Trademark Appeal Case
「聞き流すだけ」の識別力
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 判定2008−600048(T2008−600048/J6) |
|---|---|
| 審判種別 | 記載はありません。 |
| 結論 | other |
理由テキスト
第1 本件商標
本件登録第4936831号商標(以下「本件商標」という。)は、「聞き流すだけ」の文字を横書きしてなり、平成15年3月14日に登録出願、第9類、第16類及び第41類に属する、別掲記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同18年3月17日に設定登録されたものである。
第2 イ号標章
本件判定請求人(以下「請求人」という。)が、「コンパクトディスク付きの英語教本、ダウンロード可能な英語教本の音声、ダウンロード可能な英語教本」に使用するイ号標章は、「聞き流すだけで英語をマスター」の文字を横書きしてなるものである。
第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の判定を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。
1 理由の要点
イ号標章は、つねに、一連一体、不可分の名称として使用されており、本件商標とは非類似である。
また、イ号標章中の「聞き流すだけ」の部分は、製品の品質、効能、用途
を表すために使用されているものにすぎず、商標権の効力の範囲に属さない。
さらに、イ号標章は、本件商標の登録出願日前から広く宣伝・販売され、周知となっていたので、先使用権がある。
2 判定請求の必要性
被請求人は、本件商標の商標権者であり、「スピードラーニング」という英語教材を発売しており、当該英語教材を販売する際に、「“聞き流すだけ”の英語教材『スピードラーニング』」というような形で、「聞き流すだけ」のキャッチフレーズを使用している。
しかして、請求人は、被請求人が、平成20年4月22日に差し出した「通告書」を受け取った。
当該「通告書」は、請求人が発行・発売する英語教材「聞き流すだけで英語をマスター」の商品名が、商標権を侵害していると主張するものであった。
請求人は、英語教材商品名「聞き流すだけで英語をマスター」は、商標権侵害ではないと考えている。
したがって、判定をお願いする。
3 イ号標章の説明
イ号標章は、請求人が英語教材として販売するCD付き書籍のタイトルとして使用されている。
現在、イ号標章のタイトルが付された教材としては、以下の7作品を販売している。
「聞き流すだけで英語をマスター:ロミオとジュリエット」
「聞き流すだけで英語をマスター:ボスコム谷のミステリー」
「聞き流すだけで英語をマスター;ローマの休日」
「聞き流すだけで英語をマスター:ピーターラビット」
「聞き流すだけで英語をマスター:イソップ物語」
「聞き流すだけで英語をマスター:賢者の贈り物」
「聞き流すだけで英語をマスター:ヨハネの福音書」
その他、請求人は、同内容の商品を、インターネットのダウンロード版としても販売している。
(1)各作品において、「聞き流すだけで英語をマスター」の文字列は、同じ書体、同じ文字サイズ、同じ色で記され、とくに「聞き流すだけ」の部分が強調して表示されることはない。
「聞き流すだけ」と「で英語をマスター」の間が分断されて表示されることはなく、つねに一連一体、不可分の名称として使用されている。
(2)「聞き流すだけで英語をマスター」は、この英語教材の特長を、端的・的確に表すための名称である。
すなわちこの教材は、日本語→英語、日本語→英語の順番で進んでいき、また細かい区切りで進んでいくという特長を持っているため、辞書がなくてもただ聞き流しているだけで英語を素早く習得できるという特長を持っている。
また、大脳生理学を応用し、左耳から日本語が聞こえて右脳でイメージをつかみ、つぎに右耳から英語が聞こえて左脳の言語中枢に英語を焼き付けるという方法を採用している。
そのために、ただ聞き流しているだけでも楽に英語を習得できるという特長を持っている。
これは、請求人が、独自に生み出した学習法であり、この特長・品質を端的に需要者に知らしめるために、「聞き流すだけで英語をマスター」の名称を採用したものである。
(3)使用期間
「聞き流すだけで英語をマスター」の名称は、2000年8月頃から現在に至るまで継続的に使用されている。
(4)使用地域
おもにインターネットを通じて販売してきたので、地域は日本全国である。
4 イ号標章が商標権の効力の範囲に属しないとの説明
(1)本件商標とイ号標章の類否について
まず、外観についてみるに、イ号標章は、「聞き流すだけで英語をマスター」の構成各文字が、同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔で、外観上まとまりよく一体に表されている。
したがって、本件商標とイ号標章は、外観上非類似である。
次に、称呼についてみるに、イ号標章の構成文字全体から生ずる「キキナガスダケデエイゴヲマスター」の称呼は、よどみなく一連に称呼することができるから、イ号標章からは「キキナガスダケデエイゴヲマスター」の一連の称呼のみを生ずる。
さらに、観念についてみるに、本件商標からは、「注意を払わないで聞いている、聞き捨てる」といった意味合いが生ずるのに対して、イ号標章からは、「聞き流しているというだけの簡単な方法で英語を楽に習得できる」という意味合いが生ずる。
したがって、本件商標とイ号標章は、観念上非類似である。
以上のとおり、本件商標とイ号標章は、外観、称呼、観念の3つともに異なっているので、非類似である。
(2)商標権の効力が及ばない範囲(商標法第26条)について
商標法第26条第2項は、「商品の・・・品質・・・効能・・・用途・・・を普通に用いられる方法で表示する商標」には、商標権の効力は及ばない旨規定している。
しかして、イ号標章の構成中「聞き流すだけ」の文字部分は、商品の「品質および効能や用途を表示」するために、ごく「普通の用い方」で使われているものにほかならない。
つまり、こうするだけで英語が楽に習得できる、という効能や用途を需要者に伝えるために、「普通に用いられる方法」で使用されているのみであるから、何ら特別な使用態様をしていない。
また、請求人の英語教材「聞き流すだけで英語をマスター」の場合、これはCD付きの「書籍」という形態になる。ダウンロード版もあるが、内容はCD付き書籍と同じである。「聞き流すだけで英語をマスター」は、書籍の題号(タイトル)である。これは、書籍の内容や品質、用途等を表示するために付されたものにすぎないので、「被請求人の商品であることを識別させるための商標としての使用ではない」ことになる。
したがって、本件商標の商標権の効力は、イ号標章には及ばない。
(3)先使用による商標の使用をする権利(商標法第32条)について
本件商標の登録出願日は、平成15年3月14日である。
請求人の英語教材「聞き流すだけで英語をマスター」は、本件商標の登録出願日前の平成12年8月から販売が開始され、「聞き流すだけで英語をマスター」の名称は、月刊誌「レムナント」、インターネット上のメールマガジンなど、請求人および数多くの代理店を通じ早くから広く広告され、また、日本全国から多くの注文があり、周知の商品となっていた(甲第2号証ないし甲第9号証)。
したがって請求人は、本件商標について、先使用による商標の使用をする権利をもっている。
第4 被請求人の答弁(要旨)
被請求人は、「イ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属する」旨の判定を求めると答弁し、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第78号証を提出した。
1 被請求人及び「スピードラーニング」について
被請求人は、1984年に現代表者大谷登が設立した「有限会社クリエイティブアイ」を前身とし、以後英語・英会話を中心とした外国語教材の提供を主業務として四半世紀にわたり事業を継続している。
被請求人は、1989年3月に、本件商標を付した外国語教材「スピードラーニング」の発売を開始している。
当該商品は、現在において18年間のロングセラー教材となっており、今までの受講者数は85万人を突破している(乙第2号証)。
近時では、その受講者の一人であるプロゴルファーの石川遼選手が当該商品の宣伝を行っており(乙第3号証)、真に国際的活躍を果たしている方々も、当該商品の良質を認めている。
乙第4号証は、被請求人が取りまとめた「スピードラーニング」関連商品の過去10年における売上金額である。
平成11年度以降、毎年20億円以上の売り上げを計上しており、延べで約240億円もの売り上げを記録している。書籍による語学習得用教材全体の市場規模が年間約420億円であることを踏まえれば(乙第5号証)、単一の商品によってこれだけの売上を上げていることは特筆に値することであると思料する。
2 本件商標について
上記1で述べたとおり、被請求人が販売している「スピードラーニング」は、長年に亘り非常に多くの方々にご好評をいただいているが、被請求人が「スピードラーニング」を紹介する際に、その旗印として併せて付している言葉が本件商標である(乙第2号証及び乙第3号証)。
本件商標「聞き流すだけ」は、ともすると「聞くだけで簡単に語学が習得できる商品を認識するに止まり、単に商品の品質、用途を表示するにすぎない」ものと誤解されがちなところがある。
しかしながら、本件商標は、被請求人が提唱した独創的な語学学習法を表したものであり、かつ、被請求人が繰り返し多額の広告出稿を行い、これを被請求人の提供する商品及び役務を表示するものとしてより一層認識されるに至ったものである。
本件商標が周知性を有する事実を証する書面として、乙第2号証ないし乙第4号証及び乙第6号証ないし乙第78号証を提出する。
3 本件商標とイ号標章の類否について
商標の類否判断に当たっては、「同一又は類似の商品に使用された商標が外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである」旨、判例においても示されているところである平成6年(オ)第1102号:(小僧寿し事件)。
この点イ号標章は、
(1)称呼において、「キキナガスダケデエイゴヲマスター」と全体で15音と著しく長いものである。
こうした長い称呼の商標については、その一部分によって簡略化される可能性があり、原則として簡略化される可能性がある部分のみからなる商標と類似する。
したがって、イ号標章からは「キキナガスダケデ」と「エイゴヲマスター」の両称呼を生ずる。
また、イ号標章の構成中「聞き流すだけ」部分は、上記2で述べたとおり、被請求人の周知商標であるのに対し、その他の「で英語をマスター」は単なる品質用途表示にすぎない。
よって、イ号標章は、その構成中「聞き流すだけ」の文字部分が特に顕著であるため、「キキナガスダケ」の称呼をも生ずる。
一方、本件商標からは、その構成文字に相応して「キキナガスダケ」の称呼を生ずる。
しかして、本件商標から生ずる「キキナガスダケデ」の称呼とイ号標章から生ずる「キキナガスダケ」の称呼とでは、語尾の「デ」の有無が相違するのみであり、両者は相紛らわしいといえる。
また、本件商標から生ずる「キキナガスダケ」の称呼とイ号標章から生ずる「キキナガスダケ」の称呼とでは、称呼を共通にする。
(2)観念において、本件商標は、上記2で述べたとおり、指定商品との関係において周知性を獲得するに至っているから、イ号標章に接した取引者・需要者の注意を惹く部分は「聞き流すだけ」の部分にあるといえる。
これは、イ号標章がその構成上、「聞き流すだけ」 「で」 「英語をマスター」という 3分節で理解され、前半の本件商標と同一の)「聞き流すだけ」と後半の品質、用途表示である「英語をマスター」とを「で」という助詞で結び付けている構成を有しているため、「聞き流すだけ(という教材)を用いるだけで英語を習得できる」といった意味合いを容易に想起させることからもなおさらである。
このように、イ号標章は、本件商標と称呼及び観念において類似している。
そして、取引の実情を踏まえた場合に、かかる事実を凌駕して非類似であるとの判断を下すべき事情は何ら存在しない。
したがって、イ号標章が本件商標と類似することは明らかである。
(3)商標法第26条について
商標法第26条は、商標権の効力の及ばない範囲として、当該指定商品の普通名称ないし記述的な記載などを普通に表示する方法で表示する商標には及ばない旨を規定している。
しかし、「聞き流すだけ」は、そもそも指定商品との関係においては単なる品質表示ではない。
「聞き流すだけ」が「聞き捨てにする」程の意味であって、指定商品との関係で品質・用途表示にはあたらないものであり、このことは、本件商標が登録されるに至る過程で認められていることである。
まして、被請求人は、本件商標が登録になる以前から、「聞き流すだけ」を継続して使用してきた。
その結果、もともと識別標識として機能する本件商標は、被請求人の周知商標として認識されるに至っている。
以上からすれば、「聞き流すだけ」の商標をその構成中に含んだ表現が「当該指定商品の...品質...を普通に用いられる方法で表示する商標」と解釈する余地は皆無である。
そもそも、後述するように請求人は先使用権についても主張しているところ、一方で品質表示といいつつ一方で請求人の標章として周知であると主張しており、その矛盾は明らかである。
イ号標章中の「聞き流すだけ」の部分はその言葉が本来持つ意味として品質表示ではなく業務上の信用が化体し得る語である。
そして、被請求人が継続的に使用をしてきた結果、現に業務上の信用が化体するに至っており、これを含むイ号標章の使用が商標法第26条にあたるはずがない。
(4)先使用による商標の使用をする権利(商標法第32条)について
請求人は、本件商標について、先使用による商標の使用をする権利をもっている旨主張している。
しかし、例えば広告掲載しているという「月間レムナント」なる雑誌の発行部数などは一切明らかになっていない。また実際の受領者数がどの程度かもわからない自社のメールマガジンが、イ号標章の周知性向上にいかほどの貢献を行ったのかは甚だ疑問である。さらには、通信販売チラシにどのような態様で「聞き流すだけで英語をマスター」の掲載を行ったかも、請求人は一切明らかにしていない。
そして、当然ながら、市場規模5000億円超、学習教材だけに限定しても400億円超の語学ビジネス市場において(乙第5号証)、たかだか年間
2000万円弱の売上をもって同規定の周知性が認められるわけもない。
第5 当審の判断
本件商標は、「聞き流すだけ」の文字よりなるところ、本件商標構成中の「聞き流す」の文字(語)には、「聞き捨てにする」の意味(広辞苑6版)があり、「だけ」の文字(語)には、「のみ」の意味(広辞苑6版)があることから、本件商標全体の構成からは、「聞き捨てにするのみ」の観念を生ずる。
次に、称呼についてみるに、本件商標は、各構成文字が、同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔で書されており、外観上一体に表示されているものであるから、全体の構成文字に相応して「キキナガスダケ」の称呼を生ずる。
一方、イ号標章は、「聞き流すだけで英語をマスター」の文字よりなるところ、イ号標章構成中の「聞き流す」の文字(語)には、上で述べたとおり、「聞き捨てにする」の意味があり、同じく、「だけ」の文字(語)には、「のみ」の意味がある。さらに、イ号標章構成中の「で」の文字(語)は、原因・理由を示す格助詞と認められるので、「・・・によって」の意味(広辞苑6版)がある。加えて、イ号標章構成中の「マスター」の文字(語)には、「習得すること」の意味(広辞苑6版)がある。
してみれば、イ号標章全体の構成からは、「聞き捨てにすることのみによって英語を習得すること」の観念を生ずる。
次に、称呼についてみるに、イ号標章は、各構成文字が、同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔で書されており、外観上一体に表示されているものであるから、全体の構成文字に相応して「キキナガスダケデエイゴヲマスター」の称呼のみを生ずる。
被請求人は、イ号標章から、「キキナガスダケデ」及び「キキナガスダケ」の称呼をも生ずる旨主張する。
たしかに、イ号標章は、その全体の構成より生ずる「キキナガスダケデエイゴヲマスター」の称呼が冗長であることは否定し得ない。
しかしながら、イ号標章は、上記において認定したとおり、「聞き流すだけで英語をマスター」の文字を一体に表示しているものであるから、外観上は、その構成全体を一体に把握し得るものである。
また、イ号標章が、その構成文字全体で「聞き捨てにすることのみによって英語を習得すること」の観念が生じていることよりすれば、観念上も、その構成全体を一体に把握し得るものである。さらに、イ号標章構成中のいずれの文字部分で分断して観察するのが相当であるとの要素を見いだすこともできない。
そうとすれば、イ号標章の称呼が冗長であるとしても、イ号標章構成中の「聞き流すだけで」及び「聞き流すだけ」の文字部分を分離、抽出すべきではないというべきである。
したがって、イ号標章からは、「聞き流すだけで」及び「聞き流すだけ」の文字部分に相応する、「キキナガスダケデ」及び「キキナガスダケ」の称呼は生じない。
そこで、本件商標から生ずる「キキナガスダケ」及び「キキナガスダケ」の称呼とイ号標章より生ずる「キキナガスダケデエイゴヲマスター」の称呼とを比較すると、語感・語調が明らかに異なり、称呼上相紛れるおそれのな
いものといわざるを得ない。
また、本件商標とイ号標章の構成は、それぞれ上記のとおりであって、外観上、判然と区別できるものである。
さらに、観念については、本件商標からは「聞き捨てにするだけ」の観念を生じ、イ号標章からは「聞き捨てにすることのみによって英語を習得すること」の観念を生ずるものであるから、観念上も明らかに相違する。
してみれば、本件商標とイ号標章とは、外観、称呼及び観念のいずれの点よりみても、非類似の商標といわなければならない。
そうとすれば、仮に、本件商標が周知、著名であったとしても、本件商標及びイ号標章が「コンパクトディスク付きの英語教本、ダウンロード可能な英語教本の音声、ダウンロード可能な英語教本」に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。
2 まとめ
したがって、商品「コンパクトディスク付きの英語教本、ダウンロード可能な英語教本の音声、ダウンロード可能な英語教本」に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属しないものといわざるを得ない。
よって、結論のとおり判定する。
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