Trademark Appeal Case
著名人名商標の公益性
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 異議2008−900062(T2008−900062/J7) |
|---|---|
| 審判種別 | 異議 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
理由テキスト
第1 本件商標
本件登録第5090922号商標(以下「本件商標」という。)は,「高杉晋作」の文字を標準文字により表してなり,平成17年6月30日に登録出願,第29類「食用油脂,乳製品,食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物,豆,食用たんぱく」,第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,ビール製造用ホップエキス,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」及び第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」を指定商品として,同19年9月4日に登録をすべき旨の審決がなされ,同年11月16日に設定登録されたものである。
第2 登録異議の申立ての理由(要旨)
本件商標は,奇兵隊を創設したことでも有名な幕末の長州藩の志士「高杉晋作」の氏名を横書きしたものである。高杉晋作は今日においても多くの人々から敬愛されており,かつ,その遺族などの承諾なしに商標登録されたものであることから,同人と無関係の他人に,その指定商品について独占排他的な使用を認めることは,高杉晋作やその遺族の名誉・名声・心情を毀損するのみならず,敬愛する人々の社会的感情を毀損し,公平な取引秩序を乱すことは明らかである。さらに,商標登録出願人の破産により,食品製造業を営まない他の事業者によりこの商標が取得されたことからも公正な取引秩序を乱すことは明らかである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから,商標法第43条の2第1号により取り消されるべきである。
第3 本件商標に対する取消理由(要旨)
1 本件商標は,前記第1のとおり,「高杉晋作」の文字を標準文字により表してなるところ,登録異議申立人から提出された甲各号証及び職権により調査した証拠によれば,高杉晋作の文字について以下の事実が認められる。
(1)高杉晋作の周知・著名性
高杉晋作は,1839年9月27日に現在の山口県萩市に生まれ,松下村塾に学び,奇兵隊を創設し,幕府を敗北させるなど幕末における長州藩の尊王倒幕の志士として活躍し,日本の近代化に多大な影響を及ぼした人物であり,数多くの書籍などにおいて取り上げられていることから,一般に広く知られている人物であることが認められる(甲第3号証ないし甲第8号証)。
(2)高杉晋作に対する国民又は地域住民の認識
高杉晋作の郷土山口県においては,萩市に高杉晋作が生まれ育った家が「高杉晋作誕生地」として今も残り,萩市郊外の萩往還公園(道の駅)に吉田松陰,久坂玄瑞らとともに「高杉晋作像」が建てられ,多くの人が訪れている(甲第10号証及び西日本新聞 平成10年1月25日)。
また,高杉晋作が奇兵隊を結成し,結核により病死した下関市には,高杉晋作の墓が残り,昭和9年から国指定の史跡(昭和9年5月1日(文部省告示第181号 http://bunkazai.ysn21.jp/general/summary/frame.asp?mid=10010cdrom=)として保存され,関門海峡を見下ろす日和山公園に高杉晋作像が,息を引き取った場所に「高杉晋作終焉之地」の文字が刻まれた石碑が建てられている(下関観光コンベンション協会 http://www.tip.ne.jp/stca/hito/index.html)。
以上のとおり,高杉晋作は,その郷土やゆかりの地においては,郷土の偉人として敬愛の念をもって親しまれている実情にあることが認められる。
(3)高杉晋作の名称の利用状況
萩市では,平成16年4月1日に,まちじゅうを博物館としてとらえ,この都市遺産を保存・活用し,魅力あるまちづくりに努めるとともに,萩を訪れた人々に萩の良さや歴史を伝えることなどをまちじゅうで推進するため「萩まちじゅう博物館条例」を制定し,この萩まちじゅう博物館(構想)の中核施設として,萩開府400年の記念日である平成16年11月11日に,萩博物館を開館した(萩市 http://www.city.hagi.lg.jp/soshiki/detail.html?lif_id=1846)。そして,ここに同館の開館に当たり高杉晋作のひ孫高杉勝氏から寄託された高杉家に伝わる史料を「高杉晋作資料室(萩博物館 http://www.city.hagi.lg.jp/hagihaku/hikidashi/shinsaku/index.htm)」として,常設展示するほか,高杉晋作を題材とする特別展を開催している(例「晋作と龍馬(平成18年4月22日〜6月18日)」,「幕末維新の群像2/幕末志士たちの手紙−山根正次コレクション−(平成18年12月18日〜平成19年4月8日)」(萩博物館 http://www.city.hagi.lg.jp/hagihaku/event/over_event.htm))。また,萩市観光協会では,「萩観光ウォーキングおすすめコース」,「城下町エリア」などとして,「高杉晋作誕生地(高杉晋作旧宅)」を萩市の観光スポットとして紹介している(萩市観光協会 http://www.hagishi.com/miru/)。
下関市では,高杉晋作没後140年を記念して下関市立美術館において「高杉晋作と明治の元勲(平成19年8月21日〜9月2日)」を開催し(山口県・維新史回廊だより http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/gyosei/bunka-s/ishin/ishinshidayori/dayori-1.pdf),また,同市の観光モデルコースの一つとして,「高杉晋作ゆかりの地めぐりコース」を設定し,奇兵隊の後ろ盾となった「白石正一郎旧宅跡」,「高杉晋作終焉の地」及び高杉晋作の銅像の建つ「日和山公園」などの高杉晋作ゆかりの地を観光スポットとして紹介している(下関市 http://www.city.shimonoseki.yamaguchi.jp/kanko/model.html)。
山口県では,平成8年度に,ふるさとの歴史を明日に伝え,資料や史跡などの文化資源を活用して新しい地域文化を創造することを目的とする「維新史回廊構想」を策定するとともに,県,市,町及び文化団体によって構成される「維新史回廊構想推進協議会」を設置し関連事業を推進している。その事業の一環として「維新史回廊だより(年4回)」の発行や「維新史出前講座」の開催をするなどして,高杉晋作を含む明治維新を支えた人物などの明治維新関連の情報を県民に紹介している(山口県 http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/gyosei/bunka-s/ishin/index.html)。
以上のとおり,山口県内においては,高杉晋作に関連する史跡や資料が多く残され,山口県,萩市・下関市などの地方公共団体及び文化団体がこれらを保存・公開し,同人の名のもとに観光振興や地域おこしに役立てようとする取組がなされていることが認められる。
(4)前記(1)ないし(3)において認定した事実は,本件商標の出願前から現在においても継続している。
(5)高杉晋作の名称の利用状況と本件商標の指定商品との関係
一般に歴史上の人物の生誕地やゆかりの地においては,その地の特産品や土産物に,その者の名称や肖像が表示されて,観光客を対象に販売されているところ,高杉晋作についても,例えば,現時点において,「携帯ストラップ」,「色紙」,「手ぬぐい」,「トートバッグ」,「Tシャツ」,「ポスター」,「根付け」,「しおり」,「ポストカード」,「餅(もち)」及び「うどん」などに高杉晋作又は晋作の名称や肖像が用いられている事実がある(萩博物館ミュージアムショップ http://machihaku.exblog.jp/i8/,霊山歴史館 http://www.ryozen-museum.or.jp/050GOODS.html,読売旅行 http://www.yomiuri-ryokou.co.jp/kokunai/detail.asp?id=199140及びgooグルメ&料理 http://gourmet.goo.ne.jp/restaurant/shopID_tabelog-35001023/comment_page/?sort=ca)。
他方,本件商標の指定商品は,山口県,萩市及び下関市の特産品であるふぐなどの魚介類,魚の干物,かまぼこなどの水産加工品や地酒を含む飲食物であり,これらの特産品を同県,同市が観光振興の施策として紹介している事実がある(山口県 http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/theme/profile/prof04.html及び萩市 http://www.city.hagi.lg.jp/portal/tokusanhin/)。
そうとすると,高杉晋作の名称は,本件商標の指定商品を取り扱う者によって使用される可能性が極めて高いものであることが認められる。
(6)出願の経緯・目的・理由
本件商標に関する出願の経緯・目的・理由についての具体的事情は,確認できない。
(7)高杉晋作と出願人との関係
本件商標の登録審決時に出願人であった株式会社ウィングガーデン(以下「出願人」という。)と高杉晋作との関係は,確認できない。
なお,甲第10号証(高杉晋作の子孫である高杉勝氏からの上申書)には,「高杉晋作の名称が同人とはゆかりのない事業者に商標として登録され,独占排他的に使用されることは,同人の名誉・名声を傷つけるだけでなく,遺族としても極めて遺憾であり,公正な取引を阻害することと感じている。」旨記載されている。
2 以上のとおり,高杉晋作は,日本の近代化に多大な影響を及ぼした人物として一般に広く知られ,その郷土やゆかりの地において,住民に敬愛の念をもって親しまれ,かつ,山口県,萩市・下関市などの地方公共団体及び文化団体が,同人に関連する史跡や資料を活用して,同人の名称を観光振興や地域おこしなどの施策に利用している実情にある。
そして,本件商標の指定商品は,山口県における観光振興や地域おこしに欠くことのできない特産品を含む飲食物である。
そうとすると,高杉晋作の文字からなる本件商標を同人との関係が認められない出願人の商標として,その指定商品について商標登録を認めることは,高杉晋作の名称を使用した観光振興や地域おこしなどの公益的な施策の遂行を阻害することとなり,社会公共の利益に反するものとみるのが相当である。
したがって,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものである。
第4 商標権者の意見
商標権者は,前記第3の取消理由について,指定した期間内に意見を述べていない。
第5 当審の判断
平成21年11月2日付けで前記第3の取消理由を通知し,期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,商標権者からは何らの応答もない。
そして,前記第3の取消理由は妥当なものであるから,本件商標の登録は,商標法第43条の3第2項の規定により取り消すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
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