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Trademark Appeal Case

旧仮名遣い称呼の類否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2009−890111(T2009−890111/J3)
審判種別無効
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5094999号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成18年1月16日に登録出願、第30類「菓子及びパン,調味料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,食用グルテン」を指定商品として、同19年10月23日に審決、同年11月30日に設定登録されたものである。

第2 引用商標

請求人が引用する登録第1016219号商標(以下「引用商標」という。)は、「シヤノアル」の片仮名を横書きしてなり、第30類「菓子、パン」を指定商品として、昭和46年4月2日に登録出願、同48年6月4日に設定登録され、その後、平成16年6月23日に第30類「菓子及びパン」を指定商品とする書換登録がなされたものである。

また、当該商標権は、その閉鎖商標原簿の記載によれば「平成20年6月4日 分割(後期分)登録料不納」を原因として、同21年3月4日に登録の抹消がなされている。

第3 請求人の主張

請求人は、本件商標の指定商品中、第30類「菓子及びパン」についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第15号証(枝番を含む。)を提出した。

本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、その指定商品中、第30類「菓子及びパン」についての登録を無効にすべきものである。

1 本件商標と引用商標の類否について

(1)本件商標の称呼、観念

本件商標の欧文字部分「Chat noir」を分離した、「chat」及び「noir」の各単語に関して、「ロワイヤル仏和中辞典」(1998年重版 株式会社旺文社発行 甲第5号証の1)によれば、「Chat」(発音:シャ)はフランス語で「猫」を意味する単語であり、後段部の「noir」(発音:ノアル)もフランス語で「黒い」を意味する形容詞と記載されており、これに照らせば本件商標の欧文字「Chat noir」から発生する称呼は「シャノアル」、「シャノアール」となり、観念は「黒猫」である。

(2)引用商標の称呼

昭和61年7月1日に内閣告示第1号として告示された「現代仮名遣いの実施について」(甲第6号証)及びこれに伴う昭和63年7月20日付けの内閣法制局総発第125号内閣法制局長総務室から内閣官房内閣参事官あての通知「法令における拗音及び促音に用いる『や・ゆ・よ・つ』の表記について(通知)」(甲第7号証)に示されるように、昭和61年以前における文献の記載は拗音を積極的に記載するものではなく、現代仮名遣いの「シャ」を歴史的仮名遣いの「シヤ」と記載するのが一般的であり、逆に社会的常識(シヤカイテキジヨウシキ)として「シヤノアル」と表示されている場合には現代仮名遣いの「シャノアル」に置き換えて称呼されるものであった。

かかる事実は、「氷山印」を「ひようざんじるし」と称呼し、「ひょうざんじるし」というように拗音を用いた表記をしていなかった最高裁判決(昭和39年(行ツ)第110号 甲第8号証の1)や、これにかかる審決(昭和35年抗告審判第3068号 甲第8号証の2、3)においても明らかである。

そして、昭和61年以前の商標出願の旧仮名遣いの表記からなる商標「シヤンソン」、「シヤーロン」、「シヤープ」、「シヤツトル」、「シヤルマン」、「シヤンパン」、「シヤイン」、「シヤトー」、「シヤルル」を、それぞれ「シャンソン」、「シャーロン」、「シャープ」、「シャットル」、「シャルマン」、「シャンパン」、「シャイン」、「シャトー」、「シャルル」と称呼するのはごく自然の状況であった。

また、1995年10月3日発行の産経新聞東京夕刊(甲第9号証の1)の記事に「辰雄の『不器用な天使』の中で小説の主人公『僕』がカフェ・シャノアルの彼女とシネマ・パレスでエミル・ヤングスの『ヴァリテ』を見に行くところがあるが・・・」と記載されている事実があるが、その「不器用な天使」の親本での表記は「カフエ・シヤノアル」というように旧仮名遣いに記述されている(甲第9号証の2)。かかる事実は、請求人が引用商標から「シャノアル」と称呼されるという主張を証左するものである。

(3)引用商標の観念

前述の仏和辞典(甲第5号証の1)及び「ディコ仏和辞典」(2009年3月10日第7刷 株式会社白水社発行 甲第5号証の2)で「シャ」は「猫」、「ノアル」は「黒」を意味する単語として掲載されている事実からすれば、「シャノアル」と称呼された時に、通常のフランス語を勉強した人なら「黒猫」を連想するのが自然であり、観念としても「黒猫」の観念を想起する。

すなわち、引用商標は、旧仮名遣いで表記されたものであり、現代かな遣いに則せば「シャノアル」と称呼される引用商標からは、フランス語の「黒猫」の観念が生じるので、本件商標と引用商標は同一の観念が生じる。

かかる事実は、「シャノアル」によるインターネット検索結果で、流派「黒猫会」(Chat noir)のウェブページ(甲第10号証)がヒットすることからも明かである。

(4)本件商標と引用商標との比較

本件商標「Chat noir」から連想される称呼「シャノアル」及び「シャノアール」と引用商標の称呼「シャノアル」とを比較すると、本件商標の称呼「シャノアール」と引用商標の称呼とは中間音「ア」の音に長音を有するか否かの差異に過ぎず、それ自体は母音「ア」の余韻を残す程度のものであって明確に聴取され難く、その差異が両称呼全体に及ぼす影響は大きいとはいい難く、両者は聞き誤られるおそれがあるといわざるを得ない。かかる請求人の主張を証左するものとして審決例(甲第11号証ないし甲第15号証)が存在する。

したがって、本件商標と引用商標の称呼は、それぞれを一連に称呼する場合には、語調、語感が極めて近似したものといわざるを得ず、相互に称呼において類似する関係にあり、称呼的にも類似するといえる。

2 結論

以上のとおり、本件商標と引用商標とは、観念及び称呼の点で相互に類似し、指定商品「菓子及びパン」も同一であって、かつ、引用商標は他人の先願・先登録に係るものであり、本件商標の登録審決の平成19年11月12日送達時点においては有効に存在していたものである。

したがって、本件商標は、引用商標との関係において、商標法第4条第1項第11号に違反してなされたものであって、商標法第46条第1項の規定によりその指定商品中、第30類「菓子及びパン」の登録を無効とされるべきである。

第4 被請求人の主張

被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第15号証を提出した。

1 本件商標と引用商標の類否について

(1)外観上の相違

本件商標は、猫をモチーフとした図形を中心として、その左に欧文字「Chat」、右に「noir」と表示したものであり、引用商標は、片仮名「シヤノアル」と拗音を含まず、大文字5文字を等間隔で表示しているものである。

してみると、両者は、本件商標にのみ猫をモチーフとした図形を有すること、欧文字「Chat」及び「noir」と、片仮名「シヤノアル」の文字が相違すること、さらには、これらを含めた全体の表現も全く異なることから、本件商標と引用商標は外観において類似しない。

(2)称呼上の相違

本件商標の欧文字部分中の「noir」の正確な発音は「ディコ仏和辞典」(甲5号証の2)にも記載のとおり、その正確な発音は「ノワール」であり、このことは、当該欧文字のフランス語の発音についての複数のウェブページ記事においても「noir『ヌワル』・・・日本語では一般に『ノワール』と表記」(乙第2号証)や「noir ノワーる」(乙第3号証)のように記載されていることからも明らかである。

さらに、本件商標は、「Chat」と「noir」の文字間に図形を含む構成であることにより、該文字をフランス語風に称呼する場合にも一拍区切られて称呼されるものである。したがって、本件商標は、その図形の存在により「シャ・ノワール」と2つの単語を一拍区切って伸びやかに称呼されるものである。

これに対して、引用商標「シヤノアル」は、拗音を含まず、片仮名の大文字5文字を等間隔で表示している構成態様であることにより、少なくともフランス語の「黒猫」を意味する「chat noir」の日本語表記であると即時に一義的に認識されるものではなく、全体として一体不可分の片仮名と認識し把握されることから、音の高低差なく平坦に称呼され、称呼全体が詰まったような印象をあたえる「シヤノアル」との称呼が生ずるものである。

そうすると、本件商標の称呼は「シャ・ノワール」と拗音を含む一拍区切られた称呼であり、一方、引用商標の称呼は「シヤノアル」と一連に称呼される拗音を含まない称呼であるから、両者は、音数、音の位置に差異があり、聴取したときの音調の印象にも差異があるため、両者の称呼を一連に称呼するときは、その語調、語感が著しく相違したものとなり、互いに聞き誤るおそれはないもである。

したがって、本件商標と引用商標は称呼において類似しない。

(3)観念上の相違

本件商標は、猫をモチーフとした図形と「Chat」及び「noir」の欧文字とが相俟って「黒猫」の観念を想起するものである。

これに対して、引用商標は、前記のとおり、直ちに特定の観念を想起し得ない造語よりなるものである。

そうすると、本件商標と引用商標は、観念上比較することができないものであって、両者は観念において類似しない。

2 結論

以上のとおり、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点よりみても非類似であり、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。

したがって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号の規定により、その指定商品中、「菓子及びパン」についての登録を無効とされるべきものではない。

第5 当審の判断

1 本件商標について

本件商標は、別掲のとおり、後向きに座っている黒猫を描いた図形を中央に配置し、その左右に語頭を大文字とした「Chat」と小文字のみからなる「noir」の欧文字を横書きしたものをそれぞれ配した構成からなるものである。

(1)本件商標の称呼

「ロワイヤル仏和中辞典」には、「chat,te」の項に「[∫a,∫at]」の発音表記、「1猫」との記載が、また「noir,e」の項に「[nwar]」の発音表記、「1黒色の」及びその用例に「・・・白黒映画(*film〜は『フィルムノワール、暗黒街映画』)」との記載が認められる(甲第5号証の1)。

また、「ディコ仏和辞典」には、「chat,te」の項に「[∫a,-atシャ,シャト(「ト」は小さく表示)]」の発音表記、「1猫」との記載が、また「noir,e」の項に「[nwar ヌワる]」の発音表記、「1黒い」との記載が認められる(甲第5号証の2)。

そして「発音の手引き・言語別」と称するウェブページにおいて、「フランス語とその一般的なカタカナ表記の関係」の見出しの下に、「3.・・・noir「ヌワル」(『黒い』。日本語では一般に「ノワール」と表記)」との記載(乙第2号証)、及び「発音してみよう 子音」と称するウェブページにおいて、「n」の項に、単語の例として「noir」、そのカナ表記として「ノワーる」との記載(乙第3号証)がそれぞれ認められる。

そうすると、本件商標の構成中「Chat」及び「noir」の欧文字からは、「シャノワール」の称呼を生ずるものと判断するのが相当である。

(2)本件商標の観念

本件商標は、前述の仏和辞典(甲第5号証の1及び2)によれば、「chat」の語は「猫」を、「noir」の語は「黒い」の意味をそれぞれ有するものであって、これらを組合せて「黒猫」を意味するものということができる。

そして、本件商標は、その構成中の中央に配置された黒猫の図形を有すること及びその指定商品中の洋菓子をはじめとする「菓子及びパン」においては、その名称等にフランス語を採用した商品が少なくないことを考慮すれば、「黒猫」の観念が生じるものとみるのが相当である。

2 引用商標について

引用商標は、上記第2のとおり、「シヤノアル」の片仮名を横書きしてなるところ、これよりは直ちに一般に親しまれた特定のものや語を想起し得ないものであって、その構成各文字は拗音を含まない直音を表わしたものと看取されるものと判断するのが相当である。

(1)引用商標の称呼

そうすると、直ちに特定のものを想起し得ない引用商標「シヤノアル」は、これを現在において、ことさら旧仮名遣いで表記されたものということは不自然であるといわなければならない。

したがって、引用商標は、その表記された文字どおりに片仮名1字毎に1音節として、「シヤノアル」と一連に称呼されるものとするのが自然である。

(2)引用商標の観念

引用商標は、特定の観念を有しない造語と認められる。

3 本件商標と引用商標の類否について

(1)外観の類否

本件商標は別掲のとおり、後向きに座っている黒猫を描いた図形を中央に配置し、その左右に「Chat」と「noir」の各欧文字を横書きした構成からなるものであり、他方、引用商標は「シヤノアル」の片仮名を横書きした構成からなるものであることから、両者は、外観において、その構成態様が明らかに異なり、その外観の印象を異にし彼此見誤るおそれのないものと認められる。

(2)観念の類否

本件商標は「黒猫」の観念を想起させ、引用商標は特定の観念を有しないものであること、上記1(2)及び2(2)の認定のとおりであるから、両者は観念において比較することはできない。

(3)称呼の類否

本件商標は「シャノワール」、引用商標は「シヤノアル」と称呼されること、上記1(1)及び2(1)の認定のとおりである。

してみると、両商標から生じる称呼は、語頭において拗音「シャ」と「シヤ」(2音)、及び語尾において長音を含む「ワール」と長音を含まない「アル」の差異があり、これらの差異が称呼全体に及ぼす影響は、決して小さいものとはいえない。

そうとすれば、両者は、これをそれぞれ一連に称呼するときは、全体の語調、語感が相違し、相紛れて聴取されるおそれのないものといわなければならない。

4 小括

したがって、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。

5 請求人の主張について

請求人は、引用商標の称呼について、「現代仮名遣いの実施について」(昭和61年7月1日内閣告示 甲第6号証)、「法令における拗音及び促音に用いる『や・ゆ・よ・つ』の表記について」(昭和63年7月20日内閣法制局総発第125号通知 甲第7号証)、「氷山印」に関する審判決(甲第8号証の1ないし3)、昭和61年以前の商標出願の旧仮名遣いの表記からなる商標とする例示、及び「不器用な天使」とする小説に関する記載(甲第9号証の1、2)を根拠として、昭和61年以前における文献の記載は拗音を積極的に記載するものではなく、現代仮名遣いの「シャ」を歴史的仮名遣いの「シヤ」と記載するのが一般的であって、社会的常識(シヤカイテキジヨウシキ)として「シヤノアル」と表示されている場合には現代仮名遣いの「シャノアル」に置き換えて称呼されるものであった旨述べている。

確かに「氷山印」に関する審判決において、平仮名で「よ」を小書きせずにその称呼を「ひようざん」などと歴史的仮名遣いを用いての記載(甲第8号証の1ないし3)や、小説「不器用な天使」の親本(1930(昭和5)年7月3日発行 甲第9号証の2)とするものには「カフエ・シヤノアル」としているものを、その作家に関する新聞記事では拗音に置き換えて「カフェ・シャノアル」との記載(1995年10月3日産経新聞発行 甲第9号証の1)があることは認められる。

そして、昭和61年以前の商標出願の旧仮名遣いの表記からなる商標「シヤンソン」、「シヤーロン」、「シヤープ」、「シヤツトル」、「シヤルマン」、「シヤンパン」、「シヤイン」、「シヤトー」、「シヤルル」が存在し、これらは現在においてそれぞれ「シャンソン」、「シャーロン」、「シャープ」、「シャットル」、「シャルマン」、「シャンパン」、「シャイン」、「シャトー」、「シャルル」と称呼されると認め得るものである。

しかしながら、これらはいずれも一般に拗音として発音されている既成語ないし固有名詞を容易に想起するものであるのに対し、引用商標の構成文字「シヤノアル」は特定のものや語を想起し得ないものであるから、甲第9号証の1の例のみをもってしては、本件をこれら用例と同列にみなければならないとするのは困難である。

また、拗音に用いる「ヤ、ユ、ヨ」を小書きしたものについて、昭和61年7月1日の内閣告示(甲第6号証)前にも使用されていた状況は、昭和59年6月1日発行の「NHK婦人百科」(乙第5号証)において認められるところである。

そして、当該内閣告示には「一般の社会生活において現代の国語を書き表すための仮名遣いのよりどころを、次のように定める。」との記載があり、また「前書き」の見出しの下に「5 この仮名遣いは、・・・外来語・外来音などの書き表し方を対象とするものではない。」の記載があることから当該内閣告示は、日本語を対象として定められたものであって、さらに、内閣法制局総発第125号内閣法制局長官総務室から内閣官房内閣参事官室あての通知(甲第7号証)は、法令に用いる拗音表記に関するものであり、その「備考」には「(5) 拗音・・・「ヤ、ユ、ヨ、ツ」については従来から原則として小書きが行われてきており・・・」との記載が認められる。

してみれば、請求人のかかる主張及び証拠(甲第6号証ないし甲第9号証の2)によっては、昭和61年以前の仮名遣いにおいて「シャ」の拗音を「シヤ」と記載することが一般的であったとの状況を認めることはできないから、引用商標から「シャノアル」と称呼されるとの主張は採用することはできない。

なお、請求人は、「シャノアル」の検索結果として甲第10号証を提出し、引用商標から「黒猫」の観念を生ずることが明らかである旨主張しているが、その趣旨が必ずしも明らかでなく、また、甲第10号証の1件のみの検索結果をもって上述の判断が左右されるものではない。

6 結論

以上のとおり、本件商標の登録は、その指定商品中の「菓子及びパン」について、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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