Trademark Appeal Case
地名商標の識別力
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 不服2004−12185(T2004−12185/J1) |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
第1 本願商標
本願商標は、「AHMEDABAD」の文字を標準文字により表してなり、第18類「ハンドバッグ,ボストンバッグ,トランク,バックパック,リュックサック,書類入れかばん,スーツケース,その他のかばん類,財布,カードケース,札入れ,その他の袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,皮革製包装用容器,愛玩動物用被服類,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,皮革」及び第25類「スカーフ,ネッカチーフ,ポケットハンカチーフ,アスコットタイ,蝶ネクタイ,その他のネクタイ,バンダナ,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、平成15年3月20日に登録出願されたものである。
第2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は、「本願商標は、インド西部の工業都市名『AHMEDABAD』の欧文字を普通に用いられる方法で書してなるから、これをその指定商品に使用しても、単にその商品の産地・販売地を表示しているにすぎないものと認められる。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
第3 当審における証拠調べ通知
当審において、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するか否かについて、職権により証拠調べをした結果、以下の事実を発見したので、同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項の規定に基づき、請求人に対し、所定の期間を指定して意見を述べる機会を与えて通知した証拠調べ通知の内容は、以下のとおりである。
1.本願商標「AHMEDABAD」(注:「AHMADABAD」ともいう。)が、インド西部、グジャラート州中北部にある工業都市「アーメダバード(アフマダーバード)」を指称する地名あるいは産地・販売地を表すものとして、辞典等に掲載されていることが認められ、例えば次に示すようなものがある。
(1)「『新訂増補』南アジアを知る事典」(2002年4月24日 株式会社平凡社発行)、「アフマダーバード(Ahmadabad) 」の項の下、「インド西部、グジャラート州最大の都市。人口約287万3000(1991)。アーマダーバード、アーメダーバード Ahmedabadとも呼ばれる。ボンベイとならぶインド綿業の中心地である。」「1861年に後背平野に産する綿花をもとに地元資本により紡績工場が建設された。以後、綿業都市として発展し、〈インドのマンチェスター〉とよばれた。現在、紡績錘数は全国の17%、また織機数は20%ほどを占める。」の記載。
(2)「世界地名情報事典」(2003年1月14日 東京書籍株式会社発行)、「アーメダバード Ahmedabad 」の項の下、「インド西部、グジャラト州中北部の工業都市。」「アフマダーバード Ahmadabad とも表記。人口351.5万人('01)」「19世紀後半から綿織物が発展、インド最大の紡績工業都市として『インドのマンチェスター』とよばれた。」の記載。
(3)「世界の地名ハンドブック」(1995年11月10日(株)三省堂発行)、「アーメダバード Ahmedabad」の項の下、「インド西部、グジャラート州中北部にある工業都市。人口287.3万人('91)。」「19世紀後半から綿織物が発展、インド最大の紡績工業都市として『インドのマンチェスター』とよばれた。」の記載。
(4)「ロンリープラネットの自由旅行ガイド インド」(2004年3月24日(株)メディアファクトリー発行)、「アーマダーバード(アムダヴァード)Ahmedabad 」の見出しの下、「人口452万人」、「グジャラート州の中心都市は、巨大だが親しみやすいアーマダーバード(アムダヴァード Amdavad とも呼ばれる)で、インド有数の工業都市でもある。」の記載。
(5)「地球の歩き方 インド '03〜'04」(2003年5月2日(株)ダイヤモンド・ビッグ社発行)、「アーマダーバード Ahmadabad」の項の下、「ここがインドの綿織物生産の中心地であり・・・。」「色とりどりのインド綿の服を軒先にぶらさげている問屋街をのぞいて歩くこともできる。こうして、現在は綿工業で栄えている町・・・。」の記載。
2.本願商標「AHMEDABAD」(注:「AHMADABAD」ともいう。)が、インド西部、グジャラート州中北部にある工業都市「アーメダバード(アフマダーバード)」を指称する地名あるいは産地・販売地を表すものとして、インターネット情報に掲載されていることが認められ、例えば次に示すようなものがある。
(1)「松田健のアジアレポート インド」「日本が繊維技術を導入したアーメダバード」の見出しの下、「アーメダバードは衣料技術を英国から導入、明治時代には日本に技術輸出もしたインドの衣料製造基地になった。」「明治時代には商業会議所の会頭であった渋沢栄一や大隈重信が当時の外務大臣に働きかけ、インドの進んだ織物技術を日本に導入するミッションをアーメダバードに送っている。」の記載。
(http://www.ido21.com/ido21/report/htm/matsuda/india.htm)
(2)「アフマダーバード-Wikipedia」「アフマダーバード」の見出しの下、「アフマダーバード(Ahmadabad)はインドの都市。グジャラート州に属する。Ahmedabadとも表記される。日本語での表記は、英語読みのアーメダバード、あるいはアーメダバッドなどが一般的。農業、綿織物業が盛ん。」の記載。
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%9E%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%89)
(3)「インド通信」「震源地グジャラート州について」の見出しの下、「アフマダーバード(アーマダーバード)はインド有数の大都市で、州の産業、文化の中心。」の記載。
(http://homepage3.nifty.com/~mariamma/ind-quak.htm)
(4)「地誌研年報14号、2005年3月」「2.提携先企業の著しい上位都市への集中」「(1)提携先企業の立地の全体的傾向」の見出しの下、「提携件数を提携先企業の本社所在地(都市圏単位)別に集計すると、・・・アフマダバード237(2%)となる。」の記載。
(http://home.hiroshima-u.ac.jp/rcrg/publication/anreg/14_1.pdf)
(5)「書評 澤田貴之著 『アジア綿業史論―英領期末インドと民国期中国の綿業を中心として―』八朔社 2003年」「アーメダバードでは紡織企業が民族資本によって設立され、民族独立運動と連携して労使協調が可能であった。」「第5章ではアーメダバード綿業における労使関係の変遷・・・」「19世紀後半にアーメダバードの企業が粗糸を周辺手織業者に供給していた・・・」の記載。
(http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Ajia/pdf/2004_03/bookreview_utikawa.pdf#search='%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%80%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%89%E3%80%80%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E7%B6%BF%E6%A5%AD')
(6)「東洋法制史文献目録平成4年(1992年)」「〔インド・南アジア〕」の見出しの下、「成田 範道 (書評)S.パテル『労使関係の形成−アフマダーバード繊維工業 1918〜1939年―』」の記載。
(http://wwwsoc.nii.ac.jp/jalha/bunken/bk1992_e.htm)
第4 証拠調べに対する請求人の意見の要点
1.商標法第3条第1項第3号の「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」というためには、そもそも、当該地名が「地名」として一般に認識されなければならない。
これは、昭和61年1月23日最高裁判決が、出願商標「GEORGIA」(ジョージア)について、日本におけるアメリカ合衆国に関する知識の普及度からみて、指定商品の取引者・需要者の大多数の者が少なくともアメリカ合衆国の地名を表わすことを認識することは明らかであるとの審決取消訴訟の認定を前提に、本号の要件に該当するというためには、需要者又は取引者によって、指定商品が当該商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識されることで足りると判断していることからも裏付けられる。
したがって、本号の要件に該当するというためには、指定商品を購入し、又は取引する一般需要者又は取引者が産地ないし販売地であると認識するか否かが判断基準となると解されるべきであり、その当然の前提として、当該地名が地名として一義的に認識されていることが必要である(「商標法」平尾正樹著、125頁、学陽書房)。
2.証拠調べ通知書によれば、本願商標の記載があったことの証拠として各種事典等、インターネット情報が掲げられている。
しかし、当該事典等のうち「南アジアを知る事典」「世界地名情報事典」「世界の地名ハンドブック」は、南アジアないし世界各国の地名そのものに関心を持つ人向けに作成された事典であるから、一般の取引者・需要者が通常接するものとはいえない。また、「ロンリープラネットの自由旅行ガイド インド」「地球の歩き方 インド」については、インドの紹介を目的とした観光ガイドブックであって、インドの各都市が紹介されていることは当然であり、このようなガイドブックに記載があるからといって、当該都市名が一般的であると認識されているとはいえない。
さらに、インターネット情報に至っては、証拠調べの対象となっているのは「松田健のアジアレポート インド」(1)、アフマダーバードに関するWikipedia(2)、「インド通信」(3)、「地誌研年報」(4)、「アジアの綿業史論」(5)、「東洋法制史文献目録」中(インド・南アジア)であって、「AHMEDABAD」またはインドに関心を有する人向けに特化された極めて特殊な文献であり、一般的なものとは到底いえない。
このように、事典ないしインターネットで「AHMEDABAD」を調査すれば、「AHMEDABAD」が実在の地名であることから、これに関する何らかの情報が出てくることは当然であって、ここから直接に、当該地名が地名として一般に認識されていると帰結されるものではない。
3.本願商標が地名として一般的に認識されているかは、特定の目的を有する者が使用する事典ではなく、一般的な書籍等で頻繁に紹介されているか等を基準とすべきである。
ところが、一般的な辞書である三省堂「新明解国語辞典」(第5版)では、「アーメダバード」「アフマダーバード」のいずれの記載も見出すことはできず、旺文社「国語辞典」(第8版)、岩波書店「岩波国語辞典」(第3版)にも、いずれの記載もなかった。
また、わが国の取引者・需要者が、上記最高裁判例のジョージアが所在するアメリカ合衆国等に比して、インドについて造詣が深いとは一般にいえないうえ、インドにおける産業としては、現在では、むしろIT産業等が知られているところである。
4.さらに、過去特許庁において、地名そのものを標章とした商標の登録が認められている事例がある。
このことからも、特定の文献等に地名の記載があったとしても、それが即時に本号に該当することの証拠とならないことは明らかである。
5.以上のとおりであり、日本における取引者・需要者の一般的な認識では、そもそも「AHMEDABAD」がインドの地名であるとすら認識されず、造語であると考えるのが通常というべきである。
したがって、本願商標は、「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」とはいえず、商標法第3条第1項第3号に該当するものではないと思料するものである。
第5 当審の判断
1.本願商標は、「AHMEDABAD」の文字を標準文字で表してなるものであるが、先ず、商標法第3条第1項第3号の立法趣旨をみるに、「商標法3条1項3号として掲げる商標が、登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として、なんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに一般に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである。」(昭和54年4月10日判決 最高裁昭和53年(行ツ)129号参照)としている。
この趣旨に照らせば、審決時において、当該商標が商品の産地、販売地、役務の提供の場所等を表すものと、取引者、需要者に広く認識される場合はもとより、将来を含め、取引者、需要者にその産地、販売地、役務の提供の場所等を表すものと認識される可能性があり、これを特定人に独占使用させることが公益上適当でないと判断されるときは、その商標は、同号に該当するものと解するのが相当である。
2.そこで、この趣旨に則って、本件について判断する。
(1)本願商標は、前記のとおり、「AHMEDABAD」の文字を横書きしてなるところ、職権による証拠調べをした結果、「AHMEDABAD」(「AHMADABAD」ともいう。)が、インド西部、グジャラート州中北部にある工業都市「アーメダバード(アフマダーバード)」を指称する地名であり、「インドのマンチェスター」とよばれ、綿織物が発展、インド最大の紡績工業都市であり、指定商品「スカーフ、ネッカチーフ」等との関係においては、産地、販売地と認められるものであって、古くは明治時代に、当該地へ織物技術を日本に導入するミッションも送られるなどの日本との交流関係も認められるものである。
(2)請求人(出願人)は、平成19年6月29日付の意見書において、「日本における取引者・需要者の一般的な認識では、そもそも『AHMEDABAD』がインドの地名であるとすら認識されず、造語とみるのが通常というべきである。」と主張しているが、以下のとおり、新聞において、「アーメダバード」についての報道がなされている。
(ア)「チームキットジャパン インド製良質デニム 現地大手と組む 欧米、日本で販売」(2005.12.14 繊研新聞 4面)
デニム、ジーンズ企画のチームキットジャパン(京都市、加藤博社長)は、インドの大手綿紡績、アルビンド・ミルズと組んで現地生産のデニムを企画している。アルビンドが欧米向けに売り込み、日本でも生地問屋を通じて販売する。
アルビンドはシャツ、ニットなどの生地、縫製、加工まで手がける紡績メーカー。デニム部門は87年に設立された。インド北西部のアーメダバードに紡績からロープ染色、織りまで一貫の大規模工場を持ち、月間900万メートルの生産能力がある。
(イ)「(アジアの街角)インド・アーメダバード:1 18:00 安売り『伝統衣装』」(2005.05.09 朝日新聞東京朝刊 4頁)
気温の下がる夕方、旧市街の歩道は伝統衣装を売る露店が並ぶ。ざっと90軒。夜市の始まりだ。
細かな鏡をちりばめた刺繍(ししゅう)入り染め織物や色鮮やかな絞りはグジャラート州の特産。人口450万のこの街に集まる。
(ウ)「え!?インドで秋冬物ができる! モヘア、別珍、コーデュロイ」(2000.09.08 繊研新聞 3面)
豊かな表情のプリント
インドは「暑い国なので秋冬物はないのでは」と思いがちだが、意外にも厚地の秋冬素材を使った製品はしっかりと存在する。=1面参照
ヤングレディス向けのOEM(相手先ブランドによる生産)や、自社ブランド「A・I・C」を専門店に卸しているインド製品のレディスメーカー、アジアインダストリーズ(本社東京、電話03・3470・4258番、マノージ・ケイ・マタニ社長)の今秋物は、多色のウールモヘアの手織りのジップアップセーター(参考小売価格一万二千八百円)やベスト(七千九百円)、インドらしいプリントモチーフを手染めで施したコーデュロイのシャツジャケット(六千九百円)やスカート(六千九百円)などをそろえている。
ほかには、表地に厚地の綿起毛のカディを使い、裏地に鮮やかなプリントを配したカジュアルジャケットや、大柄の花モチーフを手捺染でプリントした別珍スカート(七千九百円)、羽ばたく鳥の多色モチーフのパイル地の長袖シャツなども販売する。いずれもインドらしいプリントなどで個性を出している。
インドには小規模の縫製工場や手染めの工場が数多く存在し、日本のように織物の種類別の産地もある。同社が取り入れた秋物素材のインドの産地は、ウールモヘアやパイルがデリー、コーデュロイや別珍がアーメダバード、カディがチェンナイなど。
(エ)「絞り生産者ら集い、インドで国際会議 有松・鳴海も参加 /愛知」(1996.12.27 朝日新聞 名古屋地方版/愛知 愛知版)
「絞り」という染色技術をキーワードに、世界から生産者やデザイナーたちが集まる「国際絞り会議」が三十一日から年明けの一月四日まで、インド西部の綿工業都市アーメダバードで開かれる。緑区の有松、鳴海の生産者たち二十五人も、京都や桐生の生産者たちとともに参加し、絞りにかかわる世界の人たちと交流を深める。
(オ)「銀の光沢、新シルク アルミと生糸合成『メルトオフ』養蚕・群馬が世界にPR」(1997.02.26 読売新聞東京夕刊 1頁 )
「群馬シルク」を世界に−−。繭の生産が全国一の四〇%を占める群馬県産の高級シルクのシェアを世界市場で拡大させようと、同県蚕糸振興事業協会(浜名敏白会長)は、一年余りかけて開発した新素材の絹布「メルトオフ(妖変(ようへん))」の売り込みに乗り出す。
メルトオフが世界への最初の一歩を踏み出したのは、昨年十二月三十一日から今年一月四日にかけてインド・アーメダバード市で開かれた第二回国際シボリ会議。絹布の開発、普及を目的に、世界のデザイナーが集まる会議で、新井さん自身がメルトオフの染色の実演を披露した。薄いシルクの妖(あや)しい光沢が、サリーで知られるインドを始めとして、外国人デザイナーには好評だった。
(3)そうとすれば、本願商標の指定商品の取引者、需要者が本願商標を見るとき、その多数の者が、これを少なくともインドの地名を表すものと認識するといえるものであって、かつ、「AHMEDABAD」において、現実に本願商標の指定商品が生産、販売され、日本に輸入等なされており、また、将来的にも、取引者、需要者にさらにその産地、販売地を表すものと認識される可能性があるから、これを特定人に独占使用させることが公益上適当でないものである。
3.したがって、本願商標を商標法第3条第1項第3号に該当するものとして拒絶した原査定は、妥当なものであって、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
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