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Trademark Appeal Case

周知商標と不正出願

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2007−890147(T2007−890147/J3)
審判種別無効
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5035358号商標(以下「本件商標」という。)は、平成18年1月13日に登録出願、「S−cut」の欧文字及び記号と「エスカット」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり、第11類「家庭用・業務用電気式床暖房装置」を指定商品として、同19年3月30日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張

1 請求の趣旨

請求人は、本件商標の登録は無効とする、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第9号証(枝番号を含む。)を提出した。

2 請求の理由

(1)本件商標は、被請求人の登録出願に先立ち、株式会社日本地場産業(以下「地場産業」という)が製品を製作し、使用していたものであり、他人の周知商標であり、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に該当するものである。

また、被請求人の取締役の一人である山崎雅夫は、上記地場産業の取締役の一人だったものであり、本件に関する事情を熟知していたものである。被請求人は、そのような事情を知りながら、製品を作成して不正競争防止法第2条第1項の周知表示混同惹起行為をしていたのであり、さらに、商標登録がないことを奇貨として商標登録出願をしたものであるから、商標法第4条第1項第7号にも該当するというべきものである。

(2)本件商標に関する製品の製作について

本件商標に関する製品(以下「本件製品」という。)は、平成10年頃より、地場産業(甲第1号証)が製作、販売をしていたものである。同社は、平成10年12月、本件技術について特許出願もしているし、平成12年6月30日に公開もされている(甲第2号証)。そして、当時のパンフレットも存在する(甲第3号証)。

(3)山崎雅夫氏の立場

被請求人の取締役の一人である山崎雅夫は、地場産業において、本件製品の開発・営業に携わっていたもので、地場産業の取締役であった者である(甲第1号証)。

(4)請求人会社の立場、行動

ところが、平成13年ころ、地場産業は、経営が悪化し、その運転資金を請求人代表者から借り入れた(甲第4号証)。それでも地場産業は、経営が好転しないため、請求人が本件製品に関するすべての権利を譲り受けたものである(甲第5号証)。

請求人は、本件製品の製作自体は、平成16年11月項までは、地場産業を引き継ぎ札幌で請求人自ら製作しており、その後、平成17年7月項までは、(株)FRAと共に、それ以降は、(株)三栄工事と共に製作、販売しているものである(甲第6号証)。

(5)被請求人

上記山崎雅夫は、上記のような状況の下、平成14年1月28日付けの辞任届けにより、地場産業の取締役を辞任し(甲第7号証)、その後、同人がかかわっていたのが、被請求人であり、山崎氏の進言により、本件製品を作る会社として、平成15年8月14日被請求人が設立され、本件製品の大元の会社であるかのような商号を付け、山崎は、本件製品製作のノウハウも被請求人に教え、被請求人は、これにより本件商標に関する製品を作成したものである。そして、平成18年1月13日、被請求人は、本件商標を出願し、平成19年3月30日、登録となったものである。この間、平成18年6月30日(登記は、同年8月7日)、被請求人の取締役に就任している(甲第8号証)。

(6)結論

以上のように、本件商標は、以前、本件製品を作成していた地場産業の取締役であった山崎が、本件製品の製作販売を独占しようと企て、その話に乗った被請求人が、そのような商号を持つ会社を設立して、本件商品を製作し、さらに、本件商標登録出願を行ったものである。地場産業の権利は、請求人に譲渡されたものであるが、この間の事情を熟知している山崎及び被請求人の行為は、不正競争防止法第2条第1項の周知表示混同惹起行為であり、その上で本件商標の出願をしたのであり、商標法第4条第1項第7号、同第10号及び同第15号に該当し、本件商標の登録は、本来認められるべきではなかったものである。

3 答弁に対する弁駁

(1)被請求人は、山崎が個人営業をしていたものを引き継ぎ、法人組織として設立されたものである(答弁書7頁下から4行目から 8ページ4行目)。山崎は、登記簿上、地場産業の取締役であり、競業避止義務を負うものである。本件商標を含め、権利が請求人に包括的に移転していなければ、地場産業に対する背信行為となるものである。

(2)請求人は、権利等を包括的に譲り受けるに当たり、地場産業の工場及び事務所もそのまま引き継ぎ、請求人名で賃貸借契約も締結して、「エスカット」を製造していた。そして、その販売会社であったのが株式会社ジバサンである。株式会社ジバサンは、請求人代表者が代表を務める会社であり、請求人が権利関係を地場産業から取得したことに伴って、従前の存在した会社の目的を変更し、本店を移転した会社である(甲第9号証)。被請求人は、この会社について、架空の会社と主張しており、山崎がこの営業に関与していないことを自ら吐露してしまったものである(答弁書7頁12〜15行)。

(3)他方において、被請求人は、山崎と請求人との間において、「山崎の個人としての営業活動による収入の何割かを手数料として受領する約束であったが、書面化していないためか全く支払われなかつた」(答弁書7頁25〜27行)と主張している。請求人が権利者でなければ、手数料を受領する約束などできないのであり、これは、取りも直さず、被請求人は、請求人が権利者であることを熟知していたことを示す事実である。

(4)被請求人は、地場産業の有していた他の権利について、るる主張し、請求人が本件を含め包括的に権利を承継していないという理由づけとするが、請求人が現実に、そして中心的に製造販売に力を入れたのが、「エスカット」床暖房なのである。むしろ、地場産業の権利関係について、被請求人が詳細に知っていること自体、登録がないことを奇貨として登録した被請求人の意図を吐露するものである。

(5)以上のように、被請求人は、取締役であり、個人営業を引継いだ創業者的立場である山崎が、請求人と地場産業との関係、請求人が権利者であることを熟知して、地場産業の権利関係の登録状況を精査し、未だ本件商標が登録されていないことを奇貨として、申請して登録を受けたものであるから、無効というべきである。

第3 被請求人の答弁

1 答弁の趣旨

被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第35号証を提出した。

2 答弁の理由

(1)本件請求人の主張の根幹は、第2 2(4)の記述からすると、請求人は、地場産業の製造販売に係るステンレス製ヒーターによる電気式床暖房装置に関する全ての権利を譲り受け、本件商標についての使用権限も引き継いだとすることにあると認められる。

請求人は、地場産業が平成13年に経営が悪化し、請求人代表者から運転資金を借り入れたが、好転しないために「請求人が本件製品に関するすべての権利を譲り受けた」として、譲渡日平成14年3月1日付の甲第5号証の譲渡契約書を提示する。

山崎は、平成14年1月28日付にて、同年1月31日付で役員の辞任届を提出している(甲第7号証)。提出した理由は、ステンレスヒーターによる電気式床暖房装置は、山崎が多額の個人資産を投入して開発したヒーターを用いるものであるが、地場産業は、この販売に傾注することなく、このヒーターに関する産業財産権(特許権等)をちらつかせ、多くの会社から権利金(保証金)と称して金を集める金融会社のようになったからである。山崎は、請求人との金銭の貸借、譲渡契約については、関知していない。しかし、この譲渡契約書には「日本地場産業の所有する特許権・意匠権及び商標権等に係わる全ての権利については、平成13年11月 21日付の(株)日本地場産業とマリガン(株)との公正証書にもとずきマリガン(株)に譲渡する。」と記載されているのみで、地場産業の産業財産権(工業所有権)に関する譲渡証書と理解するのが正しく、地場産業と請求人の間の電気式床暖房装置に関する包括的な事業譲渡契約とするには、当たらない。そのことを端的に示す事実として、後述のように地場産業の特許権等には、電気式床暖房装置とは関係のない製品に係るものが含まれている。しかも、何故か請求人は、特許権、意匠権及び商標権に関して、移転登録申請、出願中の特許を受ける権利等についての名義変更届の手続をしている様子が全くない。

特許法第34条第4項には「特許出願後における特許を受ける権利の承継は、相続その他の一般承継を除き、特許庁長官に届け出なければ、その効力を生じない。」と規定され、名義変更届が受理されないと移転の効力が生じない。特許法第98条には「次に掲げる事項は、登録しなければ、その効力を生じない。一 特許権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。) 以下略」と規定されている。移転登録申請がなされ登録原簿に登録されないと移転の効力は、生じない。意匠法、商標法ではこれらの規定は、準用されている。

もっとも、請求人に特許権等を譲渡する前に、地場産業は、経営不振の混乱の中で、資金繰りに窮し、担保財産として、登録商標一件を除いた全ての特許権等や出願中の権利について、株式会社地場総合販売(岐阜市茜部本郷)に譲渡証を、出光興産株式会社(千代田区丸の内 電気式床暖房装置のOEM生産を担っていた。)に一部譲渡証を交付していた。これらのことについては、山崎は、東京での電気式床暖房装置の営業・施工に従事していたので事後に知らされたのみであり、辞任の一因ともいえる。

商標「トップアンカー」以外について、平成13年2月から5月にかけて地場総合販売と出光興産が、地場産業の譲渡証を添付して出願人名義変更届、移転登録申請を相次いで特許庁に提出している。受理された名義変更、移転登録がなされた以外は、全て却下されている。それでも、平成14年3月時点で、地場産業が保有する商標権、特許を受ける権利(これらは、請求人が譲り受け可能。)については、次のとおり存在していた。

商標権

登録番号 第4082870号 平成9年11月14日登録

商 標 トップ−アンカー

指定商品 旧第7類 ビニールハウスの建設に使用する金属杭(乙第1号証)

特許出願

1.出願番号 平成8年特許願第333821号

公開番号 特開平10一169254号

発明の名称 屋根融雪システム

*一部譲渡の名義変更届で平成13年5月に出光興産が出願人に加入

経 過 平成18年1月拒絶査定 (乙第2号証)

2.出願番号 平成10年特許順第355903号 ←甲第2号証の1

公開番号 特開2 0 0 0一182758号

発明の名称 面状発熱体

*一部譲渡の名義変更届で平成13年5月に出光興産が出願人に加入

経 過 平成19年6月 拒絶理由通知 (乙第3号証)

3.出願番号 平成10年特許順第358649号 ←甲第2号証の2

公開番号 特開2 0 0 0一182752号

発明の名称 面状発熱体の製造方法

*一部譲渡の名義変更届で平成13年5月に出光興産が出願人に加入

経 過 平成19年9月拒絶査定 (乙第4号証)

平成13年2月に地場産業から株式会社地場総合販売に譲渡され移転登録された特許権、意匠権、商標権は次のとおりである。

特許権

特許番号 第2966998号 平成11年8月13日登録

発明の名称 寒冷地向け屋根の氷結防止方法〜

経 過 平成17年8月13日消滅 (乙第5号証)

意匠権

登録番号 第1063521号 平成11年11月26日登録

意匠に係る物品 床暖房用ヒーター

経 過 平成16年11月26日消滅 (乙第6号証)

商標権

登録番号 第2092929号 昭和63年11月30日登録

商 標 スガボー

指定商品 旧第9類 〜屋根の雪をとかす〜防止装置 (乙第7号証)

(2)事業譲渡は、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産を譲渡し、それにより、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度において競業避止義務を負う結果を伴うものをいう(最高裁昭和40・9・22判決)。事業譲渡契約が結ばれると、次の効果が生じる。譲渡人は、営業財産を譲受人に任意移転し、第三者に対する対抗要件(登録等)を具備させなければならない。しかし、譲渡人(地場産業)は、登録に協力をしておらず、請求人(譲受人)が協力の要請をしたか不明である。事業譲渡契約の締結に際しては、会社の内部的に特別の手続きを必要とする。株式会社がその営業の全部又は重要な一部を譲渡するには、株主総会の特別決議を必要とする(現行会社法第467条1項1号・2号)。株式会社が他の会社の営業全部を譲り受けるには、株主総会の特別決議を必要とする(現行会社法第467条第1項第3号)。請求人及び地場産業が上述の手順を踏んでいるとする証拠を提出していない。請求人は、「本件製品の製作自体は、平成16年11月項までは、地場産業を引き継ぎ札幌で請求人自ら〜、その後平成17年7月項までは、(株)FRA(正確には、エフアールエー)と共に、それ以降は、(株)三栄工事とともに製作、販売しているものである。」とし、甲第6号証として三栄工事のカタログを提出している。

しかし、請求人は、事業譲渡を受けたような論理をとりながら、例えば、従来の顧客に対する案内状を作成発送した様子もなく、平成14年から平成16年までの間の請求人の札幌での製造販売の事実を示す資料(カタログ、取扱説明書、注文書等。)も提出していない。

請求人は、請求の理由(2)で甲第3号証のカタログは、地場産業の平成10年頃のものとするが、奥付から平成14年1月現在のものである。しかも、地場産業と住所は同じであるが、株式会社ジバサンとなっている。

請求人の主張からすると、甲第5号証の譲渡契約書の譲渡日(平成14年3月1日)と、地場産業と請求人との公正証書(平成13年11月21日)の間の時期のパンフレットであることから、請求人名義であってもおかしくないが、このカタログのどこにも請求人が製造販売に係っていることを示す記述は存在しない。甲第6号証の株式会社三栄工事のカタログにも、請求人が床暖房装置の製作、販売に携わったと受け取れる記述は、皆無である。株式会社エフアールエーのカタログ、ホームページにも請求人をうかがわせる記載は、見当たらない(乙第8号証)。

甲第4号証の平成13年11月1日付の金銭消費貸借契約書に「3.乙が借受金の返済を完了するまで、乙が保有の売掛金及び事務所・工場の機械類及び工具、資材、消耗品、備品一式を譲渡担保とする。(譲渡担保目録は別途作成するが、代表的な物品名とする。ただし、この担保には、リース物件は含まれないものとする。)」また「2.借受金及び利息の返済期限は平成14年9月末日とする。」との契約条項が認められる。請求人は、地場産業がその返済期限前に元利金を返済できないことが確実となったと判断してか、譲渡日平成14年3月1日付の譲渡契約書(甲第5号証)を締結し、地場産業の担保物件を、被担保債権に充当すべく活動を開始したのではないかと思われる。実体は、地場産業の債権者である請求人の代表者(甲第4号証)は、その債権を自らの会社(請求人)に譲渡し、譲渡担保としての「工場の機械類及び工具、資材、消耗品、備品」及び地場産業の保有する産業財産権についても請求人が譲渡を受けたとし(甲第5号証)、しばらくは、売掛金の回収を図り債権に充当し、仕掛品としての電気式床暖房装置の製造販売を督促したが、債権回収に急で、工場管理、運営に意を用いず、電気式床暖房に関わる事業は、雲散霧消したものと推測される。地場産業も、本社、工場等の不動産、動産等は、全て請求人を含む債権者に順次処分され、事実上の破綻・消滅状態でその事業を正式に引き継ぐ会社は、存在せず、登記簿謄本上に残るのみとなっている。

(3)請求人は、本件商標は、地場産業の周知商標であり、それを事業譲渡により譲り受けたとするが、周知商標となるに至る過程を指し示す、商品としての電気式床暖房装置への商標としての使用の実際を示すカタログ、マスコミでの紹介、広告実績、販売実績等を全く提示していない。これらは、事業譲渡を受けていれば、当然地場産業より開示され請求人が保有しているはずである。このことは、地場産業より請求人への事業譲渡の実体がなかったことを如実に示すものといえる。

(4)北海道札幌市の株式会社北海興研にて開発された寒冷地の屋根融雪用のヒーター(特開平9−88255 乙第10号証)があった。これは、カーボンを主材料とする面状ヒーターであった。これを北海興研の佐藤隆生社長が屋根の降雪をスカット消し去る、という主旨から「スカット」と命名した。後に、地場産業が北海興研を吸収合併して、「スカット」を屋根融雪用のみならずカーボンを主材料とする面状ヒーターを用いた床暖房システムの名称としても使用することとなった。乙第11号証は、そのころのカタログであるが、ここには、「ROOF HEATAER/SUKATTO【ルーフヒーター・スカツト】「SUKATTO/床暖房システム」【スカット】が表紙に表示され、見開きには、「ルーフヒーター・スカットシステム」が紹介され、裏には、「スカット床暖房システム」が写真、図面などで紹介されている。その後、平成7年頃、山崎がステンレスを使用したヒーターを発案、上京し、現オクテック株式会社の浅井社長をスカウトし、札幌にて両名により床暖房用ヒーターとして完成させた(特開平10一208856 乙第12号証)。

乙第13号証は、地場産業の電気式床暖房システムの説明資料であるが、ここにも表紙に「スカット床暖房」と表示され、中には「スカットシステム」「SCUT」などの表示が見られる。地場産業では、平成9年より、この「スカット床暖房システム」の販路を拡大すべく、首都圏に進出。マンション、戸建住宅などを中心に販売し、電気床暖房装置として一定の評価を受けた。

乙第14号証は、平成12年当時のカタログで、ここには、「Scut床暖房」「Scut」「SCUTSYSTEM」との表記を用いている。この商品は、過去の経緯から「スカット」と呼称されていた。地場産業の販売代理店であった新潟県の有限会社飯塚建設では、現在でも床暖房システム、屋根融雪システムを、「最新型スカット電気床暖房システム」「スカット屋根融雪システム」と表記・呼称しているが、これは、その当時の名残といえる(乙第15号証)。このときに首都圏に営業所、支店を設立し、先兵として赴任したのが地場産業の役員であった山崎である。山崎雅夫は、地場産業の開発者で、床暖房ヒーターの意匠権(登録第1063521号 乙第6号証参照。)の創作者でもある。地場産業は、平成13年ごろからの社業不振で平成14年末に事実上の倒産を余儀なくされた。この過程で、山崎は地場産業の工場の在庫品、仕掛品の販売・施工を担うこととなり、地場産業の不振が巷間広く伝えられていることから株式会社ジバサン(架空の社名)のカタログを製作し(当初は、地場産業としていたがシールを貼付した。)、電気式床暖房装置の市場への供給を続けた。そして、このカタログで初めて電気式床暖房装置を「エスカット」と表記・呼称したのである。これは、株式会社日立製作所が、商標「スカット」を、旧第11類の全商品を指定商品(家庭用電気式床暖房装置を含む)とする登録第2058920号を保有していることに気がついたからである(乙第16号証)。山崎にとっては、東京での営業で受注した製品の供給、施工をすることが必要であったためと、工場の在庫品の販売及び自ら開発製品化した電気式床暖房装置が会社消滅で失われることを恐れたためである。山崎は、主として首都圏における販売及び施工を担当したが、山崎は、請求人とは雇用関係にはなく、山崎の個人としての営業活動による収入の何割かを手数料として受領する約束であったが、書面化していないためか全く支払われなかった。請求人の行動は、債権の回収を主としたもので、事業譲渡の実体とは乖離するように、地場産業の債務の存在は、眼中になく、電気式床暖房の事業に関しても関係者との紛争を重ねていたと聞いており、その行動は、事業の円滑な継続を意図していたとは、到底考えられない。そのような状況では、この電気式床暖房装置は、市場から姿を消すことになってしまうので、取引先の助言もあって、山崎は、個人営業で「Scutヒーター」を用いた床暖房装置の製造・販売・施工をすべく、平成15年に独立した。

(5)そして、平成15年8月に山崎の個人営業を引き継ぎ、法人組織としての被請求人会社が、主たる業務内容を「床暖房の施工並びに販売」、社名を株式会社Scut System(住所 千代田区神田淡路町)として設立され(甲第8号証)、順次改良を加えられた新しいヒーターを備えた「S−cut床暖房装置」が市場に供給されることとなったのである。被請求人は、設立間もない平成15年9月30日には、会社で施工ができるように内装仕上工事業の許可を取り(乙第17号証)、平成15年12月19日には、住宅金融公庫の割増融資対象部品性能確認申請をなし、平成16年1月23日には確認書の交付を受けている(乙第18号証)。

被請求人は、平成17年4月に現住所(神田錦町)に住所変更したので旧住所及び現住所のカタログを乙第19号証ないし乙第21号証として提出する。旧住所でのカタログでは、「S−cut/エスカット」「エスカット」「エスカット床暖房」「エスカットヒーター」「S−cut System」「エスカットシステム」の表示が用いられている(乙第19号証)。現住所でのカタログでも、乙第20号証では「S−cut床暖房」「エスカット」「エスカットヒーター」「Scut System」「エスカットコントローラー」が、乙第21号証では、「S−cut床暖房」「エスカット床暖房」「エスカットヒーター」「S−CUTヒータ」の表示が用いられている。「S−cut床暖房」の実績は、ホームページ(乙第22号証)に掲載されているとおりである。その実績の存在を明らかにするために、乙第23号証ないし乙第28号証として注文書を提出する。

株式会社Scut Systemは、継続して鋭意広告宣伝に努めていることを明らかにするために、乙第29号証ないし乙第34号証として雑誌広告の表紙、奥付、該当頁などを提出する。日本電気ホームエレクトロニクス株式会社が、商標「S−cut/エスカット」を、旧第11類の全商品(家庭用電気床暖房装置を含む)を指定商品とする登録第699358号の登録商標を所有していた(乙第35号証)。本件商標は、審査の課程において、日本電気ホームエレクトロニクスの上記登録商標が引用されたが、この引用登録商標は、平成18年2月15 日に存続期間満了により消滅したので、代わって登録を受けることができたものである。甲第5号証の商標権には、本件商標は、含まれるはずもない。

(6) 以上詳細に述べたように、本件商標について、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第15号に該当するとの請求人の主張は、全て理由のないものである。

第4 当審の判断

1 本件商標に関連する事実等

証拠(請求書添付の平成19年7月11日付けマリガン株式会社及び同年6月8日付け株式会社Scut Systemの登記簿謄本、甲第1号証ないし同第9号証及び乙第1号証ないし同第35号証。枝番号省略)及び両当事者の主張の全趣旨により、本件商標に関連して、次の事実を認めることができる。

(1)請求人と被請求人の関係

ア 請求人は、昭和63年3月2日に、経営コンサルティング業務、会社の合併並びに技術・販売・製造の提携の仲介、建築工事並びに内装工事の設計、監理及び施工等を行うことを目的として設立された会社であり、請求人代表取締役古川博雄が請求外地場産業より、平成14年3月1日付け譲渡契約書(甲第5号証)に基づき、地場産業の所有する特許権・意匠権及び商標権に関わる全ての権利について譲渡を受けたものである。その後、平成16年11月頃までに地場産業を引き継ぎ請求人自ら製品を製作し、同17年7月頃までに(株)FRAと、それ以降は、(株)三栄工事と共に製作、販売していると主張し、2002年(平成14年)1月現在の株式会社ジバサンの電気式床暖房「Scut(エスカット)床暖房」の商品カタログ(甲第3号証)を提出しているが、そこには請求人の表示がみあたらないばかりでなく、電気式床暖房「Scut(エスカット)床暖房」が実際に取引されたことを証明する取引書類(見積書、納品書等)等の提出もない。

イ 一方、請求人の取締役であった山崎雅夫は、平成14年1月31日付けで地場産業の役員を辞任し(甲第7号証)、個人営業で「Scutヒーター」を用いた床暖房装置の製造・販売・施工を行っていたが、その後、被請求人が山崎雅夫の個人営業を引き継ぎ、平成15年8月14日に、建築資材の加工並びに販売、無線通信、有線通信、画像・映像等の機器及びシステムの設置工事等を行うことを目的とし、主たる業務内容を「床暖房の施工並びに販売」とする株式会社Scut System(住所 千代田区神田淡路町)が設立(甲第8号証)された。そして、被請求人は、「S−cut電気式床暖房システム」事業を行うべく、平成15年9月30日に、内装仕上工事業の東京都知事の建設業許可を取得し(乙第17号証)、平成15年12月19日には、住宅金融公庫の割増融資対象部品性能確認申請をし、平成16年1月23日には確認書の交付を受けている(乙第18号証)。

さらに、被請求人は、「S−cut電気式床暖房システム」を、平成15年にマンション「レーベンハイム竹の塚」に導入し、以降、平成18年にマンション「シーズガーデン高崎問屋町」に導入まで、多数のマンション、施設等に導入した実績があり(乙第22号証)、その関係取引書類も提出されている(乙第23号証ないし乙第28号証)。

加えて、平成17年10月1日発行「住宅建築 10月号」及び同日発行「商店建築」、同年10月15日発行の「工務店経営 10」、同年12月1日発行「I’m house」、2005年12月1日発行「NewHOUSE 2005年12月号」並びに2006年11月1日発行「建築知識」(乙第29号証ないし乙第34号証)等の建築専門雑誌において「S−cut電気式床暖房システム」についての記事が掲載され、宣伝、広告されている。

(2)被請求人の商標登録出願について

ア 被請求人は、平成18年1月13日に、本件商標を商標登録出願し、第11類「家庭用業務用電気式床暖房装置」を指定商品として、同19年3月30日に設定登録をうけている。

イ 一方、請求人は、平成14年3月1日付け譲渡契約書(甲第5号証)に基づき、地場産業の所有する特許権・意匠権及び商標権に関わる全ての権利について譲渡を受け、「Scut(エスカット)床暖房」事業を継続していると主張しているが、そもそも地場産業は、「Scut電気式床暖房システム」について、「SUKATTO [スカット]床暖房システム」(乙第11号証)、「スカット床暖房」、「スカットシステム」、「スカットヒーター」(乙第13号証)、「最新型スカット電気式床暖房システム」(乙第15号証)と称し、宣伝、広告しており、かつ、地場産業及び請求人共に、「Scut(エスカット)」または「S−cut」について、商標登録出願の手続を行った事実も認められない。

2 商標法4条1項7号の該当性について

(1)商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き、その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、その商標は商標法4条1項7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし、同号が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」として、商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法4条1項各号に個別に不登録事由が定められていること、及び、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法4条1項7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。

(2)そこで、上記1に認定した事実を前提として、本件商標が商標法4条1項7号に該当するかどうかを判断する。

請求人は、「被請求人の取締役の一人である山崎雅夫は、地場産業の取締役の一人だったものであり、本件に関する事情を熟知していたものである。被請求人は、そのような事情を知りながら、製品を作成して不正競争防止法第2条第1項の周知表示混同惹起行為をしていたのであり、さらに、商標登録がないことを奇貨として商標登録申請をしたものであるから、商標法第4条第1項第7号にも該当するというべきものである。」旨主張する。

しかしながら、本件において、被請求人が本件商標の登録出願をしたのは、地場産業の取締役であった山崎雅夫が、役員を辞任した平成14年1月31日より4年余り経過した同18年1月13日であり、当時、被請求人は、既に「Scut System」の会社名で、「S−cut電気式床暖房システム」の製造、販売事業を行い、多数のマンション等の床暖房設備として「S−cut」「エスカット」商標を使用し、「電気式床暖房システム」を供給している実績があり、また、建築専門雑誌等にも「S−cut電気式床暖房システム」について多数宣伝、広告されていたものであるから、被請求人は、自己の事業を行う上に必要であるために本件商標を商標登録出願し、商標権を得たものとみるのが相当である。

他方、地場産業より譲渡を受けた請求人は、平成16年11月頃までに地場産業を引き継ぎ請求人自ら製品を製作し、同17年7月頃までに(株)FRAと、それ以降は、(株)三栄工事と共に製作、販売していると主張しているが、地場産業より譲渡された商標権には「Scut(エスカット)」「S−cut」についての商標権はないばかりでなく、譲渡以降被請求人が本件商標を登録出願し、商標権を得るまでの間、「Scut(エスカット)」「S−cut」商標について、商標登録出願の手続を行う等商標権の取得に向けて何らかの方策を講じたことを窺わせる事実は見当たらない。

(4)また、請求人に事業を譲渡する以前において、地場産業は、2002年(平成14年)1月現在の「Scut(エスカット)床暖房」の商品カタログ(甲第3号証)を除き、「SUKATTO [スカット]床暖房システム」(乙第11号証)、「スカット床暖房」、「スカットシステム」、「スカットヒーター」(乙第13号証)、「最新型スカット電気式床暖房システム」(乙第15号証)と称し、「Scut電気式床暖房システム」を宣伝、広告していたことからすれば、「S−cut」「エスカット」よりなる本件商標と上記使用商標は別異の商標として認識されるものといえる。

(5)そうとすれば、このような事情の下で、被請求人が本件商標を登録出願し、商標登録を取得(平成19年3月30日)したことは、既に営業を開始していた被請求人の「S−cut電気式床暖房システム」の製造、販売事業について、その商標登録出願から商標権取得に至る行為をあながち不当、不徳義と評価することはできない。また、上記の経緯からすれば、被請求人の本件商標登録出願が不正の目的でなされたと断定することもできない。

(6)以上のとおり、請求人の主張を考慮しても、被請求人が本件商標を登録出願し商標権を取得した行為が著しく社会的妥当性を欠き、その登録を容認することが商標法の目的に反するということはできず、本件全証拠によっても本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する商標であったとすべき事情を認めることはできない。

したがって、本件商標の出願がされた経緯を理由として、本件商標を商標法4条1項7号に該当するということはできない。

3 商標法第4条第1項第10号及び同15号の該当性について

請求人は、「本件商標は、被請求人の登録出願に先立ち、地場産業が製品を製作し、使用していたものであり、他人の周知商標であり、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に該当するものである。」旨主張するが、請求人提出の甲各号証には、請求人の使用商標の使用開始時期、使用期間及び生産又は譲渡の数量等が明示されておらず、かかる証拠によっては、使用商標が、請求人の業務に係る商品について使用した結果、本件商標の出願時及び登録時において、需要者の間に広く認識されていたものとは認められない。

そうとすれば、使用商標と本件商標の類否について判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものとは認められず、さらに、本件商標をその指定商品に使用しても、請求人の使用商標を連想、想起させ、その商品が請求人または請求人となんらかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について誤認、混同を生じるおそれはないから、同法第4条第1項第15号に該当するものともいえない。

4 結び

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第10号及び同第15号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。

よって、結論のとおり審決する

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