結論テキスト
審判費用は被請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 平成7年審判第27346号 |
|---|---|
| 審判種別 | 不服 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
本件登録第3025658号商標(以下、「本件商標」という。)は、平成4年9月25日登録出願、後掲したとおり「株式会社ヨコハマティービーエス」の文字を横書きしてなり、第35類「広告,経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,競売の運営,輸出入に関する事務の代理又は代行,書類の複製,速記,筆耕,文書又は磁気テープのファイリング,建築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸与,タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与」を指定役務として、同7年2月28日に設定の登録がされたものである。
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第3006418号商標(以下、「引用商標」という。)は、平成3年法律第65号による改正商標法(以下、「改正法」という。)附則第5条第1項による使用に基づく特例の適用を主張する出願(特例商標出願)として平成4年9月8日に登録出願、後掲したとおりの構成よりなり、第35類「テレビジョンによる広告,ラジオによる広告」を指定役務として、同6年10月31日に設定の登録がされたものである。
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第331号証(枝番を含む。)及び参考資料を提出した。
1.利害関係について
請求人は、テレビジョン放送、ラジオ放送、テレビジョンによる広告、ラジオによる広告、放送番組の制作、スポーツの興業の企画、演奏の興業の企画等の役務等を行い、これら役務を表す商標として「TBS」を選択し、長年にわたって使用した結果、商標「TBS」は、これら役務を表す商標として需要者・取引者間に広く知れ渡るとともに、請求人の著名な商標及び著名な略称として取引者・需要者間に認識されるに至っている。更に、請求人は、「ティービーエス」の称呼を生ずる引用商標を有する。
しかるに、本件商標は、「株式会社ヨコハマティービーエス」からなるところ、その要部は「ティービーエス」にあり、引用商標と称呼を同じくする類似の商標である。したがって、本件商標を被請求人が使用すると、引用商標と抵触し、請求人の著名な商標「TBS」の信用を毀損することになり、多大な損害を及ぼすことになるから、請求人は審判請求することに利益を有する。
2.商標法第8条第2項(改正法附則第5条第3項による読替規定)及び同法第4条第1項第10号該当について
請求人は、昭和26年創立以来、テレビジョン放送、ラジオ放送、テレビジョンによる広告、ラジオによる広告につき免許を得るとともに、放送番組の制作、スポーツの興業の企画、演奏の興業の企画等の役務を提供し、これら役務を表す商標として、商標「TBS」を選択して使用し広告により使用に努めている。その結果、少なくとも本件商標の出願日以前より、商標「TBS」は、請求人のこれら役務を表す商標又は略称として著名になっている。
(1)本件商標の構成態様は、漢字「株式会社」とカタカナ文字「ヨコハマティービーエス」を一連に書してなるが、その「株式会社」の文字は、法人組織を表す語であって、自他商品識別標識としての機能を果たし得ないものであるから、本件商標の主要部は「ヨコハマティービーエス」にあることは明らかである。そして、該構成文字をみると、「ヨコハマ」の文字は、産地名、役務提供地名である「横浜」を表すに過ぎず、自他商品識別標識としての機能を果たし得ないものである。よって、本件商標の要部は「ティービーエス」にある。
してみれば、本件商標と引用商標とは、「ティービーエス」の称呼を同じくする類似の商標であり、かつ、本件商標の指定役務中「広告」については、引用商標の指定役務と同じくするものであるから、本件商標は、商標法第8条第2項(改正法附則第5条第3項による読替規定)の規定に該当する。
(2)請求人の使用に係る商標「TBS」は、テレビジョンによる広告、ラジオによる広告を表す商標として周知著名であるから、本件指定役務中「広告」については、同法第4条第1項第10号に該当する。
3.商標法第4条第1項第8号及び同第15号該当について
請求人の使用に係る商標「TBS」は、請求人のテレビジョン放送、ラジオ放送、テレビジョンによる広告、ラジオによる広告につき免許を得るとともに、これら役務を放送番組の制作、スポーツの興業の企画、演奏の興業の企画等の役務を表す商標として、少なくとも本件商標の出願前より周知著名であるから、引用商標に類似する本件商標が使用されると引用商標と出所の混同を生ずるものである。同時に、該商標は、少なくとも本件商標の出願前より請求人の著名な略称として知られている。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号及び同第15号に該当する。
4.被請求人の答弁に対する弁駁
(1)請求人は、少なくとも「テレビジョン放送、ラジオ放送、テレビジョンによる広告、ラジオによる広告」について、商標「TBS」の著名性は、甲第5号証ないし甲第308号証から立証されたものと思慮する。
甲第326号証は、被請求人に係る平成4年商標登録願第211027号についてあった登録異議申立事件において、被請求人(出願人)より答弁として提出された同人の会社履歴書であるが、表紙に本件商標と同一の文字とともに、欧文字「YOKOHAMA」、「TBS」、「CO.,LTD」がそれぞれ間隔を開けて上下2段に表示されてなり、この記載内容からして、該欧文字は、漢字、カタカナ文字の英訳と考えられ、この対応関係からして、本件商標の「株式会社」は「CO.,LTD」を、「ヨコハマ」は「YOKOHAMA」を、「テイービーエス」は「TBS」をそれぞれ意味するものである。これら文字はそれぞれに間隔を開けており一体性を欠く。すなわち、被請求人も本件商標は一体であるとは認識せず、「ティービーエス」の文字は「TBS」を意味するものと認識していることを表すものである。
請求人の業務は、「テレビジョン放送、ラジオ放送、テレビジョンによる広告、ラジオによる広告」に止まらず、「放送番組の制作、スポーツの興業の企画、演奏の興業の企画」あるいは「絵画の展示の企画」ほかの事業を行っており、更に、請求人の関連会社には「ティ・ビー・エス」の文字を含む会社があり、かつ、関連会社では「貸スタジオ」ほかの多岐にわたる事業を行っている。そのため、要部に「ティービーエス」の称呼を生ずる商標を使用されると請求人の著名な商標、略称と混同を生ずる蓋然性が高い。この点については、既に提出の甲各号証により明らかであるが、更に、甲第309号証ないし同第325号証によって、「演奏の興業の企画」ほかについても使用していることが明確になったものと思慮する。そして、混同はその蓋然性で足るのであるから、仮にいままで混同の実績がなくとも、被請求人の事業が拡大すれば請求人の商標と混同を生ずる蓋然性は否定できない。
(2)請求人のようないわゆる民間放送事業者は、番組の放送を行うと共に、番組枠ないしはスポットCM枠を購入したいわゆるスポンサーの広告をテレビジョンあるいはラジオで放送することで事業をおこなっている。番組の販売にあたっては、民間放送事業者、広告代理店、スポンサーとの間で契約が取り交わされる。スポンサーは広告代理店に番組枠等の購入を依頼し、請求人は番組枠等の販売の代理を広告代理店に依頼し、請求人とスポンサーとの間で代理店を介して番組枠等の販売の契約が成立すると請求人はテレビジョンによる広告を行う。すなわち請求人はテレビジョンによる広告等の代理を行うのではなく、直接テレビジョンによる広告等を行うものである。実際に、請求人等の民間放送事業者の広告に関する役務は、役務区分第35類に属するとして「テレビジョンによる広告,ラジオによる広告」について、甲第3号証以外にも特例出願として登録されている(甲第328号証ないし甲第331号証)。
被請求人は、商標法第4条第1項第15号が適用されるには、あたかも請求人の行うすべての事業が周知でなければならないかのように主張するが、請求人が多種類の事業を行っており、商標「TBS」が「テレビジョン放送、ラジオ放送、テレビジョンによる広告、ラジオによる広告」で著名であれば、現実におこなっている事業ではもちろん、それ以外でも出所の混同は生ずる蓋然性が高くなるものであり、個々の事業すべてにおいて周知の必要はない。商標「TBS」の著名性については、甲各号証で立証されたものと思慮するものであるが、請求人と被請求人の間で争われた他の商標登録異議申立事件においても認められる(参考資料1、2)。
(3)いわゆる民放のテレビジョンあるいはラジオを通じておこなうコマーシャルは、第38類に属する「テレビジョン放送,ラジオ放送」役務とは別個の役務であって、第35類の「広告」役務に属する「テレビジョンによる広告,ラジオによる広告」である。甲第328号証ないし甲第331号証に示す特例商標出願は、その指導に基づきされたものである。
著名性は理論上必ずしも全国的に知られていることは要求されていない。被請求人の役務提供地は、請求人の放送エリアであって、同じくする商圏においては請求人の略称「TBS」は著名である。そして、系列局を通じて請求人の製作した番組は全国的に放送される。
テレビジョン放送会社、ラジオ放送会社はそれぞれエリアを有するため会社名に地名を付したものが多いが、これら放送会社名は長年使用された結果それぞれ自他役務識別力を有しているものであって、商標法上「株式会社」表示の解釈に一般化することは出来ない。
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由および請求人の弁駁に対する再答弁を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。
1.利害関係について
請求人の利害関係についての記載事項において、「スポーツの興業の企画、演奏の興業の企画等」の役務を請求人が行っているとの主張・事実は不知であり、甲第5号証ないし甲第23号証は、そのような事実など示していない。また、これら「スポーツの興業の企画、演奏の興業の企画等」の役務について、商標「TBS」が著名であるとの主張・事実は認められず、甲第24号証ないし同第198号証は、そのような事実など示していない。
更に、被請求人所有の本件商標の指定役務中「テレビジョンによる広告、ラジオによる広告」について、請求人所有の引用商標と抵触し、請求人の著名な商標「TBS」の信用を毀損することになり、請求人に多大な損害を及ぼすことになるとの主張は、全く不当である。
2.商標法第8条第2項(改正法附則第5条第3項による読替規定)及び同法第4条第1項第10号該当について
本件商標は、請求人所有の引用商標と指定役務中「広告」について同じくすることは認める。しかしながら、両商標は、標章において一切類似関係が無く、互いに無関係の非類似商標である。本件商標「株式会社ヨコハマティービーエス」中、「株式会社」の部分は法人組織を表す語で識別機能を果たし得ないとしても、本件商標の主要部が「ティービーエス」のみにあるとする請求人主張は不当である。請求人が主張するように、たとえ「ヨコハマティービーエス」中の「ヨコハマ」から、役務提供地名である「横浜」を想起するとしても、本件商標はあくまで片仮名文字を一連に等間隔で「ヨコハマティービーエス」と書されていることから、これを理由なく前半と後半とに分離分割し、前半からは「横浜」の語が、後半からは「TBS」の欧文字が当然の如く別個独立に生じるかのような請求人主張は、到底採用されるべきではない。
本件商標は、前述のように全て片仮名文字にて、「ヨコハマティービーエス」と前後で軽重の差なく、一体不可分に結合して構成されているものである。してみれば、このような商標を前半部と後半部とに分離分割して考察する場合は、何らかの合理的、かつ、具体的な、しかも積極的な理由がなければならない。たとえ「ヨコハマ」から「横浜」の地名が生じ得るとしても、それだけでの理由で、本件商標が一つの商標を二つの部分に分割できる結合商標であるなどと認定し、その結果「ヨコハマ」は要部ではなく、類否判断の要素となり得ないなどと主張することは、商標類否判断の基礎において重大な誤解があると言わざるを得ない。 特に、本件の如き、いわゆるサービスマークの場合において、役務内容・範囲などが特定地域を対象とするときは、その地域に密着したサービスを行うとのイメージを生起させ、かつ、地域性を出すために商標中に特定地域を表すことがある。この点、被請求人の商号も然りである。
したがって、地域名を有する商標が全て識別力がないとするのは不当であり、要は、結合態様が如何に自然に一体化されて構成されているか等を基準にして考察されるべきであり、これらの事情を勘案すると、本件商標は「ヨコハマティービーエス」と同書同大にて、しかもスムーズに一気に、かつ、淀みなく発音されることから、一体のものとして把握され、全体として識別力を判断されるのが至当である。
以上のことから、本件商標と引用商標とは、外観、称呼のみならず観念上、彼此相紛れることがない非類似の商標であり、たとえ商標「TBS」が、放送事業及びこれらと類似する役務或いは商品について周知・著名であるとしても、請求人の該商標と非類似で、かつ、該役務、商品と何ら無関係の役務に被請求人が本件商標を使用しても、混同のおそれを生じるものではないから、本件商標は、商標法第8条第2項(改正法附則第5条第3項による読替規定)及び同法第4条第1項第10号に該当するものではない。
3.商標法第4条第1項第8号及び同第15号該当について
(1)請求人は、テレビジョン放送、ラジオ放送、テレビジョンによる広告、ラジオによる広告、放送番組の制作、スポーツの興業の企画、演奏の興業の企画等の役務を表す商標として、引用商標が周知著名であると主張している。
しかし、上記役務中「スポーツの興行の企画,演奏の興行の企画」については、請求人は、甲各号証において引用商標「TBS」の周知著名性を一切立証してなく、このような主張は到底成立し得るものでない。また、「テレビジョンによる広告,ラジオによる広告」について商標「TBS」が、どの程度の周知性・著名性を具有しているかは、甲各号証からは詳らかになっておらず、これらの役務についての周知著名性も立証し得ていないから、「広告」に関する請求人の著名性も認められない。
請求人は、同人の「略称」がどの程度著名であるのか、本件商標の指定役務に対してこの「著名な略称」がどのように影響するのか(その役務に被請求人の登録商標を用いた場合、請求人の人格権が実際に毀損されるのか。)など、具体的な証拠の提示もないばかりか、その考察や主張も一切検討しておらず、単なる言いがかり的主張に終始している。
商標法第4条第1項第8号でいう「著名」の程度の判断については、商品又は役務との関係を考慮するものとされており(特許庁商標課編「商標審査基準」より)、この基準は、出願人並びに「他人」との法益均衡を図るうえで至当な基準である。また、発明協会発行の「商標審査基準の解説」によれば、『一部の分野で著名である場合は、あらゆる商品(役務)を指定商品とする出願商標に共通して同号に該当するとするのは行き過ぎで、著名な分野に係る商品を指定商品とする出願商標にのみ「著名な略称」とする取扱いとすることとしているものである』と解説されており、続けて、スポーツ選手の著名な略称は、商品区分第24類の商品を指定する場合に、デザイナーは、第17類の商品を指定する場合に、本号に該当する、というように、具体例が示されている。
このように、たとえ著名な略称であっても、そのことを理由に本号で無制限に保護されるというものでは決してなく、具体的に、他人の人格権が当該商品又は役務との関係で侵害されるか否か、或いは役務について出所混同が生じ得るか否かが問題となるのである。
本件の場合、本件商標中の「ティービーエス」の文字が「TBS」の称呼と同じくするものであるとし、これは請求人の著名な略称であるとしているが、この主張は上記審査基準の意図に反するものである。たとえ「TBS」が「一般放送事業,放送番組の制作」について、請求人の著名な略称であると仮定しても、それを以て直ちに、同号に該当するものではない。本件商標をその指定役務に使用すると、「一般放送事業,放送番組の制作」について「著名な」「TBS」の略称が毀損される事態になるかを具体的に検討するべきである。
しかしながら、本件指定役務は、「放送事業」とは一切何らの関連もない。したがって、請求人の略称とする「TBS」が放送事業分野でたとえ著名であったとしても、これとは無関係の役務についてまでも、同号に該当するとして無効となるものとは到底考えられない。
(2)商標「TBS」が、甲各号証から、たとえ「テレビ・ラジオなどの一般放送事業」に関して広く知られた商標として機能していると言い得るとしても、単にこの事実を以て、これらと全く無関係の第35類の役務についても「混同」を生ずると結論する請求人主張は、余りにも短絡的で主張にも全く根拠がなく、極めて不当な請求と言わざるを得ない。請求人は、甲第5号証ないし甲第23号証を以て、「一般放送事業,放送番組の制作」の使用事実を確かに示しており、これらの役務については、被請求人は周知性を否定しない。
しかしながら、本件商標の役務は、「広告」の他、「経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,競売の運営,輸出入に関する事務の代理又は代行,書類の複製,速記,筆耕,文書又は磁気テープのファイリング,建築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸与,タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与」を指定しており、およそこれらの役務は、請求人の周知の役務とは全く無関係の業務範囲に属するものである。
商標法第4条第1項第15号にいう「混同」の蓋然性があるか否かは、商標の著名度や営業の実体に応じた現実の商品・役務の取引社会の実情に照らし、個別具体的な事例に即して決定されなければならない。
しかしながら、請求人は、同人の提供する「放送事業,放送番組の制作」等の業務と、本件商標の上記指定役務の具体的な形態や提供の状況等に別して、「混同又はそのおそれ」を具体的事例をもって比較しているわけでもなく、単に「混同する」と一般的・抽象的に述べるに過ぎないものであるから、その主張には全く根拠がないと言わねばならない。
そこで、被請求人と請求人の業務とを具体的に比較すると、被請求人は、東京ビジネスサービス株式会社の子会社として昭和63年に設立されて以来、清掃業務,設備保守業務,保安警備業務等の各種のビルの総合管理業務を中心に、その他食堂経営,動物飼育管理,医療サービス,国際サービス,ソフトウエア開発など、ビルメンテナンスに付帯又は関連する各種の業務を営んでおり、主たる取引先として、一般の会社や病院や研究施設などで、これらが所有する建物及び建物内の種々の管理業務等を現に広く行っている。
このように、本件商標は上記種々の役務について現に使用されているが、しかるに、その過程で請求人の業務と混同される事態は、現実には全く発生していない。更に、このような顧客や建物の管理業務を行う中で、被請求人は、例えば、顧客の指示で、市場調査,職業のあっせん,書類の複製,速記,筆耕,文書等のファイリング,受付及び案内業務など顧客の要望又はビルメンテナンスの一環として、本件商標のもと、第35類の役務を提供することがあり得る。
これに対して、請求人は、商標「TBS」を本件指定役務と同種或いは隣接する役務についての使用実績は勿論無く、この分野は、請求人にとっては元来異業種であるから、この分野の取引者・需要者が本件商標に接したとき、当該商標が用いられた役務は請求人の提供する役務であると誤認される事態も全く想定できない。また、請求人の商標「TBS」に係る「一般放送事業,放送番組の制作」は、殆どの場合、各個人或いは一般家庭を対象としたラジオ、テレビによる放送業務にすぎず、上記したビル管理に付帯した業務とは何らの関連性も無いばかりか、これらの事業内容が隣接するような事態も考えられない。
このように、被請求人の事業内容及び本件指定役務と、請求人の事業内容とは全く相違しており、何らの関係も生じることがなく、また、取引系統も双方で全く異にしており、具体的に混同を生じる可能性は認められない。
なお、商標法第4条第1項第15号は、請求人が将来、経営の多角化を図って本件商標の指定役務記載の業務に参入し、その結果、将来出所の混同を生じるかもしれないとの事態を想定して、その可能性の有無を判断することまで求めているものではなく、現に差し迫って、本件指定役務の個々において出所混同の可能性又は危険性が具体的にある場合に、登録を無効とすることをその趣旨としていると解するのが妥当である。
そうとすれば、本件商標を第35類の指定役務に使用すると、請求人商標と混同を生じるおそれがあるのなら、その可能性を具体的に摘示立証し、論拠を主張するべきである。にもかかわらず、請求人は、「TBS」が「一般放送事業,放送番組の制作」について著名であるが故に、単に「ティービーエス」の文字を含むというだけで、本件商標を使用すると何ら関係のない第35類の役務についても混同を生ずると主張するだけであり、このような主張が成立し得ないことは明白である。
4.請求人の弁駁に対する再答弁
(1)被請求人は、「テレビジョン放送、ラジオ放送」に関して商標「TBS」が広く知られていることは否定しないが、請求人提出の甲各号証は、「テレビジョンによる広告、ラジオによる広告」の業務を営んでいるとの証拠を示すものとは全く認められない。したがって、請求人が「広告」の業務を「TBS」の商標で営んでいるとの主張、並びに該「広告」の役務について周知であるなどの主張は、到底認められるものではない。
そもそも第35類の役務「広告」に係る商標は、典型的には、いわゆる「広告代理業」を営む者が自己の業務を表彰するために使用するものであって、例えば、広告依頼主であるビール製造会社は広告代理店に対して新聞、テレビジョン、ラジオ等による広告の掲載を依頼し、当該広告代理店は宣伝内容を制作し、それを新聞やテレビジョン或いはラジオを通じて広告する。広告代理業者から見れば、「新聞、テレビ、ラジオ等」は広告の単なる媒介手段にすぎない。依頼主からの依頼を受けて「広告」をすることにより、当該広告代理店は、その対価(広告手数料)として広告依頼主であるビール製造会社から広告制作料、広告宣伝料等を徴収する。典型的には、このような「広告」によって事業を営む広告業者が当該業務を表彰するために使用するのが、第35類「広告」についての商標である。 しかるに、請求人は、ビール製造会社からテレビジョンによる広告を行うことを直接依頼され、その広告依頼主からの広告を代理して(すなわち、広告業者として)、テレビジョンやラジオを介して広告しているという業態では決してない。このことは、甲第12号証ないし甲第16号証からも明白である。請求人は、別体の広告業者が持ち込んだ広告をラジオまたはテレビジョンを通じて放送し、その放送手数料として、「広告業者」から徴収しているものである。このように、請求人が提供しているのは、特定の時間に放送する各種の広告に関する「民間放送業務」を行っているにすぎず、広告業自体を営むものではないのである。
甲第24号証ないし甲第308号証は、請求人が自ら放送するラジオやテレビ番組についての雑誌などへの広告類の写にすぎず、第38類「テレビジョン放送,ラジオ放送」の役務についての使用の一形態を示すに過ぎない。即ち、商標法第2条第3項第7号に規定する「放送」業務についての「宣伝」行為を示すものに過ぎず、業として「広告」について商標「TBS」を使用していることを証するものではない。
結局、請求人がたとえ「広告」(代理店)の免許を取得しているとしても、「TBS」の商標のもとで実際に広告業務を営んでいることを証明するものは、今回の弁駁書においても一切示されていないのである。請求人は、これらの「放送料金の請求書」類や、自らの番組広告類などを提出することにより、恰も請求人自らが広く「広告」の業務を行っているかの如くに粉飾しているが、これらの甲各号証からは、一切、当該役務の使用実績を確認することができない。
以上のように、役務「広告」だけを検討してみても、請求人が「テレビジョンによる広告,ラジオによる広告」の役務を行っているとしている事実さえも窺知できない以上、商標「TBS」が「周知」であるとして、本件商標は商標法第4条第1項10号に該当するとの主張は、提出証拠から判断して全くその周知性が確認すらできず、到底認めることができない。
(2)本件商標中「株式会社」の部分は法人組織を表す語で識別機能を果たし得ないとしても、「ヨコハマティービーエス」の部分は全て片仮名文字により、一体不可分に結合して構成されているものであり、分離分割して考察すべき積極的で具体的な、かつ、合理的な理由はない。よって、本件商標と商標「TBS」とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても非類似であることは明白である。
請求人は、被請求人が別件で提出した会社履歴書を新たに引用し、この表紙に記載の欧文字「YOKOHAMA TBS CO.,LTD」が間隔を開けて書されていることを理由として、本件商標も一体とは認識されないかの如き主張をしているが、該欧文字は、被請求人の英文表記にすぎず、これを以て本件商標が一体性を欠くとの主張は、その表示態様を無視した暴論で、到底認められるものではない。
(3)請求人が新たに提出した甲第309号証ないし甲第325号証は、自らの番組や、自らが主催するイベントの宣伝を目的とする広告について、商標「TBS」を使用している事実が示されているに過ぎない。
これに対して、本件商標の指定役務中の何を使用したときに、請求人等の業務である「スポーツの興業の企画、演奏の興業の企画、貸スタディオ」等との関連により出所の混同を生ずるのか何ら具体的に示されていない。なお、請求人がたとえ「TBS」の名のもとでこれらの役務を行っているとしても、全く「周知」ではなく、しかも「周知性」の立証さえもなされていない。
また、「混同はその蓋然性で足りるとし、仮にいままで混同の実績がなくとも事業が拡大すれば、請求人の商標と混同を生ずる蓋然性は否定できない。」としているが、全く短絡的な主張であると言わざるを得ない。請求人の上記各業務は、現に、どの程度の事業が拡大しており、また、どのように混同する具体的な危険があるのか、証拠によるも全く示されておらず、このような主張は単なる言いがかりの域を出ていない。
むしろ、本件商標の指定役務に係る被請求人の事業が拡大すれば、需要者・取引業者の間には、同人の築き上げてきた評判、信用が一層高まることになるわけであり、その評判、信用により、商標「株式会社ヨコハマティービーエス」は、周知性、著名性を帯びるに至ると考えるのが至当である。現に、被請求人の商標は、当業者の間では夙にその信用・名声が培われている。
(4)請求人は、「スポンサーとの間で代理店を介して番組枠等の販売の契約が成立すると請求人はテレビジョンによる広告を行う」と、恰も、自ら広告業を営むかの如くに主張するが、このような記載から請求人が広告業を営んでいるとは到底理解されないし、提出された証拠からも決してそのようには解され得ない。請求人がスポンサーに販売するのは、「番組枠」や「スポットCM枠」などの「放送帯」枠であって、これはまさに放送業を営むことに他ならず、「広告」業自体では決してあり得ない。
その証拠に、甲第12号証には「テレビジョン放送料金表」、同第13号証には「TBSラジオ放送料金表」、さらに、同第14号証ないし同第19号証には「TV放送料金請求書」、「ラジオ放送料金請求書」等と表示され、全て「放送料」としてスポンサー会社へ請求されている。
これからも明らかなように、請求人は「放送」手数料を徴収するものであって、広告料を徴収しているのではない。
(5)請求人は、直接広告を行う例として「屋外広告による広告」を挙げるが、これは、例えば「屋外広告業」、「掲示案内業」、「アドバルーン業」などの業態を指すものであり、請求人が行うような「放送による広告」などを指すのではない。
さらに、請求人は特例出願における出願公告公報を示しているが、どのような使用資料が提出されたかも明らかではなく、本件と同列に論じられるべきではない。
以上のように請求人の役務は、「広告」自体を役務とするのではなく、あくまでも「放送」を役務として提供するものであるから、「広告」業について商標「TBS」が周知であるとは決して言えるものではない。
また、本件商標は、あくまで「株式会社ヨコハマティービーエス」であって、商標の構成上、分断し得ない一体のものとして把握されるもので全体として識別力を判断されるべきものである。
甲第324号証は、本件商標の構成とは異なるもので、この表示態様を以て本件商標が分離観察されるとするのは早計で、商標登録自体の瑕疵を争う「登録無効審判」とは無関係である。
商標「TBS」の「テレビジョン放送,ラジオ放送」の役務についての周知性は否定しない。但し、このことは商標「TBS」が、全国的にも有名で、しかも、他人が放送業と全く関係のない非類似商品・役務について、本件商標を用いると出所混同が生じる程に「著名」であると認めているわけではない。
商標法第4条第1項第15号は「出所の混同のおそれ」を要件として非類似の商品又は役務についても適用があることから、引用商標は周知度がとくに高いこと、すなわち著名商標であることを要すると解されている。ここで、著名商標たるには全国的に周知であることが必要であると解されており、商標権が日本全域で効力を有することからも至当である。そして、静岡放送は 「SBS」、北海道放送は「HBC」、琉球放送は「RBC」なのであるから、東京に住んでいる人の立場だけで著名性を判断してはならない。即ち、「TBS」の周知・著名性は、静岡県、北海道、沖縄県に住んでいる人にも、東京放送の略称として周知・著名であるかどうかを基準として判断されなければならない。
請求人は、商標「TBS」が本件商標出願時において、請求人の略称として全国的に著名であるとの立証をしていないばかりか、弁駁書において提出した証拠の殆どは本件商標出願時以降のものであり、これをもって著名性を立証できたとは到底言えない。
また、上述したように、テレビ放送業者は「TBS」に限らず、「SBS」、「HBC」、「RBC」のように、通常、欧文字3文字からなる略称を選択しており、これを自らが放送するエリア内でテレビによって使用し、周知にすることはきわめて容易なことである。この行為によって商標が全国的に著名であるとし、非類似商品または非類似役務にまで出所の混同が生じるとするのであれば、欧文字3文字からなる商標はテレビ放送事業者に独占させることにもなってしまい、ひいては商標選択の幅を狭めることにもつながる原因となる。
よって、テレビ放送業者の使用する商標についての周知の程度及び出所の混同が生じる範囲については、極めて厳密、かつ、厳格に判断されなければならない。
(6)請求人は、被請求人の会社経歴書を引用して、依然として本件商標が「YOKOHAMA」と「TBS」に分離観察できると主張しているが、仮に、このような判断が許されるなら、商標「東京放送」、「静岡放送」、「北海道放送」、「琉球放送」は、頭に地名を表す「東京」、「静岡」、「北海道」及び「琉球」があり、これと「放送」の文字を組み合わせただけのものであるから、「放送」が要部であり、この四つの商標は全て相互に類似するとの論理が成り立つことになるが、たとえ地名と「放送」の文字だけでなる商標であっても、同書同大にて、しかもスムーズに一気に、かつ、淀みなく発音されるのであれば、一体のものとして把握し、全体として識別力を判断するのが至当である。
このことからも明らかなように、本件商標を「YOKOHAMA」と「TBS」に分離観察できるとする請求人の主張は絶対に受け入れられない。
また、商標の審査基準では、「商際の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならない。」としている。この基準によって、本件商標と「TBS」とを比較すると、「TBS」は東京放送、即ち「TBSテレビ放送」或いは「TBSラジオ放送」の意味、観念は生じても、この放送番組を提供している放送局会社を直接想起するものではない。
一方、「株式会社ヨコハマティービーヱス」は、「株式会社」とあるところから直接に会社名を表し、また「ヨコハマ」は、日本の横浜の地名を表す語で、この会社の所在地を表示する等の目的で、地名表示の語をその構成中に採択したものである。このように、地名表示の語を会社名の頭部に位置させることにより、該文字によって会社名の一部を構成し、その所在地を表示するための語として理解し、認識されるとみるのが自然である。
よって、本件商標は、全体として一会社名を表示してなるものと認識されるから、その構成文字に相応して「カブシキカイシャヨコハマティービーヱス」 と一連にのみ称呼され、かつ、会社名を観念させるというべきである。
したがって、本件商標は、商標「TBS」が役務「テレビジョン放送、ラジオ放送」に使用され、取引者・需要者間に知られていたとしても、これと類似しないことは言うまでもなく、その指定役務に使用しても役務の出所について混同を生ずるおそれは些かも生じない。
(7)ここで、審査においていずれも公告すべきものであると認定された乙第3号証ないし乙第5号証を挙げる。そして、これに本件商標を加えた4件の商標と、商標「TBS」との非類似度の強弱を比較した場合には、乙第3号証が最も非類似度が弱く、続いて、乙第4号証、乙第5号証、本件商標の順になると考えられ、本件商標が商標「TBS」との関係では最も非類似度が高いと言える。
しかるに、上記3件の商標が公告になったということは商品又は役務との関係においては、東京放送の「TBS」が、れんがやセメントの製造をしたり、建築物の設計をしたり、産業廃棄物の収集をしたりはしないことを需要者又は取引者は認識していることが明らかだからであろう。そうとすれば、本件の場合も全く同様に解するのが至当であり、本件商標の指定役務についても同様の認定とされるのが道理である。
1.利害関係について
当事者間において利害関係について疑義が生じているので、この点について判断するに、請求人主張の全趣旨によれば、請求人は、自らの放送事業を表彰し或いはその会社名称を表示し若しくはその取り扱いに係る放送その他の役務を表示するものとして使用する標章の存在を理由として本件審判請求を行うものであり、また、それら標章と本件商標との関係をみるに、その標章又は商標の具体的構成、指定役務その他の点よりみて、請求人は本件審判を請求するにつき具体的かつ直接的な利害を有する者と認められる。してみれば、本件審判の請求は、請求人により法律上の正当な利益に基づき適法にされたものというべきであって、これを不適法なものとして却下することはできない。
2.無効事由の存否について
請求人は、本件商標の無効理由の一つに商標法第4条第1項第15号該当を主張しているので、この点について判断するに、当事者双方の主張の論点は(1)広告と放送両役務間の切り分け(2)本件商標の構成とその考察(3)請求人に係る役務との出所混同のおそれの有無、の3点にある。以下、検討する。
(1)広告と放送両役務間の切り分け
わが国産業分類上、放送業は、公衆によって直接視聴される目的をもって無線又は有線の電気通信設備により放送事業を行う事業所が分類されるとされていて、大きく、公共放送業(有線放送業を除く)、民間放送業(有線放送業を除く)及び有線放送業の三つに大別され、この内、民間放送業はさらにテレビジョン放送業、ラジオ放送業及びその他の民間放送業に分けられ、産業分類上の定義として、テレビジョン放送業、ラジオ放送業ともに「主として広告料収入又は有料放送収入によりテレビジョン放送事業(ラジオ放送事業を兼営するものを含む)又はラジオ放送事業を行う事業所をいう。」とされていて、民間放送事業が元々広告料又は有料放送による収入により成り立つ事業であることが明示されている(いずれも、総務庁統計局統計基準部編集,財団法人全国統計協会連合会,平成5年発行「日本標準産業分類」より。)。因みに、株式会社電通1985年発行広告用語事典「広告収入」の項に示されている「(いわゆる)民放は、広告収入を主体に運営されている。新聞社でも販売収入を上まわる場合も近年みられるようになってきた。」旨の解説はこの状況の一端を示すものと考えられる。
また、わが国放送事業を規制する法令の一つである放送法(昭和25年5月2日法律第132号,昭和25年6月1日施行)によれば、同法第51条の2において、「一般放送事業者は、対価を得て広告放送を行う場合には、その放送を受信する者がその放送が広告放送であることを明らかに識別することができるようにしなければならない。」とし、一般放送事業者(民間放送事業者)が広告放送を行う際は当該広告放送の識別措置を義務づける旨定めているように、民間放送事業者が対価を得て広告放送を行うことを予定した規定ぶりとなっていることが認められる。
ところで、一般に、広告代理業とは、広告会社(広告代理業者)が広告主の委託により市場調査、広告企画の立案、媒体の選択、広告物作成、媒体との広告契約などを広告主に代わって代行すると同時に、媒体社に対し広告スペース、タイムの売買業務と広告料金の回収業務を担っているとされ、また、広告取引とは、広告主と広告会社の間と、広告会社と媒体社との間の二つの取引がある。媒体社は、広告スペースやタイムを広告会社を通じて広告主へ販売する。他方、広告会社は広告主に対して、広告スペースやタイムの販売のほかに、広告計画の立案、広告物や販売促進物の制作、調査など一連のサービスを販売するとされている(いずれも前出広告用語事典「広告代理業」及び「広告取引」の項より。)。
そこで、新聞、雑誌、テレビジョン放送又はラジオ放送等の事業についてみるに、その主たる業務はそれぞれ新聞、雑誌の発行(販売)であり、また、テレビジョン又はラジオ放送にあること当然であるが、一方において、これら紙面又は電波による情報伝達媒体が広告業務と密接に関連すること前記したとおりであって、事業運営上広告収入を見込み又は当初より生業の糧としていることはすでに周知の事実である。そして、テレビジョン又はラジオ放送を利用した広告・喧伝効果の効用は今更述べるまでもなく、各種企業がそれぞれに前述広告代理業者を介するなどして当該取り扱いに係る商品又は役務(サービス)について予め企画・設計した内容の広告放送(番組スポンサー又はコマーシャル放送)を限られた時間内に最大の喧伝効果をあげるべく広告業務に努力を傾注しているのが実情である。
この場合、広告主と広告会社(広告代理業者)との間において取引されるいわゆるタイムセール(番組スポンサー)又はスポットセール(CM放送)と呼ばれるテレビジョン又はラジオ放送のタイム販売は、不特定多数の広告主との間において任意の放送番組又は放送時間を取引対象として専ら広告を目的として取引されるものであって、この間で取引指標とされる商標(サービスマーク)は当該広告に係る役務を表示するものとして機能するものといえるから、前記産業分類上の広告代理業に分類されるとともに、商標法上においては、役務の区分第35類「広告(の代理)」に該当し、本件商標の指定役務中の広告の概念に包摂されるものといえる。
しかし、広告会社(広告代理業者)と放送事業者との間において取引されるタイムセール又はスポットセールの実体は、当該広告に係る媒体物(手段)としての広告放送にあり、この間で取引指標とされる商標(サービスマーク)は当該放送に係る役務を表示するものとして機能するものといえる。したがって、当該放送内容が広告に関わるものであるからといって直ちに広告に係る役務の提供とみるのは妥当でない。
因みに、前出放送法は、第2条三の二(放送事業者の定義)において、『「放送事業者」とは、電波法の規定により放送局の免許を受けた者及び委託放送事業者をいう。』旨定義し、当該「放送事業者」が「日本放送協会」(いわゆる「NHK」)であるのか又は「一般放送事業者」(いわゆる「民放」)であるのかを区別することなく一律に規定している点で両者は同一業種のものというべきであり、かつ、前者が主として視聴者との受信契約・受信料の接受(同法第32条)にあり、他方が主として広告主によるスポンサー料金、スポット料金にあるとの事業基盤の違いをもって、前者の業種又は役務を「放送」とし、後者のそれを「広告」とするかの如き考えは実情を無視したものであって、不合理極まりない。
また、この点に関し請求人が提出した甲第9号証乃至甲第19号証の各証拠は、テレビ週間番組表、ラジオスポットテーブル、同放送番組表、テレビジョン放送料金表、ラジオ放送料金表、TV番組販売及びTV又はラジオ放送料金に係る請求書であって、いずれもテレビジョン又はラジオ放送に関し当該番組スポンサー契約又はスポット放送契約に基づく放送取引を示す以外の何ものでもなく、それら書証をもって請求人商標の広告業務についての使用とみることはできない。
しかしながら、前述したように、新聞・雑誌の販売又はテレビジョン放送・ラジオ放送等の事業は、それ自体極めて有効な広告媒体として社会に定着していて、広告業務とは表裏一体の関係にあり、両業種は元々密接不可分に仕組まれた産業構造上の経済活動とみるのが相当であるから、両業種を単に産業分類又は商標法上の区分の論理で割り切ることのみで結論を導くことは却って実情を無視する結果となるから、これら産業構造上の特殊事情をも考慮に入れた審理・判断が必要と考えられる。
(2)本件商標の構成とその考察
本件商標は、その構成前記のとおり「株式会社ヨコハマティービーエス」の文字よりなるところ、該構成からは全体として商標権者の商号を表示したものと理解される。
しかして、商号といえども、事業者がこれを商標として、すなわち、自己の取り扱いに係る商品又は役務についてその出所を表示し又は他人に係る商品又は役務とを識別するために使用する標識として使用する場合は、商標本来の機能・役割である自他商品又は役務の識別力を問われること通常の商標の場合と同様であって、一般に「株式会社」の文字部分は当該会社の組織種別を表示するに止まり、それ自体は商品(又は役務)識別の機能を有するものとはいえず、また、都市名(地名)、著名な繁華街又は観光地等の名称も当該商品又は役務の産地・販売地又は取引地・提供場所を表示したものと理解されるに止まり、それ自体は商品(又は役務)識別の機能を有しないか若しくは識別機能の極めて弱い部分とされるから、かかる場合、識別性がなく又は識別機能の弱い部分を除いた他の構成部分をもって商品(又は役務)識別の標識と捉え、該文字部分より生ずる称呼等をもって簡便に取引に当たる場合も決して少なくないというのが取引の実情に照らし相当である。
因みに、本件商標の場合、「ヨコハマティービーエス」の片仮名文字部分を主要な構成部分とすること前記のとおりであって、これを構成する前半の「ヨコハマ」の文字部分より直ちに神奈川県東部のわが国最大の貿易港を抱える横浜市を指称する「横浜」(よこはま)を想起させる結果、その指定役務の提供場所・取引地を認識させる点で必ずしも識別性の強い部分とはいい難いものである。加えて、本件商標の商標権者(被請求人)は「横浜市西区」に所在する会社であることが商標登録原簿の記載より明らかである。そして、同後半の「ティービーエス」の文字部分は、欧文字の「T」(ティー)、「B」(ビー)及び「S」(エス)の各文字の片仮名表記と容易に理解されると同時に、それ自体に識別性がないということはできないから、本件商標にあって「ティービーエス」の片仮名文字部分もまた主要な構成部分ということができる。
(3)請求人に係る役務との出所混同のおそれの有無
商標法第4条第1項第15号において定める「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」の当否を判断するに当たっては、当該商標の具体的構成、その商品又は役務の分野における需要者一般の注意力及び当該他人の標章の著名性その他諸般の事情を考慮の上、そのおそれの有無を個別・具体的に判断することにあると解するのが相当である。
これを本件についてみるに、請求人の主張及びその提出に係る甲各号証によれば、請求人「株式会社東京放送」(英文表記:「Tokyo Brordcasting System,Incorporated」,略称「TBS」)は、テレビ放送について「JOKR−TV」(第6チャンネル)、ラジオ放送について「JOKR」(周波数954キロヘルツ)のコールサインをもって放送法による一般放送事業の認可を受けているわが国有数の民間放送局であって、事業所を東京都港区赤坂在の本社に置くほか、大阪支社、名古屋支局、横浜支局、大宮支局に置き、北は北海道放送(HBC)から南は琉球放送(RBC)に及ぶネットワーク網を保有し、平成4年3月現在で同社のテレビネットワーク「JNN」加盟社は全国27社、同じくラジオネットワーク「JRN」加盟社は全国33社を数える全国レベルの放送規模を有する放送事業者である。また、同社の創立は今より約半世紀以前の昭和26年に遡り、以来、同社は放送事業のほか、放送番組の制作、ビデオソフト・オーディオソフトの製作・販売、住宅展示会・博覧会・コンサート・演劇会・演奏会・スポーツ関連競技会等各種催し事の企画・開催を行い、さらに最近では映画制作を手がけ、また、その関連子会社により、スタジオ・美術製作施設などの賃貸・保守・運営管理その他土地・建物の賃貸等の不動産事業、放送施設の調査・設計・建設、放送番組・CMの制作、放送設備・CATV設備等の技術コンサルタント、各種催事の企画・運営・実施、スポーツ施設の運営等も手がけ、いわば、放送又は教育・娯楽・文化関連総合事業体ともいうべき事業者であることが認められる(甲第20号証乃至甲第23号証の4、甲第309号証乃至甲第325号証)。
そして、同社が自己の放送事業に係る業務を表彰し又はその取り扱いに係る放送関連役務について使用する引用商標(「TBS」)又は「TBS」の標章(以下、「請求人商標」という。)は、本件商標の登録出願時である平成4年当時はもとより現在においても引き続き全国各地の不特定多数の視聴者間において広く認識せられたいわゆる周知・著名商標と認め得るものであって(甲第5号証乃至甲第325号証)、この点、本件審判の被請求人(商標権者)も争っていない。
そこで、前記時期において請求人商標の著名性が本件商標の指定役務とする広告その他の役務の分野に及ぶものかどうか、また、それによって本件商標に接する需要者がその役務の出所について混同を来すおそれがあるか否かについて、本件商標の具体的構成、その指定役務の分野における需要者一般の注意力及び請求人商標の著名性その他諸般の事情を踏まえ具体的に検討する。
(イ)請求人会社の事業の特殊性、すなわち、性別・年齢の違いを超えた需要者一般が日常的に請求人会社に係る当該放送に接する機会を持つという特殊事情、株式市場において昭和35年東証一部上場会社に参入して以来現在に至っている事情、さらには、放送又は教育・娯楽・文化関連総合事業体ともいうべき多角的経営実態にあること等の点よりして、請求人商標に対する認識はわが国の各界各層の不特定多数の者において社会的存在として定着しているとみて差し支えなく、したがって、請求人商標は業種の違い又は当該取り扱いに係る役務の違いを超えたいわば全国周知の商標といえるものである。
(ロ)広告業務と放送業務は産業構造上又は需給状態において表裏一体の関係にあり、一方は顧客(需要者)に対して具体的に訴求する思想表現であり、他方はこれを電波を介して伝達するための媒体手段であって、マクロ的な広告市場全体からみた場合、両業種は相互に密接に関連するものといえるから、一般視聴者の場合はともかくとして、少なくとも両業種に直接・間接に関わる当業者並びにこの種役務(サービス)の取引者、需要者間においては、本件商標より請求人業務との関連を容易に想起し得るとみるのが相当である。
(ハ)本件商標の指定役務(「広告,経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,競売の運営,輸出入に関する事務の代理又は代行,書類の複製,速記,筆耕,文書又は磁気テープのファイリング,建築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸与,タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与」)は、平成3年9月25日政令第299号により標章の登録のための商品及びサービスに関する国際分類に即して定められた(平成4年4月1日施行)商標法施行令第1条所定の商品及び役務の区分第35類例示の役務を指定したものである。
同第35類は、「広告、事業の管理又は運営及び事務処理」の包括概念に示されるように、主として、人又は組織が提供する役務であって、a.商業に従事する企業の運営若しくは管理に関する援助、又は、b.商業若しくは工業に従事する企業の事業若しくは商業機能の管理に関する援助、を主たる目的とするもの及び広告事業所であって、すべての種類の商品又はサービスに関するあらゆる伝達手段を用いた公衆への伝達又は発表を主に請け負うものが提供するサービスを含むものと解される。
そして、前示本件商標の指定役務は、いずれも企業の事業活動に関し人的、組織的に提供される役務という点で共通し、かつ、広告とそれ以外の役務との関係についても、企業の事業活動上相互に密接に関連する役務であって、需要者の範囲を同じくする場合が多いいといえるから、これら各役務の相互関連性及び取引事情ないしは需給事情よりして、前記認定の請求人商標の著名性は本件商標の全指定役務に及ぶとみるのが相当である。
(ニ)本件商標は、その構成前述したとおり、商号商標であって、その主たる出所識別の機能を果たし得る部分は「ヨコハマティービーエス」にあり、かつ、同構成中の「ヨコハマ」の文字部分はその指定役務の取引地又は提供場所を想起させる点において識別機能を有しないか若しくは極めて弱い部分として把握される場合を否定し得ないから、本件商標に接する取引者、需要者が構成中の「ティービーエス」に着目し、該文字部分又はこれより生ずる「ティービーエス」の呼称が記憶印象に強く残るといえるものであり、加えて、請求人会社が横浜市に支局を置いている事情を考慮すれば、請求人会社との関連を想起することはなお容易といわなければならない。
以上、(イ)乃至(ニ)の各点によれば、本件商標(「株式会社ヨコハマティービーエス」)をその指定役務について使用した場合、これに接する取引者・需要者は、前記各事情よりして、請求人商標を容易に想起するとみるのが相当であり、したがって、該役務が請求人会社又は同人と組織的に何らかの関係を有する者の取り扱いに係る役務であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれが少なからずあるといわなければならない。
(4)結語
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものといわざるを得ないから、この理由をもって同法第46条第1項によりその登録を無効とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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