Trademark Appeal Case
Perlの周知性と識別力
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 異議2010−900199(T2010−900199/J7) |
|---|---|
| 審判種別 | 異議 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
理由テキスト
1 本件商標
本件登録第5314384号商標(以下「本件商標」という。)は、「Perl」の欧文字と「パール」の片仮名とを二段に横書きしてなり、平成21年11月2日に登録出願、第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」を指定役務として、平成22年3月1日に登録査定、同年4月9日に設定登録されたものである。
2 登録異議申立人「柏木一浩」による登録異議の申立ての理由
本件指定役務を取り扱う業界において、「Perl」の語は、「プログラムに使われる言語」を表示する物として普通に使用されている。
本件商標を、その指定役務中、「Perlのプログラムの設計・作成又は保守,貸与,提供」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、単に商品の品質を表示した語と認識するにとどまるから、該文字は、自他役務識別標識としての機能を果たし得ないものというべきであり、かつ、上記以外の役務に使用するときは,役務の質について誤認を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同第4条第1項第16号に該当し、商標登録を受けることができないものである。
3 登録異議申立人「イェット アナザー ソサイエティー」(以下「申立人」という。)及び「一般社団法人 Japan Perl Association」(以下この両者を「申立人ら」という。)による登録異議の申立ての理由
(1)商標法第8条第1項該当について
本件商標は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、第9類「電子応用機械器具及びその部品」を指定商品として、平成19年8月29日に登録出願された商願2007−92708号商標と類似し、本件商標の指定役務中「電子計算機用プログラムの提供」は、上記登録出願の指定商品中「電子計算機用プログラム」に類似する。
よって、本件商標は、商標法第8条第1項に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号該当について
本件商標は、1987年に米国人ラリー・ウォールが開発、公表し、2000年以来、申立人イェット アナザー ソサイエティーが中心となってその普及と開発を促進しているコンピュータ言語及びその言語処理系コンピュータソフトウェアの名称「Perl」(以下「Perl商標」という。)と同一であって、かつ、イェット アナザー ソサイエティーが有し、コンピュータソフトウエアに使用する、それぞれ別掲(2)ないし(4)のとおりからなる米国商標登録第3178940号商標、共同体商標登録第6524185号商標及びカナダ国商標登録出願第1402532号と相紛らわしく、商標権者が本件商標をその指定役務に使用すれば、これに接する取引者または需要者は、前記コンピュータ言語及びコンピュータソフトウェアの名称ライセンス契約関係等なんらかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのごとく誤って認識し、出所の混同を生じるおそれがある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号該当について
本件商標は、米国を初めとする世界各国で周知な表示であるPerl商標並びに前記米国、共同体及びカナダ国の商標に類似するものであって、本件商標権者が不正の目的をもって使用するものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第7号該当について
商標権者は、「Perl(パール)」が、ラリー・ウォールが開発し、1987年ころに発表したオープンソースソフトウエアであり、以来、全世界で広く利用されているコンピュータプログラミング言語及びその言語処理系コンピュータソフトウェアの名称であって、周知著名なものであること及び申立人らが公益的観点から「Perl」の利用と開発を推進しているものであることを知りながら、申立人らに何ら告げることなく同一の文字からなる商標を出願・登録したものであるから、その登録出願の経緯には社会通念に照らして著しく妥当性に欠くものがある上、社会一般の利益、すなわち公益を害すると評価することもできるものであるから、商標法第4条第1項第7号を適用してその登録を取り消すべき特段の事情がある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
4 本件商標に対する取消理由
(1)登録異議申立人イェット アナザー ソサイエティーは、ラリー・ウォールが開発し公開したオープンソースソフトウエア「Perl」の利用と開発を促進することを目的として、米国ミシガン州法に基づき2000年に設立された非営利法人(甲第5号証)であり、また、登録異議申立人一般社団法人Japan Perl Associationは、ラリー・ウォールが開発したプログラミング言語に関する技術及び文化を啓蒙・促進するための組織であって、該プログラミング言語を利用するプロジェクト、コミュニティ、ビジネスのサポートに取り組むこと等を目的として、2008年に設立された一般社団法人(甲第6号証の1及び2)であるところ、申立人らが提出した甲各号証によれば、以下の事実が認められる。
ア ラリー・ウォールが開発した「Perl」について
「Perl」とは、ラリー・ウォールにより開発され、1987年12月に無償で公開されたコンピュータプログラミング言語(以下「本件プログラミング言語」という。)及び当該プログラミング言語で記述されたプログラムを電子計算機上で実行するための言語処理ソフトウェア(以下「本件ソフトウェア」という。)の名称である。「Perl」は、1987年12月18日にバージョン1.0がリリースされ、その後バージョンアップを重ねて、今日ではバージョン5.12.1が最新安定版の「Perl」として頒布され、さらにバージョン6も発表されている(甲第9号証)。
イ 申立人による「Perl」の管理について
申立人は、「Perl」の現行バージョンの著作権を有している(甲第34号証)。「Perl」は、オープンソースソフトウェアであるが、本件プログラミング言語及び本件ソフトウェアをダウンロードし利用する者は、米国フリー・ソフトウェア・ファウンデーション,インコーポレイテッドが公表している「The Artistic License」(甲第15号証の1及び2)等と呼ばれるライセンス契約を締結することが義務付けられている。「The Artistic License」の第4条(b)によれば、利用者がその修正バージョンを開発した場合には、修正バージョンは、標準バージョンの名称(すなわち「Perl」)以外の名称を使用しなければならないと規定されており、本件ソフトウェア以外のソフトウェアが「Perl」と呼ばれることはなく、「Perl」と呼ばれるコンピュータソフトウェアは、本件ソフトウェアのみであることが示されている。更に、本件ライセンス契約上、本件ソフトウェアの利用者は、申立人が有する商標、サービスマーク又は口ゴを使用する権利を取得するものではないと規定されている(第12条)。
このように、「Perl」は、オープンソースソフトウェアであって、ウェブサイト等を通じて無償で頒布されているものではあるが、申立人は、「Perl」を本件プログラミング言語及び本件ソフトウェアの名称として厳格に管理しているのであって、「Perl」は、本件プログラミング言語及び本件ソフトウェアが申立人の取扱いに係るものであることを表示する出所標識として使用され機能しているものということができる(以下「Perl」の文字からなる標章を「引用商標」という。)。
申立人は、2005年1月27日に米国において、玉葱を模した図形と引用商標からなる商標を「クラス・プラットフォーム・ソフトウェア・アプリケーション,ソフトウェア・コンポーネント及びウェブサイトの開発に使用するコンピュータソフトウェア,他のコンピュータソフトウェアの開発,分析,暗号化,検査及び制御に使用するコンピュータソフトウェア,手続き型及びオブジェクト指向プログラミング言語を実行するコンピュータソフトウェア」を指定商品として出願し、該商標は、2006年12月5日に米国商標登録第3178940号として登録されている(甲第3号証の1)。また、該商標は、欧州においても、2008年12月4日に共同体商標登録第6524185号として登録されており(甲第3号証の2)、更に、カナダ国においても、カナダ国商標登録出願第1402532号として2008年7月8日に出願されている(甲第3号証の3)。そして、申立人は、我が国においても、該商標を「電子応用機械器具及びその部品」を指定商品として、2007年8月29日に出願(商願2007−92708号)している(甲第2号証)。
ウ 引用商標の著名性について
引用商標に係るプログラミング言語は、当初はUnix上で利用されるプログラミング言語として開発されたものであるが、プログラミングが容易であることやインターネット経由で必要なモジュールを自動的に組み込む機能を備えていること等から、今日ではMacやWindows等ほとんどのOS(オペレーティング・システム)上で利用されており、世界各国で極めて広範に利用されるに至っている。
(ア)米国等における利用状況
米国では、「Perl」に関する情報誌「The Perl Review」が発行されており、本件プログラミング言語及び本件ソフトウエアに関するカンファレンスやワークショップが世界各地で頻繁に開催されていることが記載されている(甲第13号証の1ないし17)。また、ドイツでも「$foo Perl―Magazin」が発行されており、本件プログラミング言語及び本件ソフトウェアに関するワークショップやカンファレンスが2007年から2010年にかけて、ドイツのミュンヘンやポルトガルのリスボン、イタリアのピサ等で開催されていたことが記載されている(甲第14号証の1ないし14)。
また、アメリカに本部を持つ企業レッドハットが開発したLINUXディストリビューションである「Red Hat Linux」は1995年8月にリリースされたバージョン1.1に「Perl」がインストールされており(甲第11号証の1)、フリーオペレーティングシステムである「Debian Linux」にも1995年のプロジェクト開始当初から「Perl」が同梱されており(甲第11号証の2)、オープンソースのオペレーティング・システムである「FreeBSD」の1998年に発表されたバージョン3.0のリリースノートには「Perl4は、システムの標準機能の一つとしてPerl5と置き換えられました」と記載されており(甲第11号証の3)、「Perl」は、様々なUnix/Linux系のオープンソース・オペレーティング・システムにも標準仕様として予め同梱され、インストールされていたことを認めることができる。
そして、「Perl」を利用するプログラマが「Perl」を用いた膨大な数のモジュールをダウンロードすることのできるウェブサイトの利用者数は、2008年7月1日から2009年6月30日までの1年間に限ってみても、665万人余にのぼるものであったことが認められる(甲第12号証の2)。
(イ)我が国における利用状況
わが国においても、「Perl」に関する数多くの書籍が発行されている。
例えば、ソフトバンククリエイティブ株式会社発行の「新版Perl言語プログラミングレッスン[入門編]」(甲第7号証の1)、株式会社インプレスジャパン発行の「基礎Perl」(甲第7号証の2)、株式会社翔泳社発行の「モダンPerl入門」(甲第7号証の3)、株式会仕オライリー・ジャパン発行の「続・初めてのPerl改訂版」(甲第7号証の4)、同社発行の「実用Perlプログラミング第2版」(甲第7号証の5)、同社発行の「ミニマルPerl Unix/LinuxユーザのためのPerl習得法」(甲第7号証の6)、株式会社翔泳社発行の「Perlの絵本」(甲第7号証の7)、同社発行の「独習Perl第2版」(甲第7号証の8)、同社発行の「10日でおぼえるPerlCGI入門教室第2版」(甲第7号証の9)、同社発行の「Perlプログラミング救命病棟」(甲第7号証の10)、株式会社工学社発行の「今日からPerl/CGIプログラマー」(甲第7号証の11)、株式会社サイエンス社発行の「Perlの国へようこそ」(甲第7号証の13)、ソフトバンク株式会社発行の「Perlプログラミング」(甲第7号証の14)等々、膨大な数の解説本が発行・頒布されている。
また、コンピュータプログラマをはじめ本件指定役務の需要者・取引者を主たる購読者とする雑誌等において、「Perl」について数多くの紹介記事が記載されている。
例えば、2000年2月22日発行の日経バイトには、「PerlはVisual Basicを超える」の見出しのもと、「Web用のプログラミング言語としてもCGI+Perlの地位は揺るぎない」、「CGIの開発言語としてもプラットフォームに依存しない点や、コンパイルなどの手間なく使える点でPerlに並ぶものはいない」との記載がある(甲第8号証の1)。
2001年11月号の日経ソフトウェアには 、「Perl」が「Java」「Linux」等、他のよく知られたコンピュータソフトウェアと同様に代表的なソフトウェアとして紹介されている(甲第8号証16)。
2002年11月1日発行のInterfaceには、「1986年、Larry Wall氏によって開発が開始されたPerlは、現在ではもっとも有名なプログラミング言語の一つである。オープンソースであることから、数多くのOSに移植され、・・・多くのOSに標準でインストールされている」との記載がある(甲第8号証の6)。
2005年3月15日発行のWEB+DB PRESSには、「CPAN(Comprehensive Perl Archive Network)には、世界中のPerlプログラマによって開発された膨大な数のモジュールが登録されています」との記載がある(甲第8号証の10)。
2008年3月25日発行のWeb+DB PRESSには、「Perl5.10リリース!!・・・5年ぶりのメジャーバージョンアップ」との記載がある(甲第8号証の11)。
2008年12月1日発行のWeb+DB PRESSには、「memcached」と呼ばれるキャッシュライブラリを紹介する記事の中で、「Java」編、「C言語」編と並んで「Perl」編が設けられている(甲第8号証の12)。
2010年8月号の日経ソフトウェアには、「スクリプト言語というとPerl、Python、Ruby、PHPなどが有名です。」との記載がある(甲第8号証の19)。
(ウ)以上の事実を総合すると、「Perl」は、ラリー・ウォールが開発し公開したコンピュータプログラミング言語及び当該プログラミング言語で記述されたプログラムを電子計算機上で実行するためのソフトウェアを表示するものであって、申立人らが厳格に管理している出所標識(商標)であり、本件商標登録出願日(平成21年11月2日)より相当前から、我が国のコンピュータ業界関係者及びコンピュータ又はコンピュータプログラムに関心のある需要者の関心を集めており、「Perl」を解説した書籍や「Perl」を紹介する雑誌等が多数存在しており、また、「Perl」を搭載した機器(コンピュータ端末)が広く流通し、ウェブサイト等を通じて「Perl」が無償で頒布され、流通する状況にあったものと認められる。
このような状況に照らすと、引用商標「Perl」は、ラリー・ウォールが開発し公開した本件プログラミング言語及び本件ソフトウェアを表示するものとして、本件商標登録出願前において、「Perl」の文字に接した取引者・需要者をして直ちに本件プログラミング言語及び本件ソフトウェアを想起させる程度にまで、取引者・需要者の間に浸透して、周知・著名となっていたものと認めることができる。
(2)本件商標と引用商標との類否について
本件商標は、前記したとおり、「Perl」の欧文字と「パール」の片仮名文字とを二段に横書きしてなるものであるのに対して、引用商標は、「Perl」の欧文字からなるものであるから、両商標は、いずれも、その構成文字に相応して「パール」の称呼を生ずるものであり、本件商標の欧文字部分と引用商標とは、綴り字を同じくするものであるから、両者は、称呼及び外観において同一又は類似のものということができる。
そして、「Perl」の語は、特定の意味合いを有する語ではなく、ラリー・ウォールの創作にかかる創造語(造語)と認められるものであって、独創性の強い商標であるということができる。
(3)本件商標の指定役務と引用商標に係る商品との関係について
引用商標が使用されている商品は、プログラムを記述するためのプログラミング言語を指すと同時に「プログラムを処理するためのソフトウェア」であるところ、本件商標の指定役務は「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」であるから、本件商標の指定役務と引用商標に係る商品とは、極めて関連性の強いものであるといわなければならない。そして、両者の取引者・需要者は、いずれも電子計算機用のプログラムの導入や設計・作成又は保守を取扱い業務とする者やこれらに興味や関心を有する者であることから、その需要者・取引者も共通にするものということができる。
(4)出所の混同のおそれについて
以上のとおり、引用商標の著名性の程度、商標の独創性、引用商標と本件商標の類似性の程度、商品と役務との関連性及び需要者の共通性等を総合勘案すれば、商標権者が本件商標をその指定役務に使用した場合には、これに接する取引者・需要者は、ラリー・ウォールにより開発され申立人らが管理する著名な引用商標を連想・想起し、商標権者が提供する役務を申立人らと経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかの如く誤認し、その役務の出所について混同するおそれがあるものといわなければならない。
(5)なお、商標法第4条第1項第15号該当性についての直接的な要件ではないが、商標権者(代表取締役 北畠徹也)は、申立人の財務担当者、広報担当者宛に資金調達手段に関する宣伝資料を電子メールで送付した際に、「私は、1997年ごろからPerlのヘビー・ユーザーです」と述べており(甲第19号証)、また、平成21年10月30日ないし同年11月21日当時において、「BASP21」と呼ばれるフリーソフトウェアをコマーシャル・バージョンとして市販することについて、当該ソフトウェアが「Perl」プログラムを一部使用しているという理由から、申立人の承諾を要求した事実が認められることから(甲第20号証ないし甲第25号証)、商標権者は、本件商標の出願時において、「Perl」が申立人の管理・取扱いに係るソフトウェアの名称であることについて熟知していたものということができる。
加えて、商標権者(代表取締役 北畠徹也)は、本件商標以外にも、「Apache」や「Ruby」、「Python」等の他人の有名なソフトウェアの名称と同一の文字からなる商標を自己の商標として登録しようとして出願していた事実が認められる(甲第26号証ないし甲第28号証)。
(6)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものというべきであるから、本件商標の登録は取消を免れない。
5 当審の判断
本件に関し、平成23年2月9日付けで、前記4の取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、商標権者からは何らの応答もなかった。
本件商標についてした上記の取消理由は妥当であるから、その登録は商標法第4条第1項第15号に違反してされたものといわざるを得ない。
したがって、他の理由について判断するまでもなく、本件商標の登録は、同法第43条の3第2項の規定により、取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する
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