結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 取消2007−301474(T2007−301474/J2) |
|---|---|
| 審判種別 | 取消 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第840720号商標(以下「本件商標」という。)は、「トラピストの丘」の文字を横書きしてなり、昭和43年6月3日に登録出願、第30類「菓子、パン」を指定商品として、同44年12月12日に設定登録され、その後、3回にわたる商標権の存続期間の更新登録により、現に有効に存続するものである。そして、本件審判は、平成19年11月16日に請求されたものである。
請求人は、商標法第51条第1項の規定により本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第19号証を提出した。
(1)本件商標は、通常活字書体の片仮名と平仮名及び漢字の組み合わせで横書きに「トラピストの丘」と表されてなり、「トラピストノオカ」なる称呼を生ずる。
(2)これに対し、請求人は、使用商品菓子、パンに関し、以下の3件の登録商標を有している。
(a)登録第997086号商標は、「TRAPPIST」と通常の英文大文字で表され、「トラピスト」なる称呼を生じ、かつ、トラピスト修道院の略称としての観念を生ずる。
(b)登録第4087357号商標は、別掲(2)のとおり、「TRAPPIST」と通常の英文大文字で表され、この上段中央に簡略図形で光を放射した燈台マークを伴っており、「トラピスト」及び「燈台の聖母トラピスト」なる称呼を生じ、当然ながらトラピスト修道院の略称をも伴うものである。
(c)登録第4016165号商標は、片仮名の活字体の横書きで「トラピスト」と表され、同じくトラピスト修道院の略称の称呼と観念を生ずる。
上記(a)ないし(c)の商標は、各々指定商品に「菓子、パン」を含んでいる。これら3件の登録商標の出願から登録に至る経過は原簿謄本の記載を引用する。
請求人が保有する上記(a)ないし(c)の商標(以下、併せて「引用商標」という。)は、各々の出願日に始めて特許庁に出願されたものでなく、例えば、昭和10年商標出願公告第3018号(甲第5号証)のように、「トラピスト TRAPPIST」と縦書きに表示されて特許庁に出願され、更新されたものもあるし、あるいは存続期間が満了し、書体を幾分変えて出願されたものもある。しかし、上記引用商標の如く、「トラピスト」、「TRAPPIST」の商標は途切れることなく存続し、今日に至っている。
(3)請求人である、燈台の聖母トラピスト修道院は、極めて古い時期にトラピスト財団法人と称していたことがあるが、昭和28年10月15日宗教法人法の下に法人成立し、当初から、北海道上磯郡上磯町字三ツ石392に修道施設を有し、宗教活動を行っており、平成18年2月1日に北海道北斗市三ツ石392に行政区画変更により所在地変更となったものである。
(4)請求人トラピスト修道院の長い歴史と修道生活の厳しい戒律生活は、余人をもって容易に理解するに困難である。
初期キリスト教会の中に、神のために独身を守る人々がおり、修道者がキリスト教会の歴史に現れたのは3世紀に入ってからと言われる。修道院の歴史と変遷は、甲第8号証として提出するトラピスト修道院なる小冊子6頁以下を参照賜わりたいが、フランシス・コノラの森にいた数名の修道士は指導者として聖ロベルトを招き、修道生活を始めた、とある。1098年20名の修道士はモレスムからシトーの荒野へ新しい修道院を建て、これがシトー会(トラピスト会)の始めである、との記述もある。
1664年、フランスのトラップ修道院より改革運動が起こり、改革を受入れた修道院をトラピスト修道院と呼ぶようになった。我国では北海道上磯郡に1896年燈台の聖母トラピスト修道院として創立され、荒涼たる荒野を開拓し、今日の基礎を固めた。生活の資として、農耕、牧畜、酪農に力を入れ、神への祈りをささげた戒律の生活を行っている。トラピスト修道院は、当地、北海道の酪農の源流であり、今や、北海道函館の一地域のみならず、東北一円、東京を含む関東、そして、関西においても、「トラピスト」と言えばトラピスト修道院の略称として周知であり、これを疑うものはない。
トラピスト修道院は男子修道士で構成されているが、女性修道士は別にトラピスチヌ修道院と称し、函館に別の修道院を創立し、同じように、生活の資として、「バター飴、菓子、クッキー」などを生産し、神への信仰生活を行いつつ、勤労の毎日を送っている。
このように、「トラピスト」、「トラピスチヌ」といっても、仏語女性形、或いは、仏語男性形からの言葉で、厳律シトー会(別名トラピスト会)の修道女又は修道者という意味で、日本では、女性形、男性形の区別がないので、女子修道院でもトラピストという名称を用いている修道院もあるとされている。
(5)被請求人は、本件商標と同じように、「トラピスチヌの丘」なる商標を特許庁に出願し、登録したことがあり、出所の混同を生ずるとの理由で、特許庁においては、昭和61年審判第2385号事件として審判審理が行われ、取消認容の審決が平成6年11月7日なされ、さらに、平成7年(行ケ)第17号審決取消請求事件の東京高等裁判所において審理され、原告(昭和製菓)の請求は棄却するとの判決の言渡しがなされ、該判決は確定し、トラピスチヌの丘なる登録商標は商標法第51条第1項に該当し、取消されたのである。
(6)「トラピスチヌ」という商標登録があるのに「トラピスチヌの丘」なる模倣商標を使用し、同じ「バター飴,クッキー」なる菓子を製造販売し、さらに一方、トラピストなる本件商標を充分に認識しつつ「トラピストの丘」なる模倣商標の使用を継続する行為はまことに悪質である。
(7)引用商標の2件の登録商標は、「TRAPPIST」及び「TRAPPISTと燈台の図形の組合せ」であり、「トラピスト」なる称呼を生ずる。また、3件目の「トラピスト」商標は、「トラピスト」なる称呼を生ずる。かつまた、「トラピスト修道院」は海を見守って東南の丘に建っている。
これに対し、本件商標は、トラピストの建っている丘というより、トラピスト自体を直感させ、区別のつけようがない。「トラピスト」を省略し、「の丘」なる名称部分に意味があるわけでなく、取引きでは必ず「トラピスト」の名称が前提として存在するわけで、「トラピスト」と「トラピストの丘」商標は極めて相紛らわしい類似商標である。
(8)本件商標は、「トラピストの丘」なる活字体で一連に表されている。そして、使用商標(イ)(審決注:別掲(1)参照(以下「本件使用商標」という。))として、甲第9号証に見られるように、中央に「トラピストの丘」と表し、下段に「函館チーズタルト」と黒地に白抜きで表し、上段には「HAKODATE CHEESE TART」と白抜きに表し、中央の「トラピストの丘」なる文字を籠図形の楕円形でかこむように構成してなっている。
チーズタルトの日本文字及び英文字は、函館なる地名とチーズタルトなる菓子の普通名称であり、この商標の要部は「トラピストの丘」にあることは疑う余地がない。また、チーズタルトは、名称:焼き菓子とあり、菓子の一種であること疑いを入れない。
(9)被請求人はバター飴も大量に製造しており、使用商標(ロ)として同社のカタログを提出する(甲第10号証)。
No.500,No.700,No.1000と附された包装箱には、男子のトラピスト修道院ではなく、女子のトラピスチヌ修道院の礼拝堂を含むレンガ色の建物全体図と聖母マリア立像とが向かい合って描かれており、下に小さく、「トラピストのバター飴(R)(審決注:(R)は、原本においては○内に「R」の文字)と書かれている。また、No.200,300,500の透明ポリエチレン袋の表面にも、トラピストでなく、「トラピスチヌの丘バター飴」と書かれ、建物と聖母マリアの立像が向かい合って描かれている。
(10)札幌物産センターの商品陳列台に陳列された「トラピストの丘」商標使用のクッキー,バター飴の写真を提出する(甲第11号証)。また、五稜郭タワーの販売センターの商品陳列台に陳列された「トラピストの丘」商標使用のクッキー,バター飴のカラー写真を提出する(甲第12号証)。
上述の札幌物産センターと五稜郭タワーのカラー写真及び昭和製菓社製のカタログは、被請求人が「トラピストの丘」及び「トラピスチヌの丘」をクッキー、バター飴商品に使用している事実を立証するために昭和63年審判第13692号事件(不使用取消審判、以下「前事件」という。)で、被請求人自身から特許庁に提出されたものである。
(11)請求人(燈台の聖母トラピスト修道院)の商標の使用態様によれば、クッキー包装箱の展開図(甲第13号証)、及びバター飴ポリエチレン包装袋(甲第14号証)の前面に、「トラピスト」の文字と共に、トラピスト修道院の中央に塔を持つレンガ色の細長い建物を小高い丘に配置した図柄を描いたものである。
被請求人は「トラピストの丘」の商標登録を行いつつ、その実際の使用の態様においては、つねに包装箱とか包装袋にトラピスチヌの建物とマリア立像を配置した図形を描きつつ、これを使用し、トラピストの修道院の製品であるかのように振る舞っており、何人でも本来のトラピスト修道院の製品であるかの如き錯覚を持ち、出所に誤認混同を生ずることは疑いを入れないところと思料する。厳格な戒律を守るトラピスト修道院とトラピスチヌ修道院を混同した絵柄を使用するとき、不快に感ずる取引者も多くおられるものと思料する。
(12)トラピスト修道院の会憲第43条には、本修道会の会員は、「トラピスト」、「トラピスチヌ」並びその派生語の使用権を第3者に譲渡することは厳禁されている。これは、平成9年4月7日付けでトラピスチヌ修道院の院長から訴訟代理人宛の手紙に詳細に記述されており、前掲の平成7年(行ケ)第17号審決取消請求事件で東京高等裁判所に提出されている筈である。この事件では、原告と被告の商品販売の規模、取引方法の違いと、本件の出所の混同のおそれ、さらには、商標法第51条第1項の故意の意思について詳細に判示しているところである。本件トラピスト修道院の事案も全く同様に解さるべきである。
トラピスト修道院及びトラピスチヌ修道院では、被請求人との間に、トラピスト及びトラピスチヌの丘をめぐって実に20年以上にわたって争いが続き、やっと前掲東京高等裁判所の判決でトラピスチヌ商標は取消になり、終止符がうたれたところである。ところが、被請求人側は「トラピストの丘」商標を使用し、一向に使用を止めようとしない。事情を知らない通常取引者は混乱するばかりである。被請求人は、トラピスチヌを使ったり、又はトラピスト商標を使ったり、使い分けたりしている。
(1)被請求人は、「本件商標は取得当時より使用継続後(中略)平成8年以降一旦使用を停止したが、平成14年より新製品の完成に伴い新包装デザインのもと再び使用を始めたものである。」と述べている。
請求人は既に述べたように、本件商標に対し不使用取消審判を提起し、特許庁において長期間審理が行なわれたことがあり、その審理においては彼等は不使用の事実を徹底的に否認し、全国的に広く流通販売していたと主張し、売上帳まで提出し、結局不使用の事実はない、として本件請求人側が敗訴になっている。
需要者も請求人も被請求人が何故包装を変更したのか、変更した時期は全く判らないし、不使用の期間も漠然としていて何等の根拠もない。
新包装デザイン(乙第1号証)は、チーズタルトに使用していると称しているが、旧包装の製品(あめ)はどうなったのか。販売を既に中止したのかよく判らない。全面的に売れたと豪語する製品を長期間中止するのも納得できない話である。
被請求人は、請求人が既に述べたように、製品(あめ)の包装にトラピスト修道院とか女子トラピスチヌ修道院の絵を強調して描き、つねに「トラピストの丘」商標は、本来のトラピスト修道院の一種であるかのように振舞って販売を強調してきた。
これは正に「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたもの」に該当し、議論の余地はない。
(2)別件の不使用取消審判では様々な使用事実を立証するための証拠を提出し、逆に今回の審判では「被請求人が本件商標を全く使用していない(中略)ものをあたかも現在大量に製造販売しているかの如き主張を繰り返している。」旨を述べているが、請求人にとって製品をすり換えたり、ラベルが変わった時期等判らないのである。
(3)以上、要するに被請求人は、「その包装袋を平成8年以降一旦使用を停止した」とあるが、これを正しいと受け止めることはできない。平成8年頃といえば前事件の審判の審理が行なわれていた時期と一致し、この審判の審決日は平成8年4月4日になされている。
同審決書16頁〜17頁によれば、昭和61年6月5日に印刷所から「トラピストの丘バター飴ラベル」10万枚が被請求人宛に納品されたことを示しており、それを理由に不使用の事実はないとしているところである。包装袋10万枚と云えば、実に膨大な数量である。これを平成8年以降一挙に使わないというのもおかしな話である。むしろ、印刷した包装袋を小分けにして使用し、長い間、例えば新デザイン包装袋が軌道に乗るまで使用していたとするのが自然である。
被請求人は実に長期間「トラピストの丘」及び「トラピスチヌの丘」商標と共に本件トラピスト修道院の教会の絵柄を併せ使用し、請求人等の製品と出所の誤認混同を意図的に計画して売上を伸ばしていることは間違いのないところと思料する。
被請求人は、結論と同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証を提出した。
(1)商標法第51条第1項について
本条項は、商標権者が自己の所有する登録商標に類似する商標を不当に使用することにより、一般公衆の利益を損ねるような事態を生ずること防止しようとすることをその目的とするものである。
(2)本件商標と本件使用商標
本条項の適用にあたっては、被請求人の本件使用商標が本件商標に類似する商標であるかどうか、本来の登録商標にいかなる付記・変更が施された結果、類似する商標といえるものになったとされるのかが大前提となる。
本件商標は、登録取得当時より使用継続後、取扱商品の検討・再展開のため平成8年以降一旦使用を停止したが、平成14年より、新製品(チーズタルト)の完成に伴い新包装デザイン(乙第1号証)のもと再び使用を始めたものである。平成14年以降に使用している本件使用商標の形態は、乙第1号証に示すテープ状ラベルのみであり、当該テープ状ラベルを付した商品の形態としては、片面段ボール紙製の包装箱の外周面に当該テープ状ラベルを巻き付けた乙第1号証に示す形態と、甲第9号証に示す透明の包装袋の外周面に直接当該テープ状ラベルを巻きつけた形態との2種類のみである。
かかる観点から本件商標と本件使用商標(乙第1号証及び甲第9号証)とを対比するに、本件商標は「トラピストの丘」の文字を同大同間隔に平易かつ一般的な書体で横書きに表してなるものである。これに対し、本件使用商標も同じく「トラピストの丘」の文字を同大同間隔に平易かつ一般的な書体で横書きに表してなるものである。そして、これら文字より生ずる称呼・観念・外観いずれよりするもなんら異なるところはない。なお、本件使用商標にあっては当該商標部分をいわゆるリボン輪郭とされるもので囲い製品名を表示しているが、かかるリボン輪郭は、デザイン上広く用いられているありふれた装飾的デザインの一種であり、また製品名を表示することは当然のことで、これらをもって登録商標の付記・変更とされるものではない。
登録商標と使用商標の同一性については、寸部違わぬ全く同一のものの使用のみが認められるというものではない。なぜならば、商品取引の場にあっては商品の形状・売買取引の実情において最も適切な表現のものを選択するのが普通であり、願書に貼付した商標見本そのもののみを現実の商品取引の場で使用すべきとすることは商標の本質を理解せず取引の実態にそぐわないもので、その登録商標以外の使用を一切否定し排除するのは相当でない。パリ条約第5条C(2)においても、審判決例や学説においても、絶対的同一を要求するものではなく登録商標としての機能、社会通念上の識別性に影響しない変更についてその商標の保護が縮減されるべきでないとするのが定着した考え方となっている。
したがって、本件商標と本件使用商標とは商品識別標識として取引場裡において全く同様に理解され、かつ、その結果としてなんら本件商標と異なる識別機能を果たすべき余地は有り得ないのである。
結局、本件使用商標は、本件商標に格別の付記・変更を施した類似の商標にあたらず、本件商標そのものの使用に他ならない。
(3)本件商標と引用商標の類否
請求人は、「トラピスト」、「TRAPPIST」等よりなる登録商標を所有する旨述べる。これらをもって主張しようとする趣旨は必ずしも定かではないが、引用商標としてその類否に触れておく。
本件使用商標よりは、その一体的構成に照らし「トラピストノオカ」の称呼と「(特定会派に属する)修道士の集う丘」の観念のみを生ずるものである。「トラピスト」でもなく「丘」でもない一連に構文された記述的商標にあってはことさら特定箇所を抽出し観察するのではなく常に全体を一体のものとして把握し認識されるとみるのが自然というべきだからである。これに対し、引用商標よりは、「トラピスト」、「(特定会派に属する)修道士」の称呼・観念のみを生ずるものである。
そうとすれば、両者は明らかに相紛れる恐れのない非類似のものといわなければならない。このことは、引用商標の存在にも拘らず本件商標が適法に登録されている事実、さらに数多くの審決例に徴しても認められるところである。
(4)商標法第51条第1項適用の可否
前述のとおり、本件使用商標は本件商標に付記変更を加えた類似の商標に当らないと認め得るもので、適法に登録された本件商標の行使にほかならない。
そうとすれば、本請求は前記法条適用の前提となる要件を欠くものであり、その他請求人の主張に論及するまでもなく、すでに本件商標が本条項に該当しないものであること明らかなものといわざるを得ない。
(5)トラピスチヌ商標との関連について
請求人は件外トラピスチヌ商標と本件とを関連付けて種々述べているが、被請求人としてこれに反論するものである。すなわち、当該トラピスチヌ商標は登録第1272868号として適法に登録されたものであり、被請求人がこれを本件商標とあわせ使用していたことについて何等問題とされるいわれはない。また、当該トラピスチヌ商標が取消審判の結果、取り消されており本件もこれと同様に解されるべきと主張するが、当該事件と本件とは全くその事例を異にするもので、本件審理になんら影響を及ぼすものではない。すなわち、当該事例においては、被請求人の商品容器デザイン上に注意の行き届かないところもあったが、文字の大小の表現に問題があり、これが登録商標の付記変更にあたるものであり、かつ包装全体のデザインも考え合わせれば、結果商品の出所の混同を招く恐れがあると判断され、残念ながら被請求人の主張が通らず取り消しとなったものである。
本件使用商標は、本件商標に付記・変更を加えた類似の商標にあらず、且つ全体的デザインを一新したもので、まさに本件商標そのものの正当な使用というべきものである。付記・変更に基づく結果を理由とする上記事例とはその本質・内容を全く異にするものである。
(6)請求人提出の書証について
請求人は、被請求人の本件使用商標を証するためと称して甲第9号証ないし同第12号証、同第17号証及び同第18号証を提出するとともに、実際の使用にあたっては常にトラピスチヌの建物とマリア立像を包装箱・袋に描きトラピスト修道院の製品であるかのごとく振る舞っており出所の誤認混同を生ずると主張する。しかし、甲第9号証においては、そのようなことは全く明らかにされていない。甲第10号証ないし同第12号証、同第17号証及び同第18号証については、1989年前後すなわち19年程前のものと思われるものをあたかも現在のものであるかのごとく利用し、被請求人が本件商標を全く使用していない「バター飴」、「クッキー」をあたかも現在大量に製造販売しているかのごとき印象を与える主張を繰り返しているのである。被請求人は、19年程前の取扱商品や包装デザインについて、これを全く否定するものではないが、前項(5)において述べたとおり、取扱商品の検討・再展開のため平成8年以降その使用を一旦停止し、その停止以降指摘のような事実は全く存しない。なお、被請求人はこれまでにおいても本件商標の使用について問題はなかったと確信しているが、一歩譲って本件商標の使用を巡り遠い過去に何らかの問題があったと仮定しても、その使用中止後長期間一定の歳月を経過した事例についてこれを取り上げることは相当でないこと明らかと言えよう。にもかかわらず、現在進行形とも思われる表現で誤った主張を繰り返し展開することは極めて遺憾なことである。
前述のとおり、商標法第51条第1項適用の前提要件ともいうべき本件商標と本件使用商標との関係において、本件使用商標は本件商標そのものの使用とされるべきものである以上、すでにこの点において請求人の主張は認めらず、その余の主張についても前記反論のとおり認められるものではない。
本件審判は、商標法第51条第1項の規定に基づき商標登録の取消しを求めるものであるところ、同条項の趣旨は、商標権者が、故意に、指定商品についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品に類似する商品についての登録商標と同一又はこれに類似する商標の使用をして、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをした場合に、商標権者に対する制裁として、その商標の登録を取り消すというものである。
したがって、同条項に基づき本件商標の登録を取り消すためには、被請求人が上記類似範囲にある商標の使用をすることにより、請求人の業務に係る商品と出所の混同を生ずるものをしたこと、及びその使用について故意があったこと、つまり商品の出所の混同を生じさせることを認識していたことが要件となると解される。
そこで、この観点から以下に検討する。
(1)当事者の提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 写真(甲第9号証)には、製造者を「昭和製菓株式会社」(被請求人)とする「焼菓子」の包装の上に、別掲(1)に示す標章を表したテープ状のラベルが貼付されている。そして、包装裏面の該ラベルには、「賞味期限 2007.12.3」が表示されている。
イ 写真(乙第1号証)には、製造者を「昭和製菓株式会社」(被請求人)とする「焼菓子」を包装したと思われる段ボール箱の上面に、別掲(1)に示す標章を表したテープ状のラベルが貼付されている。そして、段ボール箱下面の該ラベルには、「賞味期限 2008.3.16」が表示されている。
ウ 被請求人に係る製品案内(甲第10号証)には、バター飴と題した箇所に、No.500、No.700、No.1000として、いずれも「トラピストの丘バター飴」と表示して、その上方に缶入りバター飴の現物写真が表され、その缶の上面には、トラピスチヌ修道院と思われる写真が表されており、その下部に「TORAPISUTO NO OKA」と「BUTTER AME」、「トラピストの丘」と「バター飴」の各文字をいずれも上下二段に横書きした表示がある。そして、缶の横面には、「トラピストの丘バター飴」の文字が表されている。
また、「No.1000 トラピストの丘バター飴」と表示し、その上に包装袋入りの商品現物写真も掲載されている。そして、その包装袋の上部には「トラピストの丘バター飴」の文字が表示され、下部にはトラピスチヌ修道院を描いたと思われる図が表されている。
さらに、製品案内の裏表紙には、製品名欄に4種類の「トラピストの丘バター飴」が表示され、それに対応する「内容量」、「形態」、「入数」及び「上代」が掲載されている。
しかし、この製品案内の作成あるいは頒布の時期を窺い知る表示等は見当たらない。
エ 札幌物産センターに係る写真(甲第11号証)には、売り場の看板に「トラピストの丘」、「クッキー」、「バター飴」及び「(株)昭和製菓」の各文字が表示されており、その売り場には、包装形態からみて上記ウのNo.1000の「トラピストの丘バター飴」(袋詰め)と同じものと思われる商品が展示されていることを認めることができる。そして、これらの写真には、カメラ内の表示機能によって撮影年月日を表示したと認められる「’89 10 6」の文字が写っている。
オ 五稜郭タワーに係る写真(甲第12号証)には、売り場風景が写されており、そこには、包装形態からみて上記ウのNo.1000の「トラピストの丘バター飴」(袋詰め)と同じものと思われる商品が展示されていること、また、必ずしも鮮明ではないが、上記ウの缶入りのNo.500、No.700、No.1000と同じものと思われる商品が展示されていることを認めることができる。そして、示された3枚の写真のうちの1枚には、カメラ内の表示機能によって撮影年月日を表示したと認められる「’89 10 10」の文字が写っている。
カ 請求人に係ると認められる商品の包装箱(甲第13号証)には、その表面の上部に黄色の「トラピスト」の文字を表し、その下に黒の縁取りをした黄色の「バター飴」の文字を表し、これら文字の左側に、別掲(3)の標章(以下「燈台図形」という。)を表し、箱面全体にトラピスト修道院の建物風景と思われる写真が配されている。そして、箱の横面には、燈台図形と白塗りの「トラピスト」及び白く縁取りした「バター飴」の文字、やや図案化した白塗りの「TRAPPIST BUTTER CANDY」の文字が表されている。また、包装箱の底面には、黒塗りの「トラピスト」の文字と籠字風の「バター飴」の文字が表されており、製造者や名称等とともに賞味期限「枠外側面に記載」とあるが、その記載は見当たらない。
キ 請求人に係ると認められる商品の包装袋(甲第14号証)には、その表面の上部に赤色の「トラピスト」の文字を表し、その下に黒の縁取りをした黄色の「バター飴」の文字、さらに、赤い縁取りをした黄色の「TRAPPIST BUTTER CANDY」の文字を小さく表し、これら文字の左上の黄色い三角形状内に、燈台図形を表し、その下の半分にはトラピスト修道院の建物と思われる写真が配されている。そして、包装袋の裏面には、製造者や名称等とともに賞味期限「枠外左上部に記載」とあり、左上部に「070326」と表示されている。
ク 平成19年11月3日付の日本経済新聞(甲第16号証)には、請求人に係る焼き菓子についての紹介記事が掲載され、「函館はもとより、日本各地の物産展などで知名度が高い『トラピストクッキー』。」等の記述が認められるが、商標に関わる記述等は見いだせない。
ケ 写真(甲第17号証)には、前記ウのNo.1000の「トラピストの丘バター飴」(袋詰め)と同じものと思われる商品が写されている。しかし、この商品の販売時期を明らかにする表示等は見いだせない。
コ 被請求人に係る「トラピストの丘バター飴 1000売ポリ袋入 500売白布袋入 売上数」と題する一覧表(甲第18号証)には、昭和60年ないし同62年の売上数及び売上額が記載されている。各年の「1000ポリ袋」の欄の右側には、「20,340」、「20,172」及び「20,508」と記載され、これらは、売上数を示すものと認められる。
(2)上記(1)ア及びイによれば、その賞味期限の表示からみて、被請求人は、平成19年12月以前から同20年にかけて、商品「焼菓子」について、本件使用商標を使用したことが認められる。
(3)上記(1)ウないしオ及びケに係る被請求人による商標の使用事実については、製品案内からは時期を特定し得ないが、甲第11号証及び同第12号証における写真内の撮影年月日が平成元年(1989年)10月6日あるいは同年10月10日と推認されること、写真に表され、また製品案内に掲載されたNo.1000の商品「トラピストの丘バター飴」(袋詰め)がいずれも同じものとみるのが自然であることを併せ勘案すれば、これらは該撮影年月日の頃のものとみるのが相当である。
ちなみに、上記の時期に関する認定は、これらの証拠が前事件において、本件商標の使用を証明するために被請求人が提出した資料と同じものであるとする当事者の主張とも合致する。
(4)ほかに、被請求人の本件商標に係る使用事実を窺わせる証拠は見いだせない。
以下、本件使用商標に関し、本条項の該当性について判断する。
(1)本件商標と指定商品
本件商標は、「トラピストの丘」の文字からなるものであるところ、その構成各文字は、ゴシック体による同じ書体、同じ大きさ、等間隔をもって一連に横書きしてなるものであり、「菓子、パン」を指定商品とするものである。
(2)本件使用商標と使用に係る商品
本件使用商標は、別掲(1)のとおり、中央に、青色の同じ書体、同じ大きさ、等間隔をもって一連に横書きした「トラピストの丘」の文字(「丘」の右下に小さく○内に「R」の文字を表している。)を配し、その上段には青色の弧状の帯の内に「HAKODATE CHEESE TART」の文字を白抜きに表し、下段には下方へ僅かに曲がった青色の矩形内に「函館チーズタルト」の文字を白抜きで表し、上段の帯と矩形の間に青色図形を加えて全体がリボン状となるような図形をもって、該「トラピストの丘」の文字を囲むようにした構成からなるものである。
ところで、本件使用商標のうち、「HAKODATE CHEESE TART」及び「函館チーズタルト」の各文字部分は、当該商品が函館産あるいは函館で販売される焼菓子「チーズタルト」であることを表し、商品の品質を表示するものであり、また、リボン状の図形も装飾のために付記したものとみるのが相当であるから、上記した構成においては、中央に表された「トラピストの丘」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たす(以下、「要部」という。)というべきである。
なお、請求人も「この商標の要部は『トラピストの丘』にあることは疑う余地がない。」として、本件使用商標において「トラピストの丘」が要部であるとする点については、これを自認するところである。
また、甲第9号証及び乙第1号証に係る使用商品は、「焼菓子(チーズタルト)」と認められる。
(3)本件商標と本件使用商標及び商品の比較
本件商標と本件使用商標とを比較すると、本件使用商標は、「トラピストの丘」の文字が要部と認められるものであり、これと本件商標とはその称呼、観念を共通にするものである。しかしながら、外観においては、本件商標は、黒色の一般的な書体の一つであるゴシック体で表されたものであるのに対して、本件使用商標の要部は、青色で縦方向の線に対して横方向の線を細く表してなるものであるから、両商標は、色彩及び書体を異にする類似の商標というべきものである。
また、本件使用商標の商品は、「焼菓子(チーズタルト)」と認められるものであって、「菓子」に属するものであるから、該商品は、本件商標の指定商品「菓子、パン」に含まれるものであることが明らかである。
してみると、本件使用商標の使用行為については、本件商標と類似する商標がその指定商品に使用をされたというのを相当とするものである。
(4)請求人の使用に係る商標等について
請求人が使用する商標は、甲第13号証及び同第14号証によれば、白色、黄色、黒色又は赤色の半濁点を除き一様に肉太で表された「トラピスト」の片仮名文字(以下「トラピスト商標」という。)、図案化した「TRAPPIST BUTTER CANDY」の欧文字及び燈台図形からなり、いずれもトラピスト修道院の建物と思われる写真を配してなるものである(以下、これらを総称するときは、「請求人使用商標」という。)。
また、その使用商品は、「バター飴」と認められる。
(5)本件使用商標の使用による商品の出所の混同及び故意について
本件使用商標は、トラピスト商標と綴りを同じくする「トラピスト」の片仮名文字を有してなるものであるが、上記したように本件使用商標の要部は、その構成各文字を同じ書体、同じ大きさ、等間隔で表した「トラピストの丘」からなるものであって、「トラピスト」の文字部分のみを殊更強調するものではなく、一連一体に表されているものである。そして、本件使用商標の要部とトラピスト商標とは、それぞれ前記のとおり、その表示態様が明らかに異なるものであり、さらに、本件使用商標の構成中のリボン状の図形部分をみても、請求人使用商標とは明らかに別異のものである。
そうとすれば、請求人使用商標が「バター飴」等の菓子について使用された結果、需要者の間に広く知られているとしても、本件使用商標の要部は、むしろ、本件商標の使用にあたって、一般に採択・使用されるデザイン的な変更の範囲内にとどまるものとみるのが相当であるから、かかる変更された態様をもって、直ちに被請求人が請求人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたということはできず、ほかに、請求人の提出した証拠によっても、被請求人が請求人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたと認めるに足りないというのが相当である。
したがって、被請求人は、故意に請求人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたということはできない。
(6)請求人の主張について
ア 請求人は、「新包装デザイン(乙第1号証)は、チーズタルトに使用していると称しているが、旧包装の製品(あめ)はどうなったのか。販売を既に中止したのかよく判らない。全面的に売れたと豪語する製品を長期間中止するのも納得できない話である。」と主張している。
ところで、商標法第52条は、同法第51条第1項の規定による審判は、商標権者の同項に規定する商標の使用の事実がなくなった日から5年を経過した後は、請求することができないと規定するところ、当該商標の使用の事実の立証は、請求人が負うべきものと解されるものである。
これを本件についてみると、甲第10号証ないし同第12号証及び同第17号証は、前事件において、本件審判請求時から18年ほど前に被請求人が本件商標の使用を証明するものとして提出したものであることに当事者の争いがないものである。そして、上記甲各号証に表された商品は、平成8年以降の使用の事実がないとの被請求人の主張に対して、請求人は、前記2(1)アないしオ及びケにおいて認定した商標の使用事実のほかに、取消の原因に係る商標の使用事実について何ら明らかにしているとはいえない。
そうすると、請求人が主張する本件商標に係る前事件の審決時(平成8年4月4日)前の使用事実、すなわち、前記2(1)のウないしオ及びケに示された事実は、既に10年余を遡る過去のものというべきであり、その事実のみによっては、使用時期からみて、本件における取消請求の理由となり得ないことは、商標法第52条の規定に照らしても明らかというべきであり、そして、その使用が前事件の審決時以降、本件審判請求時までの間においても行われていたことを請求人が明らかにしていない以上、本件においては、甲第10号証ないし同第12号証及び同第17号証によって、商標登録を取り消す理由とすることができないものといわざるを得ない。
イ 請求人は、前事件の審決における、10万枚のラベルが被請求人宛に納品されたとの認定事実を挙げ、「包装袋10万枚と云えば、実に膨大な数量である。これを平成8年以降一挙に使わないというのもおかしな話である。むしろ、印刷した包装袋を小分けにして使用し、長い間、例えば新デザイン包装袋が軌道に乗るまで使用していたとするのが自然である。」と主張している。
前事件の審決(甲第19号証)は、その16頁から17頁において、「昭和61年6月5日に『有限会社さとう印刷』から『トラピストの丘 バター飴ラベル』10万枚が被請求人宛に納品されたことが認められる。」と認定しているところ、当該ラベルは、上記審決における被請求人の主張に徴すれば、被請求人の住所の移転に伴いその変更を示すために包装袋に添付したものと認められ、ラベル10万枚は確かに少ない数量とはいえないものである。
しかしながら、当該ラベルは、昭和61年6月5日に被請求人へ納品されたと上記審決において認定されており、また、昭和60年以降の3年間にポリ袋入バター飴について各年とも年間合計で約2万個(袋)の売上数(甲第18号証)があったと認められることをも勘案すれば、ラベル10万枚との関係からみても、その納品時期から相当期間を経た平成8年以降その使用を止めたという被請求人の主張が、不自然で不合理なものであるとすべき格別な理由はないというべきである。
請求人の主張する前記ラベルや包装袋の使用事実が、平成8年以降本件審判請求に至る間にも現にあったことを首肯するに足りる的確な証拠が見いだせない以上、当該主張は、あくまで請求人の憶測の域をでないものといわざるを得ない。
ウ 商標法第51条第1項の規定による取消審判は、ただ単に、類似した商標を有する者との関係を調整する規定ではなく、一般公衆の利益を害するような登録商標の使用をした場合についての制裁規定と解される。そうとすれば、商標登録の適否について審理する無効審判等とは異なり、一般公衆の利益を害するような登録商標の使用の事実の存否が前提となり、これが認定されない限り、仮に請求人の所有又は使用する商標と本件商標とが類似するものであるとしても、それ自体をもって、商標登録を取り消す理由とはなし得ないものである。
エ さらに、請求人は、「トラピスチヌの丘」商標についての被請求人に係る過去の経緯を挙げているが、前記のとおり、本件においては、「故意」はなかったというのが相当である。
加えて、「トラピスチヌの丘」商標は、本件商標とは商標の構成が相違する別異の商標というべきであり、また、当該「トラピスチヌの丘」商標の登録取消の事案における商標の使用態様と本件における使用態様とは、例えば、「の丘」の文字部分と他の文字間の大小の差異や図の有無等、使用態様の観点からみて全く相違するから、本件とは事案を異にするものである。
よって、請求人の上記にかかる主張は、いずれも採用することができない。
以上のとおり、本件使用商標は、その使用が特段の変更使用とは認められず、故意に他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたということはできないから、商標法第51条第1項の規定に該当するとして、本件商標の登録を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
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