結論テキスト
審判費用は、被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 平成10年審判第35234号 |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
本件登録第4113706号商標(以下「本件商標」という。)は、別紙に示すとおりの文字を横書きしてなり、平成7年10月9日登録出願、第19類「陶磁製建築専用材料、れんが及び耐火物、合成建築専用材料、アスファルト及びアスファルト製の建築用又は構築用の専用材料、ゴム製の建築用又は構築用の専用材料、しっくい、石灰製の建築用又は構築用の専用材料、石こう製の建築用又は構築用の専用材料、繊維製の落石防止網、建造物組立てセット(金属製のものを除く。)、セメント及びその製品、木材、石材、建築用ガラス、建具(金属製のものを除く。)」を指定商品として、平成10年2月13日に設定の登録がされたものである。
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至同第33号証を提出している。
(1)商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、片仮名文字の「ミューチャ」、アルファベットの「Mucha」および片仮名文字の「ミューシャ」を上中下3段に併記してなり、チェコの画家名「Alphonse Mucha」の著名な略称である「Mucha」からなるものである。
請求人は、「Alphonse Mucha」氏(以下、ミュシヤ氏と略称する)作の絵画の所有者であるが、その代表者「John Mucha」はミュシャ氏の孫に当たるものである。
ミュシャ氏は、1860年7月24日チェコに生まれた。彼は1882年エマホーフ城の壁画の修復にあたり、その後、挿絵とかポスターを制作していく。彼の作品は細部まで注意深く仕上げられたデッサンと淡くやわらかな色調、そして精巧な装飾のタッチで優しく敬虔に語るものである。彼のポスターは、ヴィクトリア朝の乙女を控え目な官能性、遠慮がちな眠差し、慎み深い物腰で描き出し、ほめたたえるような作品である。それは内に秘めた炎をはからずも露呈するように、抑えきれずにはねあがる長く束ねた髪の一房だけで措き出すといった具合である。
彼の気品あるポスターの穏やかな美しさは、パリ市民の支持を得、彼の人気は最高潮に達するのである。(甲第1号証〜同第23号証)
彼の作品は、その数の多さからほとんど網羅しえないほどのポスターなどにおよぶいわゆる「ミュシャ・スタイル」は、芸術的試行の典型的具現として1890年、又は1990年頃のすべての世代の芸術家、意匠デザイナー模範となった。その意味で、「ミュシャ・スタイル」は、アール・ヌーボー(新しい芸術)やユーゲントシュテイール(青春様式)と同義の言葉となるにいたったのである。
我が国においても、アルフォンス・ミュシャ展が彼の没後50年を記念して、1986年に、高島屋東京店、高島屋京都店などをはじめ、全国津々浦々25か所の美術館で開催され、わが国でも広く再認識されるにいたった。それは本件の登録出願より9年も前のことである(甲第8号証および同第9号証)。
それはまさに本件商標が意味するとおり「Muchaの時期」すなわち「Muchaの最盛期」であったのである。
それゆえ、本件商標は、「Mucha」を称えたことばであると認識されるものである。
さらに、Muchaの作品は全欧州では2010年まで有効に存在するものである。つまり、美術品の著作権の存続期間は、作者の没後70年間存在することになっているものである。これは世界的な潮流であり、わが国もその潮流に調和していく動きがある。(甲第23号証)
そうであるとすれば、本件商標は、画家の著名な略称含んでいるものである。そのような商標を他人が本人またはMuchaの作品を正当に引き継いでいる権利者の承諾なしに使用・登録することは、作者の人格権を侵害するものである。また、正当権利者が所有する作品の著名さを盗用し、只乗りするものであるからそれらの利益を阻害し公正な取り引きとは到底容認できないところである。
のみならず、天才画家の傑作は、Muchaおよびその正当権利者である請求人の利益のために存在するものではなく、チェコ国および人類共通の遺産でもあるから、その名称を他人が個人的利益追及の具として勝手に使用し、また登録を受けることは、公序良俗に違反するものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
請求人は、ミュシャ氏の署名「Mucha」のブランドのもとに種々の商品展開をする英国法に基づき正当に設立された企業であるが、英国、米国、日本等で商標登録を受け、商品販売活動を行っているものである。
そして、わが国においては、株式会社ジーイーエム(京都中野区鷺宮6−13−8所在)が、請求人の総代理店となって商品化業を行っているものである。
それゆえ、もしも本件商標が出願人によって指定商品に使用されたときには、それらも請求人の使用許諾を得たものによって販売される商品であろうと、取引者および一般需要者がその商品の出所について混同をするおそれが多分に存在するものである。
そうなれば、「ミュシャ・スタイル」は、世界的に作品のイメージを保持するように厳格な条件のもとに許諾され、かつ、品質管理され、それによって当該傑作の同一性を維持し続けられているが、その信用が阻害され、あるいは崩壊の危機にさらされるものである。
また、「ミュシャ・スタイル」を信頼して商品を購入する一般消費者を欺罔することになる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にも該当する。
被請求人は、本件審判の請求に対し、何ら答弁していない。
請求人の提出にかかる書証よりみて、以下の点を認めることができる。
(1)甲第6号証、同第7号証、同第10号証及び同第12号証乃至同第16号証によれば、「ミュシャ(Alphonse Mucha)」は、(1860−1939)チェコスロバキアの画家、グラフィック・アーティスト、デザイナー、舞台美術家。ミュシャの気品あるポスターの穏やかな美しさは、パリ全市民の支持を得たこと、そしてアール・ヌーヴォー(一時期はミュシャ様式と同義であった)を代表する芸術家の一人。スラヴやオリエントの装飾的要素を加味したアール・ヌーヴォー風の広告ポスター(女優サラ・ベルナールのポスターがもっとも有名)により、ヨーロッパ全域で名声を得たことが記載されている。
(2)甲第11号証によれば、「ミュシャ財団」は、1992年に設立され、アルフォンス・ミュシャ作品(ポスター、装飾用パネル、油彩、パステル画、素描、写真、デザイン、彫刻、書籍及び宝石類等)の所有者であるミュシャトラストに代わり作品を保存・維持し、また、展覧会を通じて作品の宣伝を行っている。そして、請求人は、ミュシャの著作権及び商標「ミュシャ」を通じてミュシャの芸術的財産を宣伝する機会を広める宣伝会社として、1993年ミュシャトラストにより設立されたことが認められる。
(3)甲第8号証によれば、没後50年記念の「アルフォンス・ミュシャ展/THE 50TH YEAR ANNIVERSARY EXHIBITION OF ALPHONSE MUCHA」が高島屋東京店(1989年4月6日)を皮切りに、その後、24か所の国内各地の美術館等で開催されたこと、また、甲第9号証によれば、アルフオンス ミュシャ「生涯と芸術」展/ALPHONSE MUCHA−HIS LIFE&ARTがBunkamura ザ・ミュージアム(1995年10月7日〜11月26日)を始めとして各地の美術館等で開催されていたことが認められる。
(4)甲第18号証によれば、請求人は、「MUCHA」のブランドのもとに商品販売活動を行っており、わが国においては、株式会社アートプリントジャパン、株式会社講談社、桃山陶器株式会社等の会社と紙製品、ネクタイ、陶磁器製品、時計等についてライセンシー契約があることが示されている。
上記の(1)乃至(4)の各点よりすると、別紙に示すとおり「ミューチャ」「MUCHA」「ミューシャ」の文字を三段に書してなる本件商標中の「MUCHA」の文字は、世界的に著名なチェコの画家の略称として、わが国においても相当程度に知られていたものといわざるを得ず、他にこの文字が特定の意味を有するものとして知られていたとの証左を見出せない。
ところで、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標は、商標登録を受けることができない」旨の規定は、商標の構成自体がきょう激、卑わい、若しくは差別的な印象を与えるような文字、図形等から構成されている場合だけでなく、商標自体はこのようなものでなくても、これを指定商品又は指定役務に使用することが社会公共の利益・社会の一般的道徳観念に反する場合や一般に国際信義に反する商標である場合にその登録を拒絶すべきことを定めていると解されているところである。
してみれば、チェコの画家を指称するものとして、わが国においても相当程度知られているといえる「MUCHA」の文字を含む本件商標をその指定商品に使用するときは、ミュシャの作品と何らかの関係を有する商品であると認識するというのが相当である。
そうすると、本件商標は、出願当時すでにわが国において相当程度の好評を博していた「MUCHA/ミュシャ」作品又はその作者の名声を利用する意図をもって、ミュシャと何らの関係のない他人が自己の商標として使用するものといわなければならない。
してみれば、本件商標は、公正な競合秩序を阻害し、あるいは、国際信義又は商取引上の信義則に反するものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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