結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2006−89030(T2006−89030/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第4798358号商標(以下「本件商標」という。)は、「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字としてなり、平成16年2月18日に登録出願、第28類「土人形および陶器製の人形」を指定商品として、同年8月27日に設定登録されたものである。
請求人が引用する登録第2354191号商標は、「つゝみ」の文字を横書きしてなり、昭和56年3月2日に登録出願、第24類「土人形」を指定商品として、平成3年11月29日に設定登録されたものである。その後、指定商品について、同16年4月28日に、第28類「土人形」に書換登録がなされ、当該商標権は、現に有効に存続するものである。
同じく、登録第2365147号商標は、「堤」の文字を書してなり、昭和56年3月2日に登録出願、第24類「土人形」を指定商品として、平成3年12月25日に設定登録されたものである。その後、指定商品について、同16年5月12日に、第28類「土人形」に書換登録がされ、当該商標権は、現に有効に存続するものである
以下、両者を併せて「引用商標」という。
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第9号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)請求の理由
ア 被請求人は、本件商標の他に、平成17年9月29日、第28類の土人形及び陶器製の人形につき商願2005−91053号により「堤人形 つつみのおひなっこや」の商標登録出願をなし、同年12月9日に登録第4914397号の商標登録を得た。
イ しかしながら、本件商標の「つつみ」及び登録第4914397号商標の「堤人形」と「つつみ」は、請求人が既に旧法第24類の土人形で先願取得して需要者の間に周知された引用商標と同ー又は類似のものを不正競業の目的で使用するものであり、また、これに続く「おひなっこや」は、請求人が祖父佐四郎以来代々継承した芳賀家一軒のみの堤人形創作販売に与えられた郷土仙台の「堤の御雛っ子屋」ないし「つつみのおひなっこや」の呼称、著名な雅号ないしは略称を盗用して誤認混同の不正競業を図るものであり、本件商標も登録第4914397号商標も、商標法第4条第1項第8号、第10号、第11号、第15号、第16号、第19号及び同法第8条により商標登録を受けることができない筈であり、同法第46条に該当するものとして無効の審判がなされるべきである。
ウ すなわち、請求人は、旧法第24類の土人形につき、商願昭56−15483号による「つゝみ」の商標登録出願及び商願昭56−15484号による「堤」の連合商標登録出願をなし、特許庁は、前者につき平成2年1月8日出願公告決定、後者につき同年同月9日連合商標出願公告決定をなし、平成3年5月2日には「堤」の文字を商標法第3条1項4号の普通名称とする拒絶査定を覆し、明治以降の土人形の名称として広く認識されている請求人の商標とし、同法第3条第2項に規定する要件を満たす連合商標と認める審決の上、「つゝみ」は平成3年11月29日、商標登録第2354191号、「堤」は同年12月25日、商標登録第2365147号の各商標登録を了し、平成12年4月11日には、いずれも期間10年の更新登録を了し、請求人が現にこの商標権を有する。 したがって、被請求人の前記各登録商標の「つつみ」と「堤人形」は、この先願後の同一又は類似の出願として請求人の登録商標を侵害し、商標法第8条第1項、同法第46条第1項第1号により無効の審決がなされるべきである。
エ そして、請求人の代々の周知商品表示と商標の形成及び「つつみのおひなっこや」の呼称ないし雅号ないし略称の獲得と被請求人の侵害行為の具体的経緯は下記のとおりである。
(a)請求人の商標を冠する堤人形は、文献によると江戸期の伊達藩の城下町仙台の堤町界隈の足軽が瓶などの焼物を造り売りする副業の傍ら造った「御雛っ子」とも称した土俗的人形に由来する。しかし江戸期のそれは、度重なる飢饉や明治維新後の西欧化の波で急速に廃れ、大正末期の制作は僅かに芳賀家と宇津井家だけで宇津井家も廃絶して請求人の祖父芳賀佐四郎だけが改良を重ねて残るうちに、芳賀家といえば「堤の御雛っ子屋」、「つつみのおひなっこや」といえば芳賀家と呼称され、固有の代名詞となったことが一様に記述されている。
(b)そして、請求人の父佐五郎は、昭和初期にその全てを佐四郎より伝承したに飽き足りず、京都の名工「狂阿弥師」に師事したうえ、旧来の土型を用いた荒く暗い形状色彩の土俗的人形を完全に廃し、石膏型を用いた精繊な造形と繊細かつ優美な彩色を施す新型の人形を新たに創作考案し、また同じ新境地の作風で旧型の人形も刷新させ、これを「堤人形」「つゝみ人形」「つつみ人形」の商品表示ないし商標で販売して全国に好評を博した。このようにして佐五郎は、「人形の前頭」とされた当初の番付から「人形の東の横綱」の最高の番付にまで到達し、多くの賞勲に輝き、新しい作風の「堤人形」「つゝみ人形」あるいは「つつみ人形」の商標ないし商品表示が全国に周知され、唯一の堤人形の制作家として「堤の御雛っ子屋」あるいは「つつみのおひなっこや」の呼称ないし著名な雅号略称の独占的確立を不動のものとした。
(c)請求人は、昭和59年には県知事より唯一人「宮城県伝統工芸品 堤人形」の制作家として指定され、その創作人形が年賀郵便切手に一度ならず採用され、一品毎の手作業の工芸品堤人形の制作の姿が折に触れて報道されるなど、この商品表示と登録商標及び上記呼称ないし略称を一段と著名なものとした。特許庁が上記拒絶査定を覆して請求人に連合商標を認めたのも、正にその証左である。
(d)被請求人は、請求人の商標を普通名称であるかのような言辞を弄して上記事実を虚偽とし、他方、父吉夫とその義父大三郎以来継続して堤人形を製作してきたとして自己の商標登録を得たが、これは真っ赤なウソである。堤人形制作の「御難っ子屋」ないし「おひなっこや」が芳賀家だけとなり、被請求人の佐藤家も含めて他に制作する者がなかったことを記述する上記文献を見れば、被請求人の事実無根の言掛かりが自明であり、逆に文献は、佐藤家が明治9年に堤町に転居して行商を始め、大正時代から土管や瓶の製造を専業として被請求人の父吉夫がこれを継承したが、昭和40年代以降の土管の廃れは公知であり、張子の松川ダルマ製造に活路を見出した記事があるのみであり、堤人形制作継続の記事はどこにも見出せない。
(e)しかし、昭和の終焉でダルマの廃れも公知となり、吉夫は、廃業の危機を脱すべく、請求人の著名な「おひなっこや」に着目し、著作権と商標権侵害ないし周知商品表示の誤認混同の不正競業の模造品販売に乗り出したのである。しかし、素人の身では、丹精を込めた請求人の伝承技法を一朝一夕に模倣できる訳はなく、苦労と困惑の末、密かに請求人の制作補助の従業員小野寺哲也を抱き込み、請求人の石膏型や商品を盗み取らせては同人の技術指導で模造品製作にこぎつけたのである。被請求人父子は、このようにして請求人の先願商標とその周知商品名の「堤人形」「つゝみ人形」あるいは「つつみ人形」、そして「宮城県伝統工芸品堤人形」と「つつみのおひなっこや」の呼称をそのまま盗用侵害して自己の商品表示や包装、看板に用いて販売する誤認混同の不正競業行為の商売を始めたのである。
(f)請求人は、平成15年に上記侵害行為に気付き、小野寺を解雇して吉夫と小野寺を被告とする著作権と商標権侵害及び不正競争防止法違背の差止請求等の訴訟を提起したが、小野寺は、解雇を不服として労働基準監督署に「友人に技術指導したまでだ」との自白書類で挑んだものの、同監督署の解雇相当の指導で解雇無効を撤回したのであり、これを見ても上記侵害行為は否定できない事実である。
そして、被請求人父子は、上記訴訟の上記侵害行為ないしは商標法第37条のみなし侵害行為の明白な該当を潜脱すべく、先ずは侵害の目立ち難い本件商標を出願し、その登録を奇貨として一気に正面突破の登録第4914397号商標の出願を試みて登録を得る幸運により、これを上記訴訟の証拠に提出して正面突破の策に出たのが実態である。
オ しかし、この被請求人父子の行為こそ、まさに商標法第4条第1項第8号、第10号、第11号、第15号、第16号及び第19号に該当する商標登録を受けることができない誤認混同の不正競業行為に当ることが明らかである。
(2)弁駁
ア 引用商標の商標登録は、被請求人主張のような虚偽の主張を行って登録を得たものではない。それは、特許庁が請求人提出の証拠の各種文献を参酌して「明治以降の土人形の名称として広く認識されている請求人の商標とし、商標法第3条第2項に規定する要件を満たす連合商号と認める」と審決したことでも明らかである。被請求人の虚偽なる主張は、芳賀家一軒のみの堤人形制作と「人形の東の横綱」の周知性獲得等を一様に記載した文献に反し、逆に虚偽で固めた主張というほかはない。
イ 被請求人は、祖父大三郎と父吉夫の堤人形製作を主張するが、これも上記文献等の証拠に反する事実無根であり、元を正せば、土管とだるま製造業が専業であったことが文献上明白である。請求人の父吉夫は、この専業が時代の変化で廃れ、廃業の危機に立たされて請求人の商標権と著作権を侵害する模倣の不正競業行為に及んだのであり、これを宮城県や仙台市に何とか認知させながら、これを答弁書の主張に利用したにすぎないことは、前記の各種文献からも自明である。
ウ しかも、被請求人の登録商標である「つつみのおひなっこや」と「堤人形つつみのおひなっこや」に関する答弁書の主張も、審判請求の理由書の記載からも全て理由がないことが自明である。
すなわち、(a)被請求人の上記商標登録は、請求人の前記登録商標を利用した類似が明白である。(b)前記文献をみても、堤人形の名称ないし商号は、江戸期から明治大正期までは使われず、請求人の先代佐五郎が使用を始めたのであり、(c)それまでは仙台の堤町界隈では、かめ等の生活容器と土偶や土管などを「堤焼」と称し、そのかたわらに作る土人形は、形状も模様も、極めて素朴で土俗的なものであって、「お雛っ子」と称していたのである。(d)そして、堤町界隈では、堤人形の創作を唯一の専業とした請求人の先々代と先代に至り「堤のお雛っ子屋」あるいは「おひなっこや」の呼称が与えられたことは上記文献でも明確に証明されるのである。
したがって、被請求人の上記登録商標は、この著名な呼称、雅号ないしは略称(甲第2号証ないし甲第5号証)に目を付けてこれを侵害して不正競業に及んだ(甲第6号証ないし甲第9号証)ことは、既に理由書でも主張したとおりであって、これらの実態を見れば、被請求人の主張は、まさに本末転倒のものとして答弁の意味をなさず、これを普通名称とする被請求人の主張自体とも矛盾し、失当として排斥を免れない。
エ 被請求人提出の乙号証も、乙第1号証が甲第1号証の4で覆るほか、本件無効審判対象の商標も含めて、その殆どが請求人提起の仙台地方裁判所平成15年(ワ)第683号事件の訴訟提起後に取得したことをみれば、被請求人父子が、この訴訟対策のために意図的に体裁を整えたにすぎず、答弁の意味をなさず、その主張にかかる優良産品やインターネット検索等も、正に不正競業を拡大する手段にすぎず、これに何らの合理性もないことが自明である。
オ そして、何よりも指摘すべきことは、被請求人は、請求人の商標について一切無効審判ないし取消審判を請求していないことであり、それだけでも答弁書の主張は理由がなく、逆に被請求人が、上記訴訟の裏で、不正競業を正当化させる不正な本件商標登録を行ったことが明白であり、答弁書には何らの理由も正当性もない。
被請求人は、結論と同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第7号証を提出した。
(1)請求人の登録商標について
引用商標は、その拒絶査定に対する審判請求の審判理由補充書(乙第1号証)に示されるように、「『土人形』の伝統工芸を現在も唯一に継承して」いると虚偽の主張を行い、そのように誤認された結果、商標法第3条第2項の適用により例外的に商標登録がなされたものである。
しかし、請求人は、引用商標の出願時・審決時にも現在でも、堤人形を「唯一に継承して」いる者ではない。その出願時には、被請求人の父・佐藤吉夫、祖父・佐藤大三郎、三浦じんさん等も「堤人形」を製作しており、被請求人と父・佐藤吉夫は現在も堤人形を製作し続けているからである(乙第2号証)。
被請求人は、請求人とともに、仙台市のホームページの「堤人形」のページで仙台市経済局観光交流課により紹介もされている(乙第3号証)。 祖父・佐藤大三郎は、引用商標の出願日である昭和56年3月2日の翌月の昭和56年4月1日から堤人形について宮城県優良県産品の推奨の認証を受けており、父・佐藤吉夫は、昭和58年4月1日から堤人形についてその認証を受けている(乙第4号証)。また、父・佐藤吉夫は、宮城県伝統工芸品堤人形の製作業者として宮城県に認められている(乙第5号証)。
請求人による「『土人形』の伝統工芸を現在も唯一に継承し」、「つゝみ(堤)人形」を現代まで唯一継承し続けている」との虚偽の主張は、請求人によりなされているほか、関善内氏の著作物にも記載されている。関氏は、被請求人の父や祖父が堤人形の製作者であることを知っていたが、甲第6号証の3の第42頁に記載のとおり、請求人の家に弟子入りしていた。
このため、師匠に逆らうことができず、虚偽の記載を行ったものである。 このように、引用商標は過誤登録または詐欺による登録であり、過誤登録または詐欺により登録された商標に商標権の効力は認められるべきではない。
「堤人形」、「つゝみ人形」の各名称は、堤焼きによる「土人形」の普通名称であり(乙第6号証)、「堤」、「つゝみ」は「堤人形」の略称である。堤人形は、「堤町で生産されてきたのでこの名がある」(甲第2号証の1)ものであって、請求人の商標ではない。仙台市のホームページや宮城県の公文書でも、「堤人形」は、商標ではなく、普通名称として記載されている(乙第3号証ないし乙第5号証)。「堤」の表示は、甲第2号証の1に記載のとおり、「花巻」、「八橋」などの表示と同様に、「堤人形」の略称として使用されている。
仮に、引用商標に商標権の効力が認められたとしても、その指定商品の普通名称およびその略称には、商標権の効力は及ばないため(商標法第26条第1項第2号)、2つの商標の類否判断も、その指定商品の普通名称およびその略称を除外して行う必要がある。本件商標の要部は、「おひなっこや」である。したがって、本件商標は、引用商標と、外観、観念、称呼のいずれも異なることから、引用商標と類似しない。
なお、仮に、請求人商標の審決時に「堤」、「つゝみ」の各文字が普通名称「堤人形」の略称でなかったとしても、商標である旨の主張がなされないまま一般に使用がなされた結果、普通名称化しており、少なくとも本件商標の出願時にはすでに普通名称である。
特に、引用商標は、甲第1号証の1に示されるとおり、商標法第3条第2項適用により登録を受けたものである。同第3条第2項適用の登録商標は、本来、自他商品識別力を有していないため、同第3条第1項の規定により登録を受けられないものであるが、使用の結果、その使用態様に限定して例外的に登録を認められたものである。したがって、引用商標に商標権の効力があるとしても、その類似範囲は狭く、商標登録を受けたそのままの態様「堤」、「つゝみ」に限定され、本件商標と類似するものではない。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する商標ではない。また、本件商標は同法第8条第1項、第2項または第5項に違反するものでもない。そもそも、引用商標は本件商標の出願前に既に登録を受けているので、商標法第8条の適用の余地はない。
(2)「つつみのおひなっこや」について
「つつみのおひなっこや」は、被請求人の商標であって、請求人の呼称ないし雅号ないし略称ではない。現在も過去も、請求人が「つつみのおひなっこや」を名乗っていた事実はない。
過去に「堤のおひなっこ屋」の名称が使用されていたとしても、甲第3号証の1に、「この宇津井家は、その後、大正年代まで土人形を作りつづけ、芳賀家と共に最後の二軒として残り、「堤のおひなっこ屋」といえば、当時はこの二軒の代名詞であり、昭和の初期までこの愛称は生きていた。」とあるように、「堤のおひなっこ屋」は愛称であって、雅号またはその略称ではない。ましてや、著名な雅号またはその略称でもない。さらに、その愛称が用いられていたのは、昭和の初期までであって、その後は被請求人の佐藤家の屋号または商標として用いられている。
被請求人の本家の佐藤家は、宇津井家の最後の継承者常隆氏から宇津井家に伝わる古型の保存と、その再興を託されたものであり、被請求人の曽祖父が佐藤家を分家してからは、被請求人の分家佐藤家が本家の型を受け継いで、堤人形を製作し続けている。被請求人の父・佐藤吉夫が所有する堤人形土型(1,759点)は仙台市指定有形文化財に指定されている(乙第7号証)。
「つつみのおひなっこや」の名称は、被請求人の曽祖父・大吉の代から屋号として使用してきたものであって、本件商標の出願日である平成16年2月18日の時点では、「つつみのおひなっこや」といえば、被請求人の佐藤家の屋号および商標として知れわたっている。平成18年5月26日の時点で、インターネットで検索エンジンGoogle(商標)により「つつみのおひなっこや」の文字で検索した結果では42件が検索され、同じく検索エンジンYAHOO!Japan(商標)で検索した結果では31件が検索されている。それらはすべて被請求人の佐藤家を示すものである。「堤の御雛っ子屋」の文字で同様に検索した結果では、いずれの検索エンジンでも検索結果は0件である。このように、「つつみのおひなっこや」の名称は、被請求人の屋号および商標として知られており、請求人の呼称、雅号ないし略称ではない。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する商標ではない。
(3)商標法第4条第1項第10号、第15号、第16号、第19号について
請求人は、本件商標の「つつみのおひなっこや」の名称を使用しておらず、使用していたこともない。請求人の家が宇津井家とともに昭和の初期まで、その愛称で呼ばれたことがあったとしても、「つつみのおひなっこや」の名称は少なくとも本件商標出願時には請求人の愛称ではない。また、「つつみのおひなっこや」の名称は、過去にも本件商標出願時にも現在も請求人の商標として使用されたことはない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する商標ではない。
さらに、「つつみのおひなっこや」の名称は、被請求人の商標であって被請求人以外には使用していない商標であるから、他人の業務にかかる商品と混同を生ずるおそれはなく、本件商標は、商標法第4条第1項第15号または第19号に該当する商標でもない。
被請求人は、「つつみのおひなっこや」の商標を商品「堤人形」について使用しており、商品の品質の誤認を生ずるおそれもない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する商標でもない。
(1)事実等について
当事者の提出した証拠によれば、以下が認められる。
ア 仙台市堤町の土人形は、江戸の元禄時代の堤焼(杉山焼)にその緒があるとされ(甲第4号証の2)、文化・文政(1804年〜30年)の頃に堤町40戸のうち土人形屋が13軒を数える程の全盛期を迎えて明治に至ったが、時勢の変動から次第に廃業が目立ち、大正期には宇津井、芳賀両家だけとなり、昭和期には芳賀佐五郎家だけとなった(甲第2号証の1)。
イ 前記土人形は、堤町で生産されてきたので「堤人形」と呼ばれるようになったが、それは昭和初期からのことであり、それ以前には「おひなっこ」あるいは「つつみのおひなっこ」とも呼ばれていた(甲第2号証の1、甲第2号証の2及び甲第4号証の2)。
ウ 宇津井家は大正年代まで土人形を作り続け、当時は「堤のおひなっこ屋」「おヒナっこ屋」といえば、宇津井家と芳賀家、この二軒の代名詞であり(甲第3号証の1及び甲第3号証の3)、「昭和の初期までこの愛称は生きていた」(甲第3号証の1)といわれている。
エ 請求人の先代に当たる芳賀佐五郎は、同人の先代佐四郎から家業を受け継ぎ、創意工夫を重ね人形の制作にあたったが、新しい創意の人形を制作発表し、堤人形を京人形や博多人形と肩を並べる地位に押し上げ(甲第4号証の4)、その制作した人形及び功績に対して昭和28年3月以降数次に亘り表彰を受けるなどした(甲第4号証の8)。また、同人は、宮城県の「どうとく」の教科書や教本「郷土みやぎの輝く星」にも取り上げられ、労働大臣賞を受賞し、勲6等瑞宝章を授与された(甲第4号証の9及び甲第4号証の10)。
オ 請求人は、昭和59年2月16日に、「工芸品名 堤人形」について、宮城県伝統工芸品の指定を受けた(甲第5号証の1)。
カ 請求人の制作に係る堤人形「ししのり金太郎」が、昭和58年の年賀切手の絵柄として採用され(甲第5号証の2)、また、同様に、平成8年用年賀切手にも堤人形が絵柄として採用された(甲第5号証の3)。
キ 堤人形に関する新聞記事の中で、請求人のその制作する人形及び製造する干支の人形がたびたび取り上げられた(甲第5号証の4)。
ク 平成3年12月15日調べの屋号表(甲第6号証の5、64頁)によれば、請求人の屋号名は「ヤマサ」あるいは「マルヨシ」であり、屋号印は「ヤマサ(山形記号の下に片仮名のサを配したもの)」「ヤマサ(山形記号の下に漢字の佐を配したもの)」「マルヨシ(円輪郭内に漢字の芳を配したもの)」であり、備考欄には「現在はまるよしとのこと」と記載されている。
ケ 被請求人の照会に対する宮城県の平成15年7月30日付け「宮城県優良県産品の推奨状況について(回答)」(乙第4号証)には、認証期間「昭和58年4月1日〜昭和60年3月31日」、「昭和61年4月1日〜昭和63年3月31日」、「平成2年4月1日〜平成4年3月31日」、「平成6年4月1日〜平成8年3月31日」として、そのいずれにも、認証業者名欄に「佐藤吉夫」と記載され、その認証品目欄に「堤人形」が記載されている。
コ また、平成15年9月19日付け「宮城県伝統的工芸品堤人形の製作業者について(回答)」(乙第5号証)において、平成15年9月19日現在で同県が承知している堤人形の制作業者は請求人「芳賀強」と「佐藤吉夫」である旨の回答がされている。
サ 平成15年3月25日付け仙台市教育委員会の指定書(乙第7号証)によれば、佐藤吉夫所有の「堤人形土型 一括(1,759点)」が同市指定有形文化財に指定されたことが認められる。
シ なお、佐藤吉夫が被請求人の父である点について、当事者間に争いはない。
(2)引用商標について
引用商標は、「つゝみ」又は「堤」の文字からなる商標と認められる。しかして、これらは、その構成文字に相応して、「ツツミ」の称呼を生ずること明らかである。また、引用商標は、いずれも、元来ありふれた氏姓に通ずる文字のみからなるものに該当するが、永年の使用によって識別力を発揮するに至ったとして商標登録された経緯に照らせば、氏姓としての観念を生ずるというよりも、独自固有の顕著性を具備した標章であって特定の観念は生じないものとみるのが相当である。
(3)商標法第4条第1項第8号該当について
請求人は、先代・先々代を含め、永年に亘り堤人形の制作に携わり堤人形の存続と名声を高めることに貢献してきた芳賀家の現当主であり、上記(1)のとおり、昭和初期の時点においては、請求人に当たる芳賀家が「堤の御雛っ子屋」あるいは「おひなっこ屋」との愛称をもって称されたとの事実を認め得るところである。
しかしながら、前記時期以降にあっても当該愛称をもって称されたとの事実が継続して、本件商標の出願時において、前記愛称が請求人を示す標章として使用され、あるいは、その呼び名として使用されていたと認めるに足りる的確な証左は見いだせず、また、それが周知ないし著名なものとなっていたとする証拠もない。してみると、宇津井家とともに請求人に当たる芳賀家が、前記愛称をもって指称された事実が過去(昭和初期)にはあったと認め得るに止まるといわざるを得ないとするのが相当である。
しかして、本件商標の出願時においては、前記愛称と同じ表音を有する「「つつみのおひなっこや」あるいは「おひなっこや」をもって、請求人の氏名と同等・同様に同人を表す標章・呼び名等であったとは認め得ないから、本件商標が他人の氏名、名称あるいは著名な略称等を含む商標に当るということはできないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第11号該当及び同法第8条第1項該当について
ア 本件商標は、「つつみのおひなっこや」の文字からなるものであるのに対して、引用商標は、「つゝみ」又は「堤」の文字からなる商標である。
しかして、本件商標は、同じ書体で等間隔にまとまりよく表されており、これよりは「ツツミノオヒナッコヤ」の称呼、「堤焼(あるいは堤町)の土人形を扱う店」の観念が生ずるものというのが相当であり、視覚上においても、観念上においても、その構成中「つつみ」の文字部分のみに限定して称呼・観念が生ずるものとすべき格別の理由はない。
一方、引用商標は、上記(2)のとおり、いずれも「ツツミ」の称呼を生ずるものであり、特定の観念は生じないものである。
してみれば、本件商標及び引用商標は、その外観、称呼及び観念において明確な差異を有するものであるから、本件商標は、引用商標に類似する商標であるとすることはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
イ 上記と同様の理由をもって、本件商標は、商標法第8条第1項に該当するものであるとも認められない。
(5)商標法第4条第1項第10号該当及び同第15号該当について
ア 本件の全証拠に徴しても、本件商標の出願時までに、「ツツミノオヒナッコヤ」の称呼を生ずる標章が、請求人によって商品に使用された事実を窺わせる証左及び当該標章が本件商標の出願時に需要者の間で広く認識されるに至っていたとする証左は見いだし難いところである。また、「オヒナッコヤ」の称呼を生ずる標章についても、上記と同様である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するということはできない。
イ 本件商標が引用商標に類似するものと認められないことは、前記(5)のとおりであり、他に、更に両者を関連づけて見なければならない理由も認められないから、結局、両者は別異の出所を表示する商標として看取されるものというべきである。また、前記のとおり、「ツツミノオヒナッコヤ」(あるいは「オヒナッコヤ」)の呼び名をもって請求人が広く知られるに至っていたとも認め難いところである。さらに、前記(1)ケないしシによれば、本件商標の出願当時において堤人形を取り扱う業者が唯一請求人のみであったとは到底断定し得ないから、前記呼び名が直ちに請求人のみを指称することになるということもできない。
そうとすれば、本件商標の出願時において、本件商標を指定商品に使用した場合、需要者が当該商品について、請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品と誤信し、その出所を混同するおそれがあると判断することはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(6)商標法第4条第1項第16号該当について
本件商標は、その構成文字に徴するに、特定の商品の品質等を表すものとは認められないから、これをその指定商品に使用しても、何ら商品の品質について誤認を生じさせるおそれはないといわざるを得ないものである。
なお、「つつみ」の文字についてみても、当該文字が取引上「堤人形」を指称し、あるいはそれを認識させる語(略称や俗称)であると認め得る証拠はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
(7)商標法第4条第1項第19号該当について
本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識された商標と同一又は類似の商標であるとすべき理由は見いだせない。
したがって、「不正の目的」をもって使用をするものであるか否かについて検討するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものとはいえない。
(8)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第10号、同第11号、同第15号、同第16号、同第19号及び同法第8条に違反して登録されたものと認めることはできないから、同法第46条第1項によって、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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