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Trademark Appeal Case

著名商標の要部抽出と類似性

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2007−890102(T2007−890102/J3)
審判種別無効
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

登録第4952835号の指定商品中「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」についての登録を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第4952835号商標(以下「本件商標」という。)は、「IBUNIC」の欧文字及び「イブニック」の片仮名文字を上下二段に横書きしてなり、平成17年8月8日に登録出願され、第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料,医療用腕輪,失禁用おしめ,はえ取り紙,防虫紙,乳糖,乳児用粉乳,人工授精用精液」を指定商品として同18年3月8日に登録査定、同年5月19日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点

請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第42号証(枝番を含む。)を提出している。

1 請求の理由

(1)本件商標について

(ア)本件商標はその構成通りに発音するときは「イブニック」の称呼が生じる。しかし、請求人が引用する登録商標「イブ」、「EVE」は、後述のように、本件商標が出願される12年も前から「薬剤」関係に用いられている著名商標として認識されている商標であり、本件商標は請求人が引用する著名商標「イブ」をそっくりその要部とする商標であるということができる。

したがって、本件商標が「IBUNIC/イブニック」として構成されていたとしても、それにより独立した特定の観念が生じるものではなく、むしろ、「イブ」の部分が請求人の引用商標として「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」等について著名商標である事実に照らして考えるときは、強力な識別力を発揮する部分は「イブ」の部分であり、「イブ」と「ニック」とは不可分一体でもなく、同価価値を持つものでもない。

(イ)以上のことは、特許庁が定める「商標審査基準」における取り扱いからも明らかである。すなわち、同審査基準においては、他人の著名商標に他の語を結合させてなる商標については、その外観構成がまとまりよく一体に表示されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として他人の著名商標に「類似」(第4条第1項第11号)し、これと「混同」(第4条第1項第15号)を生じるおそれのある商標として扱うものとするとされている(甲第18号証の1及び2、同第19号証)。

(ウ)現実問題として、本件商標が、著名商標「イブ」が用いられているのと同一、類似の商品に使用されるときは、需要者に対し、請求人の著名商標、著名商品との関連性ないしは共通のイメージをアピールするものであり、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものとして無効とされなければならない。

(2)請求人が引用する著名登録商標及びその使用実績と宣伝広告について

(ア)請求人が引用する著名登録商標は、次のとおりであり、以下、これらを総称して単に「引用商標」ということがある。

・登録第1598640号:「イブ/EVE」、旧第1類(甲第2号証)

・登録第3065022号:「イブ」、第5類(甲第3号証)

・登録第3065023号:「EVE」、第5類(甲第4号証)

また、請求人は、引用商標以外にも次の登録商標を所有している。

・登録第3065024号:「イブ/IB」、第5類(甲第5号証)

・登録第2468015号:「イブエース」、旧第1類(甲第6号証)

・登録第2468016号:「EVE ACE」、旧第1類(甲第7号証)

・登録第1598641号:「エスタックイブ/S.TAC EVE」、旧第1類(甲第8号証)

(イ)引用商標を使用した商品は、「鎮痛・解熱剤」について昭和60年(1985年)12月に販売開始(甲第9号証の1及び2)されて以来、今日まで継続して販売され、需要者より好評を得た人気商品となっている。その商品形態は請求人製品目録抜粋(甲第11号証の1及び2)に示すとおりであり、多数販売されている同業他社の「鎮痛・解熱剤」の中にあって、2003年度におけるシェアは11.9%で、日本のトップ4番に入る商品となっており、その年商は約59億円(小売価格ベース)に上っている(甲第10号証)。

なお、2005年度の市場シェア率は第3位(甲第20号証)で、市場で500種を超える「鎮痛・解熱剤」の中にあってトップ3番にランクされる商品となっている。これは、請求人の「イブ」が如何に著名であるかを客観的に裏付けるものである(市場に存在する500種を超える鎮痛・解熱剤については甲第21号証参照)。

(ウ)請求人の登録商標「イブ」に対する宣伝広告状況は次のとおりである。

請求人が登録商標「イブ」を用いて「鎮痛・解熱剤」の販売を開始したのは、昭和60年(1985年)12月であるが(甲第9号証の1及び2)、その販売開始直後の昭和61年1月より、週刊誌、テレビ、新聞等で大々的宣伝広告を行った(その一例は、甲第22号証ないし同第25号証)。以後、様々な形態による宣伝広告が今日まで継続して行なわれてきているのである。

請求人が販売開始以来、「鎮痛・解熱剤」の宣伝広告に費やしてきた費用については次に示すとおりである。すなわち、昭和61年(1986年)は「鎮痛・解熱剤」「イブ」の販売開始の事実上の初年度であるが、この年に費やした宣伝広告費だけで6億7900万円に上っている。そして、平成7年(1995年)までの10年間に費やした費用は、実に30億5200万円に上り(甲第26号証)、平成10年から平成15年の6年間では5億円超の宣伝広告費を費やし(甲第12号証)、販売開始以来の宣伝広告費は数十億円に上り、今日に至るまで「イブ」の著名性を維持してきたのである。

(エ)さらに、請求人は、「総合感冒薬」に関して登録商標「エスタックイブ/S.TAC EVE」(甲第8号証)を使用し、平成4年より販売している。請求人の当該「総合感冒薬」の商品形態は、請求人製品目録抜粋の甲第13号証の1及び2に示されるとおりであるが、特に、「イブ」の部分を強調した使用態様を行なっている。

当該総合感冒薬も、同業他社より数多く販売されている総合感冒薬の中にあっても、需要者に対し最も人気ある商品の一つとして知られていることは上記「鎮痛・解熱剤」の場合と同様である。したがって、「総合感冒薬」について単に「イブ」といえば、請求人の上記総合感冒薬を指すものとして認識されており、現実に薬局等で「『イブ』を下さい」といえば、何らの説明も要せず、直ちに請求人の「鎮痛・解熱剤」としての「イブ」、「EVE」、あるいは「総合感冒薬」の「エスタックイブ/S.TAC EVE」を示すものとして理解される状況となっているのである。

(3)引用商標に関する著名性の認定について

(ア)引用商標は、請求人により昭和60(1985)年12月に「鎮痛・解熱剤」に使用開始されて以来、21年以上もの長きに亘り使用されてきたものであり、特に「鎮痛・解熱剤」と「総合感冒薬」については、請求人の著名登録商標となっている。このことは後述の特許庁の異議決定及び無効審判審決(甲第14号証ないし同第17号証及び同第27号証)、最近の引用商標に関する知財高裁判決(甲第28号証)においても認定されているとおりの客観的事実である。

すなわち、知財高裁判決(平成18年(行ケ)第10375号、平成19年2月28日判決)において、「イブ/EVE」については、遅くても平成5年頃(本件商標登録出願より12年前)には著名性を取得し、現在においてもこれを維持していると認定した上で、この著名商標を含んでなる「イブペイン/EVEPAIN」のような商標が、著名商標「イブ」、「EVE」が使用されている商品と同じ「鎮痛・解熱剤」について使用されるときは、取引者、需要者に対し、出所についての混同のおそれがあると認定している。

(イ)以下のとおり、特許庁における異議・審判においても引用商標の著名性が認定され、「イブ」、「EVE」を含んでなる商標については引用商標と類似し、あるいはこれと混同を生じるおそれがあるものとして登録後に取り消され、あるいは無効とされている。

a)「薬剤」を指定商品として登録された商標「恵快イブ」に対し異議申立をしたところ、特許庁は引用商標「イブ」は「鎮痛・解熱剤」に関し著名であることを認定し、登録を取り消している(甲第14号証)。

b)「イブ」、「IBU」の語を含み「ホワイトイブ/WHITEIBU」として構成された商標が「薬剤」を指定商品として登録されたが、かかる登録商標に対する無効審判において、特許庁は、引用商標「イブ」についての著名性を認め、その商標登録を無効としている(甲第15号証)。

c)さらに、「オムニンイブ」、「オール・イブ」、「ツーシンイブ」の各登録商標についても、特許庁は引用商標「イブ」についての著名性を認め、これと混同のおそれがあると認定し登録を無効としている(甲第16号証、同第17号証及び同第27号証)。

(4)引用商標の著名性を認め、自発的に使用を中止した例

引用商標が請求人の「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」において著名であるため、これに不正に乗ずべく、「イブ」に他の語を結合させた商標を出願する者が後を絶たず、一旦登録を受けるや、実際の使用の段になると「イブ」の部分を殊更強調し、しかも引用商標が用いられているのと同種の「鎮痛・解熱剤」、「総合感冒薬」に使用される例が後を絶たないのが実情である。

これらに対しては、請求人は内容証明の送付、訴訟の提起、その他の文書により使用中止、名称変更等を申し入れた結果、これまでに引用商標の著名性を理解し、名称変更及びパッケージ変更等を約束し、あるいは請求人との間において「鎮痛・解熱剤」、「総合感冒薬」についてはそれら商標を使用しない旨の「覚書」の締結を行なった同業者の数は10社に近い。これは、「薬剤」等についてはその開発から市場で需要者に信頼され、定着するまでには並々ならぬ営業努力が必要であって、同業者であれば十分理解できることであるとともに、同業者の多くが「イブ/EVE」の著名度に鑑み、需要者に対してこれとの関連性や出所誤認が生じることを避ける必要性があると理解したからに他ならない。

(5)最高裁判決、高裁判決にみる「混同のおそれ」の認定

(ア)最高裁は、平成10年(行ヒ)第85号に関する判決(平成12年7月11日言渡)にて、商標法第4条第1項第15号(著名商標の保護)にいう「混同のおそれ」の解釈について判示している。

この判決の趣旨は、他人の著名な商標と同一、類似の商標を、その著名な商標が使用されている商品、役務等(以下「商品等」という。)に使用した場合に、その著名な商標権者の商品等との間で現実に混同が生じるおそれがある場合(狭義の混同)のみならず、著名商標の商標権者との間に何らかの営業上の関係(親子関係であるとか関連企業であるとか)があるかのように誤信されるおそれがある場合(広義の混同)も含むというものである。要するに、商標法第4条第1項第15号(著名商標の保護)は上記の「狭義の混同」及び「広義の混同」の両方について規定しているとみなければならないという趣旨である。

(イ)これを本件についていうならば、引用商標「イブ」は「鎮痛・解熱剤」、「総合感冒薬」についてすでに著名商標となっていることは客観的事実であるから、これと類似しあるいはこれを含んでなる商標等が上記「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」について使用されるときは狭義の混同のみならず、他の関連商品(すなわち、上記以外の「薬剤」)についても使用されるときも、請求人の業務との関係で関連を想起せしめ、混同を生じるおそれ(広義の混同)があるという趣旨に解釈できるものである。

甲第28号証の知財高裁判決も、上記の最高裁判決が示した考え方に沿って判断し、著名商標「イブ/EVE」を含んでなる商標が、著名となった商品と同種の商品について使用されるときは、取引者、需要者に対し、著名商標の商標権者と何らかの密接な関係のある者の業務にかかる商品であるかのごとく、その出所につき混同を生じるおそれがあるというべきであるとしている。

(6)著名商標との類似、混同に関する審・判決例

(ア)甲第29号証ないし同第35号証として掲げるのは、薬剤分野で著名な登録商標「メバロチン」、「MEVALOTIN]との関係で、一旦登録はされたものの、著名商標の持つ具体的事情を加味して判断するときは、これと類似し、あるいはこれと混同のおそれがあるものとして、登録後において無効とされた審・判決例であり、本件審判における請求人の主張と軌を一にするものである。

(イ)以上の審・判決例から明らかなように、審査の段階では、形式的かつ定型的類否判断である「外観、観念、称呼」といった要素から判断され(主として第4条第1項第11号の観点)登録されることがあっても、登録後にある商標がある商品について大々的に使用され、その結果高い著名性を獲得したときは、その著名商標の持つ類似の幅、混同のおそれの範囲はその著名度に比例して拡大するものであり、これが第4条第1項第15号の存在意義であり、具体的状況に沿って類似、混同の判断をし、形式的類否判断による欠陥を個別的に補充・修正しているのである。

(ウ)請求人の引用商標は複数の審・判決で認められている著名商標であり、これをその主要部として含む本件商標のような商標が同一、類似の商品に使用されるときは、取引者、需要者はその著名部分に惹かれるものであるから、明らかに請求人引用の著名商標と類似する(第4条第1項第11号)。

そして、仮に全体的構成からみたときに、一見、他の語とのつながりがよく、非類似のようにみえたとしても、著名商標部分が共通するときは、その部分が取引者、需要者に対し強い商品識別力を与えることから、取引者、需要者はこれとの関連性を想起し、出所について混同を生じるおそれ(第4条第1項第15号)があるものといわねばならない。特に、本件商標は被請求人によって請求人の著名商標が用いられているのと同じ「鎮痛・解熱剤」について用いられていることから、出所混同のおそれは現実的である。よって、本件商標は、少なくとも「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」については無効とされなければならない。

(7)現実の危険を考慮する必要性

(ア)著名商標を含んでなるこのような商標が同一商品について使用することが許されるとなれば、事実上、商標法第4条第1項第11号も、周知・著名商標に関する特許庁の「商標審査基準」も存在意義を失うものといわねばならない。何故ならば、「著名商標+他の語」からなる商標に関し、単に形式的な類否判断でもって非類似とされ、混同もないとされるならば、本件の場合は「イブニック」以外に、「ナ行」において「イブナック、イブネック、イブノック」等が、「タ行」においては「イブタック、イブチック、イブテック、イブトック」、「サ行」に関しては「イブサック、イブシック、イブセック、イブソック」、その他、「イブキック、イブマック、イブミック、・・・」等無数の商標が考えられるからである。

さらに、意味を有する短い単語との結合による商標も無数に考えられる。現に、甲第28号証の知財高裁判決で対象となった商標は「イブペイン/EVEPAIN」である。このように「著名商標+他の語」の商標が無数に出現し、これら全てが著名商標「イブ」を中心として使用されることが可能となり、これらが薬局等で販売された場合には、被害を蒙るのは著名商標権者のみならず、患者等も含めた需要者層も広く危険に巻き込むことになるのである。

(イ)このことは、請求人の引用商標に限らず、例えば、第三者の登録商標ではあるが「総合感冒薬」について非常に良く知られている商標に「ルル」というのがある。当該商標が判決で著名商標と認定されたことがあるかどうか不明であるが、もし、これについても無関係の第三者が「ルルニック」を始めとし、「ルル+他の語」について商標登録が可能であり、登録後に当該商標が用いられる商品と同じ「総合感冒薬」に使用しても、「ルル」とは非類似であり、混同を生じるおそれもないとし、許されるかどうかを置き換えて考えてみれば、明らかに不合理であることが分かる筈である。

よって、引用商標の著名性が確立した時期よりも12年も後において、著名商標をそっくり主要部に含めて出願し、しかも著名商標と同一の商品について使用されるような本件商標は、少なくとも、商標法第4条第1項第15号に規定する著名商標と出所の混同を生じるおそれのある商標として無効とされねばならない。

(8)まとめ

以上述べたように、本件商標は、請求人が21年以上にわたる長年の営業努力の結果、著名とした引用商標と要部において同一である。しかも、引用商標が著名商標と認定された時期よりも12年も後において出願され、現に著名商標が用いられている商品と同一の「鎮痛・解熱剤」に使用されている。本件のような商標は、特許庁の「商標審査基準」の趣旨からしても、また、本件審判で請求人が証拠として引用した数多くの審・判決例からしても著名登録商標と類似し、商標法第4条第1項第11号に該当すると判断されるべきであり、仮にそうでなくても、少なくとも、同項第15号に違反して登録されたものとして無効とされるべきである。

2 第1弁駁の理由

(1)被請求人主張の誤り

(ア)先ず第1に、被請求人は、「イブ」があたかも「イブプロフェン/Ibuprofen」と同義か、あるいはその正式略称であるかのような主張をしているが、「イブ」が「イブプロフェン/Ibuprofen」を指し、あるいはその正式略称であるかのような事実はどこにも存在しない。したがって「イブ」につき、あたかも「効能表示」や「原材料表示」であるかのごとく主張すること自体、何らの客観的事実に基づくものではなく、その根底において誤っている。もしも「イブ」が「イブプロフェン/Ibuprofen」と同義であり、あるいは「イブプロフェン/Ibuprofen」の正式略称として使用されるものであるならば、先ず、その事実を客観的に示した上で上記主張を展開すべきであって、そうでない主張は、単なる便宜的主張を超え、むしろ虚偽主張に近いものといわざるを得ない。

したがって、これを前提として展開する被請求人の以下に続く主張は、まさに、独自の主観に基づく主張といわねばならない。

(イ)もしも「イブ」が「イブプロフェン/Ibuprofen」と同義あるいはその正式略称として客観的に認められているのであるならば、薬品の成分表示や原材料表示欄に単に「イブ」と記載するようなことも許される筈であるが「イブ」がそのようなものでない以上、そのような表示をすることは不可能であり、現にそのような表示は存在しない。よって、被請求人の主張は客観的根拠を伴っていない。

ここで重要なことは、「イブ」が「イブプロフェン/Ibuprofen」と同義か否か、あるいは被請求人がどのような意図で本件商標を採択したかといったことではない。商標の問題として論議すべき重要なことは、市場においてすでにある特定の商標が、特定の商品について広く需要者に知られた「著名商標」となっている場合に、その著名商標との類似性、混同性(狭義、広義)をどのようにみるかであり、本件についていうならば、このような著名商標をそっくり構成の主要部に含んでなる商標が、その著名となった商品と同種の商品について使用されることの妥当性についてである。請求人は、これについては、先ず第1に、特許庁商標課の「商標審査基準」(甲第18号証の1及び2)に示される原則的考え方に基づいて主張している。

さらに、請求人は、請求人の引用商標が持つ現実の著名性を基にして類似性、混同性について判断された知財高裁判決(甲第28号証)及び複数の特許庁異議決定及び審決例(甲第14号証ないし同第17号証及び同第27号証)に基づいて主張している。これら審・判決において、引用商標は「鎮痛・解熱剤」についての著名商標として認定され、これとの関係で類似性、混同性が問題とされた商標は、登録取消し、あるいは登録無効となっているのである。特に、知財高裁判決では、「イブ」、「EVE」の著名性は、少なくとも、市場占有率第5位となった平成5年頃には著名商標となったことが証拠上認められると認定している。そして「イブ」、「EVE」についての宣伝広告についても、その使用開始(昭和60年12月)より平成15年までに合計35億6000万円にも上る宣伝広告費をかけたことも述べられている。このことは、たったのカタカナ二文字の「イブ」、ローマ字三文字の「EVE」につき、これだけ莫大な費用をかけて著名としたものであり、「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」等の薬剤に関する需要者はこれら二文字、三文字からは、請求人の著名商標の下に販売される「鎮痛・解熱剤」、「総合感冒薬」を認識するものであって、被請求人が主張するような化学品の「イブプロフェン/Ibuprofen」やその略称を表すものなどと認識したりするものではない。被請求人の論議は、市場にて著名商標として定着した現実を全く無視し、著名商標の信用に乗じるための根拠の無い主張といわねばならない。

(ウ)請求人は、「イブプロフェン/Ibuprofen」を「鎮痛・解熱剤」の成分表示として表示することに何ら異議を申し立てているものではない。したがって、被請求人においても「イブプロフェン/Ibuprofen」を「鎮痛・解熱剤」の成分表示として用いるならば、成分表示をすべき場所に、“正しく”「イブプロフェン配合」と正確に表示すれば良いことであって、何も商標中に正式略称でもない「イブ」を表示する必要はないのである(言うまでもなく、商標は自他商品識別標識であって、成分表示等の機能を果たすためのものではない)。

被請求人は、「イブ」は「イブプロフェン/Ibuprofen」の略称であるかのごとき主張をしているが、そのような事実がない以上、本件商標は著名商標「イブ」+「ニック」の結合からなるものであり、その構成の主要部において請求人の著名商標を含むものといわねばならない。それ故に、請求人は「イブ」、「EVE」が「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」についての著名商標となっている現実の事実に基づき、これを含む本件商標に対し、少なくとも「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」については無効とされるべきことを主張しているのであって、それ以外の商品に対してまで無効を唱えている訳ではない。

(エ)言うまでもなく、商標は取引市場にて流通する商品の名称そのものであるから、商標としての類似性、混同性を論議するときは、その商標がどの商品について市場でどのような評価を受け、どのように認識されているのかを基にして論議するのが当然であり、後願出願人の商標採用の主観的意図や、その商標がある化学品の成分を表す言葉と一部において共通しているなどといった論議は、全く商標論議から外れたものといわねばならない。

被請求人は「イブプロフェン/Ibuprofen」がどのようなものか、また被請求人がどのような意図で本件商標を採用したかの主観的意図を述べ、あたかも被請求人が本件商標を請求人の著名商標が用いられる商品と同じ「鎮痛・解熱剤」に用いることが正当理由に基づくかのごとく主張しているが、それら主観的意図は商標論議とは全く無関係である。商標は自他商品の識別標識として用いられるものであり、その類似の幅、混同のおそれの幅は、その商標の持つ著名度により大きく異なるものである。それ故、著名商標との関係での類似性、混同性の判断については特許庁「商標審査基準」において原則的考えが述べられており、著名商標をその構成の一部に含んでなる商標については、「その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりのあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものする」(甲第18号証の1)とし、あるいは、「他人の周知・著名な登録商標を結合した出願商標については、その結合状態如何に関わらず、すなわち構成上の一体性や観念上の繋がりがあるものであっても、原則として、当該他人の業務に係る商品又は役務と出所の混同のおそれがあるものと推認して取り扱う」(甲第19号証)としているのである。

さらに、証拠として提出した審・判決例においては、使用されない状況での定型的類否判断(主として、外観、称呼、観念)においては、相互に非類似と判断されて登録されても、その後の使用において一方が盛大に使用され、高い著名度を有する商標となった場合は、他方の使用が、特に、同一、類似の商品に使用される場合は、著名商標との関係で出所混同(広義、狭義)があるとして、無効とされる場合があることを示した事例であって、一旦登録されたからといって、その使用が全て合法化されるものではない。

本件では正に、請求人の引用商標が盛大に使用された結果、高い著名度を有するに至ったものであり、これに対し、本件商標は請求人の引用商標が高い著名度を獲得した(平成5年頃)後、12年も後の平成17年に、著名商標を主要部に取り込んで出願されたもので、定型的類否判断を通過したからといって、これを著名商標が使用されている商品と同一商品である「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」に使用することが正当化されるものではない。

(2)本件における根本問題

(ア)本件における根本的問題は、著名商標を構成中に取り込んだ商標が、著名商標が使用されている商品と同種の商品に後から使用される場合の問題である。引用商標は、知財高裁判決及び複数の特許庁審決に示すように、すでに市場で「鎮痛・解熱剤」について著名商標として定着しているのは客観的事実である(知財高裁判決では平成5年頃に著名性獲得を認定)。それ故に、同業者であって「イブ」、「EVE」、「Ibu」等を含んでなる商標を「鎮痛・解熱剤」又は「総合感冒薬」に使用した業者で、請求人から接触を受けた同業者のほとんどは、請求人の引用商標の著名性を認め、それらの使用を中止し、以後「イブ」、「EVE」、「Ibu」等を含む商標を使用したり、「イブ」の称呼を生じるおそれのある商標を使用したりはしない旨の約束をしている。

被請求人は、他にも「イブ」を含む登録商標があると主張するが、それら商標の全てが「鎮痛・解熱剤」又は「総合感冒薬」に使用されているものではなく、それをもって請求人の著名商標との間に何らの混同もなく並存していることの証拠となるものではなく、むしろ大多数の同業者の認識は上記のとおりであって、引用商標についての著名性を尊重する意思を示しているのである。

(イ)被請求人の上記主張に関しては、東京高等裁判所知的財産部第3部の判決(平成16年(行ケ)第129号、甲第29号証)が参照されるべきである。すなわち、当該訴訟において原告が「周知著名な先発品の登録商標の語頭部分3文字をそのまま語頭部分に用いている後発品の登録商標が多数存在し、それぞれが相互の業務に係る商品の混同を生じることもなく並存している」と主張したのに対し、裁判所は、「しかし、先発品の登録商標の周知著名性の程度、先発品と後発品の各登録商標の類似性の程度などは個々の事例毎に異なるのであるから、各事例毎にそれぞれの商品の出所の混同のおそれが検討されるべきであり、また、そもそもそれぞれの事例について、相互の業務に係る商品の出所の混同が取引者、需要者間に生じることもなく併存していることを確認し得るに足りる証拠もない」とし、「以上からすれば、原告が本件商標を薬剤、特に高脂血症用薬剤に使用した場合には、その取引者・需要者において、被告あるいは被告と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と混同するおそれがあるということができ、これと同旨の審決の判断に誤りはない」と述べ、原審である特許庁審決の認定を支持している。

(ウ)なお、被請求人は「イブ」を含む商標で「鎮痛・解熱剤」に使用されている商標として、乙第4号証の1ないし同第7号証に4件の使用例を挙げているが、請求人は、「イブアップ/IBUP」、「イブレスト/Ibrest」等に対しては、すでに無効審判を請求しており、また、「イブオーレ」については商標権者との間ですでに、「鎮痛・解熱剤」についての使用中止の基本合意に達している。

(エ)さらに、加えていうならば、被請求人が乙第3号証に挙げた商標で「イブオーレ」(登録第3260010号)、「イブペイン」(登録第3260011号)、「イブカット」 (登録第4865812号)、「イブスキット」(登録第4865813号)、「イブパワー」(登録5008994号)等はすでに請求人の引用商標との関係で「鎮痛・解熱剤」への使用中止を決定している。また、「総合感冒薬」を販売するある大手業者においては「Ibuprofen」の頭文字「IB」をとって、これを商品に表示しているが、宣伝広告においてはこれを「イブ」とは称呼せず、「アイビー」と称呼しており、かかる例は被請求人においても認識し得る筈である。

また、上記以外にも、「イブ」、「EV」、「Ibu」等を含む商標で使用中止した例がいくつもあり、現に被請求人が以前に「鎮痛・解熱剤」に使用し、請求人の指摘を受けて中止した「ノーエチ錠EV」の「EV」もその一例である。

(3)本件商標は引用商標の著名後(12年後)に出願されたもの

以上のように本件商標は、請求人の引用商標が著名商標となっていた平成5年頃より12年も後に著名商標をその一部に含む構成で出願され、しかも登録になるや請求人の著名商標が使用されている商品と同一の商品に使用開始されているのである。このような商標は、本来商標法第4条第1項第11号による定型的類否判断(外観、称呼、観念)においても類似と判断されるべきである(甲第18号証の1)が、引用商標の著名度及び使用商品の同一、類似、需要者の同一、類似等の具体的状況を考慮し、商標法第4条第1項第15号の適用(狭義、広義の混同)の下に、その登録適格性は否定されるのは当然であり、このような具体的状況と著名性とを加味して登録適格性を否定した異議決定及び審・判決例もすでに提出したとおりである。

(4)被請求人は本件商標についての正当な利益を有しない

(ア)被請求人は、請求人の本件審判請求につき「妨害行為」と述べているが、被請求人は、本件商標登録前に本件商標とカタカナ部分において同一の商標「イブニック」を所有していた(商標登録第2392061号)。しかし、 実際の使用においてはローマ字で「IBUNIC」とし、その「IBU」の部分のみを色彩を変え、あたかも「イブ」と認識させようとするかの使用をしていたため、請求人より不正使用に基づく取消審判が請求された(取消2005−30767)。しかし、これに対しては何ら答弁することなく、商標権を放棄(抹消登録)することにより、巧みに不正使用による取消審決を免れている。そして、再度本件商標を出願し、登録を得、これをまた「鎮痛・解熱剤」に使用しているのである。

(イ)被請求人が不正使用取消審判の請求を受けても、商標法上認められた答弁の場において何ら答弁することなく、自ら商標権を放棄した行為は、登録商標の不正使用を自認した行為であり、以後被請求人は当該商標について正当性を主張すべき法的利益を有しないものといわねばならない。商標法の制裁規定(第53条第2項)の適用を巧みに掻い潜って再度登録を得た本件商標について、被請求人には正当性を主張すべき法的利益は存在しない。

(5)まとめ

要するに、被請求人の主張は「イブ」は「イブプロフェン/Ibuprofen」を意味するものであり、成分表示であるから、これと他の語との結合からなる商標は請求人の著名商標と類似するものでもなく、その使用は許されるということを全ての主張の基点として展開しているものであるが、その基点に客観的根拠がないことは上述のとおりである。したがって、被請求人の主観的意図が何であれ、「イブ」が「イブプロフェン/Ibuprofen」を指し、あるいはその正式略称として使用されるようなものでない以上、被請求人の主張には客観的根拠が伴わない。

さらに、被請求人がもう一方の根拠とする他の登録例も、その全てが、被請求人が主張するような意味で「鎮痛・解熱剤」や「総合感冒薬」に使用されているものではなく、むしろ同業者の認識は上述のように、請求人の著名商標を尊重し、「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」については、請求人の著名商標を含んでなる商標の使用を避けているものであって、被請求人のような認識をしているものではない。

3 第2弁駁の理由

(1) 被請求人の主張が全く主観的で客観的根拠を伴っていないものであることを示すために、請求人は市販されている主な「鎮痛解熱剤」及び「総合感冒薬」において、「イブプロフェン/Ibuprofen」が配合されていることを示すために、どのような表示がなされているかを示すいくつかの例を甲第36号証ないし同第42号証として提出する。

(2)「鎮痛解熱剤」及び「総合感冒薬」において、「イブプロフェン/Ibuprofen」配合を示す表示としては、パッケージ上に商標名とともに、「イブプロフェン配合」と正確に表示をしており、単に「イブ配合」、「IBU配合」等の表示を用いているものはない。また、「イブプロフェン配合」を強調するための表示として「IB」又は「IP」等の文字を表示しているが、これら表示は登録商標とは別個独立に表示しており、これらについて「イブ」と称呼されている例はない。医薬品に関する成分表示は、成分表示をなすべき場所に正確な表示をするのが本来であって、商標構成中の一部に正式略称でもないものを用いて成分表示であるなどと主張するのは合理的根拠に基づいた主張ではない。

第3 被請求人の答弁の要点

被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第7号証(枝番を含む。)を提出している。

(1)本件審判請求に先立って、請求人は、本件被請求人を被請求人として、平成18年7月6日付けで本件商標の無効審判(無効2006−89090:以下「前審判」という。)を請求したが、これに対し乙第1号証に示すとおり、「本件審判請求は成り立たない。」との審決(以下「前審決」という。)がなされ、その審決謄本が同19年3月26日に被請求人に対し送達されている。

前審決に係る前審判と本件審判とは、その証拠は完全には同一でないから、本件審判は商標法第56条第1項で準用する特許法第167条に規定する「一事不再理」の規定に違反するものではないが、請求人が提示する証拠は、前審判の場合と同一の事実を証明するために、証拠を単に類似の証拠に変え、あるいは証拠価値の乏しい証拠を追加して提示したにすぎず、本件審判請求は、「一事不再理」の規定の趣旨に反する行為である。

被請求人の如く、請求人と比較して、企業規模が小さく、資力に乏しい商標権者に対し、何度も無効審判請求を繰り返し、審判請求に対して答弁するための費用の負担を、繰り返し強いることにより、その商標の使用中止に追い込もうとする妨害行為は、倫理上到底許されざる行為である。

(2)請求人は甲第2号証ないし同第8号証に係る登録商標を有しており、引用商標と本件商標が互いに類似すると主張する。

また、請求人は引用商標を実際に「鎮痛・解熱剤」の商品について使用し、大々的に広告宣伝を行った結果、引用商標は請求人の商品を表示する商標として、著名性を獲得していると主張する。

被請求人は、請求人が「イブプロフェン」を主剤とする解熱・鎮痛剤に引用商標を付して、大々的に宣伝、販売したために、「EVE」、「イブ」の商標は、請求人の販売に係る解熱・鎮痛剤の商標として広く知られていることを認めるに吝かではない。

しかし、「イブ○○○」、「IBU○○○」の如く、文字商標の語頭に「イブ」の音が存在しているからといって、請求人が他社のそのような商標の使用を何とか妨害せんとする、横暴な行為は到底認めることはできない。

(3)そもそも、「イブニック」の商標は、以下のような経緯で採択された商標である。

(ア)解熱・鎮痛剤の主剤として、従来アスピリンのようなピリン系の薬剤が主として使用されてきたのであるが、ピリン系の薬剤には、胃腸障害等の副作用発生のおそれがあり、医師の処方する解熱・鎮痛剤として、効能が極めて優れ、かつ副作用の少ない「イブプロフェン(ibuprofen)」を主剤とする薬剤が優先して使用されるようになってきている。その「イブプロフェン」を主剤とする解熱・鎮痛剤が、一般薬局で販売される大衆薬としても、厚生労働省により認められるようになった結果、大衆薬を販売する多数の製薬会社から、「イブプロフェン」を主剤とする、大衆薬としての解熱・鎮痛剤が多種販売されるようになってきたのである。

(イ)この「イブプロフェン」の効能については、被請求人が医師の処方する医療用の「解熱・鎮痛剤」として販売している、「ブルファニック」という名称のイブプロフェン錠の商品に添付する「能書」を拡大した写しを乙第2号証として提示する。医療用薬剤に添付する「能書」は、薬事法および厚生労働省の指導により、それに記載する事項について、極めて詳細な規定があり、法令等により規制された事項を正確に且つ、全ての情報を誤りなく記載することが求められている。したがって、この「能書」の記載は間違いがなく、正確なものであることはいうまでもない。

(ウ)乙第2号証によれば、「イブプロフェン」は急性炎症抑制作用がアスピリンの約9倍、慢性炎症抑制作用がアスピリンの約10倍、鎮痛作用がアスピリンの約30倍に達し、解熱作用がアスピリンよりも優れていることが記載されている。これらの記載は勿論、学術文献に基づき、薬学界で認められたものである。

(エ)上記乙第2号証に示すとおり、「イブプロフェン」は解熱・鎮痛剤として、優れた効果を有する薬剤であるので、大衆薬として使用が認められてからは、各製薬会社が、競って「イブプロフェン」を主剤とする解熱・鎮痛剤を発売したのである。その際にその「イブプロフェン」を主剤とする解熱・鎮痛剤の商標として、効能の優れた「イブプロフェン」を主剤とすることを暗に表示するために、「イブ○○○」、「IBU○○○」或いは「IB○○○」という形の商標が多数採択され、多数の商標登録出願がなされ、後述のごとく多数の商標が登録されている。

(4)上記の「イブ○○○」の形の登録商標であって、「薬剤」を指定商品とする登録商標の一覧を乙第3号証として提示する。

(ア)乙第3号証は特許庁のインターネットのホームページの特許電子図書館の商標出願・登録検索ページを用い、商標として「イブ?」又は「IBU?」、類似群として「01B01」(薬剤)をそれぞれ条件として検索した結果をダウンロードした印刷物であるが、ここに62件の登録済みの商標が検出されている。これらの「イブ○○○」又は「IBU○○○」の形の商標は、その殆どが、「イブプロフェン(ibuprofen)」を主剤とする解熱・鎮痛剤用の商標としての使用を目的として、出願、登録されたものであると考えられ、実際にこのうちのかなりの数の商標が、「イブプロフェン」を主剤とする解熱・鎮痛剤の商標として使用されている。

(イ)乙第3号証に表示された62件の登録商標うち、14件のみが請求人の登録商標であり、残りの48件はすべて他社の登録商標である。したがって、「イブ○○○」の形の商標が全て請求人の登録商標ではなく、多数の製薬会社が「イブ○○○」又は「IBU○○○」の形の商標を薬剤について登録しているのである。すなわち、解熱・鎮痛剤を販売する医薬品業界にあっては、その薬剤が「イブプロフェン」を主剤とする効能の優れた解熱・鎮痛剤であることを示唆し、連想させるために「イブ○○○」、「IBU○○○」或いは「IB○○○」の形の商標が広く採択されて使用され、登録されているのである。

(5)請求人は甲第13号証ないし同第18号証を提示して、引用商標が周知商標ないしは著名商標であることを主張する。

しかしながら、引用商標が如何に請求人の使用する商標として、周知、著名であるとしても、それがために引用商標と本件商標との間の類否関係が変るものでは無いことはいうまでもない。

引用商標からは「イブ」の称呼のみを生ずるのに対し、本件商標からは「イブニック」の称呼のみを生ずるから、両商標は称呼上明らかに非類似である。本件商標から生ずる称呼「イブニック」は、促音を除くと4音からなる短い音よりなり、全体がまとまりよく一連に称呼し得る称呼であり、これを「イブ」と「ニック」に不自然に分断して称呼すべき特段の理由は全くない。

本件商標は、「IBU」の文字から「イブプロフェン」の主剤を連想させるものの、全体としては造語商標であり、特定の観念を有しないから、引用商標とは明らかに観念上互いに非類似の商標である。

また、本件商標と引用商標は、外観上、互いに明らかに非類似であるから、本件商標と請求人の使用する引用商標とは、称呼、観念及び外観のいずれの点からも互いに非類似であり、両商標は互いに非類似の商標であるといわざるを得ない。請求人の使用する商標と本件商標とは、商標自体が互いに非類似であるから、本件商標は請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれは全くない。

(6)前審決でも、「当審の判断」の中で「商標の採択に際して、薬効成分等を暗示させるために主剤となる医薬品等の名称の一部を用いることは、この種業界で一般に行われている実情の一といい得るところである。」と判断されており、主剤として「イブプロフェン」を用いる解熱・鎮痛剤の商標として「イブ○○○」の形の商標は多数、実際に使用されているのである。

前記乙第3号証に示すように、請求人以外の者に対し、「イブ○○○」又は「IBU○○○」の形の薬剤の商標が48件登録されており、このうちかなりの数の商標が、実際に「イブプロフェン」を主剤とする解熱・鎮痛剤の商標として使用されている。しかし、それらの商品をすべて入手して提示することは困難であるので、乙第4号証の1ないし同第7号証として、実際に使用されているいくつかの例を例示する。

(ア)乙第4号証の1及び2は、「イブアップ」及び「IBUP」の商標が実際に、資生堂薬品株式会社が販売する「イブプロフェン」を主剤とする「解熱・鎮痛剤」の商標として使用されていることを示す。

(イ)乙第5号証の1及び2は、「イブレスト」及び「Ibrest」の商標が実際に、資生堂薬品株式会社が販売する「イブプロフェン」を主剤とする「解熱・鎮痛剤」の商標として使用されていることを示す。

(ウ)乙第6号証の1及び2は、「イヴウェル」及び「IBWELL」の商標が実際に、資生堂薬品株式会社が販売する「イブプロフェン」を主剤とする「解熱・鎮痛剤」の商標として使用されていることを示す。

(エ)乙第7号証は、「イブオーレ」及び「EVEAURE」の商標が実際に、「イブプロフェン」を主剤とする「解熱・鎮痛剤」の商標として使用されていることを示す。

上記(ア)ないし(エ)に例示するように、「イブ○○○」又は「IBU○○○」の形の商標が多数実際に「解熱・鎮痛剤」の商標として使用されているから、如何に請求人の商標として引用商標が周知ないしは著名であるとしても、一般の需要者・取引者が「イブ○○○」又は「IBU○○○」の商標を付した解熱・鎮痛剤が全て、請求人又は請求人と何らかの関係を有する者に係る商品であるかのごとく誤認し、その出所の混同を生ずるおそれは全くない。

(7)請求人は、甲第14号証ないし同第17号証、同第27号証及び同第28号証を提示し、「恵快イブ」、「ホワイトイブ」、「オムニンイブ」、「オールイブ」、「ツーシンイブ」及び「イブペイン」についての審決例及び判例を示し、これらの商標が請求人の商標「イブ」或いは「EVE」と類似し、商品の出所の混同を生ずる旨の判断がなされているから、本件審判でも同様の判断がなされるべきであると主張するが、本件と上記の各甲号証の例とは全く事情を異にし、同一に論ずることはできない。

例えば、最新の判決例である甲第28号証に示す「イブペイン」の場合は、その審決取消訴訟の原告である請求人は、原告が主張する「取消事由2」で「『イブペイン』の語の中で『ペイン』の語は、医療分野において、苦痛や痛みを取り除くためのクリニック、すなわち、『ペインクリニック』を指すものとして知られ、使用されているから『PAIN』の語が『鎮痛剤・解熱』等に関して使用されるときは、一般人に対しても、商品の特性、効能等を直感させる用語として認識される。このような場合において、より識別力を発揮する部分は、『EVE』にある。」と主張している。したがって、「イブペイン」の語中「ペイン」の部分は商品の効能、用途等を示すにすぎず、商標としての識別力は小さく、「イブ」の部分が商品識別力を有する商標の主要部であると認められるから、「『イブペイン』を『イブ』と『ペイン』に分断して、『イブ』の部分のみを抽出して、称呼・観念の頬否を判断すべき特段の理由がある。」といえるが、本件の「イブニック」の語を「イブ」と「ニック」に分断して、称呼・観念の類否を判断すべき特段の理由は全くない。

(8)さらに、請求人は、甲第29号証ないし同第35号証として、「高脂血症治療剤」の商標として著名な「メバロチン」と「メバロカット」、「メバラチオン」、「メバロスロリン」、「メバスタン」、「メバコール」、「メバブラチン」とが互いに類似し、商品の出所の混同を生ずるかどうかをめぐって争われた東京高裁判決又は商標登録無効審判の審決を持ち出し、これらの審判決において、「メバロチン」と「メバロカット」、「メバラチオン」、「メバロスロリン」、「メバスタン」、「メバコール」又は「メバブラチン」とがそれぞれ互いに類似すると判断されているから、本件審判においても、「イブ」と「イブニック」が互いに類似すると判断すべきであると主張する。

しかし、「メバロチン」のケースと本件審判のケースとは全く事案を異にする。

先ず「メバ○○○」或いは「メバロ○○○」の形の商標は実質的には、「高脂血症治療剤」の商標としては「メバロチン」以外には使用されていない。また「メバロ〜」の語はこの種の「高脂血症治療剤」の主剤の普通名称ではなく、「メバロチン」等の「高脂血症治療剤」の主剤の一般名は「プラバスタチンナトウム」である。

これらの「メバロチン」と類似すると判断された商標は、乙第1号証に示す審決で「商標の採択に際して、薬効成分等を暗示させるために主剤となる医薬品等の名称の一部を用いることは、この種業界で一般に行われている実情の一といい得るところである。」と判断されているような、主剤の一般名の一部を商標の一部に含む商標では決してない。したがって、上記「メバロチン」と類似するとして争われた「メバロカット」、「メバラチオン」、「メバロスロリン」、「メバスタン」、「メバコール」又は「メバブラチン」の商標には、「メバロ・・・」或いは「メバ・・・ン」の如き形の商標を採択する必然性は全くない。

このように、本件商標の類否とは全く無関係な事案を持ち出して、恰も本件と類似する事案であるかの如く主張することは、到底認められない。請求人が提示する各審決例、判例は本件審判の判断の基準とは全くならないものである。このような全く異なる事案を持ち出して、同様な審決を求めることを容認することは出来ない。

(9)よって、請求人が本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に基づき無効であると主張する根拠は全くない。

以上詳述したように、本件審判請求は全く理由がないものであるといわざるを得ない。

第4 当審の判断

1 本件審判請求について

被請求人は、本件審判は前審判と同一の事実を証明するために証拠を類似の証拠に変え又は証拠価値の乏しい証拠を追加するにすぎず、商標法第56条第1項において準用する特許法第167条に規定する「一事不再理」の趣旨に反するものである旨主張する。

確かに、本件審判の請求の趣旨と前審判の請求の趣旨は同一であり、請求人の主張事実及び提出に係る証拠の多くは、前審判における主張事実及び証拠と同じであることが認められる。

しかしながら、本件審判においては、前審判において主張されていなかった商標法第4条第1項第11号違反を理由とする主張がなされていることに加え、立証証拠も新たなものが追加されている点において、前審判における主張事実及び証拠と全く同一とはいえない。

したがって、本件審判の請求は、商標法第56条第1項で準用する特許法第167条に規定する「一事不再理」の原則に反するとまではいえない。

よって、以下、本案に入って審理する。

2 引用商標の周知著名性について

(1)請求人の提出に係る証拠及びその主張の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(ア)請求人は、引用商標を使用した鎮痛・解熱剤(以下「請求人商品」という。)を昭和60年12月に販売開始して以来、今日まで継続して販売しており、請求人商品は、2003年度においては、同業者の鎮痛・解熱剤の中で第4位にランクされ、その販売金額は約59億円になり、シェアは11.9%を占めている(甲第9号証の1及び2並びに同第10号証)。請求人商品は、2005年度においては、シェアが13.4%となり、医薬品市場で500種を超える鎮痛・解熱剤の中にあって第3位にランクされている(甲第20及び第21号証)。

(イ)請求人商品の発売については、昭和60年12月に新聞報道(甲第9号証の1)されており、そして、請求人商品は、その販売開始直後の昭和61年1月から週刊誌、テレビ、新聞等で大々的に宣伝広告され(一例として、甲第22ないし第25号証)、その宣伝広告費は、販売開始の事実上の初年度である昭和61年だけで6億7900万円に達し、平成7年までの10年間で30億5200万円、同8年及び9年の2年間で4億円となっている(甲第26号証)。

また、請求人は、請求人商品と同系列の商品として、「イブA錠」の商標を使用した鎮痛・解熱剤を販売しており、その広告宣伝費は平成10年度から平成15年度までに5億円を超えている(甲第12号証)。

(ウ)上記新聞広告においては、請求人商品のパッケージ写真が掲載され、そのパッケージには、「EVE」の文字を大きく書した右側に「イブ」の文字が小さく表示されている。上記写真の上部には、「今日からの鎮痛薬・・・イブ 新発売」と大きく表示され、同写真の右側には「<イブ>はイブプロフェン製剤。痛みのもと・・・鎮痛薬です。」等の説明文が記載され、さらに、最下段に「EVE」の文字を大書しその下に小さな「イブ」の文字を併記した態様の標章が掲載されている(甲第22号証ないし同第25号証)。 同様の広告は、請求人商品発売の新聞報道時においても行われており、さらに、その上部には「副作用の少ない鎮痛薬イブ」との見出しの記事が掲載されている(甲第9号証の2)。

また、請求人商品は、前記(イ)の新聞報道の記事においては、「解熱鎮痛剤”イブ”」との見出しのもとに紹介されており(甲第9号証の1)、さらに、2003年度・2005年度「SDIアニュアルレポート」における薬効別上位銘柄の販売状況の解熱鎮痛剤の項、及び2006年版の「JAPIC医療用医薬品集」における薬効分類:解熱鎮痛薬の項には、「イブ」として掲載されている(甲第10号証、同第20号証及び同第21号証)。

(エ)さらに、請求人は、登録商標「エスタックイブ/S.TAC EVE」に係る2種類の総合感冒薬を平成4年より販売しており、その商品パッケージには「エスタックイブ」又は「エスタックイブエース」(いずれも「イブ」の文字を「エスタック」の文字より大きく表示)の標章が顕著に表示されている(甲第13号証の1及び2)。

(2)以上の認定事実によれば、引用商標は、請求人が鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬について使用する商標として、本件商標の登録出願時には既に取引者、需要者の間に広く認識されていたものというべきであり、その状態は本件商標の登録時においても継続していたものというのが相当である。

なお、被請求人も、引用商標が請求人の販売に係る鎮痛・解熱剤の商標として広く知られていることを認めるに吝かではないとして、この点については争っていない。

3 本件商標について

本件商標は、前記第1のとおり、「IBUNIC」の欧文字と「イブニック」の片仮名文字からなるところ、その構成文字全体として特定の観念を生じる一連一体の成語とはいえないものであり、かつ、その構成中の「NIC」及び「ニック」の各文字も特定の親しまれた既成の観念を有する語とみるべき格別の事情を見いだせないものである。

そして、その構成中の「イブ」は、そもそもは「前夜祭」、「旧約聖書で、人類始祖アダムの妻」等の意味を有する語であるから、本件商標は、「イブ」と「ニック」の各文字が結合した「イブニック」の文字とこれを欧文字で表した「IBUNIC」の文字からなるものとして認識し把握する場合も決して少なくないものといわざるを得ない。

4 商品の出所の混同のおそれについて

以上の事情の下に、本件商標をその指定商品中の「薬剤」に属する「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」について使用するときは、これに接する取引者、需要者は、その構成中の「イブ」の文字部分に注目して、周知・著名となっている引用商標を連想・想起し、該商品が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。

5 被請求人の主張について

(1)被請求人は、イブプロフェン(ibuprofen)を主剤とする解熱・鎮痛剤において、該イブプロフェン(ibuprofen)を主剤とすることを暗示するために、「イブ○○○」、「IBU○○○」或いは「IB○○○」といった商標が多数採択され、商標登録されている旨主張している。

しかしながら、「イブ」又は「IB」の文字を含む登録例として提出された乙第3号証を徴すれば、その指定商品が「薬剤」を含むものであることを認め得るとしても、請求人に係る登録商標を除いたものがイブプロフェン(ibuprofen)を主剤とする鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬であることを認めるに足りる証左は乙第4号証ないし同第7号証(枝番を含む。)の僅か4例にすぎないものであるばかりでなく、イブプロフェン(ibuprofen)を「イブ」又は「IBU」と省略して使用している事実を認めるに足りる証左もないものであるから、被請求人の提出した証拠をもって、本件商標構成中の「イブ」の文字部分が直ちにイブプロフェン(ibuprofen)を主剤とする薬剤であることを表すものということはできない。そして、本件商標は、その構成中に「イブ」の文字が含まれていることは明らかであり、これが一連一体の成語として一般に広く認識されていると認めるに足る証左もなく、むしろ、前示のように、本件商標がその指定商品中「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」について使用された場合には、これに接する取引者、需要者は、周知・著名となっている引用商標の「イブ」が連想・想起されるというべきであるから、被請求人の主張は採用することができない。

(2)被請求人は、本件商標と引用商標とは互いに非類似の商標であるとして、本件商標が請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはないと主張している。

しかしながら、商品の出所の混同を生ずるおそれがあるか否かについては、商標の周知・著名性の程度、商標・商品の類似性、使用状況、需要者層等の具体的な事情を総合的に考察して判断されるべきであり、本件商標は構成全体として特定の意味を把握できないこと、本件商標の登録出願時及び登録時には引用商標が取引者、需要者の間に広く認識されていたこと、本件商標の指定商品は引用商標の使用に係る鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬を含むものであること等を総合的に勘案すると、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきであるから、被請求人の係る主張は採用することができない。

6 まとめ

以上のとおり、本件商標をその指定商品中の「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」について使用するときには、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきであり、本件商標は、その指定商品中、上記商品については、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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