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Trademark Appeal Case

周知標章の登録可否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2006−89173(T2006−89173/J3)
審判種別無効
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

登録第4977978号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

理由テキスト

1 本件商標

本件登録第4977978号商標(以下「本件商標」という。)は、「マリーナミリターレ」及び「MARINA MILITARE」の文字を上下二段に横書きしてなり、平成13年8月13日に登録出願され、第14類「時計」を指定商品として同18年8月11日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張

請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第6号証(枝番を含む。)を提出している。

(1)前提となるべき事実

(ア)パネライ時計の歴史

イタリア共和国所在のオフィチーネ・パネライ社(以下「パネライ」という。)は、1860年にイタリア国・フィレンツェにおいて時計店として創設され、その後、イタリア海軍にコンパス、水圧計、ダイバーズウォッチといった水中で使用する計測機器類の供給を開始した。第一次世界大戦、第二次世界大戦においてもパネライの機器はイタリア海軍の作戦遂行に重要な役割を果たしたが、なかでも同社のダイバーズウォッチの名声を高めたのが、1941年12月19日、エジプト国アレキサンドリア湾においてイタリア海軍がイギリス艦船クイーン・エリザベス号及び装甲船ヴァリアント号を爆破したアレキサンドリア襲撃作戦の際に、作戦遂行に携わったコンバット・ダイバーがパネライのダイバーズウォッチを身につけていたという事実である(甲第1号証)。

そして、パネライは、戦後もイタリア海軍及び地中海沿岸諸国の海軍にダイバーズウォッチ等の計測機器類の納入を継続しており、1946年以降にイタリア海軍に納入された腕時計には戦後のイタリア海軍を表す「MARINA MILITARE」の文字が刻まれたことから、腕時計について使用された「MARINA MILITARE」の標章はパネライの防水時計を表すものとしてイタリアをはじめとするヨーロッパ各国の時計愛好家に知られるようになった(甲第1号証)。

このように、パネライの腕時計は専ら海軍への供給に限られ、一般需要者への販売は行われてなかったが、そのストーリー性や希少性のために却って一部の歴史愛好家や腕時計愛好家の憧憬・関心を集め、パネライ及びその製品の存在はよく知られていた。

そして、1993年に始めて一般向けにダイバーズウォッチの販売を開始した時点で既に、歴史愛好家や腕時計愛好家の間では周知であり、一般向けの販売は、時計愛好家にとっては待望の販売であったといえる。さらに、1997年に高級宝飾品・腕時計ブランドであるカルティエ インターナショナル ビー ブイ(以下「請求人」という。)がパネライを買収し(甲第3号証)、請求人の傘下となったことによって生産・販売体制が整えられ、これによってパネライ及び同社の製品が広く世界中の高級腕時計の愛好家に知られるようになった。

(イ)我が国におけるパネライ製品の周知性

我が国においては、リシュモンジャパン株式会社を総代理店として、1998年にパネライ製品の販売が開始された。販売を開始して以来、パネライ製品の販売数量は年々増加しており、その後も増加傾向にある。

また、時計雑誌だけでなく男性向けファッション誌やビジネス誌、さらには女性向けファッション誌やウェディング雑誌にも数多くとりあげられ、パネライ製品は我が国の腕時計の需要者に広く知られることとなった。

このことは、被請求人が取締役を務めるケントレーディング有限会社及びケントレーディングブレイン株式会社に対して請求人が提起した侵害訴訟(平成15年(ワ)第29376号)において、裁判所が認定したところである(甲第4号証)。

そして、このような雑誌の中には、上記で述べたパネライの歴史を詳細に解説した記事が散見されたこと、限定版として1998年及び2000年に「MARINA MILITARE」を付した腕時計がパネライから販売されたことからも(甲第2の4、第6の1、第6号証の2)、本件商標の出願時には既に我が国の腕時計の取引者及び需要者の間で、「MARINA MILITARE」がパネライの腕時計を表示するものとして知られていたことがわかる。

(ウ)被請求人等の行為

上記で述べたとおり、被請求人が経営するケントレーディング有限会社及びケントレーディングブレイン株式会社は、パネライの人気製品である「ルミノール」シリーズの形態上の特徴を具備し、その形態を模倣した製品に「MARINA MILITARE」の商標を付して販売していた(甲第4、第5号証)。

これに対して請求人が提起した侵害訴訟(平成15年(ワ)第29376号)において両社がかかる製品を製造・販売する行為は、不正競争防止法第2条第1項第1号の不正競争行為に該当するとして、差止請求が認められた。

また、本件訴訟は商品形態に関するものであるが、判決においては、被告であるケントレーディング有限会社及びケントレーディングブレイン株式会社が使用していた「MARINA MILITARE」の名称についても、パネライが人気製品の名称として使用している「LUMINOR MARINA」と一部共通し、限定品として発売された製品の名称と同一であるため、需要者における混同のおそれを助長する事情が存在すると認められた(甲第4号証)。

(2)具体的理由

(ア)本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当すること

先に述べたように、本件の出願時である平成13年8月13日以前に既に「MARINA MILITARE」は,パネライの製造に係る腕時計を表すものとして腕時計愛好家の間で広く認識されていた。

そして、被請求人が代表者を務めるケントレーディング有限会社及びケントレーディングブレイン株式会社は、パネライの腕時計の形態を模倣した商品に本件商標を付して販売していたが(甲第4号証)、甲第5号証はその商品を宣伝・広告するために開設していたホームページの写しである。

この中で被請求人が「本家P社と現在のPブランドとは」と題する文章においてパネライ社の歴史等について詳細に述べていることからも、被請求人がパネライの「MARINA MILITARE」の存在とその名声を熟知していたことは明らかである。

なお、本件商標の審査時に出願人が提出した意見書によれば、「『MARINA MILITARE』の文字よりなる標章が『グイド・パネライ&フィリオ社』の商標として周知なものではなく、その存在について出願人は不知であった」とのことであるが、上述のように、パネライの歴史や製品等について詳細な記述があることや、パネライの製品を細部まで模倣した商品を製造・販売していたことから、被請求人が「MARINA MILITARE」について「不知であった」とは到底思えず、パネライの腕時計を表示するものとして知られる「MARINA MILITARE」の存在を熟知した上で、その名声を利用する意図をもって本件商標を出願登録したことは明らかである。

そして、甲第5号証のような広告により、「MARINA MILITARE」の名声を印象づけることによって、需要者に対し自己の製造・販売する腕時計の購買意欲を煽り、パネライの名声にただ乗り(フリーライド)して自らの商品を販売し、不当な利益を得ていたものである。

被請求人のこのような行為は、被請求人とパネライの間に何等かの関係があると需要者に誤認されるおそれがあることや、被請求人が代表者を務めるケントレーディング有限会社及びケントレーディングブレイン株式会社が販売する腕時計とパネライの腕時計が需要者に誤認混同されるおそれがあることに鑑みれば、被請求人の行為は、パネライの業務上の信用を毀損し、稀釈化するものである。

さらに、パネライの人気に便乗し、「MARINA MILITARE」の商標ばかりでなく、商品自体の外観まで模倣した製品を製造し自己の商品として販売する行為は、パネライ製品と紛らわしい外観の商品を作出する行為であって、公正な競業秩序を乱すものであり、著しく社会的妥当性を欠くものであると言わざるを得ない。

その上、パネライ及び同社を傘下におさめる請求人が世界的に有名な企業であることに鑑みれば、上記のような被請求人の行為は国際信義に悖るものである。

このように、被請求人が我が国において商標「MARINA MILITARE」が登録されていないことを奇貨として、同商標と社会通念上同一の本件商標を請求人に無断で先取り的に出願して登録することは、前記の各事実に鑑みれば著しく社会的妥当性を欠くものであり、商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないものであり、公正な競業秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものであって、公の秩序を害するおそれがあるものというべきである。

よって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当し、無効とされるべきである。

(イ)本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当すること

パネライの商標「MARINA MILITARE」は、遅くとも本件商標の出願時である平成13年8月13日までには同社の腕時計に使用されている商標として需要者の間に広く認識されていた。このことは、甲第2号証として提出した雑誌記事がいずれも本件商標の出願前に発行されたものであることからも明らかである。

そして、本件商標の指定商品は「時計」であり、パネライが商標「MARINA MILITARE」を付している商品と同一と認められる。

よって、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当し、無効とされるべきである。

(ウ)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当すること

パネライの商標「MARINA MILITARE」は、遅くとも本件商標の出願時である平成13年8月13日までには同社の腕時計に使用されている商標として需要者の間に広く認識されていた。

そのため、「MARINA MILITARE」と社会通念上同一と認められる本件商標を指定商品に使用した場合、需要者は被請求人と請求人の間に何等かの組織的な、若しくは契約上の関係があると誤認されるおそれがあり、又は被請求人の商品をパネライ製品であると誤認を生じるおそれもある。

先に述べたとおり、被請求人が代表者を務める会社は、パネライの製品の形態をほぼデッドコピーと言えるほど細部に至るまで模倣した製品に本件商標を付して販売していたのであるから、混同のおそれは非常に大きい。

よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当し、無効とされるべきである。

(エ)本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当すること

先に述べたとおり、腕時計に付された「MARINA MILITARE」の標章はパネライの防水時計を表すものとしてイタリアをはじめとするヨーロッパ各国で腕時計の愛好家に知られていた。

さらに、1998年に我が国でパネライ製品の販売が開始され、1998年と2000年には、商標「MARINA MILITARE」を付した腕時計が一般向けにも販売されたことから、遅くとも本件商標の出願時までに商標「MARINA MILITARE」が我が国の需要者に広く認識されていた。

そして、被請求人は、パネライ及び歴史・製品について熟知した上で、商標「MARINA MILITARE」に化体したパネライの顧客吸引力を利用して自己の商品の販売を行うという不正の目的を以て本件商標を出願・登録したことは、前述の事実からも明らかである。

また、パネライと何ら関係のない被請求人が本件商標を使用することによって、パネライの名声が毀損され、商標「MARINA MILITARE」が稀釈化されるおそれは大きい。

よって、パネライの業務に係る商品を表示するものとして日本国内及び外国における需要者の間に広く知られている商標「MARINA MILITARE」と社会通念上同一と認められる本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

(3)むすび

以上に述べたとおり、本件商標の登録は商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当し、商標法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。

3 被請求人の答弁

被請求人は、請求人の前記2の主張に対し、何ら答弁していない。

4 当審の判断

(1)甲第1ないし第6号証(枝番を含む。)及び請求の理由によれば、以下の事実が認められる。

(ア)パネライは、1860年にイタリア国・フィレンツェにおいて時計店として創設され、その後、イタリア海軍にコンパス、水圧計、ダイバーズウォッチといった水中で使用する計測機器類の供給を開始した。

そして、パネライは、イタリア海軍及び地中海沿岸諸国の海軍にダイバーズウォッチ等の計測機器類の納入を継続しており、1946年以降にイタリア海軍に納入された腕時計には戦後のイタリア海軍を表す「MARINA MILITARE」の文字が刻まれたことから、腕時計について使用された「MARINA MILITARE」の標章(以下「引用標章」という。)はパネライの防水時計を表すものとしてイタリアをはじめとするヨーロッパ各国の時計愛好家に知られるようになった(甲第1号証)。

このように、パネライの腕時計は専ら海軍への供給に限られ、一般需要者への販売は行われてなかったが、1993年に始めて一般向けにダイバーズウォッチの販売を開始し、さらに、1997年に請求人がパネライを買収し(甲第3号証)、請求人の傘下となったことによって生産・販売体制が整えられ、これによってパネライ及び請求人の製品が高級腕時計の愛好家に知られるようになった。

(イ)我が国においては、リシュモンジャパン株式会社を総代理店として、1998年にパネライ製品の販売が開始された。また、時計雑誌だけでなく男性向けファッション誌やビジネス誌、さらには女性向けファッション誌やウェディング雑誌にもとりあげられ、パネライ製品は我が国の腕時計の需要者に広く知られることとなった。

このことは、被請求人が取締役を務めるケントレーディング有限会社及びケントレーディングブレイン株式会社に対して請求人が提起した侵害訴訟において、裁判所が認定したところである(甲第4号証)。

そして、該雑誌の中には、上記で述べたパネライの歴史を詳細に解説した記事が散見されたこと、限定版として1998年及び2000年に引用標章を付した腕時計がパネライから販売されたことからも(甲第2の4、第6の1,第6号証の2)、本件商標の出願時には既に我が国の腕時計の取引者、需要者の間で、引用標章がパネライの腕時計を表示するものとして知られていたといえる。

(ウ)上記のとおり、被請求人が経営するケントレーディング有限会社及びケントレーディングブレイン株式会社は、パネライの人気製品である「ルミノール」シリーズの形態上の特徴を具備し、その形態を模倣した製品に引用標章とほぼ同一の商標を付して販売していた(甲第4、第5号証)。

これに対して請求人が提起した侵害訴訟において両社がかかる製品を製造・販売する行為は、不正競争行為に該当するとして、差止請求が認められ、また、本件訴訟は商品形態に関するものであるが、判決においては、被告であるケントレーディング有限会社及びケントレーディングブレイン株式会社が使用していた「MARINA MILITARE」の名称についても、パネライが人気製品の名称として使用している「LUMINOR MARINA」と一部共通し、限定品として発売された製品の名称と同一であるため、需要者における混同のおそれを助長する事情が存在すると認められた(甲第4号証)。

(2)上記(1)で認定した事実によれば、引用標章は、パネライ及び同社を傘下におさめる請求人(以下、これらを一括して「請求人等」という。)が腕時計を表示するものとして、本件商標の登録出願前より使用され、本件商標の登録査定時には、我が国における少なくも腕時計の取引者、需要者の間において、周知性を獲得していたものと認めることができる。

一方、上記侵害訴訟等を考慮すれば、被請求人は、本件商標の登録出願前より、パネライの腕時計を表示する引用標章の存在について十分知っていたものと認められる。

(3)商標法第4条第1項第19号の該当性について

本件商標は、上記1のとおり、「マリーナミリターレ」「MARINA MILITARE」の文字よりなるものであって、その構成中の「MARINA MILITARE」の欧文字部分は、引用標章と実質的に同一商標ということができる。

してみれば、上記(2)のとおり、被請求人は、腕時計に使用される引用標章の存在を知りながら、周知性を獲得している引用標章に化体した請求人等の顧客吸引力を利用して自己の商品の販売を行うという不正の目的をもって本件商標を登録出願したものとみるのが相当である。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。

(4)商標法第4条第1項第第7号の該当性について

本件商標は、上記(3)のとおり、引用標章と実質的に同一商標ということができる。

してみれば、被請求人は、腕時計に使用される引用標章の存在を知りながら、引用標章が我が国において商標登録がされていないことを奇貨として、引用標章と実質的に同一の本件商標を、請求人の承諾を得ずに登録出願し、登録を受けたものといわざるを得ず、本件商標の登録出願には著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることは、商取引の秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものであって、公の秩序を害するものといわなければならない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。

(5)商標法第4条第1項第第10号の該当性について

本件商標は、上記(3)のとおり、引用標章と実質的に同一商標ということができる。

また、本件商標の指定商品「時計」は、請求人の使用に係る商品「腕時計」と同一又は類似の商品と認められる。

してみれば、本件商標は、上記(2)のとおり、腕時計を表示するものとして、本件商標の登録出願前より使用され、本件商標の登録査定時には、我が国における少なくも腕時計の取引者、需要者の間において、周知性を獲得していたと認められる引用標章と実質的に同一商標といえるものであって、その請求人の使用に係る商品に同一又は類似する商品について使用するものと認められる。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。

(6)商標法第4条第1項第第15号の該当性について

本件商標は、引用標章と実質的に同一商標ということができるものであって、引用標章が腕時計を表示するものとして、本件商標の登録査定時には、我が国における少なくも腕時計の取引者、需要者の間において、周知性を獲得していたと認められるものであるから、本件商標をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者が引用標章を印象、連想、想起するというべきであり、該商品が請求人等又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同するおそれがあるものといわなければならない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

(7)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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