結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2007−890029(T2007−890029/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第4874789号商標(以下、「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成からなり、平成15年12月15日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服」を指定商品として、同17年6月24日に設定登録されたものである。
請求人が引用する登録第2324652号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(2)に示すとおりの構成からなり、昭和63年6月30日に登録出願、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、平成3年7月31日に設定登録され、その後、同13年8月7日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。また、指定商品については、同14年5月15日に第20類「クッション,座布団,まくら,マットレス」、第22類「衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿」、第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「被服」に書換登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
同じく、登録第2329483号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(2)に示すとおりの構成からなり、昭和63年6月30日に登録出願、第22類「はき物(運動用特殊ぐつを除く)かさ、つえ、これらの部品および附属品」を指定商品として、平成3年8月30日に設定登録され、その後、同13年8月7日に商標権の存続期間の更新登録がなされたものである。また、指定商品については、同14年5月15日に、第18類「傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄」、第25類「履物」及び第26類「靴飾り(貴金属製のものを除く。),靴はとめ,靴ひも,靴ひも代用金具」に書換登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
なお、以下において、引用商標1及び2とを併せて「引用商標」という。
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第23号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)請求人は、本件商標と類似し、かつ本件商標の出願時には、日本におけるその著名性の故を以て出所につき混同を生じるおそれありと思われる自ら所有する国際的に著名な上記第2の引用商標を引用し、本件商標は商標法第4条第1項第11号又は同第15号の規定に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項第1号の規定によりその登録は無効にされるべきものと主張する。
(2)商標法第4条第1項第11号の該当性について
本件商標と引用商標との類否について検討すると、本件商標は、別掲(1)のとおり、歩行状態の結果を示す三個の犬等の「獣類の足跡」と思しき図形と「Sarah」の欧文字の結合した構成よりなるところ、これらが常に一体不可分のものと認識されるとみるべき特段の事由も見出し得ないばかりでなく、構成中の上記の三個の犬等の「獣類の足跡」と思しき図形部分も独立して自他商品の識別力を有するものと理解されるものである。
しかして、請求人は、一応、本件商標からは、「Sarah」の欧文字から「サラ」又は「サラー」の称呼の他、歩行状態の結果を示す三個の犬等の「獣類の足跡」と思しき図形部分から、「サンコノジュウルイノアシアト」の称呼及び「三個の獣類の足跡」の観念が生ずることを否定するものではない。
しかし、上記三個の犬等の「獣類の足跡」と思しき図形は、歩行することによって印される足跡の極めて自然な状態を描いてなるものであって、三個であることに格別の意味があるものとの印象を受け難いものであるから、これに接する取引者、需要者は、これを単なる「獣類の足跡」の図形として認識する場合も決して少なくないものといわなければならない。
斯かる事実を考慮した場合、本件商標中の該図形部分からは、これを端的に表現した「ジュウルイノアシアト」の称呼及び「獣類の足跡」の観念をも生ずるものと認められる。
これに対し、引用商標もこれが犬の足跡かどうかは断定出来ないまでも、何らかの「獣類の足跡」と思しき図形を表したものであることは明らかであるから、引用商標は、「ジュウルイノアシアト」の称呼及び「獣類の足跡」の観念をもって取引に資されるとするのが自然である。
したがって、両商標は、「ジュウルイノアシアト」の称呼、「獣類の足跡」の観念を共通にする類似のものであること明かである。
因みに、上記請求人の主張の正当性は、本件商標と同種事件において「称呼、観念において互いに紛れるおそれがある」と判断されたその他の同種審決事例の存在からも明らかである。(甲第5号証ないし同第10号証)
参考審決(1) 無効2003−35390審決
参考審決(2) 無効2004−89002審決
参考審決(3) 昭和47年審判第3782号審決
参考審決(4) 昭和50年審判第7418号審決
参考審決(5) 昭和50年審判第7796号審決
参考審決(6) 昭和57年審判第6598号審決
なお、参考審決(1)及び参考審決(2)は、請求人が過去において引用商標に類似する被請求人の登録商標に対し、無効審判を請求した事件である。
(3)商標法第4条第1項第15号の該当性について
引用商標の著名性について述べるに、請求人会社の創業者、ウーリッヒ・ダウズインは学生時代に生協向けにテントやザック、スリーピングバッグ等の製造・販売を始め、その後「使う身になってこそ、良い製品を作ることが出来る」と考え、世界各地でアウトドア旅行を行い、偶々カナダのユーコン川でカヌーツーリング中にグリズリーに襲われ怪我の静養中に、川に残された野生動物たちの足跡を見て「人間を過酷な自然環境から守る、野生動物たちの毛皮(スキン)のような製品」を作ることを思い立ち、特に環境を破壊することなく自然の掟に従い、自然と共存する狼(ウルフ)をイメージし、「ウルフスキン」の名前が生まれ、又彼の愛読書の著者である「ジャック・ロンドン(Jack London・1876〜1916・米国の小説家)」から「ジャック(Jack)」と「狼の皮」を意味する「ウルフスキン・wolfskin」を組み合わせたブランドネームと「狼の足跡」の図形マークが今日請求人製品を象徴するものとして、世界中のアウトドア・スポーツの愛好家に知られた存在となっている。
請求人会社の設立は1981(昭和56)年で、国内では東京都豊島区在の(株)キャラバンを通じ1986(昭和61)年に初めて輸入販売され、今日では三越、小田急、京王を始め直営店が14店舗の他、特約店は全国に340店舗に広がり、アウトドア関連グッズが販売され、又アウトドア専門誌である「山と渓谷」(山と渓谷社発行)や「BE−PAL」(小学館発行)等に広告を掲載している。(甲第11号証ないし同第15号証)
したがって、本件商標がその指定商品に使用されれば、その出願時及び登録査定時には著名な引用商標との類似性から、請求人の商品との関連において出所につき混同を生じるおそれは明らかなところである。
或いは仮に、本件商標は、引用商標と商標自体が非類似であったとしても、商標の構成やアイデア等から容易に著名な引用商標を連想させるから、これをその指定商品に使用する場合においては、請求人の業務に係る商品と出所につき混同を生じるおそれは明白なところであり、いずれの場合も、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に該当するものである。
(4)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号又は同法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録は無効にされるべきものである。
(1)商標法第4条第1項第11号の該当性について。
1)答弁書中2(1)指定商品の類否
本件商標に係る指定商品は第25類であり、他方請求人の引用する登録商標中、引用商標2に係る指定商品は、第18類、第25類及び第26類であるから、相互に類似するものでないとされた点は、確かに特許庁の商標審査基準によれば、抵触関係は見られない。
しかしながら、人間が身に付ける商品である点は、各々関連性を有する商品といえる。また、本件商標は、引用商標1とは、依然として商品の区分第25類の指定商品「被服」において特許庁の商標審査基準による抵触関係は存在する。
2)答弁書中2(2)商標の類否
被請求人は、本件商標及び引用商標は、需要者、取引者が「ジュウルイノアシアト」なる称呼をもって、または「獣類の足跡」の観念をもって取引に供するとはいうことができない、旨主張している。
この点については、請求人は、当初より、本件商標については、「三個の犬等の『獣類の足跡』と思しき図形」と「Sarah」の欧文字を併記したもの。引用商標1及び引用商標2については、「犬等の『獣類の足跡』と思しき図形商標」と限定した上で、その主張を展開している。
しかして、被請求人のいう「獣類」とは、「4足で歩く哺乳動物」を意味するから、ありとあらゆる4足で歩く哺乳動物を包含する、との主張は明らかに失当である。
因みに、広辞苑によれば、「獣類」とは、「哺乳動物の通称。けもの。けだもの。」との意であり、「けもの(獣)」とは、一般には、人間が犬とはじき弓を使って狩猟の対象とする哺乳動物を意味するものと解されるものである。(甲第18号証)
さらに、「犬等」の文言につき付言すれば、インターネット上のフリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」(甲第19号証)によれば、「イヌ(犬)科は、イヌ、キツネ、タヌキ、オオカミなどを含む群」とのことである。
また、同上足跡図鑑(甲第20号証)によれば、1.ロコモーション(locomotion)(移動の足跡)の種類中、項番2の指向性(足跡)は、「かかとをつけずにつま先立った状態で、肉球で体重を支える。音を立てずに接近したり、長距離を走る走行性に適している。(例)イヌ科(イヌ、キツネ、タヌキ)等。足跡の図。」と紹介されている。
これらの事実を勘案すれば、本件商標中の「三個の犬等の『獣類の足跡』と思しき図形」、引用商標の「犬等の『獣類の足跡』と思しき図形」については、これを「犬等」と限定したことは、当を得たものと考える。
しかして、本件商標からは、一応、「Sarah」の欧文字から「サラ」又は「サラー」の称呼の他、歩行状態の結果を示す三個の犬等の「獣類の足跡」と思しき図形部分から、(犬等の)「サンコノジュウルイノアシアト」の称呼及び(犬等の)「三個の獣類の足跡」の観念が生ずること、これを否定するものではない。
しかしながら、上記三個の犬等の「獣類の足跡」と思しき図形は、歩行することによって印される足跡の極めて自然な状態を描いてなるものであって、三個であることに格別の意味があるものとの印象を受けがたいものであるから、これに接する取引者、需要者は、これを単なる(犬等の)「獣類の足跡」の図形として認識する場合も決して少なくないものといわなければならない。
斯かる事実を考慮した場合、本件商標中の該図形部分からは、これを端的に表現した(犬等の)「ジュウルイノアシアト」の称呼及び(犬等の)「獣類の足跡」の観念をも生ずるものと認められる。
これに対し、引用商標も犬等の「獣類の足跡」と思しき図形を表したものと認識せしめられるから、引用商標は、(犬等の)「ジュウルイノアシアト」の称呼及び(犬等の)「獣類の足跡」の観念を以て取引に資されるとするのが自然である。
したがって、両商標は、(犬等の)「ジュウルイノアシアト」の称呼、(犬等の)「獣類の足跡」の観念を共通にする類似のものであること明かである。
この点については、被請求人自身が、その答弁書中「(3)の商標法第4条第1項第15号の該当性について」の項において、「商標自体の印象、即ち、一方が温和な仄々とした犬の印象と、他方が野生味溢れる狼の印象」と述べられていることからも、請求人との間に、大きな見解の相違は見られないこと明かである。
3)答弁書中2(3)審決例
被請求人は、「請求人は、審決例を6件(甲第5号証ないし同第10号証)挙げ、本件商標が引用商標に類似するとの請求人の主張を裏付けようとしているが、事案を異にするものであり、逐一反論するまでもない。」と一蹴されている。
しかしながら、審決例6件(甲第5号証ないし同第10号証)は、本件と同種事件において「称呼、観念において互いに紛れるおそれがある」と判断された特許庁の審決事例であり、まさに、これらは請求人の主張の正当性を立証するものである。
殊に、甲第5号証の無効2003−35390審決、甲第6号証の無効2004−89002審決は、請求人が過去において引用商標に類似する被請求人の登録商標に対し、登録商標の無効審判を請求した事件である。
両審決の特許庁の判断においても、対象となる本件・引用両商標は、イヌ(犬)科、すなわち、イヌ、キツネ、タヌキ、オオカミなどの獣類の足跡を説明したと思料される判断がなされている。
(4)商標法第4条第1項第15号の該当性について
被請求人は、請求人がまず引用商標の著名性について、甲第11号証ないし同第15号証を提出しているが、その使用に係る商品を特定していない旨、主張されている。
これについては、甲第14号証及び同第15号証に記載の請求人製品について、代表的な商品を挙げると、被服としては、ティーシャツ、トレーナー、リラックスパンツ、プルオーバー、ジャケット、フリース、ズボン、ベスト、セーター、手袋、帽子等、かつ登山・ピクニック用のリュックサック、テント、靴等の丈夫で機能的なアウトドア関連商品である。引用商標は、これらの商品の正面、背面、えり等や商品掲載頁の右肩等に多数付されている。
因みに、甲第6号証の無効2004−89002審決の4頁15〜17行目においては、「引用標章は、請求人の取扱いに係る『被服を中心としたアウトドア関連商品』を表示するためのものとして著名性を有する」と認定されている。
次に被請求人の所有とされる登録第1724500号商標(乙第2号証及び同第3号証)について述べるに、この商標は、乙第2号証から明らかな如く、元々、埼玉県草加市在の「有限会社プレイヤーバッグ」社が所有していたものである。
被請求人は、これを同社より平成15年12月5日付け譲り受けたものであり、したがって、この商標は、請求人が「(請求人製品が)初めて輸入販売」された1986(昭和61)年前に使用していたとの被請求人の主張は、信憑性に欠け失当である。
なお、被請求人は、最後に「本件商標は、引用商標に類似するものではないことは上述したとおりであり、そして、本件商標を付した商品は、主としてタウンウェアであるのに対し、引用商標のそれは、請求人の主張及びアウトドア製品であること、さらに商標自体の印象、即ち、一方が温和な仄々とした犬の印象と、他方が野生味溢れる狼の印象からすれば、何らの連想をも抱かせるものでもないことは客観的に明らかである。」と結論付け、前段の主張とは相反する主張を述べられている。
ところで、その中で被請求人は、「本件商標を付した商品は、主としてタウンウェア」とされるが、「タウンウェア」とは、まさにどういう商品なのか、被請求人こそ、この点を明らかにすべきである。
なお、請求人は、「仮に本件商標は引用商標と商標自体が非類似であったとしても、商標の構成やアイデア等から容易に著名な引用商標を連想せしめるから、これをその指定商品に使用する場合においては、請求人の業務に係る商品と出所につき混同を生じるおそれがあるから、本件商標は本号の規定に該当する」旨主張した。
この主張の根拠は、本件と類似すると思われる事件において、「犬と熊のごとく全く異なった動物が蓄音器の前に配されている図形は、相互に称呼、観念を異にするが、一方が著名商標であり、独自の発想に基づいて構成されているものであれば、両商品はあたかも同一会社又は特殊関係者のものであるごとく混同を生じるおそれがある。」(昭和32年抗告審判179号=甲第21号証)と判断された事例の存在からも明らかである。
被請求人は、結論と同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第3号証を提出した。
請求人は、本件商標に対し、引用商標1及び2を引用して、本件商標は商標法第4条第1項第11号または同第15号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録は無効にされるべきである旨主張している。しかし、請求人による主張は何ら根拠のないものである。
(1)指定商品の類否
本件商標に係る指定商品は、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣類」(17A01〜17A04,17A07,21A01,24A03)である。
他方、請求人の引用商標2に係る指定商品は、第18類「傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄」、第25類「履物」及び第26類「靴飾り(貴金属製のものを除く。),はとめ,靴ひも,靴ひも代用金具」(22A01,22A02,22A03,22B01,22C01)である。
したがって、これらに係る指定商品は相互に類似するものではない。
(2)商標の類否
請求人は、本件商標及び引用商標が「ジュウルイノアシアト」の称呼、「獣類の足跡」の観念を共通にするから類似である旨、主張している。
しかし、商標の類否判断に際しては、これに接する需要者、取引者の見地に基づき、識別機能を発揮する称呼、観念等を基準として判断されるべきである。
かかる見地に立脚して請求人の主張する称呼、観念を勘案した場合、需要者、取引者が「ジュウルイノアシアト」なる称呼をもって、または「獣類の足跡」の観念をもって取引に供するとは到底いうことができないところである。
即ち、「獣類」という場合、一般には「4足で歩く哺乳動物」を意味するから、イヌ、ネコ、クマ、パンダ、カバ、サイ、キリン、ラクダ、ウシ、ウマ、シカ、イノシシ、ウサギ、リス、ビーバー、イタチ、アライグマ、ネズミ、カンガルー、コアラ等、ありとあらゆる4足で歩く哺乳動物を包含することになる。
しかし、これら各動物の足跡、例えば、イヌの足跡とウマの足跡が異なるものであることは容易に理解できるところである。
つまり、「獣類の足跡」の観念、称呼を生ずると言うことは、イヌの足跡やウマの足跡等、4足で歩く哺乳動物の足跡をひっくるめて同一である、ということと同じである。
したがって、本件商標及び引用商標に接する需要者、取引者が、識別標識たる本件商標及び引用商標について、「獣類の足跡(即ち、4足で歩く哺乳動物の足跡)」の観念や「ジュウルイノアシアト」の称呼をもって取引に供するとの主張は、「シカ」の図形商標から「ウマ」ならず「ケモノ」の称呼、観念を生ずると主張していることと同じであって、まさに取引の実情から乖離した議論である。
むしろ、本来の商標類否の考え方である、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察するならば、本件商標における図形部分の外観上の特徴、及び、欧文字部分から生ずる称呼「サラー」をもって取引に供されるというべきである。
したがって、本件商標は、引用商標と類似するものではない。
(3)審決例
請求人は、審決例を6件(甲第5号証ないし同第10号証)挙げ、本件商標が引用商標に類似するとの請求人の主張を裏付けようとしているが、事案を異にするものであり、逐一反論するまでもないところである。
むしろ、本件商標に対しては、甲第1号証にもあるとおり、異議2005−90501事件において登録維持の決定が確定しているが、本件商標と引用商標1との類否について、「本件商標は、たとえこれを構成する個々の図形において、引用商標の図形と近似するところがあるとしても、あえて個々の図形部分を抽出して比較しなければならない特段の事情も見出し得ないから、両商標は、これを時と所を異にして比較したときには、外観上十分に区別し得るものである。」 「また、本件商標と引用商標1は、たとえ『獣類の足跡』の称呼、観念において類似するところがあるとしても、これが上記外観上の差異を凌ぐものとは認められない。」と判断されている(乙第1号証)。
また、本件審判事件と当該異議事件を比較した場合、本件審判事件において、新たな主張、立証があるわけではなく、むしろ、商品が非類似の商品を指定商品とする登録商標を引用するだけである。
したがって、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとの請求人の主張は失当である。
請求人は、まず引用商標の著名性について主張し、甲第11号証ないし同第15号証を提出している。そこでは、「ジャック(Jack)」と「狼の皮」を意味する「ウルフスキン・wolfskin」を組み合わせたブランドネームと「狼の足跡」の図形マークが今日請求人製品を象徴するものとして、世界中のアウトドア・スポーツの愛好家に知られた存在となっている、と主張している。
しかし、その「請求人製品」とは何か、何ら特定されていない。そもそも或る商標が商標法第4条第1項第15号に該当するというためには、他の商標が特定の商品または役務に使用された結果、一定の出所表示機能を発揮していることが前提である。しかるに、請求人は、その使用に係る商品を特定していない。
また、請求人は、「ブランドネーム」と「図形マーク」が請求人製品を象徴すると主張しているが、請求人の主張、立証すべき点は、当該「図形マーク」である。しかるに、請求人製品を象徴するものとして、「ブランドネーム」と「図形マーク」とを併せ主張している事実自体、「図形マーク」が単独では周知、著名となっていないことを自白しているのと同じである。
ましてや、被請求人は、登録第1724500号商標を所有しているのである(乙第2号証及び同第3号証)。この登録商標は、「犬の足跡」の図形を構成要素とする図形商標であるが、昭和56年9月30日に登録出願、昭和59年10月31日に登録され、現在有効に存続するものである。したがって、請求人が「(請求人製品が)初めて輸入販売」されたとする1986(昭和61)年の5年前に、この登録商標が出願され、現在に至っているのである。我が国において先に出願された商標が平穏無事に使用されているにも拘らず、何故、後願の商標との間で出所の混同を生ずるおそれがあると言われなければならないのか、到底承服できるところではない。
さらに、請求人は、本件商標が本号に該当するとの主張を、2段階に分け、まずは本件商標と引用商標との類似性を根拠に、次に本件商標と引用商標が非類似であったとしても、商標の構成やアイデア等から容易に著名な引用商標を連想させることを根拠に、本号に該当すると主張している。
しかし、本件商標は、引用商標に類似するものではないことは上述したとおりである。そして、本件商標を付した商品は、主としてタウンウェアであるのに対し、引用商標のそれは、請求人の主張及び甲第11号証以下を見ると、アウトドア製品であること、さらに商標自体の印象、即ち、一方が温和な仄々とした犬の印象と、他方が野性味溢れる狼の印象からすれば、何らの連想をも抱かせるものでもないことは客観的に明らかである。
したがって、本件商標が商標法第4条第1項第11号にも同第15号に該当する、との請求人の主張は失当である。
(1)本件商標の指定商品は、前記1のとおり「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服」であるのに対し、引用商標2の指定商品は、第18類「傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄」、第25類「履物」及び第26類「靴飾り(貴金属製のものを除く。),靴はとめ,靴ひも,靴ひも代用金具」である。
しかして、本件商標の指定商品と引用商標2の指定商品とは、用途や品質、生産者、販売経路等を異にするものであり、非類似の商品と判断されるものである。
してみれば、本件商標は、引用商標2の指定商品と同一又は類似する商品に使用をするものとはいえないから、商標の類否に論及するまでもなく、引用商標2との関係においては、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(2)そこで、本件商標と引用商標1との類否について判断する。
(ア)本件商標は、別掲(1)のとおり、図形と「Sarah」の文字とから構成されるところ、図形部分は文字部分と分離独立しても自他商品の識別標識としての機能を果たし得ると認められる。そして、当該図形部分は、下部に黒塗りで丸みのある不整形の山形図形、その上部に上記山形図形の凸部に沿うように4つの黒塗りの縦長楕円様図形を配した同じ図形を、縦に3個並べ、一番上と一番下のものが左斜め大凡45度の角度で、また、中のものが、右斜め大凡45度の角度で傾斜し、そのうえ、一番上のものに対して中のものが右へ、最下部のものが左へと、一番上のものの垂直線に比して少しづつ左右にずれる位置に配されたものである。
そして、当該図形部分は、3個の図形全体から、下から上方向へ歩行した獣の足跡として看取されるとするのが相当である。
また、本件商標は、構成中「Sarah」の文字に相応して「サラー」の称呼を生ずるものであるが、図形部分から特定の称呼が生ずるものとは認められないというのが相当である。
(イ)一方、引用商標1は、別掲(2)のとおり、全体が黒塗りの図形で、中央下部に丸みのある不整形の山形図形、その上部に上記山形図形の凸部に沿うように4つの縦長楕円様図形、その先に小さい4個の丸みのある二等辺三角形で構成され、これらは、右斜め大凡45度の角度で配されているものである。
そして、これらの図形全体からは、「爪のある獣の足跡」との観念が生じるものということができるものの、これよりは、取引に資されるべき特定の称呼は生じないというのが相当である。
(ウ)本件商標と引用商標1とを比較してみると、外観においては、本件商標の図形部分中の一個の図形と引用商標を構成する図形を対比すれば、不整形の山形図形と凸部に沿う縦長楕円様図形を有する点で、近似するところがあるが、本件商標から、あえて個々の図形が抽出されて印象し記憶されるとすべき特段の事情もない。
しかして、本件商標の図形部分と引用商標1とを比較してみても、前者が三個の丸みのある獣の足跡が左右互い違いの歩行跡のように描かれたものであり、後者が1個の爪のある獣の足跡であって、両者の全体から受ける印象は全く異なるものといわざるを得ないから、本件商標と引用商標1とを、時と所を異にして観察した場合にも、両者は相紛れることなく判然と区別されるというべきである。
さらに、観念についてみると、引用商標1は、「爪のある獣の足跡」との観念が生ずるものであるが、本件商標の図形部分は「歩行している獣の3個の足跡」ほどの観念をもって看取されるというのが相当である。
そして、ともに「獣の足跡」として看取されるという点では類似するところがあるとしても、「獣の足跡」といっても、相当に広い内容を含むものであり、それ故に自他商品の識別に資する観念としては、簡易迅速を旨とする取引であることを勘案しても、外観から受ける足跡図形の数量や形状的特徴等の情報を加えてより具体的に把握し記憶するのが自然というべきであるから、両者は、単に「獣の足跡」の観念を共通にして相紛らわしいものということはできず、上記観念においても充分に区別し得るものである。
さらに、称呼については、本件商標は「サラー」のみの称呼が生ずるのに対して、引用商標1からは取引に資されるべき特定の称呼は生じないから、両者が称呼において相紛れる余地はない。
(エ)してみると、本件商標と引用商標1とは、観念において類似する点があるとしても、それが外観上での明確な差異を凌ぐものとはいえず、外観、観念及び称呼より与えられる印象、記憶、連想等を総合して考察した場合、両商標を同一又は類似の商品に使用しても、同一の出所に係る商品であるかの如く、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれはないといわざるを得ないから、本件商標は、引用商標1に類似する商標であるとすることはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(オ)なお、請求人は、審決例を引用しているが、商標の類否は対比される両商標について個別具体的に判断されるべきものであるうえ、請求人の引用する事例は、いずれも本件商標とは商標の構成を全く異にする事案に係るものであり、前記判断を左右し得ないものである。
請求人の主張及び提出に係る各証拠によれば、請求人は、「Jack Wolfskin」の文字と引用商標と同一の構成からなる図形とを結合してなる商標(別掲(3)「使用商標」参照のこと。)を、昭和60年代の始め頃から、同人に係る被服を中心としたアウトドア関連の商品に継続して使用していることが認められ、また、当該図形のみからなる商標についても、本件商標の出願前より上記商品に使用したことが認められる。
しかしながら、本件商標が引用商標に類似する商標とは認められないことは、上記1のとおりであり、また、本件商標がその構成中の一部に引用商標を包含するものとして看取されるというようなものでもないから、前記使用商標の使用状況を勘案してもなお、これら両商標が更に関連付けて見られるとすべき特段の理由は見出せない。
結局、本件商標及び引用商標は、別異の出所を表示する商標として看取されるといわざるを得ないものである。
してみれば、本件商標の登録時はもとよりその出願時において、本件商標をその指定商品に使用しても、需要者が引用商標を想起し連想して、請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかの如く誤認するとはいえず、商品の出所について混同するおそれはなかったといわざるを得ないものである。
したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標とは認められないから、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
よって、結論のとおり審決する。
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