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Trademark Appeal Case

電鋳ポーラスの普通名称性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号平成9年審判第15157号
審判種別不服
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

1 本件商標

本件登録第2636914号商標(以下「本件商標」という。)は、「電鋳ポーラス」の文字よりなり、第9類「産業機械器具その他本類に属する商品」を指定商品として、平成3年12月10日登録出願、同6年3月31日登録されたものである。

2 請求人の主張

請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第13号証を提出している。

(1)本件商標は、「電鋳ポーラス」と表示するものであって、プラスチック用型を取り扱う分野では、ポーラス状の電鋳型を用いることは周知・慣用の技術手段である。そのため、当業界関係者らの間では、ポーラス状(多孔質)の電鋳型の品質、形状に基づいて、呼称:「ポーラス状電鋳型」、略称:「ポーラス電鋳型」等として、広く認識されているものである。本件商標はこれを「電鋳ポーラス」と表示するものであるが、「電鋳ポーラス」も「ポーラス電鋳」も実質上同一であって、ポーラス電鋳品の普通名称あるいはその生産方法を普通に用いられる方法で表示するものにすぎない。

したがって、本件商標は、指定商品であるプラスチック用型の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標、または、このプラスチック用型の品質、形状等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるため、商標法第3条第1項第1号または同第3号に該当する。

(2)被請求人は、自ら本件商品を対象として、特許出願を行っているが、その発明の名称や特許請求の範囲等において、「ポーラス電鋳」なる用語を用いている。ここで、特許明細書の記載様式を規定した特許法施行規則の様式29の備考7〜備考9によれば、原則的に技術用語(学術用語)を普通の意味で用い、登録商標を用いる必要性がある場合には登録商標である旨記載することと定めている。したがって、「ポーラス電鋳」なる用語は、登録商標ではなく通常の技術用語であることを認めていることが推量されるのである。さらに、被請求人は、「ポーラス電鋳」、「ポーラス電鋳金型」なる用語を用いているが、何ら登録商標である旨の付記を行っておらず、通常の技術用語として用いている。この事実からも、「ポーラス電鋳」なる用語は、通常の技術用語として従来より使用されていることが明らかである。

してみれば、「電鋳ポーラス」も「ポーラス電鋳」も実質上同一であって、ポーラス電鋳品の普通名称あるいはその生産方法を普通に用いられる方法で表示するものにすぎない。

さらに以上の理由から、本件商標の指定商品のうちポーラス電鋳品以外の製品はその商品の品質において誤認を生じさせることが明らかであり、商標法第4条第1項第16号に該当する。

(3)答弁に対する弁駁

▲1▼被請求人は、請求人は利害関係を有しないと主張する。しかし、本件商標登録権者と請求人は、いわゆる同業者であり、同じ地域で営業しており、競業関係にあることはお互いに承知していることである。被請求人は、かかる事実を全く無視して、利害関係を否定している。利害関係についてさらに争うのであれば、必要な立証は行う。

▲2▼「電鋳」の用語、それ自体が技術用語であることは答弁書添付の各乙号証からも明らかであり、必要であれば、その技術内容、用途等についてさらに立証する用意はあるが、いずれにしても、金属加工に従事する人々にとって、特に本件の場合のように、プラスチック金型製造に従事する人々にとって「電鋳」は極めて一般的な技術用語である(金属加工あるいはめっきに関する大学あるいは高専の教科書にも載っている)。

用語「電鋳」がこのように確立された技術用語である以上、すでに日本語となっている形容詞「ポーラス」を付した製品は需要者にとって、多孔質電鋳品を意味すること明らかなところ、事実、甲第1号証ないし甲第10号証によって立証したように、ポーラス状電鋳品(甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第10号証)、ポーラス電鋳型(体)(甲第4号証、甲第5号証、甲第12号証)、ポーラス電鋳金型(甲第11号証、甲第13号証)のように、すでに当該技術分野において多用されている用語、つまり「ポーラス(状)電鋳」を特定個人にその使用を許容することは商標法の制度趣旨にも反するものである。もし、この点について、さらなる立証が必要であるのであれば、その用意はある。しかし、ここまでの議論は常識の問題であると承知しているので、現時点ではこれ以上の補足は行わない。

▲3▼このようにポーラス(状)電鋳(体、品、金型)との用語が広く普通名称として用いられている事実から、特に指定商品をプラスチック成形金型と考えた場合、商標「ポーラス電鋳」はそのような指定商品の普通名称とは区別がつかず、してみれば、それを逆転させた商標「電鋳ポーラス」はますます当業界に混乱を引き起こす以外の何物でもない。少なくとも、かかる商標を指定商品ポーラス電鋳金型について1私人に独占させる積極的な理由はない。

しかも、「電鋳」の概念が確立したものである以上、特に商標「電鋳ポーラス」は、電鋳品であって多孔質のものが想起される以上、本件商標の指定商品にプラスチック金型用電鋳金型が包含されるか否か不明であるが、それ以外の例えば単なる電鋳金型については品質誤認のおそれは免れない。

3 被請求人の答弁

被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第35号証を提出している。

(1)請求人は、本件無効審判の請求に際し、利害関係の主張をせず、またこれを立証する証拠方法を何ら提出していない。従って、請求人は本件審判請求に関し利害関係を有しないものと認められ、この一事をもってしても本件審判請求は却下されるべきである。

(2)本件商標は、指定商品の取引者や需要者にとって、何の意味も想起できない商標である。

本件商標中の「ポーラス」の文字の語義について、一般的な英和辞典の一つである新英和中辞典第5版(1985年研究社発行)を見てみると、英単語「porous」に「小穴のある(多い)、多孔性の、しみ通る、浸透性の」の意味があることは事実である。しかし、同辞典によると「porous」は、ギリシャ語で「通路」の意から皮膚や葉などの細穴、毛穴、気孔を意味することとなった「pore」の形容詞形ということであり、極めて馴染みのない英単語である。ある英語より構成されている商標の語義からその商標が普通名称又は品質形状等表示であるというためには、通常の英語知識を有する取引者や需要者が、その英語の意味について熟知していて、その英語の商標を見たときに直ちにその意味を想起することが少なくとも必要であると考える。さらに普通名称であるというためには、その英語の商標が取引上で一般的名称であると意識されている事実を必要とする。しかし、本件商標の指定商品を取り扱う取引者や需要者のなかに、本件商標中の「ポーラス」に上記の意味があることを知っている者は、外国文献等に精通した極僅かの技術専門家を除けば、ほとんどいないといってよく、「ポーラス」の部分からは何の観念も想起しないというべきであり、ましてや一般的名称として取引上通称されている事実はない。しかも、「ポーラス」の意味を知っている極僅かの技術専門家にとっても、「ポーラス」と「電鋳」とが結び付くことでその全体の意味が把握できないはずである。

また、本件商標中の「電鋳」の文字の語義についても、それが電気メッキの原理により導電体の表面に金属層を比較的厚く電着させる技術用語を意味することを知っているのは、実際にその研究開発を行っている極僅かの技術専門家に限られ、やはり極めて馴染みのない特殊な技術用語であるから、本件商標の指定商品を取り扱う取引者や需要者のほとんどはその意味を知らず、何の観念も想起しないというべきである。

以上の理由から、本件商標「電鋳ポーラス」は、指定商品の取引者や需要者にとって、何の意味も想起できない商標であり、従って、自他商品識別力を有するとともに品質誤認のおそれがない商標であることが明らかである。

(3)本件商標は、指定商品に関する極一部の技術専門家にとってすら、全体の意味を把握できない商標である。

外国文献等に精通し実際に研究開発を行っている極僅かの技術専門家のなかには、上記の「ポーラス」の意味と「電鋳」の意味をそれぞれ断片的に知っている者がいるかもしれない。しかし、そのような技術専門家にとってすら、本件商標は「ポーラス」と「電鋳」とが結び付くことでその全体の意味が把握できないはずである。過去も現在も、メッキ時に穴があいたメッキ品が不良品とされているのと同様に、電鋳時に穴があいた電鋳品は不良品として廃棄されている(廃棄されない唯一の例外は、後述する被請求人の基本特許の方法を使用して製造した被請求人の電鋳品のみである。)。そして、そのようにしてあいた穴のことを、通常は欠陥として「ピンホール」と呼んでおり、決して「ポーラス」と呼ぶことはない。つまり、電鋳において「穴」は本来欠陥なのであるから、上記のように「小穴のある(多い)、多孔性の、しみ通る、浸透性の」といった意味のある「ポーラス」の文字を「電鋳」の文字に結び付けて有用品としてとらえるということは通常ではあり得ないことであり、ましてや実用的であるべき商品の普通名称又は品質形状等表示として認識することは到底考えられないことである。

そうすると、「ポーラス」の意味と「電鋳」の意味をそれぞれ断片的に知っている極僅かの技術専門家にとっても、それらが結び付いた「電鋳ポーラス」については、その全体の意味が一体どのようなものなのかを正しく把握・理解することはできないというべきである。

(4)甲第1〜13号証をもって、本件商標が普通名称又は品質形状等表示に該当するということはできない。

被請求人が本件商標を採択した契機は、被請求人が昭和58〜59年にかけて基本特許に係る発明を完成し、世界で初めて、電鋳の進行と同時に所望径の穴(制御不能なピンホールでは無く、制御可能な通気孔)を成長させることに成功したことにある。被請求人は、この基本特許に係る電鋳型の製造・販売を開始するとともに、商標調査を行った結果、基本特許の出願前には、指定商品において誰も「ポーラス」の用語を使用・登録していないことが明らかになったため、この馴染み無いゆえに新しさを感じさせる「ポーラス」の用語を使用することを決定し、まず「ポーラスデンチュウ」を出願し、さらに「電鋳ポーラス」(本件商標)を出願し、さらに「ポーラス電鋳」を出願し、いずれも商標登録を受けたのである。

一方、請求人が挙げた甲第1〜10号証は、このような経緯の中で、他5社から特許出願されたものである。基本特許等の出願の経緯と甲第1〜10号証の出願日とを対比すれば明らかなように、甲第1〜10号証の特許出願はいずれも、被請求人の基本特許の出願公開又は被請求人の電鋳型商品を見てなされた出願であり、その明細書中における「ポーラス状電鋳体」等なる名称も、被請求人の商品・商標を真似て用いられたものである可能性が極めて高いと考えられる。しかも、甲第1〜10号証は特許出願として存在するだけで、その現実の実施化商品である電鋳型としては、全く取引の場に登場することがなかったのである。これは、甲第1〜10号証の内容が基本特許に抵触するために実施できなかったか、又は現実性に乏しかったために実施できなかったことによるものと考えられる。

このように、被請求人以外には当該電鋳型を合法的に出荷する者がない状況で、一部の会社の発明者のみが、出願明細書中のみにおいて、「ポーラス状電鋳体」等なる名称を、被請求人の商標を真似て用いたとしても、それは机上でのしかも正当性に欠ける使用にすぎないし、商品の取引上で「ポーラス状電鋳体」等なる名称が使用されていたことの証明には全くならない。しかも、甲第1〜10号証のうちの大半を占める甲第2.3.8.9.10号証の発明者が帰属するホンダエンジニアリング株式会社と、甲第6,7号証の出願人であるオサダ精工株式会社からは、後述するように、本件商標「電鋳ポーラス」を被請求人の識別力ある商標として認識していた事実を、今回提出に間に合った証明願(乙第21〜24号証)において証明してもらっている。

次に、甲第11〜13号証において、被請求人が「ポーラス電鋳」の文字を登録商標であることを付記せずに用いたのは、その時点で登録されていた「ポーラスデンチュウ」(乙第1号証)の禁止権の範囲にあると考えられる「ボーラス電鋳」を「登録商標である」とまでいうことに若干ためらいがあったためにすぎない。甲第11〜13号証といった僅かの例外を除く多くの事例において、被請求人は、本件商標をそれが被請求人の商標であることを付記して大切に使用している。従って、甲第11〜13号証をもって、本件商標が商標法第3条第1項第1号又は第3号に該当するということも到底できない。

(5)本件商標は、査定時において、被請求人の商品を表す、自他商品識別力を有する商標として、取引者又は需要者に現実に認識されていた。

乙第21〜24号証は、指定商品の現実の取引者又は需要者が、本件商標を、その査定時(平成5年9月)において、被請求人の商品「電鋳型」を表わす識別力ある商標として認識していたこと、一方、普通名称又は品質表示としては認識していなかったことを証明してもらうために、各証明者に願い出て、受け取った証明願である。その証明者は、いずれも被請求人と過去ないし現在において、指定商品に関する商取引がある会社の方々である。このように、現実の取引者又は需要者が、本件商標を被請求人の識別力ある商標として認識している事実は、特に重視されるべきである。

(6)弁駁書に対する答弁

▲1▼被請求人は、請求人が被請求人と一部競業関係にあることは承知している。しかし、商標法第3条の規定を理由に競業相手の特定の商標登録を無効にしようとするのであれば、その特定商標(本件では「電鋳ポーラス」)を請求人が自社の商品に現に使用しているか又は使用する必要性があるかのいずれかでなければならないと考える。被請求人は、請求人が今そのような状況にあるのかを問うているのであり、請求人は依然としてこの点を証明も疎明もしていない。仮に、漠然と同業者でありさえすれば特定商標の使用の事実又は必要性を問わずに登録無効審判を請求できるのだとすれば、商標法第3条の規定を理由に競業相手の商標登録を一斉攻撃することを許し濫訴を防ぎ得ないことになるから、認められるべきではない。

▲2▼本件商標中の「電鋳」の文字が、金属層を比較的厚く電着させる技術用語を意味することを知っているのは、本件商標の指定商品を取り扱う者のなかでも、実際にその研究開発を行っている極僅かの技術専門家に限られる。

そして、なによりも、上記指定商品について、「ポーラス」の文字と「電鋳」の文字とを結び付けて「電鋳ポーラス」の商標を造り上げたのは、被請求人が初めてである。「ポーラス」と「電鋳」の意味を断片的に知っている極僅かの技術専門家にとっても、「ポーラス電鋳」という造語は直ちに意味が把握できない斬新なものであって、勿論、普通名称でも品質表示でもない。

▲3▼「ポーラス」の語が日本語となっている事実はないし、ましてや日本語の形容詞となっている事実もない。

乙第31〜35号証により、被請求人が本件商標に類似する商標「ポーラス電鋳」を出願日(昭和60年4月30日)より以前から使用している事実を証明し、そのオリジナリティが被請求人にあることを明らかにする。甲第2,3,8,9,10号証の発明者は乙第31〜34号証のホンダEGに帰属し、甲第4号証の出願人は乙第35号証の河西工業株式会社であり、甲第6,7号証の出願人からは乙第22号証の証明を受けている。また、被請求人は、甲第1号証(三ツ星ベルト株式会社)の発明者に対しても、甲第1号証の出願日以前に、被請求人の商品について「ポーラス電鋳」の商標を用いて紹介している。このようにして、被請求人から「ポーラス電鋳」の語を知り得た甲第1〜10号証の各発明者が、それを真似た「ポーラス状電鋳型」等の文字を明細書において使用してしまったことは、容易に推測されるのである。

以上のとおり、「ポーラス電鋳」及び本件商標「電鋳ポーラス」は被請求人が初めて造り上げた造語にほかならず、当然、被請求人が一番早く使用しており、そのオリジナリティは被請求人にある。

請求人が提出した甲第1〜10号証は、被請求人から「ポーラス電鋳」の語を知り得た各発明者が、それを真似て明細書において使用してしまったものに過ぎず、また机上での使用にすぎない。実際の取引の現場においては、被請求人以外の者が、「ポーラス電鋳」を商品に使用した事実はない。むしろ、実際の取引の現場において取引者には、本件商標を被請求人の識別力ある商標として尊重してもらっており、「ポーラス電鋳(電鋳ポーラス)」といえば江南特殊産業(被請求人)、江南特殊産業といえば「ポーラス電鋳(電鋳ポーラス)」、というほどに本件商標は業界内に定着しているというのが事実である。従って、前述のとおり、本件商標を無効にしても、請求人には何らの利益もなく、むしろ、被請求人の商標として定着し親しまれている業界内の秩序をいたずらに混乱させ、取引者を当惑させるとともに、被請求人の培ってきたグッドウィルを不当に害するのみである。

▲4▼本件商標は普通名称ではない。

甲第1〜10号証でのポーラス(状)電鋳(体、品、金型)の使用は、被請求人から商標を知り得た特定の者によりある期間、限定的に明細書のみで真似られたというだけのことで、机上の使用にすぎない。実際の取引の現場においては、被請求人以外の者が、「ポーラス電鋳」を商品に使用した事実はないのであるから、到底、甲第1〜10号証は「普通名称として用いられている事実」には当たらない。従って、仮に、指定商品をプラスチック成形金型と考えたとしても、商標「ポーラス電鋳」はその指定商品の普通名称とはいえない。

よって、「ポーラス電鋳」も本件商標「電鋳ポーラス」も、なんら当業界に混乱を引き起こすものではなく、むしろ前記のとおり、すでに当業界で一定の秩序を形成している重要な商標である。

▲5▼本件商標に品質誤認のおそれはない。

穴のことを欠陥として「ピンホール」と呼び、廃棄している状況のなかで、それまで使用されていなかった「ポーラス」の文字を「電鋳」の文字と結び付けて「電鋳ポーラス」という造語を採択したという意外性が本件商標の特徴であり、格別の意味を把握できない斬新な造語というべきであるから、請求人のいうような品質誤認のおそれは全くない。

▲6▼請求人の提出した甲第1〜10号証のうち、甲第1〜3号証と甲第6〜10号証で使用されている用語は「ポーラス状電鋳...」であって、本件商標「電鋳ポーラス」と同一ではない。従って、甲第1〜3号証、甲第6〜10号証では「電鋳ポーラス」が使用されたことの証明にはならない。そもそも特許明細書においては、先願主義下で出願を急ぐこともあり、他人の商標がその旨を記されずに使用されてしまうケースがあることは周知の事実である。ましてや、本件においては、上記の事情によって被請求人の商標が特定の者によりある期間、限定的に明細書のみで真似られたにすぎない。請求人は、そのような例外的な使用をたまたま発見したことから、取引の実情を全く無視して、被請求人の商標登録を無効にすることでグッドウィルを不当に害しようとしたというのが本件審判請求の実体であり、到底認められるべきではない。

4 当審の判断

(1)利害関係

本件審理に関し、当事者間に利害関係の有無について争いがあるので、先ず、この点について判断するに、請求人が、電鋳金型生産を事業内容とする被請求人と一部競業関係にあることは両当事者間に争いがない。そして、請求人は、本件商標がその指定商品に含まれるポーラス電鋳品の普通名称またはその生産方法を普通に用いられる方法で表示するにすぎないことを理由の一つとして、その登録を無効にすべきであると主張するものである。

そうであれば、請求人は、自らの事業を遂行する上で、商品の名称又はその生産方法を表す際に、本件商標を使用する必要性が生じないとはいえず、本件商標の有効無効は請求人の業務の遂行に直接影響を及ぼす関係にあるものと認められる。

したがって、請求人は、本件商標の存在によって、不利益を被るといわなければならないから、本件審判を請求するにつき、法律上の利益を有するものというべきである。

(2)本件商標の無効理由の当否

次に、本案に入って、請求人が主張する本件商標の無効理由の当否について判断する。

本件商標は「電鋳ポーラス」の文字よりなるところ、構成各文字は、同じ大きさで、特に軽重の差なく外観上まとまりよく一連一体に表してなるものである。

そして、その構成中の「電鋳」の文字は、「電気メッキの原理により導電体の表面に金属層を比較的厚く電着させる技術」を意味する語であり、また「ポーラス」の文字については、英語の「porous」に通じ、「小穴のある(多い)、多孔性の、しみ通る、浸透性の」を意味する語(この点は被請求人も認めている。)であることは、認め得るとしても、必ずしも一般に親しまれた語とはいい得ないものである。

請求人は、プラスチック用金型を取り扱う分野では、ポーラス状の電鋳型を用いることは周知・慣用の技術手段であり、ポーラス状(多孔質)の電鋳型の品質、形状に基づいて、呼称「ポーラス状電鋳型」、略称「ポーラス電鋳」として認識されている旨、主張している。

そこで、請求人が提出した甲第1号証ないし甲第13号証を徴するに、甲第1号証ないし甲第11号証の「公開特許公報」には、「ポーラス電鋳型」「ポーラス状電鋳体」「ポーラス状電鋳成形型」「通気性ポーラス電鋳金型」、甲第12号証の「プラスチック成形技術」には、「ポーラス電鋳型」、甲第13号証の「型技術 1988 VOL3,NO.7」には、「ポーラス電鋳金型」等の語が記載されていることが認められる。

しかしながら、これらの何れにも本件商標を構成する「電鋳ポーラス」の語のみならず、請求人がこれと実質上同一であるという「ポーラス電鋳」の語さえも「プラスチック用金型」の品質を表示するものとして使用されているのは見当たらない。却って、甲第12号証、甲第13号証によれば、被請求人会社の者による自社製品の技術紹介として、「ポーラス電鋳型」「ポーラス電鋳金型」が被請求人の開発した商品を表示する名称として使用されていることが窺われる。

これらの事実を総合すれば、「ポーラス状電鋳体」「ポーラス状電鋳成形型」「通気性ポーラス電鋳金型」、「ポーラス電鋳型」、「ポーラス電鋳金型」等の文字は、業界において「樹脂製品の真空成型等を行う際に使用する多孔質性金型」を表す語として認識されていたものということができるが、本件商標を構成する「電鋳ポーラス」の語、さらには請求人がこれと実質上同一であるという「ポーラス電鋳」の語が「プラスチック用金型」を表す語として普通に使用されていたものと判断することはできない。

他方、被請求人が提出した乙第1号証ないし乙第35号証をみるに、乙第21号証から乙第24号証の証明書は、その証明日が本件商標が登録査定された後の日付ではあるが、その内容は登録査定時の判断材料として採用することができ、甲第1号証ないし甲第11号証の「公開特許公報」に記載の出願人が、本件商標が被請求人の商標として認識されていたことを証明しているものである。

乙第25号証の「プラスチック成形技術」、乙第26号証の「プラスチックスエージ」、乙第27号証の「型技術」は、被請求人会社の者による自社製品の技術紹介であり、そこには「ポーラス電鋳」「ポーラスデンチュウ」が被請求人の商標として使用されていることが窺われる。

乙第28号証の「江南企業ガイド’93」、乙第29号証、乙第30号証の「被請求人会社のカタログ」はその発行年月日は不明ではあるが、その内容は被請求人の製造販売に係る商品に「ポーラス電鋳」「ポーラスデンチュウ」が被請求人の商標として使用されていることが窺われる。

上記乙各号証を総合してみるに、被請求人は、昭和63年(1988年)頃より商品「プラスチック用金型」について「ポーラスデンチュウ」の文字よりなる商標を雑誌(乙第27号証)に広告掲載し、爾後継続して使用していることが認められ、本件商標の登録査定時には、プラスチック用金型を取り扱う業界において、「ポーラスデンチュウ」の文字よりなる商標は、被請求人が使用する商標として広く認識されていたものと判断するのが相当であり、該商標に通じる「ポーラス電鋳」、さらにこれを前後置換した「電鋳ポーラス」もまた被請求人の商標と関連づけられて同業の取引者、需要者に認識されていたものと推認しうるところである。

以上によれば、本件商標に接する取引者、需要者はこれを被請求人の商標と関連づけて認識することはあっても、特定商品の品質等を表示する語として通用しているものと認識することはないというべきであり、これを否定するに足りる証拠は発見できない。

してみれば、本件商標は、特定の意味合いを想起することのない造語よりなるものとみるのが自然であるから、これをその指定商品中の如何なる商品について使用しても、自他商品の識別標識としての機能を十分果たし得るものというべきであり、かつ、商品の品質につき誤認を生ずるおそれもないものといわなければならない。

したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第1号、同第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものとはいえず、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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