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Trademark Appeal Case

不正目的の商標登録

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2002−35276(T2002−35276/J3)
審判種別無効
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

登録第4442610号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第4442610号商標(以下「本件商標」という。)は、平成11年6月10日に登録出願され、「Gaussian」の欧文字を横書きしてなり、第9類「コンピュータプログラムを記録させた電子回路・同磁気ディスク・同光ディスク・同CD−ROM・同磁気テープ」を指定商品として、平成13年1月5日に設定登録されたものである。

第2 本件審判の請求人(以下「請求人」という。)の主張

請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証の1ないし甲第13号証(枝番号を含む)を提出している。

1 本件商標は、商標法第4条第1項第10号又は同第19号に違反して登録されたものである。よって、商標法第46条第1項により無効とされるべきである。

2 本件商標は、1999年6月10日に、大阪市阿倍野区阿倍野筋4−22−4に住所を有する有限会社アート工房により出願されている。該社は、2000年10月16日特許庁出願課受付の住所変更届により住所を和歌山県和歌山市大谷831−135に変更して当該住所表示により本件商標を得た、という経緯が本件商標の出願包袋より明らかである。しかし、和歌山県和歌山市大谷831−135へは住所移転の登録はされていない。なぜ移転登記をしなかったのか、それは本件商標の権利者が、自己を隠すためである。本件商標の権利者は、上記住所において本件商標の他に

登録第4431097号「ElasticReality」

登録第4442609号「FutureBasic」

登録第4452974号「DASYLAB」

を有し、さらに下記6件の出願(いずれも拒絶査定となっている)の出願人であった。

商願平11−48937号「NETFILED」

商願平11−48939号「印刷がらく」

商願平11−48940号「コンバートスター/CONVERTSTAR」

商願平11−49306号「QEmm」

商願平11−50826号「DAD/ISP」

商願平11−50827号「Simu18」

最初の4件については、和歌山県和歌山市大谷831−135へ住所を変更する前に拒絶理由通知があったので、大阪市阿倍野区阿倍野筋4−22−4の住所のままで拒絶査定がなされているが、最後の2件については、甲第2号証に含まれている住所変更届に示すように拒絶理由通知がある前に和歌山県和歌山市大谷831−135へ住所を変更している。

これらは全て第三者が使用或いは登録している商標である。本件商標を含め4件の商標は、使用者の出願がなかったか或いは使用者の出願が後願であったために登録されたものである。大阪市阿倍野区阿倍野筋4−22−4に住所を有する有限会社アート工房の名義によっても登録第4407450号「PCMCLAN」という商標が登録されているが、この商標も(株)ディアイティという会社が使用しているソフトの商標である。以上を立証するために甲第3号証の1ないし10として、和歌山県和歌山市大谷831−135の住所で登録になった登録第4431097号、登録第4442609号及び登録第4452974号、大阪市阿倍野区阿倍野筋4−22−4の住所で登録された第4407450号に関するIPDLの資料及び拒絶された上記6件の出願に関するBRANDYの資料を提出する。また、こらの登録及び出願に関する商標が全て他人のソフトウエアの商標であることを立証するために甲第4号証の1ないし10として検索エンジンGOOGLEによるホームページのプリントを提出する。

請求人は、和歌山地方法務局に問い合わせ調査を行なったが、上記住所には有限会社アート工房なる法人の登記はないことが判明した。本件商標の権利者である有限会社アート工房が原簿上に示されている和歌山県和歌山市大谷831−135には住所を有しないこと及び有限会社アート工房は、依然として大阪市阿倍野区阿倍野筋4−22−4に住所を有することを立証するために甲第6号証の1として和歌山地方法務局宛の登記簿謄本申請書の写とその返事写及び第6号証の2として大坂法務局発行の大阪市阿倍野区阿倍野筋4−22−4に住所を有する有限会社アート工房に関する登記簿謄本を提出する。

以上から明らかになったことは、本件商標の権利者である有限会社アート工房が、特許庁への住所変更届に何らの証明書を添付する必要のないことを奇貨として、和歌山県和歌山市大谷831−135に住所を変更したと装い、第三者からの調査を免れ、本件商標及び登録を得たその他4件の商標を正当な使用者との間で何らかの取引を行なうことを目論んでいることである。

請求人も当初は本件商標の権利者と譲渡の交渉を行なうことを検討したが、以上に述べた事実が判明したことにより、本件商標の無効審判請求を考慮していた。その矢先に本件商標の権利者から請求人当てにE−MAILが届き30,000ドルで譲渡してもよいとの申し出があった。まさに、商標法第4条第1項第19号の「不正の目的」をもって権利を取得したことを自白したと言える。この金額は、請求人にとって高額であった。値引きの交渉をしてもその1割までは下げてこないであろうと判断し本件請求を行なった次第である。

本件商標と同一の「GAUSSIAN」は、請求人が30年も前から米国で、「量子化学計算用電子計算機プログラム」に使用している商標で、量子物理や量子化学に携わる専門家が使用するコンピュータプログラムである。甲第6号証として米国での商標登録の事実を示す資料を提出する。わが国でも1987年から研究所や大学で使用されている。当該プログラムのバージョンアップされたものが、Gaussian90、Gussian92、Gaussian94、Gaussian98などとして市場に提供されてきた。また、このプログラムは、大学生の教育に用いられているため、請求人は、1993年に「電子構造論による化学の探究」という題名で書籍を発行した。第二版が1996年に発行され、その日本語への翻訳文が1998年初頭に日本で発行されている。その抜粋写しを甲第8号証として提出する。

1987年から2000年までの売上高を示す資料(請求人作成)を甲第7号証として提出する。また、世界各国における販売数量を示すリスト(請求人作成)と当該プログラムの価格表の一部を、各々甲第9号証及び甲第10号証として提出する。当該価格表に上記の書籍「電子構造論による化学の探究」がマニュアルとして購入者に渡されている。数年前から盛んになってきたインターネット上での請求人のホームページには、1990年から掲載されており誰でもアクセスできる状態にある(甲第11号証(請求人のホームページ抜粋写)。当該商品は、この分野における唯一のコンピュータプログラムといっても過言ではないほどに専門家の間で使用され周知のコンピュータプログラムである。よって、商標「GAUSSIAN」は、本件商標登録出願日である1999年6月10日には、請求人が「量子化学計算用電子計算機プログラム」に使用する商標として周知されていたものである。よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものであるから無効とされるべきである。

3 上述したように、本件商標の権利者は、請求人に対しUS30,000ドルで譲渡したいとe−MAILで連絡してきた(甲第12号証:当該e−MAILの一番上に表示されている「Noton、Nanette」は、請求人の米国における代理人であり、請求人の担当者であるDavid Moses氏が本件商標の権利者から受け取ったe−MAILを転送したものに対して「レビユーして返事する」との返事をDavid Moses氏へ送ったものの写しである。中央より下部に本件商標の権利者のメッセージがみられる)。甲第13号証の1は、上記e−MAILのコピーを受け取った請求人の代理人から本件商標の権利者の北山氏という上記e−MAILを請求人に出した者に対するe−MAILの写しであり、甲第13号証の2は、それに対する北山氏から請求人の代理人宛e−MAILの写しである。そこにみられる「Gaussian98W」という表示は、「Gaussian98バージョンのWindow版」の意味であり、その価格をUS1,500ドルとして計算し、20個分に当る30,000ドルを請求するという意思表示である。上述したように本件商標の権利者は、第三者が使用しているコンピュータプログラムを指定商品とする数件の商標を無断登録している。出願したが本人が既に登録していたため拒絶された商標登録出願もある。商標「GAUSSIAN」は、「量子化学計算用電子計算機プログラム」を使用する量子物理や量子化学に携わる専門家の間では本件商標の出願前から周知されているコンピュータプログラムの商標であることは提出した証拠資料で立証されている。商標法第4条第1項第19号は、このような行為を咎めて「不正の目的」を有する出願を拒絶するために規定されたものであり、本件はまさにこの規定に該当する典型的な事件であるといえる。

第3 被請求人の答弁

被請求人は、何ら答弁していない。

第4 当審の判断

1 請求人に係る「Gaussian」及び「ガウシアン」の商標(以下、「引用商標」という。)の周知性について

(1)請求人 ガウシアン・インコーポレーテッド(営業名「Gaussian,lnc.」)の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。

(ア)甲第8号証によれば、請求人の発行に係る1998年3月出版の書籍「電子構造論による化学の探究 第二版(日本語版)」の序章には、「本書は、計算機科学の有用性や操作を説明するための入門書として書かれている。(中略)本書に掲載されている例題や演習は、計算機科学のコンピュータプログラムであるGaussianシリーズ(特にGaussian94)を用いて作成された。」との記載が認められる。また、同書の「原著者と訳者について」の頁には、「原著者の一人は、ジョン・ポープル(Jhon Pople)教授の指導の下、化学博士号を取得した」との記載が認められる。さらに、同書の「訳者序文」の頁には、「本書の英語版は、米国の数多くの大学で教科書として用いられており、(中略)また、有名なプログラムGaussianのテキストとしても最適であろう。」との記載が認められる。

(イ)異議甲第9号証によれば、ガウシアン・プログラムは、全世界に8,654本、日本国内においては、1,963本の販売されたとの記載が認められる。

(2)さらに、職権により調査した結果、量子化学の計算プログラム「ガウシアン」について、以下のような新聞記事がある。

(ア)数学者に化学賞 科学のノーベル賞を締めくくる化学賞はウォルター・コーン・カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(75)とジョン・ポープル・ノースウエスタン大教授(72)に決まった。(中略)ポープル教授はさらに、70年から量子力学を使って化学を研究する量子化学の計算プログラム「ガウシアン」の開発、改良を進めた。(「科学よみもの」米大教授8人にノーベル賞 1998年10月15日 共同通信)

(イ)化学賞は、米カリフォルニア大サンタバーバラ校のウォルター・コーン教授(75)、米ノースウエスタン大のジョン・ポープル教授(72)。(中略)また、ポープル教授は、コンピューターを使った量子化学の計算プログラム開発に力を注ぎ、60年代にGAUSSIAN(ガウシアン)−70というプログラムを発表。操作が簡単で精密な結果が出せるため世界に広がり、化学全般の分野で標準的な道具として利用されている。(ノーベル自然科学3賞の内容 知の領域拡大に貢献 1998年10月15日 読売新聞 東京夕刊)

(3)以上によれば、引用商標は、本件商標の商標登録出願以前より、請求人に係る量子化学の分野における計算プログラムとして、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されていたものというのが相当である。

2 本件商標の目的について

請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1)甲第12号証によれば、2002年5月22日に、本件商標の権利者より請求人に宛てた電子メールにおいて、本件商標の登録後に請求人が日本国内で本件商標と同一又は類似の商標を使用している事実を発見したこと及び本件商標の権利者は、当面において本件商標を使用する意志はなく、合理的な条件によっては権利の移転するつもりがあることを伝えていることが認められる。

(2)甲第13号証の2によれば、本件商標の権利者は、標準価格1500米ドルの「Gaussian 98W」の20部と同等の価格により、本件商標を移転したい旨を提案していることが認められる。

(3)以上よりすれば、本件商標は、日本国内及び外国において周知な引用商標と同一又は類似の商標であって、引用商標がわが国において「コンピュータプログラムを記録させた電子回路・同磁気ディスク・同光ディスク・同CD−ROM・同磁気テープ」について未だ登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせることを目的として先取り的に本件商標を登録出願し、権利を取得されたものといわざるを得ない。

3 むすび

したがって、本件商標は、その余の請求人の主張について論及するまでもなく、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものというべきであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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