sokuhyo

Trademark Appeal Case

著名商標との混同

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2007−890069(T2007−890069/J3)
審判種別無効
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

登録第4803448号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第4803488号商標(以下、「本件商標」という。)は、「ミューボトック」及び「MuBOTOK」の文字を上下二段に横書きしてなり、平成16年1月30日に登録出願、第3類「化粧品」を指定商品として、同年9月17日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張

請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第59号証を提出した。

1 本件商標を無効とすべき根拠

本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項(審決注:請求人は、審判請求書において、商標法第43条の2第1号を請求の理由としているが、上記請求書の全趣旨から、商標法第43条の2第1号は、同法第46条第1項の誤記と認める。)により、本件商標の登録は取り消されるべきである。

2 商標法第4条第1項第15号について

(1)請求人について

(ア)請求人である「アラーガンインコーポレイテッド」は、医療用医薬品メーカーとして世界的に周知かつ著名な存在である。

請求人の歴史は、1948年に世界有数の製薬会社であった「スミスクライン ベツクマン」の子会社として設立されたことに始まる。

そして、1989年に、「スミスクライン ベツクマン」が「ビーチヤム グループ」と合併して世界最大級の製薬グループ「スミスクライン ビーチヤム ピーエルシー」が設立された際に、株式分配により親会社から分離独立した(甲第2号証ないし甲第5号証)。

請求人は、2002年には、コンタクトレンズ関連製品と眼科医療機器の製造・販売部門を分離し、「アドバンスド メディカル オプティクス インコーポレイテッド」として分社した。

請求人は、「スミスクライン ベツクマン」の子会社当時から、神経や筋肉の障害治療用の薬品や眼科用薬品、眼鏡レンズ等に特化した事業を世界的規模で展開し、当該分野における主要企業の一角を占めるようになっていた。

分離独立した以降もその業績は順調に成長し、1989年度に8億700万米ドルだった売上高は、1996年度には11億4700万米ドルになり、2003年度には17億5500万米ドルに達している(甲第6号証)。

請求人の製品は、100カ国以上で販売され、33カ国に子会社や関連会社をおき、また世界最高水準の研究施設を4カ所に設け、世界中の顧客に商品を提供し続けている。

そして、請求人が現在製造・販売している商品は、神経や筋肉の障害の治療用薬品をはじめとした医療用薬品全般に及んでいることから、医療関係者だけでなく広く一般人をもその需要者としている。

このように、請求人は、世界的な規模で事業を展開する製薬企業であり、特に神経や筋肉の障害の治療用薬品及びその周辺・関連分野においては世界有数の規模を誇る存在となっており、世界中で広く一般にその存在を知悉されている。

(イ)請求人は、わが国においても、1973年に「参天製薬株式会社」を通じて眼科用薬品及びコンタクトレンズ用品の販売を開始したが、その製品の優秀さから瞬く間にわが国の市場において有力な存在となり、わが国に進出してからわずか3年後の1976年に、「参天製薬株式会社」との合弁企業である「参天アラガン株式会社」を設立するに至った。

その後も業績は順調に伸び続け、1985年には新たに「株式会社ハンフリー インスツルメンツ エス・ケー・ビー」をも設立し、1992年にはその社名を「アラガン株式会社」に変更した。

1996年には、「アラガン株式会社」が「参天アラガン株式会社」を統合して新たな「アラガン株式会社」となり、その業務の効率化を図ると共に一層の事業拡大を図った。

2002年には、請求人が「アドバンスド メディカル オプティクス インコーポレイテッド社」を分社したことに伴って、コンタクトレンズ関連製品と眼科医療機器の製造・販売部門を「エイエムオー・ジャパン株式会社」として分社した(甲第7号証)。

「アラガン株式会社」は医療用薬品の製造・販売企業としてわが国の当該市場において確固たる地位を築き、特に神経や筋肉の障害の治療用薬品及びその周辺・関連分野においては極めて重要な存在となった。

今日においては、請求人と事業提携した英国の「グラクソ・スミスクライン社」の関連会社である「グラクソ・スミスクライン株式会社」が請求人製造の「A型ボツリヌス毒素治療薬」にかかる営業を「アラガン株式会社」から承継して、継続して販売している。

これらの事実に鑑みると、請求人の存在及びその商品は、わが国においても遅くとも1990年代初頭には一般の需要者・取引者の間で広く知られていたということができる。

(2)請求人の商標「BOTOX」「ボトックス」について

(ア)請求人は、商品の改良や需要者の声に耳を傾けることを怠らず、常により良い商品の開発・販売を志向しており、そのような姿勢もまた、広く知られている。

そして、研究開発にも多額の投資を行っており、その開発力が極めて優秀であることも広く知られている。

特に、分社以前に手がけていた視力矯正等に関連する眼科関連薬品・製品は生活に深く密着し、需要者にとって必要性も高い分野であったことから、請求人の動向に寄せる一般の関心も高かった。

さらに、神経や筋肉の障害は、顔面麻痺等の症状にみられるように老若男女を問うことなく生じるものであり、その症状の大小はあるものの、わが国においても罹患している人はかなり多数存在している。

したがって、請求人が新たに発売する商品の動向は常に注視されており、新商品はいずれも発売と同時に医療関係者及び需要者の間に広く知れ渡っている。

1989年、請求人は、眼瞼の痙攣等の顔面痙攣症状を治療するための画期的な商品を開発し、アメリカ合衆国において承認を得た。

この商品は、ボツリヌス毒素を有効成分とする薬剤であり、直接注射して患部に投与するという方法で使用され、筋肉を弛緩することによって患部の痙攣状態を解くという効果をもたらすものであった(甲第8号証)。

そして、当該商品は、その有効成分の特異性もさることながら、何よりもその絶大な効果によって瞬く間に医療関係者の間に知れ渡っていった。

この商品の商品名として請求人が創作し採用したのが商標「BOTOX」である。

これは、ボツリヌス毒素(botulinum toxin)に由来するものであることを取り入れつつも、簡潔でかつ訴求性の高い商標として吟味を重ねた上に創造された、請求人による全くの造語であり、如何なる辞書等にも掲載されていない語である。

前述のとおり「BOTOX」は、1989年にアメリカ合衆国で承認されて以来、世界各国で続々と承認されていき、1995年1月末迄に37カ国で、2003年までに70カ国以上で承認されるに至っている(甲第9号証及び甲第10号証)。

(イ)「BOTOX」は、その絶大な効果により、発売開始と同時に大ヒット商品となり、請求人の代表ブランドの一つとして位置付けられるようになり、その売上高が全体の売上高に占める割合も段々と高くなっていき、1996年には約6%であったものが、2003年には約31%を占めるまでになっている(甲第3号証及び甲第7号証)。

わが国においては、「BOTOX」は1995年2月に当時の厚生省により承認され、1997年4月15日から市場において販売が開始された。

以下が、「BOTOX」の全世界における1998年から 2005年までの売上額及び我が国における1997年から2005年までの売上額である(甲第11号証)。

全世界における売上額(日本を含む)

1998年 1億2500万ドル

1999年 1億7600万ドル

2000年 2億4000万ドル

2001年 3億1000万ドル

2002年 4億4000万ドル

2003年 5億6400万ドル

2004年 7億 500万ドル

2005年 8億4000万ドル

日本国内における売上額

1997年 1億5800万円

1998年 3億8700万円

1999年 7億 300万円

2000年 12億 100万円

2001年 20億9000万円

2002年 31億1200万円

2003年 36億3200万円

2004年 40億7000万円

2005年 46億4500万円

すなわち、本件商標の登録出願が行われた平成16年(2004年)の前年だけでも、全世界での売上は5億6400万ドル、我が国での売上は36億3200万円にも上っているのである。

また、その使用医療機関や主要顧客も、全国各地の大学病院や総合病院等2500あまりの施設に及んでいる(甲第12号証)。

さらに、「BOTOX」は、本来の眼瞼や顔面の痙攣、痙性斜頸等の治療に用いられるだけでなく、筋弛緩作用の応用によりしわやたるみの除去などの美容整形にも適応することが判明した。

その結果、一般の美容整形目的でも使用されるようになり、美容整形ブームとも相俟って一種の社会現象を巻き起こすまでに至り、それによって一層広く一般に、とりわけ女性に知悉された存在となった。

現に、アメリカ合衆国についてみると、2003年には全米でおよそ643万2000件行われた非外科手術的方法による美容整形のなかで、「BOTOX」が使用されたのはおよそ227万2000件に達しており、これは他を圧倒して非外科手術的方法による美容整形の第1位を占めている(甲第13号証)。

しかも、この件数は前年に比して約37%の伸び率を示しているのであり、今後なお一層「BOTOX」を使用した非外科手術的方法による美容整形の件数が増加することが予想されている(甲第13号証)。

(ウ)「BOTOX」「ボトックス」については、医療専門誌紙はもとより、一般の各種媒体でも取り上げられており、また、インターネットの検索によっても数多くのサイトが抽出される(甲第14号証ないし甲第23号証)。

インターネット上のサイトのほとんどは、請求人が直接開設するものではないが、その多数を占めている美容整形に関するサイトにおいては、「BOTOX」「ボトックス」のもたらす驚異的な効果について記載されている。

甲第24号証ないし同第26号証は、現在我が国で「BOTOX」に係る商品の輸入販売を行っている「グラクソ・スミスクライン株式会社」の経営企画部長である本田昭彦氏が作成した「BOTOX」に係る商品の「新聞記事に基づく報告書」「新聞・雑誌以外の文献に基づく報告書」及び「販売資料報告書」である。

これらのいずれの媒体においても、「BOTOX」「ボトックス」が固有特定の商品名として摘示されており、また当然ながら記載される際には「ボトックス」が表音として普通に使用されている。

(エ)以上のような請求人の精力的な企業活動及び努力の結果、さらには商品の優秀性により、「BOTOX」「ボトックス」の語は、請求人の商標として、本件商標の出願日である平成16年1月30日のはるか以前からわが国はもとより世界中で、「米国アラガン社」が製造し、「アラガン株式会社」又は「グラスソ・スミスクライン株式会社」が日本で輸入販売している医療用ないし美容外科用医薬品の商標として、全国各地の需要者・取引者を始め広く一般人の間に知悉された、極めて周知かつ著名なものとなっていたことは明らかである。

しかも、「BOTOX」「ボトックス」は上述のとおり完全な造語であり、請求人の製造・販売に係る商品を指称する以外に使用されることのない語であるから、これが商品や役務に使用された場合、「BOTOX」「ボトックス」は極めて強い指標力で請求人との関連を表示する。

したがって、ある商品に「BOTOX」「ボトックス」の語が使用されている場合、現実の商品流通・取引の場で需要者あるいは取引者として「BOTOX」の語に接する者は誰でも、それを請求人の商標であると認識するのであり、それ以外の認識を生じる余地はない。

(オ)さらに、他の異議申立事件(異議2004−90287号)においても、請求人の「BOTOX/ボトックス」は、請求人の取り扱いに係る「眼瞼痙攣治療薬」を表示するものとして其の異議申立事件にかかる商標の登録日(平成15年7月10日)にはその需要者に広く認識されていた旨が認定されている(甲第27号)。

(カ)また、他者が出願した商標登録出願(商願2006−1861号)について、その商標登録出願に対する拒絶理由通知の中で、請求人の商標「BOTOX」「ボトックス」は、請求人の商品「神経筋治療薬」等に使用して広く一般に知られている旨が述べられ、これを根拠として当該商標は商標法第4条第1項第15号に該当するとして拒絶されている(甲第28号証ないし甲第30号証)。

(3)本件商標と請求人の著名商標との類似性

(ア)外観における類似性

本件商標を構成する英文字部分「MuBOTOK」と請求人の著名商標「BOTOX」を対比すると、以下のとおりである。

まず、本件商標の語頭にある英文字「Mu」は、大文字及び小文字からなるから、本件商標は「Mu」と「BOTOK」からなる商標と認識される。

したがって、本件商標の「Mu」と「BOTOK」は外観上分離して認識され、しかも「BOTOK」がその構成の大半を占めるから、需要者、取引者は、特に、「BOTOK」の部分に強く印象付けられる。

しかして、本件商標中「BOTOK」と請求人の著名商標「BOTOX」とは最後の文字である「K」が異なるのみで、5文字中前半の「BOTO」の4文字までを共通にする。しかも、これらうち相違する語尾の文字「K」と「X」も外観上やや近似した文字である。

したがって、本件商標は請求人の著名商標「BOTOX」と外観上極めて近似するものである。

さらに「BOTOX」は、請求人が創造した造語であるから、他に存在しない言葉であるばかりでなく、「BOTOX」は請求人の著名商標であるから、これを構成する文字及び配列について需要者、取引者は強く印象付けられている。

しかも、後述するように、本件商標が使用されている商品は、請求人の著名商標が使用されている商品と近似した目的の商品である。

したがって、時と所を変えて本件商標に接する者は、本件商標中「BOTOK」に特に印象付けられる。

この際、5文字中4文字までを共通にし、わずか1文字しか相違しない程度では、需要者、取引者は、本件商標を請求人の商標「BOTOX」との相違をただちに認識することはできないから、これを請求人の著名商標「BOTOX」と誤認する可能性が極めて高いというべきである。

よって、本件商標と請求人の著名商標「BOTOX」は外観上類似する商標である。

(イ)称呼における類似性

(a)本件商標は「ミューボトック」及び「MuBOTOK」の文字を上下二段に横書きしてなるものであるから、その構成に照応して「ミューボトック」という 5音の称呼が生ずる一方、単なる「ボトック」の称呼も生ずるものである。

本件商標は、その構成中の欧文字部分の前半は「Mu」のように「M」は大文字で「u」は小文字となっているの対し、これに続く「BOTOK」は全ての文字が大文字の構成からなる。

これは、本願商標が「Mu」と「BOTOK」の2語からなる言葉であることを示すのでものであり「BOTOK」の全ての文字を大文字にすることにより「BOTOK」を際立たせているのである。

したがって、本件商標に接するものは「BOTOK」に特に注意を引かれ、これを前半部の「Mu」と外観上分離して認識する。

さらに、5音というのは称呼として冗長とは言えないまでも常に一気に一息で称呼されるというにはやや長い音数であり、一語からなる固有特定の単語であれば格別、それ以外の語の場合には敢えてこれを常に一息で称呼する必然性はない。

しかも、請求人の「BOTOX」「ボトックス」の著名性及び本件商標が使用される商品に鑑みれば、本件商標から生じる称呼に接する者が、「ミューボトック」 中の「ボトック」に強く印象付けられることは明らかである。

加えて、商標権者は「目の周囲に塗布して目の周囲を若返らせる効果を有する化粧品「ミューボトック/MwBotok」を製造し、これをDr.トーム美容医学研究所により販売している(甲第31号証及び甲第32号証)。

しかして、当該商品はインターネットを通じて販売されており、当該商品の広告において目の周囲は「ミューゾーン(MWゾーン)」と呼ばれている。

インターネットで検索したところ、「ミュー/MWゾーン」は形成外科医の白澤友裕氏が、登録第4692097号により、第3類「化粧品、せっけん」等、第44類「医業等」を指定商品・役務として商標登録を受けているが、同氏は「目の周囲のエイジンゾーン」を「MW(ミュー)ゾーン」と一般に呼んでいる。

しかして、本件商標の使用に係る商品は、Dr.トーム美容医学研究所が発売元となっており、Dr.トームは、上記登録第4692097号の商標権者である白澤友裕の愛称のようである(甲第34号証及び甲第37号証)。

したがって、いかなる理由で本件商標中の前半部のローマ字を「Mu」としたかは定かではないが、片仮名文字を「ミュー」としたことから、本件商標の商標権者及び当該商品の販売者は、本件商標中「ミュー」を「目の周囲」の意味で使用していることは明らかである。

現実にも当該商品の広告で目の周囲のことをミューゾーンと呼び、しかも上記「MWBotok/ミューボトック」にかかる商品は、目の周囲を若々しく印象付けるために目の周囲に塗布して使用する化粧品である(甲第33号証)。

してみれば、本件商標中「ミュー」は、登録された商標であるとはいえ、現実の使用においては商品の用途、すなわち、「目の周り」を示す言葉として使用されており、その結果、本件商標は、「ミューゾーン」すなわち「目の周囲」に使用する「ボトック」の意味で容易に認識される。

したがって、本件商標の主要部は「BOTOK/ボトック」であるから、これに接する需要者、取引者はこれを単に「ボトック」と称呼する可能性があり、さらに、「ボトック」に特に印象付けられる、というべきである。

(b)そこで、本件商標から生じる称呼と請求人の著名商標「BOTOX」から生じる称呼を比較すると、本件商標から自然に生じ、かつ強く印象付けられる称呼「ボトック」は、請求人の著名商標「ボトックス」と語尾音における「ス」の音の有無のみを異にするにすぎない。

まず、「ス」は、「舌端を前硬ロ蓋に寄せて発する無声摩擦子音「s」と母音「u」との結合した音節であり、こもりがちに発音され、これ自体本来的に弱く発音される音である。

さらに、この相違音「ス」の有無という差異は、称呼においてそれほど重要ではなく印象的とも言い難い語尾音におけるものであることから、重要で印象的である語頭部や語尾部における音の有無と異なり、聴者にとって明確に意識され認識される差異ではない。

審決例においても、「ピックス」と「ピック/PICK」、「UNIX(ユニックス)」と「ユニック」を始め、両称呼の差異が語尾音の「ス」の有無に過ぎない商標を類似と判断した審決例は極めて多数存在する(甲第38号証)。

ここに明らかなように、称呼の語尾部における「ス」の音の有無という差異は、称呼全体の語調及び語感に与える影響が少なく、一般人にとって聴別し難い差異と判断されている。

本件商標から生じる称呼と請求人の著名商標から生じる称呼の中、語尾における「ス」の音の有無についても、上記審決例と判断を異にすべき特段の事情は存在しない。

しかも、両称呼は、語頭部分の「ボトック」まで共通にしており、中間部に促音「ッ」を含んでいるという構成上の特徴も共通にしている。

以上のような、両称呼の微少な差異とその一方での共通性の高さに鑑みると、本件商標から生じる称呼「ボトック」と、請求人の著名商標から自然に生じる称呼「ボトックス」を、聴者において明確に聴別して認識することは極めて困難というべきである。

以上より、本件商標と本件商標に接する一般の需要者及び取引者は、それを請求人の著名商標「BOTOX/ボトックス」と称呼において混同して認識するものであるから、これらの商標は称呼上類似するか、極めて近似した称呼を生じる商標である。

よって、本件商標と請求人の著名商標「BOTOX」は称呼上類似する商標である。

(4)出所の混同の可能性

(ア)既述のとおり、「BOTOX」は請求人の著名な商標であるから、本件商標は請求人の「BOTOX」と外観及び観念において類似するか、極めて近似した商標である。

したがって、本件商標に接する一般の需要者及び取引者は、そこから容易に、かつほぼ確実に、わが国はもとより世界において周知著名で強い自他商品識別力を有する請求人の商標である「BOTOX」を認識する。

現実に、商標権者の製造に係る前記商品のインターネットにおける広告において、かつては「ミューボトックは、プチ整形の中でも最も人気のあるボトック注射のような ・・・」と、記述されていた(甲第33号証)。

当該文言中の「ボトック注射」とは、請求人の「ボトックス注射」を意味するものであり、当該商品の販売者まで、現実に「ボトック」と「ボトックス」を混同していたのである。

なお、現在の当該商品の広告においては「ボトックス注射」の文言が使用されているが、いずれにせよ「ボトック」と「ボトックス」が紛らわしいものであることは疑いない。

したがって、本件商標は、請求人の使用する著名商標である「BOTOX」と何らかの関連性を持って認識されることが不可避のものである。

(イ)そして、請求人の製造・販売に係る商品の需要者層は、前述のとおり神経や筋肉の障害が老若男女を問うことなく生じるものであることから、極めて幅広く、医療関係者等のみに限定されることはない。

また、「BOTOX」商標を付した商品は美容整形の分野においても一大ヒット商品となっており、当該分野の需要者及びそれに関心を寄せる層は、近年の「プチ整形」ブームに端的に現れているように、いまや一部の女性に限らず、性別・年齢を問わなくなっている。

さらに、請求人商品に関する宣伝広告は、一般の各種媒体を通じて展開され、生活の各場面でそれらに接する機会は数限りない。

特に、本件商標の指定商品は「化粧品」であるところ、これらの商品はまさしく「BOTOX」商標を付した商品と近似した商品である。

しかも、本件商標の使用にかかる商品は「筋肉の弛緩作用があり表情シワを軽減するという効果を有する、目の周囲に塗布して使用する美容液」であり、化粧品と薬剤の違いはあっても用途は同じである。

さらに、本件商標に係る商品は、現実にも美容整形外科医院のホームポージに掲載され販売されている(甲第37第証)。

したがって、本件商標の指定商品の需要者層は、全て請求人の需要者これらの人々と重なり合い包含されている。

以上の実情を勘案すると、本件商標と請求人の著名商標「BOTOX」が一般の需要者・取引者において混同して認識される可能性が極めて高いことは、合理的かつ明白な事実というべきである。

さらに、前述したように、本件商標の使用に係る商品の宣伝文句には「ボトックス注射のように目元の若返りを実感」と述べられ、その結果、これに接する者は、「注射をすることなく、目元に塗るだけで目元を若返えさせる新しいタイプのボトックス」といったように認識することは明らかである。

しかも、本件商標中「BOTOK」は、請求人の著名商標「BOTOX」の語尾の文字「X」を「K」にお置き換えたに過ぎないものである。

すなわち、これは、「BOTOX」と語尾において異なる文字を使用することにより請求人の著名な「BOTOX」のイメージを利用していることは明らかである。

したがって、本件商標の構成、本件商標が現実に使用されている商品、商品の宣伝、広告に鑑みれば、本件商標権者は、「BOTOX」 「ボトックス」の有する顧客吸引力を不当に利用して、利益をあげようとしていることは疑いない。

(ウ)請求人は自己のブランドイメージを維持し、より一層の発展をさせるため、世界中で展開するあらゆる事業においてその製造に係る商品について厳重な品質管理を行っている。

「BOTOX」にかかる商品は、1998年から2005年までの間に全世界で総額34億ドルを売上げ、我が国だけでも1997年から2005年までに193億500万円もの売上げを上げているのである(甲第11証)。

さらに、現に請求人は「BOTOX」からなる商標を世界各国で出願し、160件を超える登録を得ている(甲第31号証、甲第40号証ないし甲第58号証)。

すなわち、商標「BOTOX」は、請求人に係る商品を表示するものとして、わが国はもとより世界中で一般の需要者・取引者の間に広く認識されている著名商標であり、請求人の提供する商品に係る絶大な信用が化体した重要な財産である。

したがって、万が一、本件商標の登録が維持されると、請求人と何ら関係のない者により、請求人の意図と無関係に、請求人が現にその商標を付して使用している商品とその需要者層等を同一にする商品について、商標「BOTOX」と極めて近似する類似商標である本件商標が自由に使用されてしまうことになり、その結果として劣悪な品質の商品が請求人の「BOTOX」と類似する商標によって提供されるという事態が生じ得ることも否定できない。

このような事態が生じた場合、請求人が永年にわたり多大な努力を費やして培ってきた「BOTOX」のブランドイメージは著しく毀損され、請求人が多大な損害を被ることは明白である。かかる見地からも本件商標の登録が維持されるべきではない。

(5)以上より、本件商標がその指定商品について使用された場合には、当該商品は、請求人の業務に係る商品であるかのごとく認識され、あるいは請求人と経済的又は組織的・人的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく誤認され、その出所について混同を生じるおそれのあることは明らかである。

よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものである。

3 商標法第4条第1項第19号について

(1)商標「BOTOX」は、請求人の製造・販売に係る商品を表示するものとして、わが国において一般の需要者・取引者の間に広く認識されている著名商標であり、請求人の提供する商品に係る絶大な信用が化体した重要な財産である。

本件商標は、上述のように著名商標と明らかに類似するにもかかわらず、請求人の同意を得ることなく無断で登録されたものである。

さらに、本件商標の使用に係る商品の宣伝文句には「クリニックで人気のボトック注射のように目元の若返りを実感」とか「ミューボトックは、プチ整形の中でも最も人気のあるボトック注射のような若返り効果を手軽に実感することができます」というように(甲第33号証)、明らかに、請求人の「ボトックス」を「ボトック」と自ら混同して本件商標に係る商品を宣伝広告して販売していたのである。

商標権者は、その会社の内容を「美容全般規格開発・各種商品企画OEM(オリジナル)・化粧品製造販売としている者であること(甲第59号証)、「BOTOX」が神経や筋肉の障害の治療用薬品としても、美容整形の分野においても、共に広く使用され絶大な人気を博するものとなっていたこと、しかも本件商標に係る商品の販売に際して、前述のような宣伝文句を用いていることからして、商標権者は、請求人の著名な商品及び商標「BOTOX」 「ボトックス」の存在について当然熟知している者である。

したがって、「BOTOX」に類似する本件商標が単に偶然に構成されたものであるとは、到底いい得ない。

それにもかかわらず、商標権者は「BOTOX」「ボトックス」の称呼に類似する本件商標を出願し登録を得たのであり、しかも前述の宣伝文句を広告上で使用していたことは、明らかに請求人の商標「BOTOX」「ボトックス」が有する著名性を不当に利用し、本件商標が、「BOTOX」「ボトックス」と混同を生じ、かつその著名性に乗じようとしていることを、商標権者が自認していることを示すに他ならない。

換言すれば、商標権者は、請求人の著名商標「BOTOX」が名声、信用を有することを十二分に理解し認識した上でそれにあやからんとし、「BOTOX」が持つ強い顧客誘因力を利用することを目的として、「BOTOX」の語尾音を「K」とわずかに変形させたに過ぎない本件商標を創作したというべきである。

「BOTOK」を特に際立たせた本件商標の構成及び本件商標が使用される商品、さらに本件商標を付した商品の販売に関するこれらの記載に鑑みれば、商標権者が著名商標「BOTOX」の名声、信用、顧客誘因力に乗じて不当な利益を得るという、極めて悪質な意図を有して本件商標を出願し、登録を得て使用していることは間違いない。

このような商標の登録が維持され使用を認容するということは、不正な目的を持った商標権者による不当な商標の独占的な使用を放置することになり、到底許されるべきものではない。

(2)したがって、本件商標は、わが国における公正な商取引秩序を害し、信義則に反するものであるから、上記商標に化体した請求人の信用・名声・顧客誘因力等に内在する計り知れない価値を毀損するおそれのあることは、疑う余地がない。

すなわち、本件商標はそのような不正な目的をもって登録されたものである。

かかる目的を持った本件商標について、その登録・使用を認めることは、著名商標についてのいわゆる“ただ乗り”行為を是認することとなり、商標法及び産業財産権法上の秩序を乱すという問題のみならず、社会経済上の一般的秩序を乱すものであるというべきである。

よって、本件商標は商標法第4条第1項第19号の規定に違反して登録されたものである。

4 むすび

以上述べたように、本件商標がその指定商品に使用された場合、一般の需要者・取引者において請求人の業務に係る商品との間に商品の出所について誤認・混同を生じるおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

さらに、本件商標は公正な取引秩序を害し不正な目的をもって使用されるものであるから商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。

したがって、本件商標登録は商標法第46条第1項の規定により取り消されるべきである。

第3 被請求人の主張

被請求人は、答弁していない。

第4 当審の判断

1 請求の全趣旨及び証拠によれば、以下の事実が認められる。

請求人は、1989年に眼瞼の痙攣等の顔面痙攣症状を治療するための商品を開発し、アメリカ合衆国において承認を得た。その後、当該医薬品は、1995年までに37ケ国、2003年までには70ケ国で承認されるに至っている(甲第9号証及び同第10号証)。ちなみに、我が国では1995年2月に承認がされた。

この商品は、ボツリヌス毒素を有効成分とする薬剤であり、直接注射して患部に投与するという方法で使用され、筋肉を弛緩することによって患部の痙攣状態を解くという効果をもたらすものである(甲第8号証)。

そして、この商品には、商標「BOTOX」が採択・使用され、当該商品は、有効成分の特異性もあり、また、その絶大な効果によって瞬く間に医療関係者の間に知れ渡っていった。

我が国において、請求人は、その業務に係る商品「眼瞼痙攣治療剤(A型ボツリヌス毒素製剤)」について、「ボトックス」及び「BOTOX」からなる商標(以下、これらを併せ、あるいは、それぞれを「引用商標」という。)を使用して、1997年4月より販売を開始している(甲第8号証)。

その発売の前後から本件商標の登録時に至る間に、上記「BOTOX(ボトックス)」について、「日刊薬業」「薬事日報」の業界新聞はじめとして「日本美容外科学会会報」「臨床麻酔」ほかの医業関係誌、「日本経済新聞」ほかの一般全国紙や「週刊朝日」「女性セブン」ほかの週刊誌や、「暮らしと健康」「財界」ほかの月刊誌を含む多数の各種雑誌等において、多くの特集記事を含めて継続的に採り上げられた(甲第14号証ないし同第19号証、甲第24号証の添付資料1ないし161、甲第25号証及び同第26号証の添付資料1ないし102)。

また、請求人は、医業関係誌に当該商品についての宣伝広告を掲載した(甲第20号証及び同第21号証)。

上記「BOTOX(ボトックス)」商品は、全国各地の大学付属病院や総合病院等の2000の医療機関が主な顧客であり(甲第12号証)、その売上額は、本件商標の出願の前年だけをみても、全世界で5億6400万ドル、我が国に限っても、36億3200万円に上るものである(甲第11号証)。

さらに、上記商品は、美容整形において適応するものとされ、「ボトックス注射」「ボトックス注」などとして美容医学や美容に係わる分野においても浸透していることが認められる(甲第13号証、甲第26号証の添付資料9及び13ほか)。

以上よりすれば、引用商標は、本件商標の登録時はもとよりその出願時には既に、請求人の業務に係る商品を表示する商標として、我が国の取引者・需要者の間で広く認識されるに至っていたものというべきである。

2 本件商標は、「ミューボトック」及び「MuBOTOK」の文字を上下二段に横書きしてなるところ、これら片仮名文字及び欧文字については、いずれも、常に不可分一体のものとしてのみ認識されるとすべき特段の理由はみいだせない。

そして、「MuBOTOK」の文字部分にあって「Mu」の「u」が小文字であり、後続の「BOTOK」が全て大文字綴りであることから、両者は視覚上分離して看取し得るものである。

さらに、美容に係わる分野において、目の周囲を指す語として「ミューゾーン」「MW(ミュー)ゾーン」等が使われている実情がある(甲第33号証、甲第34号証、甲第36号証及び甲第37号証)ことからすれば、本件商標の「Mu」「ミュー」の部分をして、目の周囲に関わりのあるものとして看取される場合も少なくないというべきである。

したがって、本件商標の構成態様及び上記実情を併せみれば、本件商標にあって、殊に目の周辺に関わりをもつ商品との関係においては、「BOTOK」「ボトック」の部分に強く印象を留めて取引にあたる場合も決して少なくないというのが相当である。

一方、引用商標は、「BOTOX」の文字、あるいは「ボトックス」の文字をもって構成されるものであり、「ボトックス」の称呼をもって取引に資されるものである。そして、当該構成文字は既成の語からなるものでなく、固有の語義を有しない造語と認められるものである。

しかして、本件商標にあって強く印象を留める「BOTOK」「ボトック」と引用商標とを比較すると、欧文字部分で「B」「O」「T」「O」を共通にするものであり、末尾の「K」と「X」が相違するけれども、5文字中語頭から4文字の圧倒的比率の構成配列を同じにし、ともに図案化などが施されていない平易な欧文字の大文字をもって表されているものであるから、前記差異にも拘わらず近似した印象を与えるものである。

また、これらに相応した称呼「ボトックス」と「ボトック」とを対比しても、語尾における弱音「ス」の有無の微差を有するにすぎないから、全体としての音感において近似したものである。

そうとすれば、「BOTOX」(「ボトックス」)と「BOTOK」(「ボトック」)とは、取り違え、聞き違える程に相紛らわしいといわざるを得ないものである。

なお、両者は、特定の観念を生じさせない造語というべきものであるから、観念上の相違によって明確に区別し得るものでもない。

してみれば、本件商標は、その構成において、引用商標と取り違え、聞き違える程に相紛らわし文字部分を顕著に有するものであるから、本件商標と引用商標間の類似性の程度は相当に高いというべきである。

さらに、引用商標の使用に係る商品と本件商標の指定商品である化粧品との関係についてみると、前者が前記1のとおり医療用医薬品であるけれども、美容整形にも適応する薬剤(美容医科用医薬品)としても用いられるものであるのに対して、後者の化粧品の中には、美容、殊に、目尻のしわ等の除去や緩和を目途に使用される商品があり、その用途や用法、品質等からみれば、両商品の関連性の程度は決して低いものとはいえない。

また、それらの需要者には、美容や整形等の効果について深い関心を寄せる者(主として女性や患者)が含まれるから、両者は、その需要者を共通にすることが多いというべきである。

3 以上、引用商標の周知性の程度、引用商標の造語性、本件商標と引用商標との類似性、使用される商品間の関連性及び需要者の共通性等を総合してみると、本件商標の設定登録時はもとより商標登録出願時において、本件商標が指定商品「化粧品」について使用された場合、当該商品に接する需要者は、本件商標の構成から引用商標を想起し連想して、当該商品を請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく誤認し、その出所について混同を生じるおそれがあったというのが相当である。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、商標法第46条第1項に基づき、その登録を無効にすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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