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Trademark Appeal Case

「トンボ」の普通名称性・識別力

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号平成6年審判第17742号
審判種別不服
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

登録第2483497号商標の登録を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。

理由テキスト

1.本件商標

本件登録第2483497号商標(以下「本件商標」という)は、「トンボ」の片仮名文字を横書きしてなり、平成1年2月16日商標登録出願され、平成4年11月30日に第24類「釣り具」を指定商品として、設定登録がされたものである。

2.請求人の主張

請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至甲第28号証(枝番を含む)を提出している。

(1)無効事由及び原因

本件商標は、商標法第3条第1項第1号、同第3号及び同法第4条第1項第16号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。

「トンボ」という用語は、マグロの一種のビンナガの別名であって、漁業関係者や漁具を製造、販売する業界においては頻繁に使用している用語である(甲第1号証乃至甲第6号証)。従って、本件商標は、釣り具との関係においては商品の用途等を表すものである。

さらに、「トンボ」は上記のようなビンナガの別名の他に、いか釣り用の漁具や、マグロ類の延縄漁具を示す用語として使用されている(甲第7号証、甲第8号証)。従って、「トンボ」は、これらの漁具との関連において商品の普通名称であり、「トンボ」を他の商品に使用する時は商品の品質の誤認を生ずるおそれがある。

(2)答弁に対する弁駁

▲1▼ 請求人は、「トンボ」という文字を釣り針の用途を表すものとして使用していたところ、被請求人から本件商標と同一又は類似であり、商標権を侵害する旨の誓告を受けた。そして、販売に際して「トンボ」の使用を直ちに取り止め、「トンボ」を表示した包装用箱、カタログ等を破棄すること、雑誌広告を取り止めるよう要求された。

従って、請求人には、本件請求をする十分な理由がある。

▲2▼ 標章が商品の普通名称を表示するか否かは一般の需要者がそのように認識するばかりではなく、取引界において普通名称であると認識する必要がある(甲第11号証)。ただし、一般の需要者の中には「釣り具」と関係の無い一般人、即ち、一般家庭の消費者まで含まないことは言うまでもない。

従って、「トンボ」に昆虫の「蜻蛉」の意味が有っても、釣り具の取引者、例えば釣り具の製造業者や販売業者さらには、それを使用する漁業関係者が「トンボ」を「いかの漁具」「ビンナガの漁具」と認識すれば、「トンボ」は指定商品との関係で普通名称として識別力が無いことになる。

なお、甲第7号証の「最新 漁業技術一般」や甲第8号証の「イカ−その生物から消費まで−」は、漁業関係者等が「トンボ」を「いか釣りの漁具」「ビンナガの漁具」と認識していることを示している。

また、「トンボ」が指定商品「釣り具」の品質、用途等を示すかどうかも同様に、取引業者にその認識があれば足り(甲第12号証)、一般の消費者まで問題にする必要はない。

従って、「トンボ」を釣り具の製造業者や販売業者、さらには漁業関係者がサバ科の魚「ビンナガ」と認識すれば、指定商品との関係で用途等を示すものであって識別力が無いものと判断される。

なお、甲第10号証のカタログは、釣り具の製造業者や販売業者が「トンボ」をサバ科の魚「ビンナガ」と認識していることを証明するものである。

そもそも、商標法第3条第1項第3号の立法趣旨は、商品の品質を示す表示は商品の取引の過程において必要なものであり、取引業者は、皆その使用を欲するもので、特定の人にのみ使用を独占させることは公益に反することになるため、これを不登録事由としたものである(甲第12号証)。

ところが、被請求人が「釣り具」の業界で「トンボ」を独占して警告(甲第9号証)を行ってきたため、釣り具の製造業者・販売業者である請求人は、カタログ等の刷り直しや、広告の変更等を迫られている。このまま放置すると、当業界にさらに公益に反する事態が生じかねない。

また、釣り具の製造業者や販売業者、さらには漁業関係者が「トンボ」をサバ科の魚「ビンナガ」と認識しているから、例えば、被請求人がビンナガ用以外の釣針に「トンボ」を使用すると、漁業関係者等はその釣針をビンナガ用と誤解し、商品の品質の誤認を生じるおそれがある。「いか釣りの漁具」や「ビンナガの漁具」についても同様の事態が発生する。

▲3▼ 乙第17号証、乙第19号証、乙第20号証に係る「釣り具」の会社に電話で問い合わせた結果、魚(ビンチョウマグロ)の名前として「とんぼ」を使用していることが確認できた(甲第13号証)。

その他、「漁業協同組合」や農林経済研究所(乙第20号証「水産世界」の発行所)にも電話で問い合わせた結果、「ビンチョウマグロ」のことを「とんぼ」と呼んでいることを確認した。

▲4▼ また、被請求人は、甲第1号証乃至第8号証は、専門的な書籍であって、「とんぼ」が一般の用語として使用しているとは断言できないとしている。

しかし、甲第14号証の広辞苑、甲第15号証、第16号証の百科辞典、甲第17号証乃至第20号証の一般の人が読むような書籍にも「ビンチョウマグロ」のことを「とんぼ」と記載している。また、太洋漁業発行のポスター(甲第21号証)にも「ビンナガ」を「とんぼ」と記載している。

甲第22号証乃至第24号証は、関西の一般的なスーパーマーケットで販売されている「ビンチョウマグロ」の生利節である。このように流通市場においても「ビンチョウマグロ」に「とんぼ」という言葉を使用している。なお、甲第24号証のジェスマックに電話で問い合わせたところ、関西では流通過程において「ビンチョウマグロ」に「とんぼ」を使っている旨の回答があった。

なお、甲第25号証は、請求人が昭和26年当時、すでに「トンボ」を使用していたことを示すものである。

▲5▼ 甲第13号証で請求人代理人が聞き取り調査をした相手は、全く面識の無い相手であって特に友好的な者では無く、しかも暗示に迎合して供述する必要性も全く無い者ばかりである。また、「とんぼ」が「ビンチョウマグロ」の通称として使用されているかどうかという単純な質問は、誘導したからといってそのような回答が得られる種類のものではない。

▲6▼ 甲第14号証(広辞苑)に対する反論で、「とんぼしび〔蜻蛉鮪〕マグロの一種、ビンナガの別称」なる記載はあるとしても、「ビンチョウマグロ」が「とんぼ」と呼ばれているとの記載は見当たらないから、このようなものは本件の証拠となり得る価値を有しないとしている。

しかしながら、「しび」とはマグロの生魚やビンナガの別称である(甲第26号証)から、「とんぼ」が「ビンチョウマグロ」を意味することは明らかである。

▲7▼ 甲第18号証乃至甲第21号証に対する反論で「これは『釣り具』の取引市場において『トンボ』が商品の普通名称や品質、用途を示すため普通に使用せられているとの事実を示しているものではない。」としている。しかし、「とんぼ」が「ビンナガ」であることが証明出来れば十分である。「トンボ」が魚(ビンナガ)を表すものであれば、「トンボ」は「釣り具」の関係で品質や用途を示すことになる。

▲8▼ 甲第22号証乃至甲第24号証に対する反論で「とんぼの文字は普通名称を表らわしたものとは認められない」としているが、「なまりぶし」とは三枚におろして蒸した鰹の肉を半乾しにした食品であるから(甲第27号証)、「とんぼなまりぶし」の「とんぼ」は魚の種類、即ち「ビンチョウマグロ」を表している。

従って、同号証は、「とんぼ」が流通の小売段階でも「ビンチョウマグロ」の別名として使用されたことを証明している。

▲9▼ 甲第25号証に対する反論で作成者不明とあるが、同号証は被請求人側の代表者小松武志が昭和26年に作成したものである。「トンボ縄釣」はビンナガ漁用の漁具である。

▲10▼ 以上述べたように、「とんぼ」は、釣り具の業界ばかりでなく、漁業協同組合、漁師、仲買人、小売業、流通業界において広く使われており、かかる用語を一個人に独占させるべきではない。

▲11▼ なお、「トンボ」「トンボシビ」が「ビンナガ」の別名として使用されている証拠として東京水産大学第七回公開講座編集委員会編の「マグロ その生産から消費まで」(甲第28号証)を追加する。

3.被請求人の主張

被請求人は、「本件審判請求を却下する、又は、本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」と述べ、次の趣旨の答弁をすると共に証拠方法として乙第1号証乃至乙第21号証を提出している。

(1)請求人が本件商標乃至これに類似する商標を使用している事実はなく、また被請求人は、請求人に対し本件商標に基づく権利行使をしたこともなければ、権利を行使するために警告等の準備を行っているものでもないから、本件商標の存在によって、請求人の営業活動に何等かの支障が生じているとの事実も認められないのである。

このように、請求人は、本件商標の存在によって何等の不利益を受けるおそれはないので、かかる本件請求は、法律上の利害関係を有しない者による不適法な審判請求として、商標法第56条第1項で準用する商標法第135条の規定によって却下せられるべきものである。

(2)甲第1号証乃至甲第6号証にサバ科の魚「ビンナガ」の地方名として「トンボ」なる記載のあること及び甲第7号証及び甲第8号証に、いかの漁具の名称として「トンボ」、びんながの漁具の名称として「とんぼ縄」なる記載のあることは否定するものでない。

しかし、本件商標を構成する「トンボ」の文字に相当する語は、上記請求人の主張するところによれば、サバ科の魚「ビンナガ」の地方名のほか、「いかの漁具」の名称及び「ビンナガの漁具」の名称とも言える特定の物を指す用語でないばかりでなく、このほかにも昆虫の「蜻蛉」、「飛魚」の別名、「頂上」、「入口」、「戸」、「大戸の敷居」、「便所」、「雪囲」、「瘧」を意味する方言等種々の語義を有する語である(乙第1号証の1816頁、乙第2号証の1887頁及び乙第3号証)から、このように多くの語義を導き出し得る「トンボ」の文字よりなる語にあっては、一般人が上記の如き全ての語義をもって認識することは困難で、通常は最も親しまれている昆虫の「蜻蛉」を意味する語として理解するに過ぎないのが普通である。

しかも、本件商標を構成する「トンボ」の文字に相当する語は、日常座右において使用せられる辞書(例えば、乙第4号証)はもとより、大部の辞書(例えば、乙第1号証乃至第3号証及び乙第5号証)、商品に関する書籍(例えば、乙第6号証)、商品としての魚の需要者向けの書籍(例えば、乙第7号証)においても、請求人が主張するように、魚の「ビンナガ」或は「いかの漁具」又は「ビンナガの漁具」の名称として、「トンボ」なる語があるとのことは記載されていないから、このような「トンボ」の文字よりなる本件商標にあっては、請求人主張の如き意味合いに解せられることはなく、通常は「トンボ」の文字から直ちに想起される一般的な意味合いである昆虫の「蜻蛉」を示す語として理解せられるのが自然であって、かく解するのが本件商標の指定商品の分野における一般の需要者の認識に合致したものである。

(3)また、本件商標を構成する「トンボ」の文字が、本件商標の指定商品について商品の普通名称、或は商品の品質、用途等を表示する語として現実の商品取引の場で使用されている事実は見当らず、請求人においても何等かかる事実を示す具体的な証拠を提出していないのである。

(4)してみれば、本件商標を構成する「トンボ」の文字は、昆虫の「蜻蛉」を意味する語を表わしたものとして理解せられるにとどまり、これをもって本件商標の指定商品の普通名称や品質、用途を表わしたものと理解せられることはなく、十分自他商品識別の標識としての機能を果たし得るものであり、またこのような本件商標は、商品の品質、用途等について誤認を生じさせるおそれもないものである。

(5)それ故、かかる「トンボ」の文字よりなる本件商標は、商標法第3条第1項第1号、同第3号及び同法第4条第1項第16号のいずれの規定にも該当するものでなく、この登録は商標法第46条第1項第1号の規定によって無効とせられるべきものでない。

(6)弁駁に対する答弁

▲1▼ 請求人提出の甲第11号証によれば、普通名称であるか否かは、取引市場において、その名称が特定の商品の一般名称として世俗一般に、普通に使用されている事実が認められる場合においてのみ、普通名称であるということを得るとのことであるが、請求人提出の全ての証拠によっても、本件商標を構成する「トンボ」の文字に相当する語が、本件指定商品たる「釣り具」の取引市場において、本件の当事者以外の者によって、特定の商品の普通名称として、また、特定の商品の品質、用途等を示すために普通に使用せられているとの事実は見出せないのである。

しかも、商品の普通名称や品質、用途等の表示とするためには、とかく希望的な観察をしがちな競争関係にある同業者たる者のみの認識のみではたらず、少なくとも一般消費者も普通名称または品質、用途等の表示として認識しており、更に当該商品の取引者間において現実に普通名称または品質、用途等の表示として使用せられている事実を要するものであって、辞書やその他の一般刊行物、当該商品の取引者と直接関係のない学問的、技術的文献、講演等において、普通名称または品質、用途等の表示であるかの如き記載がなされていても、これによって普通名称または品質、用途等の表示となし得ないことは、請求人提出の甲第11号証の書籍の157頁(乙第8号証)に記載されているところによっても明確に認識できるところである。

▲2▼ よって、以上の見地よりしたとき、甲第1号証乃至甲第5号証は、いずれも一般消費者が見たこともない魚類に関する専門的な書籍であり、甲第6号証も専門家が項目毎に分坦して著作した大部の事典で、このような詳細の解説の内容を一般消費者が記憶しているとは考えられないものであり、また甲第7号証及び甲第8号証も漁業に関する専門的な書籍であるばかりでなく、その著作において使用されている用語も、必ずしも一般に通用しているとは判定し難いむしろ独自のものと見受けられるものもあると考えられること及び甲第10号証は請求人の作成にかかる作成日の不明なカタログで、その中で魚の名称として「ビンナガ」は使用せられているが、「トンボ」が魚の名称であるとの記載は一切見当らず、却って、被請求人の登録商標である本件商標を釣り針に使用していることを示しているにすぎない資料であるから、このようなものは、本件商標を構成する「トンボ」の文字に相当する語が、本件指定商品たる「釣り具」の取引市場において、本件の当事者以外の者によって、特定の商品の普通名称として、或は特定の商品の品質、用途等を示すために普通一般に使用せられている事実を示すものとは認められないのである。

▲3▼ しかも、既に述べた如く、本件商標を構成する「トンボ」の文字に相当する語は、一般に昆虫の「蜻蛉」を意味する語として使用され、そのような意味合いでもって理解される語で(例えば、乙第9号証、乙第10号証の604頁及び605頁)、これを魚の「ビンナガ」の別名として使用することは一般的でなく、(例えば、乙第10号証の2423頁、乙第11号証)、魚の取引市場における魚の普通名称としても、料理の材料としての魚の普通名称としても「ビンナガ」が使用されており、また、漁業に関する専門的な書籍(例えば、乙第12号証)においても、漁獲物たる魚の普通名称として「ビンナガ」のみが使用されているから、いずれにしても「トンボ」なる名称が、魚の「ビンナガ」を示す普通名称として一般に使用されている事実はないのである。

▲4▼ また、イカの漁具として「トンボ」と呼ばれたものが用いられたことがあったとしても、このような漁具が用いられていたのは1868年から1919年すなわち明治元年から大正8年頃まで(甲第8号証)で、その後は用いられていないものと推測され、またかかる「とんぼ」と呼ばれる漁具が、現在一般に市場で商品として販売されているとの事実もなく、自動イカ釣り機が出現し、人手不足のため省力化が要請せられている現今においては、自動イカ釣り機が小型船から大型船までイカの漁船の標準装備となっていて(乙第13号証)、これ以外のイカの漁具は使用せられなくなっていることよりして、本件商標の出願当時以前から、上記の請求人がいう「トンボ」と呼ばれるイカの漁具は市場一般に存在しない商品となっているので、このような市場に存在しない商品である漁具が、かつて請求人の主張せられるように「とんぼ」と称せられていたとしても、このようなことによって、「トンボ」の文字よりなる本件商標が、イカの漁具の一種を示す商品の普通名称と認識せられるものとなることはあり得ないのである。

▲5▼ 更に、本件商標の「トンボ」またはこれに相当する語が、商品の普通名称または商品の品質、用途等を表す目的で同業者間で自由に使用せられているか否かについて検討すると、本件商標の「トンボ」またはこれに相当する語は、被請求人を唯一の例外として、本件指定商品である「釣り具」の製造、販売を行っている同業者が、商品の普通名称または商品の品質、用途等を示すために使用している事例は全くなく(例えば、乙第14号証乃至乙第21号証)、また漁業や釣りに関する雑誌(例えば、乙第20号証、乙第21号証)の記事においても、本件商標の「トンボ」またはこれに相当する語が、商品の普通名称や商品の品質、用途等を示す用語として使用せられている事例はないのである。

▲6▼ 仮に甲第13号証の書証が真正に成立したものであるとした場合においても、同書は請求人代理人である弁理士が、請求人の主張にそった回答を得るよう誘導した質問に対して、請求人の主張にそった回答を得たもののみを記載したと言うべき措信し難いものであるから、このようなものをもって「トンボ」が本件指定商品たる「釣り具」の取引市場で商品の普通名称や品質、用途等を示すために普通に使用せられている事実を示しているとは認められないのである。

▲7▼ また、甲第14号証の広辞苑には、「とんぼうお〔蜻蛉魚〕トビウオの別称。」、「とんぼしび〔蜻蛉鮪〕マグロの一種、ビンナガの別称。」なる記載はあるとしても、請求人が主張するように「ビンチョウマグロ」が「トンボ」と呼ばれているとの記載は見当らないから、このようなものは本件の証拠となり得る価値を有しているとは認められないのである。

甲第15号証及び甲第16号証の百科辞典の「ビンナガ」項の説明文中に「トンボ」なる記載があるとしても、百科辞典はその性質上一般的でない事項についても広く説明を行う必要があるため、このような辞典において「トンボ」なる語が見出されたとしても、これによって本件指定商品たる「釣り具」の取引市場において、商品の普通名称や品質、用途を示すために「トンボ」なる語が普通に使用せられているとは認められないのである。

甲第15号証の書籍に「トンボつり」、「トンボ漁」なる記載があるとしても、それが如何なる事実を指すかについての説明は一切ないので、これをもって本件指定商品たる「釣り具」の取引市場において、商品の普通名称や品質、用途を示すために「トンボ」なる語が普通に使用せられているとすることを得ないのである。

甲第18号証乃至甲第21号証の魚類に関する書籍の「ビンナガ」に関する説明文に「トンボ」なる記載のあることは認められるとしても、このようなものは本件指定商品たる「釣り具」の取引市場において「トンボ」が商品の普通名称や品質、用途を示すため普通に使用せられているとの事実を示しているものでない。

甲第22号証乃至甲第24号証は、魚類の加工品たる生利節の商品写真やシールであるが、この中の甲第23号証の商品表示に原材料名「びんなが鮪」、(商品の)普通名称「なまりぶし」とされていることよりすれば、これら商品における「とんぼ」の文字は商品の普通名称を表わしたものとは認められないし、仮にこれを商品の普通名称とした場合においても、これが本件指定商品たる「釣り具」の取引市場において、「トンボ」が商品の普通名称や品質、用途を示すために普通に使用されているとの事実を示していることになるものでない。

甲第25号証に「トンボ縄釣」なる記載があるとしても、同書は作成者も不明で、そこに記載されている事項が如何なる趣旨のものであるかも不明であるばかりでなく、「トンボ縄釣」なる名称が如何なる商品の普通名称として取引界で使用せられていたかの事実については全く不明であるから、このようなものによって「トンボ」が本件指定商品たる「釣り具」の取引市場において、商品の普通名称や品質、用途を示すために普通に使用せられていたとは認められないのである。

▲8▼ 以上の通り、請求人提出の証拠及び主張によっては、本件商標を構成する「トンボ」が、本件指定商品たる「釣り具」の商品の普通名称や品質、用途を表わすために取引市場で普通に使用せられていたとの事実は認められず、本件商標はその指定商品たる「釣り具」について、十分自他商品識別の標識としての機能を果たし得るものである。

4.当審の判断

(1) 利害関係について

甲第9号証(警告書の写し)は、被請求人代理人が本件商標の商標権に基づき、請求人が「釣り針」に「トンボ」の商標を使用することに対し、商標の使用の取り止め、商標を表示した包装用箱、カタログ等の廃棄等を求める警告書であり、これにより本件商標が当事者間の紛争のもととなっているものと認められるから、請求人は、本件請求をする利益を有することが認められる。

(2) 本件商標の識別性及び商品の品質誤認のおそれについて

▲1▼ 「原色日本海魚類図鑑」(桂書房平成2年6月発行)(甲第1号証)、「決定版 生物大図鑑魚類」(世界文化社昭和61年発行)(甲第2号証)、「日本産魚類大図鑑」(東海大学出版会昭和59年12月発行)(甲第4号証)、「日本産魚名大辞典」(三省堂昭和56年4月発行)(甲第5号証)、「平凡社大百科事典12」(平凡社昭和60年6月発行)(甲第6号証)、「世界大百科事典24」(平凡社昭和63年4月発行)(甲第16号証)、及び「マグロの話」(共立出版昭和56年1月発行)(甲第18号証)によれば、それぞれ「ビンナガ」の項目にいずれも「ビンナガ」の別名として「トンボ」の記載が認められる。そして、「トンボ」の語の由来は、長い胸びれを広げた形からの連想による旨記載されている(甲第6号証、甲第16号証、甲第18号証)。

また、大洋漁業発行のポスターにも「ビンナガ」の別名として「トンボ」が記載されている。

▲2▼ 「マグロ−その生産から消費まで−」(成山堂書店平成4年8月発行、昭和56年発行)(甲第3号証、甲第28号証)、「日本大百科事典」(小学館昭和63年1月発行)(甲第15号証)、「魚の歳時記−2初夏の魚」(学習研究社昭和59年10月発行)(甲第19号証)、「標準原色図鑑全集魚」(保育社昭和41年11月発行)(甲第20号証)には、「ビンナガ」の方言ないし地方名として「トンボ」が記載されている。

▲3▼ 「広辞苑 第4版」(岩波書店平成3年11天発行)(甲第14号証)の「とんぼ」の項には、「とんぼしび」として「ビンナガの別称」と記載されている。

また、「まぐろを追って八十八話」(神奈川新聞出版局平成7年3月発行)(甲第17号証)には、「トンボつり」「トンボ漁」の記載がある。

▲4▼ スーパーマーケットの商品ラベル及び商品の写真(甲第22号証乃至24号証)には、「とんぼ生利節」、「とんぼ生利」、「とんぼぶし」、「トンボ節」の記載が認められる。

▲5▼ 「最新漁業技術一般」(成山堂書店平成2年6月発行)(甲第7号証)には、ビンナガを対象とした漁具として「とんぼ縄」が記載されている。

また、請求人の商品カタログ(甲第10号証)には、「トンボ竿釣」の見出しのもとに釣り針が掲載されている。

さらに、前掲甲第7号証および「イカ−その生物から消費まで−」(成山堂書店平成3年2月発行)(甲第8号証)によれば、イカ釣りの漁具の名称として「とんぼ」の記載が認められる。

(3) 以上(2)▲1▼乃至▲4▼の事実によれば、「トンボ」の語は、魚との関係においてはマグロの一種である「ビンナガ」の別称として、漁業関係者はもとより、一般需要者にも知られているものであって、マグロの一種についての普通名称に属するものということができる。そうすると、魚種に対応した釣り具の多い状況において、「トンボ」の文字からなる本件商標を指定商品「釣り具」について使用するときには、取引者、需要者は、単に商品の用途を表示したものとしてしか認識しないものというべきである。

また、(2)▲5▼によれば、「トンボ」は、少なくともイカ用の釣り具について、商品の普通名称として使用されていた事実があり、現在においてもその存在を否定すべき証左は見当たらない。

してみると、本件商標をその指定商品中「ビンナガ用の釣り具」及び「イカ用の釣り具」に使用した場合、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであり、また、それ以外の商品について使用するときには商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるものである。

(4) 被請求人は、出版物に「ビンナガ」の別称としての「トンボ」の語の掲載のない事例及び釣り具に「トンボ」の用例のない事例を掲げているが、そのことをもって前記認定を覆すことはできない。

(5) したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第1号、同第3号および同法第4条第1項第16号の規定に違反して登録されたものであるから、本件商標は、商標法第46条第1項第1号の規定によりその登録を無効とする。

よって、結論のとおり審決する。

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