Trademark Appeal Case
著名人名の商標登録と公序良俗
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 不服2006−18265(T2006−18265/J1) |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
第1 本願商標
本願商標は、「金子 みすず」の文字を書してなり、第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,ビール製造用ホップエキス,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」を指定商品として、平成17年10月3日に登録出願されたものである。その後、指定商品については、平成18年6月19日付け提出の手続補正書により、第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,ビール製造用ホップエキス」に補正されたものである。
第2 原査定の拒絶の理由の要旨
原査定は、「本願商標は、『金子 みすず』の文字を書してなるものであるところ、これは大正時代の童謡詩人『金子みすゞ』を容易に認識させるものであって、その作品は今では小学校の国語の教科書に掲載されており、また、同詩人に関する『金子みすゞ記念館』(山口県長門市仙崎字西祇園1308)は、郷土の文化として山口県長門市によって運営されているところであるから、このようなものを商取引に使用する商標として、何ら関係のない出願人に商標登録を認めることは妥当でなく、本願商標は、同詩人の著名性に便乗する行為であって、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するおそれがある商標に該当するものといわざるを得ない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
第3 当審の判断
1.商標法第4条第1項第7号について
(1)商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、商標の構成自体が、きょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれると解するのが相当である。
(2)そして、他人が築きあげた著名性を有する標章と同一又は類似の商標であって、その著名性にフリーライドすることや、その著名性や名声を希釈、毀損することなど不正の目的をもって出願したものは、社会公共の利益に反し又は社会の一般的道徳観念に反するというべきである。
つぎに、上記の観点を踏まえて、本件について検討する。
2.「金子みすず」について
本願商標は、「金子みすず」の文字を書してなるものであるが、別掲の新聞記事情報及びウエブ情報によれば、以下の事実が認められる。
(1)別掲(オ)によれば、「『金子みすゞ』は、山口県大津郡仙崎村(現・長門市仙崎)出身で、本名は金子テルという。山口県立深川高等女学校(現・山口県立大津高等学校)卒業。大正末期から昭和初期にかけて、26歳の若さでこの世を去るまでに512編もの詩を綴ったとされる。1923年(大正12年)9月に『童話』『婦人倶楽部』『婦人画報』『金の星』の4誌に一斉に詩が掲載され、西条八十から『若き童謡詩人の中の巨星』と賞賛された」ことが記載されている。
(2)同(イ)によれば、「著者としての表記は『金子みすゞ』であるが、旧仮名遣いの『ゞ』には(ず)とルビを振って使用する場合がある。」及び「金子みすゞの詩は、すべての小学国語の教科書に採用されています」旨等が記載されている。
同じく、「金子みすず」の「関連作品」では、「2001年、紀伊國屋書店により、金子みすゞの生涯を描いた映画『みすゞ』が制作され(監督:五十嵐匠)、田中美里がみすゞ役を演じた。また、荒木経惟によるメモリアル写真集も同時出版された。
* TBSが特別ドラマ『明るいほうへ明るいほうへ−童謡詩人金子みすゞ』で金子みすゞの人生を描き、2001年8月27日に月曜ミステリー劇場の時間帯に放送され、松たか子が金子みすゞの役を演じた。松たか子がドラマで着た着物の一着は、2004年に松屋百貨店銀座店が金子みすゞをめぐる展示会を開いた際に展示された。」等が記載されている。
(3)別掲(エ)によれば、「『癒し』がブームとなっている今、山口・長門市仙崎地区が熱い視線を集めている。同地区は、幻の童謡詩人といわれた金子みすゞの生誕地で、20歳まで過ごした。『やさしさの中にも寂しさがある』といわれる作品の『原風景』を見ようと、年々訪れる人が増えてきている。生誕100周年を迎える平成15年4月11日には、生誕跡地に『金子みすゞ記念館』がオープンする。記念式典やイベントも予定され、三方を囲まれた小さな町は沸き立っている。」旨記載されている。また、同じく、「50年ぶりに『みすゞ七夕まつり』として98年に復活。」の旨が記載されている。
(4)同(カ)、(ク)及び(ケ)によれば、上記「金子みすゞ記念館」は、「童謡詩人である金子みすゞに関する資料を展示し、『るるぶ』の観光案内のサイトでも紹介され、平成15年4月長門市仙崎の中央に金子みすゞ記念館が開館し、開館後約2年間で35万人弱の方が仙崎みすゞ通りを訪れている。」旨が記載されている。
(5)同(ク)によれば、「金子みすゞ記念館」を「金子みすゞの実家跡に『金子文英堂』を再現し、当時のみすゞの生活をうかがうことができる。本館では、みすゞの作品と生涯を中心に展示し、みすゞの世界の魅力を分かりやすく紹介している。」と記載されている。
(6)同(キ)によれば、「みすゞこれくしょん」(http://www.misuzu-charagoods.jp/product/165)では、「金子みすず(みすゞ)さんの詩の世界をイメージしたキャラクター『みすゞこれくしょん』のギフトセットにしました」との記載及び同(エ)によれば、「長門市仙崎地区のイチ押し土産は『仙崎かまぼこ』だ。創業121年の老舗『大市蒲鉾』では『みすゞの里』(1個350円)などを販売している。同社はもともと金子家の隣にあったそうだ。『仙崎かまぼこの特長は板側から火をあて、じっくりと焼き上げているところです』と同社の桂永(よしなが)嘉士さん(43)は話してくれた。魚の風味がよく出る製法だが、手間ひまもかかる。『めんたいちくわ』(1個500円)も人気。桂永さんは「これから『みすゞシリーズ』を増やしていきますよ」とアピールした」と記載されている。
3.上記(1)ないし(6)の事実よりすれば、本願商標は、小学校の教科書に掲載されている詩人としての人名に留まらず、生誕の地(長門市仙崎市)では、今なお敬愛されていることが認められる。
そして、仙崎市では金子みすゞの遺族の同意を得て金子みすゞ記念館を設立し、仙崎駅からこの記念館に至るまでのみすゞ通り周辺地域の活性化を図っている。地域の商店街では「金子みすゞ」に因んだ商品を製造、販売に努めていることが認められる。
4.そうとすれば、「金子みすず」の文字を書してなる本願商標を、同人と何ら関係もない請求人(出願人)が、その指定商品について私的独占使用の目的をもって採択し、これを商標として登録することは、みすゞ記念館及びみすゞ通り周辺の土産物店による「金子みすゞ」の標章の使用を困難又は不可能にするだけでなく、商標権を巡る争いなど無用の混乱を招くおそれがあり、公正な競合秩序を害するおそれがあるから、これは社会公共の利益に反し、また、社会の一般的道徳観念に反するものというのが相当である。
したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって、取り消すべきでない。
なお、請求人は、登録例を挙げて、本願商標も登録されるべき旨主張するが、そもそも具体的事案の判断は、過去の審査例等の判断に拘束されることなく検討されるべきものであって、本願商標については前記認定のとおりであるから、請求人の主張は採用することができない。
よって、結論のとおり審決する。
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