Trademark Appeal Case
著名フレーズと公序良俗
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 不服2008−13799(T2008−13799/J1) |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
1 本願商標
本願商標は、別掲1に示すとおりの構成からなり、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、平成18年12月27日に登録出願されたものである。
2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は、「本願商標は、その構成中に『お魚くわえたどら猫』の文字を有するものであるところ、該文字は、1969年10月よりフジテレビ系において放送されている国民的アニメ番組『サザエさん』のオープニングテーマ『サザエさん』の歌詞の冒頭部分『お魚くわえたどら猫』と同一又は類似であり、このようなものをアニメ番組「サザエさん」及び該オープニングテーマの作詞家、作曲家等と何等関係のない一私人である出願人が商標として採択することは穏当でない。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
3 当審における証拠調べ通知
当審において、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かについて、職権に基づく証拠調べを行ったところ、別掲2に示すとおりの事実を発見したので、同法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項の規定に基づき、請求人に対し、平成21年6月4日付けで証拠調べの結果を通知した。
4 職権証拠調べに対する請求人の意見(要旨)
(1)証拠調べにおいて、本願商標は、アニメ「サザエさん」のオープニングテーマの冒頭部分と同じ語句を含んでいるため、このような商標を出願する行為には、「サザエさん」の著名性に便乗し、その名声を得ようとする意図が推認されるから、商道徳や取引秩序を乱す、との指摘である。しかしながら、アニメの題号である「サザエさん」という語であればともかく、本願商標で問題とされる語句は、単に「魚をくわえている猫」という、「猫の状態」を表しているに過ぎず、「お魚くわえたどら猫」という言葉を用いることで「サザエさん」の有する顧客吸引力に便乗して顧客を誘引できるとみる理由を見出すことはできない。
(2)本願商標は、構成全体として出願人が独自に案出した商標であり、商標の構成中に含まれる猫の図形も、「サザエさん」に登場するいかなるキャラクターも直ちに感得させるものではない。
(3)出願人は、本願商標を使用した七輪焼の提供を主とした飲食店を、平成18年11月より現在に至るまで、大阪にて営業している。出願人は、本願商標の文字部分につき、常に「七輪焼お魚くわえたどら猫」一体の使用をしており、殊更「お魚くわえたどら猫」の文字のみを強調したり、アニメのオープニングテーマの歌詞を想起させるような使用はしていない。
(4)商標法4条1項7号の適用の拡大は、商標制度の法的安定性を害し、また、商標選択の自由を不当に制限することになりかねない。したがって、出願された商標が、商標法第4条第1項第7号に該当するというためには、我が国商標制度の大原則たる先願主義の適用を除外するに足りる程度に著しい反社会性が必要である。問題とされている「お魚くわえたどら猫」なる語は、出願人の商標選択の自由を制限してまで保護しなければならないような公益性を有するとは到底言い難いものであり、本願商標の使用の実態を考慮しても、本願商標が商道徳や取引秩序を著しく乱すものとは言えない。
5 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第7号について
商標法は、不正競争防止法と並ぶ競業法であって、登録商標に化体された営業者の信用の維持を図ると共に、商標の使用を通じて商品又は役務に関する取引秩序を維持することが目的とされている。そして、商標法第4条第1項第7号は、前記目的を具現する条項の一つとして「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標は、商標登録を受けることができない。」旨を規定している。
しかして、過去の審決例及び判決例によれば、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、「その商標の構成自体が矯激、卑隈な文字、図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、その時代に応じた社会通念に従って検討した場合に、当該商標を採択し使用することが社会公共の利益に反し、または社会の一般的道徳観念に反するような場合、あるいは他の法律によってその使用が禁止されている商標、若しくは国際信義に反するような商標である場合」も含まれるものと解されている。
そして、商標法の目的が、「商標の使用を通じて商品又は役務に関する取引秩序を維持すること」にあることよりすれば、上記の「社会の一般的道徳観念に反する場合」には、「模倣又は剽窃などにより、公正な取引秩序を乱すおそれがある場合」も含まれるというべきである。
(2)「サザエさん」のオープニングテーマ曲について
別掲2の証拠調べ通知で示したとおり、テレビアニメ「サザエさん」は、1969年10月5日からフジテレビで放送が始まった同局系列のアニメの長寿番組であって、年齢、性別を問わず幅広い層の視聴者に親しまれ、平均視聴率も20%前後という非常に高い数字の視聴率を保ち、アニメ番組の視聴率ランキングでは、1981年と1990年を除きすべて年間1位を獲得している国民的な人気番組であり、その番組の放送対象地域も、関東広域圏をはじめ、北海道から沖縄県まで全国ネットで放送されているものである。
そして、番組と同タイトルのオープニングテーマ曲「サザエさん」(作詞:林春生、作曲:筒美京平、編曲:筒美京平、歌:宇野ゆう子)の歌詞の冒頭部分(以下、「テーマ曲の歌詞」という。)である「お魚くわえたドラ猫」についても、誰もがよく知るフレーズとして、サザエさんの番組とともに、幅広い層の視聴者に親しまれ、周知・著名となっているものである。
(3)本願商標について
本願商標は、別掲1のとおり、太線の円形の輪郭内に「猫が魚を両手で持っている図形」と、該円形の外周に沿って下側には小さく「七輪焼」の文字と、その横に大きな丸文字で「お魚くわえたどら猫」の文字を表し、また、上側には「SHICHIRINYAKI・OSAKANA・KUWAETA・DORANEKO」の欧文字を表した構成からなるものである。
そして、その構成中の「お魚くわえたどら猫」の文字部分については、証拠調べ通知で述べたとおり、テーマ曲の歌詞である「お魚くわえたドラ猫」のフレーズと比較しても、「ドラ」猫と「どら」猫の文字部分に片仮名と平仮名の字種の微差がある程度であり、共に「オサカナクワエタドラネコ」の称呼及び「お魚くわえたどら猫」の観念を共通にするものであるから、両者は、実質上同一のものというのが相当である。
そうすると、需要者間に広く知られ周知・著名となっているテレビアニメ「サザエさん」のテーマ曲の歌詞のフレーズと実質上同一と認められる「お魚くわえたどら猫」の文字を、その作詞家及び関係者と何ら関係のない請求人が、その指定役務について登録、使用することは、前記(1)で述べたとおり、社会の一般的道徳観念に反するものであるから、社会的妥当性を欠き、公正であるべき商取引の秩序を乱すおそれがあるものといわなければならない。
ところで、請求人は、平成21年7月21日付け意見書において、「本願商標で問題とされる語句は、単に『魚をくわえている猫』という、『猫の状態』を表しているに過ぎず、・・・顧客吸引力に便乗して顧客を誘引できるとみる理由を見出すことはできない。」と主張している。
しかしながら、本願商標の該文字部分は、請求人の主張の如く「魚をくわえている猫」でなく、「お魚くわえたどら猫」の文字からなるものであり、あえて、「魚を」の部分を「お魚」と表し、「くわえている猫」の部分を「くわえたどら猫」と表していることから判断しても、該文字部分が「サザエさん」のテーマ曲の歌詞である「お魚くわえたドラ猫」のフレーズと偶然一致したものとは俄に認め難く、むしろ、前記(2)のとおり、周知・著名となっている「サザエさん」のテーマ曲の歌詞を知り得て、該文字部分を採択したものと優に推認できるものである。
さらに、請求人提出の第2号証ないし第4号証、第11号証及び第12号証によれば、請求人が実際に使用しているとする標章は、明らかに本願商標とは別異の標章であって、役務の提供方法を示すにすぎない「七輪焼」の文字の横に、大きく顕著に表した「お魚くわえたどら猫」の文字からなる店の看板の使用例や、暖簾形状の枠内に「魚を両手で持った猫」の図形を両側に配し、その内側に小さく「七輪焼」の文字と、その横に大きく顕著に表した「お魚くわえたどら猫」の文字を横一列に表してなる態様の使用例であって、より「お魚くわえたどら猫」の文字部分を強調した態様で使用している実情等をも考慮すれば、請求人は、テレビアニメ「サザエさん」のテーマ曲の歌詞のフレーズを剽窃し、その顧客吸引力に便乗(フリーライド)して、顧客を誘引することを目的として、本願商標を登録出願したものというべきである。
(4)むすび
したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとした原査定は、妥当であって、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
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