結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2010−890016(T2010−890016/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第4532622号商標(以下「本件商標」という。)は、「ENEMAGRA」の欧文字を横書きしてなり、平成12年11月16日に登録出願、第10類「医療用機械器具,氷まくら,三角きん,支持包帯,手術用キャットガット,吸い飲み,スポイト,乳首,氷のう,氷のうつり,ほ乳用具,魔法ほ乳器,綿棒,指サック,避妊用具,耳栓,医療用手袋,家庭用電気マッサージ器,しびん,病人用便器,耳かき」を指定商品として、同13年11月19日に登録査定がなされ、同年12月28日に設定登録されたものである。
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第26号証(枝番を含む。)を提出した。
本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同第10号及び同第19号に違反してされたものである。
(1)請求人と被請求人の関係
ア 請求人の商品開発
請求人は、USP5797950号(甲第1号証)に係る前立腺治療器(後述する前立腺、会陰マッサージ器に相当)の発明者である。米国特許の出願後、この特許出願に係る前立腺治療器について、米国での製造・販売を開始し(甲第2号証の1及び2)、自身が経営するHigh Island Health LLC(以下「HIH社」という。)のホームページを通じ、「エネマグラ」の商標を付した前立腺治療器の製造・販売を行っているものである。この商品についての優れた効果を確認しつつ、米国特許出願を基礎とし、日本において特許出願をした。
イ 日本での販売
1998年(平成10年)8月頃、大阪府枚方市で三牧ファミリー薬局を経営する被請求人を知り、日本での販売を行うため、被請求人と共にインターネットを通じての宣伝を開始し、同年10月30日に、被請求人は、前立腺、会陰マッサージ器の販売のためのホームページを立ち上げた。甲第3号証の1ないし7は、請求人と被請求人との間の電子メールによる通信記録であり、アンケート調査を経て、販売用のホームページ開設に至るまでの双方間のやり取りが記録されている。ここでは、請求人の製造に係る前立腺治療器が前立腺、会陰マッサージ器として販売され、その名称を「エネマグラ」とすることが決定した。同時に、モニター募集のためのアンケート(甲第4号証)を実施し、その回答者の中から20名程度を選び、これらの者に商品を無償で配布して実際の使用効果についての感想を集めた。甲第5号証に示すように、このアンケートに基づく使用効果をインターネット上に掲載することを請求人が提案し、その実施は絶大な宣伝効果を生み出した(甲第17号証)。なお、被請求人が経営する三牧ファミリー薬局のホームページ(甲第6号証)において、エネマグラの宣伝のキャッチフレーズとして使用している「三牧ファミリー薬局は真剣です・・」のうたい文句から始まる宣伝文及び使用法等のインストラクションの全ては、請求人が被請求人に与えたものである。
1999年(平成11年)3月頃、請求人は多くの試作品から得た情報を基にして優れた特徴を備えた量産品として「エネマグラ EX」を開発し、日米両国において販売を開始するや否や一気に販売量が増加した。このようなタイプの前立腺、会陰マッサージ器は、世界でも前例のないものであったため、発売から約1年の期間で急速に需要者の間に広まり、「エネマグラ EX」は、現在、世界的なスタンダード商品となっている。
ウ 被請求人による模倣品の製造販売
ところが、1999年(平成11年)9月頃、被請求人は、請求人が製造・販売する前立腺、会陰マッサージ器のうち、商標名「エネマグラ EX」と「エネマグラドルフィン」の特徴を備えた模倣品に「エネマグラドルフィンEYE」なる商標を付した商品の製造・販売を請求人の許可を得ることなく開始した。さらに、同年12月には、請求人の「エネマグラ EX」そのものの模倣品に「エネマグラ EX」なる商標を付した商品の製造・販売を、これも請求人の許可を得ることなく開始した。
真正品と模倣品の双方が「エネマグラ」の商標の下で取引されていることは、甲第17号証に「・・・市場に流通するエネマグラには『正規品』と『そうでない怪しげなもの』の2種類が存在するのだという。・・・」との記載から明らかである。
これ以降、被請求人は、請求人から商品を全く購入しなくなった。また、請求人は、被請求人に対し、模倣品の製造・販売を中止するよう再三申し入れをしたにもかかわらず、被請求人は、模倣品の製造・販売を止めなかったため、請求人は、被請求人に対して、被請求人の模倣品の製造・販売行為は、不正競争防止法第2条第1項第3号の不正競争行為に該当する旨の警告書を送付し、さらに、その後、2000年(平成12年)4月10日に抗議文を送付している(甲第7号証)。
エ 請求人の使用商標
請求人は、1999年(平成11年)3月頃から、米国HIH社製の「エネマグラ EX」を始めとする数種類の商品を日本において、被請求人が経営する三牧ファミリー薬局のホームページ等で「エネマグラ」の商標を使用して販売した(甲第3号証の1ないし7)。その後、被請求人が模倣品の製造・販売を開始したため、三牧ファミリー薬局のホームページでのHIH社製の商品の販売が不可能となり、2000年(平成12年)2月頃から、日本国内における「エネマグラ」の商標を付した前立腺、会陰マッサージ器の販売を千葉県在のパインズ社(ThePines社)に委託することにし、パインズ社を通じて現在まで販売してきた(甲第8号証)。
請求人が、現在まで自己の製造に係る商品に使用してきた商標は、一貫して「エネマグラ」又は「ENEMAGRA」である。甲第9号証(フリー百科事典「ウィキペディア」)の「エネマグラ」の項には、「日本ではエネマグラジャパン/THE PINES STORE(パインズ)が総輸入・発売元となり、エネマグラ及びアネロスという名称で売られている。」との記載がある。
(2)本件商標を出願することに対する許諾の不存在
請求人は、2000年(平成12年)9月6日に、被請求人に対して不正競争行為(不正競争防止法第2条第1項第3号)を理由として、模倣品の製造・販売の中止等を求める民事訴訟を提起したが、その訴訟の継続中の同年11月16日に、被請求人は、請求人の了解を得ずに無断で本件商標についての商標登録出願を行った。
請求人は、被請求人が共同して、日本においてHIH社の商品(真正品)を販売するからこそ、「エネマグラ」の商標の使用を被請求人に許可したのであり、仮に、被請求人と共同で、日本国内においてHIH社製の真正品を販売する状況が継続していたとしても、「ENEMAGRA」またはこれに類似する「エネマグラ」の商標を被請求人のみが独占的に使用できることを直ちに許容するわけはなく、これらの商標の出願・登録について、どのような扱いにするか、両者間において十分な協議がされるべきであった。
上記のような経緯にかんがみれば、被請求人は、本件商標について正当に商標登録を受ける権利を有する者とは到底認められない。
なお、日本知的財産仲裁センターにおいて、被請求人が株式会社I−ネットサービスの登録した「ENEMAGRA.CO.JP」なるドメイン名に対して申し立てたJPドメイン名紛争処理(事件番号JP2004−0001)における裁定(甲第22号証)においても、「・・・申立人(本件審判における被請求人)が商標登録を受けることにつき、高島氏(本件審判における請求人)から了承を得ていたと認めることができない。・・・申立人は、本件ドメイン名『ENEMAGRA.CO.JP』の要部である『ENEMAGRA』につき、高島氏の商品の商標として商標『ENEMAGRA』を排他独占的に使用する地位を有する者とも、商標登録を受ける権利または正当な利益を有する者とも認められない。」旨指摘されている。
以上のように、被請求人は、請求人の許諾を得ないで無断で、本件商標を出願し登録を得たものである。
(3)不正の目的を有する使用
請求人が経営するHIH社が1999年(平成11年)3月に完成させたHIH社の「エネマグラ EX」の真正品(甲第10号証の1)には、「HIH Made In USA PAT.NO.5797950」(請求人の会社の頭文字及び請求人が所有する甲第1号証に示す米国特許番号)が刻印され(甲第10号証の2)、それ以降、HIH社の真正品には、上記の刻印が付されている。
一方、被請求人は、当初、請求人と共同してHIH社が製造した商品(真正品)を販売していたが、1999年(平成11年)9月以降、一転して模倣品のみを販売するようになった。そして、その模倣品にも、真正品のものと酷似した「HIH PAT.NO.5797950」の刻印が存在する(甲第11号証の1、2、甲第12号証の1、2)。これらのパッケージの左上方には「KOKANDO」の英文字があり、かつ右下に「エネマグラR(「R」は○の中にRの記号)は有限会社光漢堂の登録商標です。」の記載があることから、これが被請求人の製造・販売に係る商品であることは明確である。
また、請求人が別途入手した「エネマグラ EX」の模倣品の写真(甲第13号証の1、2)やパッケージ台紙の写し(甲第14号証の1、甲第18号証)にも「U.S.A.Patent No.5797950」が記載されており、上記の模倣品に添付されている使用説明書(甲第19号証)には「(アメリカでは充満前立腺液絞出器として特許をうけた製品です)、『HIH』という刻印のあるほうが会陰に来る様に・・・」と記載されている。
さらに、被請求人は、当時、模倣品の製造を株式会社ルッツに依頼していたところ、甲第20号証は、模倣品を製造した株式会社ルッツが作成した設計図である。この設計図中には、製造する模倣品に「HIH PAT.NO.5797950」の刻印が付されることが明示されている。また、品名の欄に「エネマグラ プロステイヤー」の片仮名文字が記載されており、この文字に対応すると思われる「Enemagra Prostater」の文字は甲第11号証の1、甲第12号証の1等に示すように模倣品に付されているが、この名称は真正品に使用されているものではない。
そして、模倣品にも「HIH」の文字や米国特許番号が付されていることは、甲第17号証(株式会社太田出版発行「エネマグラ経典第5刷(2007年5月24日発行)」においても言及されている。
上記のように、被請求人は、自己の商品(模倣品)に請求人の商品(真正品)と紛らわしい表示を付すことで、積極的に虚偽の出所表示を行っていることは明白である。被請求人は、正式に販売を開始した1998年(平成10年)10月から1999年(平成11年)9月までは真正品を販売し、それ以降現在まで模倣品を販売しているのであり、販売開始から約1年が経過したところで、突然、製造・販売する商品を真正品から虚偽の出所表示を付した模倣品にすり替えた格好である。このような経緯であるため、需要者側は、被請求人が継続して真正品を提供していると信じるのが道理であり、ましてや、HIH及び請求人の所有する米国特許番号の刻印があれば、商品の出所の混同及び商品の品質の誤認が生じるのは必然である。
かかる状況から、被請求人は、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と出所の混同を生じさせ、その信用にただ乗りしようとする不正の目的を有していることは明らかである。
(4)まとめ
以上のように、本件商標の出願は、請求人の使用商標及び商品の存在を知りつくしたうえ、それが商標登録を受けていないことを奇貨として行われた、いわば剽窃的行為といわざるを得ないものである。そして、かかる経緯をともなう登録は、社会的妥当性を大きく欠いているため、商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認することができない。
また、その不当に獲得した本件商標を模倣品について使用し、これに加え、上記のような請求人の製造・販売にかかる真正品と極めて紛らわしい表示を付して販売する行為は、請求人の築いた信用にただ乗りしようとする不正の目的が明白であり、請求人の業務上の信用を著しく傷つけるものである。同時に、それは、需要者・取引者を欺く行為であって、市場に無用の混乱を生じさせ、公正な商取引の秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものといわなければならない。
そして、このような商標が商標法第4条第1項第7号に該当することは、東京高裁平成16年(行ケ)第7号判決及び東京高裁平成14年(行ケ)第616号判決に照らしてみても明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(1)請求人は、1998年(平成10年)8月頃、大阪府枚方市で、三牧ファミリー薬局を経営する被請求人を知り、日本での販売を行うため、被請求人と共にインターネットを通じての宣伝を開始した。被請求人は、当初、請求人と共同してHIH社が製造した商品(真正品)を販売していたが、その後、1999年(平成11年)9月以降一転して模倣品のみを販売するようになった。そのため、請求人は、日本国内において、「エネマグラ」の商標を付した前立腺、会陰マッサージ器の販売をパインズ社を通じて現在まで継続して販売している。
請求人の発明に係る「前立腺、会陰マッサージ器」は、従来にない特異な機能と形態を備えていたため、需要者の興味をそそり、インパクトが強く印象に残りやすいものであり、請求人の使用商標及び請求人が製造する使用商品が需要者に認識されるまでの期間は極めて短かったといえる。
前述したとおり、被請求人に対する差止請求訴訟(不正競争防止法第2条第1項第3号)において、模倣品の販売個数の報告を求められた被請求人は、1999年(平成11年)9月から2000年(平成12年)10月5日までの販売個数が2,541個であったと報告しているが、約1年間の販売個数としては決して少なくはない(訴訟の終了後に判明した実際の販売個数は6,206個であった。)。これは、本件商標の出願前のものであり、本件商標の出願時においては「ENEMAGRA」の商標は、当時、日本国内においてインターネット等を通じ、既に需要者、取引者に広く知られていたので、周知性を獲得していたものと認められる。
また、甲第23号証は、被請求人が商標「ENEMAGRA」を使用する「前立腺快癒器」を販売するために開設した2000年(平成12年)のホームページの写しである。既に日本で製造した模倣品を販売していた時期であるにもかかわらず、HIH社の真正品を販売していた当時の「米国製前立腺快癒器」、「U.S.特許番号 USP5797950、世界各国へ特許出願中」とあり、「DOLPHINE BIGはENEMAGRA.COM(Houston)から直接購入も可能です。」等の記載がある。
したがって、これらを見た需要者及び取引者は、HIH社の製品が販売されているものと誤認することは明白であり、これらの宣伝により、「ENEMAGRA」又は「エネマグラ」は、HIH社の「前立腺快癒器」を示す商標として需要者等に認識され、本件商標の出願時には、日本国内において需要者等に広く認識されたものとなっていた。
上記のように、模倣品は、請求人の経営するHIH社の製品として販売されていたので、「前立腺快癒器」についての商標「ENEMAGRA」及び「エネマグラ」の周知性は、請求人の製造に係る製品について獲得されたものである。
このような背景に基づけば、本件商標の出願時(2000年(平成12年)11月16日)及び登録時(2001年(平成13年)12月28日)の双方において、「ENEMAGRA」の商標は、HIH社が製造した「前立腺治療器」を示すものとして、広く需要者等に認識されていたといえる。
そして、本件商標と請求人使用商標とは、いずれも、英文字の「ENEMAGRA」を同書、同大で一連一体に書してなり、「エネマグラ」の称呼が生じるものであって、同一の商標である。
(2)なお、上記経緯からみれば、被請求人は、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と出所の混同を生じさせることを積極的に意図していることは明らかであるから、本件商標は、このような状況において出願登録されたものであって、不正の目的で商標登録を受けた商標であると認められ、除斥期間の規定は適用されない。
(3)よって、本件商標をその指定商品について使用した場合には、本件商標出願時及び登録時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている請求人の使用商標「ENEMAGRA」又は「エネマグラ」が使用されている請求人の商品と混同を生じるおそれがあるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものというべきである。
上述のような経緯からみれば、被請求人の行為は、請求人が真正品に関して蓄積した信用の上にただ乗りすると共に、請求人の使用商標を希釈化させ、その蓄積した信用を傷つけるものである。しかも、真正品であるかのように見せかけて品質の誤認、出所の混同を積極的に生じさせる状況で本件商標を使用しているものと認められる。すなわち、上記被請求人の意図は、まさに請求人の使用商標に表象される請求人の信用にただ乗りしようとするものであり、「不正の利益を得る目的」に該当する。また、「不正の目的」には、「他人に損害を加える目的」が含まれるが、模倣品は、仕上げが悪く表面にバリがあるので、粘膜を傷つけるおそれがある点で真正品よりも品質が劣るものであり、被請求人は、真正品はそのような粗悪な品質であると需要者に誤認させることで、請求人に損害を与えている。
したがって、本件商標は、不正の目的をもって使用するものであるから、商標法第第4条第1項第19号に該当するものといわざるを得ず、その登録は無効とされるべきである。
(1)被請求人は、請求人の使用する商標「エネマグラ」には周知性が認められないので出所の混同は生じない旨主張している。
しかしながら、1998年(平成10年)10月頃から、日本で販売された商標「ENEMAGRA」が付された「前立腺、絵陰マッサージ器」は全て米国製であり、それまで市場に存在しなかった画期的な商品であった。当時、日本において、その独占販売を行った被請求人は、上述したように、販売用のホームページ(甲第23号証)の最も目立つ箇所に「米国製前立腺快癒器」等と記載し、被請求人の製造によるものでなく、米国生まれの画期的商品であることを需要者・取引者に積極的にアピールしたのである。
このような事情から、商標「ENEMAGRA」が付された「前立腺、会陰マッサージ器」は米国で発明されたもので、米国におけるー定の出所から流出するものであるとの認識は、たちまち需要者等の間に浸透した。
発売後、本件商標を付した商品の販売量は順調に増え、被請求人は大きな利益が得られると考えたからこそ、模倣品の製造販売に手を染めたのである。そのとき、模倣品に「HIH」の文字と米国の特許表示とを付したのは、いわゆる「ただ乗り」の意図があったこと以外の理由は考えられない。他人の信用に「ただ乗り」する行為は、その商標に信用や名声が蓄積されたからこそ成立するのであるから、その前提として、最初の発売から約2年が経過した本件の商標登録出願時(2000年11月)には、商標「ENAMAGRA」は、「前立腺マッサージ器」を示すものとして、日本国内において需要者間に広く知られたものとなり、相当の信用蓄積がされていたのである。
なお、後述する甲第24号証では、本件商標の出願前の2000年4月から2000年10月までの間に、請求人は、日本向けに、商標「ENEMAGRA」を付した商品を合計442個販売したことが示されている。
以上のように、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に規定する「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」であるにもかかわらず登録されたものである。
(2)被請求人は、商標「ENEMAGRA」「エネマグラ」が付された商品「前立腺マッサージ器」は、被請求人の業務に係る商品として認識されているというべきである旨主張している。
しかし、甲第23号証の1頁2行目における「米国製前立腺快癒器」との記載からも理解できるように、需要者等は、商標「エネマグラ」を付した商品は、米国が出所源である商品を日本において被請求人が販売していると認識したことは疑いない。「米国製」であることがこの商品の「売り」であったのである。
審判請求書において述べたように、被請求人は、当初は請求人から購入した真正品を販売し、その後、突然、真正品の形態をデッドコピーした模倣品の販売を開始した等の諸事情がある。また、被請求人は、模倣品について、真正品と同様の「HIH」の文字や真正品の特許番号を極めて紛らわしい態様で付している。
上記のような状況下では、需要者が被請求人の商品を真正品(正規のライセンス商品と認識する場合を含む)であると誤認して購入するケースが後を絶たず、購人後もそれが模倣品であることに気付かない例も少なくない。このことは、甲第17号証においても指摘されているとおりである。
かかる事情を考慮すれば、このような商品は、実際は、被請求人により製造された模倣品であっても、需要者等に、これらは米国における一定の出所(HIH社)から流出した商品又は請求人の製造販売に係る商品であると誤認させたと考えられる。
(3)被請求人は、請求人の使用商標は本件商標出願時において周知であったと認めることはできず出所の混同を生じていないから、商標法第47条第1項かっこ書において定める「不正の目的」を論ずるまでもない旨主張している。
しかしながら、上記のように、真正品と模倣品の販売のための広告・宣伝によって、「ENEMAGRA」の商標は、本件商標の登録出願時において、需要者等に広く知られるものとなっていたものである。
そして、被請求人は、「ENEMAGRA」「エネマグラ」の商標を使用する模倣品についても真正品と同様の「HIH」の文字や真正品の特許表示を極めて紛らわしい態様で付している。このような行為は、本件商標の出願時には行われていたのであり、請求人の商標に蓄積された信用(真正品についての「ENEMAGRA」の使用により蓄積された信用)にただ乗りしようとする意図が明確である。
よって、本件商標は、被請求人によって、不正の目的をもって出願され登録されたものと言わざるを得ない。
(4)被請求人は、請求人の同意を得ることなく無断で本件商標の出願をしたものではなく、請求人がどのように取り扱ってもよいとの態度示したので、自由にしてもよいものと理解した旨主張している。
しかしながら、当初は、請求人と被請求人との間では、請求人が製造したHIH社製の真正品を日本において被請求人が販売する合意があり、請求人は、被請求人が日本においてHIH社の商品(真正品)を販売するからこそ、「エネマグラ」の商標の使用を被請求人に許可したのである。
ところが、被請求人は、模倣品の製造販売を開始したことで、ことごとく請求人の誠意と期待を裏切ったのである。被請求人による模倣品の販売開始によって、請求人と被請求人との信頼関係は完全に失われたのであり、請求人が被請求人に対し商標登録を得ることを許可していたと解する余地など全くなく、被請求人が本件商標登録を得たことを正当化することはできない。
(5)被請求人は、商標法においては、特許法におけるいわゆる冒認出願のような規定はなく、商標登録出願を行うに際して、請求人の許諾を必要とする根拠は見いだせない旨主張している。
しかしながら、問題なのは、被請求人が請求人の使用商標及び商品の存在を知りつくしたうえ、それが商標登録を受けていないことを奇貨として本件商標の出願を行った、いわば剽窃的行為であるという点である。このような悪意が存在する場合にまで、上記の「許諾を必要としない」ことで被請求人の行為が正当化されるべきではない。
(6)被請求人は、「HIH」の表示や「PAT.NO.5797950」などは単なる製造記号であって、それら自体に出所表示機能があると認められない旨主張している。
しかしながら、「HIH」の表示は、製造者が「High Island Health LLC」であることを示す製造標としての機能を十分に発揮している。すなわち、本件の商品の需要者等は、いわゆる幅広い層の一般消費者とは異なり、その多くは商品知識が豊富なマニアであり、商品の出所等を十分に認識しているので、「HIH」の表示を見れば「High Island Health LLC」が製造したもの、又は、米国の特定の製造者が製造したもの、あるいは、正規のライセンスを受けて製造された商品であると理解してしまう。
ここで最も重要なのは、真正品に付された製造標「HIH」や特許表示までもが模倣品に付されているという事実である。商品の出所の混同が生じるおそれがあるか否か以前に、上記事実が真正品を通じて獲得された請求人の信用にフリーライドし、その名声を毀損させようとする被請求人の主観的な意図を示しているからである。この意図がまさに不正の目的であることは論じるまでもない。
(7)請求人は、追加の証拠として甲第24号証ないし甲第26号証を補充する。
甲第24号証は、請求人が主にパインズ社に対して、商標「ENEMAGRA」が付された商品(前立腺マッサージ器)を出荷した際の記録であり、2000年4月から本件商標の登録査定時である2001年11月19日までの出荷個数は、2,427個である。
甲第25号証は、パインズ社が2000年5月10日から2001年12月28日の間に販売した商標「ENEMAGRA」が付された商品(前立腺マッサージ器)の数量を示す「売上一覧」であり、登録査定後に販売されたものを僅かに含むとしても、総販売個数は2,458個である。
甲第26号証は、平成15年(ヨ)第768号の取引差止等仮処分命令申立事件で提出された証拠であって、株式会社ルッツが(以下「ルッツ社」という。)被請求人へ宛てた書面である。これは、2001年(平成13年)当時、被請求人は、模倣品の製造をルッツ社に依頼しており、被請求人が模倣品を有限会社トイズファクトリー(以下「トイズファクトリー社」という。)に販売するにあたり、トイズファクトリー社は、被請求人を経由することなく、製造者であるルッツ社から商品(模倣品)を購入していた。ルッツ社は、被請求人に代わり、注文を受けて商品を納品し、その代金の回収をしていた。甲第26号証は、上記事情の下での模倣品の販売個数を示すものであり、2001年の商標「ENEMAGRA(エネマグラ)」を付した商品の販売総数は、6,735個であるが、本件商標の登録査定時である2001年11月19日までの販売個数は4,665個である。
これらの模倣品については、販売者は被請求人であるが、商標「ENEMAGRA」は、米国における一定の出所から提供される商品を示す商標として需要者等に認識されていたのであるから、上記使用によって、商標「ENEMAGRA」は、益々、そのようなものとして需要者等に広く知られるようになった。
上記のように、本件商標の登録査定時(2001年11月19日)までに、商標「ENEMAGRA」が付された商品「前立腺マッサージ器」は、少なくとも請求人側が2,000個以上を、被請求人側が4,000個以上を販売している。商標「ENEMAGRA」が使用される商品の需要者層は限定的であり、かつ、ほとんどがインターネットを通じての販売に限られている等の事情を考慮すれば、短期間の販売個数としては驚異的とも言えるものである。
よって、最初の発売から2年以上が経過した本件商標の登録査定時には、商標「ENEMAGRA」は、米国製の「前立腺マッサージ器」を示す商標として、需要者・取引者に広く知られていたものである。
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第7号証(枝番を含む。)を提出した。
本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第10号及び同第19号に違反して登録されたものではない。
(1)請求人の使用する商標の周知性
商標法第4条第1項第10号は、本件商標の出願時において、請求人の使用商標の周知性が要件とされる。しかるに、請求人の使用に係る「ENEMAGRA」が本件商標登録出願時である2000年11月において、請求人自身が経営するHIH社の「前立腺、会陰マッサージ器」に係る商品であると広く知られているとは到底認められない。
請求人の使用商標が周知性を獲得していたとする根拠として、請求人が主張しているのは、「インターネットを通じてのモニター募集等においても需要者の反応が強かったこと(甲第5号証)、別訴不正競争行為に関する民事訴訟において被請求人が報告した販売個数及び請求人のHPによる宣伝広告の事実のみである。
請求人の使用に係る商標が周知であるというためには、請求人自身の販売時期・販売数量・広告宣伝方法・マーケットシェア等客観的に検証可能な事実の立証を要すること論をまたない。しかしながら、請求人は、かかる事実を全く立証していない。
さらに、下記の点において、請求人の主張は事実に反するものである。
ア 請求人による宣伝広告について
請求人は、請求人自らが開設するHPで、商標「ENEMAGRA」を使用する「前立腺快癒器」を販売するとも主張するが、該HPは、被請求人らが開設するHPであって、請求人が開設するHPではない。
イ アンケートに基づく宣伝効果について
請求人は、「前立腺マッサージ器」の応募モニターに対してアンケートを実施し、当該実施されたアンケートに基づく使用効果が絶大な宣伝効果を生み出したのは請求人の功績であるかのごとく主張している。
しかしながら、このような宣伝効果を生み出したのは請求人の功績によるものではない。請求人の主張にもあるように、被請求人は、日本における「前立腺マッサージ器」の販売開始に先立ち、請求人の業務に係る商品である「前立腺マッサージ器」を販売することを請求人から委ねられ、当該商品について、商標「エネマグラ」及び商標「ENEMAGRA」の使用を開始した。
乙第1号証の1ないし6は、商品「前立腺マッサージ器」のアンケート調査、販売方法に関して、被請求人と請求人が行った電子メールでのやりとりの通信記録である。この通信記録により、日本におけるアンケートは、被請求人の名において実施されたものであることが認められる。特に、請求人が用意したアンケートの内容を被請求人に伝える電子メール(乙第1号証の5)では、アンケートの送付者は被請求人の経営する三牧薬局に設定されており、アンケートは被請求人の名で行うことを請求人は了解し、このときに既にアンケートの回答フォームが被請求人によって被請求人のホームページ上に作製されたことが請求人に伝えられている。
このように、アンケートにおける貢献は、そのほとんどが被請求人によるものであり、請求人の功績はほとんどないということができる。
ウ 販売個数について
請求人は、本件商標の出願前の売り上げから、本件商標の出願時においては「ENEMAGRA」の商標は日本国内において周知性を獲得していたと判断できると主張している。
請求人の主張によると、1999年3月頃から日本において被請求人が経営する三牧ファミリー薬局のホームページを通じて「エネマグラ」の商標を使用して販売したが、その後2000年2月頃から日本の総輸入・発売元であるパインズ社を通じて、「エネマグラ」の商標を付した商品を現在まで販売してきたということである。
そうとすれば、請求人が周知になったと主張する1999年から2000年当時、請求人が商標「エネマグラ」又は商標「ENEMAGRA」を付した商品の販路を形成したといえるものではなく、被請求人が商品の販路を形成したものである。
また、モニター終了後の1999年当時のリポートも被請求人のホームページに現在も掲載されており、被請求人が引き続き普及に努めていることが分かる(乙第2号証)。さらに、請求人が少なくないとして指摘する1999年9月から2000年10月までの間の販売個数は、被請求人の販売個数であって、請求人が周知性を獲得した根拠となりえるものではない。
請求人は、自身が経営するHIH社のホームページを通じ、「エネマグラ」の商標を付した前立腺治療器の製造・販売を行っていると主張するが、当該ホームページでは、請求人は「Pro−state」という販売名で販売を行っており、商標「ENEMAGRA」を使用して販売している事実は見られない(乙第3号証)。
(2)被請求人の業務に係る商品であるとの需要者の認識
商標「ENEMAGRA」又は商標「エネマグラ」が付された商品「前立腺マッサージ器」は、請求人の業務に係る商品として認識されているのではなく、むしろ、被請求人の業務に係る商品であると需要者に認識されているというべきである。
上記で述べたように、請求人が指摘するところのアンケートの実施も被請求人によって実施されたものであり、そのアンケート結果も被請求人によって公開されている。このアンケートの実施期間においては、わずか30名程度の者に認識されたものにしかすぎず(乙第1号証の3)、当該アンケートによって商標「エネマグラ」が請求人の業務に係る商品「前立腺マッサージ器」を示すものとして周知になったとは到底認められない。
また、本件商品・商標が日本においてアンケート応募者に認識されたとしても、それは被請求人の名において行われたものであって、被請求人の業務に係る商品であると認識されたものであり、HIH社の業務に係る商品を示す商標であるとして認識されることはない。
被請求人は、三牧ファミリー薬局のホームページを通じて販売を開始し、請求人がパインズ社を通じて販売を開始した2000年2月以降も、商標「エネマグラ」及び商標「ENEMAGRA」を付した商品「前立腺マッサージ器」を継続して販売してきた(甲第6号証)。甲第6号証の内容を見ても、商標「エネマグラ」が付された商品が請求人の業務に係る商品であることが分かる旨の表記はなく、三牧ファミリー薬局、(有)光漢堂、三牧剛太郎(男性名)、三牧敬子(女性名)を差出人名称として選択できることが理解されるのみである。
そうすると、当該ホームページに接した需要者は、商標「エネマグラ」又は商標「ENEMAGRA」が付された商品は、被請求人の業務に係る商品であると認識するのに対し、請求人の業務に係る商品であるとは認識することはできなかったというのが相当である。
(3)具体的な混同の有無
請求人は、被請求人が販売する商品は、HIH社製の模倣品であり、被請求人の商品にもHIHの文字及び請求人の所有する米国特許番号の刻印があるので、商標「ENEMAGRA」及び「エネマグラ」の周知性は請求人の製造に係る製品について獲得されたものであり、パインズ社を通じて現在まで販売されていることから、被請求人は真正品を販売しているものと認識するか、何らかの提携関係を有し、正式にライセンスを受けた製品を販売する者として認識されることになり、本件出願時及び登録時の双方において「ENEMAGRA」の商標は、HIH社が製造した「前立腺治療器」を示すものとして広く需要者等に認識されており、請求人の商品と混同が生じる商標であった旨主張している。
しかしながら、本件商標出願時である2000年11月頃において、「ENEMAGRA」の商標が請求人に係る商品を示すものとして需要者等に広く知られている事実はない。
また、商標は出所の表示機能を果たすものであって、仮に、商品自体が真正品をまねた商品であったとしても、包装された商品自体に未登録商標であり周知性を獲得しているとの証左もない「HIH」の刻印が付され、米国特許の表示が付されていても、需要者等がその商品に付された「HIH」の刻印や特許表示を認識し、その製造者が誰であるかまで意識することはきわめて希有であり、商品の包装等に付された商標を頼りに購入することが一般的である。
このような状況では、被請求人の使用する登録商標「ENEMAGRA」の使用が請求人の業務に係る商品と出所の混同を生じていたとはいえない。
(4)不正の目的
上述のとおり、請求人の使用商標は、本件商標出願時において周知であったと認めることはできず、また、出所の混同も生じていない。したがって、商標法第47条第1項かっこ書において定める「不正の目的」を論ずるまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものではないこと明らかである。
商標法第4条第1項第19号は、請求人の使用商標が日本国内においていわゆる著名商標であるか、外国においていわゆる周知商標であることを要件としており、出願時においても請求人の使用商標の周知性等が要件とされる。
しかしながら、上記で述べたごとく、請求人の使用商標は、本件出願時である2000年11月頃に日本国内において著名性を獲得しているとは到底認められないし、外国における周知性についても請求人は何らの主張や立証を行っていない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものではない。
請求人は、商標の出願がその経緯において適正な商道徳に反し、社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張して、東京高裁の判決を挙げている。
しかしながら、本件商標登録の経過には次のような経緯があり、本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠いたり、その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものでもない。
(1)本件商標登録出願の経緯
請求人は、請求人が提起した不正競争防止法に基づく訴訟の提起後に、被請求人が請求人の同意を得ることなく無断で本件商標の出願をした旨主張するが、そのような事実はない。
なるほど、本件商標出願の出願日は2000年11月16日であり、前記訴訟の提起日よりも後である。しかしながら、「ENEMAGRA」の文字を含む商標は、それよりも前の同年4月3日に被請求人によって商標登録出願されており、商標登録第4468398号として登録されている(乙第4号証)。
また、被請求人は、請求人に無断で出願したものでもない。乙第5号証の1ないし4は、日本における商標権の取得に関して両者が行った電子メールでのやりとりの通信記録であり、乙第6号証の1ないし3は、商標「エネマグラ」の命名について、被請求人と請求人が行った電子メールでのやりとりの通信記録である。
被請求人は、両者の取引開始直後、請求人が当該商品について「Pro−State」という商標を使用していたところから(乙第6号証の1)、日本において商標をどのように扱うかは被請求人に委ねられたものと理解していた(乙第6号証の3)。その後、「エネマグラ」の名称が付された「前立腺マッサージ器」が被請求人を通じて市場に広がっていくが、被請求人は、商標「エネマグラ」について商標登録がなされていないことを心配して、1999年7月15日付けで被請求人から請求人に対し、商標登録をする旨の意向を伝えている(乙第5号証の1)。その後、同年7月21日付けで、再度、商標登録をすべき旨の打診を行い(乙第5号証の2)、さらに同年8月4日付けで、追伸として「PS:エネマグラの商標登録を今週中にしておきます。」と請求人に対して伝えている(乙第5号証の3)。
上記やりとりの後、請求人は、被請求人に対し、同年8月14日付で「現在まだ日本では特許申請中であっても米国ではすでに特許(米国は早い)下りているので、この製品の特許侵害があった場合、日本に於いては知的所有権侵害で生産の差し止め及び損害賠償ができるし、米国からは民事訴訟送達を行い米国裁判所に召喚することが出来ますので他の業者に先駆けされるおそれはありませんので心配ご無用です。」と述べ(乙第5号証の4)、知的財産権については十分に保護されている旨の認識はしているものの、被請求人からの再三にわたる上記商標登録に関する問い合わせに対して、商標登録はどのように取り扱ってもよいとの態度を示している。
このような状況下、被請求人は、請求人に対して商標登録出願をする旨の通知(乙第5号証の3)を行ってから遅れること約8ヶ月後の2000年4月3日付で別件の商標登録出願(商願2000−33949号)を行った次第である。
このように、請求人は、商標の取り扱いに特段の注意を払うこともなく、また、商標登録を行うことについて何ら関心を示さなかったことからも、日本における商標「ENEMAGRA」の取り扱いは被請求人の自由にしてよいものと被請求人は理解し、その上で商標登録出願したのである。
(2)許諾の不存在について
上記の出願経過にかんがみても、日本国内において商標登録出願をするに際して請求人の許諾を必要とすることはない。また、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されている。本件商標登録出願日及び別件の商標登録出願の出願日よりも前である1999年7月頃には、被請求人は、「ENEMAGRA」について商標登録されていないことに気がついており、被請求人は、商品「前立腺治療器」を商標「ENEMAGRA」及び「エネマグラ」を使用して販売していたし、今後も継続して販売する予定であった。そうすると、被請求人は、今後、日本においては少なくとも継続して使用予定のある商標「ENEMAGRA」の使用を確保しておく必要がある。
商標法においては、商標登録を受けようとする権利は出願によって成立するものであり、特許法におけるいわゆる冒認出願のような規定はなく、商標登録出願を行うに際して、請求人の許諾を必要とする根拠は見いだせない。
なお、請求人は、JPドメイン名紛争処理における裁定を引用しているが、裁定は、JPドメイン名の移転に際し、申立人(被請求人)に対して移転を認めるまでの立場にないとの判断を示したにすぎず、日本における商標登録出願に対して、商標法に規定のない「共同で使用することを目的とした商標登録出願に対して、相手方の承諾が必要である」との登録要件までを認めたものではない。
(3)不正の目的を有する使用について
請求人は、被請求人の販売する商品が模倣品であり、真正品のものと酷似した「HIH PAT.NO.5797950」の刻印が存在することをもって、被請求人の「ENEMAGRA」の使用が積極的に虚偽の出所表示を行っていることは明白であると主張している。
しかしながら、請求人が指摘する「HIH」の表示や「PAT.NO.5797950」などは単なる製造記号であって、それら自体に出所表示機能があるとは認められないし、請求人は、自己の業務に係る商品については、「Pro−state」という販売名で販売しているにすぎない。
なるほど、被請求人は、別訴不正競争防止法に基づき警告を受けているが(甲第7号証)、この警告は、いわゆる形態模倣に関するものであり(同法第2条第1項第3号)、被請求人は、同種の前立腺治療器の製造・販売を制限されている訳ではない。商標は、出所の表示機能を果たすものであって、仮に、商品自体が真正品をまねた商品であったとしても、特許権侵害等の問題は別として、商標が付された商品の出所として正しく表示されている限り、不正な商標の使用とは認められないことは論をまたない。
被請求人は、1998年10月から「エネマグラ」及び「ENEMAGRA」という商標を被請求人の業務に係る商品である前立腺治療器に付して市場に置くとともに、2000年4月及び2000年11月に、被請求人自らが自らの業務に係る商品について商標登録出願したものであって、請求人が米国において使用する商標を日本国内において登録しようとするものではなく、不正の目的があって出願したものではない。
また、被請求人は、不正の目的を有することの証拠として甲第17号証の刊行物を提出しているが、該刊行物のインタビュー記事における被インタビューアーであるS氏は、請求人が日本における総輸入・発売元として指定したパインズ社の社長であり(乙第7号証)、「エネマグラ」の由来に関してもS氏自身が提案したかのごとく回答しているように、信ぴょう性に欠けるものである。このように、甲第17号証の記載は、事実と異なることを請求人自身が熟知しているはずであり、このように事実と異なる記載がある甲第17号証を根拠として、被請求人が不正の目的をもって商標登録を行った旨主張すること自体失当である。
上述のとおり、本件商標登録出願時において、本件商標「ENEMAGRA」が請求人の業務に係る商品を示すものとして日本国内及び外国において需要者等に広く認識されているものとは認められず、また、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を表示するおそれがある商標であるとも認められない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同第10号及び同第19号に違反するものではなく、商標法第46条第1項の規定により無効にされるべきものではない。
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同第10号及び同第19号に違反して登録されたものであることを理由に、同法第46条第1項の規定に基づく商標登録の無効の審判を請求している。
そこで、本件商標が請求人の掲げる上記各号に該当するか否かについて検討する。
なお、本件商標の商標権者(被請求人)は、有限会社光漢堂であるところ、証拠や本審決中には、「三牧ファミリー薬局」、「三牧剛太郎」の表示をもって表されているところもあるが、三牧ファミリー薬局は被請求人の経営する薬局であり、三牧剛太郎は被請求人の代表者であるところから、いずれも被請求人と一体のものとして扱った。
本件商標は、上記第1のとおり、「ENEMAGRA」の欧文字を横書きしてなり、第10類の「医療用機械器具」を始めとする商品を指定商品とするものである。
一方、請求人は、米国において、「前立腺治療器(前立腺、会陰マッサージ器に相当)」について「Pro−State」あるいは「Aneros」の商標を用いて販売していた(甲第9号証、乙第3号証等)。我が国においては、1998年(平成10年)10月頃から1999年(平成11年)9月頃までの間、被請求人を通して該商品を販売しており、被請求人は、該商品に「エネマグラ」あるいは「ENEMAGRA」等の商標を使用して販売していた。その後、請求人は、2000年(平成12年)2月頃からは千葉県在のパインズ社(ThePines社)を通じて該商品を販売しており、該商品に使用されていた商標は「エネマグラ」の片仮名あるいは「enemagra」の欧文字からなる商標(以下、両商標をまとめて「請求人使用商標」という。甲第8号証)である。
本件審判請求に至った経緯は、概略以下のようなものであったものと認められる。
(1)請求人は、1998年8月25日に米国特許(5797950号)を受けた前立腺治療器の発明者(甲第1号証)であり、自身が経営するHIH社(High Island Health LLC)のホームページを通じて、該前立腺治療器の販売を行っていた。該商品に使用していた商標は、上記したとおり、米国においては、「Pro−State」あるいは「Aneros」である(甲第9号証、甲第17号証、乙第3号証等)。
(2)1998年(平成10年)8月頃、請求人は、三牧ファミリー薬局を経営する被請求人を知り、日本で「前立腺・会陰マッサージ器(前立腺治療器の副次的効果が注目され性具としての性格が強くなっている。例えば、甲第9号証参照)」の販売を行うため、インターネットを通じて販売開始のための打ち合わせを開始した(両者間の電子メールによる通信記録は、甲第3号証の1ないし7、乙第1号証の1ないし6、乙第5号証の1ないし4及び乙第6号証の1ないし3)。両者は、モニター募集のためのアンケート等を実施し(甲第4号証、甲第5号証)、該商品の名称を「エネマグラ」とすることとし、同年10月30日に、被請求人は該商品の販売のためのホームページを立ち上げた(甲第6号証は、被請求人のホームページであるが、これは2009年11月5日付けで打ち出されたものである。)。
(3)1999年(平成11年)3月頃、請求人は、多くの試作品から得た情報を基にして量産品を開発した(甲第10号証の1及び2)。
(4)被請求人は、1998年(平成10年)10月から1999年(平成11年)9月までは、請求人の製造に係る商品を販売していたが、それ以降は、被請求人自身が製造する商品に「エネマグラ」等の商標を付して販売するようになり、現在に至っている。
(5)請求人は、被請求人に対し、被請求人の製造する商品の製造・販売を中止するよう申し入れたが、被請求人は製造・販売を止めなかったため、2000年(平成12年)4月10日に、被請求人に対して、被請求人の行為は不正競争防止法第2条第1項第3号の不正競争行為に該当する旨の警告書を送付し(甲第7号証)、同年9月6日に、被請求人に対して、被請求人商品の製造・販売の中止等を求める民事訴訟を提起した(事件番号は明らかにされておらず、その後の経緯も不明である。)。
(6)請求人は、日本での販売を被請求人を通じて行うことを断念し、2000年(平成12年)2月頃、請求人使用商標を付した「前立腺・会陰マッサージ器」の販売を千葉県在のパインズ社(ThePines社)に委託し、現在に至っている(甲第8号証は、パインズ社のホームページ)。
(7)被請求人は、本件商標の出願に先立つ平成12年4月3日に、正方形輪郭内に「ENEMAGRA」の欧文字を横書きしてなる商標を出願しており(指定商品は本件商標と同じ)、該商標は、同13年4月20日に登録第4468398号として設定登録されている(乙第4号証)。
(8)被請求人は、平成12年11月16日に、「ENEMAGRA」の欧文字を横書きしてなる本件商標の出願を行い、本件商標は、同13年12月28日に設定登録された。
(9)請求人は、平成22年2月25日に本件審判の請求を行った。
そこで、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かについて判断する。
(1)「ENEMAGRA」「エネマグラ」商標の採択の経緯について
ア 最初に、「ENEMAGRA」「エネマグラ」商標の採択の経緯についてみるに、この点について、請求人は、「請求人は、米国特許5797950号に係る前立腺治療器の発明者であり、自身が経営するHIH社のホームページを通じ、『エネマグラ』の商標を付した前立腺治療器の製造・販売を行っている。」旨述べている。
イ しかしながら、請求人の提出に係る甲第9号証(フリー百科事典「ウィキペディア」)によれば、「タカシマは1997年に自らHigh Island Health(HIH)社を創業し、この器具をPro−Stateと名付けて製造・販売を開始し、その普及に努めた。・・・前立腺炎治療器具としてPro−Stateが普及し始めると、多くの患者(使用者)から前立腺を刺激することで性的快感を得られるという報告もなされ、今では前立腺オナニー器具としても知られるようになった。2008年現在、一般大衆向け性具としてはHIH社製Pro−Stateがアメリカ合衆国ではAneros社からAnerosという名称で、また日本ではエネマグラジャパン/THE PINES STORE(パインズ)が総輸入・発売元となり、エネマグラおよびアネロスという名称で売られている。」旨記載されており、甲第17号証(株式会社太田出版発行の「エネマグラ教典(2004年8月15日第1刷、2007年5月24日第5刷)」)においても、「エネマグラはもともとアメリカHIH社の製品である。正式名称を『Pro−State』といい、・・・エネマグラという名称は日本だけのもので、諸外国では主に“アネロス(ANEROS)”という名で販売されています。」(66頁及び248頁)と記載されている。
また、甲第2号証の1及び2(請求人会社に対する注文票)においても請求人使用商標又は「ENEMAGRA」の表示は認められないし、被請求人の提出に係る乙第3号証(請求人が開設しているホームページ)においても、該前立腺治療器は「Pro−State」の名称で紹介されてはいるが、上述の請求人使用商標等が使用されていた事実は認められない。
さらに、請求人自身、請求書の中で「1998年(平成10年)8月頃、大阪府枚方市で、三牧ファミリー薬局を経営する被請求人を知り、日本での販売を行うため、被請求人と共にインターネットを通じての宣伝を開始した。そして、同年10月30日、被請求人は、前立腺、会陰マッサージ器の販売のためのホームページを立ち上げた。甲3号証の1ないし甲3号証の7は、請求人と被請求人との間の電子メールによる通信記録であるが、・・・ここでは、請求人の製造に係る前立腺治療器が前立腺、会陰マッサージ器として販売され、その名称を『エネマグラ』とすることが決定した。」と記載している(請求書4頁下から7行目以下)。
そして、商品の命名に係る当事者間のやり取りについて、被請求人の提出に係る電子メールによる通信記録によれば、以下のような記載のあることが認められる。
乙第6号証の1は、1998年8月21日付けで、請求人が被請求人(三牧剛太郎)へ宛てたメールであり、請求人の開発に係る「前立腺、会陰マッサージ器」を紹介するメールである。乙第6号証の2は、上記メールに対して、被請求人が請求人へ宛てた返信のメールであり、「名前がまだありませんね。ENEMAGULA(エネマグラ)というのはいかがでしょう。(ネーミングもプレゼントと組み合わせて募集してみるのも面白いですね。)」とあり、乙第6号証の3は、上記被請求人のメールに対する同月30日付けの請求人の再返信メールであり、「ENEMAGULAはなかなか良い名前だと思いますが、どうせだったらVIAGRAにひっかけてENAMAGRAはいかがでしょうか。いずれにせよ貴殿にお任せいたします。」と記載されている。
ウ 以上を総合してみれば、請求人は、米国特許5797950号に係る前立腺治療器(前立腺、会陰マッサージ器に相当)の発明者であり、自身が経営するHIH社のホームページを通じ、該前立腺治療器の製造・販売を行っていたことは認められるが、米国における該商品の名称は「Pro−State」ないしは「Aneros」であり、米国及び諸外国において、請求人使用商標等が使用されていた事実を認めるに足る証拠は提出されていない。
そして、「ENEMAGRA(エネマグラ)」の商標は、被請求人が我が国において、「前立腺治療器(前立腺、会陰マッサージ器)」を販売するための商標として、被請求人の発案により(請求人の寄与があったことは否定できないが)採択されたものと推認されるところであり、専ら、我が国における該商品の商標として採択されたものと認められる。
(2)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 請求人は、「被請求人は、1998年10月から1年程の間、請求人の製造に係る商品を販売していたが、その後、被請求人自身が製造する商品に『ENEMAGRA』等の商標を付し、しかも、請求人の商品に表示されている『HIH』の表示や米国特許番号を付して販売するようになり、請求人が不正競争行為に基づく製造販売行為の差止等を求めた訴訟の係争中に、請求人に無断で本件商標の出願をしたものであり、これは、請求人使用商標が我が国において商標登録を受けていないことを奇貨として行われた剽窃的行為といわざるを得ないものであって、かかる経緯を伴う登録は社会的妥当性を欠くものであり、商標法第4条第1項第7号に該当するものである」旨主張して、東京高裁平成16年(行ケ)第7号判決及び東京高裁平成14年(行ケ)第616号判決を挙げている。
イ 確かに、被請求人が同人の製造・販売に係る商品に請求人の商品に表示されている「HIH」の表示や米国特許番号と同様の表示を付して販売し、あるいは、請求人の我が国における特許権や意匠権に抵触する製品を製造・販売していたのであれば、それらの事柄が他の法律に触れることがないとはいえない(もっとも、請求人は、該発明に相応する特許権や意匠権が我が国において成立していた旨の主張も証拠の提出もしておらず、また、後述するように「HIH」の文字が請求人の業務に係る「前立腺・会陰マッサージ器」を表示するものとして周知・著名であるとの証拠もなく、該文字や該米国特許番号から直ちに請求人の業務に係る商品を認識し得るものでもない。)。
しかしながら、そのことを理由として、本件商標の登録が商標法第4条第1項第7号に違反してされたものとはいえない。
ウ 本件商標は、その構成において公序良俗に反するものではないことは明らかであり、また、商標の採択の経緯についてみても、上記(1)において認定したとおり、「ENEMAGRA」の商標は、請求人の発明に係る「前立腺治療器(前立腺、会陰マッサージ器)」の商標として採択されたものではあるが、それは、専ら我が国において、被請求人が該商品を販売するために採択された商標と認められるものであり、しかも、被請求人の発案を基にして採択されたものであって、当初から、請求人が米国等において「前立腺治療器(前立腺、会陰マッサージ器)」の商標として使用していたものではなく、請求人の業務に係る該商品の商標として広く知られていたものでもない。
そして、被請求人の提出に係る乙第5号証によれば、被請求人が本件商標を出願するに至った経緯について、次のような記載のあることが認められる。
乙第5号証の1は、1999年7月17日付けで請求人から被請求人へ宛てた電子メールの通信記録であり、当該記録には被請求人から請求人に宛てて送信された電子メールの内容が引用符付で引用されており、「『エネマグラ』がだんだんあちこちのページに紹介されてきましたので、ここらで商標登録と、できれば日本での意匠登録する意向を検討しております。まずエネマグラという商標はまだ取られていませんので取得は可能です(早い時期の申請をしたいと思います。)・・・」と記載されている。
乙第5号証の2は、同年7月21日付けで、被請求人から請求人へ宛てた電子メールの通信記録であり、「・・・『エネマグラSOFT』や『エネマグラDOLPHIN』も量産型の意匠は登録すべきではないでしょうか?(商標登録も同時にするべきでしょう。)・・・」と記載されている。
乙第5号証の3は、同年8月7日付けで被請求人から請求人に宛てた電子メールの通信記録であり、「・・・PS:エネマグラの商標登録を今週中にしておきます。・・・」と記載されている。
乙第5号証の4は、同年8月14日付けで請求人から被請求人へ宛てた電子メールの通信記録であり、「現在まだ日本では特許申請中であっても米国ではすでに特許(米国は早い)下りているので、この製品の特許侵害があった場合、日本に於いては知的所有権侵害で生産の差し止め及び損害賠償ができるし、米国からは民事訴訟送達を行い米国裁判所に召喚することが出来ますので他の業者に先駆けされるおそれはありませんので心配無用です。(日米共にウィーンの民事訴訟送達協定加盟国)類似品の出現を防ぐことが出来ます。」と記載されている。
上記乙第5号証1ないし4によれば、被請求人は、電子メールにより、請求人に対して、我が国における「ENEMAGRA」等の商標出願の必要性について再三にわたって述べていたにも拘わらず、請求人は、そのことに対して何らの対応もしていなかったばかりでなく、被請求人自らが我が国において出願する旨をメールにより通知していたにも拘わらず、請求人は、特許に関する意見を述べてはいたが、被請求人自身による商標出願の意向に対しては、これに反対する旨の明確な態度を表明していたものとも認められない。
エ また、請求人が不正競争行為に基づく製造販売行為の差止等を求めた訴訟の係争中に、被請求人が「ENEMAGRA」の商標の出願をしたことは、多少穏当を欠くところがあるとしても、「ENEMAGRA」に係る商標については、本件商標とは別件の正方形輪郭内に「ENEMAGRA」の欧文字を横書きしてなる商標について、請求人からの警告や請求人による該訴訟の提起前に既に出願されていた事実があることからみれば、被請求人は、請求人から該訴訟を提起されたことに対応して、本件商標の出願をしたものということはできない。
オ 以上の実情及び経緯を併せみれば、被請求人が本件商標の出願をした行為は、請求人使用商標が我が国において商標登録を受けていないことを奇貨として行われた剽窃的行為とみることはできない。
カ 一方、請求人においても、我が国において商標登録出願をする余裕は十分にあったにもかかわらず、しかも、被請求人から商標の出願に関する問い合わせがあったにもかかわらず、該発明に係る特許出願はしていたが、商標については出願をすることを怠っていた事実は否めない。
そして、商標法第4条第1項第7号に関する判決については、請求人が挙げているような判決がある一方において、関係当事者間における権利の帰属をめぐる問題についてまで、商標法第4条第1項第7号を適用することは適切でない旨の判決(知財高裁平成19年(行ケ)第10392号)も存するところである。
(3)まとめ
以上のとおり、本件商標は、その構成において公序良俗に反するものではないことはもとより、上記した「ENEMAGRA」商標の採択の経緯や被請求人が本件商標を出願するに至った経緯を併せみれば、被請求人による本件商標の出願が著しく社会的妥当性に欠けるものであるとはいえない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものということはできない。
(1)請求人使用商標の周知著名性について
請求人は、「1999年3月頃、多くの試作品から得た情報を基にして優れた特徴を備えた量産品として『エネマグラ EX』を開発し、日米両国において販売を開始するや否や一気に販売量が増加した。このようなタイプの前立腺、会陰マッサージ器は、世界でも前例のないものであったため、発売から約1年の期間で急速に需要者の間に広まり、『エネマグラ EX』は、現在、世界的なスタンダード商品となっている。」旨述べており、また、「請求人は、米国HIH社のエネマグラEXを始めとする数種類の商品を、パインズ社を通じて現在まで日本国内において販売してきた。」旨述べている。
ア しかしながら、被請求人が経営する三牧ファミリー薬局のホームページ(甲第6号証、乙第2号証)も2009年(平成21年)11月5日及び2010年(平成22年)2月10日に存在しているばかりでなく、請求人は、三牧ファミリー薬局のホームページを1998年(平成10年)10月30日に立ち上げた旨述べている。また、エネマグラ教典(甲第17号証)には、「まずは通販ショップを捜そうと、Google(検索エンジン)で『エネマグラ』と入力してみた。すると、すごい......。売っている店がたくさんありすぎて、どこで買っていいのか見当もつかない。」(066頁)と記載されている。
このような状況からすると、そもそも「エネマグラ/ENEMAGRA」なる商標は、我が国において、請求人のみが使用していた商標ということはできない。
イ そして、請求人が請求人使用商標の周知著名性を立証するものとして提出している証拠あるいは主張は、以下の理由からいずれも採用することができない。
(ア)請求人は、請求人が被請求人に対して提起した差止請求訴訟において、被請求人が報告した1999年(平成11年)9月から2000年(平成12年)10月5日(本件商標の出願前)までに販売した個数である2,541個を挙げ、これは、需要者が真正品と誤認して購入していたものであるから、請求人の商品の信用に基づいて販売されたものというべきであり、約1年間の販売個数としては決して少ないものではなく、この販売個数からすれば、請求人使用商標は、この当時既に相当程度の周知性を獲得していたと判断するに十分である旨主張している。
しかしながら、上記2,541個の商品は、請求人ないしパインズ社に係る販売数ではないこと明らかであり、前記のとおり、「エネマグラ」「ENEMAGRA」の商標は、我が国においてはパインズ社のほかに被請求人等によっても1998年10月から現在に至るまで継続して使用されていたことが推認できるから、上記被請求人の販売をもって、請求人ないしパインズ社の使用に係る商標として、需要者に認識されることとなったものということは到底できない(なお、請求人は、訴訟の終了後に判明した実際の販売個数は6,206個であった旨述べているが、そのことを裏付ける証拠は提出されていない。)。
(イ)また、請求人が弁駁書において提出した甲第24号証ないし甲第26号証をみても、商標法第4条第1項第10号や同第19号の適用に当たっては、商標登録出願の時における周知著名性の立証を要するところ(商標法第4条第3項)、請求人は、本件商標の登録査定時までの販売数量を挙げている。これを商標登録出願時までの販売数量に限ってみれば、甲第24号証については、請求人が主にパインズ社に対して出荷した販売数量は442個程度のものであり、このことは、甲第24号証と対応関係にあるものと推認されるパインズ社による販売数量(甲第25号証)についても同様にいえることである。なお、請求人は、被請求人が商品の製造を依頼していたルッツ社による商品の販売数量についても甲第26号証として提出しているが、甲第26号証に見られる販売数量は、全て本件商標の出願後に係るものであって、出願前における販売数量を示す証拠は提出されていない。
加えて、「前立腺・会陰マッサージ器」をはじめとする性具全体の製造・販売数量について、請求人は何らの主張もしておらず、何らの証拠も提出していないから、請求人が主張している販売数量をもって、それが性具全体においてどの程度の位置付けを占めているものか把握することができない。
そうとすれば、該商品の需要者が限られているとしても、この程度の販売数量をもってしては、請求人使用商標が請求人の業務に係る「前立腺・会陰マッサージ器」の商標として広く知られていたものとは認められない。
(ウ)さらに、エネマグラジャパン・パインズストアのホームページ(甲第8号証)、フリー百科事典ウィキペディアの記事(甲第9号証)、エネマグラ教典(甲第17号証)についてみても、請求人の発明に係る「前立腺治療器(前立腺、会陰マッサージ器)」自体が米国をはじめとする各国で販売されていたとしても、請求人使用商標が該商品の商標として、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されていたことを認めるに足る記載は認められない。
なお、請求人は、甲第23号証のホームページも周知著名性を立証する証拠の一つとして提出しているが、これは被請求人のホームページであり、そこには、被請求人を示す記載(三牧ファミリー薬局)は認められるが、請求人を示す記載は見当たらない。そして、甲第23号証のホームページに「米国製前立腺快癒器」の記載や「U.S.特許番号 USP5797950、世界各国へ特許出願中」等の記載があるとしても、該文字や該米国特許番号から直ちに請求人の業務に係る商品を認識し得るものでもないから、該ホームページを見た需要者・取引者が該ホームページをもって、請求人使用商標や請求人の業務に係る商品が表示されているものと理解・認識することはないものというべきである。
ウ そして他に、請求人は、請求人使用商標が「前立腺治療器(前立腺、会陰マッサージ器)」について使用されて、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されていることを認めるに足る証拠を提出していない。
エ そうとすれば、請求人の提出に係る証拠をもってしては、本件商標の登録出願の時において、請求人使用商標が請求人ないしパインズ社の業務に係る「前立腺治療器(前立腺、会陰マッサージ器)」を表示する商標として、該商品の取引者、需要者の間において広く認識されていたものと認めることはできない。
(2)商標法第4条第1項第19号該当性について
上記のとおり、本件商標「ENEMAGRA」は、請求人使用商標と同一又は類似の商標であることは認められるにしても、請求人使用商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願の時に日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されていた商標とは認められないものである。
そして、前記3において認定したとおり、本件商標が他人の商標を剽窃したものであるとか、被請求人による本件商標の出願が著しく社会的妥当性に欠けるものであるとはいえず、他に、本件商標が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的、その他の不正競争の目的や不正の目的をもって出願・登録されたものであることを認めるに足る証左はない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号に違反してされたものとはいえない。
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものであることをも主張して本件商標登録の無効の審判を請求している。
ところで、本件審判は、平成22年2月25日に請求されたものであるところ、当庁備付けの商標登録原簿によれば、本件商標は平成13年12月28日に設定登録されたものであることが明らかであるから、本件審判は、本件商標の設定登録の日から5年を経過した後に請求されたものである。
そして、商標登録が同法第4条第1項第10号(不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く。)の規定に違反してされたものであることを理由とする同法第46条第1項の審判は、当該商標権の設定登録の日から5年を経過した後は請求することができないことは同法第47条の規定から明らかである。
そうすると、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当すると認定するためには、本件商標が不正競争の目的によって登録されたことが立証されなければならない。
しかながら、前記3及び4において認定したとおり、本件商標は、他人の商標を剽窃したものとは認められず、他に、被請求人(商標権者)が不正競争の目的をもって本件商標の登録を受けたことを具体的に示す証左もない。
したがって、本件商標が不正競争の目的で商標登録を受けたものとはいえないから、除斥期間の適用があるものといわなければならず、同号に該当する旨の主張については審理することができない。
なお、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するものであるか否かについてみても、本件商標及び本件の指定商品は、請求人使用商標及び請求人の業務に係る商品と同一又は類似するものであることは認められるが、前記4(1)において認定したとおり、本件商標の登録出願の時において、請求人使用商標が請求人の業務に係る「前立腺治療器(前立腺、会陰マッサージ器)」を表示する商標として、該商品の取引者・需要者の間において広く認識されていたものと認めることはできないから、結局、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の要件を欠くものであり、理由がないことになる。
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第10号及び同第19号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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