結論テキスト
審判費用は被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2005−89018(T2005−89018/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
本件登録第4343029号商標(以下、「本件商標」という。)は、「DonaBenta」の文字を標準文字で表してなり、平成10年9月21日に登録出願、第29類「食肉、食用魚介類(生きているものを除く。)、肉製品、加工水産物、豆、加工野菜及び加工果実、卵、加工卵、乳製品、食用油脂、カレー・シチュー又はスープのもと、なめ物、お茶漬けのり、ふりかけ、油揚げ、凍り豆腐、こんにゃく、豆乳、豆腐、納豆、食用たんぱく」及び第30類「粉末コーヒー、その他のコーヒー及びココア、コーヒー豆、茶、調味料、香辛料、食品香料(精油のものを除く。)、米、脱穀済みの大麦、食用粉類、食用グルテン、穀物の加工品、サンドイッチ、菓子及びパン、即席菓子のもと、アイスクリームのもと、アーモンドペースト、氷、アイスクリーム用凝固剤」を指定商品として、同11年12月10日に設定登録されたものである。
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第27号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
ア 商標「Dona Benta」の周知著名性について
請求人は、本件商標と同一商標について、本件商標の登録出願前、すでにブラジルにおいて出願もしくは登録された商標を有し、その類似商標や「Dona Benta」の文字を含む図形商標についても本件商標の登録出願前にブラジルにおいて商標登録出願をし、登録を受けている。指定商品についても「食用油脂、穀物の加工品、調味料、香辛料、食品香料、米」等が同一であり、その他類似関係にある商品も含まれている(甲第3号証ないし甲第10号証)。
請求人である「ジェイ.マセド エス.エー(J.Macedo S.A.)」(なお、「Macedo」の「e」の文字に「^」の記号が付されているが、以下省略する。)は、ブラジルにおいて電子部品から農業製品まで取り扱う複合企業「ジェイ.マセド グループ(J.Macedo Group)」傘下の企業であり、食品部門でブラジル国内第2位の規模を誇るブラジル屈指の企業である。
前記「ジェイ.マセド グループ」は、1939年にバターやワイン等の食料品、木材、コルク等の一次産品の販売代理店として創業後、ジープの専属販売や電気変圧器の生産等の事業分野で事業規模を拡大する。しかし、同グループの主力は前記「ジェイ.マセド エス.エー」の名のもとに展開する食品産業である。1959年に米国からの小麦の輸入権を獲得後、本格的な製粉事業を手がけ、1979年に小麦市場における国内ブランド「Dona Benta」を立ち上げる。その後、「Dona Benta」のブランド名をもって、パスタ、菓子、デザートの原材料等の製造工場や同社ブランドの商品の販売拠点をブラジル全土に有している。したがって、請求人は、ブラジルにおいて製粉事業や食品関連事業について約50年の歴史を有しているといえる。
さらに、ブラジルの国家職業訓練機関(SENAI)の支援を受けて、ラテンアメリカにおける最初の製粉事業専門の職業訓練コースを設置し、広く産業界に貢献してきた企業であるとともに、グループの一事業である「ドナベンタキッチンコース(Dona Benta Kitchen Course)」には毎年30万人が受講している。
請求人は、その重要ブランドである「Dona Benta」の保護のため、「Dona Benta」の類似商標及びその文字を含む図形商標について、菓子、パン、スープ等の食品、小麦、ベーキングパウダ等の食品原材料や調味料を指定商品として、ブラジルで多くの登録商標を取得している。 したがって、「Dona Benta」ブランドが、ブラジルにおいて、本件商標の登録出願日前より、既に取引者及び需要者間で周知著名であったことは明白である。
イ 本件商標と「Dona Benta」との類似および誤認混同のおそ れについて
本件商標は、標準文字での登録であるところ、構成態様として「Dona」の「D」および「Benta」の「B」が大文字表記で、他の文字が小文字表記であり、また、使用態様として「Dona Benta」と文字がやや縦長の一行書きで表記がなされている。請求人の使用商標が太字でやや丸みを帯びた二段表示された表記である点で外観上の差異はあるものの、構成態様として「Dona」の「D」及び「Benta」の「B」が大文字表記で、他の文字が小文字表記である点や、称呼が「ドナ ベンタ」である点は共通する。
また、本件商標権者の「Dona Benta」は、ブラジルの煮込み料理のレトルト食品に使用していることから、「Dona Benta」ブランドに馴染みのある需要者からみれば、請求人と組織的、経済的に何らかの関連性ある商品と誤認混同を生じさせる相紛らわしい商標といえる。
ウ 不正の目的による使用について
ブラジルにおいて、長年に亘り、「Dona Benta」の名前は、請求人の食品部門を象徴するブランド名として、ブラジル国内において一般的に広く認知されている。
本件商標の登録出願は、請求人が「Dona Benta」ブランド事業を開始してから約20年も経過した後である。また、被請求人のホームページにおける広告には、「日本で働く日系ブラジル人向けに、食肉加工品などの食材を作り続けて10年の実績を持っております。」と、殊更、ブラジル人向け需要者における実績を強調していることに加え、商品内容について多少日本語の説明があるものの、ホームページ広告における販売商品等の写真や紹介内容はすべてポルトガル語で記載されており、一般の日本人が被請求人の販売商品の購入意欲を喚起するものとはいい難い。
平成15年現在、日本には外国人登録法に基づいて正式登録されたブラジル人が30万人近く在住する(甲第13号証)。この人数は、中国人、韓国人に次いで多く、加えてブラジル社会に関わる人々やインターネット広告媒体の効果を考慮するならば、食品部門における市場として充分有望なマーケットと捉えることができる。この点、被請求人の販売対象は、日本人一般消費者向けではなく、明らかに請求人について熟知しているブラジル人を需要者として特定しているといわざるを得ない。
この事実は、「Dona Benta」ブランドのブラジルにおける著名性を利用せんという被請求人の不正の企図は明らかである。
(2)答弁に対する弁駁
ア 被請求人の本件商標の登録出願時点までにおいて、請求人は宣伝広告活動の一環として「Dona Benta」の商標および使用商品の写真が掲載されたカレンダーを消費者、取引者向けに配布し(甲第14号証の1ないし甲第14号証の4)、ブラジルの代表的な経済紙、雑誌、新聞等に、請求人の企業グループ名並びに「Dona Benta」商品の広告及び企業活動等を多数掲載している(甲第15号証ないし甲第17号証、甲第19号証ないし甲第24号証)。
請求人は、本件商標の登録よりかなり前の段階から商標「Dona Benta」の付された商品の販売を行っていたことは、多数の送り状からも明白である(甲第27号証の1ないし甲第27号証の8)。また、食品部門でブラジル屈指の企業である請求人の企業概況に関しては、1998年5月のスペイン語雑誌による報道記事が存在し、企業業績も着実な成長を遂げている(甲第26号証)。
さらに、被請求人は、ブラジル食品を多数扱っている業界トップクラスのシェアを持つイマイグループが、請求人の商品を取り扱っていないことを理由に周知著名性を否定しているが、そのイマイグループの代表者である今井譲二氏は、商標「Dona Benta」が請求人の商標であることについて承知しており、商標「Dona Benta」を使用した請求人商品の販売代理権を有していることを宣誓している(甲第25号証)。
以上の点に鑑みれば、請求人の商標「Dona Benta」は、本件商標の登録出願時、登録査定時においてブラジル国内で周知著名性を有していたことは明白である。したがって、被請求人の日系ブラジル人従業員の陳述書(乙第1号証、乙第2号証)、をもって請求人の会社名及び事業内容を知らないとする、被請求人の主張は認められない上、「Dona Benta」商品の取り扱いを実際に開始したのは近時のことと陳述した内容にも何ら根拠はない。
イ 被請求人は、商標「Dona Benta」の使用態様が請求人のものとは異なると主張している。しかし、両商標の使用態様は二段表記か否かの若干の差異であっても、外観上の類否判断に大きな影響を及ぼすものではない。加えて、両商標は、称呼・観念同一であることからしても、両商標は、社会通念上同一の商標ということができる。
また、本件商標の指定商品の中には、請求人が主力商品としている「食用粉類、食用グルテン、菓子及びパン、即席菓子のもと」等が含まれている。 実際の使用商品が異なるとしても、請求人と被請求人が取り扱う食品類が主に百貨店、スーパー、コンビニエンスストア等の店頭で販売されることに鑑みれば、需要者はほぼ共通するといえ、誤認混同のおそれがある。
実際、本件商標が日本で出願、登録されていたため、商標「Dona Benta」の付された商品を日本へ輸出販売しようにも、日本への本格参入が阻まれている。ブラジル食品取り扱い大手のイマイグループが請求人の商品を日本で取り扱っていないのもこの事情において当然のことであり、請求人の利益が著しく損なわれている。
ウ 被請求人は、需要者に日系ブラジル人のみならず日本人も少なからず存在すると主張しているが、その主張について何ら立証がなされていない。答弁書内容及び被請求人のインターネット広告を参照する限り、請求人企業について熟知している在日ブラジル人や日系ブラジル人が需要者の主体を占めていることは明白である。
また、被請求人は、「Dona Benta」ブランドのブラジルにおける著名性を利用せんとする不正の企図について否認している。
しかし、請求人の商標「Dona Benta」は、ブラジル国内において、本件商標の登録出願時及び登録査定時で取引者、需要者間において周知著名性を有していたことは、先に述べた多くの証拠によって証明されており、食品を取り扱う取引者であれば、請求人商標の存在を知らなかったとは到底認め難い。加えて、前述のとおり、本件商標と請求人商標「Dona Benta」は商標同一、商品同一類似の関係にある。したがって、本件商標は、外国で周知著名な商標についてほとんどそのまま流用して登録出願されたものであって、信義則に反する不正の目的をもって使用をするものといわざるを得ない。
被請求人は、本件商標の登録経緯からしても請求人商標の著名性のただ乗り等の不正の企図等ないと主張しているが、本件商標の登録に際しての商標調査は、あくまでも先願商標の有無を調査したものであって、出願人の主観的意図である「不正の目的」の存在については調査のすべもなく、事実その点に関して調査の痕跡は見当たらない。
さらに、登録商標の使用に関し、被請求人は、日本国内において煮込料理のレトルト食品に使用しており、請求人の使用商品との競合はないこと、本件商標の商品の取り扱いはごく一部で、実際に本件商標により莫大な利益を得ているという事情もない旨を主張している。
被請求人は、請求人がブラジルにおいて主力商品としている「食用粉類、食用グルテン、菓子及びパン、即席菓子のもと」等を登録商標の指定商品として設定登録を受けている。答弁書内容や証拠からすれば、被請求人は、煮込料理のレトルト食品以外の指定商品に関して不使用であることを自認しているが、そもそも商標の本来的な目的は商標の使用を通じてそれに業務上の信用が化体した場合に、その信用を保護するものであり、実際使用の事実もないか、僅かに使用する程度の商標であるならば、業務上の信用が化体するはずもなく、法目的からしても保護するに値しない。そればかりか、請求人の商標「Dona Benta」がブラジルで周知著名性を有していることからすれば、被請求人が本来使用する意思もなく本件商標の登録を受けていることは、請求人が長年商標「Dona Benta」の使用により積み重ねてきた商標の信用、名声、顧客吸引力等を希釈化させようとする「不正の目的」を推認させる事実といえる。
(3)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当し、無効とされるべきである。
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び弁駁に対する答弁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第23号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)答弁の理由
ア 商標「Dona Benta」の周知著名性について
請求人が「ジェイ.マセド グループ」傘下の企業で、食品部門でブラジル国内第2位の規模を誇るブラジル屈指の企業であるとする事実は知らない。被請求人は、日本国内においてブラジル(加工)食品を扱う会社であり、従業員や取引先に日系ブラジル人もいるが、本件商標の登録時から本件請求がなされるまで請求人の母体グループ名及び会社名を知らず、企業の明らかな周知著名性はない。
本件商標の登録出願当時、被請求人はもちろん、被請求人会社の日系ブラジル人の従業員や取引先も「Dona Benta」ブランドについて聞いたことがなく、請求人の主張するような周知著名性はない。
また、被請求人は、ブラジル食品を多数扱っている業界でトップクラスのシェアを持つイマイグルーブとも取引を有しているが、請求人の商品は同グループでも取り扱われていない。
仮に、請求人の会社がブラジル人に知られていたとしても、それは小麦を取り扱っている会社という意味にとどまる。請求人が主張するような「Dona Benta」商品の取扱を実際に開始したのは近時のことのようであり、当該商品ないし請求人の商標が、本件商標の登録時から現時点に至るまでブラジル国内全土の需要者の間に広く知られているとは到底考えられない。
さらに、請求人は、本件商標の登録出願日前における周知著名性につき、ブラジル国商標登録証を提出するだけでその立証は何らなされていない。周知著名性を否定した裁判例〔東京高裁平成14年7月24日判決(平成14年(行ケ)第44号)〕に照らしても、本件で周知著名性の立証がなされていないことは明らかである。
以上の事実関係を総合すれば、少なくとも本件商標の登録出願当時に請求人主張の周知著名性が明らかでないことは明白である。
イ 本件商標と「Dona Benta」との類似および誤認混同のおそれについて
先ず、両商標の比較において、請求人も認めるとおり、同人の使用態様は太字で丸みを帯びた二段表示であって被請求人の使用態様とは異なる。
また、被請求人は、本件商標を日本国内において煮込料理のレトルト食品に使用しているところ(乙第4号証6頁、乙第5号証の1ないし乙第5号証の3)、請求人は菓子、デザート等に使用しており、商品の競合はない。
さらに、被請求人は、ブラジル国内にマーケットを有しておらず、また、日本国内においても、需要者には日系ブラジル人もいるが日本人も対象としている(商品には日本語の記載もしている。)。
以上のとおり、商標の使用態様が異なり、商品も市場も競合しておらず、実際に本件商標の登録後に請求人の売上が著しく減少する等の損害が生じた等の主張立証もない。
よって、本件商標を使用しても、請求人の商品と誤認混同が生じ、これにより請求人に著しい不利益を生じさせるおそれがないことは明白である。
ウ 不正の目的による使用について
被請求人は、本件商標の登録時、請求人の「Dona Benta」の使用はおろか、請求人の存在も全く知らなかったものであり、同商標への只乗り等による不正の企図など持ちようがなかった。
本件商標の登録経緯を見ても、被請求人は、現代表者就任後間もなく、日本国内における同業他社が被請求人の商品名称(本件商標以外のもの。)を無断使用し始めたことを契機として、会社利益を保護するために社名を含めた一連の商標登録を行っており、本件商標の登録もその一環としてなされたものである。なお、本件商標は、前代表者の時代(平成4年頃と思われる。)から煮込料理の(冷凍)食品等に「Dona Benta」という名称を使用していたという経緯がある。そして、登録に際しては、その可否の調査及び登録手続を専門家である弁理士に依頼して誠実に行っており(乙第6号証ないし乙第17号証)、当該経緯に請求人使用商標への只乗りの意図は全く窺われない。
また、その後の本件商標の使用状況をみても、被請求人は本件商標のみならず、「プラチー」、「トラディッショナル」等のブランド名も使用して誠実に経営し、特に「プラチー」(「あなたのために」という意味)を経営理念として同名称の使用に力を入れており、本件商標の商品の取扱はごく一部で、実際に本件商標により莫大な利益を得ているという事情もない。
そもそも、「Dona Benta」とはベンタおばさんという意味であるが、これは、元々、大変著名な作家である「MONTEIRO LOBATO」の話の中に出てきた人物である。そして、1940年代にブラジルにおいて初めての料理本が発行されたが(「EDITORA NACIONAL」出版)、その題名は、上記物語の人物名を引用して「Dona Benta」とされた(乙第19号証)。この本は、現在に至るまで70数回も改訂版が出たベストセラーであり、多くのブラジル人に愛用され知らないものはいないと言っても過言ではない。そして、同時に、ブラジルでは「Dona Benta」という名称は料理の非常に上手なおばさんというような意味で親しまれるところとなった(乙第20号証、乙第21号証)。
被請求人においても、本件商標を商品に使用したり、商標登録するに際しては、手作り感をアピールした商品の名称として、ブラジル人に広く親しまれている「Dona Benta」を使用したものである。このように、本件商標はユニークな造語商標ではなく、物語の登場人物や料理本の題名に端を発してブラジル人に広く親しまれている言葉であり、「料理の非常に上手なおばさん」という意味内容からしても食品の商品名称として使用することは全く不自然なものではない。
さらに、請求人の主張をみても、被請求人のホームページ上の「日本で働く日系ブラジル人向けに ... 」という記載があること、平成15年現在、日本在住のブラジル人が30万人近いことのみを挙げるのみである。この点、不正目的を認定した裁判例は、事前に両当事者間に取引関係があったところ、その中止を伝えられた一方が期間をおかずに商標登録出願を行った等の事情がある場合であり〔東京高裁平成14年3月14日判決(平成13年(行ケ)第175号)〕、登録の際に不正な利益を得ようという特段の事情が全く認められない本件においては、当該裁判例に比しても不正の目的を認定し得ないことは明白である。
(2)弁駁に対する答弁の理由
ア 請求人は、本件商標出願時(平成10年9月21日)で、ブラジル国内において、「Dona Benta」商品の広告を行ったことがあることなどを述べ、その証拠として雑誌等の広告部分を提出して、ブラジル国における請求人の商標の周知著名性を主張する。
しかし、そもそも請求人の提出証拠からは、当該媒体の発行地域、発行部数、頒布状況、購読ないし頒布の対象者等の事実関係については全く不明であるところ、これらは、せいぜい請求人が何らかの広告(尚、後述のとおり、必ずしも全部が「Dona Benta」商品の広告ではない。)をいくつか出したことを示すものにすぎず、ブラジル国内における請求人の商標の周知著名性まで立証するものではない。
更に、当該提出証拠から推認し得る事情から見ても、以下のとおり、請求人の商標が、商標法第4条第1項第19号に規定する「外国(ブラジル国)における需要者の間に広く認識されている商標」とは認められないことは明らかである。すなわち、雑誌について見ると、甲第16号証及び甲第22号証については、雑誌名の検証すら出来ず、そもそも請求人の言う「ブラジリアンマガジン」(甲第16号証)、「スーペルハイパー」(甲第22号証)であるかも不明である。
いずれにしても、「ブラジリアンマガジン」(甲第16号証)、「アリメントスプロセサドス」(甲第18号証)、「オー スーパーマーカデイスタ」(甲第20号証)、「ロジャス デ コンビニエンシア」(甲第21号証)、「スーぺルハイパー」(甲第22号証)、「スーペルメルカド モダルノ」(甲第23号証)、「ジャーナル ダ パニフィカカウ」(甲第24号証)は知らない、これらが、ブラジル国土において、一般人が広範囲の地域で入手できるポピュラーな雑誌とは考えられない。
更に、雑誌名や記載内容からは、甲第20号証はスーパーマーケットの業界誌、甲第21号証はお店に対する業界誌、甲第24号証はパン業者の業界誌、甲第18号証と甲第23号証も特定の業界誌と推認でき、商品の顧客である一般人に頒布販売される性質のものではないことがわかる。
また、その記事内容について付言すると、甲第16号証に印刷されているパッケージの商品や甲第21号証の記事は「(小麦)粉」に関するものであり、甲第20号証の記事については「Dona Benta」に触れている箇所は見当たらない。
次に、新聞について見ると、甲第15号証の「ピラシカバ紙」は、サンパウロ州内のピラシカバ市という地方都市(おそらくは工場等の所在地と思われる。)における地方紙に過ぎず、ビラシカバ市民以外が購読することは通常ない。尚、その記事は小麦粉を生産する請求人と他会社の対アップを内容とするものと推認できる。
また、甲第19号証の「ガゼットマーカンタイル」は経済紙であり、ブラジル国内の一般人が読むものではない。
以上のとおり、請求人が提出する証拠は、そもそも、その真偽不明のものがあり、また、頒布販売に関する事実関係も全く表れていない。
そして、その内容から推認し得る事実を見ても、特定の業界や特定の地域における広告に過ぎず、請求人の商標が、ブラジル国内における需要者の間に広く認識されている商標と認めるに足る証拠でないことは明らかである。 情報網が発達し、国土の狭い日本国内においてですら、特定の地域で広告宣伝し知名度のある会社ないし商品も、その地域を離れれば需要者に知られていないものがほとんどである。
ましてやブラジル国内において需要者の間に広く認識されている商標は、ごく限られるものであり、この点、請求人提出の証拠からは、請求人が主張する「ブラジル国内における周知著名性」が認められるものでないことは明白である。
尚、請求人のカレンダー(甲第14号証の1ないし甲第14号証の4)、社外報(甲第17号証。尚、当該記事内容は会社のキャンペーンに関するものに過ぎない。)は、その頒布の範囲が当然に限定されるものであり、頒布内容の正確な検証も不可能であるから、周知著名性を立証する証拠足り得ない。
又、甲第25号証は、作成時期が不明であり、やはり本件商標出願時における周知著名性の証拠足り得ないものである。
イ 本件商標と請求人商標との類似及び誤認混同のおそれがないことに関する被請求人の主張は、(1)イで述べたとおりである。
なお、商標登録の時期について、本件商標出願時(平成10年9月21日)において登録されていた請求人の商標は、小麦粉、ペーストリー、ベイキングパウダーのみであり(甲第3号証)、その他のものは、被請求人が本件商標を登録した後に、請求人が登録したものである(甲第4号証ないし甲第9号証)。
ウ 商標法第4条第1項第19号は、商標混同の抑止を目的とするものでなく、外国企業との代理店契約締結の強制、外国企業の著名商標への只乗り、商標権譲渡料目当てなどの妨害目的といった不正の目的で商標登録することを規制する規定であり、よって、「不正の目的をもって使用するもの」という要件こそが法の主眼とするところである。
この点につき、請求人は、前述の証拠をもって、請求人の商標は「ブラジル国内において...周知著名性があった」とし、「食品を取り扱う取引者であれば、請求人商標の存在を知らなかったとは到底認めがたい」との主張を前提として、本件商標登録は「不正の目的によって使用した」などとしているが、当該主張には誤りがあり、また、その論理も飛躍している。
すなわち、前述のとおり、請求人の提出する証拠は、せいぜい特定の業界や地域におけるものであり、ブラジル国内の需要者に請求人の商標が周知著名であったという立証は何らなされていない。
また、仮に、一定の知名度があったとしても、日本国内において請求人と異なる商品を取り扱う被請求人が、本件商標出願当時に請求人の商標を知らなかったことが、なぜ「到底認めがたい」と言えるのか全く理解できない。市場や取扱商品が競合しない外国で登録された商標など知り得るものでなく、この点、請求人の主張は誤っている。
更に、仮に請求人の商標がブラジル国内において知名度があったとしても、複数の国で著名であるというほどでもない商標に関しては、本件商標出願時において、当該請求人が当該商標の下で現に日本に進出中であるか、近々、日本に進出することを計画しているということを被請求人が認識していない限りは、商標法第4条第1項第19号に該当することはないと解する。
この点、本件商標出願時点における請求人の登録商標は小麦粉、ペーストリー、ベイキングパウダーのみであったこと(甲第3号証)、本件審判は本件商標出願後約6年半も経過してから申し立てられていること、これまで請求人は本件商標出願時における日本進出に関する主張立証を行っていないことなどを考え合わせれば、本件商標出願時において、請求人が当該商標の下で現に日本に進出中であるか、近々、日本に進出することを計画しているという事実がなかったことについては疑問の余地がない。
よって、商標法第4条第1項第19号に該当することはなく、単にブラジル国における周知著名性をもって、被請求人の不正使用目的が立証されたとする請求人の主張が飛躍し誤っていること明らかである。
そして、本件商標は、造語商標でなく物語の登場人物や料理本に端を発してブラジル人に広く親しまれている言葉であり食品の名称として登録することには合理性があること、本件商標登録後今日まで本件商標を使用して現に商売を行っていること、請求人が被請求人から本件商標に関して不当な利益を得ようとするなどの不正使用目的を窺わせる事情は全くないことなどに鑑みれば、被請求人が、本件商標を不正の目的に使用した事実など到底認められるものではない。
(3)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものではない。
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当する旨主張しているので、この点について判断する。
(1)商標の類否について
本件商標は、「DonaBenta」の文字からなるものであるのに対し、請求人が使用する商標(以下、「請求人商標」という。)は、「Dona Benta」からなる商標であり、これらは、構成する欧文字に相応していずれも「ドナベンタ」の称呼を生じる。
そして、本件商標と請求人商標は、「Dona」と「Benta」の間に1字分のスペースを置くか否かの相違にすぎず、構成する欧文字は共通であるから、外観においても類似する。
なお、「Dona Benta」は、ブラジル国においてはポルトガル語で「ベンタおばさん」という意味であり、同名の料理の本の題名として知られていることが認められるが(乙第1号証、乙第2号証、乙第6号証の1)、ポルトガル語についてなじみの薄い我が国においてそのように認識されると認めるに足る証拠はなく、「DonaBenta」ないし「Dona Benta」から、特定の観念が生じるものとは認められない。
以上によれば、本件商標と請求人商標は、称呼が同一であり、外観も類似するものであるから、本件商標は、請求人商標に類似する商標と認められる。
(2)請求人商標の周知著名性について
ア 請求人の属するジェイマセドグループは、ブラジル国において1939年(昭和14年)9月9日に創業され、その後、ブラジル国内において、小麦粉等の製粉、食品、飲料等、主として食品分野において事業を展開し、1979年(昭和54年)から、ブラジル国産ブランドの小麦粉として「Dona Benta」の商標を使用して販売を開始した。また、ジェイマセドグループは、1989年ころからはスーパーマーケットの買い物客等を対象に、「Dona Benta」の名前を付した料理教室を同国内で開設し、1990年代には、「Dona Benta」の商標を使用した製品を、ベーキングパウダー入り小麦粉、ケーキミックス、パスタ、製パン用粉に拡大した(甲第24号証)。
本件商標の出願がなされた平成10年(1998年)の時点で、請求人は、小麦関連商品の製造販売においてブラジル国内で第2位、世界で第8位の会社であり、ブラジル国内の製パン店5万店のうち8000店が原告製品を使用している。1997年における原告の売上げは,6億米ドルであり,南米における食品産業における最も重要な50社のリストに上げられている。(甲第18号証)
イ 請求人は、1995年12月17日付けピラシカバジャーナル紙(甲第15号証)、ブラジリアンマガジン誌1996年9月号(甲第16号証)、ロジャス・デ・コンビニエンシア誌1998年11月号(甲第21号証)、スーペルハイパー誌1998年11月号(甲第22号証)、1997年付けジャーナル・ダ・パニフィカカウ紙(甲第24号証)等の新聞や雑誌に「Dona Benta」商標を使用した広告を掲載している。
また、アリメントスプロセサドス誌1998年5月号(甲第18号証)には、請求人を小麦関連商品の製造販売においてブラジル国内で第2位、世界で第8位の会社で、南米における食品産業における最も重要な50社のリストに挙げられたことなどを紹介する記事が、1998年9月18〜20日付けガゼットマーカンタイル紙(甲第19号証)には、請求人を1997年の売上げが合計6億4000万レアルのブラジル国最大の食品グループの一つであり、主要製品である「Dona Benta」商品は売上げの28%を占めていることなどを紹介する記事が、それぞれ掲載されている。
ウ なお、ジェイマセドグループは、ブラジル国内において登録商標を取得している(甲第3号証ないし甲第10号証)。
エ 以上の認定事実を総合すれば、請求人ないしジェイマセドグループの「Dona Benta」商標は、ブラジル国内において、1979年(昭和54年)から請求人ないしジェイマセドグループの業務に係る小麦粉等の商品を表示するものとして使用されるようになり、本件商標の出願がなされた平成10年(1998年)の時点で、請求人は、小麦関連商品の製造販売においてブラジル国内で第2位の企業となり、その間、新聞や雑誌等において「Dona Benta」商標を使用した広告も行い、その業務を紹介する記事も新聞等に掲載されていたのであるから、遅くとも本件商標の出願時(平成10年(1998年)9月21日)までには、ブラジル国内で需要者の間に広く認識されるようになり、その周知性は、本件商標の登録査定時(平成11年11月5日、甲第2号証)に至るまで継続していたものと認められる。
(3)不正の目的による使用について
ア 被請求人は、神奈川県綾瀬市に事務所を置き、食品の製造販売等を業とする株式会社であり、被請求人旧会社を組織変更し設立したものであるが、食肉加工品、菓子類、パスタ、豆類、小麦粉等の食材を、主としてブラジル国食材専門店に対し販売している(以下、被請求人及び被請求人旧会社を単に「被請求人」という。)。
イ 被請求人のインターネット・ホームページ広告(甲第12号証)には、「当社は、日本で働く日系ブラジル人向けに、食肉加工品などの食材を作り続けて10年の実績を持っております」(1/2頁第1段落)、「DONA BENTA(ドナ・ベンタ):フェイジョアーダ、ハバーダ、スープなどブラジルの懐かしい煮込み料理をレトルトでブラジルのフォルクローレに登場する「ドナ・ベンタ」という料理のとても上手なおばさんをイメージして開発いたしました。...」(同頁第4段落)などと記載されている。
また、被請求人の2005年4月版商品価格表(日本語)(乙第4号証)のDonaBentaに関する説明には、「ブラジルの有名なレシピ本に『ベンタおばさんの料理』があります。そこで紹介されているのは、ブラジルの家庭で母親が娘に教えている、当たり前のブラジル料理。ラテン大和は、飾り気のない素朴なブラジル家庭料理を再現した商品をシリーズ展開しています」と記載され、「DonaBenta」の商標を使用したブラジル国料理の商品が多数掲載されている。
ウ 被請求人には、本願の出願(平成10年9月21日)前からブラジル国内の食品に関する事情に接している日系ブラジル国人の従業員が在籍している。
エ 被請求人は、平成10年9月21日、本件商標について登録出願(乙第9号証)し、平成11年9月28日付け手続補正書(乙第14号証)により指定商品の表示を一部補正し、平成11年11月5日付け登録査定(乙第11号証)を経て、平成11年12月10日に設定登録(乙第17号証)を受けた。
オ 請求人の「Dona Benta」商標がブラジル国内において遅くとも本件商標の出願時(平成10年(1998年)9月21日)までには需要者の間に広く認識されていたものと認められることは上記(2)のとおりであるところ、上記アないしエに認定したところによれば、被請求人は日本在住の日系ブラジル国人向けのブラジル国食品を製造販売していたものであり、上記出願時より前からブラジル国内の食品に関する事情に接している日系ブラジル国人の従業員が在籍していたのであるから、被請求人は、上記出願当時、「Dona Benta」が請求人の業務に係る商品を表示する商標であることを認識していたものと認めるのが相当である。そして、被請求人が本件商標を使用する商品の主な需要者は、在日の日系ブラジル国人であり、請求人商標の上記周知性にかんがみると、これらの需要者の多くは、請求人ないしジェイマセドグループの業務に係る商品表示として請求人商標を認識していること、及び、本件商標の出願当時、被請求人においてもこのことは認識していたものと推認される。
そうすると、それにもかかわらず被請求人において、請求人商標と極めて類似する本件商標をあえて採用し、登録出願したのは、ブラジル国において広く認識されている請求人商標の名声に便乗する不正の目的をもってしたものと認めるのが相当である。
(4)まとめ
以上に検討したところによれば、請求人商標は、本件商標の出願時(平成10年(1998年)9月21日)及び登録査定時(平成11年11月5日、甲第2号証)において請求人の業務に係る商品を表示するものとしてブラジル国内で需要者の間に広く認識されていたものであるところ、本件商標は、請求人商標と類似の商標であって、かつ、被請求人は、ブラジル国において広く認識されている請求人商標の名声に便乗する不正の目的をもって本件商標を取得し使用をするものと認められる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
商標の登録可能性を無料で確認するか、費用の目安を料金表・シミュレーターで把握できます。