結論テキスト
判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 平成10年審判第35058号 |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第2605279号商標(以下、「本件商標」という。)は、別紙(1)に表示したとおり、「しょうざん一珍染」の文字を横書きしてなり、平成2年8月20日登録出願、第16類「一珍染織物」を指定商品として、平成5年12月24日登録されたものである。
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を概要以下のように主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第141号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)本件商標、請求人所有にかかる登録第2032561号商標(以下、「引用商標」という。)と類似であって、その使用する商品も同一又は類似のものに使用するものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第11号の規定に該当するものである。
すなわち、引用商標は「一珍染」の漢文字を横書きしてなり、旧第16類友禅織物を指定商品として、昭和61年5月19日に登録出願、同63年3月30日に登録され、その後平成9年10月8日に商標権存続期間更新の登録がなされているものである。
そこで、本件商標と引用商標の類否をみてみるに、本件商標の前半の「しょうざん」の文字は、本件商標の権利者である「株式会社しょうざん」の商号の略称を表示したものと理解し認識されるものであるから、後半の「一珍染」の文字とは、常に不可分一体のものとして把握されるものではなく、これに接する取引者・需要者は株式会社しょうざんの取り扱いにかかる「一珍染」印の商標と認識し理解するものとみるのが相当である。
そうとすれば、本件商標は「ショウザンイッチンゾメ」の称呼の外に「イッチンゾメ」の称呼をも生ずるものである。
他方、引用商標は「一珍染」の文字よりなるものであるから、これよりは「イッチンゾメ」の称呼を生ずるものであること明らかである。
してみれば、両商標は「イッチンゾメ」の称呼を共通にする類似のものたるを免れないものである。
次に、両者の指定商品を見てみるに本件商標の指定商品は「一珍染織物」となっているが、「一珍染織物」という名称の商品は、甲第5号証ないし甲第70号証にみられるように、織物を取り扱う業界においては存在しないものである。
しかしながら、その指定商品の名称中に「織物」の文字を有するものであるから、引用商標の指定商品「友禅織物」とは類似の関係にあるといえるものである。
そうとすれば、両者がその商標を使用する商品も互いに抵触を免れないものである。
(2)本件商標の指定商品は「一珍染織物」となっているが、「一珍染織物」なる商品は存在しないものであることは、呉服類を取り扱う全国の幅広い業者の前記各証明書により明らかである。
また、その指定商品の表示の前半部分である「一珍染」の文字は、特許庁において10年前に請求人に与えられた厳然たる登録商標である。それにもかかわらず、本件商標においてはその指定商品の一部に請求人の登録商標である「一珍染」の文字を用いて、それがあたかも商品の普通名称であるかの如くにしている。
しかして、この「一珍染」なる語は請求人の代表者が案出した一種の造語であって、以下のとおりの経緯により商標登録されたものである。
すなわち、繊維辞典又は文献等によれば「一珍糊」とは、手加工用防染糊で、小麦粉、米糠、消石灰などを混合し、布海苔液を加えて練ったもので、桃山時代から元禄時代に盛んにサラサ、友禅染めの染色に用いられていたもので、江戸の終わり頃には行われなくなったものといわれている。
しかしながら、その糊の調合方法は秘伝に属し一定していなかった模様である。当時、この一珍糊を使用して染色された友禅即ち「一珍友禅」に対する染色業界や呉服取引業界での一般的な評価は「安価な友禅染」と認識されていたため「一珍友禅」を歌っても高価に売れないという、あまり好ましくないイメージがあったとされている。そのため「一珍糊」を用いて染色する方法は以来立ち消えの状態が100年以上という長期間続いていたものである。ただ、その言葉自体は往時に一珍糊を用いて染色が行われた友禅織物等が、博物館等に現存しているため辞典、文献等に掲載されているものと思料される。
請求人代表者「小西正矩」は久しく顧みられなかった一珍糊を用いて染色されたといわれる桃山、元禄時代の友禅織物を徹底的に研究し、一珍糊の秘伝といわれるところを解明し、独自の技法を案出し、それを使用して友禅織物を開発し、それに新たに「一珍染」の商標を付して、呉服販売市場に提供したところ、その友禅織物は手加工の技術、技法の独自性、図柄の独創性と斬新な色使いなどが高く評価され、請求人の商品は手加工の友禅の逸品として好評を博するまでに到っているものである。
請求人は引用商標登録出願以前である昭和58年頃より友禅織物に「一珍染」の商標を使用し、全国的に盛んに宣伝活動を行い広告をしたため、「一珍染」の商標を付した商品は他にはないところよりして、「一珍染」といえば請求人の取り扱いにかかる商品を指称するほどに、取引者需要者の間に広く認識されるに到っているものである。
このことは、全国的に取引されている各取引店の証明、甲第5号証ないし甲第136号証及び請求人の取引書類により明らかである。
前記に詳述するように友禅織物に付する「一珍梁」の商標は自他商品の識別標識としての機能を十分に果しているものである。
(3)以上のとおりであるので、本件商標は商標法第4条第1項第11号の規定に該当するものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録は無効とされるべきものである。
(4)被請求人の答弁に対する弁駁
被請求人の提出した乙第1号証ないし乙第18号証(乙第3・4・5・7号証を除く)には「一珍染」の表示は見当らないので、請求人はこれらの証拠を有利に援用する。
被請求人は、本件商標は「しょうざん一珍染め」の文字を一連に横書きした構成よりなるものであると述べているのみで、これが「一珍染」と類似であるかどうかについては述べていない。
同じく、「一珍染」は当業界において普通に用いられる用語であると主張し、乙第1号証ないし乙第18号証を提出している。
そこで、被請求人の提出したこれらの証拠中に「一珍染」の表示があり、これが当業界において普通に用いられる用語であるかどうかについて検討してみるに、乙第1・2号証の「源氏ひなかた」の往時の印刷物の中に表示されている文字は「見事さは三国一ちん染」であって「ちん」の文字は平仮名で表示されておるばかりでなく「三国一」と「ちん染」の結合なのか「三国」と「一ちん染」の結合なのか不明である。いずれにしても、当時の「一ちん」という名称は、狩野派の画家「久隅守景」の画号「一陳」のことを指称していたものと思料される。したがって、これをもって「一珍染」ということはできない。
乙第3号証は昭和62年(1987年)に発行された雑誌「染織α」であって、これは請求人が友禅織物に「一珍染」の商標を付して販売したものが、取引業界において持てはやされるようになってから、俄かに染色方法と称して登場するようになったものである。しかしながら、これが商品として販売されている事実はない。
乙第4号証は平成4年(1992年)に発行された「京の友禅史」であって、これも請求人が友禅職物に「一珍染」の商標を付して販売したものが、取引業界において注目を集めるようになってから、俄かにその染色方法と称して登場するようになったものである。
乙第5号証は昭和55年に出版された「日本染色文献総覧」の65頁に「一ちん染」の項に括弧して(一珍染)の文字が見られるが、この表示は古い時代の「一陳糊」(一珍糊)を使用した友禅染めの紹介記事であって、江戸の終わり頃には廃れたものである。
乙第6号証は昭和50年6月に刊行された「友禅」と称する冊子の196頁に記載されている記事であるが、ここにも「一珍染」の表示は見当らない。ただ、上述の画家「久隅守景」の画号「一陳」により一陳糊が使用されたことが確認されたものである。
乙第7号証は昭和62年11月に刊行された「染織事典」の48頁に記載されている記事であるが、これも請求人が友禅織物に「一珍染」の商標を付して販売したものが、取引業界において広く認識されるようになってから、俄かにその染色方法と称して登場するようになったものである。
乙第8号証は平成3年6月に刊行された「和服地」と称する冊子の77頁に「一陳糊」、同78頁に「一陳染め」、同78頁に「一珍友禅」の文字が記載されているが、ここにも「一珍染」の表示は見当らない。
乙第9号証は被請求人によれば天明5年版の「更紗図譜」中に「インチン」の表示があることを立証しているが、ここにも「一珍染」の表示は見当らない。
乙第10号証は大正9年8月5日発行にかかる「友禅研究」なる冊子の83頁には「一陳描」、88頁には「イツチン糊と称し或は一珍、或は一鎮、・・・・一珍の字からしてこれを洛北の某寺の僧が発明したなどといっているが、イツチンは一陳で、守景の号一陳翁から出たのに相違ない」の記事を有するが、ここにも「一珍染」の表示は見当らない。
乙第11号証は大正9年9月17日発行に係る「友禅」なる冊子の38頁に「イツチン糊」「一陳糊」「一鎮糊」等幾つかの書き方があるほか、俗に一珍とも書けりの文字を有するが「一珍染」の表示は見当らない。
乙第12号証は大正15年2月18日再版発行にかかる「捺染法」なる冊子の312頁に「一珍糊」「一珍更紗」の文字を有するが、ここにも「一珍染」の表示は見当らない。
乙第13号証は昭和4年2月11日四版発行の「京染の秘訣」なる冊子の439頁に「一珍糊」同543頁に「一珍友仙」「一珍糊」の文字を有するが、ここにも「一珍染」の表示は見当らない。
乙第14号証は大正15年7月28日第九版発行の「実用色染学」なる冊子の99頁に「一珍糊」の文字を有するが、ここにも「一珍染」の表示は見当らない。
乙第15号証は昭和6年3月25日再版の「染織辞典」なる辞書の62頁に「いつちんのり(一珍糊)」「いつちんゆぅぜん(一珍友禅)」の文字を有するが、ここにも「一珍染」の表示は見当らない。かえって、「いつちんのり」を用いて染色されたものは「友禅織物」と認識されていたことが証明される。
乙第16号証は昭和48年3月1日第1版の「日本国語大辞典」の229頁に「いっちんサラサ(一珍更紗)」「いっちんのり(一珍糊・一陳糊)「いっちんばけ(一珍刷毛)」「いっちんゆうぜん(一珍友禅)」の項を有するが、ここにも「一珍染」の表示は見当らない。かえって、「いつちんのり」を応用して仕上げた安価な友禅染と認識されていたことが証明される。
乙第17号証は昭和52年6月6日発行の「原色染織大辞典」なる辞典の80頁に「いっちんのり(一珍糊)」「「いっちんゆうぜん(一珍友禅)の項を有するが、ここにも「一珍染」の表示は見当らない。かえって、「いつちんのり」を応用して仕上げた友禅染と認識されていたことが証明される。
乙第18号証は昭和58年2月に発行されたという「日本染織辞典」なる辞典の20頁に一珍友禅の項を有するが、ここにも「一珍染」の表示は見当らない。かえって、一珍糊を用いた友禅染と認識されていたことが証明される。
被請求人は乙第1号証〜乙第18号証(乙第4号証及び乙第8号証を除く)の事実を看過し「一珍染」の顕著性の判断を誤って登録されたものであると主張をしているが、これらの証拠中には「一珍染」の表現は見当らないものである。
乙第19号証及ぴ乙第20号証には「しょうざん」の文字を右上に小さく縦書きし、その左に大きく「一珍染の世界」の文字を縦書きしてなるものであるが、この証拠を使用した年号もなく、そこには説明として「一珍染の歴史は古く・・・」の表示をしているが、この表現(一珍染)はこれまでの乙号証にはなく、被請求人が請求人の登録商標の「一珍染」を希釈すべく、故意に使用しているものと思料される。
ところで、「一珍染」の商標に関し、請求人は平成2年5月23日付けをもって被請求人に対して甲第139号証の如き通知書を発したところ、被請求人は同年同月29日付けをもって「商品には一珍染のネームは一切使用しておりません」という旨の回答を甲第140号証の1,2の如くしているものである。そうとすれば、答弁書3頁の下から7行目の「かつ現在まで盛大に使用している。」という主張と矛盾することとなる。
乙第21号証の1ないし3には「遠山、立体、遊び、波状、漂う」等の表示は散見されるが「一珍染」の表示は見当らない。したがって、これには証拠価値はないものである。
乙第22号証は平成6年2月1日発行の「装道」に掲載されている標章は「しょうざん」の平仮名文字を極めて小さく縦書きし、その下に極めて顕著に「一珍染」の漢字を書し、それに極小さく「いっちんぞめ」の振り仮名をしているものである。この装道の取材に対して被請求人は前記の如く「一珍染」が請求人の登録商標であることを知り、一珍染のネームは一切使用しておりません、という回答をなしながら、本件商標をこのように変更使用し請求人の引用商標「一珍染」と混同を生じさせるものをしていることは、商道徳上許されるものではない。
乙第23号証は昭和54年12月1日発行の「染織の美」の現代の更紗の記事中に「一珍」の文字を有するが、この一事をもって「一珍染」の標章が普通に使用されていたという証拠にはならない。
乙第24号証及び乙第25号証について、被請求人が「一珍」及び「イッチン」の商標を出願し、それが審査の段階で何れも拒絶されたことは認める。しかしながら、被請求人は、これらについて査定不服による審判請求等を怠っていたものである。さらに、被請求人の上記商標は「一珍」「イッチン」であって「一珍染」ではない。それゆえ「一珍染」の商標が登録適格を有しないとはいえない。
すなわち、「一珍染」の語は、被請求人が提出した各証拠について詳細に検討した結果、ほとんどのものに「一珍染」の表示をした語は発見できなかったし、「一珍染」の商標が当業界において普通に使用されていた事実も見当らない。
さらに、往時一陳染の糊や技法は、高度な技術等が要求されたことから、これに改良を加えたのが、宮崎友禅斎であり、そして友禅染が生まれ今日に至ったというもので、「一陳(珍)糊」を用いて染色した技法の友禅は粗悪品の代名詞の如くいわれていたため100年以上跡絶えていたことによるものである。
このように、「一珍染」の語は、引用商標出願前には見当らなかったものであり、ましてや「一珍染織物」なる表示も商品も存在しないことは、被請求人が提出した各証拠を具に検討してみても皆無であり、さらに請求人が先に提出した甲5号証ないし甲第70号証の如く全国の取扱業者が証明する如くであって、「一珍染織物」なる表示は被請求人が「一珍染」の商標を使用したいために、そのような商品が現存する如く作り上げ、特許庁の審査官を欺瞞して登録を得たものである。
なお、被請求人は、請求人が提出した甲第5号証ないし甲第70号証等は信憑性に欠けるものであるとの趣旨の答弁をしているが、織物又は着物を専門とするこれらの取引業者の全てが「一珍染織物」という商品が存在しないことを認めているものであるから、これらの証明書を無視することはできない。
被請求人は、「一珍染」の語は、当業界においては、染色技法、織物、着物について普通に用いられる用語であって、真に公益に属する性質のものであると主張し、またこの商標は、普通名称又は慣用商標ないし品質表示であって、自他商品の識別力を有しないものであると主張するが、「一珍染」の語は、請求人がこれまで主張した如く、百年以上も跡絶えていた一陳糊を用いて染色した織物、即ち友禅織物の染色技法を復元した商品に「一珍染」の商標を付するまで、何人も使用をしていなかった語であることは、しばしば述べるとおりである。その後請求人が商品に「一珍染」の商標を付して売り出したものが、人気を博し、取引者・需要者の間に広く認識されるに至ったため、俄かに「一珍糊」を用いた染色技法を研究発表する冊子も増え、中には請求人の登録商標そのままを染色技法「一珍染め」として発表するものまででている有様で困惑しているところである。しかしながら、「一珍染」の商標を使用しているのは請求人のみであって、他にこれを使用しているものはないものであるから、この語が商品の普通名称又は慣用商標ということはできず、商品の品質を表示するものであるということもできない。
さらに付言すれば、被請求人は答弁書中の諸所において「一珍染」の語が古来より普通に使用されていたものである如く述べているが、古より使用されていたものは「インチン」「イッチン」「一陳友仙染め」「一陳糊(一珍糊)」「一陳染め」「三国一ちん染」「一珍友禅」等種々あげられるが、いずれも関係する商品名は大方「友禅織物」を指称するもので「一珍染」の文字を使用したものは見当らない。ましてや、「一珍染織物」という文字は全く見当らないし、そのような商品も存在しないものである。そうとすれば、本件商標は、架空の商品を指定しているものであるから、商標法第6条第1項又は第2項の規定にも違反してなされたものである。
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を概要以下のように主張し、証拠方法として乙第1号証ないし乙第37号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)請求人は、本件商標が請求人の所有に係る引用商標と類似し、指定商品も同一又は類似のものであるから、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであると主張するが、この主張は以下のとおり不当である。
本件商標は、「しょうざん一珍染」の文字を一連に横書きした構成よりなるものである。
「一珍染」は、一珍糊を防染糊として使用した友禅染の染色技法、また同技法を用いて染色した織物、並びに同織物を用いてなる着物の名称であって、「一陳染め」「一珍友禅」とも呼ばれ、当該業界で普通に用いられる用語である(乙第1号証ないし乙第18号証)。
一珍染の歴史は古く、江戸時代、貞享四年(1687年)版の模様染の雛形本「源氏ひなかた」(乙第1号証,乙第2号証〉中にも、27種の染色法中に「見事さは三国一ちん染」との記載がみられるとおりである。
防染糊として使用される「一珍糊」とは、請求人も述べているところであるが、小麦粉を煮てこれに糠や消石灰を混ぜ、さらに布海苔等を加えて練り上げたものである。
一陳糊は「インチン」とも呼ばれ、その処方は、古くは天明五年(1785年)版の「更紗図譜」(乙第9号証)に記されており、また乙第13号証や乙第14号証等の文献でも紹介されているところであるが、その調合は、各染色家により使用する染料や仕上りの好み等に応じ、工夫が凝らされている。この一珍糊を使用した一珍染の特徴は、糊置きして染めた後、生地を斜めに引っ張るかヘラで掻き落とすだけで糊が落ち、水洗いをしなくてもいい点にあり、しかも糊の割れ目に染料が入って生まれる微妙な色使いは、他の染物にはない独特の味わいがある(乙第3号証)。
上記のとおり、「一珍染」は、古来より存在する染色技法、織物、着物の名称である。
請求人は、「『−珍染』なる語は請求人の代表者が案出した一種の造語」であると主張するが、これが偽りであることは上記の事実より明白である。
また、請求人は、「一珍染織物」が名称として存在せず、「一珍染」商標が請求人の業務に係る商品の表示として広く認識されるに至っていることの証明として、甲第5号証ないし甲第136号証の取引店の証明書を提出しているが、これらの証明書はいずれも予め用意したとみられる定型二通りの証明様式によるもので、証明者は請求人の商品の取引店に限られ、織物の取引業界または友禅織物を取り扱う業界全体を掌握・証明できる立場になく、各証明者がいかなる根拠に基づき証明書を発行したのか不明であり、証明書の信憑性は極めて疑わしい。
さらに、請求人が甲第4号証として提出する新聞記事は、取材記事の様であるが、請求人の取材のみに基づくものとすれば客観性を欠き、「一珍染」商標が請求人に帰属すべき性質のものであることの証左となり得ない。
上述のとおり、請求人提出の証拠によって、古来より存在する「一珍染」の存否が左右されることはない。
また、請求人は、当該技法は請求人代表者によって復元されたと主張するが、被請求人が一珍染を手掛け始めたのは請求人より先である。
すなわち、請求人が提出した各証拠によると、請求人は昭和58年に一珍染の技法を完成させ、商品に「一珍染」の文字を使用開始したとみられるが、被請求人は、請求人に先んじて、昭和50年前には一珍染の織物・着物を手掛け始めているのである。遅くとも、昭和54年発行の乙第23号証の被請求人の紹介記事中に「一珍」の記述がみられ、このことからも被請求人が請求人より先に一珍染を手掛けていることは明らかであり、かつ現在まで盛大に使用している(乙第19号証ないし乙第22号証)。
そして、被請求人は、昭和53年5月17日付で、「一珍」(商願昭53−37168)及び「イッチン」(商願昭53−37169)商標を出願したが、いずれも自他商品識別力を有しないとして昭和55年12月5日付で拒絶査定となった(乙第24号証ないし乙第26号証)。
そこで、被請求人のハウスマークたる「しょうざん」を付して「しょうざん一珍染」として、本件商標の登録出願を行い、厳格な審査を経て、指定商品「一珍染織物」について登録されたものである。
請求人が初めて「一珍」の文字を含む商標登録出願を行ったのは、請求人の上記「一珍」「イッチン」の出願より2年後のことであり、昭和55年7月25日付で出願された「好丹詩/一珍」商標は、昭和58年12月26日付で登録第1640348号として登録されたが(乙第27号証)、これは請求人のハウスマーク「好丹詩」の顕著性ゆえに登録されたに他ならない。
請求人の引用商標は、上記登録第1640348号の連合商標として出願されたために、乙第1号証ないし乙第3号証,乙第5号証ないし乙第7号証,乙第9号証ないし乙第18号証他、上記事実を看過し、「一珍染」の顕著性の判断を誤って登録されたものである。
以上のとおりり、「一珍染」の語は、当該業界においては、染色技法、織物、着物について普通に用いられる用語であって、真に公益に属する性質のものである。
本件商標にあっては、「一珍染」の部分は自他商品識別力がなく、自他商品識別力を有するのは被請求人のハウスマーク「しょうざん」の部分である。
これに対し、請求人の引用商標は、普通名称または慣用商標ないし品質表示であって、現時点ではその登録無効審判の請求について除斥期間を徒過しているため無効審判請求によって無効とすることはできないが、自他商品の識別力を有しない原始的に無効原因を内包する登録であり、この登録商標には禁止権は存しないものである。
したがって、本件商標は、請求人の引用商標とは類似が成り立たず、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものではないから、無効とされるべきではない。
(2)第二答弁
請求人提出の平成10年7月28日付弁駁書に対し、被請求人は以下のとおり答弁する。
請求人の主張及び提出する甲第139号証ないし甲第141号証の2は、先の被請求人の主張を覆すものではない。
具体的には次のとおりである。
請求人の主張及び提出する各証拠は、古来より存在する染色技法、織物、着物の名称である「一珍染」の存在を否定するものではない。
請求人は、被請求人が証拠として提出した文献に「一珍染」の表示が見当たらないと主張するが、昭和55年発行の乙第5号証に「一珍染」の表示があり、その解説として「一珍糊を使って模様染をすること。」の解説があるとおり、古くより一珍染なる染色技法が存在していることは明白である。
してみれば、乙第3号証、乙第4号証、乙第7号証にみられる「一珍染」の表現は、古来より「一珍染」なる技法が存在する事実に基づき記述されたものであって、「請求人が友禅織物に『一珍染』の商標を付して販売したものが、取引業界において持てはやされるようになってから、俄に染色方法と称して登場するようになったものである。」とする請求人の主張は失当である。
また、例えば乙第11号証にみられるとおり、「イッチン」は、「一珍」とも「一陳」とも表されるものであるから、乙第6号証、乙第8号証及び新たに提出する乙第28号証、乙第29号証にみられる「一陳染め」「一陳染」「イッチン染」の表現は、「一珍染」と実質的に同一のものである。
さらに、請求人は乙第1号証及び乙第2号証について、「源氏ひいながた」に27種類の染色法の一つとして記されている「見事さは三国一ちん染」の表現は、「三国一」と「ちん染」の結合なのか、「三国」と「一ちん染」の結合なのか不明であるとするが、乙第30号証の「源氏ひいながた」に関する解説に、上記27種類の染色法の一つとして「一ちん(陳)染」の表現がみられること、また、乙第3号証の第26頁の、一珍染の解説に「源氏ひいながた」の「見事さは三国一ちん染」の表現を引用していることからも、この表現が「一珍染」を表したものであることは明らかである。
なお、「一珍糊」「一珍友禅」に関する追加証拠として、乙第31号証ないし乙第33号証を提出する。
上記の事実は、請求人が提出した証拠によっても証明される。
例えば、請求人の提出した甲第4号証の昭和63年2月26日付サンケイ新聞夕刊の記事中に、「一珍染は、江戸初期の絵師で、狩野派中興の祖・狩野探幽(たんゆう)門下の四天王といわれた久隅守景(一陳または一珍斉)が考案したとされる。小麦粉に石灰を混ぜて作る一珍糊(のり)を使って模様や線を描き、染料で染め、乾燥したあと糊を落とすと、紋様に複雑なひびが入り、独特のモザイク調の風合いをかもしだす。全体の調子は淡く、素朴で落ちついた感じの染め物。」とあり、「小西さんが一珍染に初めて出会ったのは約十年前。神戸市立美術館で、その染め方を記した古文書をみつけた。」とあるとおり、「一珍染」の語は、一珍糊を用いた染色技法を指称する用語として古くより存在していたものであって、請求人の創造したものではない。
また、請求人提出の甲第141号証の2においても、染織研究家石崎忠司氏が「久隅一陳(一珍)が、掻き落とし糊を用ひて文様を描いたことから、その美しさに当時の人々が、この糊のことを一陳(一珍)糊とよび、その染のことを一陳(一珍)染とよんだと伝えられている。」と陳述していることからも、古来より「一珍染」なる染色技法が存在していたことが裏付けられる。
以上のとおり、「一珍染」は染色技法を指称する用語として、古くより存在するものである。また、請求人は一珍染の技術は請求人によって復元されたと主張するが、被請求人もまたそれ以前に一珍染を手掛けていることは、被請求人が提出した昭和54年発行の乙第23号証の記事中に紹介されているとおりである。しかも、一珍糊(インチン)の処方並びに一珍糊を用いた染色技法、すなわち一珍染の技法自体は、乙第3号証、乙第9号証、乙第13号証、乙第14号証、乙第29号証、乙第32号証の文献で紹介されているとおり、当該業界の者であれば誰でもが容易に実施し得るものである。ただ、各染色家によって、一珍糊の調合や技法に工夫がこらされているばかりである。
したがって、「一珍染」の語は、請求人に帰属すべき性質の語でなく、真に公益に属するべきものである。
さらに、請求人が提出した甲第5号証ないし甲第136号証の取引店の証明書は、請求人の商品の取引店に限られ、業界全体を掌握・証明できる立場になく、単に証明者が請求人の一珍染商品を知っていることの証明にすぎないことを、重ねて主張する。
請求人が提出した甲第139号証ないし甲第141号証の2について反論すると、請求人提出の甲第139号証及び甲第140号証の1、甲第140号証の2は、被請求人が使用する「野口一珍」の名称についての通知書及び回答書であって、「一珍染」に関するものではない。
また、被請求人が「一珍染」の名称を、染色技法及び織物、着物の名称として使用しないことを確約したものではなく、「野口一珍」の作家名についての係争を回避するために、回答したにすぎないものである。
甲第141号証の1及び甲第141号証の2は、一珍染の歴史と、請求人が一珍染の技法を復元し「一珍染」の名称を使用していることを述べたものであって、「一珍染」の用語が請求人のみに帰属すべき性質のものであることを証するものではない。むしろ、前述のとおり、「一珍染」が古来より存在する染色技法であることを証明するものである。
なお、石崎忠司氏は、乙第34号証の1ないし乙第36号証に示すとおり、かつて被請求人の顧問であり、被請求人が一珍染を手掛けていたことを知り得る立場にあったことを付言する。
上述のとおり、少なくとも「一珍染」は、古来より存在する一珍糊を用いた染色技法を指称する用語であって、本件指定商品との関係でみれば、商品の普通名称または慣用商標ないし品質表示であり、「一珍染」の文字のみでは、これに接する需要者は何人の業務に係る商品か認識することができないか、または識別力の極めて弱いものであるから、自他商品を区別するため、「○○一珍染」「一珍染○○」としているのが実情である。
しかるに、本件商標にあっては、被請求人(商標権者)の商品であることを表す顕著な商標「しょうざん」を冠して「しょうざん一珍染」となすものであって、取引者及び需要者において「しょうざん一珍染」として親しまれ、請求人の一珍染とは明確に区別されているものである。
してみれば、本件商標は、「しょうざん一珍染」の文字を外観上まとまりよく一体に表した構成よりなり、かつ取引者・需要者において「しょうざん一珍染」として親しまれ、取引されているものであるから、これより「ショウザンイッチンゾメ」の称呼を生ずるとともに、「しょうざんの一珍染」の観念を生ずるものである。
これに対し、被請求人の引用商標は単に「一珍染」の文字よりなるから、本件商標と被請求人の引用商標とは、外観、称呼、観念のいずれについても非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第11項第11号の規定に違反して登録されたものではないから、無効とされるべきではない。
(1)「一珍染」について
甲第4号証は、昭和63年2月26日付産経新聞夕刊の第10頁であるが、そこに掲載されている「一珍染」に関する記事をみると、「一珍染」は京都府加悦町の染色家、小西正矩さんが十年がかりで現代によみがえらせた染色法である旨、また、一珍染めは、江戸初期の絵師で狩野探幽門下の久隅守景(一陳または一珍斉)が考案したとされ、小麦粉に石灰を混ぜて作る一珍糊を使って、模様や線を描き、染料で染め、乾燥したあと糊を落とすと、紋様に複雑なひびが入り、独特のモザイク調の風合いをかもしだす、全体の調子が淡く素朴で落ち着いた感じの染め物である旨記載されている。そして、この「一珍染」に関する記事においては、「一珍染」は、染色技法の一つ、又はこの染色技法により染められた染め物であるとの理解、認識のもとに記事が書かれているものと認められ、「一珍染」が特定の者により使用されている商標であることを窺わせるような記載はない。
また、乙第3号証は、昭和62年5月1日株式会社染色と生活社発行の「月刊染織α」5月号であるが、その第7頁ないし15頁には一陳糊による一陳友禅染めや一陳染めの技法が紹介されており、同第20頁ないし25頁には、「一珍糊染めの作品づくり 高橋明実」と題して「一珍染めとの出会い」、「私の一珍染め手法」が、同第26頁ないし27頁には、「一珍染め湖料事典 志多野義男」と題して「一珍友禅と一珍糊」、「一珍染めの原料と用法」が紹介されている。乙第4号証は、平成4年5月16日京都友禅協同組合発行の「京の友禅史」であるが、その第245頁に「イッチンゾメ 一珍染め」、「イッチンノリ 一珍糊」及び「イッチンユウゼン 一珍友禅」の項があり、それぞれその説明が記載されている。乙第16号証は、昭和48年3月1日株式会社小学館発行の「日本国語大辞典」第二巻であるが、その第229頁の「いっちんのり【一珍糊・一陳糊】」の項に「手工捺染(なっせん)用の防染糊。小麦粉、米ぬか、消石灰などを混合し、ふのり液を加えて練ったもの。水洗いなしで仕上げができるのが特徴。」と記載されている。また、乙第17号証は、昭和52年6月6日株式会社淡交社発行の「原色染色大辞典」であるが、その第80頁に「いっちんのり 一珍糊」及び「いっちんゆうぜん 一珍友禅」の項があり、それぞれその説明が記載されている。
そして、以上の新聞、出版物における記載を総合すれば、「一珍染」、「一珍染め」、「一陳染」及び「一陳染め」は、表記が多少異なるが同一の染色法を指している用語であって、「一珍糊(一陳糊)」を使って模様や線を描き染色する染色技法又はこの染色技法により染められた染め物をいうものと認められる。また、「一珍染」は、廃れた染色技法であるが、伝統的な染色技法として新聞、出版物において紹介されているものであって、この染色技法を試みる者も請求人代表者「小西正矩」以外に存在する事実が認められる。
そうすると、「一珍染」は、少なくとも和服の生地や和服を製造販売する業界において、本件商標の登録時には、一珍糊を使う染色技法又はこの染色技法により染められた染め物を意味するものとして理解、認識されていたとするのが相当である。
(2)本件商標の指定商品について
本件商標は、「一珍染織物」を指定商品としているところ、その表記からみて、指定商品は、織物地を一珍染の染色技法で染めたものを指していると容易に理解できると認められる。
この点に関し、請求人は、「一珍染織物」というような商品は存在せず、本件商標は、架空の商品を指定しているものであるから、商標法第6条第1項又は第2項の規定にも違反してなされたものである旨主張する。しかし、本件商標の指定商品は、前記のとおり織物地を一珍染の染色技法で染めたものを指していると理解することができるものであって、架空の商品を指定するものとはいえないから、この請求人の主張は、採用できない。
(3)本件商標と引用商標の類否
本件商標は、「しょうざん一珍染」の文字を横書きした構成のものであり、その構成中の「一珍染」の文字は、前記のとおり、本件商標の登録時には、一珍糊を使う染色技法又はこの染色技法により染められた染め物をいうものとして理解、認識されていたものである。そうすると、本件商標を一珍染の染色技法により染めた布地に使用するときは、その商品の品質を表す文字であって、自他商品識別機能を有せず、自他商品の識別は、この文字以外の「しょうざん」の文字部分によりなされるものといわざるをえない。
一方、引用商標は、請求人が主張のように、「一珍染」の漢字を横書きしてなり(別紙(2)に示すとおり)、旧第16類友禅織物を指定商品として、昭和61年5月19日に登録出願、同63年3月30日に登録され、その後平成9年10月8日に商標権存続期間更新の登録がなされているものである。
そして、本件商標と引用商標の類否について検討すると、本件商標は、その構成中に引用商標を構成している漢字と同一の「珍染」の文字を有しているが、これをその指定商品である「一珍染織物」即ち織物地を一珍染の染色技法で染めたものに使用するときは、その商品の品質を表す文字であって、自他商品識別機能を有しないから、本件商標が構成中に「一珍染」の文字を有していることをもって、引用商標と類似する商標とすることはできない。また、他に、本件商標と引用商標とが類似するとみるべきところはないから、本件商標は、引用商標と類似するものとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第第11号及び商標法第6条第1項又は第2項の規定に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定により無効とすべき限りでない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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