若しくは請求人と何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものである。
なお、甲第22号証及び甲第23号証(異議の決定)は、商標法第4条第1項第15号に関し、「引用商標がカジュアルファッションブランドとして」著名であることを認めているものの、何時の時点で著名となったかについては認定しておらず、かつ、本件商標と引用商標とが商標において著しく相違するものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に規定する「他人の業務に係る商品または役務と混同を生ずるおそれがある商標」には該当しないと判断しているものである。
(3)請求人は、甲第25号証を提出し、本件商標の現実の使用態様として、「n」部分と「GAP」部分とを完全に分離した態様での使用事実があり、このような事実は本号の判断に考慮されるべきである旨主張する。
しかしながら、本件審判においては、本件商標が請求人の主張する無効の理由に該当するか否かについてを審理すれば足りるのであり、甲第25号証に示された当該商標の使用の事実は、本件無効審判事件とは何ら関係を有しない事柄と認められ、したがって、上記に関する請求人の主張は採用できない。
3.商標法第4条第1項第10号について
前記1.及び2.で認定したとおり、本件商標と「GAP」商標とは商標において非類似であるばかりでなく、「GAP」商標は、請求人の取扱いに係るカジュアルウエア等を表示するものとして、本件商標の登録出願時に、わが国の被服等を取り扱う分野において、その取引者、需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができないものであるから、本件商標を使用した指定商品と「GAP」商標を使用したカジュアルウエア等との間に出所の混同を生じさせるおそれはないものである。
4.商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、矯激、卑猥、差別的な印象を与えるような文字からなるものでなく、また、本件商標を指定商品について使用することが社会公共の利益・一般道徳観念に反するとする事実もない。さらに、本件商標の使用が、他の法律によって禁止されているものとも認められない。
この点に関し、請求人は「商標法第4条第1項第7号に該当する場合とは、商標の構成自体が公秩良俗に反する場合だけでく、国際信義に反する場合(例えば、著名商標にただ乗りするような商標)も含まれる。」旨主張するが、前記認定のとおり、本件商標は、その構成中の「GAP」の文字部分が独立して認識されないものであって、引用商標とは非類似の商標であるのみならず、「GAP」商標は、請求人の取扱いに係るカジュアルウエア等を表示するものとして、本件商標の登録出願時に、わが国の被服等を取り扱う分野において、その取引者、需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができないものであるから、本件商標は著名商標にただ乗りする商標ということはできない。したがって、上記請求人の主張は理由がない。
5.以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第10号及び同第7号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきではない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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