Trademark Appeal Case
直貼の記述性と周知性
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 平成11年異議第91414号 |
|---|---|
| 審判種別 | 異議 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
1 本件商標
登録第4288662号商標(以下「本件商標」という。)は、「直貼り」の文字を標準文字とし、平成10年4月22日登録出願、第1類「のり及び接着剤(事務用又は家庭用のものを除く。)」を指定商品として、平成11年7月2日に設定登録されたものである。
2 登録異議の申立の理由
(1)本件商標は、「直に貼るもの」を容易に理解させるため、指定商品との関係では、単にその商品の品質、使用方法を普通に用いられる方法で表示したにすぎず、自他商品の識別機能を果たすことができない。
(2)本件商標が識別力を有しないとしても、登録商標「直貼」が異議登録申立人(以下「申立人」という。)所有の周知・著名な商標として認識されるに至っていることから、本件商標を商標的態様で指定商品に使用すれば、これに接する取引者又は需要者は、あたかも申立人と関係のある商品であるかの如く、出所について誤認、混同を生じるおそれがある。
(3)本件商標は、周知・著名な申立人所有の周知・著名な商標「直貼」の使用商品の類似範囲を超えた指標力を希釈化し、その信用や名声にただ乗りするものである。
(4)したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第15号、同第19号に違反して登録されたものであるから、その登録は取り消されるべきである。
3 本件商標の取消理由
本件登録の異議の申立てがあった結果、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するとして通知した取消理由は、要旨以下のとおりである。
<取消理由>
申立人の提出に係る甲各号証によれば、商標「直貼」(以下「申立人商標」という。)が本件商標の登録出願時には申立人の業務に係る商品「温熱用具」(化学物質の酸化反応を利用してなる発熱具)の商標として取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認められる。
そうとすれば、本件商標は、申立人の業務に係る商品「温熱用具」(化学物質の酸化反応を利用してなる発熱具)を表示するものとして取引者・需要者の間において広く認識されている商標と酷似する商標であって、申立人の信用や名声にただ乗りするものといわざるを得ないから、不正の目的をもって使用するものとみるのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。
4 商標権者の意見
(1)はじめに
商標権者は、申立人が上記温熱用具を販売する以前から本件商標「直貼り」を商品「接着剤」について使用している。したがって、引用商標がそれ自体単独で取引者需要者の間において広く認識されていたと認定した点、両商標が酷似しているとした点、申立人の信用や名声にただ乗りする不正の目的をもって使用するものと断定した点、のいずれについても承服することはできない。
(2)「直貼」の意味について
「はる」は、「或るものを他の物につけること」を意味する用語である。角川国語辞典(乙第1号証)では、「のり等で他の物につけること」の意味をもつ「貼る」と、「平たくつける」の意味をもつ「張る」とを掲げている。そして、「直貼」における語頭の「直」は「直接」と同義であって、「間に物をはさまないこと」を意味するのである。
したがって、「直貼」なる用語は、「貼(張)る物」についての概念或いは観念であって、他の物への貼り方が直接的か間接的か、すなわち「貼り方」を説明する用語であり、「他の物・場所に貼(張)って使用する商品」についてこれを使用した場合には、単に商品の使用方法を示す用語となり、商品識別機能を持たないことになる。
申立人の製造販売に係る商品「温熱用具」は、体に貼って使用するものであるから、この商品に「直貼」なる用語を使用した場合には、「体に直接貼る」との観念を生じることになり、この商品に使用しても、本来的に商品識別機能をもっているとはいえない。
(3)申立人商標の使用
商標権者は、申立人が「直貼」なる文字を商品「温熱用具」の包装、広告において表示していることは認める。しかしながら、申立人のこの文字は、「文字の外形をかたどった一回り大きい黒地の上に白抜きで直貼の文字を表すと共に、貼った位置を指示するように黒地の上又は下に黒い三角形を延設させた形態」または「文字の外形をかたどった一回り大きい黒地の上に直貼の文字を白抜きで表わした形態」となっており、しかも、必ず、申立人が昔から所有している商標「サロンシップ」及び「HISAMITSU+久光製薬」と共に使用されている。
これらのチラシ類や広告の内容からすれば、取引者需要者は、「サロンシップ温熱用具」を商標として認識できるものの、「直貼」自体は、直貼りして温熱効果が期待できる位置を指し示すために使用されていると認められ、商品の説明用語として認識してしまうといわざるを得ない。
申立人の包装容器の表現形態、新聞雑誌への広告内容、チラシやテレビ広告等の内容を総合すると、申立人の商品「温熱用具」に使用されてきた標章は、「直貼」と「サロンシップ」及び「HISAMITSU+久光製薬」の文字の組合せが一体的に使用されてきたものというべきであり、「直貼」の文字が単独で使用されて、その文字だけが独立して取引者需要者の間において広く認識されたものとはいえない。
(5)本件の商標「直貼り」の社会的背景(フローリングの接着事情)
雑誌「ゆか」の1991年5月号(乙第4号証)において、「直張りフローリング(遮音床)の歩みと現状」と題する報告が掲載されている。
ここにおいて「直張り」なる用語が使用されていることに注目しなければならない。床材はコンクリート床上に凹凸が発生しないように「平たくつけ」なければならないために、「張る」の用語が使用され.「直張り」の文字が使用されているのである。
この用語は、農林水産省が作成した「フローリングの日本農林規格」(昭和49年11月13日、農林省告示第1073号 平成3年7月23日改正、農林水産省告示第955号)においても使用されており、コンクリート床の上に根太を固定しその上に床材を張る「根太張用」と直接床材を接着剤で張る「直張用」に分けて規格が設けられている(乙第5号証参照)。
したがって、床材の業界においては、コンクリート床に直接接着剤で固定するフローリングを「直張りフローリング」と称せられており、「直張り」なる用語は、フローリングに関しては床材の取付方法を示す用語となっているのである。
(6)本件の商標「直貼り」の使用
商標権者は、接着剤のメーカーであり、上記の遮音床材の開発に参画した唯一の接着剤メーカーである(乙第4号証)。商標権者は前記床材の開発に関与した経緯から、直張りフローリングが広く採用されるように、平成2年に開発した1液湿気硬化型ウレタン系接着剤(KU888)に「直貼り」なる用語を採用してチラシに掲載した。
当時は、床材の業界においては「直張り」が定着してきていたが、接着剤のメーカーは、「物をはる」場合には、接着剤の柔軟性を強調できるように「貼る」の漢字イメージを持っている。そのため、「直張り」と「直貼り」のいずれが営業政策として良いのかについては決めかねていたのである。そのため日本語の表意文字の機能を利用して「直張りフローリングに適合した接着剤」のイメージを確立させるために、貼るべき物の概念「直張り」の漢字に改変を加えて「直貼り」なる名称を接着剤に採用すると共に、チラシの裏面では.「床材直貼り施工用」なる説明文を入れ直張りフローリングに使用できる接着剤「直張り」のイメージを創成しようとしたのである。
(7)不正な目的について
商標権者は、「直張りフロ−リングに適合した接着剤」のイメージを確立させるために、貼るべきフローリングの使用方法を示す「直張の」に改変を加えて「直貼り」なる名称を接着剤に採用し、平成2年4月から「直貼り」なる用語を使用して接着剤の拡販を開始している。商標権者の商標「直貼り」の使用は、申立人の温熱用具の発売開始前のことである。したがって、商標権者は、「直貼り」を申立人の商品とは無関係に使用を開始しているのであって、不正の目的の有無の問題が介入する余地はないのである。
第二に、直貼りや直張りは、貼(張)るべき物を直接貼(張)り付けるときに使用される商品識別力をもたない用語であり、いわゆる「ウイークマーク」に属するものである。仮に「直貼」が永年使用されて商品識別力を発揮するようになったとしても、他の商品においては同じ名称が使用され続けているから(例えば、直張りフローリング、シールやポスターを直貼する等)、その標章が商品識別力を発揮できる範囲は極めて小さいといわなければならない。したがって、常に商品と二人三脚の関係を維持し、申立人の「直貼」が一人歩きすることはないといわなければならない。
第三に、申立人の温熱用具(ハップ剤)は、取り外すことを前提に人体に貼り付けるものであり、接着剤は二つのものを永久に固定することを目的として使用されるものである。つまり、商品との関係において「はる」意味が異なり、イメージとして混同が生じることはあり得ない。
第四に、本件商標権の指定商品は、事務用及び家庭用のものを除いた工業用の「のり及び接着剤」であり、申立人の温熱用具(ハップ剤)は医療用具である。後者は薬局又は薬店で販売されて家庭用に使用され、工業用の接着剤とは、全く異なる流通経略において取引され、小売される場所も全く異なっている。
これらの点を総合すると、百歩譲って申立人の「直貼」が広く知られているとしても、商標権者は、接着剤について商標「直貼り」の使用を約10年にわたって継続してきているにもかかわらず、商標権者の接着剤と申立人の湿布剤との間で出所の混同が生じた事実は唯の一度もない。申立人の主張および証拠を総合しても、両商品が出所の混同を生じさせた事実を確認できるものは何一つ見当たらない。
申立人が湿布剤の販売を開始した当時には、商標権者の直張りフローリング用の接着剤はすでに市場において広く使用されていたのであって、上記商品の性質や販売ルートの相違ならびに商標権者が接着剤のトップメーカーであり、申立人が湿布のトップメーカーであることを勘案すると、商品間において出所の混同が生じることがなかったのは、当然のことであり、申立人の出所表示機能を希釈化させることがないのは明らかである。また、商標権者が本件商標を出願するに際しては不正な利益を得る目的や申立人に損害を与える目的を持ち得なかったことも明らかである。
5 当審の判断
(1)商標法第3条第1項第3号について
本件商標は、前記のとおり「直貼り」の文字よりなるところ、申立人は、本件商標の指定商品との関係から、「直貼り」の語は、商品の品質、使用方法をもって普通に使用されている旨主張するが、前記のとおり「直貼り」の語は成語として熟していない造語と認められるものではあるが、本件商標の「直貼り」についてみると、「間にへだたりがないこと、直接」等をイメージさせる「直」の文字と「はること、はりつけること」を意味する「貼り」の文字との組み合わせから、全体として「直接にはること」「間にへだたりがなくはること」ことのイメージないし連想が生じるにとどまるものであって、この語のみではいかなるものからいかなるものへ「直に貼る」のか理解し得ないものであり、「直貼り」の文字のみでは、商品の品質、使用方法を具体的に表しているものとは判断することができない。
そして、申立人は、本件商標がその指定商品の分野において、商品の品質、使用方法を表示するためのものとして普通に使用されている証拠の提出はない。
そうとすれば、本件商標は、その指定商品について使用しても、商品の品質、使用方法を表示するものということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものということはできない。
(2)商標法第4条第1項第15号及び同第19号について
申立人の提出に係る証拠によれば、申立人商標が商品「温熱用具」について使用されていることは認められるとしても、申立人商標は、「文字の外形をかたどった一回り大きい黒地の上に白抜きで直貼の文字を表すと共に、貼った位置を指示するように黒地の上又は下に黒い三角形を延設させた形態」又は「文字の外形をかたどった一回り大きい黒地の上に直貼の文字を白抜きで表わした形態」で使用され、しかも、申立人のハウスマークと認められる「Hisamitsu」「久光製薬」の文字と、商品「温熱用具」のペットマークと認められる「サロンシップ」の文字及び後ろ向きで体の腰の部分位置を表した人体の図形と共に使用されているものであり、申立人商標が本件商標の登録出願時に申立人の業務に係る商品の商標として取引者、需要者の間に広く認識されていたものとするに足りる証拠とは認め難い。そして、他に客観的にそのことを裏付ける証拠は見出せない。
そうとすれば、前記のとおり、申立人商標が本件商標の登録出願時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く知られていたということはできないから、申立人商標が「温熱用具」に使用されているとしても、申立人商標が、申立人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されていると認めることは困難である。
そうとすれば、本件商標は、その指定商品に使用した場合、取引者、需要者がこれより申立人商標を直ちに連想、想起するものと認められず、本件商標は、申立人又は申立人の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものと判断するのが相当である。
また、本件商標は、これをその指定商品に使用した場合、不正の目的をもって使用をするものともいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第19号に違反して登録されたものではない。
(3)結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第15号及び同第19号に違反して登録されたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する
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