Trademark Appeal Case
人名商標の公益性
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 異議2008−900060(T2008−900060/J7) |
|---|---|
| 審判種別 | 異議 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
理由テキスト
第1 本件商標
本件登録第5090919号商標(以下「本件商標」という。)は,「桂小五郎」の文字を標準文字により表してなり,平成17年6月30日に登録出願,第29類「食用油脂,乳製品,食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物,豆,食用たんぱく」を指定商品として,同19年9月5日に登録をすべき旨の審決がなされ,同年11月16日に設定登録されたものである。
第2 登録異議の申立ての理由(要旨)
本件商標は,西郷隆盛,大久保利通とともに維新の三傑として称せられた木戸孝允の幕末期の氏名「桂小五郎」を横書きしたものである。桂小五郎は今日においても多くの人々から敬愛されており,かつ,その遺族などの承諾なしに商標登録されたものであることから,同人と無関係の他人に,その指定商品について独占排他的な使用を認めることは,桂小五郎やその遺族の名誉・名声・心情を毀損するのみならず,敬愛する人々の社会的感情を毀損し,公平な取引秩序を乱すことは明らかである。さらに,商標登録出願人の破産により,食品製造業を営まない他の事業者によりこの商標が取得されたことからも公正な取引秩序を乱すことは明らかである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから,商標法第43条の2第1号により取り消されるべきである。
第3 本件商標に対する取消理由(要旨)
1 本件商標は,前記第1のとおり,「桂小五郎」の文字を標準文字により表してなるところ,登録異議申立人から提出された甲各号証及び職権により調査した証拠によれば,桂小五郎の文字について以下の事実が認められる。
(1)桂小五郎の周知・著名性
桂小五郎は,西郷隆盛,大久保利通とともに維新の三傑と称せられた木戸孝允の幕末期における名前であり,同人は,1833年8月11日に現在の山口県萩市に生まれ,吉田松陰に学び,倒幕の志士として活躍し,維新後,五箇条の御誓文の起草,版籍奉還,廃藩置県などに尽力し,日本の近代化に多大な影響を及ぼした人物であり,数多くの書籍や映画・テレビドラマなどにおいて取り上げられていることから,一般に広く知られている人物であることが認められる(甲第3号証ないし甲第9号証)。
(2)桂小五郎の名称に対する国民又は地域住民の認識
桂小五郎の郷土山口県においては,萩市に桂小五郎の生家(「木戸孝允旧宅」)が現存し,昭和7年から国指定の史跡(昭和7年3月25日(文部省告示第72号)http://bunkazai.ysn21.jp/general/summary/frame.asp?mid=10009)として保存されており,山口市の長州正義派政権時代の住居であった場所には,明治19年に木戸孝允(桂小五郎)を祀る木戸神社が創建され,今も多くの人々が訪れている(甲第8号証及び中国新聞 平成12年4月12日)。
また,幕末期に尊皇攘夷派の中心人物として活動していた京都市の長州藩京都屋敷跡には,平成7年に京都桂ライオンズクラブにより建立された桂小五郎の銅像が,幕末期に身を隠していた但馬地方には,桂小五郎ゆかりの石碑が今も残っている(京都新聞 平成18年8月19日及びNHKオンライン/神戸放送局 http://www.nhk.or.jp/kobe/hyogoshi/izushi/index.html)。
以上のとおり,桂小五郎は,その郷土やゆかりの地においては,郷土の偉人として敬愛の念をもって親しまれている実情にあることが認められる。
(3)桂小五郎の名称の利用状況
萩市では,平成16年4月1日に,まちじゅうを博物館としてとらえ,この都市遺産を保存・活用し,魅力あるまちづくりに努めるとともに,萩を訪れた人々に萩の良さや歴史を伝えることなどをまちじゅうで推進するため「萩まちじゅう博物館条例」を制定し,この萩まちじゅう博物館(構想)の中核施設として,萩開府400年の記念日である平成16年11月11日に,萩博物館を開館した(萩市 http://www.city.hagi.lg.jp/soshiki/detail.html?lif_id=1846)。そして,ここに桂小五郎の直筆の書や書簡を含む同市に関連する幕末の志士たちの資料を収蔵・展示し,これらの志士たちを題材とする特別展を数多く開催している(例「幕末維新の群像2/幕末志士たちの手紙−山根正次コレクション−(平成18年12月18日〜平成19年4月8日)」,「長州男児の肝っ玉−松門四天王と桂小五郎−(平成19年9月15日〜12月16日)」(萩博物館 http://www.city.hagi.lg.jp/hagihaku/event/over_event.htm))。また,萩市観光協会では,「萩観光おすすめウォーキングコース」,「城下町エリア」などとして,「木戸孝允旧宅」を萩市の観光スポットとして紹介している(萩市観光協会 http://www.hagishi.com/miru/)。
山口県では,平成8年度に,ふるさとの歴史を明日に伝え,資料や史跡などの文化資源を活用して新しい地域文化を創造することを目的とする「維新史回廊構想」を策定するとともに,県,市,町及び文化団体によって構成される「維新史回廊構想推進協議会」を設置し関連事業を推進している。その事業の一環として「維新史回廊だより(年4回)」の発行や「維新史出前講座」の開催をするなどして,桂小五郎を含む明治維新を支えた人物などの明治維新関連の情報を県民に紹介している(山口県 http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/gyosei/bunka-s/ishin/index.html)。また,山口県立山口博物館には,木戸孝允(桂小五郎)肖像画が収蔵され,特別展として「木戸孝允資料展(平成19年1月6日〜5月6日)」が開催された(山口県立山口博物館 http://db.yamahaku.pref.yamaguchi.lg.jp/db/rekisi/syuzou_r_04.html及び山口お宝展 http://www.yamacci.or.jp/otakaraten/takara2007/14haku.html)。
以上のとおり,山口県内においては,桂小五郎に関連する史跡や資料が多く残され,山口県,萩市など県内の地方公共団体及び文化団体がこれらを保存・公開し,同人の名のもとに観光振興や地域おこしに役立てようとする取組がなされていることが認められる。
(4)前記(1)ないし(3)において認定した事実は,本件商標の出願前から現在においても継続している。
(5)桂小五郎の名称の利用状況と本件商標の指定商品との関係
一般に歴史上の人物の生誕地やゆかりの地においては,その地の特産品や土産物に,その者の名称や肖像が表示されて,観光客を対象に販売されているところ,桂小五郎についても,例えば,現時点において,「しおり」,「シール」,「ポスター」,「根付け」,「携帯のストラップ」,「模造刀」及び「そば」などに桂小五郎又は小五郎の名称や肖像が用いられている事実がある(霊山歴史館 http://www.ryozen-museum.or.jp/050GOODS.html,楽天市場 http://www.rakuten.co.jp/shinobiya/1942837/1942351/1950993/,プチたび http://puchitabi.jp/yamaguchi/area/hagi/index.html?page=9)。
他方,本件商標の指定商品は,山口県や萩市の特産品であるふぐなどの魚介類,魚の干物,かまぼこなどの水産加工品を含む食料品であり,これらの特産品を同県,同市が観光振興の施策として紹介している事実がある(山口県 http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/theme/profile/prof04.html及び萩市 http://www.city.hagi.lg.jp/portal/tokusanhin/)。
そうとすると,桂小五郎の名称は,本件商標の指定商品を取り扱う者によって使用される可能性が極めて高いものであることが認められる。
(6)出願の経緯・目的・理由
本件商標に関する出願の経緯・目的・理由についての具体的事情は,確認できない。
(7)桂小五郎と出願人との関係
本件商標の登録審決時に出願人であった株式会社ウィングガーデン(以下「出願人」という。)と桂小五郎との関係は,確認できない。
なお,甲第10号証(木戸孝允の子孫である木戸寛孝氏からの上申書)には,「桂小五郎の名称が同人とはゆかりのない事業者に商標として登録され,独占排他的に使用されることは,同人の名誉・名声を傷つけるだけでなく,遺族としても極めて遺憾であり,公正な取引を阻害することと感じている。」旨記載されている。
2 以上のとおり,桂小五郎は,日本の近代化に多大な影響を及ぼした人物として一般に広く知られ,その郷土やゆかりの地において,住民に敬愛の念をもって親しまれ,かつ,山口県,萩市などの地方公共団体及び文化団体が,同人に関連する史跡や資料を活用して,同人の名称を観光振興や地域おこしなどの施策に利用している実情にある。
そして,本件商標の指定商品は,山口県における観光振興や地域おこしに欠くことのできない特産品を含む食料品である。
そうとすると,桂小五郎の文字からなる本件商標を同人との関係が認められない出願人の商標として,その指定商品について商標登録を認めることは,桂小五郎の名称を使用した観光振興や地域おこしなどの公益的な施策の遂行を阻害することとなり,社会公共の利益に反するものとみるのが相当である。
したがって,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものである。
第4 商標権者の意見
商標権者は,前記第3の取消理由について,指定した期間内に意見を述べていない。
第5 当審の判断
平成21年11月2日付けで前記第3の取消理由を通知し,期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,商標権者からは何らの応答もない。
そして,前記第3の取消理由は妥当なものであるから,本件商標の登録は,商標法第43条の3第2項の規定により取り消すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
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