Trademark Appeal Case
「親業」の識別力
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 判定2003−60065(T2003−60065/J6) |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | other |
理由テキスト
第1.本件商標
請求人が所有する本件登録第1740102号商標(以下「本件商標」という。)は、「親業 (P.E.T.)」の文字よりなり、第26類「印刷物」を指定商品として、昭和54年10月15日に登録出願され、同60年1月23日に設定登録されたものである。
第2.イ号標章
被請求人が商品「書籍」について使用するものとして提示した標章(以下「イ号標章」という。)は、別掲に表示したとおりの構成よりなるものである。
第3.請求人の主張
請求人は、商品「書籍」に使用するイ号標章は、登録第1740102号の商標権の効力の範囲に属するとの判定を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第44号証、検甲第1号証及び同第2号証を提出している。
1.請求の理由
本件商標は、「親業」の文字よりなるものであるから、「オヤギョウ」と称呼され、その標章から理解する内容は「従来の子育て、育児、しつけとは異なる親子関係の改善法である」との観念を生ずるものである。これに対し、イ号標章は「親業完全マニュアル」であるが、その意味は「親業の手引書(マニュアル)」であり、その主要部分は「親業」であるから、イ号標章は「オヤギョウ」の本と呼称され、「従来の子育て、育児、しつけとは異なる親子関係改善法に関する本である」との観念を生ずるものである。
本件商標とイ号標章とを比較すると、ともに「親業」の漢字からなる標章であり、「オヤギョウ」の称呼、「親子関係改善法である」との観念も共通している。
次に、両方の商品を対比すると、次のとおりである。
イ号標章の使用商品は書籍であり、商標法の商品区分を適用すれば、第26類「印刷物」に該当するから、本件商標の指定商品「印刷物」と同一の商品である。従って、イ号標章は本件商標の商標権の範囲に含まれる。
2.判定請求の必要性
請求人は、本件商標の商標権者である。
請求人は、被請求人である幾島幸子及び岩波書店(両者をまとめていう場合には「被請求人ら」という。)がイ号標章の書籍を販売することを知ったので、被請求人らに対し、「親業」という標章は商標登録されていること、「親業」は、トマス・ゴードンの提唱する親子関係改善法であり、それを親業訓練協会が20数年間掛けて日本社会に普及させてきたこと、さらに、一般消費者が被請求人らの出版する「親業完全マニュアル」を、親業訓練協会が提案している親業訓練を説明した本、あるいは、請求人又はその許可を受けた者が出版した本であると混同する可能性があるから、改題して欲しい旨を申し入れた。
しかし、被請求人らは、「親業」は普通名詞、一般名詞であると主張し、平成15年3月末ごろ、イ号標章を付した書籍を出版し、現在も販売している。
よって、本件判定を求める次第である。
3.イ号標章が商標権の効力の範囲に属するとの説明
ア.書籍の表題(書名)
イ号標章は、書籍(印刷物)の表題として使われており、「親業完全マニュアル」の文字だけの標章、又は「親業完全マニュアル」のとおり文字と線の結合した標章である。
イ.表題に付随する記載
書籍のカバーおよび本文鏡表紙には、表題「親業完全マニュアル」の前後に次の記載がある。
(表題の前)Perfect Parenting
(表題の後)The Dictionary of 1,000Parenting tips
(表題の下)E..パントリー ELIZABETH PANTLEY
幾島 幸子訳 SACHIKO IKUSHIMA
ウ.被請求人らが出版した本の「奥付」には、次のとおり記載してある。
(書 名)親業完全マニュアル
(発行日)2003年2月25日 第1版 第1刷発行
著 者 エリザベス・パントリー
訳 者 幾島 幸子(いくしま さちこ)
発行者 大塚 信一
発行所 株式会社岩波書店
エ.書籍の内容
イ号標章を使用した書籍の内容は次のとおりである。
書籍のカバーには、次の記載がある。
「一家に一冊『育児引き』子育てお助け本」著者は、「はじめに」の文章で、次のとおり述べている。
「この本の原題である...(Perfect Parenting)とは、親がプランを持って行動することを意味しています。・・・本では、子育て中の親子が直面すると思われる問題をほぼすべて取り上げ、解決のためのアイデアを示しています。」
また、翻訳者は、「訳者あとがき」で、次のとおり述べている。
この本は原題を「完全な親業ー1,000の子育てのヒント辞典」(Perfect Parenting:The Dictionary of 1,000Parenting tips)といって、1998年にアメリカで出版されました。・・・日本でも育児関連の本は数多く出版されていますが、訳者が本書に出会ったときの印象はとても新鮮でした。その最大の理由は、辞典形式とうい斬新なスタイルと、各項目に3ないし6種類の解決方法があげられていることでした。
オ.イ号標章の使用例
被請求人幾島幸子が、日本語訳の表題に「親業」を無断で使用し、被請求人(株)岩波書店が、その日本語訳を印刷物(書籍)にして、宣伝・販売している。
4.「親業」が請求人および親業訓練協会の提案する親子関係改善法であると、広く認識されるに至った経過「親業」という言葉は、請求人が1977年に、アメリカの心理学者トマス・ゴードン博士の著書「PET(Parent Effectiveness Training)」を日本語に翻訳したとき、日本で初めて使った言葉であり、請求人の造語である(甲第20号証)。
その後、請求人および請求人の主催する「親業訓練協会」が「親業」の標章を使用してきた経過は、次のとおりである(甲第8ないし第19号証)。
1977年 「Parent Effectiveness Training 親業・おやぎょう」子供の考える力をのばす親子関係のつくり方トマス・ゴードン著 近藤千恵訳 第1版を出版
1979年 請求人が日本で初めて、「親業訓練」講座を開設(甲第20、21、26号証)。
1980年3月 請求人が、「親業訓練協会」を設立し、理事長に就任した。(親業訓練協会は、法人登記をしていない。)
親業訓練協会は、「親業訓練」の名称で講座を開設し、受講生に親業の方法を体験実習させている。その訓練は、ケーススタディの方式をとっており、受講生に交代で親と子の役柄を与えるなど、ワークブックに従い、親業の考え方に基づく子どもとの対応を実習させている(甲第12号証)。
さらに、受講生の中から、親業訓練講座を自分で開設できる力を身に付けた者に、指導員(インストラクター)の資格を与えており、そのインストラクターが、全国各地で、「親業の訓練講座」を開設している(甲第13号証)。
また、親業を普及する方法は、講座開設だけではなく、自治体、公共団体、民間会社から要請を受け、「親業」の講演、訓練を行ってきた(甲第14ないし第19号証)。
1992年9月 この年に、役務商標の登録が認められることになったので、請求人は「親業」の役務商標を出願した。
1994年11月「親業」の役務商標が登録された。
請求人又は親業訓練協会の活動は、新聞・雑誌でも多数採り上げられた。
例えば、新聞記事の例は次のとおり(甲第20ないし第24号証)。
1980年3月1日 日本経済新聞「文化」欄 「親業訓練ことはじめ」 近藤千恵執筆
3月17日 朝日新聞 「ひと」欄 「親業訓練協会の理事長 になった」 近藤千恵
1995年5月30日 産経新聞「マナーを考える」 「親業訓練協会」 真剣子どもとの信頼づくり
1998年5月31日 朝日新聞「人あり」 親業訓練協会理事長 近藤 千恵さん
2001年12月7日〜12月9日 埼玉新聞「子どもと話したい」親業 の講座から(上)(中)(下)
その他多数の新聞記事あり(甲第25の1ないし第10号証)。
雑誌の最近の掲載例は次のとおり(甲第27ないし第30号証)。
1999年3月19日 週間朝日 「親業は訓練しだいで身につく」...「 親業訓練」という体験講座がウケている...
2000年3月10 日 Kids Life 「親業」ってなんだ! ?
2001年8月22日 婦人公論「対談」 親業訓練協会理事長
2002年9月 こども未来親を育てる「親業」とは
以上の資料から判るとおり、現在では、「親業」の商標は、親業訓練協会の親子改善法を示すものであると、広く認識されるに至っている。
5.請求人および親業訓練協会が「親業」を書籍(印刷物)の商標として使用した例
請求人又は親業訓練協会は、「親業」の文字を題名の一部に使った書籍を、次のとおり出版している(甲第3ないし第7号証)。
1977年 「Parent Effectiveness Training 親業・おやぎょう」 子供の考える力をのばす親子関係のつくり方 トマス・ゴードン著 近藤千恵訳 第1版を出版
1979年10月請求人は、「親業(P.E.T)」を、指定商品「印刷物」として商標登録を出願した。
1983年 「子どもに愛が伝わっていますか一心の架け橋を築く”親業”」 近藤千恵著
1985年1月 本件商標「親業(P.E.T)」が登録された。
1988年 「”親業”ケースブック 幼児・園児編」 近藤千恵監修 親業訓練協会編
1988年 「”親業”ケースブック マンガ・児童編」 近藤千恵監修 親業訓練協会編
1990年 親に何ができるか「親業」トマス・ゴードン著 近藤千恵訳
1993年 「親業に学ぶ子どもとの接し方」 親業訓練協会理事長 近藤千恵著 日本PTA全国協議会推薦図書
1996年 子育ての新しい世界「親業」 近藤千恵著
6.本件商標が「普通名詞」ではない理由
ア.「親業」は、請求人および親業訓練協会が普及に努める親子関係の改善方法につけられた標章である。「親業」は、トマス・コードン博士が提唱した Parent Effectiveness Trainingを日本に紹介する用語として、請求人が考えた造語である。直訳すれば、「親を効果的に訓練すること」になるが、短い単語で覚え易くするために、請求人が本文の内容から考え出した言葉が、「親業」であった。また、当時、日本の一般用語として、「子育て」「育児」「しつけ」などの用語は存在したが、トマス・ゴードンの提唱する親子関係、親子のコミュニケーションは、従来の日本語では表現できないため、請求人が新たに考え出した用語が、「親業」である。さらに、「親業」の言葉は、請求人が初めて使った1977年以来約25年間にわたり、請求人および親業訓練協会が「親業訓練」の普及活動をすることによって、日本社会に広まった言葉である。したがって、「親業」は請求人および請求人の主催する親業訓練協会が日本において実践する、親子関係の改善方法に付けられた役務の標章であり、かつ、それに関連する商品の標章である。
イ.次の辞典にも、「親業 Parent Effectiveness Training」が、トマス・コードン博士が開発した親子関係改善のための訓練であり、日本では、親業訓練協会(理事長近藤千恵)が、その訓練を行っていると紹介している。
1990年6月発行 「カウンセリング辞典」誠信書房発行
1992年4月発行 「現代用語の基礎知識」自由国民社
1996年8月発行 「臨床心理学辞典」 八千代出版発行
2002年6月発行 「生涯学習社会教育 実践用語解説」
被請求人らは「親業」を「普通名詞」「一般名詞」であると主張するが、被請求人(岩波書店)が発行する「広辞苑」にも「親業」は掲載されていない。
ウ.イ号標章の原題である「Perfect Parenting」のうち「Parenting」の訳語を英和辞書で調べると、次のとおりである。
「新英和辞典 第6版」研究社 2002年発行
(訳語)子育て、育児、育児法
「新グローバル新英和辞典 改訂版 第2版」 三省堂2001年発行
(訳語)子育て(術)
「ランダムハウス 英和大辞典 第2版9刷」小学館2002年1月発行
(訳語)1子育て、育児 2育児法 3親であること
ランダムハウスの1994年版には、「親業」の訳語が掲載されていたが、親業訓練協会が再検討を申し入れたので、最新版では「親業」の訳語は削除されている。(甲第41の1及び2号証)
以上の辞書には、英語の「Parenting」に対し、「親業」の訳語は記載されていない。
エ.岩波書店の「女性学辞典」(2002年6月出版)には、次のとおり、親業を一般用語であると理解した解説がある。
「親業 Parenting 親の役割を果たすこと...親業とは...ジェンダー中立的に血縁幻想を超えて、親としての機能を表す概念である。」(船橋 恵子)
これに対し、親業訓練協会が解説者に対し再検討をお願いしたところ、同人から、お詫びとともに、再版の機会に次のとおり差し替えるとの回答を得た(甲第37及び第38号証)。
「親業(親業訓練)おやぎょうParent Effectiveness Trainingアメリカの心理学者ゴードンが提唱した、親としての役割を効果的に果たすための訓練。...この方法は...育児力(Parenting)の形成を促している。」
この訂正後の解説は、「Parent Effectiveness Training」と「Parenting」とでは、日本語訳を使い分けている。
オ.被請求人幾島幸子は、「訳者あとがき」で、わざわざ次のとおり述べている(甲第1号証)。
この本の原題(Perfect Parenting:The Dictionary of 1,000Parenting tips)につけた邦題の「親業」は、...トマス・ゴードン博士が提唱した「親業訓練(P.E.T)」とは無関係であることをお断りします。
被請求人らは、イ号標章の「親業」が請求人および請求人の主催する親業訓練協会が使用している商標「親業」と同一であることを、暗に認めている。
カ.さらに、原題(Perfect Parenting:The Dictionary of 1,000Parenting tips)では「Parenting」の単語が「Perfect Parenting」と「Parenting tips」と2回使われているが、イ号標章では、最初のParentingには「親業」の日本語が、後のParentingには「子育て」の日本語が当てられている。
以上ア〜カの使用例から分かるとおり、「親業」は「普通名詞」でも「一般名詞」でもない。
7.イ号標章は、本件商標の商標権の範囲に属する。
ア. イ号標章と本件商標との標章の類似性
イ号標章は、「親業完全マニュアル」の文字だけで構成、または、「完全」の文字を囲む線との結合により構成されているが、その主要部分は、「親業」である。なぜなら、「マニュアル」は手引書の意味であるから、表題の趣旨は、「親業の手引書」という趣旨であり、関係者や一般消費者がこの本を探し出すキーワードは「親業」になる。
従って、イ号標章は「オヤギョウ」と呼称されることになり、その言葉から、「従来のものとは異なる親子関係改善法」という観念を生じさせる。
本件商標には、(P・E・T)の欧文字が付属しているが、その3字だけでは何を意味するか不明であり、日本人のほとんどは、本件商標を日本語の「オヤギョウ」と呼称することになる。実際、日本では(P・E・T)の言葉は流通しておらず、「オヤギョウ」と呼称されている。
したがって、イ号標章は、本件商標と外観(文字)が同じで、呼称、観念も同じであるから、イ号標章は本件商標と類似している。
イ.イ号標章の使用商品は本件商標の指定商品と同一である。
イ号標章が使用されている商品は「書籍」であり、書籍は「印刷物」に属するから、イ号標章の使用商品は本件商標の指定商品「印刷物」と同一である。
イ号標章の使用されている書籍と本件商標に基づく書籍とは、ともに、全国の一般書店に陳列又は注文販売されており、内容がともに「親子関係」であるから、書店の同じ棚に並べられ、購買者も同一である。したがって、出版社、流通業者及び購買者は、両者の出所について混同をきたすことになる。
ウ.さらに、イ号標章の使用された書籍の本文中に、「親業」が使われている箇所を、発見することはできなかった。
表題にのみ「親業」が使われていることは、「親業」の表題により、一般消費者の注目を集め、売上を増大するために使ったと考える。親業訓練協会が約25年にわたり築いた信用に「ただ乗り」するものである。
よって、イ号標章は、本件商標の商標権の範囲に属する。
第4.被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の判定を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証を提出している。
1.書籍の題号と商標登録
商標法3条1項3号は、商品の品質を表示する標章のみからなる商標は商標登録を受けることができないと定めている。そのような標章は商品の出所表示機能を有しないからである。そして、書籍の題号は、通常は当該書籍の品質(内容)を表すものとして表示されるもので、書籍の出所を表示するものではないこと、さらには著作物の題号選定の自由や著作物の利用を不当に制限することにもなることから、例外的な場合を除き商標として登録することはできないとされている(特許庁商標審査基準、工藤莞司『商標審査基準の解説』65頁以下、小野昌延 『商標法概説(第2版)』112頁、平尾正樹『商標法』123頁など)。
本件商標は、印刷物たる商品の出所表示をするものとして使用するため登録が認められたものであり、単なる書籍の題号として使用することはできないものである。
2.書籍の題号と商標権の効力範囲
商標法26条1項は、商標権の効力は、当該指定商品又はこれに類似する商品の普通名称あるいは品質を普通に用いられる方法で表示する商標には及ばないと規定している。そして、前記のとおり、書籍の題号は、当該書籍の品質(内容)を表示するもので、商品の出所を表示するものではないので、商標権は書籍の題号として表示された標章には及ばないものである。
書籍等の題号について、裁判例も、題号の性質から出所表示機能を有しないとの理由あるいは商品である書籍等の内容を説明的に表示しているので商標権の効力が及ばないとの理由で、題号を付して書籍等を販売する行為は登録商標の商標権を侵害しないとしている(東京地裁昭和63年9月16日判決・判例時報1292号242頁、東京地裁平成7年2月22日判決・判例時報152号141頁、東京地裁平成6年4月27日判決・判例時報1510号150頁)。
イ号標章は、書籍の題号として表示されているものであり、子育てに関する親としての仕事あるいは役割を意味する「親業」について、その完壁なありかたを多数の項目ごとに記載した本件書籍の内容を表すものとして表示されているものである。
したがって、イ号標章が本件商標にかかる商標権の効力の範囲に属するものでないことは明らかである。
3.本件商標の主要な部分
前記のとおり、「親業」は「親としての仕事」ないし「親としての役割」という幅広い一般的な意味を表すものにすぎず、本件商標「親業(P・E・T)」中の(P・E・T)は、「親業」という普通名詞に、「Parent Effectiveness Training」(ゴードン博士の親として役割を効果的に果たすための訓練)という特定性を加え、「親業(P・E・T)」という特定の親業を表示したものである。したがって、本件商標は(P・E・T)という限定を加えることによりはじめて出所表示機能を有するに至り、商標として登録が認められたものと考えられる。
したがって、「親業」という点で共通性があるとしても、イ号標章は本件商標に類似するものとはいえず、本件商標にかかる商標権の効力の範囲に属するものではない。
第5.当審の判断
1.本件商標とイ号標章について
本件商標は、前項第1.で述べたとおり、「親業(P・E・T)」の文字よりなるのに対し、被請求人が商品「書籍」の題号に使用しているイ号標章は、別掲のとおり、多少図案化しているとはいえ「親業完全マニュアル」の文字よりなるものである。
2.「親業」について
請求人は、イ号標章中の「親業」の文字は、普通名詞又は一般名詞として使用されていないと主張して甲各号証を提出している。
しかしながら、「親業」の文字は、それぞれの漢字から親の仕事を意味するものとして容易に察知し得るものであり、また、甲、乙号証及び職権調査による以下の辞書、書籍、新聞報道の記事よりしても「親業」の文字は、「子育て、育児」を意味する語として普通に使用されているものと認め得るところである。
<辞書>
「小学館 プログレッシブ 英和中辞典(小学館 2003年2月20日 第4版発行)の「Parenting」の項に「子育て、育児、親業」と記載(乙第1号証)
<書籍>
ア.「親業崩壊ー保育園の保母さん、幼稚園の先生108人の証言」(堀 和世(著)1997/7 日新報道 発行)(甲第7号証中の12.の項)
イ.「クリスチャンのための親業ABCーたのしい家庭づくり」(E.H.ゴールキィ(著)1997/7 新教出版社 発行)(甲第7号証16.の項)
ウ.「『親業』という仕事ー高校卒業までに教えておかなければならないこと」(大野 誠(著)1998/2 現代書林 発行)(甲第7号証18.の項)
<新聞>
ア.毎日新聞社 2004.4.2東京夕刊 7頁 スポーツ
[手をつなごう]「子ども電話」を運営「子ども劇場千葉県センター」の見出しの下、「また、性教育の専門家などを招いて勉強会を行うなど、子どもの声を受け止める訓練も怠らない。電話を受けるスタッフからは、『子ども電話で親業を学んだ』という声もでているほどだ。」との記事
イ.読売新聞社 2003.11.8 大阪朝刊 29頁
「『生き生きする子育て』セミナー 16日、京都・中京区で開く」の見出しの下、「 クオリティ・ペアレンティング(親業)の創始者イレーヌ・ヴァルエッセン博士を招いたセミナー『親も子も生き生きする子育て』が十六日午前九時から京都市で開かれる。」との記事
ウ.毎日新聞社 2003.8.2 東京朝刊 7頁 解説
「[みんなの広場]親が育てたように子供は育つ」の見出しの下、「日本の戦後の復興に国民は多大な力を注ぎ、世界に誇れる経済大国にのし上がった。そして、一見平和に見える国ではあるが、今、家庭の中にはさまざまな問題があり、特に『親業』については一番頭を痛めていることと思う。」との記事
エ.朝日新聞社 2002.7.7 名古屋朝刊 10頁
「60代の暮らし、水曜が楽しみ(声) 【名古屋】」の見出しの下、「60代はまだまだ当てにされる年代だ。ひとときでいいから、鳥の声や風のそよぎを聞きたいと切実に欲している今でもある。けんかもしながら『親業』を務めてきた私たち夫婦だが、遊び仲間としてなら呼吸はピッタリ。」との記事
オ.読売新聞社 2001.10.4 大阪朝刊 28頁
「赤ちゃん誕生前に親業の準備講座 12日から大阪YWCAで計6回開く」との見出し記事
カ.読売新聞社 1999.5.2 大阪朝刊 17頁
「女性への暴力防ぐには―ドーンセンターが講座 6月12日から全6回/大阪」の見出しの下、「ドーンセンター(大阪府立女性総合センター)は6月12日から6回にわたって連続講座『女性への暴力〈防止編〉』を開く。・・・各回の日時と内容は次の通り。▽同10日親業―暴力の連鎖を防ぐために」との記事
キ.朝日新聞社 1998.10.31 東京地方版/栃木 栃木版
「我慢の体験もとに『女性の不満』噴出 宇都宮でフェスタ /栃木」の見出しの下、「約三十人が参加し、祖母や先生に『男ならよかったのに』といわれた、嫁はこたつに入れなかった、夫は、女性は家にいて守る人という考えで、きれいにしておけとか、小うるさいといった声が聞かれた。三十一日も開かれ、環境や親業などについての発表、手作りパン、小物の販売コーナーなどがある。」との記事
3.上記2.の事実を総合すると、「親業」の文字は、「子育て、育児」を意味する語として一般的に理解され使用されているものと認められる。
そこで、イ号標章をみると、多少図案化しているとはいえ「親業完全マニュアル」の文字を表示してなるところ、構成中の「親業」の文字は、「子育て、育児」など親としての仕事を意味する語と認識されることからすると、その構成全体からみて、イ号標章は、「親業(子育て、育児)など親としての仕事に関しての完全な手引き」を表している書籍であると直ちに理解し認識し得るものといえる。
ところで、書籍の題号については、題号がただちに特定の内容を表示するものであるときは、品質を表示するものと解されている。
以上からすると、書籍の題号として使用されているイ号標章は、該書籍の著述内容を表示するものであって、商品「書籍」の品質(内容)を表示したものと理解し、認識されるにすぎない。
してみれば、被請求人らが、商品「書籍」に使用するイ号標章は、自他商品の識別標識すなわち商標として使用しているものでなく、また、取引者、需要者に商標として認識されるものということはできない。
4.請求人は、本件商標とイ号標章はその構成中に「親業」の文字を有するから、両者は類似の商標で、かつ、イ号標章の使用商品は書籍であることから、本件商標の指定商品「印刷物」と同一又は類似の商品である旨を主張している。
しかしながら、商標法第26条第1項によれば、商標権の効力は、当該指定商品又はこれに類似する商品の普通名称、品質等を普通に用いられる方法で表示する商標には及ばないと規定している。そして、書籍の題号として使用されているイ号標章は、前記認定のとおり、該書籍の品質を表示しているものであり、商品の出所を表示するものではないことから、本件商標の商標権は、書籍の題号として表示されたイ号標章に及ぶということはできない。
また、請求人は、「親業」の語は、普通名詞ではなく、請求人および親業訓練協会が「親業訓練」の普及活動をすることによって、日本社会に広まった言葉で、「親業」は請求人および請求人の主催する親業訓練協会が日本において実践する、親子関係の改善方法に付けられた役務の標章であり、かつ、それに関連する商品の標章である旨主張している。
しかしながら、請求人および親業訓練協会が「親業訓練」の普及活動をしたことは認め得るが、前記認定のとおり、「子育て、育児」などを表す語として普通に使用されるに至っており、さらに、「親業」の文字が、直ちに親業訓練協会の業務に係る役務等を表示するものとは、提出された証拠によっては認め難いことから、上記請求人の主張は採用することはできない。
5.むすび
したがって、商品「書籍」の題号に使用するイ号標章は、前記認定のとおり、商品「書籍」の品質を表示した標章と認められるから、本件商標の商標権の効力の範囲に属しないものといわなければならない。
よって、結論のとおり判定する。
Next Action
次の一手につながるサービス
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。