結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2006−89058(T2006−89058/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第4839578号商標(以下「本件商標」という。)は、「お医者さんの」の文字を標準文字により表してなり、平成16年8月3日に登録出願され、第10類「外反母趾矯正具,医療用靴下,医療用クッション,医療用ガードル,その他の医療用機械器具,おしゃぶり,氷まくら,三角きん,支持包帯,手術用キャットガット,吸い飲み,スポイト,乳首,氷のう,氷のうつり,ほ乳用具,魔法ほ乳器,綿棒,指サック,業務用美容マッサージ器,家庭用電気マッサージ器,医療用手袋」、第20類「クッション,座布団,まくら,マットレス」、第24類「かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「靴下,ソックス,ガードル,補正下着,その他の被服,サンダル靴,スリッパ,その他の履物,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同年12月17日登録査定、同17年2月18日に設定登録されたものである。
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第33号証を提出している。
(1)本件商標について
本件商標は、「お医者さんの」の標準文字で構成されているにすぎないものであるから、その指定商品が「お医者さんの使用する、お医者さんの薦める、お医者さんの開発した、お医者さんの作った、お医者さんのための」商品の意味に捉えられるため、商品の品質を表示し、自他商品識別標識としての機能を果たすことができないものである。
また、上記「お医者さんの使用する、お医者さんの薦める、お医者さんの開発した、お医者さんの作った、お医者さんのための」商品以外に使用するときには、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるものである。
さらに、商品の品質、特徴等を表す単なる宣伝文句と理解されるような用語であるため、需要者や取引者は、何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものである。
(2)具体的理由
ア 商標法第3条第1項第3号について
(ア)本件商標の構成は、前述したとおり、「お医者さん」の文字と格助詞「の」とを連綴したものである。
ところで、格助詞には「の」の他に、「が、を、に」等があるが、本件商標のような「の」の文字は、一般に「・・・が作った」(お医者さんの作った)等の意味として使用されることがあることは、審決例によっても裏付けられるものである(甲第2及び第3号証)。
また、「・・・用の」(お医者さんの使用する、お医者さんのための)といった意味として使用されることも、審決例によって裏付けられる(甲第4及び第5号証)。
さらに、「お医者さん」の文字は、一般に「医師用、医師の薦める」等の意味として捉えられているものであり、このことは、「ドクター/DOCTOR」の文字が「医師用、医師の薦める」と判断されている審決例、判決例によっても裏付けられる(甲第6ないし第8号証)。
このような事情から、本件商標に接した需要者や取引者は、その指定商品が「お医者さんの使用する、お医者さんの薦める、お医者さんの開発した、お医者さんの作った、お医者さんのための」商品のように理解して購入する可能性が大きい。
このため、本件商標は商品の品質を表示するにすぎないものである。
(イ)本件商標に係る第10類の指定商品中には、医師が使用する「外反母趾矯正具,医療用靴下,医療用クッション,医療用ガードル,その他の医療用機械器具,氷まくら,三角きん,支持包帯,手術用キャットガット,氷のう,氷のうつり,医療用手袋」のような医療用の商品が指定されており、これらの商品については、需要者や取引者が前述のような意味に理解して購入する可能性が極めて大きいものである。
(ウ)また、第10類の指定商品中、医師が使用しない「業務用美容マッサージ器、家庭用電気マッサージ器」等や第20類ないし第25類の指定商品についても、「お医者さんの薦める家庭用電気マッサージ器」、「お医者さんの薦めるクッション」、「お医者さんの薦める座布団」、「お医者さんの薦めるまくら」、「お医者さんの薦める補正下着(ガードル)」、「お医者さんが開発したクッション」等の意味に捉えて購入することが容易に想像されるものである。
特に、第20類の「クッション」、第25類の「靴下,補正下着(ガードル)」については、第10類に「医療用靴下,医療用クッション,医療用ガードル」が指定されている関係から、このように理解される可能性が極めて大きいものである。
(エ)実際、「お医者さんの開発(考案)した商品」ないしは「お医者さんの使用する商品」の意味で使用されているものとして、「お医者さんのひざベルト」、「お医者さんの円座クッション」、「お医者さんのセラミド100%原液」及び「お医者さんのマスク」のような例がある(甲第9ないし第12号証)。
上記「お医者さんのひざベルト」については、商標として出願されたものの、「お医者さんが作ったひざ用のベルト」であるとして、商標法第3条第1項第3号に該当するとして拒絶されている(甲第13号証)。
この審査例の他にも、「お医者さん」の文字を含む商標が商標法第3条第1項第3号に該当し、自他商品の識別標識としての機能を有するものと認められないと判断された例としては、「コルセットのお医者さん」及び「パソコンのお医者さん」のような拒絶審査例がある(甲第14及び第15号証)。
なお、「パソコンのお医者さん」については、多くの者によって、実際に使用されている(甲第16ないし第23号証)。
(オ)本件商標についても、このような使用例と同じく、本来、特定の者に独占させることなく、多数の者が使用可能な商標であるはずであり、登録が維持されれば、今後無用な係争が生じる可能性がある。
これらの使用例、審査例からいっても、本件商標は商標法第3条第1項第3号に該当し、自他商品の識別標識としての機能を果たすことができないものである。
イ 商標法第4条第1項第16号について
本件商標が、「お医者さんの使用する、お医者さんの薦める、お医者さんの開発した、お医者さんの作った、お医者さんのための」商品以外に使用されていた場合、需要者や取引者は、そのような品質を有する商品であると期待して購入するにも拘わらず、そのような品質を備えていないため、期待が裏切られることになる。
このため、本件商標は、使用する商品によっては、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるものである。この点については、甲第15号証の拒絶理由通知書の記載からも明らかである。
ウ 商標法第3条第1項第6号について
(ア)本件商標が、商品の品質を表示しないとしても、本件商標は、医師が病気や怪我の患者を診断・治療・ケアをするように、商品の修理やアフターケアを充分行うといったような意味合いを需要者、取引者に認識させ、顧客吸引のためキャッチフレーズ、宣伝文句と理解されるような用語として、需要者、取引者は、何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものである。
(イ)実際、「お医者さん」の文字を、このようなキャッチフレーズ、宣伝文句として使用している例も下記のように見受けられるものである(甲第24ないし第30号証)。
(a)「電気工事のお医者さん」(電気設備のトラブルに対応できる役務として使用されている。)
(b)「洋服のお医者さん」(洋服の修理の役務として使用されている。)
(c)「車のお医者さん」(車のトラブルに対応する修理や整備の役務として使用されている。)
(d)「おもちゃのお医者さん」(おもちゃの故障に対応する修理の役務として使用されている。)
(e)「着物のお医者さん」(着物のアフターケアの役務として使用されている。)
(f)「サッシのお医者さん」(補修、リフォームの役務として使用されている。)
(g)「お家のお医者さん」(補修、リフォームの役務として使用されている。)
(ウ)このような使用例が、商標法第3条第1項第6号に該当することは、下記の拒絶審査例(甲第31ないし第33号証)から裏付けられるものである。
「車のお医者さん」
「住まいのお医者さん」
「お医者様が栄養指導・開発した」
(エ)これらの使用例、審査例からいっても、本件商標は、商標法第3条第1項第6号に該当し、自他商品の識別標識としての機能を果たすことができないものである。
エ 以上述べたように、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、又は同第6号あるいは同法第4条第1項第16号の規定に違反して登録されたものであり、商標法第46条第1項第1号の規定に基づき無効とされるべきものである。
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第40号証を提出している。
(1)本件商標について
(ア)本件に係る異議決定では、商品の品質を表示するにすぎないものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当し、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるので同法第4条第1項第16号に該当し、さらに、商品の品質を表示しないとしても、顧客吸引のキャッチフレーズの用語であるため、商標法第3条第1項第6号に該当するとした異議申立てについて、理由がないものと認定した(乙第1号証)。
(イ)請求人は、本件商標が商標法第3条第1項第3号、同第6項及び同法第4条第1項第16号に該当するものであると主張している。
しかしながら、本件商標の構成は一体的で纏まりよく外観上一目で把握できる一体不可分のものとして認識されるものであるから、構成各語の語義を深く論じることなく一体的な語句と認識し、造語として理解されるのが妥当であって、本件商標は、請求人が掲げるいずれの無効理由にも該当しない。
(2)本件商標の識別性の判断基準
(ア)需要者等における本件商標から生じる観念
「お医者さん」の語は、医師の愛称を認識させ、また「の」の文字は、後に続く語句に関連して、話題が継続することを暗示する助詞の字義がある。 そこで、本件商標の後に目的となる語句を連ねて、例えば、「お医者さんの推薦する低反発クッション」の文章を商品の効能としてうたった場合、商品の品質を表示する語句とされるかもしれない。
しかし、本件商標は上記例文から後半部分が欠落した「お医者さんの」の文字しかなく、これに接する需要者・取引者は、後に続く種々の語句によって、例えば、「(お医者さんの)薦める低反発クッション」、「(お医者さんの)気に入らなかったクッション」、「(お医者さんの)診察室に置いているクッション」、「(お医者さんの)往診時に自動車の座席に敷いたクッション」であるかなど、種々な意味合いが想起できるにすぎないのである。本件商標から需要者・取引者が受ける感覚としては、一文の途中で途切れた余韻を残す独創的な語句と理解し、後に続く語句によってはじめて全体として具体的な意味を理解するものであって、「お医者さんの」の文字単独では特定の意味合いを想起できない。このことは、請求人自ら本件商標が「その指定商品が『お医者さんの使用する、お医者さんの薦める、お医者さんの開発した、お医者さんの作った、お医者さんのための』商品の意味に捉えられる」と自認するように、本件商標からは特定の観念が一義的に生じるものではなく、種々の意味合いが漠然と生じるにすぎないことからも明らかである。
このような、日本語として不完全な語句からあえてそれらの字義を結びつけて「お医者さんの使用する」等の意味合いを案出しても、所詮極めて漠然とした概念でしかなく、商品の品質等に結びつく格別の観念が想起されない。
(イ)指定商品の取引流通との関係
「お医者さん」は医師を親しみを込めて呼びかける愛称と理解される単語であるが、商品の品質表示としては「お医者さん」の単語よりはむしろ「医師が使用を薦めるクッション」のように、「医師」、「整形外科医」のような一般名称を用いるのが通常である。話し言葉で多用される「お医者さん」の単語を商品の品質表示に用いることは稀である上、本件商標が指定商品の品質に関する語として取引上普通に用いられている事実もない。
本件に係る指定商品の分野においては、商品の品質を表示するには材質が何であるか、測定範囲がどこまでであるか、等のように、その特徴を数値や一般名称で正確に表示するのが通例で、誰が推薦するかといった、医師という職業が品質表示用語として使われることはない。ましてや本件商標「お医者さんの」は一文を構成していない不完全な文章であって、これから商品に関する特定の観念を直接表示することはなく、全体を通して医師の愛称を用いた親しみ深い、余韻を持った造語と認識されるのである。
また同様に、本件商標「お医者さんの」の語句が、雑貨等の指定商品のキャッチフレーズとして用いられている事実はない。医師が薦める商品に関するキャッチフレーズとして「お医者さんの」のみで表現する取引者は皆無で、本件商標が「医師の薦める商品」を示し、商品を購入する者が「お医者さんの」の文字から「お医者さんが関与する」商品のキャッチフレーズを表現するまでの理解はされることはない。「お医者さんの」の語句の意味合いは極めて不明確で、これが特定の商品・役務の購入利用を惹起させるような特徴を有するものとは直観されない。
そうすると、本件指定商品に接する者は、本件商標「お医者さんの」の文字を見たときに、これから請求人が例示したような「使用する、薦める、開発した、作った、ための」といった行為を表す意味合いを補完した上で、「お医者さん」の観念と結合させた意味合いを商品の品質表示、誇称表示として論じたりはしない。抽象的かつ漠然とした表現で、指定商品のどのような性能を示しているかが具体化せず、単なる造語として認識されるとするのが、様々なアイディア商品が案出され、その特徴を表した名称が商品の識別標識として頻繁に用いられている、この種の商品における取引の実情である。
よって、本件商標からは直ちに、請求人が指摘するような「お医者さんの使用する、お医者さんの薦める、お医者さんの開発した、お医者さんの作った」のような商品の品質を表示する意味合いや、医師が診断・治療・ケアをするように、商品の修理やアフターケアを充分行うといったキャッチフレーズに繋がる意味合いは生じない。
(ウ)請求人の主張に対する反駁
請求人は、本件商標が商品の品質を表示するにすぎないものであるとの主張の中で、甲第2ないし第5号証において、格助詞「の」が「・・・が作った」「・・・用の」の意味として使用されることを指摘し、本件商標から「お医者さんの使用する、お医者さんの薦める、お医者さんの開発した、お医者さんの作った、お医者さんのための」商品のように理解して購入されると主張している。
しかしながら、甲第2及び第3号証で例示された出願商標は、「宗家の印章」という一文をなした成句であって、審決の理由で示されていることは「・・・の・・・」という文章の文法解釈にすぎない。これら各甲号証に示されたものは些か古い時期の審決で、当時の判断基準では文章全体で特定の商品との関連性のある語句であれば、品質表示用語とされ得ることを示しているにすぎず、「お医者さんの」で終わる本件商標から生じる意味合いとは何の関連性もない。甲第4及び第5号証は最近の審決であるが、これらは外観上明らかに商品の品質誇称表示とされているもので、甲第2及び第3号証と同様に、これからはせいぜい格助詞「の」の文法的意味が再確認されたにすぎないものであり、本件商標の登録性とは事案の異なる事例である。
更には、甲第9ないし第12号証のように、実際に商品に付された例があるが、商品の付された語句が品質表示であるか商標的使用であるかは不明である。このうち本件商標の指定商品に係る甲第9及び第10号証は被請求人の販売に係る商品である。
甲第13号証の先願例は、現在審判係属中である。また甲第14及び第15号証の出願拒絶例は、いずれも拒絶理由通知後、意見書の応答なく自動的に拒絶査定が出されたものであるが、いずれの構成も「○○のお医者さん」の語順となっていて、販売商品・提供役務の専門家等の意味合いを生じさせたものと考えられる。「お医者さん」の文字を含むからといって、本件商標「お医者さんの」とは解釈を同じくするものではない。甲第15号証に関して補足された甲第16ないし第23号証のように、パソコン修理の専門家による修理サービスを直観させる業態を多数の者が営業している場合、この種業務の内容を表示する語句と理解される可能性があるが、本件商標については、現実的に商標として大々的に使用している者は被請求人のみである。甲第16ないし第23号証からは、多数の者が「パソコンのお医者さん」の標章を使用していることがわかるだけで、「お医者さんの」の商標が同列に扱われることを指しているのではない。
また、請求人は、本件商標が顧客吸引のためのキャッチフレーズ・宣伝文句と理解されるような用語に該当するかどうかに関し、「実際『お医者さん』の文字を、このようなキャッチフレーズ・宣伝文句として使用している例も、下記のように見受けられるものである」と主張し、甲第24ないし第30号証を提出している。
しかしながら、これら広告書類に示された事例についても、「○○のお医者さん」の文字構成による標章が、役務の提供内容を表す事例を指すにすぎない。
これらは全て修理サービスに係る広告の一例であるが、「お医者さん」の文字の直前に名詞が接合する構成で、その名詞が提供役務の対象を表すという共通点を有する。本件商標はこれらと構成が全く異なる「お医者さんの」であって、指定商品も雑貨等であり、たまたま「お医者さん」の文字部分を有するとしても、同列に扱うべき事例でない。
この結果、甲第31及び第32号証に表れる「○○のお医者さん」の拒絶審決例に見られるように、役務の提供内容を表示される事例や、甲第33号証のような、一文が明らかにキャッチフレーズとなっている語句の拒絶審決例は、本件商標「お医者さんの」の識別性に何の影響も与えないのである。
また、請求人が提出した甲第6及び第7号証においては、「お医者さん」の文字が「医師用、医師の薦める」の語義を有することを、「ドクター」ないし「DOCTOR」の文字と「ライオン」、「LION」の単語が結合した結合商標において、「DOCTOR/ドクター」部分が捨象され得ることを判示する事例である。
甲第8号証は「Dr.」の単語が医師を意味することを表している。いずれも本件商標に表れる「お医者さん」の愛称とは異なり、医師の一般名称である「ドクター」、「DOCTOR」、「Dr.」の単語に関する解釈であり、本件とは事案を異にする上、本件商標は「お医者さんの」という造語であって、ここから末尾の1文字のみを切り離して、残りの「お医者さん」部分から「医師の薦める商品」等といった、商品の品質表示に該当するとの理解はなされない。
この点に関して、本件商標に係る商品「クッション」等における登録商標には、「ドクター/Doctor」(乙第2及び第3号証)が存在する中で、「ドクターマット」(乙第4号証)を非類似の商標として登録ならしめている事実があり、また「ふとんのお医者さん」(乙第5及び第6号証)においても、布団の専門家による商品といった意味合いを暗示させる商品の品質表示用語とされることなく登録されている。
かかる登録例においては、「ドクター」のみならず「お医者さん」の言葉が、商品の専門家、専門家が薦める商品といった優れた商品であることを直感するに至らずに、自他役務識別力のある商標と認定されている。
成文化された「ふとんのお医者さん」の単語ですら登録性がある状況の下で、本件商標「お医者さんの」の語句が識別力のない標章とされることは不合理で、本件商標にあっても、直ちに役務に関する何らかの意味合いが直観されることはなく、全体を通して自他商品の識別力を発揮し得ることを確信する。
(エ)小括
結局、需要者・取引者にあっては、本件商標を見た時に、これが観念的に「医師が薦める商品」を意味する品質表示またはキャッチフレーズであることを、「お医者さん」及び「の」の文字から導き出すといった思考過程は些か飛躍しているといわざるを得ない。「お医者さん」及び「の」の2語を結合させたものと理解できないまでに融合している、創造に係る語に基づく商標と認識される。
よって、本件商標は自他役務の識別機能を充分に発揮し、なおかつ、いずれの指定商品においても商品の品質の誤認を生ずるおそれはない。
(3)特許庁における過去の登録例及び審決例
(ア)本件商標と同様に、格助詞「の」で終了する「牛乳屋さんの」、「焼肉屋さんの」、「小料理屋さんの」、「お茶屋さんの」、「鍋物屋さんの」、「八百屋さんの」、「マヨネーズ屋さんの」、「野菜ジュース屋さんの」、「トマトジュース屋さんの」、「魚屋さんの」、「サラダ屋さんの」及び「ドレッシング屋さんの」の商標登録例を乙第7ないし第19号証として示す。
商品を販売する職人・店舗・小売店の一般名称及び平仮名「の」を羅列した構成であるが、特段商品の販売元の職種を示すような理解がなされずに全体を一体のものとして観察する傾向にあることを示していて、本件の場合も商標全体を見た時に一体不可分の商標と認定され、自他商品を区別することが容易であることを確信する。
(イ)上記のうち、「焼肉屋さんの」(乙第8号証)、「鍋物屋さんの」(乙第11号証)及び「マヨネーズ屋さんの」(乙第13及び第14号証)は、審判の合議体によって、商品の品質、用途、キャッチフレーズ等を具体的に表示するものではないと認知され、登録を受けているものである(乙第20ないし第23号証)。
(ウ)また、「○○さんの○○」の構成にあっても、「八百屋さんのフルーツゼリー」、「くだもの屋さんのプルーン」、「牛乳屋さんの珈琲」、「牛乳屋さんのミルクココア」、「牛乳屋さんのあじわいココア」、「牛乳屋さんのミルク紅茶」、「牛乳屋さんのカフェ・オ・レ」及び「牛乳屋さんのミルクセーキ」の商標登録例(乙第24ないし第33号証)に示すように、それぞれが識別力のある商標として登録されている。
仮に、請求人が主張するように、格助詞「の」が直前の動作主体が直後の名詞に係る行為を規定する働きがあるとするならば、乙第24ないし第35号証の語句全体は、フルーツゼリー、プルーン等の商品について自他商品識別力がないとされ得ることになるが、実際には直後の名詞に関係する商品における品質表示として拒絶を受けるような判断はされずに登録を受けており、全体が一体となった語句として、識別力が認められ、登録されたことが理解できる。
(エ)上記のうち、「牛乳屋さんの珈琲」(乙第27号証)については、審判の合議体によって、商品の品質誤認等を生じさせるものではないと認知され、登録を受けているものである(乙第34号証)。
「牛乳屋さんの珈琲」の文字より、「牛乳販売店で売られている珈琲」の如き意味合いを看取される場合があるとしても、商品の品質を具体的に表したものとはいい得ないものであり、指定商品に使用しても何ら商品の品質の誤認を生じさせるものとは認められず、登録されるべきものと判断されている。
上記審査例・審決例のような、成文化された語句においても商品の具体的な品質表示とされない以上、本件商標「お医者さんの」のような不完全な文節の一部から、特定の商品の品質を想起させることなどない。
(オ)更には、特許庁の登録例では「農家の梅」(乙第35号証)及び「ドクターの赤汁」(乙第36号証)が、いずれも自他商品識別力のある商標として登録されている。
乙第35号証は、全体を通して農家が生産・採取して販売する梅・梅干し等の意味合いを有し、梅干しを採取した者が農業に専業する者であることを示すものと理解され得るものの、全体が一体となった造語と認識されていて、また乙第36号証中の「赤汁」は、トマト、アセロラ、赤ピーマン等の天然の野菜・果物を加工した健康飲料の一般名称であるが、請求人が主張するように「ドクター」が医師を示し、医師が薦める健康食品という意味合いが生じるならば当然登録要件を満たさないにもかかわらず、識別力ある商標として登録されている。
これら「○○の○○」といった語句が識別力ある商標として多数登録されている状況で、本件商標は「お医者さんの」という、せいぜいその前半部分を取り出したと考えられる程度の文字構成であって、上記登録例・審決例から、本件商標にあっても、自他商品の識別機能を充分に発揮し、かつ、いずれの商品に使用しても商品の品質の誤認を生ずるおそれはない。
(4)本件商標の使用による識別力
仮に、百歩譲って、本件商標「お医者さんの」の文字に商品の品質表示やキャッチフレーズを惹起させるとする見方があるとしても、「お医者さんの」の商標を付した商品は被請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者間において識別力を獲得している。
(ア)使用商標の態様
被請求人は、商品「腰保護用コルセット」に本件商標「お医者さんの」を用いた「お医者さんのコルセット」の名称を採用し、遅くとも平成14年5月以降継続して当該商品の広告に本件商標を用い続けている。同様に、商品「ひざ用サポーターベルト」に係る名称として「お医者さんのひざベルト」を平成15年9月から、また商品「ドーナツ形状の円座クッション」に係る名称として「お医者さんの円座クッション」を平成17年3月から、それぞれ商品名とした製品を広く販売している。
そして、現在に至るまでの間、被請求人はその取扱商品の優秀さと不断の営業活動の結果、例年多数の売り上げを記録するに至っている。被請求人の製造に係る腰保護用コルセット、円座クッション、ひざ保護用サポーターベルトは「お医者さんの」ブランドとして一般顧客に知られ、今ではクッションの分野では「お医者さんの」ブランドが極めて高い評価を受けるようになった。現在では通信販売をはじめ、多種多様の販路によって販売を行っている。また商品の売上高は「お医者さんのコルセット」については平成14年4月から同18年5月までで14億8330万円余を、「お医者さんのひざベルト」については平成15年9月から同18年5月までで5億4363万円余を、「お医者さんの円座クッション」については平成17年3月から同18年5月までで7800万円を超える総売上額を挙げていて、多種多様な製品が販売されるこの種商品の取引事情において異例のロングセラーとなっている(乙第37号証)。
(イ)マスコミ媒体による宣伝広告の事実
本件商標に関連して、商品腰保護用コルセットに関する商品名「お医者さんのコルセット」が、商品の通信販売に関するテレビ番組中にて紹介され、販売の広告がなされている。その一例として、平成17年6月から同18年2月頃までに全国各地の放送局にて放映された、商品販売番組のリストを提出する(乙第38号証)。
例えば、第45回放送において、全国各地方エリア全域にわたって、商品の紹介をなす55分番組が各地で行われ、およそ2ヶ月をかけて全国津々浦々にかけて商品が告知され、実際に販売されている。
この番組提供は提供商品や司会者を変えて継続的に行っており、また、1回の放映で全国各地のお茶の間で商品が告知されることになる。1回の番組では、他の商品と共に当該商品「お医者さんのコルセット」の商品名が掲載・呼称され、周知となっている。
ここで、商品名「お医者さんのコルセット」の文字の内、末尾の「コルセット」は商品の一般名称であるので、商標としての機能を果たす要部は残余の「お医者さんの」部分にあり、あるいは「お医者さんの」と、観念的な類似を考慮した「お医者さん」部分に取引の目印たる要部を見出すものと考えられる。それゆえ、請求人は「勝野式お医者さんのコルセット」を商標登録出願したが、類似する先登録商標の存在により拒絶が確定している。
新聞紙上においても、被請求人の「お医者さんのコルセット」、「お医者さんのひざベルト」製品の動向は頻繁に紹介され、北海道から沖縄まで、広く周知になっているのである(乙第39号証)。
更には、これら商品の広告記事は雑誌・カタログ等の各種印刷物において継続して宣伝活動を行ってきている。例えば、大手百貨店の通信販売カタログ、通信販売専業カタログ、各社スーパーマーケットのチラシ等の広告中に、商標権者の商品の固有名称として頻繁に使用されている(乙第40号証)。
このように、今日に至るまでに「お医者さんの」の商標を周知ならしめたのは、被請求人の営業努力のみに因ることが明らかである。
(ウ)商品の特異性
本件商標の使用に係る商品「クッション」等のいわゆるアイディア雑貨は、購入者の趣味が著しく反映される特徴にあり、既述したように商品の流行性の極めて早い、販売サイクルの短い商品が多い。このなかで、商品に付される商標が需要者の商品採択において重要な働きをなし、特に構成文字の特異性によって商品の認知度が高まり、各社アイディアを凝らした商品名が採択される傾向にある。
需要者・商品の購入者は商品の特性に興味を持っている一定の客層に限定されるため、取引者における周知度や名声が商標自体の著名性に大きな影響を与え、一見一般大衆にまで知られていないように見えても、商品取引に接する者の商標の理解度を通して商標自体の著名性を獲得するという、通常の商慣習と大きく異なる点に特徴がある。
(エ)他者による本件商標の使用の有無
本件商標を付した商品は通信販売によって各社より販売されている事実がインターネット上で確認できるが、これら「お医者さんの」商品を販売するのはほぼ全てが被請求人に帰属する商品であって、特に「お医者さんのコルセット」、「お医者さんのひざベルト」、「お医者さんの円座クッション」の名称については被請求人の製品しかない。一般需要者においても「お医者さんの」製品が被請求人に係る名称として理解されていることが認められる。
上述する各種事実を総合的に判断するに、本件商標「お医者さんの」ブランドは今や被請求人を示す商標として広く知られるに至っていて、被請求人の商標として一般消費者間においても極めて著名であることは明白である。
(5)まとめ
この結果、本件商標は、需要者・取引者がこれを商品の品質・キャッチフレーズ等を普遍的に表示したものとは直感せず、被請求人の業務に係る出所を示す語と理解され、全体で自他商品の識別機能を発揮し得る。
よって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同第6号及び同法第4条第1項第16号のいずれにも該当せず、無効の理由はないものである。
請求人は、本件商標は商標法第3条第1項第3号、同第6号及び同法第4条第1項第16号に該当する旨主張しているので、この点について検討する。
(1)本件商標は、上記1に記載のとおり「お医者さんの」の文字よりなるところ、その構成中の「お医者さん」の文字は、「医者」の文字に、相手に対する敬意を表す接頭語「お」及び接尾語「さん」の各文字を付して、医師を表す語として認識されるものである。また、これに続く「の」の文字は、連体格を示す格助詞であって、前の語句の内容を後の体言に付け加え、その体言の内容を限定する働きをするものである。
そして、上記した各語の意味合いからみれば、「お医者さんの」の語は、「の」の後ろに体言のないものであって、不完全なものと認識され、請求人が主張している「お医者さんの使用する、お医者さんの薦める、お医者さんの開発した、お医者さんの作った」等の意味合いを容易に想起し得るものとはいい難いものである。
そうとすれば、「お医者さんの」の語は、その構成全体を持って具体的な意味合いを認識させることのない漠然としたものといわざるを得ない。
(2)請求人提出に係る各甲号証には、例えば、「お医者さんのひざベルト」、「お医者さんの円座クッション」、「お医者さんのセラミド100%原液」、「お医者さんのマスク」(甲第9ないし第12号証)のように、「お医者さんの」の文字の後に商品名を付して使用されており、「お医者さんの」の語の後ろに具体的な商品名を付した場合においては、「お医者さんが開発・考案したひざベルト・円座クッション・セラミド100%原液・マスク」の意味合いを理解させるものであり、「AのB」という形で格助詞「の」を使用した場合には、「Aが作ったB」の意味を有するものといえるものである。
しかしながら、本件商標は、「AのB」という形の表示ではなく、「Aの」と同様に看取される「お医者さんの」の文字よりなり、これより具体的な意味合いを理解させるものとはいい難いものであり、単独で「お医者さんの」の語を使用している例も見いだせない。
そうとすれば、甲各号証をもってしては、本件商標の登録査定時において、「お医者さんの」の語が本件商標の指定商品の品質を表す用語として、取引上一般的に使用されていたものと認めるに充分なものとはいえない。
してみれば、「お医者さんの」の語は、これを構成する語義上の観点からばかりでなく、取引の実情を併せみても、特定の意味合いを認識させることのない一種の造語からなるものというのが相当であるから、請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、本件商標が商品のキャッチフレーズ、宣伝文句として使用しているとして、甲第24ないし第32号証を提出しているが、これらの例は、「・・・のお医者さん」で、「お医者さん」が格助詞「の」の後に付いているものであって、本件商標とは事案を異にし、他の各甲号証においても、「お医者さんの」の語がキャッチフレーズ、宣伝文句を表す用語として使用されているとはいい難い。
(3)まとめ
以上のとおり、本件商標は、特定の商品の品質を具体的に表示するものとして直ちに理解されるものとはいえないから、これを本件商標の指定商品に使用しても、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものであり、また、その指定商品中のいずれの商品について使用しても、商品の品質について誤認を生じさせるおそれはないものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号、同第6号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものではなく、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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