結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2006−89012(T2006−89012/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第4811526号商標(以下「本件商標」という。)は、「SINGA」の欧文字を横書きしてなり、平成15年11月5日に登録出願、第30類「コーヒー豆,焙煎済みコーヒー豆,焙煎済み粉末状コーヒー,ミルク入りコーヒー飲料,その他のコーヒー飲料」を指定商品として、同16年10月22日に設定登録されたものである。
請求人は、本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第52号証を提出した。
本件商標は、「SINGA」の文字を書してなるものであるが、請求人の商標としてタイ国において著名で、かつ、日本においても周知の商標である「SINGHA」と外観、称呼において極めて類似したものであって、請求人が販売しているビール、モルツビール、飲料水、ソーダ水、炭酸水、ミネラル水、ジンジャービール、フレッシュ・アイスティー、コーヒー飲料、フレッシュ・フルーツジュース、などとの出所の誤認混同を生じるおそれがあるので、登録されるべきではない。また、登録を許すと請求人の業務に係る商品との誤認混同を生じるおそれがあるので、請求人には本件商標の無効審判を請求する利益がある。
本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第15号及び同第19号に該当するから、商標法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすべきである。
(1)「SINGHA」の著名性について
ア 請求人について
本件請求人であるタイ国Boon Rawd Brewery Co.,Ltd.(ブーン・ラウド・ブルワリー・カンパニー・リミテッド(以下「」ブーン・ラウド・ブルワリー」という)は、1933年創業のタイ国随一のビール醸造業者であり、その製造販売量は創業後60年間を通じタイ国ビール消費量の90パーセントを占め、商標「SINGHA」を付したビールは、その中心的な製品として販売されてきた。
同ビールは、タイ国のみならずアメリカをはじめ全世界に輸出され、各地の品評会において受賞するなど、その著名性を改めて立証するまでもないほど、世界的に知られた商標となっている。
イ 商標「SINGHA」の外国での著名性について
(a)請求人の商標「SINGHA」は、タイ国において著名なものであったことは立証するまでもないほど顕著な事実であって、日本における周知性の立証を必要としないほどのものである。
すなわち、請求人は1933年創業のタイ国随一のビール醸造業者であり、既に創業以来70年余の歴史を有しており、最近までタイ国ビール市場の90パーセントを占有していたものである。
商標「SINGHA」を付したビールは、その中心的な製品として販売されており、タイ国民の国民的飲料としてタイ国王以下タイ国民の愛飲るところであった。したがって、タイ国においては本件商標の登録出願時には既にその著名性を改めて立証するまでもないほど周知著名になっていたものである。
(b)ブーン・ラウド・ブルワリーの広大な生産ラインは、ビール、ソーダ水、飲料水、生フルーツジュース、生飲料茶、及び生飲料コーヒーなどを含んでいる。ブーン・ラウド・ブルワリーは、その製品を「SINGHA」、「Leo」及び「Thai Beer」のブランド名で生産し販売している(甲第2号証)。
(c)1993年の発行にかかるブーン・ラウド・ブルワリーの60年史12、13頁には、創業者の使用品と共に創業当時のビールとして「SINGHA」のラベルを付したビールが撮影されている(甲第3号証)。
(d)ブーン・ラウド・ブルワリーの最良の原料を使用するという公約から由来する強みは、最新の醸造工程における技術的進歩を応用する能力と結合して、FDAの規制と、ヨーロッパと北アメリカ諸国を含む、各国の承認に十分に従った最良のビールのみを生み出している。さらに、ブーン・ラウド・ブルワリーの莫大な販売網はさらに世界の残りの国と同様に王国中の顧客に供給する能力を強め、今日まで、「SINGHA」ビールを世界25カ国へ輸出している。それとは別に、ブーン・ラウド・ブルワリーは、ヨーロッパとアジア市場に対する製造拠点を設立するためドイツに二つの醸造所を獲得しており、中国で合弁会社を始めている。
(e)また、ブーン・ラウド・ブルワリーの製品は、過去30年間、継続的に各種の立派な研究所から地方的及び国際的な賞と金メダルを受けてきた。賞の中には、1971年ベルギーブリュッセル国際ビールコンクール金賞受賞がある(甲第4号証の1及び2)。
また、ISO9002の認証書、1895年以来の高名なドイツの醸造研究所である「ドーメンズ研究所」によって認められた世界醸造協会からのゴールド品質賞、及び「最良のアジアのビール」の認定において「アメリカ・味覚研究所」からのゴールド・テイスト賞があり、著名性を裏付けるものといえる。
(f)1986年当時のブーン・ラウド・ブルワリーの売上高は、バンコック・ポスト1987年10月20日の記事によれば、Internationa1 Business Research(Thailand)が発表した1986年度の売上高上位30社のランキングで、バンコック銀行や国際資本による石油会社に伍して45億1千百万バーツの売上高で24位となっている(甲第5号証)。
(g)ブーン・ラウド・ブルワリーを中核とするブーン・ラウド・グループはタイ財閥の一つであり、タイ国のビールの生産量とブランド別の市場シェア(1978−89年)によれば、当時において「SINGHA」ビールが、実に93.64%から86.00%という高シェアを占めていたことがわかる。
(h)請求人は、世界各国に、ビール、モルツビール、ソーダ水、飲料水、ミネラル水、フレッシュ・フルシュ・フルーツジュースならびにコーヒー、フレッシュ・アイスティーなどを含むソフトドリンクの飲料を指定商品として「SINGHA」及び「SINGHA」を含む図形の商標を登録しており、その状況は甲第7号証ないし甲第22号証に示すとおりである。
「SINGHA」ビールの輸出先は、オーストリア、オーストラリア、ベルギー、スイス、中国、ドイツ、デンマーク、フランス、英国、香港、インドネシア、インド、日本、マカオ、マレーシア、オランダ、フィリピン、シンガポール、台湾及び米国などであり、特に米国に対する輸出量が多く、次いでマレーシア、英国、日本、フランスなどがこれに続いている。したがって、本件商標の登録出願、登録査定時において、商標「SINGHA」はタイ国内のみならず、これら諸外国においてもよく知られていたものと推認される。
ウ 商標「SINGHA」の日本国内での周知について
(a)請求人の商標は、日本国内でも周知となっており、件外株式会社池光エンタープライズ(以下「池光エンタープライズ」という)代表者池田武彦が、請求人の輸入販売代理店として、請求人の製造販売に係る著名なビールである「SINGHA」ビールを輸入販売しようとして、販売のための広告宣伝活動を始めた昭和60(1985)年以来21年にわたる使用の歴史を日本でも有している。
(b)池光エンタープライズの社長池田武彦は、「SINGHA」ビールを輸入販売しようとして昭和58(1983)年9月23に請求人と輸入代理店契約を結び、広告宣伝活動と酒類販売許可を得ることを企画し、盛んな活動を行なった。池光エンタープライズは昭和60(1985)年4月23日から販売を開始した。
(c)1985(昭和60年)年、1986(昭和61年)年当時における新聞雑誌等の紹介記事並びに広告を甲第23号証ないし甲第47号証として提出する。
(d)昭和60(1985)年4月23日から4月30日の間、晴海で行なわれた第16回東京国際見本市のタイ国政府観光庁のブースにおいて、請求人の商標「SINGHA」を付したビールを出展した(甲第48号証及び甲第49号証)。
(e)「SINGHA」を付したビールの日本国内における販売状況は、池光エンタープライズによると、平成17年3月現在年商2億2160万円を占めている。さらに、インターネットのwebサイトにおいて「SINGHA」を検索すると、61,877件が検索に該当したが、その頭書の60件を印刷した結果が甲第50号証のとおりであり、実に30件が「SINGHA」に言及している。
(f)小泉首相が森前首相に首相公邸で渡したビールがタイの「シンハビール」などであった(甲第51号証)。
エ 本件商標と請求人の商標との類似性
(a)標章の類似性
請求人の商標「SINGHA」に対して、本件商標は「SINGA」」と一連に書してなるものであって、外観上は「H」の一字を欠いているが、他の5文字は共通であるため、この「H」の文字の欠落は標章の中間にあってあまり意識されることがないし、「SINGHA」の著名性を考慮すると、両商標は離隔観察においてはほとんどその差異が認められない。この「H」は称呼上も発音が軽くてほとんど注意を惹かないため、外観上の差異としても意識されないのである。けだし、取引者、需要者は、この種商標の識別に当たり、それらがいずれもローマ字からなることもあって、必ずしもその綴り字の全部にわたり文字として仔細に異同を吟味するようなことはせず、一群の文字を全体として一個の標章としてみることによって異同を認識しやすいのが経験則上明らかなところであり、本件商標と請求人の商標とは、外観上極めて近似した紛らわしいものといわざるを得ない。かつ称呼は、いずれの商標も「シンガ」の呼称をも生じ、両者に格別差異はないものといえる。また、その観念については現地の言語としては、「獅子」の意があり共通するといっても、日本語あるいは英語において特別な観念を生じるとはいえないので、我が国においてはむしろ造語と見られるべきものである。
なお、ローマ字1文字の有無がある場合の商標の類似判断についての判決として、東京高裁 昭和53年4月20日 昭和52年(行ケ)第176号判決がある。
(b)商品の類似性
日本でもビール会社系列の飲料メーカーがビール会社と共通の商標のもとに、コーヒー、お茶飲料、果実飲料、炭酸飲料、水など各種の飲料を販売していることは、一般に広く知られているところである。かかる事情の下で本件出願人の指定商品である、「コーヒー豆,焙煎済みコーヒー豆,焙煎済み粉末状コーヒー,ミルク入りコーヒー飲料,その他のコーヒー飲料」をみると、後者は広義の飲料として前者の商品の中に包含されるものといわざるを得ない。ことに、ミルク入りコーヒー飲料及びその他のコーヒー飲料は、ソフトドリンクとしてそのまま前者の商品と同一である。
(2)商標法第4条第1項第15号違反について
以上述べた事情の下に、本件商標については、被請求人が商標「SINGHA」に紛らわしい本件商標「SINGA」を、その指定商品に使用した場合には、出所の誤認混同を招来し、請求人が多年にわたり営々として築いてきた商標「SINGHA」に化体したその信用、名声、顧客吸引力を希釈化させ、毀損させる虞があるといわざるを得ない。同じく、被請求人による本件商標の使用は、他人の著名商標「SINGHA」に化体したその信用、名声、顧客吸引力にただ乗りするものであって、他人の業務にかかる商品又は役務と混同を生ずる虞があり、また著名な企業である請求人と経済的、組織的に何らかの関係があると取引者又は需要者に誤認させる虞があるといわざるを得ない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反するものである。
(3)商標法第4条第1項第10号違反について
被請求人が、本件商標「SINGA」その指定商品に使用した場合には、請求人の業務に係る商品として、本件商標の登録出願時に我が国内の取引者又は需要者の間に広く認識されている商標に類似する商標を被請求人の商品について使用するものとして、商標法第4条第1項第10号に違反するものである。
(4)商標法第4条第1項第19号違反について
国際的に著名な商標に紛らわしい本件商標を、近隣の国に所在しその商標の著名性を十分知り得た立場にある被請求人が保有することは、保持すべきでない商標を保有し、請求人に対して取引上の優越的地位をつくり、これを濫用しようとする虞のあることが推認できるものである。また、被請求人には他人の名声に便乗して不正の利益を得る目的及び他人に損害を加える目的等の不正の目的が推認され、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反するものである。
(5)商標法第4条第1項第7号違反について
不正の目的を以って取得されたと推認される本件商標においても、その不法な使用を許すことは、国民の正義感を損ない、公正な取引を重んじる市場の秩序を乱し、かつ国際社会における信義に反し、公の秩序を害するものといわざるを得ず、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものというべきである。
(6)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第10号、同第19号及び同第7号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づきその登録を無効とされるべきものである。
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第11号証(号証の記号が「甲号証」と表示されているが、乙号証として表記した。)を提出した。
本件商標の指定商品は、前記第1のとおりである。これに対して、本日(2006年5月26日現在 ) の請求人のホームページ(http://www‐boonrawd・Co‐thにおける製品情報から、現在・請求人が製造・販売している商品はビール、飲料水、炭酸水、緑茶であることが明らかである。
審判請求書において、請求人は、コーヒーの製造販売者であるとしている(乙第1号証)。しかし、それは甲第2号証の2が出力された2005年6月1日の時点における事実にすぎず、その後、請求人がコーヒーの製造販売をしていることは何等立証していない。
したがって、請求人の製造販売に係る商品は、ビール、飲料水、炭酸水、緑茶であり、これらの商品は本件指定商品と非類似の商品である。加えて、請求人のビール以外の飲料、即ちコーヒー、飲料水、炭酸水、緑茶が日本に輸入されたという事実は不知である。
(1)称呼の比較
本件商標は、欧文字「SINGA」を横書きにしたものであり、これより「シンガ」の称呼が生じる。
これに対して、請求人の商標は、欧文字「SINGHA」を横書きにしたものであり、これより「シンハー」又は「シンハ」の称呼が生じる。
請求人は、「SINGHA」より「シンガ」の称呼が生じると主張する。しかし、「SINGHA」ビールの輸入を行っていると請求人が申し述べている池光エンタープライズのホームページ(http://www.ikemitsu.com/)において、「SINGHA」は、シンハーと記載されている(乙第2号証)。また、請求人が提出する甲第35号証を除く甲第23号証ないし甲第34号証及び甲第36号証ないし甲第49号証において、「SINGHA」は「シンハー」又は「シンハ」と表記されている。請求人が提出するその他の証拠においても「SINGHA」が「シンガ」の称呼で取引されている事実は発見されない。加えて、「世界の名酒事典‘ 93」(乙第3号証)、「世界の名酒事典’03」(乙第4号証)、「世界酒大事典」(乙第5号証)においても、片仮名表記「シンハー」が見られる。これらのことより、日本における現実の取引において10年以上にわたり、「SINGHA」は「シンハー」又は「シンハ」と称呼されていることは明らかである。
請求人は取引で「SINGHA」が使用されている事実に基づいて本件登録に対する各無効理由を主張しているのであるから、その根拠となる称呼は現実の取引において用いられているものに限定されるべきである。取引で用いられていない称呼を「SINGHA」から生じさせ、それを理由に本件登録を無効とするのは、事実を超えた範囲にまで「SINGHA」の保護を広げることになる一方で、被請求人には不意打ちになるとともに本件商標の保護を不当に排除するものであるので、到底認められない。
平成11年12月7日の東京高裁による平成11(行ケ)161号事件の判決において、「引用商標『RUBURA』は、上記認定のとおり、実社会において、事実上、『ルブラ』とのみ発音されて使用されてきたのであるから、前説示のとおり、一般論としてみれば、引用商標『RUBURA』から『ラブラ』の称呼を生ずるものであるとしても、このことをもって、本願商標を、引用商標との間に、その登録を拒絶しなければならないほどの強さの称呼の共通性を有するものとすることはできず、その意味で、本願商標を引用商標と類似する商標と認めることはできないというべきである。」と認定されている(乙第6号証)。先行商標が登録商標である場合ですら、上記の判決のとおり、現実の取引で使用されない称呼によって後願商標の排除が認められないのである。ましてや、本件のように、未登録商標、即ち現実の取引における商標の使用事実のみに基づく場合には、取引において用いられていない称呼をもって本件商標の保護・利益を排除すべきではない。
上記のことから、請求人の「SINGHA」から「シンハ」又は「シンハー」の称呼のみが生じるというべきである。
そこで、称呼「シンガ」と称呼「シンハー」又は「シンハ」を対比するに、語尾の「ガ」と「ハ」の相違がみられる。「ガ」は濁音・有声破裂音ではっきりとした音であるのに対して、「ハ」は清音・無声摩擦音で聞き取りにくい音であり、両者は音質を全く異にする。「シンガ」、「シンハ」は3音、「シンハー」は4音といずれも極めて短い音構成であることを、「ガ」と「ハ」の音質の著しい相違と併せて考慮すると、「シンガ」と「シンハ」又は「シンハー」は語感語調が全く異なっており、両者を聞き誤るおそれは全くないというべきである。
「ガ」と「ハ」において相違する商標は並存登録されている例が多数あり(乙第7号証)、これらの並存登録は一例にすぎないが、これらだけからも、「シンガ」と「シンハ」又は「シンハー」は称呼において類似しないことは明らかである。
また、過去の審決例を調べたが、「ガ」と「ハ」の相違に基づいて商標の類否が争われた事例を発見できなかった。これはとりもなおさず、審判で争うまでもなく審査の段階で「ガ」と「ハ」の相違により称呼における非類似の認定がされてきたためであると推察する。
上記の並存登録例、審決例の不存在をあわせれば、「シンガ」と「シンハ」は「ガ」と「ハ」の相違により容易に聴き分けられることは明白である。
(2)外観の比較
本件商標「SINGA」と請求人の商標「SINGHA」は、文字数及び綴りが相違するので、両者は外観において紛れるおそれはない。文字数及び綴りにおいて相違がある文字商標は外観上非類似であることは今まで特許庁によって繰り返し判断されてきている。本件についてそれと異なる判断をすべき特段の事情は全くない。
請求人は両商標間に相違する「H」の欠落はあまり意識されないと主張する。
しかし、「SINGHA」の「H」は、その称呼「シンハ」の「ハ」を構成する子音であるのだから、その有無はそうそう見落とされるものではない。
上記のことから、本件商標と請求人の商標は外観においても区別可能である。
(3)観念の比較
一般の日本人は「SINGHA」、「SINGA」の語義を容易に理解できず、これらを造語と認識する。
よって、両商標は観念において相紛れるおそれはない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件商標「SINGA」と請求人の商標「SINGHA」とは、称呼・外観・観念において相紛れるおそれのない、非類似のものである。
(1)商品「コーヒー」との関係における知名度
商標「SINGHA」は「コーヒー」との間で現在使用されていない。また、かつて「SINGHA」を使用した「コーヒー」が日本に輸入されたという事実もない。さらに、「SINGHA」が外国において著名であったこともなく、当然にそのようなことが日本の需要者によって認識されていたとすべき事実も全くない。かかる事実から、「コーヒー」との関係で商標「SINGHA」は日本の需要者・取引者の間で全く知られていないことが明らかである
(2)商品「飲料水、炭酸水、緑茶」との関係における知名度
商標「SINGHA」が使用されている「飲料水、炭酸水、緑茶」が日本に輸入されている事実はない。また、商標「SINGHA」が使用されている「飲料水、炭酸水、緑茶」が外国において著名であったこともなく、当然にそのようなことが、日本の需要者によって認識されていたとすべき事実も全くない。かかる事実から、「飲料水、炭酸水、緑茶」との関係で商標「SINGHA」は日本の需要者・取引者の間で全く知られていないことが明らかである。
(3)商品「ビール」 との関係における知名度
請求人は、同人のビール「SINGHA」について、新聞記事等と宣伝広告を行った結果、「SINGHA」を付したビールは日本で周知になったと主張し、甲第23号証ないし第49号証を提出している。しかし、それら新聞記事や宣伝広告のほとんどは昭和60年3月から6月までの3ヶ月の極めて短い期間のものにすぎない。
甲第23号証ないし甲第49号証は、新聞・雑誌における新商品の紹介記事と、新聞・雑誌における広告に大別される。
まず、新商品の紹介記事について考察するに、日経新聞ではほぼ毎日、その他の日刊新聞でもほぼ毎週のように新商品が紹介されるのは周知のことである。日替わり又は週替わりで紹介される新商品の記事は、読み飛ばされることも多く、また読まれたとしても記憶に残らないことは経験則において明らかである。
そのような記事欄に新しく輸入される「SINGHA」ビールが掲載されたとしても、読者の記憶にはほとんど残っていないとみるのが自然である。かつ「SINGHA」に関する記事は、ごく小さな紙面で、商品の概要・価格・発売元といった商品紹介であれば必ず書かれるような一般的な事項しか記載されておらず、とくに読者の注意を惹くものでもない。20年前に短期間・単発的に掲載された、一般的な形式による、新聞・雑誌における新商品の紹介記事によって、「SINGHA」ビールが日本の需要者の間で広く知られたとは認め難い。また、20年以上前の記事を現在の需要者が記憶しているとは考えられない。
次に広告記事を考察するに、いわゆる突き出しと言われる一辺が10センメートルにも満たない面積による広告が、20年以上前に数ヶ月の間に単発的に行われたにすぎない。かかる広告はその期間及び数量の何れにおいても非常に少なく、これをもって「SINGHA」ビールが日本の需要者の間で広く知られたとは認め難い。また、20年以上も前の広告を現在の需要者が記憶しているとは考え難い。
上記のことから、請求人が主張する新聞・雑誌における記事・広告の掲載によって「SINGHA」ビールが需要者の間で広く知られたとは到底認められない。
請求人によると、「SINGHA」ビールは池光エンタープライズにおいて平17年3月現在年商2億2160万円を占めているとのことである。しかし、その事実は何等立証されていない。一歩譲って、その数値が事実であったと仮定しても、その数値では「SINGHA」が著名というには不足である。
株式会社日本総合研究所の調査(乙第8号証)によると、日本の地ビールメーカーの約20パーセントが2億円以上の年間売上げを計上している(平成15年時)。これは、「SINGHA」による池光エンタープライズの年商とほぼ同じかそれを上回る。してみれば、「SINGHA」は売上高の点から見て、地ビールと同じレベルにすぎない。現在日本では、160を超える銘柄のビールが輸入されており(乙第5号証)、これに加えて地ビールを含む国産ビールが多数取引されている。このような中で、たかだか地ビールと変わらない売上高をもってして「SINGHA」ビールが需要者の間で広く知られているとは認め難い。
株式会社ハイホー・マーケティングサービスの調査(複数回答)によると、日本人がアルコールを購入する主な場所はスーパーマーケット、酒量販店、ディスカウントストア、コンビニエンスストアである(乙第9号証)。しかし、「SINGHA」は一般的なスーパーマーケット、酒量販店、ディスカウントストア、コンビニエンスストアでは販売されていない。そのため、ビールの一般的な需要者が「SINGHA」ビールを目にする機会は極めて少ない。「SINGHA」ビールの輸入代理店である池光エンタープライズのホームページには、「SINGHA」を家庭でも飲みたいけど、近くで販売していないという方へ」というキャッチフレーズでインターネットを通じて輸入代理店の同社から「SINGHA」ビールを購入するシステムが掲載されている。この記載からみても、「SINGHA」ビールが身近なスーパーマーケットや酒量販店、コンビニエンスストア等で販売されていないことが推察できる。一般の店舗で滅多に目にすることができない「SINGHA」ビールが需要者の間で広く知られているとは到底認められない。
上記のとおり、「SINGHA」ビールの宣伝広告期間及び宣伝広告数量、売上高、販売経路のいずれから見ても、「SINGHA」ビールが日本国内の需要者の間で広く知られているとは到底認められない。
請求人は、「SINGHA」ビールの受賞歴を主張している。それは「SINGHA」ビールの味の良さを裏付け、栄誉であるかもしれないが、「SINGHA」ビールの知名度を裏付けるものではない。その受賞によって飛躍的に取引量が増えているような事実も見あたらず、それによって、「SINGHA」ビールの宣伝広告期間及び宣伝広告数量・売上高の不足や、一般的ではない販売経路による「SINGHA」」ビールの知名度の低さを補うことはできない。地ビールメーカーの中にも海外食品コンクールを受賞しているところはある。例えば岩手の「蔵ビール」は「モンドセレクション」を受賞している(乙第10号証)。しかしそのことだけで当該銘柄が広く知られているわけではない。「SINGHA」ビールの場合もこれと同様である。
請求人は、首相公邸で森元首相が小泉首相からシンハビールを供されたことによって、シンハビールが首相公邸で飲まれるほど著名であると主張するが、首相は外交のために諸外国を外遊する機会が多いとともに、また外国の要人との会食では相手の国の飲食物を出すのが外交の礼儀にかなうことを考えれば、小泉首相が「SINGHA」ビールを知っていても何等不思議はない。そのような機会に恵まれない一般需要者と首相を同一視することはできない。首相公邸でシンハビールが出されたことが「SINGHA」の一般需要者の間における知名度に何等影響を与えるものではない。
以上の事実を総合すれば、「ビール」との関係で商標「SINGHA」が需要者の間で本件商標の登録出願時に広く知られていたであるとは到底認められない。
上記1において述べたように、請求人の商品は、本件商標の指定商品と同一又は類似でない。上記2において述べたように、請求人の商標「SINGHA」は本件商標と非類似である。かつ、上記3(1)において述べたように、請求人の商標「SINGHA」は本件商標の指定商品と同一又は類似の商品「コーヒー」との関係で需要者に広く知られているという事実もない。 以上のことから、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当しないことは明白である。
上記3において述べたように、請求人の商標「SINGHA」は、日本で取引されていないコーヒー、飲料水、炭酸水、緑茶との関係でほとんど知られていない。そればかりか、ビールとの関係でも、その広告期間・広告数量・売上高はいずれをとっても不十分であり、また需要者が通常ビールを購入する場所であるスーパーマーケットや酒量販店、コンビニエンスストアで目にする機会もほとんどない。その一方で、日本には160以上の外国銘柄のビールが輸入されていることから、請求人の商標「SINGHA」は需要者の間で広く知られているとはいい難い。
上記2において述べたように、「SINGHA」は「シンハー」又は「シンハ」の称呼を持って取引されているので、その称呼のみが生じるというべきであり、それは本件商標の称呼「シンガ」と明らかに聴き分けることができる。さらに、「シンハー」 「シンハ」の称呼に結びつく「H」の有無は、文字数及び綴りの相違とも相俟って外観において決定的な違いをもたらす。 よって、「SINGA」と「SINGHA」は非類似である。
上記1において述べたように、本件商標の指定商品は「SINGHA」が国内で使用されている商品「ビール」と非類似である。
上記のように、請求人の商品「ビール」と本件商標の指定商品「コーヒー豆,培煎済みコーヒー豆,培煎済み粉末状コーヒー,ミルク入りコーヒー飲料」が相違すること、「SINGHA」が未だ日本の需要者の間に広く認知されているとはいい難いこと、かつ、請求人は、本件商標の指定商品及びその類似商品について日本国内で「SINGHA」を使用した事実が全くないこと等の事情を総合すれば、「コーヒー豆,焙煎済みコーヒー豆,焙煎済み粉末状コーヒー,ミルク入りコーヒー飲料,その他のコーヒー飲料」について使用され、「シンガ」と称呼される商標「SINGA」と、ビールについて使用され「シンハ」又は「シンハー」と称呼される「SINGHA」は、それぞれの商標が使用される各商品との間で出所の混同が生じる程に両商標が近似しておらず、両商標が使用された各商品を容易に識別できるというべきである。商標「SINGA」が使用されている「コーヒー豆」等が、請求人又はそれと有機的な関連を有する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について誤認され、混同されるおそれなどないというべきである。
また「SINGHA(シンハー)」と非類似の本件商標「SINGA」を、請求人の商品「ビール」と非類似の「コーヒー」等に使用しても、両社の間の商品を区別することができる以上、「SINGHA」の顧客吸引力を希釈することもない。また「SINGHA」の名声にただ乗りすることにもならない。
請求人は、「SINGHA」ビールがタイのビール市場で大きなシェアを持つこと、タイにおいて長い歴史を持つため、タイにおいて「SINGHA」はビールの商標として著名であることを主張する。しかし、審査基準において外国において著名であることを理由に登録を拒絶できるのは、外国で著名な標章であることが商標登録出願時に日本国内の需要者によって認識されている場合であって、本件商標を使用すれば商品の出所について混同が生じるおそれがある場合に限られるとされている(乙第11号証)。「SINGHA」についての宣伝広告や販売経路は上記のとおりであり、160以上の外国銘柄のビールが日本に輸入され、取引されていることを合わせて考えれば、仮にタイにおいて「SINGHA」がビールの商標として広く知られているとしても、その事実が本件商標の登録出願時に日本の需要者によって認識されていたとはいい難い。一歩譲って、仮に「SINGHA(シンハ又はシンハー)」がタイにおけるビールの著名な商標であることが需要者の間で知られていたとしても、本件商標は、「ビール」と非類似の商品「コーヒー豆,焙煎済みコーヒー豆,焙煎済み粉末状コーヒー,ミルク入りコーヒー飲料,その他のコーヒー飲料」について使用されるものであるし、商標自体も「SINGHA」と非類似であるので、タイのビールの商標「SINGHA」との間で商品の出所について混同が生じるおそれがない。
以上のとおり、本件商標は、商標法4条第1項第15号に該当しない。
本件商標は、請求人の商標「SINGHA」と類似しない。請求人の商標と非類似の商標を、請求人の商品「ビール」と非類似の商品「コーヒー豆,焙煎済みコーヒー豆,焙煎済み粉末状コーヒー,ミルク入りコーヒー飲料,その他のコーヒー飲料」に使用することについて、不正の目的など認められない。よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
本件商標は、請求人の商標「SINGHA」と類似しないし、本件商標の指定商品は請求人の商品と類似しない。したがって、これを登録しても外国標章の保護に欠けることはなく、また国際信義に反することもない。本件商標は公の秩序や善良の風俗を害するものではないので、商標法第4条第1項第7号にも該当しない。
以上のとおり、本件商標「SINGHA」は、本件商標の指定商品は「コーヒー豆,焙煎済みコーヒー豆,焙煎済み粉末状コーヒー,ミルク入りコーヒー飲料,その他のコーヒー飲料」との関係で、商標法第4条第1項第10号、同第15号、同第19号、同第7号の何れにも該当しないことは明らかである。
請求人が本件審判の請求をする利害関係を有するか否かについては、当事者間に争いがなく、請求人は本件審判について請求人適格を有する者というべきである。
甲各号証及び乙第1号証ないし乙第5号証よりすれば、「SINGHA」は、タイ国の「ビール」の商標として、我が国においても相当程度知られていることは認められるが、実際の取引においての「SINGHA」の称呼は、甲第35号証の「チェーンストアーエイジ」(昭和60年5月1日)を除き、いずれも「シンハ」又は「シンハー」と表記されていることが認められる。
そうすると、引用標章「SINGHA」の称呼は、「シンハ」又は「シンハー」というべきである。
(1)称呼について
本件商標は、その構成文字「SINGA」に相応して「シンガ」の称呼を生ずるものであり、これに対し、引用標章は、前記2のとおり「シンハ」又は「シンハー」の称呼を生ずるというべきである。
そこで、先ず、「シンガ」の称呼と「シンハ」の称呼についてみるに、両者は、極めて短い3音で構成されているばかりでなく、語尾音の濁音で強く聴取される「ガ」の音と清音でやや弱く聴取される「ハ」の音であって、明らかに音質を異にするものであるから、「シンガ」と「シンハ」とをそれぞれ一連に称呼した場合、音感、音調が異なり、称呼上相紛れるおそれはないというのが相当である。
次に、「シンガ」の称呼と「シンハー」の称呼についてみるに、両者は、前者が3音構成からなるのに対し、後者は4音構成からなるものであり、上記の両者の相違に加えて語尾に長音「ー」を有することから、一連に称呼した場合、上記以上に音感、音調が異なり、称呼上相紛れるおそれはないというべきである。
(2)外観について
本件商標は、「SINGA」の文字にて構成されており、これに対し引用標章は「SINGHA」の文字にて構成されているものである。
そうすると、両者は、比較的少ない5文字対6文字という文字数からなる中で「H」の文字の有無を有するものである。
そして、該「H」の字形は、比較的はっきりした単純な字形であることからすると、本件商標と引用標章とは外観上区別できる構成からなるといえるものである。
(3)観念について
本件商標と引用標章とは、いずれも特定の観念を有しないいわゆる造語というのが相当であるから、両者は比較できないものである。
(4)以上のとおり、本件商標と引用標章とは、その称呼、外観及び観念のいずれの点においても、類似性の程度が高いとはいえないものであり商標において別異のものといえるものである。
本件商標と引用標章とは、前記3のとおり、商標において別異の類似しないものであるから、たとえ引用標章が我が国において、商品「ビール」に使用され、本件商標の登録出願時及び登録査定時前より著名であったとしても、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。
請求人及び被請求人の提出に係る証拠によれば、引用標章が「ビール」に使用され相当程度知られていたことが認められるとしても、前記3のとおり、本件商標と引用標章とは、商標において別異のものであるから、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者が引用標章を直ちに連想又は想起するとはいい難く、請求人の業務に係る商品、若しくは、請求人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはなく、かつ、不正の目的をもって使用をするものともいえない。
本件商標は、前記3のとおり、請求人の業務に係る「ビール」の商標である引用標章とは商標において別異のものであるから、被請求人が不正の目的を以って取得したとは推認できないし、国民の正義感を損ない、公正な取引を重んじる市場の秩序を乱し、かつ国際社会における信義に反し、公の秩序を害するものともいえない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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