結論テキスト
審判費用は、被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2000−35266(T2000−35266/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
本件登録第4263430号商標(以下「本件商標」という。)は、「イルガスロン」の文字を標準文字により書してなり、第5類「薬剤」を指定商品として、平成10年3月3日に登録出願、同11年4月16日に設定登録されたものである。
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第17号証(枝番号を含む。)を提出している。
(1)引用商標
請求人が引用する登録第2150317号商標(以下「引用A商標」という。)は、「ガスロン」及び「GASLON」の文字を二段に横書きした構成よりなり、第1類「化学品(他の類に属するものを除く)薬剤、医療補助品」を指定商品として、昭和62年1月19日に登録出願、平成1年6月23日に設定登録、その後、同11年7月13日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。
同じく、請求人が引用する登録第2380832号商標(以下「引用B商標」という。)は、「ガスロンN」の文字を書してなり、第1類「化学品(他の類に属するものを除く)薬剤、医療補助品」を指定商品として、平成1年2月15日に登録出願、同4年2月28日に設定登録、その後、同13年12月18日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。
(2)無効原因
(ア)商品の競合
医薬品は、(a)市中の薬局ないしは薬店で販売される「一般用医薬品(大衆薬)」と(b)専ら医師の判断により患者に対し治療・診断のために使用される「医療用医薬品(医家用薬)」に大別できる(甲第3号証の1)。
本件商標と引用B商標は、いずれも「医療用医薬品」として「消化性潰瘍治療剤」に使用されている。「医療用医薬品」としての「消化性潰瘍治療剤」は、胃液・胃酸等の分泌を抑える「攻撃因子抑制型」と、胃粘膜の血流・胃粘液等を増加させ、潰瘍をできにくくさせる等の「防御因子増強型」とに大別されるが、本件商標と引用B商標は、ともに「防御因子増強型」の「消化性潰瘍治療剤」に使用されているだけでなく、主成分がマレイン酸イルソグラジンである点において共通している(甲第3号証の2及び甲第4号証)。
本件商標が使用されている商品は、引用B商標の後追い商品であって、両者は真向から競合する関係にある。
(イ)医療用医薬品の流通経路と出所混同のおそれ
(a)本件商標が使用された場合の出所の混同
医療現場においては、患者を診察した医師が、その症状に合せて薬剤を選択し、処方箋にその薬剤の商標を記載する場合が多い。患者は、当該処方箋を所定の薬局に提示して当該薬剤を入手するが、患者自身が処方箋に使用されている商標を手掛かりにして自ら「医療用医薬品」を選択するということは稀有である。
してみれば、「医療用医薬品」に使用された商標の機能は、「患者」ではなく薬剤を選択する医師、処方を担当する薬剤師、医師又は薬剤師の指示を受けて薬剤の購入に当たる購買担当者あるいは医薬品卸等の医療関係者(以下「医療関係者」という。)に対して発揮される。
したがって、本件商標が使用された場合に商品の出所混同の蓋然性の判断は、医療関係者を中心においてなすべきである。
(b)「医療用医薬品」の広告宣伝
医薬品メーカーによる「医療用医薬品」についての広告宣伝活動は、当然医療関係者に向けられているが、その中でも処方箋を発行する医師へのウエイトが極めて大きい。
そして、「医療用医薬品」に関する広告宣伝活動は、「一般用医薬品」の場合とは異なり、テレビコマーシャル等の大衆用マスメディアではなく、対象を医療関係者に絞り、各種専門紙誌への広告の他、医薬品メーカーの営業担当者(通称MR=Medical Representatives:医薬情報担当者という。)による医療関係者(特に医師)への直接接触によって行われる。特に、新薬である「医療用医薬品」についての商標の広告宣伝は、医薬品メーカーが組織力を傾注して行うので、極めて短期間に周知化し、一端、医療関係者に浸透すれば、その周知度の持続性は極めて高いのが一般的である。
そして、このことは引用B商標にそのまま妥当する。
(c)「医療用医薬品」の医療関係者以外への広告禁止
「医療用医薬品」は、昭和42年の厚生省薬務局長通達により、医療関係者以外の一般人を対象とする広告を禁止されている(甲第3号証の1及び甲第5号証)ので、一般大衆には周知に至らないのが通例である。
よって、「医療用医薬品」に使用される商標については、医療関係者間で広く知られていれば、いわゆる「周知商標」と認定されて然るべきである。
(ウ)引用B商標の周知性
(a)引用B商標の使用開始時期
本件審判請求人(以下「請求人」という。)は、多大な研究開発費を投じてマレイン酸イルソグラジンを主成分とする防御因子増強型の消化性潰瘍治療剤(以下「消化性潰瘍治療剤」という。)を開発し、1988年12月19日に厚生省の認可を受け(甲第6号証)、「ガスロンN」という商標をもって、前記消化性潰瘍治療剤を平成元年4月4日に世界で初めて上市した。 それ以来、請求人は、多大な労力を費やして、その広告宣伝活動に努め今日に至っている(甲第7号証ないし甲第11号証)。
(b)「ガスロンN」の広告宣伝活動の成果
請求人は、前述のとおり、引用B商標を使用した「医療用医薬品」の上市以来、それが最新の消化性潰瘍治療剤の一つであると認識されるように、日本全国の医療関係者に対し、500人以上の医薬情報担当者(延べ人数ではない。)を動員して、その周知徹底を図ってきた。
また、請求人は、医療関係者が購読する専門紙誌にも、上市以来、現在に至るまで多数回広告してきた(甲第12号証の1ないし4)。因みに、専門紙誌(甲第12号証)は、医療関係者必読のものであって、それらは通常各病院毎に購入するものである。1996年12月31日現在、内科医療施設の従事者は72,746人であり、消化器科医療施設従事者の8,296人と合わせると81,042人となる(甲第12号証の5)。
してみれば、医療関係者全体に対する専門紙誌等の発行部数の占める割合は決して少なくない。
請求人による上述の営業努力の結果、引用B商標は、請求人の製造・販売する消化性潰瘍治療剤を指称するものとして、本件商標の登録出願時の平成10年3月3日時点では既に、医療関係者間において広く認識されるに至っていた。
この事実は、日本製薬工業協会をはじめとする業界団体の認定(甲第13号証の1ないし5)によっても明らかである。
引用B商標を使用した「消化性潰瘍治療剤」は、甲第14号証の1ないし21の販売実績(ラウンドナンバー)にみられるように、請求人の主力商品の1つとして、平成元年の上市以来、順調に売上を伸ばし、平成4年以降は、年間40億円を超えるに至っている。
(c)「ガスロンN」の市場占有率
上述したように、消化性潰瘍治療剤は、請求人が新規に開発した薬剤であることから、その特許権(特許第919103号)並びにいわゆる「先発権」による保護とも相俟って、請求人の引用B商標を使用した消化性潰瘍治療剤の市場占有率は、正しく100%を長期間維持してきた。
現在では、消化性潰瘍治療剤は、数社から販売されているが、それでもなお、請求人の引用B商標を使用した「消化性潰瘍治療剤」は、マレイン酸イルソグラジンを含有する消化性潰瘍治療剤の中で90%以上の市場占有率を有しており、引用B商標は、マレイン酸イルソグラジンを主成分とする防御因子増強型の消化性潰瘍治療剤のいわば代名詞的な機能を果たしている。
なお、上述の「先発権」とは、厚生省の薬務行政の方針により、新薬を製造販売しようとする先発者に対して、承認後一定期間(通常薬価基準収載日から6年)だけ副作用の報告を義務付ける代わりに、他社に対して同種の医薬品(後発品)の製造承認を認めないという行政上の規制(すなわち、先発者の相対的優遇を示す擬権利)をいう。
(d)以上のことから、本件商標と引用B商標との類否判断に際しては、医療用医薬品の流通経路についての特有の事情並びに引用B商標の周知著名性を参酌すべきである。
(エ)本件商標の商標法第4条第1項第11号該当事由
(a)本件における商標の類否判断のあり方
本件は無効審判事件であるから、立証された事実関係に基づき審理し、個別具体的に判断すべきである。すなわち、審査段階において散見されるような機械的な外観・称呼・観念についての判断と異なり、提出された証拠に基づき、その周知著名性をはじめ、現実の商取引において商標が需要者に与える印象、記憶、連想等を総合勘案して個別具体的に判断すべきである。
(b)引用A商標及び引用B商標について
請求人は、引用A商標の登録後に、引用B商標の登録を取得したが、専ら後者のみを使用して今日に至っている。
しかしながら、「ガスロンN」の要部である「ガスロン」も独立して自他商品識別標識としての機能を発揮するものである。すなわち、医療用医薬品の分野においては、薬剤の剤形又は1剤形あたりの用量を区別するために、商標の末尾にアルファベットの1文字又は2文字を付加することは何ら珍しいことではない(甲第15号証)。
したがって、引用B商標の使用は、引用A商標の使用でもある。
(c)本件商標及び引用B商標の称呼類似
本件商標からは、「イルガスロン」の称呼以外に「ガスロン」の称呼をも生ずる。すなわち、本件商標は、医療関係者間で周知著名となっている引用B商標の文字の一部を意図的にとり入れ、これに「消化性潰瘍治療剤」の一般名称である「マレイン酸イルソグラジン(Irsogladine Maleate)」における「イル」の文字を結合した構成よりなるものと当業者であれば、容易に推察し得る。このことは「マレイン酸イルソグラジン」の英文名称が「Irsogladine Maleate」であることを考えれば明らかである。
したがって、医療関係者が本件商標に接するときには、当業界において日常的に取引され、その周知性によって強く記憶に定着している引用B商標の構成中の「ガスロン」の文字部分が視覚に飛び込む現象が生じ得る。そのために、本件商標の構成文字中、「ガスロン」の文字部分は、分離して認識され、「ガスロン」の称呼をも生ずる。
なお、本件商標は、同書・同大・同間隔で一体的に書してなるので、「イルガスロン」の称呼しか生じないとの判断は、取引界の実情から遊離した誤断である。
他方、引用B商標は、その片仮名文字及びアルファベットに相応して「ガスロンエヌ」の称呼を生ずるほか、上述のとおり、その構成中の「N」が典型的な商品の種別記号であって、それ自体何ら識別力を有しないので、自他商品識別標識としての機能を果たす要部は「ガスロン」にあるから、単に「ガスロン」の称呼をも生ずる。
以上のとおり、本件商標からは「イルガスロン」のほかに「ガスロン」の称呼をも生ずるのに対し、引用B商標からは、「ガスロンエヌ」の称呼のほかに、「ガスロン」の称呼をも生ずるから、両者は「ガスロン」の称呼を共通にし、かつ、指定商品を同一又は類似にする類似の商標といわなければならない。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
(オ)本件商標の商標法第4条第1項第15号該当事由
(a)本件商標は、「マレイン酸イルソグラジン」の「イル」の文字に需要者間で周知著名な引用B商標の要部である「ガスロン」の文字を付加してなるものであるから、医療関係者に請求人使用の引用B商標を即座に想起させる。
引用B商標を使用した消化性潰瘍治療剤は、上市以来、現在に至るまで市場占有率90%以上を占めてきた。本件商標を使用した薬剤がその市場に置かれると、医療関係者は、引用B商標の強い印象のせいで、本件商標中の「ガスロン」の文字に注意を惹かれ、請求人の引用B商標を使用した薬剤の改良シリーズ商品又は姉妹品であるかの如く直感するおそれがある。すなわち、本件商標は、引用B商標と商品の出所について混同を生ずるおそれがあるといわざるを得ない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(b)本件と同様に、「医療用医薬品」に使用され、需要者間で周知著名化しており、後願登録商標中に、先願引用登録商標の文字が含まれている共通点を有する審決例(甲第16号証の1及び2)がある。当該審決と同様に、本件商標に接する需要者は、請求人の取り扱いに係る商品であるかの如く商品の出所について混同するおそれがある。
(c)一般論として、新聞やテレビ等でしばしば医療事故が報じられるところ、医療事故は、その防止に最大の注意を払っても、なお生じ得る。医薬品は、一歩間違えば人命にかかわるため、誤投与のおそれに繋がる出所の混同を生ずるようなものは回避されるべきである。
機械的な外観・称呼・観念の判断に拘り、画一的な手法によって一応の説明ができるからといって直ちに両商標が非類似であると即断したり、両者が非類似であれば混同も生じないと判断すると、医療事故を防止するどころか拍車をかける結果になる。間違いの生ずる可能性のある商標の使用は医療事故を極力抑制する観点からも排除されるべきである。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
(カ)本件商標の商標法第4条第1項第19号該当事由
引用B商標は、消化性潰瘍治療剤に使用されている商標として、遅くとも本件商標の出願時、医療関係者間に周知著名となっていた。
本件商標の使用に係る薬剤は、引用B商標の使用に係る薬剤と同じ消化性潰瘍治療剤である。新薬の開発には、多大な開発費の先行投資、副作用が生じた場合の保障に関する多大なリスク負担、薬効の広告宣伝活動に努めるための多大な労力の投入等が不可欠である。成功した新薬の特許権及び先発権の満了をまって後発競合品は上市されることが多い。被請求人は、請求人の「消化性潰瘍治療剤」の特許権が平成9年11月29日に満了するや後追い商品を上市したものであり、そのこと自体に問題はないが、引用B商標の要部である「ガスロン」の文字が周知著名となっていることを当業者として百も承知していながら、敢えて、「ガスロン」の文字をフリーライドした。すなわち、被請求人は、造語である引用B商標の要部「ガスロン」とは別の商標を採択できた筈であるにも拘らず、本件商標を採択したものであり、不正の目的を有するものである。主成分を同じくする同一薬剤について、先発者の商標の全てを借用する後発者の商標選択を安易に認めることは、当該薬剤を開発した先発者の企業努力に便乗することを黙認し、後発者が企業努力をしないことを助長することになる。請求人が長年多大な努力を払って築き上げてきた引用B商標に化体した業務上の信用への被請求人による只乗り(フリーライド)は、公正な競争とはいえず、商標法の精神に反する。
さらに、「イル」の文字が、需要者間において周知著名な引用B商標の要部「ガスロン」の文字の前にあるから、本件商標は、「イルガスロン」と一連に称呼・表記されるし、引用B商標と外観・称呼・観念のいずれにおいても非類似であると被請求人は言い逃れ、フリーライドの意図を隠蔽する手段としていることが容易に推認し得る。被請求人による本件商標の採択には、明らかに不正の意図が窺われ、商標法は、このような行為を許すべきではない。
よって、本件商標は第4条第1項第19号に該当するので、その登録を無効とすべきである。
(3)被請求人の答弁に対する弁駁
(ア)商標保護の本質
商標法は、商標使用者の業務上の信用の維持を図ることによって、産業の発達に寄与し、需要者の利益をも保護することをその目的としている。すなわち、商標法は、商標に化体した業務上の信用を保護することを目的としており、商標の使用者の業務上の信用は、商品等に特定の商標を継続的に使用した結果、当該商標の自他商品識別機能、出所表示機能、品質保証機能が発揮されて蓄積される。そして、業務上の信用が蓄積された結果、当該商標は独自の顧客吸引力を有することになり、そこに一定の財産的価値が形成される。したがって、商標の使用者は、業務上の信用を蓄積することに注力し、広告宣伝活動を行うのである。
商標法の保護対象が「業務上の信用」であるからには、これを毀損するおそれのある他人の商標は商標登録されるべきではない。業務上の信用の毀損には、業務上の信用の無断利用、いわゆる「只乗り(フリーライド)」が含まれる。「只乗り(フリーライド)」を許すと、只乗りされた商標の指標力が稀釈化されるのみならず、当該商標が周知著名である場合には、出所について誤認・混同を生ずるおそれがあり、商標法の目的の達成に支障をきたす。
したがって、信用の化体した商標を保護し、請求人が現実に直面している混同のおそれを慎重に判断すべきであり、画一的な外観・称呼・観念の類否判断によって結論を導くべきではない。
(イ)本件商標の第4条第1項第11号該当事由
(a)被請求人は、「イル〇〇〇」と「〇〇〇」の併存登録例を挙げ、これらと同様に本件商標も非類似であると主張するが、これらと本件は事案を異にするので、参考にはならないし、当該登録例中には、本件商標と引用B商標のように、双方が全く同一の商品に使用されているものは1件も見当たらない。
(b)改正審査基準は、周知著名商標の更なる保護の観点から、過去の審決や登録例の有無に拘らず適用するとの特許庁の基本方針に立つものであり、本件商標の登録査定時に実施されていなかった改正審査基準が本件に適用されるべきではないとの被請求人の主張は失当である。
(c)請求人は、「イル」が「マレイン酸イルソグラジン」の略称であると主張しているのではなく、本件商標が一般名称「マレイン酸イルソグラジン」中の「イル」の文字に引用B商標の要部である「ガスロン」の文字を付加したにすぎないと容易に認識されると述べたものである。
(ウ)本件商標の第4条第1項第15号該当事由
(a)被請求人は、医療関係者間で引用B商標が周知であれば、なおさら、本件商標と引用B商標との間に混同が生ずるおそれはないと主張する。
しかしながら、医療関係者は専門家であるからこそ、本件商標に接する場合、広く浸透した引用B商標と同じマレイン酸イルソグラジンを有効成分とする医薬品と直感する可能性が高く、本件商標からマレイン酸イルソグラジン製剤以外の医薬品を真っ先に想起することは困難であるので、混同の可能性がないとはいい難い。
(b)被請求人は、病院における医薬品の購入システムに鑑み、混同を生ずるおそれがないと答弁しているが、その主張は医療用医薬品の商標に混同はあり得ないという極論に等しい。最近では医薬分業が進み、病院等で発行した処方箋を調剤薬局に持参すれば、所要の医薬品を購入できるシステムになっている。調剤薬局は種々の病院から依頼される医薬品を処方しなければならず、あらゆる医薬品を扱う。特定の医薬品と同じ有効成分よりなる別会社の医薬品を扱う場合もあるから、混同を生ずるおそれがないとは決していえない。
(c)最近では、最終需要者である患者にも、いかなる薬を投与しているかを知らしめるように、調剤薬局は、当該医療用医薬品の商標を調剤袋に記入するのが一般的となっている。患者にとっては、ある病院で本件商標を使用した薬を投与され、別の機会に、別の病院で引用B商標を使用した薬を投与されるということも起こり得るので、出所の混同を起こす可能性がある。
したがって、本件商標は第4条第1項第15号に該当する。
(エ)本件商標の第4条第1項第19号該当事由
上述のとおり、請求人は、消化性潰瘍治療剤に引用B商標を長年に亘り独占使用してきており、引用B商標は、医療関係者間で周知著名な商標となっているので、当該医薬品の後発品を製造販売しようとする者は、いずれも請求人の引用B商標の存在を当然認識していた筈である。
それにも拘らず、被請求人は、本件商標を採択しているから、引用B商標に化体した業務上の信用を無断利用するものであり、商標法第4条第1項第19号に規定する不正目的の一態様というべきである。
したがって、本件商標は第4条第1項第19号に該当する。
なお、被請求人は、不正の目的をもって登録を受けていないと答弁しているが、請求人の周知著名な引用B商標の要部である「ガスロン」をそっくりそのまま含む本件商標を全く同じ「マレイン酸イルソグラジン製剤」に使用することから、不正目的がなかったとは考え難い。
(オ)本件と事案の一部を共通にする判決[平成10年審判第35358号事件に対する平成11年(行ケ)第309号審決取消請求事件]
上記判決では、「(a)商標の類否及び混同のおそれの存否判断に際し、需要者が着目する文字部分をもって混同のおそれを判断すべきこと(b)医療専門家のみならず患者における混同のおそれも判断すべきこと(c)商標間の類似の程度に鑑みると、医師であっても商品の出所について混同を生ずるおそれがあること(d)引用商標の周知著名性を参酌すべきこと(e)先発商標が周知著名な場合には、後発商標の構成中の何文字かが共通していれば、両商標は類似し、商品の出所について混同を生ずるおそれがある。」と判示している。
本件商標は、周知著名な引用B商標の要部である「ガスロン」の文字をその構成中にそっくり包含しているから、商品の出所について混同を生ずるおそれが高いと判断すべきである。
(カ)結語
以上のとおり、本件商標は、引用B商標と互いに紛れるおそれのある類似の商標であり、また、その指定商品も同一又は類似であるほか、実際の使用商品も同一であるし、引用B商標と商品の出所について混同を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び第19号に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項第1号により無効とすべきである。
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第7号証(枝番号を含む。)を提出している。
(1)本件商標の商標法第4条第1項第11号不該当理由
(ア)商標の類否の基本は商標の全体構成からそれを判断することにある。
そうすると、本件商標「イルガスロン」は、片仮名文字をもって、同書、同大、同間隔に書され、しかも、「イルガスロン」の称呼が6音構成で「イル」に続く「ガ」の音が極めてスムーズに続くので、「イルガ」と平板状かつ滑らかに称呼され、さらに、「ス」の音にややアクセントを置いて、「スロン」と一気に称呼されるというのが自然である。
よって、本件商標の構成中の「ガスロン」の文字は、「イル」の文字と完全に融合しており、それが独立した商標として認識されないことは明らかである。
(イ)請求人は、一般名称「マレイン酸イルソグラジン」の文字中に「イル」の文字があるを根拠に、需要者が本件商標をみるとき、引用B商標の周知性から記憶に定着した「ガスロン」の文字が視覚に飛び込むと主張している。
しかしながら、請求人は、「イル」が「マレイン酸イルソグラジン」の略称であること又は略称として業界で通用していることを示す証拠を全く提出しておらず、被請求人の知る限り、当該商品の取引業界において、そのような事実は一切見当らない。
そればかりか、本件商標及び「ガスロン」と同様の関係にある商標同士が併存して登録されている(乙第1号証ないし乙第7号証)。
したがって、単に一般名称のほんの一部に存する文字「イル」が本件商標の冒頭にあることを理由に、恰も「イル」の文字が商品の成分名称を表わす言葉であるかのように独断し、本件商標より「イル」が分離され、残りの文字部分によって、本件商標が認識されるとの請求人の主張は、何ら根拠のない偏見であり、受け入れられない。
本件商標の構成中の「イル」の文字は、医薬品の成分名称を表わすものではなく、しかも、それに続く音との結び付きも極めて自然であって、本件商標は、「イルガスロン」とよどみなく一連に称呼でき、かつ、外観上のまとまりのよさとも相俟って、商標全体が一体不可分であるので、その構成中の「ガスロン」の文字のみが独立して認識されることはない。
(ウ)請求人は改正後の審査基準を根拠として、本件について「類似しない」と判断するのであれば、審査基準の存在意義は失われるとまで主張している。
しかしながら、審査基準には、「結合商標の類否は、その結合の強弱の程度を考慮し、例えば、次のように判断するものとする。但し、著しく異なった外観、称呼又は観念を生ずることが明らかなときは、この限りでない。」と記載されている。
本件商標は、正に、当該基準における但し書きに相当するものであり、外観のまとまり感及び称呼の一連性、よどみない一体感と相俟って、構成文字の全体が一体的に融合し、引用A商標及び引用B商標と別異の商標となっている。
請求人は、本件商標の無効の根拠として、登録査定時(平成11年2月22日)に実施されていなかった改正審査基準を挙げているが、これ自体、登録査定に瑕疵があったことを対象理由とする無効審判制度の趣旨にそぐわない。
(2)本件商標の商標法第4条第1項第15号不該当理由
(ア)請求人は、医療用医薬品の分野では、医療関係者に対し、商標の機能が発揮されると主張している。
しかしながら、医薬品の取り扱い専門家は、当然、一般人よりも注意深く医薬品を選別する。しかも、請求人主張のように医療関係者間に引用B商標が周知されているのであれば、なおさら、引用B商標と本件商標とは明確に区別できるから、混同を生ずるおそれもない。
(イ)病院や医院では同一成分の薬剤を採用する場合、1社のものを置くのが一般的である。また、国立病院や大病院では、医薬品を購入する際に薬剤科長が購入計画案を立てる。当該計画案は、院内作成の使用医薬4品リストに登載の薬品の中から、病院の諸事情及び予算などを考慮して策定される。
そして、購入は、薬事委員会等の承認を経て指名競争入札により実行される。当該入札は、販売等の実情、従業員数、資本額、その他経営規模や状態などから資力及び信用ある者を指名して競争させる。
医薬品は、こうした手順を踏み、慎重に選択して購入するシステムを持つので、「混同を生ずる」との請求人の主張は杞憂に等しい。
(ウ)本件商標の構成文字中の「イル」の文字は、物質名「イルソグラジン」の「イル」に由来すると容易に推認し得るから、「イル」の文字の識別性が高いとはいえないとの請求人の主張は全く根拠がない。
してみれば、請求人が敢えて挙げた審決例のうちのセレガスロン(甲第16号証の2)の場合と本件審判事件とは何ら変わらないから、同一視することができる。
(エ)請求人の懸念する医薬品の誤投与の問題は、商標に限ったことではなく、医薬品を取り扱う者が業務上当然になすべき注意義務の懈怠に起因するものであり、医療事故発生の本質的問題を直視していない者の言い分である。
(3)本件商標の商標法第4条第1項第19号不該当理由
以上のように、本件商標と引用A商標又は引用B商標とは、本件商標の登録査定時に商標法第4条第1項第11号及び同第15号の規定に違反して登録されたものではなく、医薬品の取引において相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は不正の目的をもって登録を受けたものではない。
(4)請求人の弁駁に対する再答弁
(ア)商標保護の本質
請求人が「商標保護の本質」について述べていることは、被請求人も同感であり全く異議がない。すなわち、商標保護の本質は、現実に使用した商標に化体した業務上の信用を保護する点にあり、その使用状況や個別具体的な事情を参酌して判断すべきである。
(イ)引用各商標の周知性と業務上の信用
請求人の引用各商標の使用状況をみると、請求人自身が述べているように、引用各商標のうちの引用B商標のみが使用されている。言い換えれば、引用A商標は、請求人提出の各証拠をみても使用された形跡はない。
このような使用状況を踏まえて判断すると、請求人の業務上の信用が化体している商標は、引用B商標であり、仮に周知になっているとすれば、引用B商標のみである。
請求人は、引用B商標中の構成中の「N」の文字は、商品の種別記号であって、それ自体識別力がないから、要部である「ガスロン」より「ガスロン」の称呼も生ずると主張している。請求人は、実際に使用している引用B商標を顧慮することなく、恰も「ガスロン」が使用されているかの如く「周知性」及び「業務上の信用」について述べている。
しかしながら、現実に使用している商標が引用B商標である以上、引用B商標を使用した商品に接する取引者・需要者は、「ガスロンエヌ」と称呼して商取引するのが普通であり、その中の「N」が商品の種別記号であるか否かをいちいち顧慮することなどなく「ガスロン」と「N」とを一体のものと認識するというのが自然である。実際に、請求人は、引用B商標のみを使用し、引用A商標を全く使用していないから、「N」が商品の種別記号だとする意義もない。正に、このような使用状況や個別具体的な事情を参酌して判断すべきである。
(ウ)本件商標と引用B商標の関係
前述のとおり、請求人が使用しているのは、引用B商標のみである以上、周知著名な商標になり得る可能性があるのは、引用B商標のみであって、引用A商標ではない。したがって、本件商標の構成中に引用B商標がそっくり含まれているという構成にはなっていない。
(エ)本件商標の商標法第4条第1項第11号不該当理由
本件商標は、その構成中の「イル」と「ガスロン」が完全に融合して一体不可分の商標として認識される。
したがって、引用A商標又は引用B商標と本件商標を比較した場合、最も印象に残る冒頭の音、かつ、文字でもある「イル」の部分が相違する点で、これらの商標は、非類似であることが明らかである。
そして、本件商標の構成中の「ガスロン」の文字が、引用B商標を想起させ、さらには、「マレイン酸イルソグラジン製剤」を直感させるとの請求人の主張は妥当性を欠く。
まして、本件商標が、「ガスロン」の文字に、一般名称「マレイン酸イルソグラジン」の「イル」の文字を付加したにすぎないとの言い分はあまりにも独善的であり根拠に乏しい。
(オ)本件商標の商標法第4条第1項第15号不該当理由
商標が周知か否かの判断は、商標法に基づく杓子定規の解釈ではなく、現実の取引社会における使用状況により個別具体的に判断すべきである。このような見地からみるとき、請求人は、引用B商標のみを使用している点を顧慮しておらず、引用B商標の「N」が単なる商品の種別記号にすぎないと主張し、引用B商標が「ガスロン」であるとの論法により周知性の議論を展開している。
仮に、請求人の使用する商標が「ガスロン」を中心に「ガスロンA」、「ガスロンB」及び「ガスロンC」のように複数種類の商品に使用され、市場に流通しているというのであれば、請求人の主張どおり、中心商標「ガスロン」に業務上の信用が化体し、「ガスロン」が周知性を獲得しているというだけの資格を有することになる。
しかしながら、請求人が使用している商標は、引用B商標のみであり、引用A商標は使用されておらず、他の使用態様の商標は存在しない。
してみれば、この商品の取引業界において、引用B商標を使用した商品に接する取引者・需要者は、その販売量が多ければ多いほど、また、使用期間が長ければ長いほど、さらに、それを広告宣伝すればするほど、引用B商標を強く記憶するので、「ガスロン」と「N」とを不可分一体のものと看取・認識し、引用B商標を「ガスロンエヌ」と称呼し、取引に資するというのが自然である。
請求人の意図と関係なく周知商標を決定するには、現実に使用されている引用B商標に接する取引者・需要者の自然な感じ方を尊重すべきであって、商標審査基準に固執し、杓子定規、かつ、画一的な解釈をすべきでない。
以上を踏まえて検討すると、本件商標は、引用各商標と外観及び観念は勿論、称呼においても相紛れるおそれはなく、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれもないから、商標法第4条第1項第15号の規定に該当しない。
(カ)本件商標の商標法第4条第1項第19号不該当理由
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び第15号の規定に違反して登録されたものでない以上、不正目的をもって登録を受けたものでないことが明らかであるから、商標法第4条第1項第19号の規定にも該当しない。
(1)判断の対象
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当する旨述べているので、先ず、この点について検討する。
本件商標は、前記のとおり「イルガスロン」の文字を書してなり、第5類「薬剤」を指定商品とするものである。
これに対して、請求人の引用する引用B商標は、「消化性潰瘍治療剤」に請求人自身が使用しているものである。
ところで、医療用医薬品は、専ら医師が患者の治療、診断のために用いるものであって、市中の薬局ないしは薬店で販売される「一般用医薬品」と区別されている(甲第3号証の1)。
そして、本件無効審判請求に係る指定商品及び引用B商標が使用されている「消化性潰瘍治療剤」は、胃液、胃酸等の分泌を抑える「攻撃因子抑制型」と胃粘膜の血流、胃粘液等を増加させ、潰瘍をできにくくさせる「防御因子増強型」とに大別される(甲第3号証の2及び甲第4号証)。
引用B商標が使用されている商品は、医療用医薬品として使用されているものであって、マレイン酸イルソグラジンを主成分とする防御因子増強型の消化性潰瘍治療剤である(甲第3号証の2及び甲第4号証)。
(2)医薬品に関する規制
(ア)厚生省による医薬品の製造承認等
医薬品を製造するには、原則として、薬事法に基づき厚生大臣の承認を必要とし、その販売については、薬価基準表への収載を要する(甲第5号証等)。
(イ)「医療用医薬品」の医療関係者以外への広告禁止
医療用医薬品は、昭和42年の厚生省薬務局長通達により、薬剤を選択する医師、処方を担当する薬剤師、医師又は薬剤師の指示を受けて薬剤の購入に当たる購買担当者あるいは医薬品卸等の医療関係者以外の一般人への広告が禁止されている(甲第3号証の1及び甲第5号証)。
(ウ)医療用医薬品の広告宣伝媒体の制限
上述した事情から、医療用医薬品に関する広告宣伝は、一般用医薬品の場合と異なり、テレビコマーシャル等の大衆用マスメディアを用いず、専門紙誌等への広告及び医薬情報担当者による医療関係者への広告により行われている。
(3)引用B商標の周知・著名性
(ア)請求人は、「消化性潰瘍治療剤」を開発し、昭和63年12月14日に厚生省の医薬品製造承認を受け、同月19日に薬価基準表への収載を経て(甲第6号証及び甲第8号証)、平成元年4月4日に引用B商標の使用を医療用医薬品に開始して以来、その使用を継続していることが認められる(甲第7号証、甲第3号証の2ないし甲第14号証の21)。
(イ)請求人商品の話題性
(a)平成元年4月4日付け「化学工業日報」には、「防御型の新抗潰瘍剤 日本新薬が発売 1日1回投与可能に」の見出しの下に「日本新薬はベンゾクアナミン骨格をもつ粘膜防御性胃潰瘍治療剤ガスロンNを4日から発売する。防御因子増強型での1日1回投与が可能な抗潰瘍剤は初めて。・・・ガスロンNは同社中央研究所が探索したベンゾクアナミン骨格のマレイン酸イルソグラジン製剤。・・・抗潰瘍剤には胃酸分泌を抑制するH2ブロッカーなどの攻撃型、胃粘膜を保護する防御型の2タイプがあるが、ガスロンNは防御型に属する。・・・保護作用は、胃粘膜上皮細胞間の接合を強化することにより同細胞間間隙の開大を抑制し、上皮細胞のはく離脱落を阻止する。・・・また、胃粘膜の血流増加作用を持つ。・・従来の防御型剤は、プロスタグラジン増加作用や粘液成分生成作用を主作用としており、ガスロンNの作用は特異的。薬物は胃粘膜への分布も高いことや低用量であるために、1日投与量が4ミリグラム、1〜2回の分割経口投与が可能であり、防御型では初の1回投与が認められた。従来の防御型とは作用も異なることから、攻撃型の抗潰瘍剤との使用も含めて大きな市場を確保できそう。・・・」との記掲(甲第9号証の3)が、
(b)同月6日付け「薬事日報」には、「ガスロンN発売 自社開発の抗潰瘍剤 日本新薬」の見出しの下に「日本新薬は4日から粘膜防御性胃潰瘍治療剤ガスロンNを新発売した。久々の自社開発消化器官用薬で、医薬品として初の化学構造をもつ新規有効成分であり、1日1回の投与で・・・優れた胃潰瘍治療効果を発揮するが、この抗潰瘍作用は胃粘膜上皮細胞間の接合強化による細胞防御作用と胃粘膜血流増加作用によるものであり、分類では防御因子増強剤に属する。・・作用は胃粘膜内サイクリックAMPの増加作用と関連すると考えられており、プロスタグランジン増加作用や粘液成分生成作用を主作用とする従来の防御因子増強剤とは作用態度を異にするユニークな薬剤である。・・・国内165施設497例の内視鏡判定による治癒率は、治癒63パーセント、縮小まで含めた場合は、93パーセント、有用度は85パーセントという好成績が報告されている。副作用は肝機能異常が1.2パーセントあるほかは消化器系・発疹など0.2パーセントと少ない。薬価は2ミリグラム1錠78.20円、4ミリグラム1錠153.80円、0.8パーセント細粒1グラム303円。1100億円といわれる防御型抗潰瘍剤市場で初年度30億円の売り上げを目指している。」との記掲(甲第9号証の6)が認められる。
これらと同趣旨の記掲が平成元年4月3日付け「日刊薬業」、同月4日付け「京都新聞」、同日付け「日経産業新聞」、同月6日付け「日本工業新聞」、同月7日付け「日本薬業新聞」、同月11日付け「日刊工業新聞」、同月12日付け「薬局新聞」、同月13日付け「薬業時報」、同月20日付け「Drug View Points」、同月21日付け「薬事ニュース」、同月25日付け「THE YAKUGYOKAI SHINBUN」、同月30日付け「薬粧流通タイムス」、同年5月8日付け「THE DOCTOR」(甲第9号証の2ないし16)にもされていることが認められる。
これらの事実からすれば、請求人が引用B商標の使用をしている商品は、専門紙のみならず一般紙にも報じられ、1日1回の投与でよく、特有の薬効薬理を示し有効用量も極めて少なかったため、発売当初から需要者はもとより一般世人にも関心を抱かせる商品であったと認められる。
(ウ)新聞及び雑誌による広告宣伝
請求人は、次の新聞、雑誌に「消化性潰瘍治療剤」の広告として引用B商標の使用をしていることが認められる。
(a)新聞
平成元年4月3日付け「日刊薬業」、同月4日付け「化学工業日報」、同日付け「京都新聞」、同日付け「日経産業新聞、同月6日付け「薬事日報」、同日付け「日本工業新聞」、同月7日付け「日本薬業新聞」、同月11日付け「日刊工業新聞」、同月12日付け「薬局新聞」、同月13日付け「薬業時報」、同月20日付け「Drug View Points」、同月21日付け「薬事ニュース」、同月25日付け「THE YAKUGYOKAI SHINBUN」、同月30日付け「薬粧流通タイムス」、同年5月8日付け「THE DOCTOR」(甲第9号証の2ないし16)
(b)雑誌
平成元年3月27日薬事日報社発行「最近の新薬 NEW DRUGS in Japan 1989年版(40集)及び1990年版(41集)」、同2年4月5日、同7年1月1日及び同8年4月4日号薬事新報社発行「薬事新報」、同2年5月15日株式会社東京医学社発行「臨床成人病」、同年7月15日、同3年4月5日、同4年6月15日、同8年10月15日及び同9年2月25日株式会社ライフ・サイエンス発行「MEDICAMENT NEWS」、同3年4月2日株式会社薬事日報社発行「薬事日報」、同4年4月10日株式会社医薬情報研究所発行「新薬と臨牀」、同年6月10日株式会社医学通信社発行「月刊保険診療」、同6年3月28日株式会社医事出版社発行「診療と新薬」、同年4月1日社団法人日本薬学会発行「ファルマシアくすりの科学」、同2年3月20日、同3年1月20日、同7年1月20日、同年5月20日、同8年1月20日及び同9年3月20日大道学館出版部発行「臨牀と研究」、同3年2月1日大阪府薬剤師会発行「大阪府薬雑誌」、同年7月10日及び同4年3月10日株式会社現代医療社発行「現代医療」、同年1月1日株式会社永井書店発行「外科治療」、同年9月25日株式会社中山書店発行「代謝」、同5年3月25日株式会社ライフメディコム発行「カレントテラピー」、同年7月10日株式会社中外医学社発行「臨床医」、同年8月1日株式会社永井書店発行「綜合臨牀」、同年8月10日及び同7年10月10日社団法人日本内科学会発行「日本内科学会雑誌」、同5年10月1日日本消化器外科学会発行「日本消化器外科学会雑誌」、同年10月1日株式会社先端医学社発行「G.I.Research」、同年12月4日医歯薬出版株式会社発行「医学のあゆみ」、同6年4月10日株式会社メディカルレビュー社発行「Pharma Medica」、同年5月25日株式会社医学書院発行「胃と腸」、同年7月25日株式会社東京医学社発行「消化器内視鏡」、同7年4月15日エースアート株式会社発行「臨床科学」、同年5月1日薬事時報社発行「月刊薬事」、同年11月1日医薬ジャーナル社発行「医薬ジャーナル」、同年11月5日株式会社南山堂発行「薬局」、同8年1月1日、同9年1月25日日本薬剤師会発行「日本薬剤師会雑誌」、同8年1月25日社団法人日本肝臓学会発行「肝臓」、同年5月5日社団法人日本消化器病学会発行「日本消化器病学会雑誌」、同年12月1日株式会社南江堂発行「臨床雑誌内科」、同9年3月1日日本医師会発行「日本医師会雑誌」、同年6月20日株式会社最新医学社発行「消化器病の臨床1997」、同10年1月1日診断と治療社発行「診断と治療」、1989年3月16日、同4月27日、同5月18日、同6月15日、同7月20日、同8月17日、同10月19日、同12月21日、1990年1月18日、同3月15日、同5月17日、同7月5日、同9月20日、同11月15日株式会社メディカルトリビューン発行「Medical Tribune」(各月105,000部発行)、平成元年2月ないし同2年12月の各月10日発行の日経BP社「日経メディカル」(各月102,000部発行)(甲第7号証、甲第9号証の1、甲第12号証の1ないし4)。
(エ)医薬情報担当者による広告宣伝活動
請求人は、証拠の提出がないため具体的人員数は不明であるが、医療用医薬品の一般的広告宣伝活動の傾向から、多数の医薬情報担当者により、日本全国の医療関係者に直接面会する方法によっても販売促進活動を行っているものと推察される。
(オ)売上高
請求人が引用B商標の使用をしている「消化性潰瘍治療剤」の売上高は、国際商業出版株式会社発行「国際医薬品情報」の1990年6月11日号、同91年6月24日号、同92年6月22日号、同93年6月28日号、同94年6月27日号、同95年6月12日号、同96年6月10日号、同97年7月14日号及び同98年6月22日号における「決算分析と主要製品売上げ(日本新薬)」の欄に「90/3(17億)、91/3(30億)、92/3(41億)、93/3(44億)、94/3(49億)、95/3月(44億)、96/3(52億)、97/3(49億)、98/3(42億)、99/3(42億)」と記載されていることが認められ、このことからすれば、請求人が引用B商標の使用をしている商品は、95年度を除き年々売上を伸ばし、96年度には、最高の売上を記録し、その後も高い売上高を維持していることが認められる(甲第14号証の2、4、6、8、10、12、14、16、18)。
(カ)市場占有率
株式会社薬業時報社発行「保険薬事典」平成8年8月版の第139頁(甲第10号証の2)及び同11年4月版の第130頁及び131頁(甲第10号証の3)のいずれも「232 消化性潰瘍用剤」における「マレイン酸イルソグラジン」の欄並びに同年10月25日同社発行「医療薬 日本医薬品集」2000(第23版)の252頁(甲第4号証)の「粘膜防御性胃炎、胃潰瘍治療剤 232 マレイン酸イルソグラジン」における「製品」の欄の記載によれば、平成8年7月以降、マレイン酸イルソグラジンを主成分とする消化性潰瘍治療剤は、請求人の他数社から販売されていることが認められる。
しかしながら、平成7年8月5日株式会社薬業時報社発行「保険薬事典」同年8月版の第135頁(甲第10号証の1)の「232 消化性潰瘍用剤」の「品名 マレイン酸イルソグラジン」に商品名として請求人の引用B商標のみが記載されており、このことからすると、同8年7月前には、マレイン酸イルソグラジンを主成分とする消化性潰瘍治療剤を製造・販売していたのは請求人1社のみであったと推認される。
また、引用B商標の使用商品が特許権(特許第919103号)及び先発権(新薬を製造販売しようとする先発者に対し、厚生省が医薬品製造承認後一定期間、具体的には、薬価基準収載日から通常6年だけ副作用の報告を義務付け、その代わりに、後発他社に同種医薬品の製造承認をしない行政規制による優遇措置の通称をいう。甲第5号証及び甲第3号証の1)による保護を受けていたこととも相俟って、請求人が引用B商標の使用をしたマレイン酸イルソグラジンを主成分とする消化性潰瘍治療剤の市場占有率は、平成元年度から同9年度までの間100%に近いものであったと推認される。
(キ)これらの認定事実からすれば、請求人の製造、販売に係るマレイン酸イルソグラジンを主成分とする消化性潰瘍治療剤は発売当初新聞記事として紹介され、請求人が需要者に対し引用B商標とともに長年広告宣伝を行った結果その売上高も多額に上り、その市場占有率も長期間独占状態に近かったと認められること、また、日本製薬工業協会をはじめとする業界団体による引用B商標についての周知・著名性の認定証明書(甲第13号証の1ないし5)が提出されていることを併せ考慮すると、引用B商標は、同商品について、遅くとも本件商標の登録出願日である平成10年3月3日前には、その取引者、需要者間において広く知られるようになり、その後も著名性が継続しているというのが相当である。
また、引用B商標は、構成中の「N」の文字が、一般にこの種業界において欧文字1文字ないし2文字が商品の品番、種別、規格等を表示する記号、符号等として類型的に使用されているので(甲第15号証)、その一類型として認識されるから、商品の識別力を有しないというべきであり、自他商品識別標識としての機能を果たす主要部が構成中の「ガスロン」の文字部分にあり、該文字部分もまた同様に「N」の文字部分より独立して、その取引者、需要者間において広く知られているというのが相当である。
(4)商品の出所の混同について
本件商標「イルガスロン」は、同書、同大、等間隔に表示されているとしても、特段の語義を有しない造語であって、これが常に一体不可分のものとして認識されなければならない格別の理由は認められない。
したがって、本件商標は、これをその指定商品中の「消化性潰瘍治療剤」に使用する場合には、請求人がマレイン酸イルソグラジンを主成分とする消化性潰瘍治療剤に使用し著名な商標である「ガスロン」の文字をその構成中に有するので、これに接する取引者、需要者が恰も請求人又は請求人と組織的、経済的に何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというのが相当である。
なお、被請求人は、「セレガスロン」が「ガスロン」と出所の混同を生じさせるおそれがないとした審決例を挙げ、本件商標の登録を無効とすべきでない旨主張するが、同審決は、引用B商標の使用開始直後に、他人の商標登録出願がされた案件であり、本件のように引用B商標が著名となった後に、他人の商標登録出願がされた案件とは事案を異にするものであるから、同審決を本件の参考とするには適切でない。
(5)結論
以上のとおり、本件商標の登録は、その指定商品中「消化性潰瘍治療剤」について、商標法第4条第1項第15号の規定に違反してされたと認められるから、請求人のその余の主張について検討するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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