Trademark Appeal Case
称呼類似と商品類否
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 異議2010−900012(T2010−900012/J7) |
|---|---|
| 審判種別 | 異議 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
理由テキスト
1 本件商標
本件登録第5272445号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、平成21年3月30日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,防暑用ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」)を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」を指定商品として、同年9月10日に登録査定、同年10月9日に設定登録されたものである。
2 引用商標
(1)登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する、登録第852071号商標(以下「引用商標1」という。)は、若干図案化された「VALENTINO」の欧文字を書してなり、昭和43年6月5日に登録出願、第17類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、昭和45年4月8日に設定登録されたものである。その後、平成16年7月5日に「手袋」について、放棄による一部抹消の登録がなされ、さらに、平成22年8月11日に、第20類「クッション,座布団,まくら,マットレス」、第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「被服(手袋を除く)」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(2)登録第972813号商標(以下「引用商標2」という。)は、「VALENTINO」の欧文字を書してなり、1969年10月16日にオランダ王国においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、昭和45年4月16日に登録出願、第21類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、同47年7月20日に設定登録されたものである。その後、平成2年6月25日に「かばん類、袋物」について、放棄による一部抹消の登録がなされ、また、同15年4月23日に、商標登録の一部取消し審判により、「洗面用具入れ」についての取消の確定登録がされたものである。また、同16年5月26日に、第14類「身飾品(「カフスボタン」を除く。),カフスボタン,宝玉及びその模造品,貴金属製コンパクト」、第18類「携帯用化粧道具入れ」、第21類「化粧用具(「洗面用具入れ」及び「電気式歯ブラシ」を除く)。」、第25類「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」及び第26類「腕止め,衣服用き章(貴金属製のものを除く。),衣服用バッジ(貴金属製のものを除く。),衣服用バックル,衣服用ブローチ,帯留,ボンネットピン(貴金属製のものを除く。),ワッペン,腕章,頭飾品,ボタン類,造花(「造花の花輪」を除く。),つけあごひげ,つけ口ひげ,ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」とする指定商品の書換登録がなされている。さらに、平成16年7月5日に「バンド,ベルト」について、同17年9月30日に「携帯用化粧道具入れ,化粧用具(「洗面用具入れ」及び「電気式歯ブラシ」を除く)。」及び同19年9月21日に「貴金属製コンパクト,つけあごひげ,つけ口ひげ,ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」について、放棄による一部抹消の登録がされたものである。
(3)登録第4084774号商標(以下「引用商標3」という。)は、「バレンチノ」の片仮名文字を書してなり、平成6年11月17日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ショール,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,ナイトキャップ,帽子,ズボンつり,バンド,ベルト」を指定商品として、同9年11月21日に設定登録されたものである。その後、同16年7月5日に「手袋,バンド,ベルト」について、放棄による一部抹消の登録がされたものである。
(4)登録第4009553号(以下「引用商標4」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、平成6年10月12日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ショール,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,ナイトキャップ,帽子,ズボンつり,バンド,ベルト」を指定商品として、同9年6月6日に設定登録されたものである。その後、同16年7月5日に「手袋,バンド,ベルト」について、放棄による一部抹消の登録がされたものである。
(5)登録第4009554号(以下「引用商標5」という。)は、別掲3とおりの構成からなり、平成6年10月12日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ショール,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,ナイトキャップ,帽子,ズボンつり,バンド,ベルト」を指定商品として、同9年6月6日に設定登録されたものである。その後、同16年7月5日に「手袋,バンド,ベルト」について、放棄による一部抹消の登録がされたものである。
上記、引用商標1ないし5(以下、まとめていうときは、「引用各商標」という。)は、それぞれ存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
3 登録異議申立の理由(要旨)
申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第11号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきであると申し立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号ないし第45号証(枝番を含む)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第7号について
本件商標の使用は、商標法の維持発展せんとする健全な商品流通社会の秩序を害し、国際信義に反し、公序良俗に反するものである。
(2)商標法第4条第1項第10号について
本件商標は、申立人の著名商標「VALENTINO」、「ヴァレンティノ」、または「バレンチノ」に類似する商標であって、「被服」と同一又は類似する商品について使用をするものである。
(3)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、その要部から「バレンチノ」、または「ヴァレンティノ」の自然な称呼を生じ、引用各商標は、「バレンチノ」、または「ヴァレンティノ」の称呼を生ずるものであるから、称呼において類似の商標であって、同一又は類似の商品に使用をするものである。
(4)商標法第4条第1項第15号について
本件商標は、申立人の業務に係る商品と出所の混同を生じさせるおそれがあり、申立人の周知商標の持つ顧客吸引力へのただ乗りやその希釈化を招来する商標である。
(5)商標法第4条第1項第19号について
本件商標は、申立人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標と類似のものであり、それを不正の目的をもって使用するものである。
4 当審における取消理由
当審において、登録異議申立に基づき、商標権者に対して平成22年7月29日付けで通知した取消理由は、別掲4のとおりである。
5 商標権者の意見
前記4の取消理由に対し、商標権者は、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当しない理由を要旨以下のように意見を述べ、証拠方法として乙第1号ないし第27号証を提出している。
(1)「VINCENZO VALENTINO」の文字の一体不可分性
ア 本件商標は「V」の欧文字及び「VINCENZO VALENTINO」の欧文字を上下二段に書してなるものであるが、下段の「VINCENZO VALENTINO」の文字は、同じ書体、同じ大きさで、1文字程度の間隔を介して、外観上まとまりよく一体的に表されている。
また、「VINCENZO VALENTINO」の文字からは、通常「VINCENZO」が「ヴィンセンツォ」、「VALENTINO」が「ヴァレンチノ」と発音されるものと考えられ、これらの語はイタリア人の名前又は姓として用いられる文字である(乙第1号及び第2号証)ことから、全体として「ヴィンセンツォヴァレンチノ」の一連称呼が生ずる。該称呼は格別冗長とはいい得ず、語呂よく無理なく氏名として一連かつ自然に称呼し得るものである。
このように、氏名を表した場合、通常の造語の組み合わせよりも一体性は強いものとして認識されるものである。
したがって、「VINCENZO VALENTINO」の文字から、特に「VALENTINO」の文字部分のみを分離して称呼、観念しなければならない事情はない。
イ 本件と同一人の出願についての異議事件である「V」の欧文字、「VINCENZO VALENTINO」の欧文字及び「ヴィンチェンツォ・バレンティーノ」の片仮名文字からなる商標登録第4018460号に対する平成9年異議第90334号事件において、「『VINCENZO VALENTINO』の欧文字部分と『ヴィンチェンツォ・バレンティーノ』の片仮名文字部分は、それぞれまとまりよく一体的に表してなるばかりでなく、ことさら、構成中の『VALENTINO』,『バレンティーノ』の文字部分のみを分離・独立して称呼、観念しなければならない特段の事由は認め得ない。」との判断が下され(乙第3号証)、特に問題となることなく商標権として継続している。
(2)「Valentino」はイタリア人の一般的な姓又は名であるという事実
ア 伊和辞典及びフリー百科事典「ウィキペディア」に記載されているように、「Valentino」は、イタリア人の一般的な名前(姓)であり、「Valentino」の名前(姓)を有するイタリア人は現在100万人近くもいるといわれている。更に、姓としてだけでなく、名としても使用されていることも事実である。
イ 「Valentino」という著名な名前は、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏以外にも、「ルドルフ・ヴァレンテーノ」(Rudolph Valentino)(1895年−1926年:ハリウッドで活躍したサイレント映画を代表するイタリア出身の美男子俳優)や、「バレンティーノ・ロッシ」(Valentino Rossi)(1979年〜:オートバイレースの最高峰、ロードレース世界選手権で通算9回の年間チャンピオンに輝き、史上最強のライダーと称されるイタリアの現役オートバイライダー)等が存在し、日本でも知られている名前である(乙第4号及び第5号証)。
ファッション関連商品の通販サイトを調べると、本件商標の「VINCENZO VALENTINO」を始めとして、「Valentino」の文字を含むブランド名が下記のように多数検索される(乙第6号ないし第14号証)。
(ア)アイザック ヴァレンチノ(IZAX VALENTINO)
(イ)ルチアーノ ヴァレンチノ(LUCIANO VALENTINO)
(ウ)ルイジ ヴァレンチノ(LUIGI VALENTINO)
(エ)ヴァレンチノ ロレンタ(VALENTINO ROLENTA)
(オ)オリバー バレンチノ(OLIVER VALENTINO)
(カ)ヴァレンチノ クリスティ(VALENTINO CHRISTY)
(キ)ヴァレンティノ ルディー(VALENTINO RUDY)
(ク)バレンチノ ドマーニ(VALENTINO DOMANI)
ウ 「Valentino」は、イタリア人のありふれた一般的な名前であり、日本でいえば鈴木、佐藤に相当するような名前であることから、この状況は、イタリア系のデザイナーや関連商品の取扱者がイタリア系である場合、必然的に生じる可能性があり、全ての「Valentino」の語が「Valentino Garavani」に集約されるものと断ずるべきではない。
したがって、「Valentino」の文字がヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏又はそのデザインに係る商品群に使用されるブランドの略称であるとしても、「Valentino+α」の氏名まで、商標として採用できないとすることは、過去、現在、更には将来の状況を考慮しない判断であり、商標の選択の余地を不当に狭めるものである。
(3)混同を生じるおそれがないことの理由
ア 我が国において、「Valentino」の文字が「Valentino Garavani」の略称を表す状況にあるとしても、そのことで、「Valentino」を含む全てのイタリア系の氏名をこの「Valentino」と類似であると判断しなければならないものではない。
イ すなわち、「Valentino」を単独で商標として当該商品に使用する場合、「Valentino Garavani」との関連性を想起するとの判断に異議をとなえるものではないが、一体性のある一連の氏名(姓+名)を表示した商標において、「Valentino」の語が姓又は名として含まれているような場合、むしろそれは「Valentino Garavani」との区別を明示的に示しているものであり、出所の混同のおそれはないものである。
ウ すなわち、「Valentino Garavani」という有名ブランドによって、その商品を購入する現在の情報入手力の高い需要者は、有名な略称である「Valentino」は、それが「Valentino Garavani」の略称であることも十分に認識しているものと考えるのが自然である。
したがって、本件商標の「VINCENZO VALENTINO」や上述したインターネット上で見受けられる各商標は、「Valentino Garavani」が関与している関連性のあるブランドとして需要者に受け止められることはないものである。
エ すなわち、イタリア系のデザイナーや商品取り扱い業者に関連している商品であることや商品のコンセプトがイタリア系のものであるとの認識が生じることはあっても、「Valentino Garavani」との関連を想起することはなく、むしろ氏名を表示することで、明確な区別がなされているものである。
(4)「VINCENZO VALENTINO」の文字が親しまれた氏名ではないとする取消理由について
ア 本件商標の指定商品である洋服等のファッション関連商品の分野においては、本件商標の「VINCENZO VALENTINO」の文字のように、特定の氏名を表したと認められる商標は、例えその氏名が我が国で親しまれているものでないとしても、その氏名に係る商標全体をもって取引に資せられるのが通例である。このことは、乙第6号ないし第14号証に挙げたように、「ヴィンセンツォ ヴァレンチノ」(Vincenzo Valantino)を始めとする「Valentino」を含む多数のブランド名が、通販サイトの商品の記事において、常に一体のものとして使用され、単に「ヴァレンチノ」(Valentino)と略して使用されていないことからも明かである。
イ ファッション関連商品の需要者・取引者は、「ヴィンセンツォ ヴァレンチノ」(Vincenzo Valantino)のような「Valentino」の文字を含むブランド名が多数存在することを認識しているので、例え初めて目にするような「Valentino」の文字を含む氏名の商標に接しても、その商標中の「Valentino」の文字だけを特別抽出することはない。
したがって、「Valentino」だけを取り出して使用する場合に、異議申立人の商標「VALENTINO」に係る権利の侵害問題が生じるとしても、「Valentino」を含む氏名が使用される場合、混同のおそれはない。それにも拘わらず、当該氏名が我が国で親しまれた氏名を表すものではないとの理由だけで、該文字より「VALENTINO」の文字部分が分離抽出されるとすることは、商標の選択の余地を不当に狭めるものである。
(5)「Valentino」の文字を含む登録商標の存在
過去の登録例をみると、ファッション関連商品について、「Valentino」の文字を含む商標が多数登録されている(乙第15号ないし第23号証)。
ア 商標:VINCENZO VALENTINO/ビンチェンツォ・バレンティーノ
イ 商標:Romeo Valentino
ウ 商標:ANRICO VALENTINO
エ 商標:バレンチノ ネルビーニ/VALENTINO NERVINI
オ 商標:DIANA VALENTINO
カ 商標:CALRO VALENTINO
キ 商標:Valentino Marudini
ク 商標:GIOVANNI VALENTINO
ケ 商標:Orlandi Valentino
上記登録商標は、今から10年ほど前に登録されたものではあるが、今回の申立人及び貴庁の証拠をみても、その当時に較べて、現在の申立人の「VALENTINO」商標の著名性が格段に高くなったということはないと考える。したがって、「Valentino」を含む全ての氏名に係る商標を、「Valentino Garavani」と類似の商標とすることは、上記の現存する商標権との関係を不安定、不明確な状況にし、かえって、取引の安定を害することになる。よって、過去の登録例に鑑みても、本件商標の登録が維持されるのが妥当である。
(6)イタリアにおける「Valentino」の文字を含む登録商標の存在
ヴァレンティノガラヴァーニ氏の本国であるイタリアでは、今年の1月から5月までの間だけでも、ファッション関連商品について、「Valentino」の文字を含む商標が下記の通り4件も登録されている(乙第24号ないし乙第27号証)。
ア 商標:Valentino Emilio
イ 商標:Emilio Valentino
ウ 商標:VALENTINO ROSSI
エ 商標:VALENTINO STIZZA
イタリアにおいてでさえ、「Valentino」の文字を含む商標の登録が認められていることを勘案すると、我が国だけで本件商標の登録を取り消すことは、国際的な商品の流通の安定性の面でも不合理である。
(7)まとめ
以上、本件商標をその指定商品について使用しても、需要者・取引者がこれをヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏のデザインに係る商品又は同人と営業上何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれはなく、本件商標は商標法第4条第1項第15号には該当しない。
6 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号の判断に際しては、「商標法四条一項一五号にいう『他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標』には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下『広義の混同を生ずるおそれ』という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。けだし、同号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ、その趣旨からすれば、企業経営の多角化、同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業や市場の変化に応じて、周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには、広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。そして、『混同を生ずるおそれ』の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。」(最高裁平成10年(行ヒ)第85号 平成12年7月11日判決言渡参照)と判示されている。
(2)本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、「V」及び「VINCENZO VALENTINO」の欧文字とを二段に表してなるところ、上段に表された「V」と、下段に表された「VINCENZO VALENTINO」の欧文字部分とは、視覚上分離して表されたものであり、また、「VINCENZO」と「VALENTINO」が、半文字程度間隔をあけて表示されているうえ、全体として17文字からなり、「ビンセンツォバレンチノ」の称呼もやや冗長といえること、そして、我が国において「VINCENZO VALENTINO」の欧文字全体としては、特定人名や成語として一般に知られているものとはいえないことを考慮すると、本件商標は、その外観及び称呼のいずれの点においても、「VINCENZO」の文字部分と、「VALENTINO」文字部分とに、分離して認識され得るものである。
そうすると、本件商標の「VINCENZO VALENTINO」の文字部分は、常に一体不可分のものとしてのみ、取引者、需要者に把握、認識されるものとは認め難いものである。
そして、その構成中「VALENTINO」の文字部分は、著名なファッションデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏のデザインに係る商品に付されるブランドの表示として、我が国の婦人服、紳士服等のファッション関連分野の取引者、需要者にとって周知・著名であることを考慮すると、「VALENTINO」の文字部分が、「VALENTINO GARAVANI」に係る「VALENTINO」を表したものと把握され、認識されるものと判断するのが相当である。
(3)「VALENTINO」の周知著名性について
別掲4に示した、当審における取消理由(2)の職権証拠調べによれば、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ(Valentino Garavani)氏は、本件商標の登録出願時には、既に、我が国のみならず世界的に著名なデザイナーであったものと認められる。
そして、同氏の略称又はそのデザインに係る婦人・紳士物の衣料品、革製バック、革小物、ネクタイ、アクセサリー、香水、インテリア用品などの商品群に使用されるブランドを表すものとして、「VALENTINO」「Valentino」「ヴァレンティノ」「ヴァレンティーノ」「ヴァレンチノ」「バレンチノ」の表示がそれぞれ単独で用いられ、「VALENTINO」の表示は、我が国の取引者、需要者等の間に広く認識され、その状態は、本件商標の登録査定時はもとより、現在においても継続しているものと認められる。
(4)商品間における関連性及び需要者
本件指定商品は、「洋服,コート」を始めとする主にファッション関連商品であって、「VALENTINO」の表示も、同じく主にファッション関連商品に使用されてきたものであるから、同一又は類似の商品であり、その需要者層を共通にするものである。
(5)出所混同のおそれ
以上のことからすれば、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ(Valentino Garavani)氏の略称又は同氏のデザインに係る商品群に使用されるブランドを表すものとして著名な「VALENTINO」の文字を構成中に有する本件商標を、商標権者が、その指定商品について使用するときは、これに接する取引者、需要者は、その構成中の「VALENTINO」の文字部分に強く印象づけられ、該商品がヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏のデザインに係る商品又は同人と営業上何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
(6)まとめ
したがって、本件商標についてした先の取消理由は、妥当なものであり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(7)商標権者の主張について
ア 商標権者は、「VINCENZO VALENTINO」の文字からは、通常「ヴィンセンツォヴァレンチノ」と発音されるものと考えられ、これらの語はイタリア人の名前又は姓として用いられる文字であることから、全体として「ヴィンセンツォヴァレンチノ」の一連称呼が生ずる。該称呼は格別冗長とはいい得ず、語呂よく無理なく氏名として一連かつ自然に称呼し得るものである。このように、氏名を表した場合、通常の造語の組み合わせよりも一体性は強いものとして認識されるものである。したがって、「VINCENZO VALENTINO」の文字から、特に「VINCENZO VALENTINO」の文字部分のみを分離して称呼、観念しなければならない事情はない旨主張する。
しかしながら、「VALENTINO」の表示は、著名なファッションデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に付されるブランドを表わすものとして、我が国の婦人服、紳士服等のファッション関連分野の取引者、需要者にとって周知・著名であり、本件商標の構成中の「VALENTINO」の文字部分が、「VALENTINO GARAVANI」に係る「VALENTINO」を表したものと把握され、認識されることによって取引者、需要者の注意を特に強く引くものと認められること前記に述べたとおりであるから、商標権者の主張は採用することができない。
イ 商標権者は、「Valentino」の文字を含む登録例を挙げ、ファッション関連商品の需要者・取引者は、「Valentino」の文字を含むブランド名が多数存在することを認識しているので、例え初めて目にするような「Valentino」の文字を含む氏名の商標に接しても、その商標中の「Valentino」の文字だけを特別抽出することはない。したがって、「Valentino」を含む氏名が使用される場合、混同のおそれはない。当該氏名が我が国で親しまれた氏名を表すものではないとの理由だけで、該文字より「VALENTINO」の文字部分が分離抽出されるとすることは、商標の選択の余地を不当に狭めるものである旨、主張する。
この点に関しては、東京高裁(平成14年(行ケ)第421号 平成15年6月19日判決言渡参照)において、「『VALENTINO』,『valentino』,『ヴァレンティノ』が,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏ないしそのデザイナーブランドを示すものとして周知であることなどを根拠に,それらの語を含む他の商標を,商標法4条1項15号の適用により無効とすることは,原告の主張するとおり,同じ『valentino』の氏姓を持つデザイナーが,それを含む商標を日本で登録することができなくなる,という結果をもたらす。これは事実である。しかし,既に先行者(被告)が,『valentino』を標章として使用して周知性を獲得し,一定の高いブランドイメージをこれに化体させているという状態が継続している以上,一方で,被告が被告商標について保持している業務上の信用・評価を保護する必要があり,他方で取引者・需要者間の誤認混同のおそれを除去する必要もある。このような必要に対処するために設けられた規定の一つが商標法4条1項15号の規定である。同条項の要件が満たされる限り,これを適用し得ることは,いうまでもないことというべきである。本件に関して,商標法4条1項15号を適用するのは,被告が『VALENTINO』,『valentino』,『ヴァレンティノ』の語を,特定のデザイナーブランドを示すものとして用いていることに加え,一定程度以上の周知性や,上記三つの語に高いブランドイメージが化体されている等の事実関係の存在を前提にしてのことである。前提とされている事実関係が消失すれば,被告以外の者が,『valentino』の語を含む商標の登録を,上記法条の適用により拒絶されることがなくなることは,当然である。被告以外の者が未来永劫登録できなくなるなどということはない。上記事実関係が継続している限り,同じ「VALENTINO」の氏姓を持つデザイナーは,それを含む商標を日本で登録することができない,という不都合は,商標制度自体に内在するものとして甘受する以外にない,というべきである。」と判示されているとおりである。
そして、本件商標の構成中、「VINCENZO VALENTINO」の欧文字部分は、その構成態様において常に一体のものとして把握しなけれ
ばならない特段の事情があるとは認められず、該文字部分から生ずる全体の称呼も比較的冗長であって、構成文字全体をもって特定の観念を生ずるとも認めることができない。
加えて、「VALENTINO」の欧文字は、「婦人服,紳士服,アクセサリー,バッグ」等に使用して、本願商標の登録出願前より、取引者、需要者の間でデザイナーブランドとして広く一般に認識されている「VALENTINO GARAVANI」の略称であって、かつ、これらの商品と本件商標の指定商品は、密接な関連性を有しており、両商品の取引者、需要者の相当部分が共通するものである。
また、商標登録出願に係る商標が上記条項に該当するか否かについては、当該案件の登録出願時及び査定時又は審決時において、その商標と、指定商品又は指定役務との関係及び取引の実情等を考慮し、個別具体的に判断されるべきものであるから、本件商標と、商標権者が挙げる登録例の存在とを同列に論ずることはできない。
(8)結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものといわざるを得ないから、本件商標の登録は、商標法第43条の3第2項により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
Next Action
次の一手につながるサービス
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。