sokuhyo

Trademark Appeal Case

称呼と観念の類否判断

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2007−890080(T2007−890080/J3)
審判種別無効
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

登録第5006722号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5006722号商標(以下「本件商標」という。)は、「泉谷しげるの「座頭市物語」」の文字及び記号を標準文字で表してなり、平成18年5月29日に登録出願、第28類「遊戯用器具,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,ビリヤード用具,おもちゃ,人形,愛玩動物用おもちゃ,運動用具,スキーワックス,釣り具,昆虫採集用具,遊園地用機械器具(業務用テレビゲーム機を除く。)」を指定商品として、同18年12月1日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用する商標

請求人が本件商標の無効の理由に引用する登録第4800007号商標(以下「引用商標」という。)は、「座頭市」の漢字と「ZATOHICHI」の欧文字とを二段に横書きしてなり、平成16年1月15日に登録出願、第9類「ぱちんこ式スロットマシンその他のスロットマシン,ぱちんこ式回胴式遊技機を内容とする家庭用テレビゲームおもちゃ,ぱちんこ式回胴式遊技機を内容とする業務用テレビゲーム機,ぱちんこ式回胴式遊技機に関する家庭用テレビゲーム機用プログラムを記憶させた記憶媒体,ぱちんこ機用玉貸機」、第28類「遊戯用器具,ビリヤード用具」及び第34類「喫煙用具(貴金属製のものを除く。)」を指定商品として、同16年9月3日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張の要旨

請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第24号証(枝番号を含む。)を提出した。

1 請求の理由の要旨

(1)無効理由の要点

本件商標は、その出願の日前の商標登録出願に係る請求人の登録商標に類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品又はこれに類似する商品について使用をするものであるから、商標法第4条第1項第11号の規定により商標登録を受けることができないものである。また、請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるから、同項第15号の規定により商標登録を受けることができないものである。したがって、本件商標の登録は同法第46条第1項第1号に該当し、無効とされるべきである。

(2)本件商標の登録を無効とすべき理由

ア 請求人について

請求人は、芸能プロダクションの経営、キャラクターの企画・開発、デザインの販売・映画・演劇・コンサート・講演・講座の主催及びチケットの販売、芸能タレントのマネジメント及びプロモート業務、興行の請負並びに企画製作、並びに、これらに付帯する一切の業務を営むことを目的とする会社であり、故勝新太郎氏(本名奥村利夫)の長女である奥村眞粧美氏を代表者、長男の奥村雄大氏と故勝氏の妻の中村玉緒氏(本名奥村玉緒)を取締役とする(甲第4号証)。

故勝新太郎氏は、後述するように、映画及びテレビドラマ「座頭市」シリーズで主人公「(座頭)市」を演じる等して人気を博した俳優である。同シリーズは勝氏の代表作とされ、その主人公「(座頭)市」は勝氏のはまり役と評されている(なお、一部の作品では、脚本や監督を担当していた)。このように、座頭市シリーズ及びその主人公に対して与えられる名声は勝氏その他の製作関係者に帰属するところ、被請求人は、同氏の財産を管理している請求人に何らの断りもなく、本件商標を出願・登録するに至った。また、請求人は、後述するように、被請求人が件外の遊技機メーカー「株式会社ニューギン」(名古屋市中村区所在)に本件商標を使用させているとの情報を得た。かかる被請求人の行為は到底認容できるものではないから、ここに本件審判を請求する次第である。

イ 座頭市シリーズの映画及びテレビドラマについて

(ア)座頭市シリーズの映画及びテレビドラマは、勝氏演じる盲目のやくざ「(座頭)市」が諸国を旅して悪人を切る時代劇であり、1962年4月に映画「座頭市物語」が公開されて以来、1989年に映画「座頭市」が公開されるまでの27年間に、映画26本、テレビドラマ100本もの多数の作品が製作された(甲第5号証)。なお、同シリーズの題名には全て「座頭市」の語が含まれており、「座頭市物語」なる題名の作品も幾つかある。

このように多数のシリーズ作品が製作されたのは、これら作品が大衆の支持を得たからに他ならない。例えば、最後の作品となった映画「座頭市」は11億円もの配給収入を得、1989年の配給収入上位作品にランクされるほどの興行的成功を収めた(甲第6号証)。また、ウェブ百科事典「ウィキペディア」の「時代劇」に関する記事では、主要な時代劇作品の映画部門でもテレビドラマ部門でも「座頭市シリーズ」が挙げられており(甲第7号証)、同シリーズは時代劇作品を代表する名作の1つとして高く評価されている(なお、この記事には、勝新太郎氏が代表的な時代劇俳優として掲載されている)。

また、これら映画及びテレビドラマは、シリーズのほぼ全部がDVD(及び/又はビデオ)化されているだけでなく(甲第8号証の1ないし27)、京都映画祭や勝新太郎映画祭などの映画祭や各地の映画館で上映され(甲第9号証の1ないし12)、テレビで(再)放送されるなど(甲第10号証の1ないし4)、今なお根強い人気を誇っている。

これらのことからすれば、座頭市シリーズの映画及びテレビドラマが、少なくとも本件商標の出願日である平成18年5月29日において、一般需要者の間で周知著名になっていたことは明らかである。

(イ)ところで、これら「座頭市」シリーズは、子母澤寛の短編小説「座頭市物語」が原作であるとされている。この短編小説は「ふところ手帖」なる随筆集に収録されているが、文庫サイズにしてわずか10ページ程の記載量であり(甲第11号証)、映画ないしテレビドラマの1作品を製作できるほどの具体的な内容は含まれていない。すなわち、座頭市シリーズは、主人公「(座頭)市」が盲目の按摩でありながら、抜刀術居合の達人であるといった大まかな点では短編小説「座頭市物語」に基づいているものの、それ以外の大部分は製作時に作られたものである。

たとえば、上記短編小説では、どちらかと言えば、盲目ながら筋目の通った生き方をした「市」という侠客に重きが置かれているように読めるが、映画・テレビでは、市の抜刀術居合の凄さが強調されている。また、映画等では、短編小説のように長脇差ではなく仕込み杖であり、また、それを逆手斬りにするというのは勝氏のアイデアだったとも言われている。更に、映画・テレビではおおよそのパターンになっている、流れ着いた土地の悪徳親分との対立や剣豪との一騎打ちなどは、短編小説には何ら記載も示唆もされていない。

そして、この短編小説が随筆集中の1作品といった位置付けに過ぎず、世間ではほとんど認知されていないことからすれば、世間一般に知られている「座頭市」のキャラクターは専ら勝氏によって作り上げられたものである。したがって、「座頭市」の語は、勝氏による造語ではないとしても、勝氏主演の映画・テレビドラマを指標する商標として、あるいは、勝氏の演じる主人公「(座頭)市」のキャラクターを象徴するものとして、造語に類する強い識別力を有すると言わなければならない。

事実、勝氏死去の際には読売、朝日、毎日、日経等の紙面で大きく報じられたが、その見出しには「『座頭市』『悪名』・・・個性的演技」、「『座頭市』際立つ存在感」、「『座頭市』など個性的演技」、「奔放『座頭市』」、「座頭市で大スター」などと大書きされており(甲第12号証の1ないし7)、座頭市の映画・テレビないし主人公のキャラクターと勝氏とが強く結び付けられている。また、ウェブ百科事典「ウィキペディア」の「座頭市」に関する記事では、冒頭に「勝新太郎の代表作として知られる。」と記載されているほか、概要の項目に「原作者は子母沢寛。子母沢は・・・盲目の侠客座頭の市に興味を覚え、彼について原稿用紙にして十数枚に書き記した。これが座頭市の原作となった訳だが、子母沢は、市についてこの十数枚しか書き記しておらず、現在、巷間に伝えられている座頭市の人となりは、大部分が勝新太郎主演で座頭市の物語が製作された時に作られたものである。また、原作の長ドスを仕込み杖としたのも勝である。」などと記載されている(甲第13号証)。

(ウ)なお、上述したように、請求人は、被請求人が件外ニューギンによるパチンコ器具「CR泉谷しげるの「座頭市物語」」の発売に関わっているとの情報を得た。同社のウェブサイトによれば、「CR泉谷しげるの」の文字が「座頭市物語」の左上に付記されてなる態様で使用されているとともに、主人公と思しき登場人物は、盲目で仕込み杖を逆手で持ち、また、敵対する登場人物と決闘を演じている(甲第14号証)。

上記「CR泉谷しげるの/座頭市物語」の文字の態様は、「座頭市物語」部分を殊更強調するものであり、また、登場人物や場面の設定は勝氏の座頭市シリーズの上記特徴をそのまま採用していることからすれば、「座頭市」を含む本件商標の採択は、単なる偶然の一致とは到底考えられず、却って、勝氏の著名な「座頭市」シリーズないし勝氏が作り上げた「(座頭)市」というキャラクターを知悉したうえで同シリーズないしキャラクターの名声に便乗したものと見るのが極めて自然である。このことからしても、勝氏の代表作として著名な「座頭市」シリーズないしその主人公のキャラクターの名声にただ乗りし、「座頭市」シリーズ等の有する出所識別機能を希釈化させんとする被請求人の意図は明白である。

ウ 商標法第4条第1項第11号該当性について

(ア)商標法第4条第1項第11号において、「商標の類否は、対比される両商標が同−又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察す」べきである(最高裁昭和43年2月27日 昭和39年(行ツ)第110号判決)。

そして、「商標審査基準」の同号に関する基準5.(6)は、「指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとする」と規定しているところ、「実例で見る商標審査基準の解説 第四版」(工藤莞司著)は、「商標の構成上の一体性や一定の観念が生ずるに関わらず、周知・著名商標を含む場合は、取引上はその部分が周知・著名性の故に要部として乃至は要部的に機能するときがあり、前記のような実務例(注:従来は、商標の構成が一連一体不可分の構成のみを理由として、非類似又は出所の混同のおそれなしとの結論を導く実務例が少なくなかった)は、商標の出所表示機能より商標の構成を重視するもので妥当ではないばかりでなく、引用商標の周知・著名性という取引の実情を考慮しないものであって、周知・著名商標の保護に欠けるとみられるものである。そして、このような実務例が裁判所で否定され始め、その一方で、不正競争防止法事件ではあるが、被告商標権の行使が認められなかった判決例が出された。その中で、原告商標は著名であることを理由に被告登録商標に類似すると判断された。そこで、・・・他人の周知・著名な登録商標を結合した出願商標については、その結合状態如何に関わらず、・・・その登録商標と類似するとして取り扱うこととして、・・・周知・著名商標の保護を徹底したものである。本号但し書で、登録商標部分が既成語の一部となっているその既成語からなる出願商標・・・やそのため外観、称呼又は観念が互いに著しく相違するときは、類似しないとされるときがあることを示しているが、極例外で、拡大解釈はすべきではないというべきであろう」(甲第15号証)のように解説している。

(イ)本件商標について

本件商標は、その構成に応じて「イズミヤシゲルノザトウイチモノガタリ」の称呼を生じるが、この称呼は冗長であり、視覚上も明らかに「泉谷しげるの」と「座頭市物語」とに分離して看取されるから、「座頭市物語」の語に対応して「ザトウイチモノガタリ」の称呼を生ずる。

更に、「座頭市物語」の語は「座頭市」と平易な単語「物語」からなるところ、上述した映画及びテレビドラマ「座頭市」シリーズないし勝氏演じる主人公が著名であることや、子母沢寛の短編小説「座頭市物語」がほとんど認知されていないこと、更には、使用権者と目される件外ニューギンによる上記使用態様を考慮すれば、これを常に一連のものとして看取すべき根拠は皆無であり、却って、著名な「座頭市」部分の印象だけが記憶に残ることがあると言える。したがって、この部分だけを捉えて「ザトウイチ」の称呼及び「座頭市」シリーズないしその主人公といった認識をもって取引に当たることがあると考えるのが極めて自然である。

したがって、本件商標は、「イズミヤシゲルノザトウイチモノガタリ」の称呼のほか、「ザトウイチモノガタリ」、更には「ザトウイチ」の称呼をも生じる。また、勝氏主演の映画・テレビとして著名な「座頭市」シリーズないし主人公「(座頭)市」といった観念も生ずる。

(ウ)引用商標について

一方、引用商標は、当然に「ザトウイチ」の称呼を生ずるとともに、勝新太郎氏の代表作として著名な「座頭市」シリーズないし勝氏の演じる主人公「(座頭)市」を直ちに想起させる。

(エ)本件商標と引用商標の対比

本件商標と引用商標から生じる称呼・観念及び外観を対比すると、両者とも「ザトウイチ」の称呼を生じ、著名な映画及びテレビドラマ「座頭市」シリーズないしは主人公「(座頭)市」を容易に連想させる。また、両商標は、外観上も、著名な座頭市シリーズないしその主人公を容易に想起させる「座頭市」の語を含むから、極めて近似していると言わなければならない。このような称呼・観念および外観の類似性からすれば、両商標に接する需要者・取引者は、著名な座頭市シリーズ等といった共通の印象を受け、そのような印象を記憶して取引に当たるから、両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあることは明らかである。

また、本件商標は、「遊戯用器具,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,ビリヤード用具,おもちゃ,人形,遊園地用機械器具(「業務用テレビゲーム機」を除く。)」において引用商標に係る指定商品と抵触する。

したがって、本件商標は、上記「遊戯用器具等」について使用される場合には、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。

エ 商標法第4条第1項第第15号該当性について

(ア)商標法第4条第1項第第15号において、「混同」とは、「周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止」する趣旨から、「当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解する」といった実務が定着している(最高裁平成12年7月11日 平成10年(行ヒ)第85号判決)。

そして、上記最高裁判決によれば、「『混同を生ずるおそれ』の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである」と説示されている。

(イ)ここで、本件商標の指定商品である「遊戯用器具等」については、映画やテレビ番組と提携した商品(いわゆるキャラクター商品)が多数存在する。例えば、「遊戯用器具」に含まれる「ぱちんこ器具」に限って見ても、甲第16号証の1ないし23のような映画及びテレビドラマを題材とした商品が存在する。主要なパチンコ機器メーカーの多くは、映画ないしテレビドラマの有する顧客吸引力を期待して、その映画等を題材にしたパチンコ台を発売しているが、そのようなキャラクター商品を展開するにあたっては当然に、その映画等の権利者から許諾を得るべきものであり、事実、映画・テレビドラマの製作会社や出演者の所属する芸能プロダクション等から許諾を得ている事実が窺える。

例えば、「桃太郎侍」では、東映とアイウエオ企画(主人公を演じる高橋英樹が所属する)の著作権の表示(その記号を、以下「まるC」という。)が付されており(甲第16号証の1)、「ぱちんこジョーズ」では、「Jaws is a trademark and copyright of Universal Studios.Licensed by Universal Studios Licensing LLLp.」(Jawsは、Universal Studiosの商標及び著作権であり、Universal Studios Licensing LLLpからライセンスを受けています。)と記載され(甲第16号証の7)、「CRリング」では「まるC1998『リング』『らせん』製作委員会」と表示されている(甲第16号証の20)。すなわち、この種のパチンコ台は、映画ないしテレビドラマに関する権利者の許諾ないし協力があってはじめて発売可能なのである。逆に、需要者・取引者の立場から見れば、これらパチンコ台は映画に関する権利者と一定の関連があるものとして理解・把握されるのである。

このようなキャラクター商品に関わる法律関係は、遊戯用器具だけに止まらず、おもちゃ・人形などの分野にも同様に該当するから、著名な映画等ないしその登場人物名が付された「おもちゃ等」の商品についてもやはり、その映画等と何等かの関係があると見るのが極めて自然である。

(ウ)本件商標は、勝氏の代表作として著名な映画・テレビドラマないしその主人公を直感させる「座頭市」の語を含んでなり、また、使用権者と目される件外ニューギンによる実際の使用態様からも著名な「座頭市シリーズ」ないし勝氏の演じる主人公「座頭市」のキャラクターが容易に連想されるなど、単なる偶然の一致では済まされない状況にあるにもかかわらず、被請求人が請求人に無断で本件商標を出願・登録したことは上述のとおりである。これらのことからすれば、本件商標は、勝氏の著名な座頭市シリーズ等の名声にただ乗りし、あるいは、同シリーズ等の有する出所表示機能を希釈化するものである。よって、本件商標は、いずれの指定商品について使用された場合にも、座頭市シリーズの映画及びテレビドラマないし主人公のキャラクターに関する権利者と一定の関係を有する者により提供される商品であるかのように誤認される虞があることは明らかである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

(3)むすび

よって、本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同第15号により商標登録を受けることができないものであるから、その登録は同法第46条第1項第1号に該当し、無効とされるべきである。

2 答弁に対する弁駁の要旨

(1)商標法第4条第1項第11号該当性について

ア 被請求人は商標法第4条第1項第11号該当性について種々述べているが、その言わんとするところは結局、本件商標「泉谷しげるの「座頭市物語」」は「対等かつ不可分の結合」あるいは「有機的な結合」を形成しているから引用商標「座頭市/ZATOHICHI」に非類似ということであろう。

しかしながら、「『座頭市物語』の部分と・・・『泉谷しげる』の部分とは明らかに異質な要素」であることは被請求人の自認するところであるが、かかる事由が分離観察の方向に作用することは経験則上明らかであり、定着した実務でもある。そして、座頭市物語の文字が括弧で括られていることから、外観上極めて容易に「泉谷しげるの」と「座頭市物語」とから成ることが認識されるとともに、称呼上も一連に称呼するには極めて冗長であり、更に、観念においても、熟語的意味合いを看取させるような纏まった意味を生じさせないことは疑いの余地がない。

このような本件商標においては、被請求人主張の如き「不可分」ないし「有機的」な結合など微塵も存在しないのであり、かかる被請求人の主張は論外である。簡易迅速を尊ぶ取引社会においては、当然に、「泉谷しげる(の)」と「座頭市物語」の各部分が要部と認められるのである。

そして、「座頭市」の語が勝氏主演の映画及びテレビシリーズないしその主人公を指標するものとして広く一般に認知されていることは請求書でも述べたとおりであり、このことは本件商標の指定商品に関わる取引者・需要者においても何ら変わるところがない。このことからして、本件商標の要部「座頭市物語」からは、容易に、著名な映画・テレビシリーズ「座頭市」ないしその主人公が想起、観念され、「ザトウイチ」の称呼が生じるのであり、これは、本件商標の指定商品に関わる分野において実際に「座頭市」を冠したグッズが存在するか否かによって変わるものではない(なお、後述するように、「座頭市」のフィギュアが販売された事実がある)。

イ 特許庁でも、第三者登録商標「アトム」(第14類)に対して株式会社手塚プロダクションが2件の登録商標「鉄腕アトム」(14類と旧23類)に基づいて請求した無効審判事件(無効2000一35291;甲第17号証)において、「『アトム』と称する(ロボットの)少年を主人公とする漫画『鉄腕アトム』が、かつて、世界の多数の国々において人気を博し、・・・我が国のみならず世界の国々の幅広い年齢層の人々に広く認識され、親しまれている」と述べたうえで、「被請求人は、本件商標の指定商品は、漫画と直接関わりのないものであるから、本件商標から漫画の主人公『アトム』(鉄腕アトム)が想起、観念されることはない旨主張するが、本件商標の指定商品・・・の中には、『時計,カフスボタン,ネクタイピン,宝石ブローチ』等、一般の人に身近な商品が含まれており、誰でもが取引者、需要者となり得る商品であることよりすれば、本件商標に接する取引者、需要者は、・・・むしろ、漫画の主人公『アトム』(鉄腕アトム)を想起、観念することのほうが多い」として、両商標の類似性が肯定されている。

このように、映画等ないしその主人公に関わる表示が広く認知されるようになると、映画やテレビといった媒体の巨大な情報伝播力ゆえに、映画等とは直接的に関係しない分野についても強い顧客吸引力を発揮し、需要者・取引者に対して当該映画などを想起、観念させるに至るのである。

「座頭市」は正にこのような表示なのであって、被請求人が主張するような「作品の題号」に留まるものでは決してない。

ウ(ア)被請求人は、「日本国周知・著名商標検索」の検索結果(乙第1号証及び同第2号証)から、「引用商標の表示として、請求人が周知・著名であるものと看做されている訳ではない」と主張する。しかし、同検索の利用上の注意には「本検索システムでは、防護標章として登録されている登録商標及び異議決定・審決・判決において周知・著名と認められた登録商標のデータを検索することができます。・・・ただし、本検索システムに我が国の周知・著名商標の全てが蓄積されている訳ではありません。」と記載され、世間で周知・著名と認められている商標の全てを網羅するものではないことが明記されているから、この検索に該当しないからといって周知・著名性が否定されるものではない。

(イ)また、被請求人は、商標法第4条第1項第10号の規定から、「たとえ、・・・勝氏を出所としたうえで、引用商標の周知性が成立して・・・勝氏であると解したとしても、請求人と勝氏とは本来別人格である。・・・請求人が引用商標につき、登録を得るに至ったのは、・・・引用商標が特定の業者を表示するような周知性が成立していなかったからに他ならない」などと主張する。本件商標の商標法第4条第1項第11号及び第15号該当性が問題となっている本審判事件において、何故に引用商標と商標法第4条第1項第10号の規定について議論しているのか理解に苦しむが、いずれにしても、同項の「他人」は、第15号の「他人」と同様に、同一の商品化事業を営む企業グループやフランチャイズチェーンを含むと解して差し支えないのであり(甲第18号証)、請求人は正に、勝氏や映画製作会社とともに、同一の商品化事業を営む企業グループを形成していると言えるから、請求人が引用商標を登録するにあたって商標法第4条第1項第10号の適用が問題になる余地はない。

なお、被請求人は、「同項の登録阻却事由は、押し並べて公益を根拠としている」などと述べているが、同項については、その総括規定である第15号が私益保護規定と解されていることとの平仄や、同項について除斥期間が設けられていることとの関係から、私益的規定と解するのが自然な解釈であり、定着した実務でもあるから、上記の被請求人の主張は失当と言うほかない。

(ウ)被請求人は、夏目漱石の小説「坊っちゃん」の例を挙げて、本件商標の登録を根拠付けようと試みているが、この例は本件とは明らかに事案を異にするから、そのような試みは無意味である。

夏目漱石の小説「坊っちゃん」が親しまれていることは認めるが、そもそも「坊っちゃん」は既存の言葉であり、広辞苑にも、夏目漱石の小説であるといった記載に先んじて、「身分ある人または他人の男子の尊敬語。あまやかされて育った、世間知らずの男子」と定義されているから(甲第19号証)、「坊っちゃん」という言葉から直ちに夏目漱石の小説が想起されると見ることには明らかに無理があり、この点で、造語に類する「座頭市」の語とは明らかに一線を画している。加えて、夏目漱石は1916年に没し、その著作権は少なくとも1966年(昭和41年)までに満了しているのであるから、それ以降、商品化に関連する権利ないし利益は存在しないと言えるのであり、この点でも「坊っちゃん」と「座頭市」の語は明確に区別されるのである。

よって、被請求人による上記設例は、本件とは全く事案を異にするものであり、本件商標の登録性を判断するにあたって何ら意味を成さない。

(2)商標法第4条第1項第15号該当性について

ア 商標法第4条第1項第15号は「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」を不登録事由としている。

被請求人は、この規定が不正競争防止法第2条第1項第2号と対応関係にあるとして、同規定と同じように解釈すべしと主張する。

しかしながら、両規定の間に関連性があるとしても、両者の趣旨・目的、更には、規定振りも異なることからすれば、これらが対応関係にあると見るのは誤りである。商標法第4条第1項第15号は、その趣旨・目的に従って解釈されるべきである。

イ(ア)請求書で述べたように、勝新太郎氏を主人公とする映画及びテレビドラマ「座頭市」は、長年に亘ってシリーズ化されるほど大人気を博し、名優と言われた同氏の代表作とまで評された作品群であって、本件商標の出願時はもちろんのこと、登録時においても、「座頭市」といえば直ちに同シリーズ又はその主人公を連想、観念するほどになっていた。

被請求人は北野武監督作品「座頭市」を指摘するが、同作品の製作にあたっては、事前に北野氏側から打診があり、請求人側は制作許可を出している。すなわち、北野作品に対して、請求人側は口頭ではあるが「許可」という形で権利行使を行っているのである。

また、北野作品の存在によって、勝氏の「座頭市」シリーズに対する世評は高まりこそすれ、衰えるものでは決してない。このことは、被請求人が提出した乙第6号証の1の冒頭に「座頭市(2003年の映画)」と断り書きが入っており、また、概要欄の最初に「勝新太郎の代表作として高名な人気時代劇『座頭市』を題材にした」と記載されていることからも疑いの余地がない。この点に関する被請求人の主張は前提において誤っている。

(イ)請求書で述べたとおり、勝氏の「座頭市」シリーズは、その人気の高さから、テレビで再放送され、映画館等で再上映されているだけでなく、同シリーズを収録したビデオテープ、レーザーディスク、DVDが発売されている。

また、一般に、周知・著名な映画やテレビやその登場人物について、正当権利者の許諾の下に各種商品化が行われることは何ら珍しくないところ、後述する無効2004一89071号審決でも、「著名なキャラクターや名称については許諾による商品化が行われていたこと、その無断使用に関する侵害事件が新聞報道等されていたことから、他人の著名な表示の使用にはその正当権利者から使用許諾を受ける必要があることは一般に知られていたと推認される」と指摘されている。そして、「座頭市」については、一部の作品がコミック化され、また、フィギュア、写真、パンフレット、仕込み杖、草わらじセット(草わらじ、おにぎり、風呂敷、ほっかむり、煙管のセット)などのいわゆるキャラクターグッズが展開されてきたし(甲第21号証の1ないし7)、前述した近年の再評価により、今後新たに商品化されることも十分あり得るところである。

本件商標の指定商品に含まれる「おもちゃ、人形」などは商品化されるものの典型であり、また、ぱちんこ器具等の遊戯用器具についても、映画・アニメ等やその登場人物を取り扱ったものが多数存在する。そして、これら商品に使用される映画の題名等と同一の表示が、題名等としての意味合いを超えて、商標として理解・把握されることはもはや常識である。

(ウ)加えて、被請求人から本件商標の使用許諾を受けているとされる件外ニューギンが本件商標を使用する態様は、請求書でも述べたとおり、「座頭市物語」が大きく表示され、その上方左側に「CR泉谷しげるの」が極端に小さく添えられているのであり、殊更「座頭市物語」が強調されている(甲第14号証)。これは、著名な表示「座頭市」への便乗の意図の表れ以外の何ものでもない。

また、被請求人の主張によれば、請求外株式会社ニューギン(以下「ニューギン」と略称する。)は請求人による権利主張に対処するために本件商標の使用許諾を受けたとのことであるが、本来、自己が使用する商標は自らの名義で登録するのが筋である。ニューギンにおいても、IPDL商標出願・登録情報検索の結果(甲第22号証)によれば、204件の商標を出願・登録しているのであり、同社ウェブサイト(甲第23号証)で紹介されている機種と照らし合わせてみても、少なくとも、独自開発したと思しき機種の名称「タイムくん」「ドラエンマ」「野生の王国」「お江戸でごじゃる」「トロピカルパラダイス」「アラビアンドリーム」「キングゴッド」「懐メロのど自慢」「源平合戦」「開運船ざんす」「四季爛漫」「GO!GO!郷」「おさかなちゅ一」「おさかなあいらんど」は同社名義で登録されている(なお、テレビを題材とした機種の名称「西部警察」「太陽にほえろ!」については、それぞれ、著作権者と目される石原プロモーション、東宝が商標登録している)。かかる事実関係からすれば、本件商標は、ニューギン自らによって出願・登録されることが極めて自然であるにもかかわらず、遊戯用器具等に係る業務を行っているとは到底考えられない広告代理店たる被請求人の名義で出願・登録されているといった、通常では説明の付かない状況にある。被請求人による出願・登録は、ニューギンが、請求人側から承諾を受けることなく進めていた「泉谷しげるの「座頭市物語」」なる機種の開発・発売が出願公開等により請求人側に発覚することを恐れたからに他ならない(登録が確実になった段階で上記機種を公表すれば、登録商標の使用の抗弁が援用できる等の計算も当然にあったと推測される)。

これらの事実は、被請求人側の不正の目的を立証するのに十分である。

(エ)以上のことからして、本件商標に接した取引者・需要者は、例え「泉谷しげる」の語が含まれているとしても、直ちに、周知著名な勝氏の「座頭市」シリーズ又はその主人公を想起、観念すると言えるから、被請求人側の不正の目的をも加味すれば、本件商標をその指定商品に使用した場合には、勝氏、請求人、映画・テレビ製作会社又はこれらと何等かの関係がある者の提供に係る商品であるかのように誤認する虞があることは明らかである。

ウ この点、審決例でも、映画やテレビの題名ないしその主人公の表示の第三者による無断登録がしばしば問題になっているところであるが、商標「トトロ/TOTOLO」(第29類)に関して株式会社徳間書店が提起した無効審判事件(無効2004一89071;甲第24号証の1)では、「本件商標・・・の構成中『トトロ』の文字は周知著名となっている上記映画(注:宮崎駿原作のアニメーション映画「となりのトトロ」)の略称又は主人公の表示と同一であり、『TOTOLO』の文字は綴りが上記映画の主人公の表示と若干異なるにしても、その称呼は同一であって直ちに上記映画又はその主人公を連想、想起させるものである」などとして、「本件商標をその指定商品に使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、周知著名となっている上記映画ないしはその主人公を連想、想起し、該商品が請求人ないしは宮崎駿又はこれらと何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれがある」と判断している。

また、第31類の商標「スターウォーズ」(異議2002一90682;甲第24号証の2)や、第12類の商標「ゴジラ/GODZILLA」(無効2001一35302;甲第24号証の3)についてもやはり、周知・著名な映画の題号(及びその主人公)を想起させるとして、混同の虞を認めている。更に、甲第24号証の4及び甲第24号証の5も混同の虞を肯定している。

このように、特許庁でも、周知・著名な映画・テレビやその登場人物に関わる表示(文字だけでなく図形も含まれる)については、キャラクター商品化をも考慮して、広く混同の虞を認めているのである。

エ 被請求人は、映画「男はつらいよ」の主人公「車寅次郎」の愛称「寅さん」の例を持ち出して、本件商標の正当性を主張しているが、かかる主張は何ら意味を成さない。

すなわち、映画「男はつらいよ」が我が国において人気を博し、渥美清の演じる主人公「車寅次郎」が親しまれていることは認めるとしても、「寅さん」は主人公の愛称である(なお、「フーテンの寅さん」と呼ばれることもある)。「寅さん」の由来は、主人公の名前「寅次郎」の「寅」を取って「さん」を付したものと推測されるが、この種の愛称の名付け方は日本中で広く行われており、「寅」で始まる名前の人物に愛称を付けるとすると、「寅さん」になることも十分にあり得る。そうすると、「寅さん」という言葉の独創性は極めて小さいのであって、かかる言葉が車寅次郎を認識させるのは、それが使用される文脈によると言うべきである(その意味で、造語に極めて近く、凡そどのような文脈で用いても勝氏主演の映画あるいはその主人公を想起させる「座頭市」の語とは明らかに一線を画している)。

そこで被請求人が挙げる登録例を見ると、まず「親方寅さん」は、「(何等かの)親方である寅さん」の意味合いを想起させるが、かかる意味合いが、テキ屋稼業となって日本全国を渡り歩く渡世人である「車寅次郎」とは明らかに懸け離れているがゆえに、登録を認められたと考えるのが自然である。また、「月の寅さん」については、明確な意味合いが把握できないがために「車寅次郎」とは無関係とでも判断されたのであろう。更に、「柴又/寅さんの故郷」は「柴又が寅さんの故郷である」旨を述べるに過ぎないのであって、それ以上でもそれ以下でもない。

このように、被請求人が挙げた登録例はいずれも本件商標の登録の正当性を裏付けるものではない。

(3)むすび

以上のように、本件商標が商標法第4条第1項第11号にも同第15号にも該当しないとする被請求人の主張はいずれも明らかに論拠を欠く。

第4 被請求人の答弁の要旨

被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由及び弁駁に対する答弁を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第15号証(枝番号を含む。)を提出した。

1 背景事実

パチンコ遊技機の製造販売を主たる目的としているニューギンにおいては、パチンコ遊技機の表側面の略中央位置に配置されている液晶表示画面に、「CR泉谷しげるの「座頭市物語」」、即ち、本件商標と同一の趣旨による表示を題号として画像及び音声を伴う剣劇物語を表示するパチンコ遊技機の製造販売を行っているが、被請求人は、前記表示につき、その許諾を与えている。

請求人は、ニューギンの前記表示に対し、引用商標に基づき、権利主張を行ったことがある。

上記権利主張に対し、ニューギンは、前記表示があくまでパチンコ遊技機の液晶表示画面において展開される剣劇の題号として使用されているに過ぎず、出所表示という商標本来の機能を発揮していない以上、上記権利主張は成立しない旨の回答を行っている。

前記表示が登録商標の使用に該当しないにも拘らず、ニューギンにおいて被請求人から本件商標の使用許諾を受けているのは、前記出所表示機能の発揮を度外視した場合においても、予備的に請求人による前記の権利主張に対処すること、即ち本件商標と引用商標とが非類似であるが故に、何ら引用商標権に対する侵害に該当しないことの根拠付けを目的としている。

本件審判請求は、前記権利主張と相関関係にあるものと考えられるが、当該権利主張においては、本件商標の使用に該当することを当然の前提としている。

仮に請求人において、本件商標と引用商標との類似性に十分な見通しを抱いているのであれば、ニューギンによる前記回答に対し弁駁を行い、引き続き権利主張を継続するのが本来の推移である。

しかるに、請求人は、前記回答に対し本来行うべき弁駁に至っていない。

このような状況は、請求人が、双方の商標の類似性につき、明瞭な見通しを有していないことを示すに十分である。

本件無効審判請求事件は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に基づく無効理由が主張されているが、前記の如き見通しの不明瞭性を反映し、その論旨もまた不明瞭であって、以下に述べるような矛盾及び不合理性の指摘を免れることができない。

2 請求人の立論の根本的問題点

請求人が主張している商標法第4条第1項第11号及び同第15号の該当性は、引用商標の名称である「座頭市」が周知又は著名であることを基本的前提としている。

しかしながら、このような前提は、以下に述べるように、到底成立し得ない。

(1)商標の基本的かつ本質的機能が所定の商品又は役務の分野における出所表示にあることを考慮するならば、特定の商標が周知又は著名であることとは、所定の商品又は役務に関する出所表示機能を伴った状態にて周知又は著名であることを不可欠とする(この点は、出所表示機能を伴っていない名称は、商標と看做され得ないことに照らしても明らかである。)。

ア しかるに、請求人の主張を参照するも、「座頭市」がどのような商品又は役務の分野において、如何なる出所を表示することによって周知化又は著名化したかについて全く不明瞭な状況にある。とすれば、本件における請求の論旨は、主張自体失当であって、根本的に成立し得ない状況にある。

出所表示機能について立ち入って説明するに、例えば商標「ソニー」、「クラレ」が著名であるのは、それぞれエレクトロニクス分野の株式会社ソニー、及び化学繊維分野の株式会社クラレの出所表示を行うという本来の機能に即して著名化しているのである。

これに対し、「座頭市」が子母澤寛氏の短編小説(甲第11号証)を原作としたうえで、甲第5号証ないし同第10号証に示すような幾多の映画又はテレビドラマ作品として放映されたとしても、そのことは、放映された物語の題号(タイトル)として、「座頭市」が使用されたことを意味するに過ぎず、何ら所定の商品又は役務の分野において、特定の出所を表示したことにはならない(放映における「座頭市」の表示に伴って、格別の商品又は役務が提供されていない以上、当該商品又は役務の出所が表示されることもあり得ない。)。

たとえ、「座頭市」が放映された物語の題号として周知化又は著名化したとしても、前記結論に変わりはない。

もとより、勝氏が「座頭市」の主人公を演じたとしても、同氏が所定の商品又は役務を提供している訳ではない以上、同氏が出所元となり得ないのは、蓋し当然である。

敢えて、「座頭市」を題名とする映画作品及びテレビドラマが放映されたことに着目し、映画の企画、上映、製作などの役務(第41類)及びテレビジョン放映の役務(第38類)の分野において、格別の出所表示が行われ得るかにつき考察するに、結局、これらの役務の分野においても、「座頭市」は、前記のように、あくまで作品の題号の表示として使用されたという事実に変わりはない。

即ち、「座頭市」は、決して特定の映画又はテレビジョンの作製企業を示す出所表示として使用された訳ではない。

現に、甲第8号証の1〜27を参照するも、「座頭市」の表示は、決して特定のプロダクション企業の表示として使用されていない。

イ 特定の商標が周知化又は著名化するためには、所定の商品又は役務の分野において、出所表示を伴う使用、及び宣伝広告による実績の蓄積を不可欠とする。

しかるに、映画作品又はテレビドラマの題号に過ぎない「座頭市」については、このような使用及び宣伝広告が行われた実績は本来存在せず、現に請求人自身、この点について、何ら主張及び立証をなし得ていない。

即ち、商標の周知化又は著名化に至るために必要な客観的事実経過に即しても、「座頭市」が商標として周知化又は著名化したことはあり得ない。

(2)引用商標を構成している「座頭市」、「ZATOHICHI」の名称による商標の登録状況に即して、以下のとおり考察する。

ア 商標法第4条第1項第10号は、他人の業務に係る商品若しくは役務を表示する周知商標については、当該商品若しくは役務と同一又は類似する商品若しくは役務について使用する商標につき、登録することができないことを規定している。

上記規定を考慮するならば、請求人が引用商標を登録するに至ったのは、第28類の分野において、請求人が同条同項同号の「他人」ではなく、「自己」に該当するが故に、登録に至ったものと解する以外にない。

しかしながら、請求人が第28類の商品分野において、引用商標を使用し、かつ宣伝広告を行ったことに基づいて、引用商標が周知又は著名化したなどという社会的事実は全く存在しない。

因みに、特許庁がインターネットによって提供している特許電子図書館には、「日本国周知・著名商標検索」によって周知又は著名商標を検索することが可能であるが、乙第1号証の1、2に示すように、引用商標の表示として、請求人が周知・著名であるものと看做されている訳ではないという検索結果が得られている。

イ 前記に関連して請求人が言わんとしているのは、引用商標が勝氏をイメージさせる点において周知であるというに過ぎない。もとより、そのような周知性は、決して出所表示機能を伴った商標としての周知性に該当しないことは、前記において指摘したとおりである。

現に、乙第2号証の1、2に示すように、引用商標の表示として、勝氏が周知・著名であるものと看做されている訳ではないという検索結果が得られている。たとえ、上記を度外視し、勝氏を出所としたうえで、引用商標の周知性が成立しており、かつ同条同項同号の「他人」とは、勝氏であると解したとしても、請求人と勝氏とは本来別人格である。このような場合には、本来請求人は、引用商標につき登録を得ることは客観的に不可能である。にも拘らず、請求人が引用商標につき、登録を得るに至ったのは、逆に引用商標が特定の業者を表示するような周知性が成立していなかったからに他ならない。

上記につき、請求人が言わんとしているのは、引用商標につき登録を得ることについては、勝氏からの承諾が得られているか、少なくとも当該承諾が推定されるということであろう。

しかしながら、同条同項同号の登録阻却事由は、押し並べて公益を根拠としている以上、「他人」の承諾の有無は、同条同項同号の該当性を左右しない。

したがって、たとえ請求人が上記の如き反論を行ったとしても、それ自体無意味という他はない。

ウ このように、同条同項同号に即しても、「座頭市」の商標としての周知性、著名性は、到底成立し得ない。

(3)かくして、「座頭市」が商標としての周知又は著名である旨の前提事実は存在しない。

3 無効理由の成否

上記の周知性、著名性の成否に関する立論に即するならば、請求人の主張は、その前提において成立しない以上、本来、個別の無効理由の成否を論ずる必要があるかについては、極めて疑問である。

但し、被請求人としては、以下のとおり、各無効理由が成立しないことを明らかにすると共に、請求人の主張に対する反論を行う。

(1)商標法第4条第1項第11号の該当性

ア 標章「CR泉谷しげるの「座頭市物語」」の構成に即して考察する。

(ア)上記において指摘したように、「座頭市」は、精々、映画及びテレビ放映の題号として周知化又は著名化されているに過ぎず、商標としては、決して周知化又は著名化している訳ではない。

このような場合、本件商標において、「座頭市物語」又は「座頭市」を要部と見做すことは、不要かつ不可能である。

乙第3号証に示すように、本件商標は、俳優泉谷しげる氏の承諾を得たうえで出願が行われているが、映画又はテレビ放映における題号である「座頭市物語」の部分と主演する俳優の氏名である「泉谷しげるの」の部分とは明らかに異質な要素である。

上記に加え、上記のような要素として異質であることを考慮するならば、「座頭市物語」の部分と「泉谷しげるの」の部分とは、対等かつ不可分な結合であって、称呼、観念及び外観の何れにおいても、一方が他方を凌駕するような関係にはない。

かくして、本件商標においては、「泉谷しげるの」の部分と「座頭市物語」とは、有機的な結合を形成しており、かつ俳優泉谷しげるが演ずることによる「座頭市物語」の観念を想定させるに十分である。

(イ)これに対し、引用商標は、「座頭市」であって、本件商標のような有機的な結合は形成されていない。

引用商標が勝氏のキャラクターを表わすという請求人の主張を尊重した場合には、却って、引用商標は、「勝新太郎の『座頭市』」を表示することにならざるを得ないが、当該表示に係る商標が、本件商標と相違するのは、蓋し当然と言わねばならない。

(ウ)かくして、結合商標の基本原則を考慮するならば、本件商標と引用商標とは、明らかに非類似の関係にある。

イ 請求人は、甲第14号証の解説に立脚して色々と述べているが、その言わんとする趣旨は、結合商標の一部に周知・著名部分が存在する場合には、当該部分を要部として考察し、類否の判断を行うべきであり、本件商標においては、「座頭市」が要部であって、称呼及び観念において双方は類似しているというにある。

(ア)しかしながら、前記において論じたように、「座頭市」について、商標としての周知性、著名性が成立しない以上、上記立論は、根本的に成立し得ない。引用商標が勝氏主演の「座頭市」を観念させるのであれば、俳優泉谷しげる氏を主演とする本件商標と少なくとも観念上相違するのは、必然的な帰結である。

(イ)同条同項同号の類否関係は、あくまで同一又は類似する商品又は役務を基準として対比が行われる。

したがって、引用商標について請求人主張の如き周知性又は著名性が成立するためには、引用商標が第28類において、特定の出所表示(請求人の論旨を尊重した場合には、請求人又は勝氏による出所表示)に基づいて周知性又は著名性が成立していなければならない。

しかしながら、第28類においては、例えばニューギンのように、周知又は著名な出所表示を伴った企業は多数存在するも、引用商標が第28類などの所定の商品又は役務の分野において、周知性又は著名性が成立しないことは、既に前記において指摘したとおりである。

(ウ)かくして、上記請求人の主張は、全く論外であって、到底成立し得ない。

ウ 設例に即して考察する。

(ア)夏目漱石の著作に係る小説「坊っちゃん」は著名である。しかるとき、請求人の立論を貫いた場合には、小説「坊っちゃん」の名称に接した取引業者においては、直ちに原著作者である夏目漱石を観念させ、かつ同氏に基づく識別機能を発揮し得る以上、同氏の相続人又は請求人と同じような同氏の相続人の関係企業のみが「坊っちゃん」の商標登録をなし得ることになろう。しかしながら、「坊ちゃん」を名称とする商標は、幾多の企業が取得しており、到底前記の如き請求人の立論は、貫き得ない状況にある(乙第4号証)。

(イ)登録第4990816号に係る「小説坊っちゃん」の要部は、「坊っちゃん」である。これに対し、登録第2494038号に係る「坊っちゃんとマドンナ」とは、小説「坊っちゃん」に登場する「マドンナ」と、「坊っちやん」との結合によって構成されており、単なる「坊っちゃん」とは非類似の関係にある。請求人の主張を貫いた場合には、「坊っちゃんとマドンナ」のうちの「マドンナ」とは、著名商標である筈の「坊っちゃん」の存在故に結合が行われているに過ぎず、あくまで要部は「坊っちゃん」の部分に存在し、結局、要部において共通している「小説坊っちゃん」と必然的に類似関係にならざるを得ない。しかるに、双方の商標は、第30類の菓子及びパンを指定商品としたうえで、独立した状態にて登録されており、上記請求人の立論が成立しないことを端的に証明しているのである。

(ウ)このように、「坊っちゃん」を名称の一部又は全部とする商標の登録状況についても、上記請求人の主張は、到底成立し得ない。

エ かくして、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当せず、かつこの点に関する請求人の主張は、速やかに排斥されねばならない。

(2)商標法第4条第1項第15号の該当性

ア(ア)本号は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標を登録阻却事由としているが、このような規定は、現行の不正競争防止法第2条第1項第2号と対応関係にある。

(イ)特定の商標が、上記の如き対応関係にある商標法第4条第1項第15号に該当するためには、「他人の業務に係る商品又は役務」を示す表示が存在し、かつ当該表示と上記商標とが「混同」を生ずるおそれがあることを不可欠とする。本号は、上記「商品又は役務」を示す表示について、商標登録出願又は商標登録が行われていることを要件としている訳ではなく、通常の解釈及び実務においても、前記表示については、必ずしも、登録商標に限らず、商標登録出願が行われていない商標、商号、氏名なども含まれるものとされている。

このような場合には、上記表示は、「他人」の業務に係る「商品又は役務」を示すものとして周知でなければならない。

何故ならば、当該周知性が成立しなければ、当該表示に接した第三者においては、特定の商標との間において、混同を生ずるおそれはあり得ず、本号の存在意義がなくなるからである。

即ち、本号は、前記のような対応関係にある不正競争防止法第2条第1項第2号と同じように、周知性を当然の前提としているのである。

(ウ)しかるに、「座頭市」においては、特定の商品又は役務の分野において、請求人、勝氏、更には第三者を出所とするような業務上の周知性など成立する余地は、全く存在しない。即ち、「座頭市」については、同条同項同号の該当性を論ずる前提が成立しない以上、本件商標が本号に該当することは、客観的にあり得ない。

イ 本号の該当性に関し、請求人が言わんとしている論旨は、パチンコメーカーにおいては、顧客吸引力を期待して、映画などのストーリーを題材とした表示を伴うパチンコ台を販売しているが、その場合には、当該映画などの権利者から許諾を受けるべきであり、本件商標がパチンコ遊技機に使用されていることは、勝氏という著名な座頭市シリーズの名声にフリーライドするか、又は同シリーズが有している出所表示機能を希釈化する以上、前記パチンコ遊技機が座頭市シリーズにおける主人公のキャラクターに関する権利者と何らかの関連性を有するような誤認が生ずるというにある。

しかしながら、このような立論は、以下に述べるように、全く失当かつナンセンスという他はない。

(ア)本号は、結局、商品の出所の誤認混同のおそれを前提としており、決して「他人の業務に係る商品又は役務」と関連するキャラクターの侵害を規定している訳ではない。

したがって、キャラクターに依拠している上記主張の論旨は、既に論外である。前記キャラクターに関し、請求人が言わんとしているのは、本件商標を使用した場合には、必然的に勝氏のキャラクターを観念させる以上、勝氏が主演した映画企業又はテレビジョン企業の役務と混同を生ずるおそれがあるということかもしれない。

しかしながら、「座頭市」が放映されたストーリーの「題号」に過ぎず、題号は本来商標権又は著作権などの効力を有し得ない以上、第三者においては、そのような題号の下に新たなストーリー、主演者の下に映画及びテレビジョン上の企画、放映を行うことは、当然可能である。

そして、前記の点は、勝氏のキャラクターを観念させる可能性があるとしても変わりはない。

現にビートたけし氏、即ち北野武氏の監督及び主演に基づく「座頭市」は、2003年企画かつ放映され、ベネチア国際映画祭監督賞を受けるに至っている(尚、上記「座頭市」においては、乙第6号証に即して、別途論ずるとおりである。)。

このように、「座頭市」を題号とする映画及びテレビジョンの企画の放映は、第三者において実現可能である以上(もとより、ストーリーの内容如何によっては、子母澤寛氏の承諾が必要となるが)、「座頭市」の表示がたとえ勝氏のキャラクターを観念させる場合があるとしても、特定の出所表示を発揮することにはならないし、現に当該出所表示が発揮されていないことは、これまで指摘したとおりである。

即ち、上記請求人の主張は、キャラクターを観念させることと、本来の出所表示機能とを混同した所産に過ぎず、全く問題となり得ない。

(イ)請求人は、上記主張において、ニューギンなどのパチンコ遊技機メーカーにおける映画などの内容を題材とする表示が行われたパチンコ遊技機の販売を問題としている。

しかしながら、上記題材に基づく表示は、何れもパチンコ遊技機の液晶表示におけるストーリーの題号として使用されており、決して商標としての使用が行われている訳ではない。

前記の点は、本件商標に関するニューギンの使用についても同様であって、かつこの点については、既に序文において指摘したとおりである。

このような場合、映画などの題材が、パチンコ遊技機の液晶画面に表示されたとしても、精々、著作権法上の使用許諾の要否が法律上の問題点として残存するだけであって、商標として使用が行われていない以上、本号の該当性の裏付けとなり得ないのは、蓋し当然というべきである。

(ウ)このように、請求人の立論は、如何なる意味においても、成立し得ない。

ウ 設例に即して、考察する。

(ア)映画「男はつらいよ」の主人公である「寅さん」は、主演者渥美清氏のキャラクターと共に著名である(その程度は、座頭市と同様か又はそれ以上の状況にある。)。

しかるとき、請求人の立論を貫いた場合には、第三者において、「寅さん」と同一又は類似の商標登録を行った場合には、必然的に渥美氏のキャラクターに関する権利者と一定の関係を有する者(例えば、前記映画のシリーズを製作した松竹株式会社)によって提供される商品であるが如き誤認が生ずる以上、本号に該当することにならざるを得ない。

(イ)しかしながら、第30類及び第22類において、松竹株式会社だけでなく、第三者においても、「寅さん」と同一又は類似の商標を取得しており、上記請求人の立論が貫き得ないことを客観的に証明しているのである(乙第5号証)。

「寅さん」が渥美氏のキャラクターと共に著名であるにも拘らず、例えば、「月の寅さん」が結合商標として登録を受け、単なる「寅さん」と非類似の扱いを受けているのは、要するに「寅さん」が映画の主人公、更には特定のキャラクターとして著名であるとしても、そのことは、決して所定の分類における商標として周知又は著名であることを意味していないからに他ならない。

(ウ)このように、「寅さん」を名称の一部又は全部とする商標の登録状況に即しても、上記請求人の主張は、到底成立し得ない。

エ かくして、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当せず、かつこの点に関する請求人の主張は、速やかに排斥されねばならない。

4 その余の事項

(1)このように、請求人の論旨は、凡そ商標法上の無効理由としての体裁をなしていない。

本件無効審判請求における請求人の基本的論旨は、結局、「座頭市」の名称に基づく表示が、勝氏の主演に基づいて同氏のキャラクターを表わしており、当該キャラクターが引用商標に化体されているというにある。

(2)しかしながら、そのような論旨を貫くのであれば、「座頭市」の名称を使用することが、即、勝氏のキャラクターに便乗したフリーライドであって、結局、勝氏のキャラクターに対する侵害に該当するという帰結に至らざるを得ない。

即ち、勝氏及び同氏の相続人、又は同氏が所有していた財産を管理している請求人は、「座頭市」の名称を使用する企画に対し、須く当該キャラクターの侵害を根拠とする権利主張が可能であったことに帰する。

(3)乙第6号証に示すように、ビートたけし氏が主演し、かつ北野武(同一人物)が監督した「座頭市」は、勝氏が監督した「座頭市」の後に企画化され、かつ平成15年9月放映され、しかもベネチア国際映画祭監督賞まで得るに至っている。

このような場合、請求人の主張を貫いた場合には、当然勝氏の相続人、又は同氏が所有していた財産を管理している請求人は、上記企画及び放映に対し、キャラクター侵害に基づく権利主張を行うのが、本来の推移である。

もとより、前記の如き権利主張は行われていないが、このような状況は、当該権利主張が本来不可能であって、単に放映されたストーリーの題号に基づいて、たとえ勝氏のキャラクターが観念され得たとしても、後に「座頭市」の用語を使用することは、決して当該キャラクターの侵害に該当しないからに他ならない。

(4)かくして、たとえ「座頭市」の名称が勝氏のキャラクターを観念させ得るとしても、そのことと、題号である「座頭市」の名称の使用の可否、ひいては、本件商標の有効性とは、本来別異の事項であるにも拘らず、請求人は、この点を全く理解していないが故に、本件無効審判請求のような無意味な主張に及んだものという他はない。

5 弁駁に対する答弁の要旨

(1)基本的考察事項

ア 「座頭市」に対する基本的評価

「座頭」とは、「一座の長」、「頭を剃った盲人」(乙第7号証、同第8号証)の趣旨であるが、「座頭市」の「座頭」は後者の趣旨であって、「市」は個人名に該当する。即ち、頭を剃った盲人である「市」の趣旨である。

上記趣旨の「座頭市」が商標登録の対象たり得ることは、本件商標及び引用商標が共に、商標登録を受けたことに照らしても明らかである。

請求人は、「座頭市」の名称が勝氏主演の映画又はテレビジョン等におけるシリーズによって周知化又は著名化したことを前提として、商標法第4条第1項第11号及び同第15号の該当性を主張しているが、前記シリーズにおける「題号」である「座頭市」が周知又は著名であるとしても、このような周知化又は著名化は決して勝氏一人の尽力によって実現した訳ではない。

即ち、主演男優である勝氏だけでなく、他の俳優、監督、プロデューサー等の総合力によって前記周知化又は著名化が実現した筈であって、このような周知化又は著名化に基づく何らかの利益を勝氏又はその遺族が関係している請求人のみが享受し得る法律上の根拠はもとより存在しない。

にも拘らず、請求人が勝氏のこれまでの映画及びテレビジョン等のシリーズにおける活躍に基づいて周知性及び著名性が成立したことを前提としたうえで、本件無効審判請求を貫くのであれば、そのような周知性及び著名性の趣旨は、あくまで勝氏のキャラクターを伴った周知性及び著名性に限定されるべきである。

何故ならば、勝氏又はその遺族が関与している請求人において、確保すべき周知性及び著名性については前記のように限定解釈することが、公平の理念に適っているからである。

現に、乙第9号証の引用商標成立過程における意見書に示すように、請求人が勝氏の遺族設立の会社であって、かつ勝氏の功績を強調したうえで、引用商標について登録査定が行われるに至ったことは、前記の点を客観的に裏付けている。

イ 題号としての周知性・著名性と商標としての周知性・著名性との関係

特定の題号Aが、文芸又は映画、更にはマスコミ等において周知化・著名化した場合に、当該題号Aを商品又は役務の出所表示として使用した場合には、前記題号としての周知性又は著名性は、商標としての周知性又は著名性に寄与し得ることについては、請求人も否定しない。

即ち、前記各分野において題号として周知化又は著名化するに至った過程が、後の商標としての使用について既に実質的に宣伝広告を行ったことと同じような意義及び効果を有することに照らしても、前記の寄与は、十分理解し得るところである。

しかしながら、前記題号Aが所定の商品又は役務において使用されたことがなければ、あくまで前記題号Aは題号としての周知性又は著名性に留まり、決して商標としての周知性又は著名性には至らないのである。

何故ならば、この場合には題号Aが特定の商品又は役務の出所表示機能を発揮したうえでの当該表示機能の蓄積はあり得ないからである。

請求人提出の甲各号証を参照するも、「座頭市」について請求人又はその関係者が所定の商品又は役務の分野において使用実績を有し、映画のタイトルの影響を受けて周知化又は著名化したことは全く明らかにされていない。

ウ 前記基本的事項に関する請求人の主張について

(ア)「座頭市」が決して周知・著名商標に該当している訳ではない旨の乙第1号証及び同第2号証につき、請求人は、前記乙号証の検索システムでは周知・著名商標の全てが蓄積されている訳ではない旨の但書きを引用して、「座頭市」の周知性・著名性が否定している訳ではないと主張している。

しかしながら、「座頭市」の商標としての周知性・著名性については、請求人が当然立証責任を負っているにも拘らず、請求人は、この点を何ら証明していないのである。

本件事案において、「座頭市」について周知性・著名性が成立するためには、本件登録商標の登録査定が行われた平成18年10月25日までに商標としての使用実績に基づいて周知又は著名となっていることを不可欠とする。しかしながら、請求人提出の甲号証は、何れも精々映画又はテレビジョン等のシリーズにおける題号としての使用実績のみが示されているに過ぎず、何ら商標としての使用実績に基づく周知化・著名化は証明されていない。

(イ)請求人は、甲第21号証の1ないし7を提出し、「座頭市」についてフィギュア、写真、パンフレット、仕込み杖、草わらじセット等の所謂キャラクターグッズが取り扱われていることがあると主張し、当該主張によれば、恰も「座頭市」によって商標としての使用実績が存在するが如くである。

しかしながら、甲第21号証は、平成19年8月30日段階の書面であって、決して本件商標の登録査定の時期(平成18年10月25日)までの状況(商標法第4条第1項第11号及び第15号該当性の認定判断には、当該時期に至るまでの客観的資料の提出を必要とする。)、更には出願の時期(同条同項第15号該当性の認定判断には、特に商標法第4条第3項に基づいて、当該時期までの資料の提出を必要とする。)までの状況を証明している訳ではない以上、上記主張は、主張自体失当という他はない。

のみならず、前記甲号証は、ヤフー株式会社の主催に基づいて、インターネットを介したことによる出品者による商品の出品と入札応募者による落札という販売形式を示しているに過ぎず、決して勝氏又は請求人による「座頭市」の商標としての使用に基づく実績を示している訳ではなく、ましてや請求人は、同社との間にて使用許諾契約を締結している訳でもない。

甲第21号証の1ないし7を個別に評価した場合、商品としての内容、即ち品質の表示であって、決して商標としての出所表示を示している訳ではない。

(ウ)勝氏、請求人及び映画製作会社が特定の商品化事業を営む企業グループを形成していることを明らかにするためには、宣伝広告活動をも含む取引状況に即して、これらの三者が前記商品化事業につき、グループとして企業活動を行っていることを客観的に証明しなければならない。

しかるに、そのような企業活動は全く証明されていない。

因みに、請求人が勝氏の遺族等を発起人として設立され、かつ当該遺族が役員に就任しているとしても、このような血縁関係は、決して共通の企業活動に基づく企業グループの形成を裏付ける訳ではない。

即ち、前記企業グループに関する請求人の主張は、単なる砂上の楼閣に過ぎない。

仮に、前記企業グループの形成に伴って、「座頭市」の名称に伴う商品又は役務の商品化が行われているのであれば、「座頭市」は、必然的に当該商品又は役務を表示する商標としての機能を発揮している筈であって、周知性及び著名性を前提とする請求人の主張を貫いた場合には、商標としても周知及び著名でなければならない。

エ 小括

かくして、請求人主張に係る「座頭市」の周知性及び著名性は、あくまで勝氏のキャラクターを伴った映画及びテレビジョンにおける題号としての周知性及び著名性に過ぎず、商標としての周知性及び著名性は、請求人の主張如何に拘らず成立し得ない。

(2)無効理由の成否

ア 商標法第4条第1項第11号の該当性

(ア)乙第8号証に示すように、助動詞である「の」とは、「あとに来る言葉の内容や状態・性質などについて限定を加えることを表わ」しており、本件登録商標においても変わりはない。

即ち、本件登録商標は「の」の用語によって「座頭市」の内容が「泉谷しげる」によって限定されており、要するに、俳優泉谷しげるが演ずることによる「座頭市物語」という趣旨の観念を明瞭に生じさせている。

「座頭市物語」は、「座頭市」と同様に、商標としての周知性及び著名性が成立していない以上、本件登録商標における「泉谷しげるの」の部分と「座頭市物語」との部分とは対等の結合であって、「座頭市物語」部分を要部と見なして引用商標である「座頭市」と類似関係にあるものと見なすことはもとより不可能である。

たとえ、「座頭市」が映画及びテレビジョン等のシリーズにおいて周知又は著名であるとの点を重視したとしても、引用商標である「座頭市」は、あくまで勝氏のキャラクターを前提としたうえでの周知又は著名であるというに過ぎない。

このような場合、本件商標において「泉谷しげるの」の部分の存在は、引用商標である「座頭市」の非類似を端的に証明するものというべきである。

因みに、乙第6号証に示すような北野武氏の監督及び主演に基づく「座頭市」は、勝氏が主演(部分的には監督をも務める)した「座頭市」と作品として異なっている以上、「北野武の座頭市」又は「ビートたけしの『座頭市物語』による座頭市物語」の名称は、引用商標である「座頭市」と観念だけでなく、証拠及び概観において当然相違するが、本件商標と引用商標とについても、全く同様に論ずることが可能であり、双方は十分識別可能な状況にある。

(イ)乙第10号証は、泉谷しげる氏のホームページに基づく同氏の履歴を示すが、同氏は1970年代に音楽レコード関係において、吉田拓郎、井上陽水等と共に活躍し、その後多数の映画に出演し、当該映画の美術、音楽をも担当し、文化庁芸術祭優秀賞、美術デザイン賞等を受賞し、画家としての作品を美術館において発表する等、多彩な俳優として著名である。「座頭市物語」の題号が所定のストーリーを予定していることを考慮するならば、勝氏又は北野武氏のような主演者の存在を予定している。このような場合、本件商標が泉谷しげる氏主演の「座頭市物語」を観念上表示することは当然であって、この点に関する請求人の主張が成立する可能性は「微塵も存在しない」というべきである。

(ウ)請求人は、本件登録商標の指定商品に係る取引業者・需要者においても、本件商標の要部である「座頭市物語」が容易に映画・テレビジョン等のシリーズにおける「座頭市」又はその主人公が観念され、「座頭市」の称呼が生ずるのであって、この点は第28類の指定商品に係る分野において実際に「座頭市」を付した商品が存在するか否かによって左右されないと主張している。

しかしながら、本件商標に接した取引業者及び需要者が観念するのは、あくまで泉谷しげる氏主演の「座頭市物語」であって、決して引用商標のような勝氏のキャラクターを前提とした「座頭市」、又は単純な「座頭市」ではない。たとえ「座頭市」が映画・テレビジョン等のシリーズにおいて周知又は著名であるという前提に立脚したとしても、取引業者及び需要者において想起するのは、あくまで前記シリーズにおける題号としての「座頭市」であって、特定の商品又は役務の表示としての「座頭市」ではなく、ましてや第28類の商品を表示する「座頭市」でもない。

このような場合、取引業者又は需要者においては、本件登録商標については、構成の一部として映画又はテレビジョン等のシリーズにおいて周知又は著名な題号を商標の構成部分として採用しており、引用商標については、商標の構成自体として前記周知又は著名な題号自体を採用しているという認識を想起する一方、前者において主演男優を泉谷しげるに特定している点において、後者と明らかに識別可能であるという認識を抱くことは十分可能である。

(エ)本件商標における「泉谷しげる」の前半部分を考慮するならば、本件商標の観念は、「泉谷しげるが主演する頭を剃った盲目の人である市を巡る物語」の趣旨であり、しかも泉谷しげる氏が著名であることを考慮するならば、当然同氏のキャラクターを伴っている。

これに対し、引用商標である「座頭市」の観念は、前記のように「頭を剃った盲目の人である市」という主人公自体を表示しており、しかも請求人の主張によれば、当該主人公はあくまで勝氏のキャラクターを伴っている。

このように、双方が表示する観念上の趣旨は本来相違しており、しかも観念における重要な要素であるキャラクターにおいても双方は相違している以上、双方の商標が観念上非類似であることは必然的な帰結である。

イ 商標法第4条第1項第15号の該当性

(ア)本件における同条同項同号の「他人」とは、請求人を指している。

このような場合、本件商標が同条同項同号に該当するためには、「座頭市」が請求人の「業務に係る商品又は役務」を表示していることを不可欠とするが、請求人の主張及び一連の甲号証を参照するも、請求人が「座頭市」に即して所定の商品又は役務に基づいて如何なる「業務」を行っているかにつき、全く明らかにされていない。

即ち、同条同項同号該当性については、当該該当性が成立する基本的前提が欠落しており、その意味ではこの点に関する請求人の主張は、主張自体失当である。尚、同条同項同号該当性の基本的前提として、不正競争防止法第2条第1項第2号と対応関係にある旨の被請求人の指摘に対し、請求人は、双方は対応関係にあるものと見ることは誤りであるが如き主張に及んでいるが、双方が周知性を必要としており、しかも「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずる」場合には、構成要件が充足される点において双方は明らかに対応関係にあり、この点を否定する請求人の主張こそ「誤り」という他はない。

たとえ、請求人が所定の商品又は役務に即して何らかの「業務」に関与しており、かつ「座頭市」が、当該業務を表示しているとしても(そのような前提は本来成立しないが)、請求人が採用している「座頭市」の表示は、あくまで勝氏のこれまでの業績を重視した場合には、結局勝氏のキャラクターを伴っていなければならない。

しかるに、本件商標においては、勝氏のキャラクター等何ら表示していない以上、その意味においても同条同項同号の該当性は問題となり得ない。

(イ)請求人においては、本件商標と「混同を生ずる恐れがある」同条同項同号の「他人の業務に係る商品又は役務」を表示するような要因が存在しないことについては、既にこれまで十分に指摘したとおりである。

敢えて請求人の定款上の目的(甲第4号証)に即して前記業務が存在し得るのであれば、そのような業務とは、第41類又は第42類の役務を提供する業務であり、当該業務上の表示が「座頭市」に相当することになろう。

しかしながら、既に本件商標と引用商標とが非類似の関係にある以上、本件商標と「座頭市」との間にて混同を生ずる恐れ等生ずる余地はない。特に請求人が「座頭市」の題号に即して第41類の役務を提供する場合において「座頭市」が「座頭市物語」の趣旨をも包摂することを想定したとしても、その場合の「座頭市物語」とは勝氏が主演する「座頭市物語」の観念を表示するものに他ならない。

これに対し、本件商標はあくまで泉谷しげる氏が主演する「座頭市物語」の観念を表示している以上、上記のような特別の場合においても、双方は表示する主演男優において相違しており、必然的に非類似の関係にある。

かくして、同条同項同号の該当性につき、最大限請求人にとって有利な解釈を行ったとしても同条同項同号の混同の恐れが生ずる余地はない。

ウ その余の事項に関する請求人の主張について

(ア)請求人は、乙第6号証の北野武氏作成の「座頭市」について、事前に北野氏から打診があり、請求人は口頭にて「許可」という形で権利行使を行ったと主張し、しかも、乙第6号証の1の記載部分を引用して色々と述べている。

しかしながら、請求人が口頭によって行った「許可」が、如何なる法律上の権利に立脚しているかは、全く不明である。即ち、このような主張を行ったところで、「座頭市」の表示が請求人の所定の商品又は役務につき一定の営業主体であったことを証明したことにはならない。

乙第6号証の1は、北野武氏監督兼主演の「座頭市」の撮影時期を明示すると共に、「座頭市」が勝氏の代表作であることを掲載している。

しかしながら、このような状況は決して「座頭市」という名称が映画の分野においてさえ勝氏及び請求人に独占され得ることを証明しているのではなく、逆に北野武氏のような第三者において当該名称を使用し得ることを証明しているのである。映画の作成と無関係な分野において、「座頭市」の名称に基づく表示について、所定の業務に係る商品又は役務に基づいて使用実績を有していない請求人が独占すべき権限を有していないのは、必然的な帰結である。即ち、請求人が幾ら勝氏を主演とする「座頭市」の人気及び映画としての著名性を強調したところで、そのことは、何ら請求人の所定の商品及び役務における営業主体としての実績に基づいて、同条同項同号の該当性を裏付け得ないことに変わりはない。

(イ)請求人は、甲第24号証の1の審決を引用して恰も「座頭市」について各種の商品化が行われることを推定すべきであるが如き主張を行ったうえで、既にキャラクターグッズに基づく商品化の展開が行われたが如き主張に及んでいる(甲第21号証の1ないし7)。

しかしながら、甲第24号証の1審決において、同条同項同号の適用を裏付ける「トトロ」又は「TOTOLO」の表示は、当該審判請求人に対し商品化の許諾を与えている筈の宮崎駿氏が創案した造語であって、当該造語が所定の業務に係る商品又は役務として周知化又は著名化したが故に、当該造語の使用を独占し得るに至ったのである。

これに対し、「座頭市」については勝氏又は請求人が創案した造語ではなく、しかも所定の業務に係る商品又は役務に関する表示として周知化又は著名化に至っていない以上、前記審決の事案と客観的な事実関係において明らかに相違しているのである。

請求人が引用している審決の引用部分は、著名なキャラクターや名称の商品化の際の承諾の必要性、更には著名な表示の使用に際し、正当な権利者からの使用許諾の必要性を説示しているが、あくまで商品化が行われていたが故に、第三者が抜け駆け的に商標登録を行ったことが是認されないことを明らかにしているのである。

しかるに、請求人は本件商標の登録査定に至るまで「座頭市」にて何らの商品化を行っていない以上、甲第24号証の1審決の前記説示部分はもとより妥当し得ない。

(ウ)請求人は、甲第14号証において「座頭市物語」が大きく表示されているのに対し、「CR泉谷しげるの」が極端に小さく添えられていることは、著名な表示「座頭市」への便乗の意図の表れであり、しかもニューギンにおいては、204件の商標を出願しかつ登録しているにも拘らず、本件商標について被請求人から使用許諾を受けたことは「泉谷しげるの「座頭市物語」」の開発・発売が請求人側に発覚することを恐れたことを意味しており、これらの事実は被請求人側の不正の目的を証明していると主張している。

しかしながら、甲第14号証及び乙第12号証の1、2からも明らかなように、「泉谷しげるの」の部分は「座頭市」と同等の大きさにて表示している画面も存在しており、決して「座頭市物語」の補完的な表示として扱われている訳ではない。請求人は決して「座頭市」の名称自体について独占すべき何らかの地位又は権利を有している訳ではなく、精々当該名称に伴う勝氏のキャラクターに基づく表示に限定されているが、甲第14号証からも明らかなように、ニューギンにおいては、あくまで泉谷しげる氏のキャラクターに基づく表示が行われており、勝氏のキャラクターの使用等客観的にあり得ないのである。

ニューギンにおいては、多数の商標につき、登録出願及び権利取得に至っているが、本件商標につき、被請求人から使用許諾を受けたのは、被請求人が本件商標の名称を創案し、かつ子母澤寛氏から使用許諾を受けたからに他ならない。

第5 当審の判断

1 請求人の使用する「座頭市」商標の周知性について

(1)請求人の提出に係る甲各号証及び請求の理由によれば、以下の事実が認められる。

(ア)甲第5号証は、座頭市シリーズの映画及びテレビドラマの一覧表と認められるところ、故勝新太郎(以下「勝氏」という。)演じる盲目のやくざ「(座頭)市」が諸国を旅して悪人を切る時代劇であり、1962年4月に映画「座頭市物語」が公開されて以来、1989年に映画「座頭市」が公開されるまでの27年間に、映画26本、テレビドラマ100本の作品が製作された。

(イ)甲第6号証は、日本映画産業統計(2006年)と認められるところ、該統計によれば、最後の作品となった映画「座頭市」が約11億円の配給収入を得、1989年の配給収入上位作品にランクされた。

(ウ)甲第7号証は、フリー百科事典「ウィキペディア」の「時代劇」に関する記事と認められるところ、該記事には、主要な時代劇作品の映画部門でもテレビドラマ部門でも「座頭市シリーズ」が挙げられている。

(エ)甲第8号証の1ないし27、甲第9号証の1ないし12及び甲第10号証の1ないし4によれば、前記映画及びテレビドラマは、シリーズのほぼ全部がDVD及びビデオ化されているだけでなく、京都映画祭や勝新太郎映画祭などの映画祭や各地の映画館で上映され、テレビでも再放送され、それが新聞記事(朝日新聞、読売新聞、毎日新聞)に掲載されている。

(オ)甲第12号証の1ないし7の読売、朝日、毎日、日経等の新聞記事によれば、前記「座頭市シリーズ」の主人公を演じた勝氏死去の際には紙面で大きく報じられ、その見出しには「『座頭市』『悪名』...個性的演技」、「『座頭市』際立つ存在感」、「『座頭市』など個性的演技」、「奔放『座頭市』」、「座頭市で大スター」などと大書きされている。

(カ)甲第13号証は、フリー百科事典「ウィキペディア」の「座頭市」に関する記事と認められるところ、該記事には、冒頭に「・・・勝新太郎の代表作として知られる。」と記載されているほか、概要の項目に「原作者は子母沢寛。子母沢は・・・盲目の侠客座頭の市に興味を覚え、彼について原稿用紙にして十数枚に書き記した。これが座頭市の原作となった訳だが、子母沢は、市についてこの十数枚しか書き記しておらず、現在、巷間に伝えられる座頭市の人となりは、大部分が勝新太郎主演で座頭市の物語が製作された時に作られたものである。また、原作の長ドスを仕込み杖としたのも勝である。」等と記載されている。

(キ)甲第21号証の1ないし7によれば、「座頭市」については、一部の作品がコミック化され、また、フィギュア、写真、パンフレット、仕込み杖、草わらじセット等のいわゆるキャラクターグッズが展開され、近年の再評価により、今後新たに商品化されることもあり得ると推認できる。

(2)前記で認定した事実によれば、「座頭市」の語は、勝氏の代表作として著名な映画・テレビドラマないしその主人公を表示するものとして、1962年から使用され、本件商標の登録出願時、そして、その登録査定時には、本件商標の指定商品に含まれる「遊戯用器具,おもちゃ」等の分野において、その取引者・需要者の間に広く知られていたと認めることができる。

2 商標法第4条第1項第11号について

本件商標は、前記第1のとおり、「泉谷しげるの「座頭市物語」」の文字及び記号よりなるものであるところ、その構成全体に相応して、「イズミヤシゲルノザトーイチモノガタリ」の称呼が生ずるものであるが、その称呼は冗長なものであり、さらに、「座頭市物語」の漢字部分を括弧で括っていることにより、該漢字部分が前半部にある「泉谷しげるの」の文字部分と視覚上分離して看取されるといえるものである。

そして、「座頭市物語」の文字は、前記座頭市シリーズ中に「座頭市物語」なる題名の作品も含まれていることから、該文字に接する取引者・需要者は「座頭市」の文字部分に強い印象を受けるものとみるのが自然である。

そうとすれば、本件商標は、その指定商品中、「遊戯用器具,ビリヤード用具,おもちゃ,人形,遊園地用機械器具(業務用テレビゲーム機を除く。)」について使用されたときには、これに接する取引者・需要者は、その構成中の「座頭市」の文字部分に強い印象を受け、これに着目するであろうことは容易に想像し得るところである。

してみれば、本件商標は、その構成全体から「イズミヤシゲルノザトーイチモノガタリ」、「座頭市物語」の文字部分から「ザトーイチモノガタリ」の称呼をそれぞれ生ずるとともに、「座頭市」の文字部分から、単に「ザトーイチ」の称呼及び「座頭市」の観念をも生ずるものといわなければならない。

他方、引用商標は、前記第2のとおり、「座頭市」の漢字及び「ZATOHICHI」の欧文字を上下二段に横書きしてなるものであるから、該構成文字に相応して、「ザトーイチ」の称呼及び「座頭市」の観念を生ずるものと認められる。

そうとすれば、本件商標と引用商標とは、「ザトーイチ」の称呼及び「座頭市」の観念を共通にする類似の商標であり、また、共に「座頭市」の文字を含んでいることから、外観においてもある程度近似した印象を与えるものである。

また、本件商標の指定商品中の「遊戯用器具,ビリヤード用具,おもちゃ,人形,遊園地用機械器具(業務用テレビゲーム機を除く。)」は、引用商標の指定商品中の第9類「ぱちんこ式スロットマシンその他のスロットマシン,ぱちんこ式回胴式遊技機を内容とする家庭用テレビゲームおもちゃ,ぱちんこ式回胴式遊技機を内容とする業務用テレビゲーム機,ぱちんこ式回胴式遊技機に関する家庭用テレビゲーム機用プログラムを記憶させた記憶媒体」及び第28類「遊戯用器具,ビリヤード用具」と同一又は類似するものである。

したがって、本件商標の指定商品中、「遊戯用器具,ビリヤード用具,おもちゃ,人形,遊園地用機械器具(業務用テレビゲーム機を除く。)」についての登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものである。

3 商標法第4条第1項第15号について

本件商標は、被請求人がこれをその指定商品中、商標法第4条第1項第11号に該当する商品以外の商品に使用した場合であっても、これに接する取引者・需要者をして、前記のとおり、本件商標の構成中において強い印象を受ける「座頭市」の文字に着目して、勝氏の代表作として著名な映画・テレビドラマないしその主人公を連想又は想起するというべきであるから、その商品が同映画・テレビドラマないしその主人公のキャラクターに関する業務を営む請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものといわなければならない。

したがって、本件商標の指定商品中、「囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,愛玩動物用おもちゃ,運動用具,スキーワックス,釣り具,昆虫採集用具」についての登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものである。

4 被請求人の主張について

被請求人は、たとえ「座頭市」の名称が勝氏のキャラクターを観念させ得るとしても、そのことと、題号である「座頭市」の名称の使用の可否、ひいては、本件商標の有効性とは、本来別異の事項である旨主張している。

しかしながら、前記したとおり、「座頭市」の語は、勝氏の代表作として著名な映画・テレビドラマないしその主人公を表示するものとして、商品「遊戯用器具,おもちゃ」等の分野において、取引者・需要者の間に広く知られていたと認められるので、被請求人が本件商標をその指定商品に使用した場合、その商品が同映画・テレビドラマないしその主人公のキャラクターに関する業務を営む請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのようにその商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものとみるのが相当であるから、この点に関する被請求人の主張は採用することはできない。

5 結び

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。

よって、結論のとおり審決する。

Next Action

次の一手につながるサービス

類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。

次の一歩へ

商標の登録可能性を無料で確認するか、費用の目安を料金表・シミュレーターで把握できます。