結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2009−890098(T2009−890098/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第4796083号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成16年2月10日に登録出願、第25類「履物,運動用特殊靴,被服,運動用特殊衣服」を指定商品として、同年7月23日に登録査定、同年8月20日に設定登録されたものである。
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第156号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)本件商標は、商標法第4条第1項第15号及び同第7号に違反して登録されたものであるから、商標法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。
(2)請求人の引用する商標
請求人(アディダス アーゲー)が本件商標の無効の理由に引用する商標は、別掲(2)ないし(22)のとおり、請求人が所有する引用商標1ないし引用商標17(以下、これらを総称するときは「アディダス引用商標」という。)及びプーマ アーゲー ルドルフ ダスラー スポーツ(以下「プーマ社」という。)が所有する引用商標18ないし引用商標21の商標(以下、これらを総称するときは「プーマ引用商標」という。)である。なお、引用商標1ないし引用商標21を総称するときは、「引用各商標」という。
(3)利害関係
本件商標は、需要者の間で広く知られた請求人のアディダス引用商標と構成の軌を同じくする図柄からなるばかりでなく、世界的に著名なスポーツ用品メーカーであるプーマ社の商標として知られるプーマ引用商標とアディダス引用商標の2つを組み合わせた構成からなるものであり、本件商標の指定商品は、請求人の業務に係る商品と同一又は類似の商品であることから、請求人の業務に係る商品との間に出所の混同を生じるおそれが極めて高い。また、本件商標は、請求人が永年築き上げたアディダス引用商標の名声、顧客吸引力に便乗するものであるから、被請求人が本件商標を使用すれば、請求人の商標が希釈化され、請求人に精神的及び経済的な損失を与えることが明らかである。
よって、請求人は、本件商標の登録無効審判請求について利害関係を有するものである。
(4)商標法第4条第1項第15号について
(4−1)引用各商標の著名性について
(ア)請求人会社の沿革及び名声
請求人は、世界的に有名なスポーツ用品メーカーであり、その歴史は1920年に創始者アディ・ダスラ−(Adi Dassler)がスポーツシューズを開発したことに始まる(甲第26号証の1ないし10)。
アディダス引用商標に共通する概念であるところの3本線(Three Stripes)が請求人の商標として採択使用されたのは1949年のことである。以後、「3本線」は50年を超える長期にわたり今日まで請求人の業務に係る商品及び役務の識別標識として世界各国で使用され親しまれている。
上記「3本線」を基調とするアディダス引用商標は、請求人の製造するスポーツシューズの品質と性能への高い評価と相侯って「勝利を呼ぶ3本線」の愛称で急速に需要者に広く知られることになった。3本線を基調とする引用商標を使用したスポーツシューズは、1952年のオリンピック・ヘルシンキ大会で西ドイツ選手が着用したことにより世界の舞台に初登場した。その後のオリンピック、世界選手権、欧州選手権等の国際試合における請求人のスポーツシューズを着用した選手の活躍によって、請求人のスポーツシューズの優れた性能が世界の需要者に証明され、これと同時に請求人のスポーツシューズに採用される3本線を基調とする引用商標の名声も不動のものとなった(甲第31号証 等)。
また、1970年に初めて請求人のサッカーボールがサッカーのワールドカップ大会の公式ボールとされ、これ以降今日まで連続して請求人のボールが公式ボールに採用されており(甲第26号証の7)、請求人の製造販売に係るサッカーユニフォームは、請求人の本国ドイツ国をはじめとする世界各国の代表チームやプロリーグチームが採用している(甲第53号証)。日本サッカー協会においても、1999年4月1日から5年契約で3本線の商標を使用した請求人の製造販売に係るユニフォームを日本代表チームユニフォームに採用を決定し(甲第65号証ないし甲第67号証)、現在も、請求人は日本代表チームにユニフォームを提供している(甲第86号証)。
更に、サッカー以外のスポーツ用品についても、請求人は、世界一流のテニスプレーヤーらと専属契約を結び、請求人の商品を供与して自社商品の広告に起用するとともに、彼らの名前を冠した商品シリーズを一般需要者向けに製造販売している(甲第63号証及び甲第64号証)。
(イ)「3本線」に関する広告活動
請求人は、3本線を同社の商標として最も重要なものと認識し、アディダス引用商標に示すとおり、様々な態様について商標登録を取得している。3本線の重要性は、1972年に採用され(甲第26号証の7)、アディダス引用商標と共に請求人の商標として著名な三つ葉を象った商標(甲第68号証ないし甲第82号証)が3本線を構成要素として採用している点にも見出すことができる。
請求人は、3本線が請求人の業務に係る商品の識別標識であるという認識を需要者に広く深く浸透させるための広告宣伝活動にも力を注いでいる。請求人は「3本線のブランド」を意味する商標「THE BRAND WITH THE 3 STRIPES」について商標登録を取得しているほか(甲第19号証ないし甲第21号証)、3本線を基調とする様々な図柄の商標を登録、使用している(甲第22号証ないし甲第25号証)。
また、需要者の間で広く認知されている「3本線=アディダス」というイメージの保持と徹底を図るべく、「3本線」又は「Three Stripes」というフレーズを自己の業務に係る商品と常に結びつけた形で商品カタログや広告等に使用している(甲第32号証及び甲第48号証)。
(ウ)日本における使用実績
我が国における請求人の営業活動は、遅くとも1971年頃に当時の請求人商標の日本における使用権者であった株式会社デサントによって開始された(甲第27号証)。これ以降1998年までは株式会社デサントを介して請求人の製造に係るポロシャツ、ティーシャツ、スウェットスーツ、帽子等の被服、運動靴、サンダル等の履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴、ベルト、かばん類、布製身回品等についてアディダス引用商標が使用された(甲第27号証ないし甲第48号証及び甲第54号証ないし甲第64号証)。
続く1999年1月から現在に至るまでは、アディダスジャパン株式会社によって営業活動が継続されている(甲第49号証ないし甲第53号証、甲第83号証ないし甲第85号証)。
(エ)引用商標の使用態様と著名性
請求人によるアディダス引用商標の使用態様は1949年の採択時から50年以上経過した今日でも本質的に変わっていない。靴のサイドラインとして用いる3本線は、請求人による長期的かつ継続的な使用実績によって同社の取扱いに係る商品の出所表示として広く知られており、例えば、靴に関しては、引用商標15が、また、スポーツウェアに関しては引用商標16及び引用商標17がそれぞれ使用による識別力を認められ、立体商標として商標登録されている。引用商標15に対応する商標は、世界各国でも商標登録されている(甲第89号証ないし甲第92号証)。
以上のとおり、アディダス引用商標は、本件商標の登録出願時及び査定時において既に本件商標の指定商品の取引者・需要者の間で広く認識されていたものであることが明らかである。
(4−2)本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品の関連性
本件商標は、第25類「履物、運動用特殊靴、被服、運動用特殊衣服」について使用されるものである。これに対して、請求人の業務に係る商品は、主にアディダス引用商標において指定した第25類「被服、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」や第28類「運動用具」に相当する商品であるから、本件指定商品と同一の商品であり、又は、同一商品の一部と密接に関係する類似商品である。
(4−3)本件商標の構成と出所混同のおそれ
(ア)本件商標の構成中の3本線の図柄と請求人の3本線の商標との関係
本件商標は、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾けた黒塗りの縦長の平行四辺形に近い四角形を、当該四角形の幅とほぼ同じ間隔をもって平行に3本並べ、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次少しずつ長くし、右端に位置するものを最も長くした図柄と当該3本線の図柄の左下方向から右上方向に向かって、該3本線の下端と下端を面一に揃えた太い基端から、幅を縮減させながら緩やかに上昇する黒塗りの帯状曲線であって、上記3本線の図柄の中央部を貫通するものからなる商標である。
これに対して、引用商標1及び引用商標2の構成中の図形部分並びに引用商標15の構成中の靴の側面に描かれた図形部分は、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾けた黒塗りの縦長の台形を、当該台形の幅よりも若干狭い間隔をもって3本並べ、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くし、右端に位置するものを最も長くした図形よりなるものである。
引用商標3ないし引用商標5の構成中の図形部分並びに引用商標6及び引用商標7は、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾けた黒塗りの縦長の台形を、当該台形の幅のほぼ三分の一程度の間隔をもって3本並べ、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くし、右端に位置するものを最も長くした図形よりなるものである。
引用商標8ないし引用商標10は、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾け、左右の縦線を鋸形にした縦長の台形の輪郭線を、当該輪郭線の幅とほぼ同じ間隔をもって3本並べ、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次少しずつ長くし、右端に位置するものを最も長くした図形よりなるものである。
引用商標11及び引用商標12並びに引用商標13及び引用商標14の構成中の図形部分は、仮想垂直線に対し、左方向にやや傾け、左右の縦線を鋸形にした黒塗りの縦長の平行四辺形を、当該四辺形の幅のほぼ三分の一程度の間隔をもって3本並べた図形よりなるものである。
本件商標の構成中の3本線の図柄は、3本線のストライプを配置する間隔の広狭、3本線が黒塗りされているか輪郭線で描かれているか、3本線の輪郭線が直線か鋸形かといった細部における相違点を除けば、ストライプの数が3本であること、3本線が傾斜する角度、3本線を均等間隔で配置した態様など、図形の外観印象を決定づける重要な要素において引用商標1ないし引用商標15(又はその図形部分)と一致し、これらとほぼ同一の外観印象を看者に与える。
また、本件商標を靴のサイドラインとして表示した場合には、本件商標の構成中の3本線の図柄部分は引用商標1ないし引用商標15(又はその図形部分)と同一のものとして印象づけられる。
なお、被請求人は、3本線からなる本件商標の他に、3本より多いストライプを均等間隔で配置した図形商標を靴のサイドラインとして側面に表示したものをこれまでに販売しており(甲第108号証ないし甲第114号証、甲第131号ないし甲第135号証)、また、ストライプの部分を地色と異なる色で着色したものやストライプの部分を地色と異なる色で着色せず(黒塗りせず)に輪郭線だけをステッチで描いたものを同一モデルのデザイン違いとして販売している(例えば、甲第111号証及び甲第112号証)。
このような本件指定商品の取引実情に鑑みれば、本件商標とアディダス引用商標との細部における相違点は、アディダス引用商標の特徴的な3本線を基調にした全体的な一致点に比して極めて些細なものであり、本件商標の構成中の3本線の図柄とアディダス引用商標から看取される同一の図形印象を妨げる程度に大きなものではないことが明らかである。
また、本件商標は、その構成中に3本線の図柄を貫通する帯状曲線を有するが、当該帯状曲線の存在によって、3本線を基調とした図柄が「3本線」以外の別異の図柄を基調としたものと印象付けられるというような事情は無い。むしろ、3本線を基調とした図柄は傾いた縦方向かつ直線的な図形印象、帯状曲線はそれを横切る横方向かつ曲線的な図形印象が顕著であるゆえに、そのコントラストが互いの存在を強調していると言える。しかも、本件商標を実際に指定商品に使用する場合には、3本線の図柄と帯状曲線が異なる色で着色される可能性が高い。
したがって、本件商標は、構成中の3本線の図柄が看者の注意を惹きつけ、請求人の商標として著名な「3本線の図柄」として容易に認識理解されるものである。
3本線の図柄を靴の甲のひもと靴底を直線で斜めに結んだ辺りの部位にサイドラインとして表示する態様は、請求人が現在まで50年以上に亘り採用してきた商標の使用態様であり、請求人の商品の出所表示として広く知られているものである。請求人によるかかる3本線の使用態様は、その周知性が認められて登録された引用商標15及びこれに対応する外国商標登録(甲第89号証ないし甲第92号証)にも示されているとおりである。
したがって、本件商標が指定商品に使用された場合には、取引者・需要者は、請求人の商品識別標識として著名な3本線の図柄の部分に注意を惹きつけられ、アディダス引用商標及び請求人を想起・連想し、請求人の取り扱いに係る商品と誤信するおそれがある。少なくとも、本件商標の構成中の3本線の図柄の存在は、請求人と何らかの組織的または経済的な関係を有する者によって取り扱われる商品であると誤信させるものであり、請求人の業務に係る商品といわゆる広義の出所混同を生ずるおそれが極めて高い。
(イ)本件商標の構成中の帯状曲線とプーマ社の商標との関係
本件商標は、請求人の登録商標として著名な3本線の図柄を構成中に有するのみならず、請求人の創始者の兄弟により設立されたドイツのもう一つの著名なスポーツ用品メーカーであるプーマ社の商品出所表示として広く知られている商標をも構成中に包含する。
プーマ社は、「form strip(わが国においては、「プーマライン」と呼ばれている)」と称する帯状曲線の商標(引用商標18ないし引用商標21)を靴のサイドラインとして使用している(甲第99号証、甲第100号証)。すなわち、本件商標の構成中の帯状曲線は、プーマ社が商標登録を所有している帯状の曲線の図形からなる引用商標18ないし引用商標21と構成の軌を一にするものであり、ほぼ同一の外観印象を与える。
プーマ社は、1948年に設立されたスポーツ用品メーカーであり(甲第98号証、甲第105号証、甲第115号証)、プーマ社の商標は、請求人の商標とともにヨーロッパを代表する有名スポーツブランドとして、世界的に高い人気を博している(甲第106号証、甲第107号証)。
プーマ引用商標は、1958年にスウェーデンで開催されたサッカーワールドカップにおいて、プーマ社の靴を採用した当大会準優勝のスウェーデン代表と優勝のブラジル代表の靴に用いられたことで初めて世に出ることとなった(甲第116号証)。「サッカーの神様」と称されるようになったペレ、アルゼンチン代表を努めたディエゴ・マラドーナ等、様々な国の選手により「form strip」が施された靴をはじめとした商品が使用されてきた(甲第118号証の1ないし14)。
このように、「form strip」と呼ばれるプーマ引用商標の帯状曲線は、1958年にプーマ社が使用を開始してから今日までの永きに亘って、同社の靴をはじめとする商品に継続的に用いられたことで、同社の代表的商品出所表示となっており(甲第98号証、甲第99号証)、外国における商標登録も多数存在する(甲第141号証の1ないし25)。わが国においては、「form strip」は、取引者・需要者の間で「プーマライン」と呼ばれて親しまれていることがスポーツ用品小売業者や一般消費者が開設するインターネットウェブサイトの記述から窺い知ることができる(甲第100号証)。
(ウ)近年においては、企業のブランド戦略のひとつとして、異なるブランド同士を融合させた合作・共同商品、または、既存のブランドと異色のデザイナーを融合させた合作・共同商品である、いわゆる「コラボレーション商品」の企画・製造・販売等が衣服や玩具、食品に至るまで頻繁に行なわれている(甲第125号証ないし甲第129号証)。プーマ社もそのような企画を積極的に取り込んで活動を行なっている企業のひとつであり(甲第119号証、甲第121号証ないし甲第123号証、甲第130号証)、請求人においても例外的な活動ではなく、ジャンルを問わず様々なデザイナーや企業と共に商品の企画販売等を行っている(甲第142号証ないし甲第156号証)。
そして、需要者にとっては、企業が通常販売する商品よりも、企業間・デザイナー・著名人・キャラクター等との共同企画商品への関心は高く、このような商品に対する需要者の反応は特に敏感である。
したがって、請求人の商品のシンボルとして世界的に著名な3本線とプーマ社の商品のシンボルである「form strip(プーマライン)」を構成中に顕著に有する本件商標が指定商品に使用された場合には、当該商品に接した取引者・需要者は、請求人とプーマ社を直ちに想起・連想し、あたかも請求人がプーマ社との業務提携・技術協力等により開発、提供する、いわゆる「コラボレーション商品」であるかのように誤信し、これにより、両者の業務に係る商品と出所混同を生ずるおそれが極めて高い。
(エ)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、その登録は取り消されるべきである。
(5)商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、その構成中に、請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されている引用商標1ないし引用商標15と構成の軌を一にする3本線の図柄を顕著に包含するものであるから、請求人の長年の企業努力及び宣伝活動によって著名性を獲得した「3本線」の商標の名声にフリーライドするものと言わざるを得ない。また、被請求人が3本線の図柄及び帯状曲線を有する本件商標を指定商品に使用すれば、請求人の商品出所表示として著名な「3本線」の出所表示機能が毀損、希釈化され、請求人に多大な損害を及ぼすことが予見される。
それのみならず、本件商標は、その構成中に、プーマ社の商品を表示するものとして「プーマライン」の呼び名で親しまれている帯状曲線商標をも包含し、これを請求人の著名商標の3本線の図柄と組み合わせることにより、あたかも請求人がプーマ社と業務提携等して開発、提供する商品であるかのような誤った認識、印象を取引者・需要者に与え、両社の商標の顧客吸引力にフリーライドして、不当な利益を得ようとする意図が窺える。
被請求人は、スポーツシューズ等を取り扱う者として、請求人あるいはプーマ社と同業者であり、当然ながら、請求人の商品出所表示としての「3本線」及びプーマ社の商品出所表示としての「form strip」並びにこれらの周知著名性について熟知している者であり、本件商標は悪意による出願と考えざるを得ない。
そうとすれば、本件商標の登録及び使用は、社会一般の道徳観念、公正な取引秩序の維持を旨とする商標法の精神、さらには国際信義に反するものであり、公の秩序を害するおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであること明らかであるから、その登録は取り消されるべきである。
(6)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号及び同第7号に違反してなされたものであるから、無効とされるべきである。
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第153号証を提出した。
(1)裁判上の和解の存在について
本件に関する重要な背景事情として、請求人、被請求人、その他の履物業者間における、いわゆる「3本線商標」を巡る業界の実情、紛争の歴史を述べる。
請求人アディダス社が日本における営業活動を開始したのは、1971年頃とされているところ、これより前の、遅くとも1965年(昭和40年)頃には、複数の靴メーカーが日本において、靴のサイドラインとして3本線を広く採用していたものである。
このことは、1965年頃から、このようなデザインを用いた意匠登録出願が複数の靴メーカーによって頻繁になされており(乙第1号証ないし乙第15号証)、また、帯状曲線を用いた意匠登録出願も多数なされていること(乙第16号証ないし乙第48号証))、被請求人の1965年以降の製品カタログ(乙第49号証ないし乙第118号証:旧商号「月星ゴム株式会社」、「月星化成株式会社」時代のものを含む)及び1972年以降の学生靴カタログ(乙第119号証ないし乙第143号証)からも明らかである。
このように、日本市場においては、3本線を靴のサイドラインとして採用した靴が請求人及び被請求人を含む様々なメーカーから販売され、併存してきたのである。
しかし、このような状況を不服として、昭和62年、請求人は、被請求人(当時の商号は、月星化成株式会社)及びその他代表的な国内靴メーカー(アキレス株式会社、株式会社アサヒコーポレーション、世界長株式会社)を相手取り、東京地方裁判所に商標権侵害訴訟を提起した。これに対し、被請求人らは、請求人が有する3本線に係る商標登録に無効審判請求をするなどして争い、平成5年4月8日、上記商標権侵害訴訟は和解により終結した。
その和解の内容は、和解調書(乙第144号証)のとおりであり、具体的には、被請求人らが無効審判請求等を取り下げ、競技用シューズにおける3本線商標の使用について譲歩する代わりに、請求人は、被請求人らが競技用シューズ以外の靴において3本線商標を使用することを認めるというものである。
こうして、この裁判上の和解以降、競技用シューズ以外の靴については、3本線商標そのものについても、請求人の靴と被請求人らの靴とが併存することになったのであり、このことは請求人も裁判上の和解で容認したことである。
このように、3本線商標そのものであっても併存が認められているのであるから、3本線商標とは非類似である被請求人の本件商標と請求人の3本線商標との併存が認められるのは、およそあらゆる商品について当然というべきである。それにもかかわらず、本件商標を履物等に使用した場合に、請求人の業務に係る商品と出所混同を生じるおそれが高いなどと主張することは、前記和解で請求人、被請求人らが裁判上の和解で合意した併存の枠組みを否定するものであり、到底認められるものではない。
ましてや、本件商標は悪意による出願で公序良俗に反するなどという主張は、被請求人らが請求人商標登録に対する無効審判請求等を取り下げる等の妥協をしたことによって、被請求人らに認められた権利を無視するものである。
(2)出所混同のおそれのないこと
(ア)本件商標と請求人の3本線商標との関係について
(ア−1)被請求人は、本件商標をサイドラインに採用した靴を遅くとも1974年頃から現在に至るまで、約35年間にわたり継続的に販売している。被請求人の新製品カタログである「月星靴’74秋−冬新製品特集」(乙第64号証)には、「ジャガージュニアエース」の商品名の下、本件商標をサイドラインに採用した靴が掲載されており、それ以降の新製品カタログ(乙第65号証以下)にも同様の商品が継続して掲載されている。
また、昭和49年9月1日発行の被請求人の学生靴カタログ(乙第121号証)にも、前述の「ジャガージュニアエース」が掲載されており、それ以降の学生靴カタログ(乙第122号証以下)にも同様の商品が継続して掲載されている。
そして、靴業界の専門誌であるゴム報知新聞社発行の「旬刊くつ」に広告を出すなどして(乙第145号証ないし乙第152号証)、本件商標をサイドラインに採用した靴を宣伝広告してきたところである。
その結果、ジャガーサドル商品販売実績報告書(乙第153号証)にあるとおり、本件商標をサイドラインに採用したジャガーブランドの靴は、近年においても、毎年コンスタントに2万5千足〜3万足程度が販売されており、「旬刊くつ昭和52年9月15日版」(乙第148号証)、「旬刊くつ昭和53年2月25日版」(乙第149号証)において、アディダス、プーマ等とともに本件商標(ジャガー)も取り上げられており、ジャガー(被請求人の本件商標)については、「ヤング市場でのトレーニングシューズの四大ブランド」の1つとして紹介されている。
このように、本件商標をサイドラインに採用した被請求人の靴は、一世を風靡し、現在に至るまで継続的に販売されてきているものである。
したがって、本件商標と請求人の3本線商標との間に出所の誤認混同など生じるおそれはない。
(ア−2)本件商標と請求人の3本線商標との類否
本件商標は、3本線の図柄の中央部を帯状曲線が貫通する態様のものである。この点、態様の説明の便宜上、3本線の図柄と帯状曲線の2つの部位に分けて本件商標の態様を説明しているが、本件商標の態様は、両方の図柄が重なりをもって完全に融合したものであって、2つの部位に分けて看取される訳ではなく、あくまで両者が一体となって看取されるものである。
請求人は、本件商標の構成中の3本線の図柄が請求人の3本線の商標と構成の軌を一にすると主張するが、このような主張は意味がなく、比較されるべきはあくまで本件商標と請求人の3本線の商標である。そして、この両者が外観上非類似であることは、両者の外観上明らかというべきであり、また、本件無効審判請求の根拠として商標法第4条第1項第11号が挙げられていないことから、請求人も認めていると理解されるところである。
なお、この点、靴のサイドラインに使用される商標には、帯状直線(ストライプ)と帯状曲線の組み合わせという構成を有しているものが多く、取引者・需要者は、比較的細かい差異によって、それぞれのブランドを区別しているという実情に留意しなければならない。
例えば、前述した「旬刊くつ昭和53年2月25日版」(乙第149号証)の第21面には、「あなたはいくつわかりますか」と題して、各社の靴のサイドラインが掲示されているが、帯状直線と帯状曲線を組み合わせたサイドラインが多数採用されていることが分かる。そして、これらのサイドラインのうち、17番が被請求人の本件商標(ジャガー)、5番が請求人の3本線商標、1番がプーマ社のプーマライン商標であるが、それぞれ別のブランドとして認識されており、それぞれの間に誤認混同など生じていないことは明らかである。
このように、本件商標と請求人の3本線商標とは非類似であり、取引者・需要者も適切に両者を区別しており、両者間に出所の誤認混同など生じるおそれはない。
(ア−3)本件無効審判における審理対象
請求人は、被請求人の5本ストライプをサイドラインとして使用した靴の態様や本件商標を実際に指定商品に使用する場合には、3本線の図柄と帯状曲線が異なる色で着色される可能性が高いなどと主張しているが、本件無効審判において議論されるべきは、本件商標そのものであるから、本件商標に改変を加えた場合を議論することは不適切である。
(イ)本件商標とプーマ社の「プーマライン」商標との関係について
(イ−1)利害関係について
本件無効審判請求の請求人はアディダス社であり、プーマ社ではない。商標登録無効審判請求は、利害関係人のみが請求適格を有すると解されているところ、仮に、請求人以外の商品との混同のおそれを請求の理由にできるとすれば、敢えて「何人も」と規定していない商標法第46条の趣旨を潜脱することになりかねない。したがって、請求人は、本件商標とプーマ社商品との間に出所の混同を生じるおそれがあることを請求の理由とすることはできないというべきである。
(イ−2)本件商標とプーマライン商標との誤認混同について
仮に、本件商標とプーマ社のプーマライン商標との間に出所の誤認を生じるおそれがあるか否かが本件無効審判事件で問題になるとしても、本件商標と請求人の3本線商標との間に出所の誤認混同が生じないことについて詳述したことと同様の理由から、本件商標とプーマライン商標との間においても出所の誤認の混同など生じるおそれはない。
(ウ)「コラボレーション商品」に係る請求人の主張について
ブランド間のコラボレーションというものは、あくまで、それぞれのブランドの特異性や特徴を生かしつつ、ターゲットとなる一定の需要者に独自の新しい魅力ある価値を生み出し提供するためのものである。仮に、請求人の3本線商標とプーマ社のプーマライン商標を重ね合わせた商標を用いて両社がコラボレーション商品を作成したとすれば、請求人が自らのブランドの特異的な部分として自負する3本線の特徴が弱められ、互いのブランドの特異性や特徴を打ち消しあうばかりであり、このようなコラボレーションが実現することは一般常識では到底考えられない。実際、請求人が提出するコラボレーション商品関係の証拠を見ても、3本線を浮き立たせる態様の商標を採用した商品はあるが、この3本線を打ち消すような態様の商標を採用した商品など当然のことながら見当たらない。請求人のコラボレーションについての主張は、全く非現実的なものと言わざるを得ない。
(エ)まとめ
以上の理由から、本件商標をその指定商品について使用しても、請求人の業務に係る商品であるかの如く商品の出所について誤認を生じるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。
被請求人は、本件商標をサイドラインに採用した靴を遅くとも1974年頃から現在に至るまで約35年間にわたり継続的に販売している。
そして、請求人、被請求人間における裁判上の和解により、被請求人は、競技用シューズ以外の靴について3本線商標そのものを使用できるのであり、まして、3本線商標と非類似である本件商標であれば、およそあらゆる商品について使用できることは当然である。そもそも、本件商標と請求人の3本線商標とは外観上全く異なる商標であり、両者の間に出所の誤認混同など生じない。
また、本件商標とプーマ社のプーマライン商標との間の出所混同も、3本線商標の場合と同様に到底考えられず、請求人が主張するような態様のコラボレーション企画が実現する可能性も到底考えられない。
したがって、本件商標が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある」はずがなく、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものでないこと明白である。
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第15号及び同第7号に違反して登録されたものである旨主張して本件審判を請求している。
本件審理に関し、請求人及び被請求人は、請求人が本件審判を請求することについての利害関係について言及しているので、まず、この点について判断する。
被請求人は、請求人の業務に係る商品以外の商品との関係において、請求人が商品の混同のおそれを請求の理由にできるとすれば、「何人も」と規定していない商標法第46条の趣旨を潜脱することになるから、請求人は本件商標とプーマ社の商品との間に出所の混同を生じるおそれがあることを請求の理由とすることはできない旨述べている。
しかしながら、そもそも、請求人は、被請求人が本件商標を使用すれば、請求人の業務に係る商品との間に出所の混同を生じるおそれが極めて高く、請求人の商標が希釈化され、請求人に精神的及び経済的な損失を与える旨主張しているのであるから、請求人が本件商標の登録の無効を求めることには理由があり、本件審判の請求をする利害関係を有することは明らかである。そして、請求人は、本件商標とプーマ社の商品に係る商標との関係についても主張しているが、商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」が無効審判の請求人の使用に係る商標でなければならないというようなことは、法律上の要件とはなっていない。してみれば、この点についても、請求人が本件審判請求について法律上の利害関係を有することを否定する理由にはなり得ない(例えば、東京高裁平成7年(行ケ)第270号判決参照)。
(1)引用各商標の著名性について
(ア)請求人の使用に係るアディダス引用商標(3本の線状矩形を基調とする商標)の著名性について
請求人の提出に係る証拠によれば、請求人は、スポーツ用品の製造、販売をするメーカーとして1920年に創設されたこと(甲第26号証)、請求人は、1948年のオリンピックロンドン大会より、自己の取扱いに係るスポーツシューズの左右側面に3本の線状矩形の入ったものを使用し始め(甲第31号証)、それ以来、3本の線状矩形の入ったスポーツシューズは、4年ごとのオリンピック開催時に、出場する様々な種目の選手に使用され続けてきたことが認められる。また、請求人の取扱いに係るスポーツシューズ、スポーツウエア等スポーツ用品は、サッカーワールド大会等の国際的競技大会等においても使用され、これら商品にも3本の線状矩形を基調としたマークが使用されており、日本サッカー協会においても1999年4月から3本の線状矩形を基調とするマークを使用した請求人の製造販売に係るユニフォームを日本代表チームユニフォームに採用していることが認められる(甲第26号証、甲第54号証ないし甲第67号証、甲第86号証)。
我が国においては、請求人の取扱いに係るポロシャツ、ティーシャツ、運動靴、サンダル、運動用特殊衣服、運動用特殊靴、ベルト、かばん類等の商品は、遅くとも1971年(昭和46年)頃から、請求人の日本における使用権者であったデサント株式会社を通じて販売されており(甲第27号証ないし甲第30号証、甲第32号証ないし甲第48号証)、1999年1月以降は、請求人の子会社であるアディダスジャパン株式会社によって営業活動が継続されていることが認められる(甲第49号証ないし甲第53号証、甲第83号証ないし甲第87号証)。
そして、請求人は、3本の線状矩形を基調とする商標とともに、3本の線の入った三つ葉の図形(甲第68号証ないし甲第号証82)と「adidas」の文字とを組み合わせた商標を表示して、商品カタログやスポーツ関連の雑誌等に継続して宣伝広告をしてきた事実が認められ(甲第27号証ないし甲第64号証、甲第83号証、甲第84号証、甲第87号証 等)、また、靴のサイドラインに3本の線状矩形を施した商標については、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、アルゼンチン、デンマーク、スペイン等々、世界の多くの国において商標登録されていることを認めることができる(甲第89号証ないし甲第92号証)。
(イ)プーマ社の使用に係るプーマ引用商標(プーマライン)の著名性について
請求人は、プーマ社の使用に係るプーマ引用商標の著名性についても述べている。請求人の提出に係る証拠によれば、プーマ社は、請求人の創始者の兄弟により1948年に設立されたスポーツ用品メーカーであり、「form strip」と称されている帯状曲線の商標(我が国においては「プーマライン」と称されている)を靴のサイドラインとして使用している(甲第98号証ないし甲第107号証、甲第115号証)。「プーマライン(form strip)」と称される帯状曲線は、1958年にスウェーデンで開催されたサッカーワールドカップにおいて、優勝したブラジル代表及び準優勝したスウェーデン代表の靴に用いられたことで世に出ることとなり(甲第98号証、甲第116号証)、その後、サッカーの神様と称されるようになったペレやアルゼンチン代表を努めたディエゴ・マラドーナ等、様々な国の選手によって「プーマライン(form strip)」が施された靴をはじめとした商品が使用されてきたことを認めることができる(甲第117号証及び甲第118号証)。そして、「プーマライン(form strip)」と称される帯状曲線の商標については、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、イタリア、デンマーク、スペイン等々、世界の多くの国において商標登録されていることを認めることができる(甲第141号証の1ないし25)。
(ウ)上記で認定した事実を総合すれば、請求人が使用する3本の線状矩形を基調とする商標(引用商標1ないし引用商標17)及びプーマ社が使用するプーマラインと称される商標(引用商標18ないし引用商標21)は、本件商標の登録出願前より、我が国において、スポーツ用品、特に、スポーツシューズをはじめとする靴の商標として取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認めることができる。そして、この点については、被請求人も取り立てて反論していない。
(2)本件商標と引用各商標との類否について
(ア)本件商標の構成
本件商標は、別掲に示したとおり、左方向にやゝ傾けた黒塗りの縦長の平行四辺形様図形(仔細にみれば、左端に位置するものがやゝ短く、右方向に向かって少しずつ長くなり、右端に位置するものが一番長い)を当該平行四辺形様図形の幅とほゞ同じ間隔をもって平行に3本配し、該図形の底部と同一線上のやゝ左方から、底部が幅広にして右上部に向かって緩やかにカーブしながら徐々に細くなる黒塗りの帯状曲線を該3本の平行四辺形様図形に重ね合わせるように描いた構成からなるものである。
(イ)引用各商標の構成
(a)引用商標1及び引用商標2の構成中の図形部分並びに引用商標15の構成中の靴の側面に描かれた図形部分は、別掲のとおり、仮想垂直線に対し、左方向にやゝ傾けた縦長の黒塗り台形様図形を、該図形の幅より狭い間隔をもって3本並べ、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした構成からなるものである。
(b)引用商標3ないし引用商標5の構成中の図形部分及び引用商標6及び引用商標7は、別掲のとおり、仮想垂直線に対し、左方向にやゝ傾けた黒塗り台形様図形を、該図形の幅の3分の1程度の間隔をもって3本並べ、そのうちの左端に位置するものを最も短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした構成からなるものである。
(c)引用商標8ないし引用商標10は、別掲のとおり、仮想垂直線に対し、左方向に僅かに傾けたやゝ幅広で、かつ、左右の縦線を鋸形にした縦長長方形様の輪郭図形を、該図形の幅とほぼ同じ程度の間隔をもって3本並べ、そのうちの左端に位置するものをやゝ短くし、右方向に向かって順次長くしていき、右端に位置するものを最も長くした構成からなるものである。
(d)引用商標11及び引用商標12並びに引用商標13及び引用商標14の構成中の図形部分は、別掲のとおり、仮想垂直線に対し、左方向にやゝ傾けた幅広で、かつ、左右の縦線を鋸形にした同じ長さからなる黒塗り縦長長方形様の図形を該図形の幅の3分の1程度の間隔をもって3本描いた構成からなるものである。
(e)引用商標16の上着の両袖及び引用商標17のズボンの両側面に描かれた図形部分は、別掲のとおり、黒塗りの長さが均等な細長の帯状の図形を当該帯状の図形の幅とほぼ同じ幅の間隔をもって3本並べた構成からなるものである。
(f)引用商標18及び引用商標19は、幅広の底部から右上部に向けてなだらかに円弧を描いて立ち上がり、右端部に向かって緩やかにカーブして徐々に細くなる帯状の輪郭図形からなるものであり、該輪郭図形の内部には、数本の点線が帯状曲線に沿うように描かれた構成からなるものである。
(g)引用商標20及び引用商標21は、幅広の底部から右上部に向けてなだらかに円弧を描いて立ち上がり、右端部に向かって真横に伸びて徐々に細くなる黒塗りの帯状曲線からなるものである。
(ウ)本件商標と引用各商標との比較
そこで、本件商標と引用各商標とを比較するに、本件商標構成中の3本の平行四辺形様図形部分と引用商標1ないし引用商標17の構成中の3本の図形部分とは、その構成要素が「3本」の図形からなるという点においては共通性があり、また、本件商標構成中の帯状図形部分と引用商標18ないし引用商標21の図形とは、幅広の底部から右上部に向かって緩やかにカーブして徐々に細くなる帯状曲線であるという点においては共通性があるということができる。
しかしながら、その「3本」の図形要素は、本件商標構成中の3本の図形部分が黒塗りの縦長の平行四辺形様図形であるのに対して、引用商標1ないし引用商標17の構成中の3本の図形部分は、細長の黒塗り台形様図形、鋸形にした縦長長方形の輪郭図形、鋸形にした黒塗り縦長長方形図形、あるいは、極めて長い帯状の図形であって、該構成要素のみを比較しても、その構成態様において明らかな差異があるものといわなければならない。
しかも、本件商標は、その構成態様を説明する必要上、「黒塗りの帯状曲線」と「黒塗りの3本の平行四辺形様図形」の2つの部位に分けて、引用各商標と比較しているが、その構成からみれば、これら2つの部位は不可分一体的に組み合わせられているものである。実際の取引においても、これに接する取引者・需要者が本件商標を2つの部位に分けて観察・把握するものとはいい難く、本件商標は、その構成全体をもって一体不可分の構成からなる商標を表したものと認識し把握されるとみるのが自然であって、「3本の黒塗り平行四辺形様図形」部分あるいは「黒塗りの帯状曲線」部分のみをそれぞれ分離抽出して取引に供されるとみるべき合理的な理由があるものとはいえない。
そうとすれば、本件商標と請求人の使用に係る3本の線状矩形を基調とする商標(引用商標1ないし引用商標17)及びプーマ社の使用に係るプーマラインと称される商標(引用商標18ないし引用商標21)とは、全体の構成態様において判然とした差異を有しており、この差異から受ける視覚的印象も明らかに異なるものであるから、これらを時と処を異にして離隔的に観察しても、外観において相紛れるおそれはないものといわなければならない。
また、請求人の使用に係る商標(引用商標1ないし引用商標17)が「3本線」と称され、プーマ社の使用に係る商標(引用商標18ないし引用商標21)が「プーマライン」と称されているとしても、本件商標は、複合的な幾何図形よりなるものであり、これより特定の称呼及び観念を生ずるものとは認められないから、本件商標と引用各商標とは、称呼及び観念については比較することができないものである。
(エ)以上のとおり、本件商標と引用各商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
(3)出所の混同について
(ア)前記(1)において認定したとおり、請求人の使用に係る3本の線状矩形を基調とする商標(引用商標1ないし引用商標17)及びプーマ社の使用に係るプーマラインと称される商標(引用商標18ないし引用商標21)は、本件商標の登録出願前より、我が国において、スポーツ用品、特に、スポーツシューズをはじめとする靴の商標として取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認められる。
(イ)しかしながら、前記(2)において認定したとおり、本件商標は、黒塗りの帯状曲線と黒塗りの3本の平行四辺形様図形とを不可分一体に組み合わせた点に特徴を有するものであって、請求人の使用に係る3本の線状矩形を基調とする商標及びプーマ社の使用に係るプーマラインと称される商標とは、全体の構成態様において判然と区別し得る差異があり、別異の商標というべきものであって、両者間に誤認、混同を生ずる要素は見出せない。
(ウ)また、請求人は、本件商標がその指定商品に使用された場合には、これに接する取引者・需要者は、請求人がプーマ社との業務提携・技術協力等により開発・提供する「コラボレーション商品」であるかの如くに誤信し、両者の業務に係る商品と出所の混同を生ずるおそれが極めて高い旨主張している。
しかしながら、前記したとおり、本件商標は、黒塗りの帯状曲線と3本の平行四辺形様図形とを不可分一体に組み合わせた点に特徴を有するものであって、3本の平行四辺形様図形部分から請求人の使用に係る3本の線状矩形を基調とする商標を連想・想起したり、帯状曲線部分からプーマ社の使用に係るプーマラインと称される商標を連想・想起させるものではなく、また、本件商標全体の構成から、請求人とプーマ社とのコラボレーション商品に係る商標であるかの如く、想定上の商標を連想又は想起することはないものというべきである。
そして、提出に係る証拠によるも、請求人がプーマ社との業務提携・技術協力等により、請求人の使用に係る3本の線状矩形を基調とする商標とプーマ社の使用に係るプーマラインと称される商標とを組み合わせた商標を用いて、コラボレーション商品の開発がなされているという事実も認められない。
(エ)してみれば、本件商標は、引用各商標とは別異の商標というべきものであるから、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者・需要者をして、引用各商標を連想又は想起させるものとは認められず、その商品が請求人あるいはプーマ社又は同人らと経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものといわなければならない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものということはできない。
請求人は、本件商標は請求人の著名な3本線商標の名声にフリーライドするものであり、3本線商標の出所表示機能を毀損し、希釈化するばかりでなく、請求人がプーマ社と業務提携等して開発・提供する商品であるかのような誤った認識・印象を取引者・需要者に与え、両社の商標の顧客吸引力にフリーライドするものであるから、社会一般の道徳観念・公正な取引秩序に反し、国際信義にも反するものであり、スポーツシューズ等を取り扱う被請求人による本件商標の出願は悪意によるものといわざるを得ない旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、そもそも、本件商標は、その指定商品に使用しても請求人の使用に係る3本の線状矩形を基調とする商標あるいはプーマ社の使用に係るプーマラインと称される商標を連想・想起させるものではなく、これら商標とは別異の商標というべきものであるから、これら商標の名声にフリーライドするものとはいえず、これら商標の出所表示機能を毀損し、希釈化するおそれはないものといわなければならない。
しかも、被請求人の提出に係る乙第144号証(東京地方裁判所 昭和62年(ワ)第14504号事件における平成5年4月8日付和解調書)によれば、いわゆる3本線商標について、「(1)原告〔審決注:本件審判における請求人のこと〕は、本件標章〔審決注:いわゆる3本線商標のこと〕またはこれに類似する標章が被告ら〔審決注:本件審判における被請求人らのこと〕により主として競技用シューズ以外の靴について、別紙1及び2記載の標章の原告出願〔審決注:請求人による3本の線状矩形を基調とする商標に係る商標登録出願のこと〕前より広く使用されてきた事実を尊重し、被告らが本件標章及びこれに類似する標章を別紙4記載の靴〔審決注:各種競技用シューズのこと〕以外の靴について使用することに何らの異議を述べない。(2)前項の使用の態様には、靴の甲被側面に見やすく表示するもの、特に靴のサイドラインとしての使用を含む。」との和解が成立している。
そうとすれば、いわゆる3本線商標そのものについても競技用シューズ以外の靴については、両者間に併存が認められているのであるから、構成中に、3本の線状矩形を含んでいるとはいえ、全体の構成からみれば、請求人の使用に係る3本の線状矩形を基調とする商標(アディダス引用商標)とは別異の商標といえる本件商標については、競技用シューズを含むその指定商品について、請求人の使用に係る商標の制約を受けることはないものというべきである。
加えて、被請求人の提出に係る乙第64号証(被請求人のカタログ/月星靴’74秋−冬新製品特集)や乙第121号証(被請求人のカタログ/月星学生靴のご案内 昭和49年9月1日発行)によれば、被請求人は、既に昭和49年には、本件商標ないしは本件商標に極めて近い態様からなる商標をサイドラインに採用した靴をカタログに掲載しており、それ以降も、2008年(平成20年)12月発行の新製品カタログに至るまで、同様の商品が継続して掲載されていることが認められる(乙第65号証ないし乙第118号証、乙第122号証ないし乙第143号証)。
そうとすれば、被請求人は、該和解が成立するはるか以前から、本件商標ないしは本件商標に極めて近い態様からなる商標を継続して使用してきているのであり、該裁判上の和解は、両当事者間における商標の使用の実情を踏まえて成立しているものといえるから、本件商標の出願にあたって、被請求人において、引用各商標にただ乗りないしは引用各商標の希釈化を意図し、あるいは不当な利益を得ようとする等の悪意があったものとは認められない。
してみれば、被請求人が本件商標を登録出願し商標権を取得した行為が社会一般の道徳観念や公正な取引秩序に反し、あるいは国際信義に反する等、著しく社会的妥当性を欠き、その登録を容認することが商標法の目的に反するものとはいえない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものということはできない。
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同第15号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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