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Trademark Appeal Case

立体商標の普通形状性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2006−89006(T2006−89006/J3)
審判種別無効
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

登録第4616028号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第4616028号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成11年10月5日に登録出願、第7類「オッターボード及びその他の漁業用機械器具」を指定商品として、平成14年10月25日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張

請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第10号証及び参考資料1ないし参考資料3を提出した。

1 請求の理由

(1)本件商標は、「オッターボード及びその他の漁業用機械器具」を指定商品とするところ、オッターボードとは、トロール船のトロール漁具構成要素として、漁船と魚網の中間に位置し、漁網を沈降、拡網、安定させ、目的の魚群を捕獲する漁具である。

オッターボードにはいろいろな形状のものがあるが、複葉式と称される本件商標と同様な立体的形状のオッターボードも、本件商標の登録出願時及び査定時(平成14年9月10日)には使用されていた(甲第1号証ないし甲第5号証)。

(2)甲第1号証ないし甲第5号証について

(ア)甲第1号証は、平成11年11月2日に、被請求人が請求人に宛てた通知書であり、これには、「被請求人の複葉式のオッターボードが写真AからDに示すように、箕島漁港に在籍する約100艘の漁船に搭載され、請求人の複葉式のオッターボードは、写真E及びFに示すとおりである。」旨記載されている。

(イ)甲第2号証は、甲第1号証で言及している写真及びその送り状であり、これには、写真AからE(審決注:「E」は「F」の誤記と認める。)に複葉式のオッターボードが示されている。

(ウ)甲第3号証は、平成17年12月27日に、被請求人らが和歌山地方裁判所に申立てを行った本件商標に係る商標権などを被保全権利とし、債務者を請求人とした仮処分申立書であり、その5頁に、「平成6年頃、従来一般に使用されていた単葉式のオッターボードよりも品質の良い複葉式のオッターボード(NBW型)(甲第3号証)を新たに開発し販売したところ、市場を席巻し瀬戸内海地域におけるオッターボードはほとんど債権者ニチモウの販売する複葉式のオッターボードに置きかわった(甲第11号証)。」と記載されており、甲第3号証で言及している甲第4号証(仮処分申立書では甲第3号証と記載)は、ニチモウNBW(複葉型)オッターボードのカタログであり、また、甲第3号証で言及している甲第5号証(仮処分申立書では甲第11号証と記載)は、西日本ニチモウ株式会社(以下「西日本ニチモウ」という。)の営業員が作成した報告書であって、ここには、NBW型OB(SUS)出荷実績表として、1995年(平成7年)から2005年(平成17年)11月末までの出荷実績が地区及び年ごとに記載されている(甲第4号証及び甲第5号証は、甲第3号証に添付された疎明資料のうちの一部である。)。

(エ)以上のとおり、本件商標の立体的形状は、本件商標の査定時には、指定商品「オッターボード」そのものの一形状を表示したものとなっていたことが明白である。

したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、また、本件商標を指定商品「その他の漁業用機械器具」に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるから、同法第4条第1項第16号に該当するものである。

(3)本件商標の出願手続における意見書について

(ア)被請求人は、本件商標の審査段階における拒絶理由(商標法第3条第1項第3号:甲第6号証)に対する意見書(甲第7号証)において、「『オッターボード』として一般に採用されている形状は、単一の板から構成され、本願商標の形状は通常オッターボードとしては採用されていない形状であることから、本願商標に接する取引者及び需要者である漁業関係者が本願商標を『オッターボード』の一形状を表示したものと理解することは無い。・・本願指定商品中『オッターボード』は、『トロール船で使用されるトロール網の網口を開かせるために使用される開口板』であり、その使用目的である『網口を開かせる』ことを達成するため、最大限の拡網力・安定力を確保すべく、長年に亘る改良を経て、現在は、『横型オッターボード』、『縦型オッターボード』、『円形型オッターボード』及び『ドルフィン型オッターボード』の4つの類型が存在するものである。これらのオッターボードは、いずれも『平型』又は『翼型』の形状から成る単一板から構成されるものであるから(甲第1号証ないし甲第3号証:本件審判における甲第8号証ないし甲第10号証)、本願商標の様に複数の板の組み合わせからなる形状が『オッターボード』に採用し得る形状として一般的に理解されているものではない。特に、漁業関係者は、商品『オッターボード』に通常採用される形状に知悉していることを考慮すると、尚更、本願商標が商品『オッターボード』の一形状を表示したものと理解されることは無いから、本願商標は、商品『オッターボード』が採用し得る立体的形状の範囲を超えているものと言うべきである。したがって、本願商標は、本願指定商品中『オッターボード』との関係において十分に自他商品識別標識として機能を果たすものであり、商標法第3条第1項第3号に該当しないものである。」旨述べた。

(イ)ところが、甲第8号証は、昭和63年2月8日に、甲第9号証は、昭和53年7月8日に発行された古いものであり、甲第10号証のオッターボードは、いつごろ製造販売されたものか不明である。

そして、被請求人は、甲第1号証ないし甲第5号証の作成を自ら行ったのであり、本件商標のような形状が「オッターボード」に採用されていることを熟知していたものである。したがって、客観的にみると、被請求人は、故意に上記意見書において、虚偽の証拠提出及び事実主張をすることにより、審査官を錯誤におちいらせて本件商標の登録査定を得たものであることが明らかである。

2 答弁に対する弁駁

(1)立体的形状の識別性

立体商標における商標法第3条第1項第3号の商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とは、それに接した取引者及び需要者が指定商品等の形状そのものの範囲を出ないと認識する商標をいうものと解すべきである。なぜなら、商品等の立体的形状は、第一に商品の機能・美感のために採用されるものであり、これに接する取引者及び需要者もそのように理解するものであるから、その商品の機能・美感と関係のある非特異な形状であって、取引者及び需要者が指定商品の形状そのものの範囲を出ないと認識するものは、商品の出所を表示するために選択されたものであると理解されることがないのが一般であるからである。商品等の立体的形状は、その機能・美感の発揮を第一の目的として選択されることが通常であるから、出所を表示することを第一の目的として選択され、これに接する需要者もそのように理解することが一般である、平面商標と同一視することはできない。このような立体的形状が第一義的に果たす機能・美感については、制度上、本来、それぞれ特許法・実用新案法、意匠法で一定期間に限り保護が与えられ、その後は何人も自由に実施をすることが認められるべきであるから、商標登録を受けて、これに半永久的な保護を与えるには、慎重でなければならないのは当然だからである(参考資料1)。

(2)本件商標の無効理由について

被請求人は、本件商標が「オッターボード」の形状そのものであることを認めながら、本件商標は、シェアが高く、周知・著名となっているから、商標法第3条第1項第3号に該当しない旨主張する。

しかしながら、被請求人の上記主張は、立体商標に関する商標法第3条第1項第3号該当性の理解を欠いた理由のないものである。

すなわち、本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当しないというためには、その立体的形状が、オッターボードの機能又は美感とは関係のない特異なものであって、取引者及び需要者がオッターボードの形状と認識していないことを主張、立証することが少なくとも必要であるところ、被請求人は、このような主張、立証はしていない。

(3)その他

(ア)被請求人は、請求人の「被請求人は、故意に意見書において虚偽の証拠提出及び事実主張をすることにより、審査官を錯誤におちいらせて本件商標の登録査定を得たものである。」旨の主張に対し、乙第1号証及び乙第2号証を提出して、「本件商標の登録査定時よりも後に改訂された書籍においても、オッターボードの類型として、本件商標の様に、複数の板の組み合わせからなる形状は掲載されていない。」旨主張する。

しかしながら、被請求人は、本件商標の審査段階における拒絶理由に対する意見書において、本件商標がオッターボードの機能又は美感とは関係のない特異な形状であることを主張、立証することなく、本件商標がオッターボードに選択される形状とは全く無関係である旨の主張をしたのであって、客観的な事実と異なる主張であることは明らかである。

しかも、被請求人は、複葉型オッターボードを記載した書籍(参考資料2)が本件商標の登録査定時より前に発行されていることを把握しながら、乙第1号証及び乙第2号証を提出している。参考資料2は、仮処分申立事件(甲第3号証)で、請求人が平成18年3月7日に提出したものであり、被請求人も答弁書提出時には熟知しているものである。

(イ)被請求人は、被請求人の警告書に対する請求人からの平成13年1月29日付けの回答書(参考資料3)で、「製造販売を中止し、設計変更をする」旨の回答を得たことから、請求人が被請求人のオッターボードの形状が自他商品識別機能を発揮しており、当該形状と類似の形状からなるオッターボードを製造販売することにより、被請求人のオッターボードとの間で混同が生じるおそれがあることを認めていた旨主張する。

しかし、請求人は、上記回答書で述べたとおり、被請求人のオッターボードは、不正競争防止法に該当するほど特徴的で、かつ、周知であり、需要者が混同を起こしていることの証明がされていないことから、請求人の製造販売行為が右法律に抵触するかどうかは不明である旨述べ、さらに、争いを避けるために、両製品の差異を顕著にするための設計変更を、弁理士と相談して急いで行なう所存である旨を述べたものである(参考資料3)。

このように、請求人は、被請求人のオッターボードの形状が自他商品識別機能を発揮しており、当該形状と類似の形状からなるオッターボードを製造販売することにより、被請求人のオッターボードとの間で混同が生じるおそれがあるとは認めてはいない。

(ウ)被請求人は、乙第3号証(審決)を提出し、被請求人の主張が妥当である旨主張するが、本件と乙第3号証とは、事案が全く異なり、理由のないものである。

(エ)被請求人は、乙第4号証及び乙第5号証(東根造船所に対する警告書及びその回答書)を提出し、本件商標が自他商品識別標識である商標として機能を失わない様に、商標の管理を誠実に行っているものであり、請求人以外の同業者は、本件商標が自他商品識別機能を発揮していることを認め、かつ、その商標権を尊重しているものである旨主張する。

しかしながら、上記東根造船所も請求人と同様に、零細業者であり、被請求人のような大企業と紛争するほどの体力がなく、大企業の横暴に対して譲歩しているにすぎないものと推察される。請求人も被請求人の横暴に対して設計変更等をして、被請求人と紛争が生じないようにしてきたが、上記仮処分申立事件(甲第3号証)により、やむを得ず本件審判を請求せざるを得なくなったのである。

(4)まとめ

以上述べたように、被請求人の答弁は、立体商標に関する商標法第3条第1項第3号の規定についての理解を欠くものであって、理由のないものである。

第3 被請求人の答弁

被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。

1 請求人は、甲第1号証ないし甲第5号証を提出し、本件商標はその査定時に指定商品中の「オッターボード」そのものの一形状を表示したものとなっていた旨主張する。

しかし、請求人の上記主張は、以下の理由により失当である。

(1)甲第1号証(通知書)は、被請求人が製造販売する本件商標と実質的同一形状からなる複葉式のオッターボードの形状が、被請求人の商品等表示として需要者の間に広く認識されていることを説明するために、「被請求人の複葉式のオッターボードが箕島漁港に在籍する約125艘(審決注:「約100艘」の誤記と認める。)の漁船に一対づつ搭載されている」旨を述べ、当該事実を証明するために、被請求人の複葉式オッターボードを搭載している漁船の写真AないしD(甲第2号証)を送付し、さらに、被請求人は、請求人の行為が不正競争行為に該当することを説明するために、請求人の製造販売するオッターボードの写真E及びF(甲第2号証)を送付したものである。

すなわち、甲第1号証及び甲第2号証は、その差出し日である平成11年11月2日当時において、被請求人が製造販売する複葉式のオッターボードの形状が、被請求人の商標(商品等表示)として、取引者及び需要者の間で広く認識されていることを示すものである。

(2)甲第3号証ないし甲第5号証における記載は、全て被請求人のオッターボードについてのものであり、これらも被請求人の複葉式のオッターボードの形状が被請求人の商標(商品等表示)として周知・著名であったかを証明するものである。

これらのことから、甲第1号証ないし甲第5号証は、本件商標と実質的同一形状からなる複葉式のオッターボードの形状が被請求人の商標として機能していたことを立証するものであって、これらの証拠から、本件商標が商標法第3条第1項第3号に規定する「商品(オッターボード)の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」であるとは到底言うことができない。

なお、甲第5号証(西日本ニチモウの営業員が作成した報告書)記載のとおり、請求人は、被請求人の製造販売する複葉式のオッターボードの形状と近似したオッターボードを製造販売するようになったため、その製造販売の中止を求める警告書を送付したところ、平成13年1月29日付けで、請求人から「製造販売を中止し、設計を変更する。」旨の回答を得たものである。当該事実から、請求人が被請求人のオッターボードの形状が自他商品識別機能を発揮しており、当該形状と類似の形状からなるオッターボードを製造販売することにより、被請求人のオッターボードとの間で混同が生じるおそれがあることを認めていたことは明らかである。

2 請求人は、被請求人が意見書において提出した証拠は、古いもの(甲第8号証及び甲第9号証)であったり、いつごろ製造販売されたものか不明のもの(甲第10号証)である旨主張する。

そこで、本件商標の査定時以降に発行された「日本漁具・漁法図説」(株式会社成山堂書店発行、甲第9号証の改訂版)を乙第1号証として、また、「和文英文 日本の漁業と漁法」(株式会社成山堂書店発行)を乙第2号証として提出する。これら書籍においても、オッターボードの類型として、本件商標の様に、複数の板の組み合わせからなる形状は掲載されていない。

また、被請求人は、意見書において、本件商標が「平型」及び「翼型」の形状からなる単一板で構成された一般的なオッターボードの形状と著しく異なることを説明するために、これらの一般的オッターボードの写真を提出したのであり、その写真のオッターボードがいつごろ製造販売されたものであるかを証明する意義は極めて乏しいと考える。

3 請求人は、被請求人が甲第1号証ないし甲第5号証の作成を自ら行っていることから、本件商標の様な形状が「オッターボード」に採用されていることを熟知していたものであり、客観的にみると、被請求人は故意に意見書において虚偽の証拠提出及び事実主張をすることにより、審査官を錯誤におちいらせて本件商標の登録査定を得たものである旨を主張する。

しかしながら、上述したとおり、甲第1号証ないし甲第5号証は、本件商標の形状が、被請求人の商標(商品等表示)としていかに機能していたかを証明するものであって、不特定多数の者によって本件商標と同一又は類似の形状が「オッターボード」の形状として普通に採用されていたことを何ら示すものではないから、請求人の主張は失当である。

4 以上のとおり、複数の板の組み合わせからなる本件商標は、「オッターボード」に採用し得る形状として一般的に理解されているものではなく、意見書で述べたとおり、本件商標に接する需要者は、「オッターボード」の一形状を表示したにすぎないものと理解することはない。

そして、本件商標は、被請求人により商品「オッターボード」について使用された結果、その登録査定時においては既に、被請求人に係る商品を表示するものとして、取引者及び需要者の間で相当程度認識されていたものである。

したがって、本件商標は、商品「オッターボード」との関係において十分に自他商品識別機能を発揮するものであり、商標法第3条第1項第3号に該当しないものである。

また、本件商標は、商品「オッターボード」の一形状を表示したにすぎないと理解されることがないことから、これをその指定商品中「オッターボード」以外の商品に使用した場合にも、商品の品質の誤認を生じさせるおそれはないから、商標法第4条第1項第16号にも該当しない。

被請求人の上記主張が妥当であることは、不服2003ー8222における審決の判断からも首肯されるところである(乙第3号証)。

5 なお、被請求人は、本件商標と酷似した形状からなるオッターボードを製造販売していた東根造船所に対し、平成16年8月4日付けで警告書(乙第4号証)を送付し、直ちに当該形状よりなるオッターボードの製造販売を停止するように要求したところ、東根造船所より、「本件登録商標の商標権を侵害する行為の無き様厳重に注意する」旨の平成16年8月12日付け回答書を受け取った(乙第5号証)。当該事実からも明らかなように、被請求人としては、本件商標が自他商品識別標識である商標として機能を失わない様に、商標の管理を誠実に行っているものであり、請求人以外の同業者は、本件商標が自他商品識別機能を発揮していることを認め、かつ、その商標権を尊重しているものである。

6 以上のとおり、本件商標の登録には、請求人が主張する無効理由は存しない。

第4 当審の判断

1 オッターボードについて

(1)本件商標は、別掲(1)のとおりの構成よりなるものであるところ、本件商標を構成する立体的形状が複葉型(式)オッターボードであることについては、当事者間に争いがない。

ところで、オッターボードは、「漁船が底曳網を曳航して底曳漁をする際、底曳網の入口をすぼまらないように拡げるための漁具であって、漁船と網をつなぐ2本の曳航綱のそれぞれに1個づつ取付けられて使用されるもの」(平成17年12月27日付け仮処分申立書:甲第3号証)であるところ、「漁具物理学」(株式会社成山堂書店、平成13年4月18日初版発行:参考資料2)の「各種オッターボードの概要」(47頁)には、オッターボードは、構造が簡単・丈夫で、安価に製造することができるような形状として、角形の平板や断面が円弧状の湾曲板がその基本となり、この基本形状である横平板型から横V型、横L型、卵型、円型などが、また、湾曲板から縦湾曲型、シューバークリューブ型、縦湾曲V型、複葉型などが開発された旨の記載がある。そして、「複葉型」(50頁)について、「1980年代頃、我が国で開発されたオッターボードで、二枚の縦湾曲板を前後に組み合わせた特殊な構造で、同一翼面積の単板型(縦湾曲型)に比べてサイズが約半分にもかかわらず、その性能は縦湾曲型に匹敵するものを備えている。コンパクトなため、投網時、揚網時や甲板上での取扱いが容易である。現在我が国の東北、北海道沿岸の小型トロール船に多く採用されている。」との記載があり、「複葉型オッターボードの模式図」(57頁)は、別掲(2)のとおりである。また、その説明として、「前縁に多少後退角を持つ縦湾曲板を前後に2枚組み合わせた構造をしている。図は、進行方向右側のオッターボードを示している。前縁中央の三つ目板は曳綱を取り付ける金具、後縁中央の三つ目板は袖網からの網ペンネントの取付金具で、この図では隠れているが、同じ物が後翼の後縁中央にある。このように、網ペンネントが水平に取り付けられるのが、通常の単板型のオッターボードと異なるところである。」との記載がある。

(2)一方、複葉型オッターボードに関する特許等についてみるに、上記(1)で述べた別掲(2)の構成よりなる複葉型オッターボードと、形状においてきわめて近似するオッターボードが登録第934057号として意匠登録(平成6年4月6日登録出願、平成7年6月28日設定登録)されている。

また、発明の名称を「曳網の網口開拡装置」とする特許(特許第653901号、昭和43年6月25日出願、昭和47年7月28日設定登録)において、「特許請求の範囲」には、「曳行方向に対し互いに同一かつ所定の傾斜角度をもって対向する一対の鉛直翼板と、これら翼板間の所定間隔ごとに水平に配置され、かつ水平面に対し所定の角度で後傾あるいは前傾し該面に揚力あるいは沈降力を生じる流体抵抗面を形成する水平翼板とを組合わせてなる網口開拡具を袖網の上下延長装置に装着することを特徴とする曳網の網口開拡装置」との記載があり、「複葉型」の語は用いていないものの、単板型のオッターボードと異なり、上記(1)で述べた「複葉型」のように、複数の板の組み合わせからなるオッターボードに関する発明が存在していたばかりか、特許又は実用新案登録には至らなかったものの、「複葉オッターボード」の発明の名称又は考案の名称で出願された特許出願(昭和48年1月26日、特開昭49ー99881)及び実用新案登録出願(昭和58年12月27日、実開昭60ー106458)も存在した。

(3)上記(1)及び(2)を総合すると、前出「漁具物理学」でいう「二枚の縦湾曲板を前後に組み合わせた特殊な構造」よりなる複葉型(式)オッターボードは、本件商標の査定時(平成14年9月10日)には既に、市場に出回り、漁業関連業者の間では、よく知られていたものと優に推認することができる。

したがって、被請求人の「複数の板の組み合わせからなる本件商標は、『オッターボード』に採用し得る形状として一般的に理解されているものではない』旨の主張は、失当というべきものである。

2 本件商標の立体的形状について

次に、本件商標を構成する立体的形状が、本件商標の査定時において、複葉型(式)オッターボードとして、機能等から通常採用し得る形状のものであったか、あるいは、その機能等とは関係のない特異な形状であったかについて検討する。

(1)立体商標は、商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物(以下「商品等」という。)の形状も含むものであるが、商品等の形状は、本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり、あるいはその商品等の形状の持つ美感を追求する等の目的で選択されるものであり、本来的(第一義的)には商品又は役務の出所を表示し、自他商品又は自他役務を識別する標識として採択されるものではない。

そして、商品等の形状に特徴的な変更、装飾等が施されていても、それは前記したように、商品等の機能又は美感をより発揮させるために施されたものであって、本来的には、自他商品又は自他役務を識別するための標識として採択されるのではなく、全体としてみた場合、商品等の機能、美感を発揮させるために必要な形状を有している場合には、これに接する取引者、需要者は、当該商品等の形状を表示したものであると認識するにとどまり、このような商品等の機能又は美感と関わる形状は、多少特異なものであっても、未だ商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないと解するのが相当である。

また、商品等の形状は、同種の商品等にあっては、その機能を果たすためには原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから、取引上何人もこれを使用する必要があり、かつ、何人もその使用を欲するものであって、一私人に独占を認めるのは妥当でないというべきである。

そうとすれば、商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合はともかくとして、商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成される商標については、使用をされた結果、当該形状に係る商標をもって同種の商品等と明らかに識別されていると認識することができるに至っている場合を除き、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、自他商品又は自他役務の識別機能を果たし得ることができないものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当し、商標登録を受けることができないものと解すべきである。

(2)これを本件についてみるに、本件商標は、別掲(1)のとおり、2枚の縦湾曲板を前後に組み合わせ、該2枚の縦湾曲板の間に設けられた傾斜面を有する水平曲板、開口部を有する上部水平板、そり状の傾斜角を有する最下部の水平板、トーイングチェーンを連結する3つの穴及びペンネントチェーンを連結する上下にある2つの穴などから構成されているところ、該形状中、前後に組み合わせた2枚の縦湾曲板は、一対のオッターボードをそれぞれ3つの穴にワープ(トーイングチェーン)と、同じく上下2つの穴にオッターペンネント(ペンネントチェーン)と連結した場合において、一対のオッターボードが向き合うときの内側となる凹面に水流の抵抗を受けて、網の展開力を高める働きをするために採られた形状であり、2枚の縦湾曲板の間に設けられた傾斜面を有する水平曲板は、2枚の縦湾曲板の補強や受ける流体により、オッターボードの揚力又は沈降力を高める働きをするために採られた形状である。また、水平曲板に開けられた2つの開口、上部水平板の開口及び最下部のそり状傾斜角を有する水平板は、海中での位置調整を容易にしたり、安定性を高めるために採られた形状といえる。

してみると、本件商標を構成する立体的形状は、漁船が底曳網を曳行して底曳魚をする際、底曳網の入口がすぼまらないように広げる効果をよりよく発揮させるために採用された形状であって、機能と必然的に結びついたものというべきであるから、複葉型(式)オッターボードとして、通常採用し得る形状というべきものであり、特異な形状部分がまったくないとはいえないとしても、上記のとおり、その形状は、専ら機能面に由来するものといえるから、未だ商品の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないものというのが相当である。

そうすると、本件商標は、その需要者をして、直ちに「複葉型(式)オッターボード」の形状の一形態を表したものと理解させるにすぎないものと認められる。

そして、本件商標を構成する立体的形状が、請求人の業務に係る商品「複葉型(式)オッターボード」を表示するためのものとして、本件商標の査定当時既に、その需要者の間に広く認識されていたというような特別の事情は、提出された各証拠を総合しても見出すことができない。

したがって、本件商標は、これをその指定商品中「オッターボード」について使用しても、単に商品の形状を普通に用いられる方法で表示したものと認められるから、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであり、上記「オッターボード」以外の商品について使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるというべきである。

3 むすび

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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