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Trademark Appeal Case

周知工法名の商標登録

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2010−890010(T2010−890010/J3)
審判種別無効
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5205234号商標(以下「本件商標」という。)は、平成20年2月26日に登録出願、「N−S.P.C.ウォール工法」の文字を横書きしてなり、同21年1月8日に登録査定、第37類「建設工事,建設工事に関する助言」を指定役務として、同21年2月20日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張

請求人は、本件商標の登録は無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第5号証(枝番を含む。)を提出した。

1 商標法第4条第1項第7号について

(1)S.P.C.ウォール工法

「S.P.C.ウォール工法」とは、自立させた擁壁パネルの山側に気泡混合軽量材を充填する工事に名付けた名称である(甲第3号証の1の第3葉)。そして、その工法は、少なくとも平成11年2月から同15年9月までの60件の施工実績をもった独特の工法(甲第3号証の2)であり、急傾斜の斜面に対応できる工法として継続して実績を積んでいる。

(2)解説書の出版

この工法は、平成11年以来、多数の実績がありながら、同16年までは、設計や施工のための指針が未整備であった。

そこで3名の大学教授の監修のもとに、17人の教授と施工経験者を編集委員として「S.P.C.ウォール工法編集委員会」が組織された。被請求人の代表者である山田は、この解説書を編集した「S.P.C.ウォール工法編集委員長」であった(甲第3号証の1の第5葉)。この委員会によって編集された、「S.P.C.ウォール工法」の普及を目指した設計、施工の手引きとする解説書である「S.P.C.ウォール工法」が平成16年4月に発行され、同18年3月には、2刷も発行された(甲第3号証の2の第6葉)。全ページで300ページを超え、定価が3,500円という分厚い、比較的高価な書籍であるが、「S.P.C.ウォール工法」の解説書には、それだけの需要があったということである。被請求人の代表者は、当時委員長であったから、当然に「S.P.C.ウォール工法」の実績や工法の特徴、利益の実際などを知悉していた。

(3)研究会の発足

この「S.P.C.ウォール工法」の普及のために、上記の解説書の出版された平成16年4月以前の、少なくとも同11年には、すでに「S.P.C.工法研究会」も発足していた(甲第4号証の1ないし6)。甲第4号証の1は、平成12年4月13日に開催された同12年度(第1回)の「S.P.C.工法研究会」の記録であり、そこには、「第1号議案」として「平成11年度研究会事業・収支決算報告」の記載があるから、少なくとも甲第4号証の1の前年には、「S.P.C.工法研究会」が発足していたことが明らかである。その甲第4号証の1の第8ページの「会員名簿・新会員紹介」を見ると、「No.8」に請求人が、「No.12」に被請求人が会員として名を連ねており、請求人と被請求人は、相互に信頼関係を有する同一組織の組織員であったことが分かる。

さらに、同じ甲第4号証の1には「第3号議案」として「現在、研究会会員各位と当社は、『S.P.C.工法』の通常実施権契約書を締結しておりますが・・・」として、工法の名称である「S.P.C.ウォール工法」が記載してある。このように被請求人も「S.P.C.ウォール工法」に関して、請求人とともにその工法の普及と受注に一体的に行動していた。

なお、「SPC工法研究会」の活動状況は、以下のとおりである。

平成12年度(第1回)「S.P.C.工法研究会」

平成12年度(第2回)熊本「S.P.C工法研究会」総会

平成12年度(第3回)熊本「S.P.C工法研究会」総会

平成19年度S.P.C.工法研究会島根県支部・臨時総会

平成20年度S.P.C.工法研究会島根県支部・定期総会

平成21年度S.P.C.工法研究会島根県支部・定期総会

(4)被請求人の離脱

「S.P.C.ウォール工法」の設計、施工指針の解説書の編集委員長まで務めた被請求人は、平成18年10月頃には、「S.P.C.工法研究会」を自ら離れていった(甲第5号証の1ないし3)。

そして、被請求人は、「S.P.C.ウォール工法」とは別の工法を開発し、「S.P.C.工法研究会」の組織から離脱し独立した。

(5)離脱後に商標の登録

被請求人は、それまで代表者である山田が編集委員会の委員長などとして深く関わり、被請求人の会員であった「S.P.C.工法研究会」から離脱しただけではなく、平成20年には、本件商標を出願して同21年に登録を得た。

(6)被請求人からの警告

被請求人は、本件商標の登録を得るや、その商標を理由として平成21年11月2日、請求人あてに内容証明「警告書」(甲第2号証の1)を発送してきた。被請求人の離脱の際には、味岡建設株式会社に送付した書状(甲第5号証の1)には、「今後フリー工業(株)と取り交わさず、・・・別々に行うことになりました・・・」と記載し、タチバナ工業株式会社に送付した書状(甲第5号証の3)で「フリー工業(株)様とは今後別途に行う事で合意しています。」と述べていたその相手に対してである。その警告書においては、「当社の登録商標に類似する『S.P.C.ウォール工法』の使用を直ちに中止されるよう強く要求するものです。」とし、「商標権者は商標権侵害者に対しては差止請求、損害賠償請求などの法的措置を取ることができます。」と通知をしてきた。

すなわち、被請求人は、自らがかつて編集委員長としてかかわり、被請求人自身も会員であり、かつ多数の実績を積み重ねていることを知っている「S.P.C.ウォール工法」の工法の名称と、本件商標とが類似すると認識していながら、その組織から離脱するや、背景を隠して本件商標を出願し登録を受け、それを理由にかつての同―研究会の会員であった請求人を訴えるという手段に出たのである。

こうした被請求人からの今回の警告の事情は、長年工法としての「S.P.C.ウォール工法」とその名称としての「S.P.C.ウォール工法」を採用している「S.P.C.工法研究会」の他の建設会社も知るところであり、会員に不安が広がっていて、請求人には、電話による問い合わせが頻繁に入っている。本件無効審判は、それらの会員の動揺をしずめるためにも請求する必要があったのである。

(7)公序良俗を害するおそれ

多数の実績のある「S.P.C.ウォール工法」の組織である「S.P.C.工法研究会」から離れて、被請求人が自ら開発したと称する新たな技術によって新たな組織を作って活動することは自由である。そして新たな組織のために新たな商標を選択してそれを登録することも自由である。しかしながら、組織を離脱した後になって、離脱前の組織が採用している工法の名称と「類似する」ことを自ら認識していながら、その類似する商標を出願し、それが登録になるや、離脱前の組織の組織員に、工法の名称の使用の差し止めや損害賠償の請求をする行為は、著しく社会の正義に反する行為であって、到底許されるものではない。

(8)特段の事情

一部の判決では、第7号に規定する「公序良俗を害するおそれ」は、私企業間の商標の帰属をめぐる私的な紛争にまで拡大することは、「特段の事情」がないかぎり許されるべきではないとも考えられている。

しかし、今回の被請求人による商標の利用は、次のような「特段の事情」がある事案であって、7号に該当するものというべきである。その理由は、以下のとおりである。

ア 請求人は、「S.P.C.ウォール工法」の出願を計画して先登録商標の調査を行った。その結果、登録商標第3252907号(平成9年1月登録)「黒円の内部に白抜きのSPC」の存在を発見した。この登録商標と、請求人らが使用している「S.P.C.ウォール工法」が類似する否か、議論の分かれるところであったが、研究会の会員の間では、建設業界の低迷している際に、あえて拒絶の可能性の高い商標への出費を控えようという意識が強く、出願をとどまったという経過があった。

その背景には長年、多数の公共工事に採用されている周知の名称の使用が阻止されるはずがないという安心感もあった。侵害の問題についても、その細部の検討費用やロイヤリティの発生などに新たな費用の発生の可能性があるので、先送りにして今日に至っている。

このように、請求人は、「S.P.C.ウォール工法」の商標の出願を手を拱いて怠っていたものでは、決してない。その隙間をついて、自ら「S.P.C.ウォール工法」と「類似」すると称する商標を出願したのが、被請求人の本件商標であった。

イ 次の「特段の事情」は、「S.P.C.ウォール工法」の名称の公益性という点である。

本件の無効審判の請求のきっかけになったのは、被請求人から請求人への商標使用差し止めの警告であり、この段階では、「私企業間の商標の帰属の争い」ということもできる。

しかし、背景で説明したように、「S.P.C.ウォール工法」には、多数の実績がある(甲第3号証の2)。この実績からわかるとおり、「S.P.C.ウォール工法」という工法名は、その名称に基づいて工事を発注している、熊本県、建設省、長崎県、国土交通省、沖縄県、静岡市役所・・・といった、国、都道府県、市町村において使用されている名称である。そして、この工法名で受注して工事を行う多くの建設会社、この工法名で資材を製造して納入している部材メーカーなど、この「S.P.C.ウォール工法」という工法名を使用する関係者は、膨大な数に及ぶものである。

したがって、もし今回の請求人への警告とおりに、被請求人によって「S.P.C.ウォール工法」の名称の使用が差し止められるとすると、その影響は、極めて広い範囲に及ぶものである。したがって、本件審判請求は、単なる「私企業間の商標の帰属の争い」という範囲をはるかに超えた公益的問題であるということができる。

ウ さらに、特段の事情としては、被請求人による「警告」の事実である。

前記したように、被請求人が独自の工法を新たに開発し、既存の組織から離脱独立して、独自の商標を採択し、その名称を登録して自ら使用することは、自由である。しかし、商標が登録になるや、商標が取得されていないのを奇禍として、自らがかつて属していた組織の構成員に、「S.P.C.ウォール工法」を、被請求人の商標と「類似する」として、その使用の差し止めは、すべきものではない。

請求人を含めて発注官庁や、建設会社、建設資材のメーカーらとすると、少なくとも平成11年以来、平穏安定した状態で使用を継続してきた「S.P.C.ウォール工法」の名称をいきなり差止められるわけであって、被請求人の本件商標の登録は、到底容認することのできない行為である。

(9)結論

以上のように「S.P.C.ウォール工法」の名称は、その工法を採用する官庁、建設業者、資材の製造メーカーなどが自由に使用することができた、いわば公有ともいうべき状態であった。その状態を知悉していた被請求人が、「S.P.C.ウォール工法」の名称と「類似する」と自認する本件商標の出願をして登録を受け、長年の実績のある請求人らの商標の使用の差し止めを要求するような行為は、社会通念に照らしてその出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものであり、社会の利益、すなわち公益を害するというべきである。

このように本件商標の登録の経緯は、商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないものであるから、商標の構成自体に公序良俗違反のない商標であっても、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当して無効とされるべきものである。

2 商標法第4条第1項第10号について

(1)「S.P.C.ウォール工法」の周知性

「S.P.C.ウォール工法工事実績一覧表」(甲第3号証の2)に示すように、「S.P.C.ウォール工法」と称する施工方法は、少なくとも平成11年2月から同15年9月までの間に60件の公共工事として採用された工法であった。

この工法は、個人住宅の工事にひっそりと採用されるような工法ではなく、甲第3号証の2の「工事件名」に示すように、国道、県道、村道に沿った法面の崩壊を防止したり、崩壊後の改修を行う工事であるから、公共の場において広く採用される名称である。

このように、「S.P.C.ウォール工法」という名称は、広く知られる機会の多い役務に使用される名称であった。

具体的に言えば、この工法によって行われ工事の完成に至るまでには、発注する官庁、設計するコンサタント、工事を受注する工事会社、競争入札に参加した同業者、資材を製造する建材メーカーが、その名称「S.P.C.ウォール工法」を使用して業務を行っていたのである。

このように「S.P.C.ウォール工法」は、特定の工法、特定の組織の役務を表示するものとして、発注者である公共団体、コンサルタント、工事を請け負う、大手あるいは地方の中堅、中小の工事会社、建設資材メーカーの間に広く知られていた役務の名称であった。

(2)本件商標との類似性

建設の工法である役務を表す名称として広く知られた「S.P.C.ウォール工法」と、本件商標とは、称呼、外観とも完全に同一とはいえない。

しかし、両者が類似するものであることは、請求人の判断ではなく、被請求人が警告書の中で自ら自認している事実である。

すなわち平成21年11月2日付けの警告書(甲第2号証の1)では、「『S.P.C.ウォール工法』は、当社が所有する登録商標に類似するものであり」、「いずれにしても『N―』の個所は、商標としての識別性に乏しく、商標の要部は『S.P.C.ウォール工法』の部分にあることになります。さすれば、貴社が使用されている『S.P.C.ウォール工法』の商標は、当社の登録商標に類似していることは明らかであり、役務においても建設工事に含まれる土木工事において同一の役務の提供であります。」と主張している。

さらに、平成22年1月21日付け「再警告書」(甲第2号証の3)においても、「当社は・・・登録第5205234号商標『N―S.P.C.ウォール工法』の商標権を有しており、貴社が使用している『S.P.C.ウォール工法』は、当社の商標権に抵触していることは明らかであり」と主張している。

被請求人は、その出願の際にすでに多数の工事実績があって周知であった「S.P.C.ウォール工法」と本件商標とが類似していることを自認していたのであった。

(3)周知商標と類似する商標

そうであれば、出願の際にはすでに周知であった「S.P.C.ウォール工法」と類似すると自認する本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当して、無効とされるべきものである。

3 商標法第4条第1項第19号について

上記したように、被請求人は、かつて請求人と同様に「S.P.C.ウォール工法研究会」の会員であった。さらに、被請求人の代表者である山田は、「S.P.C.ウォール工法」の設計、施工の指針を編集し、発行する委員会の委員長でもあった。したがって、そうすると、そのような状況下であるにもかかわらず被請求人において、請求人を含めて多くの官庁、企業が使用していた工法の名称と「類似する」と自認する本件商標をあえて採用し、登録出願してその登録を受け、その後に請求人の工法名である「S.P.C.ウォール工法」の使用の中止を求めたことは、建設業界において広く認識されている請求人らの工法名の名声に便乗して不正の利益を得る目的、あるいは他人に損害を加える目的を持ってしたものであることが明らかである。

したがって、本件商標は、商標法4条1項19号に違反して登録されたものである。

第3 被請求人の答弁

被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第14号証(枝番を含む。)を提出した。

答弁の理由

1 本件商標が採択されるまでの経緯について

(1)平成11年3月より落石覆工に使用する「軽量盛土工法」として「S.P.Cウォール工法」が開発され、その工法研究会として「熊本S.P.C工法研究会」が発足した。

「S.P.Cウォール工法」に使用する「擁壁用パネル」(S.P.C版)の開発は、基礎地盤コンサルタンツ株式会社熊本支店長の福田と山田(本件商標の権利者代表)の両名で企画立案をし、基本的事項については、福田が担当し、構造と意匠に関しては、山田が当初から考案開発した(乙第1号証)。

平成11年9月には、熊本エス・ピー・シー株式会社が設立され、国上交通省技術事務所に「NETIS」登録をした。「NETIS(ネティス)」とは、国土交通省が、新技術の活用のため、新技術に関わる情報の共有及び提供を目的として整備した新技術情報システム(New Technology Information System:NETIS)のことであり、新技術は、インターネットで一般に公開されている。

平成16年9月3日には、九州各県でそれぞれ独自に活動していた研究会を「日本S.P.C工法研究会九州本部」として設立したが、請求人及び被請求人も正会員であった(乙第2号証)。

確かに、請求人と被請求人とは、「S.P.Cウォール工法」の研究会発足当初から、専用実施権契約書を締結して、各地区の工事に協力してきた(乙第3号証の1ないし2)。

(2)しかし、平成17年4月1日、「日本S.P.C工法研究会九州本部」は、「N―S.P.C.工法構造研究会」に名称を変更し新たな研究会として発足した。

その理由の一つは、平成16年1月1日付けで、基礎地盤コンサルタンツ株式会社、山田及び請求人の三者間で、請求人へ専用実施権を与える旨の「専用実施権契約書」を締結したが(乙第4号証)、実施権の基礎となっていた特許出願がすべて拒絶されたので、特許関連の整理を早急に行う必要があった。また、平成13年から同17年にかけて、「S.P.Cウォール工法」によるパネル版の転倒事故などが起きたため、パネル版の構造の見直しと版の変更及び載荷実験の開始が迫られていたからであった。

すなわち、「S.P.Cウォール工法」による工事は、各地域で数多く施工されたが、平成13年からこの工法に関し、各地区において事故が発生した。例えば、国土交通省九州地方整備局管内や四国地方整備局管内のパネル版の転倒事故やエアーモルタルの強度不足などによる事故であった。事故の原因は、いずれも施工時の問題であり、「S.P.Cウォール工法(理工図書)」(甲第3号証の1)や「施工マニュアル」を熟知していなかったため発生した事故であった。

事故の発生を受けて、国土交通省九州地方整備局内に委員会を設立して事故原因の追究と対応策、改善策などについて協議を行い方針を決定した(乙第5号証)。

このような事故は、施工業者である請求人が管理する研究会員の工事によって、倒壊事故や異物混入によるクレームが発生したのであるが、請求人は、事故処理を怠ったため、被請求人を始めとする研究会員、管轄する国土交通省九州地方整備局管内あるいは国土交通省四国地方整備局管内の工事事務所に対して時間と費用を費やして処理しなければならなかったという経緯がある。

また、「N―S.P.C.工法構造研究会」は、請求人あてに平成19年10月18日付けで「平成19年8月6日の関東地方整備局湯西川ダム工事事務所に対するクレーム処理について」とする書面を送付しており、被請求人のクレーム処理が5回目となり、多大な時間と費用をかけて対応したことを伝えたが、請求人からの協力は、全くなかった。

このクレーム処理に関して、施工業者であるライト工業株式会社と請求人は、湯西川ダム工事事務所から出入り禁止を通達されたとのことであった(乙第6号証)。

このように、請求人が関わった工事による事故によって、「S.P.Cウォール工法」に対する信頼が揺らいだのは否めず、信用回復のための対策を取ることが喫緊の問題であった。

(3)新しく発足した「N―S.P.C.工法構造研究会」では、新しい工法を「N―S.P.C.ウォール工法」に変更して、工法に使用する「擁壁用パネル」を「N―S.P.C.ウォール版」として工事を開始した。

すなわち、熊本県阿蘇地域振興局の発注に係る「国道442号道路改築(黒川3号橋下部工)工事」が平成16年11月ないし同17年3月末まで行われたが、すでに、「N―S.P.C.ウォール工法」の名称によって工事が行われた(乙第7号証)。

工事に先立って、平成16年1月15日及び同年2月13日に載荷試験である「SPCウォール実物大強度試験」が行われたが、この試験の報告書には、試験の目的として、「当実物大試験は、S.P.Cウォール工法の設計時点及び現地施工による問題点を改善し、S.P.C版の軽量化と作業時における転倒防止を目的として、新しいプレキャスト版を開発した。」と説明し、「N―S.P.C.ウォール版」と称すると新しいウォール版を公にした(乙第8号証)。

その後、被請求人は、平成16年7月16日に、「N―S.P.C.工法構造研究会」による「新NETIS」登録手続を開始したのであり(乙第9号証)、被請求人は、当該研究会の事務局を担当している。

(4)上記のとおり、新たに開発したプレキャスト版である「N―S.P.C.ウォール版」を使用した工法である「N―S.P.C.ウォール工法」は、すでに平成16年から使用していたのである。

平成19年9月28日開催の「N―S.P.C.工法構造研究会」の「平成19年度第3回総会」において、「当研究会は、下記2つの工法を統合して、1つの研究会として発足させました。また、統合により日本S.P.C工法研究会を廃止し、『N―S.P.C.工法構造研究会』と名称変更し、新しい研究会として再出発を行います。」と明記している(乙第10号証)。

平成19年9月28日付けの報告書(乙第5号証)は、国土交通省九州交通整備局九州事務所あての控で、旧NETIS登録を廃止し、新NETIS登録をしたこと、同13年度から各地区において発生したS.P.Cウォール工法による事故の原因を検証し、その後の対応策・改善策によって決定した事項を報告し、かつ、「日本S.P.C工法研究会」を「N―S.P.C工法構造研究会」に変更したことを報告しているのである。

平成19年10月4日には、被請求人は、「N―S.P.C.工法構造研究会」の事務局として、請求人あて、「日本S.P.C工法研究会」を廃止して新しい研究会としたこと、及び、国土交通省九州技術事務所に新NETIS登録をした旨の通知をし、かつ、旧日本S.P.C工法研究会のNETIS登録は、廃棄したため存在していないことも通知している(乙第11号証)。

平成19年10月29日には、「N―S.P.C.工法構造研究会」は、会員各位あて、倒壊事故に使用されたSPC版の制作中止を通知し(乙第12号証)、同年12月19日には、被請求人から会員各位あて、研究会の名称変更を行い、それに伴いNETIS登録番号が変わり、かつ、工法名も「N―S.P.C.ウォール工法」に変更した旨を改めて通知している(乙第13号証)。

しかし、請求人は、新たに発足した「N―S.P.C.工法構造研究会」には、正式に加入せず、上記総会では、廃止したとされた「日本S.P.C工法研究会」の会長と称しているのである。

2 請求人の主張に対する反論

(1)商標法第4条第1項第7号について

ア 商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができない旨の規定である。

近時、この商標法第4条第1項第7号の適用範囲については、知的財産高等裁判所の判決で示されている(平成19年(行ケ)10391号事件)。

その1は、「商標の構成に着目した公序良俗違反」であり、商標それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反するような場合、すなわち、商標を構成する文字自体が非道徳的、卑猥、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなもの、あるいは、他の法律などによってその使用が禁止されているものは、登録されるべきではないとされるものである。

しかし、本件商標の文字構成が、上記のようなものではないことは明らかであり、公序良俗に反しているものではない。

その2は、「主体に着目した公序良俗違反」とされるもので、外国等での著名商標を関係のない第三者が無断で商標登録をしたような場合、自由に使用することができる文字などを特定の者が商標登録したような場合など、社会通念に照らして著しく妥当性を欠き、国家・社会の利益、すなわち公益を害すると評価し得る場合などである。

しかし、このような理由については、特段の理由がない限り、商標登録の要件を定めている商標法第4条第1項の他の条項によって判断されるべきであるとされている。

すなわち、請求人も述べているように、「公序良俗を害するおそれ」の規定は、私企業間の商標の帰属をめぐる私的な紛争に拡大することは妥当ではないとされている。

請求人は、そのような要件を承知していながら、本件商標の登録は、「特段の事情」がある事案であって、7号に該当するというべきであると主張しているが、決してそのようなものではない。

イ 被請求人代表者は「S.P.Cウォール工法」の開発に関わったこと、及び、請求人と被請求人は、研究会発足当時から研究会会員として協力して工事を行ってきたことは、説明したとおりである。

しかし、すでに説明をしたとおり、平成13年から請求人が管理するグループの研究会会員による工事によって、パネル版の転倒事故やエアーモルタルの強度不足による事故が発生するに至り、「S.P.Cウォール工法」に対する信用が揺らぐ結果となった。

被請求人を始め、研究会では事故の原因究明と事故対応に迫られ、検証の結果、「S.P.Cウォール工法」で使用していたパネル版の改良に取り組み、載荷試験を行い、その結果、改良したパネル版によって、公共工事を行っているのである(乙第6号証)。

請求人は、「その後の建設業界は不況の一途をたどっているが、『S.P.Cウォール工法』は、急傾斜の斜面に対応できる工法として継続して実績を積んでいる。」と主張しているが、研究会としては、「S.P.Cウォール工法」の事故を踏まえ、平成16年から「S.P.Cウォール工法」に代えて、改良したパネル版を使用した「N―S.P.C.ウォール工法」による工事を行っていたのであり、「S.P.Cウォール工法」が継続して実績を積んでいるという事実はない。

ウ 請求人が甲第3号証として提出した解説書「S.P.Cウォール工法」の解説書は、被請求人も当然承知している。しかし、このような専門書は、限られた専門家によって利用されるのであり、広く利用され、かつ、広く知られるものではない。請求人の管理下にあるグループによる工事で発生した事故については、この解説書が熟知されていなかったためであると考えられ、現在、内容の見直しを行っているところである。

エ 請求人は、「研究会の発足」について説明しているが、被請求人が説明したとおり、平成11年3月に「S.P.Cウォール工法」が開発され、まず、「熊本S.P.C工法研究会」が発足し、九州各県で活動を始めた。

平成16年9月3日には、九州各県が独自に活動していた研究会を「日本S.P.C工法研究会九州本部」として設立したが、その当時は、請求人及び被請求人ともに会員として協力体制にあった。

オ 請求人は、被請求人が「S.P.C.工法研究会」を自ら離れていった、あるいは離脱、独立したと主張しているが、被請求人からすれば全く反対の状況である。

被請求人は、「S.P.Cウォール工法」開発を手掛け、工法の普及に努め、多くの工事を行ってきたが、請求人の管理下にある工事により事故が発生したため、被請求人を始め研究会員は、事故原因の究明と対策に迫られたこと、改良したパネル版の載荷強度試験を行い、改良版で工事を行ったこと、「日本S.P.C工法研究会」は、廃止して、新たに「N―S.P.C.ウォール工法」の研究会として、「N―S.P.C.工法構造研究会」に名称変更をしたことは、詳細に述べた。

しかし、請求人は、「N―S.P.C.工法構造研究会」には加入せず、「日本S.P.C工法研究会」は、廃止したとの決定を無視して、「S.P.C工法研究会」として工事をしているのであり、請求人の研究会は、本流では決してない。

そのような状況がわかったので、これまで協力体制にあった請求人との関係について、「フリー工業(株)とは別途に」、「フリー工業(株)との専用実施権は破棄し、別々に行う」ことになったことなど、関係者に通知する必要があったのである。

カ 本件商標は、新たな工法として「N―S.P.C.ウォール工法」が定着して、新NETIS登録も完了したので、「N―S.P.C.工法構造研究会」の総意を受けて、事務局として活動している被請求人の名義により商標登録を受けたものである。

また、請求人は、被請求人が差し出した「警告書」に対して云々しているが、本件商標と請求人が使用する「S.P.Cウォール工法」の名称は、類似していることが明らかであることのほかに、研究会では、各地区での事故の発生を踏まえ、工法名及び研究会名を変更したこと、旧NETIS登録番号は廃止し、新NETIS登録番号を得たことなど通知していたにも関わらず、請求人は、自社の「S.P.Cウォール工法」のホームページに、廃止した旧NETIS登録番号と「N―S.P.C.ウォール工法」の新NETIS登録番号を勝手に掲載して紛らわしい行為を継続していたからにほかならない(乙第14号証)。しかし、現在のホームページからは、両方のNETIS登録番号は、削除されており、請求人は、不実記載を認めたものといえる。

キ 請求人は、「特段の事情」としてまず、「S.P.C.ウォール工法」の出願を計画し、先登録商標の調査を行い、その結果、出願をとどまったと主張しているが、あくまで、私的な理由にしかすぎない。

また、「S.P.C.ウォール工法」の名称の公益性を主張しているが、被請求人は、重ねて主張するが、請求人の管理下にある工事により発生した各種事故により、「S.P.Cウォール工法」に対する信用が失墜したといっても過言ではなく、改良した工法に名称を変更し、かつ、新たに研究会を発足したことは、業界でも広く知られていたのである。

請求人は、「S.P.Cウォール工法」の実績から、国、都道府県、市町村において使用されているとするが、国などが自由に使用するものではない。公共事業として発注された工事としては、パネル版の強度試験の結果報告書、詳細な図面、工法の説明書など各種の書類を提出して採用されて始めて工法名が表示されるのであり、国や地方公共機関などが自由に使用するものではない。

請求人は、公序良俗に該当する理由として、工法を採用する官庁、建設業者、資材の製造メーカーなどが自由に使用することができることを引き合いに出しているが、請求人が主張する理由はすべて、私企業間の問題としてとらえるべきである。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。

(2)商標法第4条第1項第10条について

ア 請求人は、「S.P.C.ウォール工法」の周知性を主張し、これまで、広く工法として採用され、今日まで、何も問題なく工事を継続してきたかのような主張であるが、事実に反する。

被請求人がこれまで、重ねて説明しているように、平成13年から発生した事故によって、工法への信頼が揺らぎ、被請求人は、事故の対応や事故原因の究明に終われ、その結果、各種の事故を踏まえて、新工法により同16年から工事を行っているのである。

したがって、「S.P.Cウォール工法」の普及を図るという当初のもくろみははずれ、新たに「N―S.P.C.ウォール工法」を広く知らしめているのであり、「S.P.Cウォール工法」の名称を廃止したことは、関係者へは通知しているのであり、周知性を獲得したとはいえない。

イ 請求人は、本件商標は、周知商標である「S.P.Cウォール工法」に類似するため、商標法第4条第1項第10号に該当すると主張するが、「S.P.Cウォール工法」の名称が周知性を獲得している事実はない。

それ故、本件商標と請求人が使用する「S.P.Cウォール工法」の名称が類似することは、請求人も認めるところであるが「S.P.Cウォール工法」の名称が周知性を獲得していない以上、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するとされる理由はない。

(3)商標法第4条第1項第19号について

商標法第4条第1項第19号は、いわゆる他人の周知・著名商標と類似する商標であって、不正の目的をもって使用をする商標は、登録を受けることはできないとするものである。しかし、「S.P.Cウォール工法」は、当初、工事を多数行った実績はあるが、周知性を獲得するまでには、到底至っていない。「S.P.Cウォール工法」は、開発当初から、今日まで順調に工事が行われてきたのでは決してなく、請求人が関わった工事による事故の発生を受けて、改良した工法である「N―S.P.C.ウォール工法」に変更したのであり、「N―S.P.C.ウォール工法構造研究会」会員の総意により、事務局を担当している被請求人が本件商標の登録を受けたのであり、出願自体に何ら問題はない。

しかるに、「N―S.P.C.ウォール工法構造研究会」からは、請求人へ、新しい研究会についての通知を行ったにもかかわらず、新たに加人することなく、従前の工法名を用いて工事を行っており、請求人の行為こそ、かえって、建設・土木業界のみならず、国土交通省九州地方整備局などの公的機関など関連の各取引者をして誤認混同を生じせしめる行為を行っているのである。

よって、被請求人は、不正の目的で使用する商標について、本件商標の出願をしたものではない。

(4)結論

本件商標は、「S.P.Cウォール工法」を廃止して、新たに設立した「N―S.P.C.ウォール工法」の周知発展のために名称を保護する必要があるとの考えから、「N―S.P.C.ウォール工法構造研究会」の総意により、事務局として活動している被請求人が本件商標の登録を得たものである。

したがって、商標法第4条第1項第7号の公序良俗の規定に違反しているものではなく、同第10号の規定に該当するものではなく、さらに、同第19号に規定する不正の目的をもって商標登録を受けたものではなく、商標法第46条第1項第1号に該当するとして登録が無効とされる理由はない。

第4 当審の判断

1 「S.P.C.ウォール工法」及び「日本S.P.C.工法研究会」について

(なお、当事者の主張及び各証左においては、「S.P.C.」、「S.P.C」、「S・P・C」及び「SPC」等の様に、様々な表記がされているが、工法名に類する表記の場合は、以下、「S.P.C.」とする。)

「S.P.C.ウォール工法」とは、「スロープバンケット・プレキャストコンクリート・ウォール工法」の略称であり、工場製作によるプレキャストコンクリート版をPC鋼棒により順次積み上げて、気泡混合軽量材の自立型枠を形成する落石覆工・道路構築の土木工法の一種である(甲第3号証の1)。

平成11年3月より落石覆工に使用する「軽量盛土工法」として「S.P.C.ウォール工法」が開発され、その工法研究会として「熊本S.P.C工法研究会」が発足した。

「S.P.C.ウォール工法」に使用する「S.P.C版」の開発は、基礎地盤コンサルタンツ株式会社熊本支店長の福田と山田(本件商標の権利者代表)の両名で企画立案をし、基本的事項については、福田が担当し、構造と意匠に関しては、山田が考案開発した(乙第1号証)。

当該工事は、平成11年2月以降、同15年9月までの間、60件にわたり施行された(甲第3号証の2)。

「日本S.P.C.工法研究会」は、「SPC工法シリーズ(「S.P.C.ウォール工法、S.P.C.フレーム工法及びS.P.C.橋梁工法)」の公共事業採択の拡大、研究会の開催及び基礎実験の計画・実行等を事業にし、平成11年11月頃に設立(平成12年4月13日に「平成12年度(第1回)SPC工法研究会」の総会が開催日され、「別紙−1.第1号議案補足説明表」中の「2.事務用品等明細」には、発生日の最初の欄に「11月4日」とあることより推認される。)された(甲第4号証の1)。

平成11年9月には、熊本エス・ピー・シー株式会社が設立され、当該工法は、国上交通省技術事務所に「NETIS」登録をされ(乙第2号証)、請求人と被請求人とは、「S.P.C.ウォール工法」の研究会発足当初から、専用実施権契約書を締結して、各地区の工事に協力してきた(乙第3号証の1ないし2)。

平成16年9月3日には、九州各県でそれぞれ独自に活動していた研究会を「日本S.P.C工法研究会九州本部」として設立し、請求人及び被請求人は正会員である(乙第2号証)。

平成16(2004)年2月29日に「日本S.P.C.工法研究会」は、「S.P.C.ウォール工法」に関する解説書を編集・完成し、これを理工図書株式会社より、同年4月15日に発行させた(甲第3号証の1)。

そして、当会は、SPC工法についての公共事業採択の拡大、研究会の開催、基礎実験の計画・実行、工法及び実証実験結果等の報道機関への刊行を事業内容として、少なくとも平成12年4月13日以降活動し、その当初から請求人と被請求人は、会員であった(甲第4号証の1)。

2 本件商標「N―S.P.C.ウォール工法」及び「N―S.P.C.工法構造研究会」について

平成17年4月1日に「日本S.P.C工法研究会九州本部」は、「N―S.P.C.工法構造研究会」に名称を変更し、新たな研究会として発足した。その理由の一つは、平成16年1月1日付けで、基礎地盤コンサルタンツ株式会社、山田及び請求人の三者間で、請求人へ専用実施権を与える旨の「専用実施権契約書」を締結したが(乙第4号証)、実施権の基礎となっていた特許出願がすべて拒絶されたので、特許関連の整理を早急に行う必要があったからである。また、平成13年から同17年にかけて、「S.P.C.ウォール工法」によるパネル版の転倒事故などが起きたため、パネル版の構造の見直しと版の変更及び載荷実験の開始が迫られていた。

「N―S.P.C.工法構造研究会」では、新しい工法を「N―S.P.C.ウォール工法」に変更して、工法に使用する「擁壁用パネル」を「N―S.P.C.ウォール版」として工事を開始し(乙第7号証)、被請求人は、平成16年7月16日に、「N―S.P.C.工法構造研究会」による「新NETIS」登録手続を開始し(乙第9号証)、当該研究会の事務局を担当している。

そして、平成19年9月28日開催の「N―S.P.C.工法構造研究会」の「平成19年度第3回総会」において、「N―S.P.C.ウォール工法」と「N―S.P.C.合成橋工法」を統合して、統合により「日本S.P.C工法研究会」を廃止し、「N―S.P.C.工法構造研究会」として再出発する旨(乙第10号証)明記している。

平成19年9月28日付けの報告書(乙第5号証)は、国土交通省九州交通整備局九州事務所あての控で、旧NETIS登録を廃止し、新NETIS登録をしたこと、同13年度から各地区において発生したS.P.C.ウォール工法による事故の原因を検証し、その後の対応策・改善策によって決定した事項を報告し、かつ、「日本S.P.C工法研究会」を「N―S.P.C工法構造研究会」に変更したことを報告している。

また、平成19年10月4日付けで、被請求人は、「N―S.P.C.工法構造研究会」の事務局として、請求人あてに「日本S.P.C工法研究会」を廃止して新しい研究会としたこと、及び、国土交通省九州技術事務所に新NETIS登録をした旨の通知をし、かつ、旧日本S.P.C工法研究会のNETIS登録は、廃棄したため存在していないことも通知した(乙第11号証)。また、平成19年10月29日には、「N―S.P.C.工法構造研究会」は、会員各位あて、倒壊事故に使用されたSPC版の製作中止を通知し(乙第12号証)、同年12月19日には、被請求人から会員各位あて、研究会の名称変更を行い、それに伴いNETIS登録番号が変わり、かつ、工法名も「N―S.P.C.ウォール工法」に変更した旨を改めて通知している(乙第13号証)。

3 以上の事実によれば、「S.P.C.ウォール工法」は、気泡混合軽量材の自立型枠を形成する落石覆工・道路構築の土木工法の一種であり、平成11年3月より落石覆工に使用する「軽量盛土工法」として開発されたこと、その開発は、福田(基礎地盤コンサルタンツ株式会社熊本支店長)と山田(本件商標の権利者代表)とで企画立案をし、基本的事項については、福田が担当し、構造と意匠に関しては、山田が当初から考案開発したこと、該工法は、国上交通省技術事務所に「NETIS」として登録をされ、請求人と被請求人とは、専用実施権を締結したこと、そして、平成16年4月に同工法に関する解説書を、山田が編集委員会の委員長として編集・完成し、同年9月に、被請求人が事務局として「日本S.P.C工法研究会九州本部」を設立したことが認められる。

しかし、専用実施権の基礎となっていた特許出願が拒絶され、また、平成13年から同17年にかけて、「S.P.C.ウォール工法」による事故が起きたため、平成17年4月に、被請求人は事務局を担当し、新たな研究会として「N―S.P.C.工法構造研究会」を発足し、工法名を「N―S.P.C.ウォール工法」に変更して、工法に使用する「擁壁用パネル」を「N―S.P.C.ウォール版」として工事を開始した。

そして、本件商標の出願前の、平成19年10月4日付けで、被請求人は、「N―S.P.C.工法構造研究会」の事務局として、請求人あてに「日本S.P.C工法研究会」を廃止して新しい研究会としたこと、及び、国土交通省九州技術事務所に新NETIS登録をした旨の通知をし、かつ、旧日本S.P.C工法研究会のNETIS登録は、廃棄したため存在していないことも通知した(乙第11号証)。

このように、本件商標は、落石覆工・道路構築の土木工法の一種である「S.P.C.ウォール工法」の改良型として開発された工法の名称であり、被請求人は、これを管理する「N―S.P.C.工法構造研究会」の事務局を担当しているものと認められる。

そして、本件商標は、前記第1に示したとおり、平成20年2月26日に登録出願、同21年2月20日に設定登録、被請求人を商標権者とするものである。そして、請求人は、この商標権を理由として、被請求人から、「S.P.C.ウォール工法」の使用の中止を求める警告を同年11月2日及び同22年1月21日に受けているものである。

以下、これらの事実に基づいて検討する。

4 商標法第4条第1項第7号の該当性について

請求人は、「被請求人は、『S.P.C.ウォール工法』の工法名と、『N―S.P.C.ウォール工法』の工法名とが類似すると認識していながら、本件商標を出願して登録を受け、それを根拠にかつての同一研究会の会員であった請求人を訴えたこと、及び以前の組織員に、工法の名称の使用の差し止め、かつ、損害賠償の請求をする行為は、著しく社会の正義に反する行為であって、私企業間の商標の帰属をめぐる私的な紛争であるとしても、そのような事情を了知した出願に関する本件審判請求は、単なる『私企業間の商標の帰属の争い』という範囲をはるかに超えた公益的問題であり、その状態を知悉していた被請求人が、請求人らの商標の使用の差し止めを要求するような行為は、社会通念に照らして、その出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものである。」旨、主張している。

しかしながら、本件商標は、「S.P.C.ウォール工法」の改良型の「N―S.P.C.ウォール工法」として、これを管理する「N―S.P.C.工法構造研究会」により採択されたものであり、その事務局を担当する被請求人が出願したのであるから、出願の経緯に社会的妥当性を欠くようなところはない。また、請求人は、被請求人にあてに、「日本S.P.C工法研究会」を廃止したこと、国土交通省九州技術事務所に新NETIS登録をしたこと、倒壊事故に使用されたSPC版の製作を中止したこと、研究会の名称を変更したこと、NETIS登録番号及び工法名を変更したことを通知していたものであり、被請求人らに本件に基づく「使用差し止め」等の警告を発することは、それが成立するか否かはともかくとして、著しく妥当性を欠く行為であるとまではいい得ないところである。

そして、商標法第4条第1項第7号の該当性は、商標それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反するような場合、すなわち、商標を構成する文字自体が非道徳的、卑猥、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなもの、あるいは、他の法律などによってその使用が禁止されているものは、登録されるべきでないこと、及び、外国等での著名商標を関係のない第三者が無断で商標登録をしたような場合、自由に使用することができる文字などを特定の者が商標登録したような場合など、社会通念に照らして著しく妥当性を欠き、国家・社会の利益、すなわち公益を害すると評価し得る場合などであり、本件商標は、これらに該当しないものであることが明らかなところである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。

5 商標法第4条第1項第10号及び同第19号の該当性について

本件商標が、商標法第4条第1項第10号及び同第19号に該当するというためには、請求人が引用する商標「S.P.C.ウォール工法」が「請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」ことが要件となるところ、「S.P.C.ウォール工法」は、上記1の認定のとおり、「スロープバンケット・プレキャストコンクリート・ウォール工法」の略称であり、工場製作によるプレキャストコンクリート版をPC鋼棒により順次積み上げて、気泡混合軽量材の自立型枠を形成する落石覆工・道路構築の土木工法の一種である(甲第3号証の1)。

そして、「S.P.C.ウォール工法」は、平成11年2月から同15年9月までの間に、少なくとも約60件の施工実績があるが、その受注業者(施行会社)には、請求人以外の会社が多数みられる(「S.P.C.ウォール工法工事実績一覧表」(平成16年2月現在 甲第3号証の2))ことからすると、かかる工法の名称が、特定の者の出所標識としての商標と認識されていたとは、認め難いものである。

また、請求人が、「『S.P.C.ウォール工法』は、熊本県、建設省、長崎県、国土交通省、沖縄県、静岡市役所・・・といった、国、都道府県、市町村において使用されている名称であって、膨大な数の建設会社や部材メーカーが使用する工法名である。」と述べているところからしても、この工法名が特定の者の業務を表す商標として使用され、機能しているものとは、考え難いところである。

そうとすると、「S.P.C.ウォール工法」が「スロープバンケット・プレキャストコンクリート・ウォール工法」の略称であることの意味合いを凌駕するほどにかかる役務の取引指標(商標)として使用されているとする証左は示されておらず、そのような取引の実情も見いだせないから、特定の者の出所標識としての周知な商標とまではいい得ないところであり、商標として使用されていたものでないから、その使用によって商標としての周知性を確立していたものではないというべきである。

そして、上記に述べたとおり、請求人及び被請求人の主張、並びに提出された証拠によっても、「S.P.C.ウォール工法」が、請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとは、認められない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第19号に該当しない。

6 結び

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同10号及び同第19号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。

よって、結論のとおり審決する。

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