結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2010−890101(T2010−890101/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第5297445号商標(以下「本件商標」という。)は、「地雷原を綿畑に」の文字を標準文字で表してなり、平成21年7月10日に登録出願、第24類「タオル,織物,メリヤス生地,フェルト及び不織布,ろ過布,布製身の回り品,毛布,ふきん,シャワーカーテン,のぼり及び旗(紙製のものを除く。),織物製トイレットシートカバー,カーテン,布製ラベル」及び第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服,運動用特殊衣服」を指定商品として、同22年1月13日に登録査定、同年1月29日に設定登録されたものである。
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第37号証を提出した。
被請求人は、請求人に対し「地雷原を綿畑に」の商標を用いてストール、スカーフ、マフラーなどの販売活動を行うことは、本件商標の商標権の侵害に該当するとの平成22年4月20日付け警告書(甲2)を内容証明郵便で送ってきている。
したがって、請求人は、本件商標に関する利害関係人に該当する。
(1)請求人は、「カンボジアの地雷被害者や高齢者などの貧困層に対して、地雷除去の促進および、有機農法による綿栽培の普及、および綿を中心とした手工芸の技術指導、開発普及に関する事業を行う。また、日本の市民一般に広く、地雷問題などカンボジアの現状を啓発し、カンボジアの有機農法による製品の啓発を推進する。これらの活動を通して、カンボジアの復興、ならびに日本とカンボジアの友好関係の強化に寄与することを目的」として設立された特定非営利活動法人(以下「NPO法人」という。)であり、平成21年8月25日に東京都に対し「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」の名称で設立申請され、同年12月24日に認証を受け、平成22年1月7日に設立登記されたものである(甲3、甲4)。
請求人は、NPO法人の認証を受ける以前の平成20年8月に、その前身である任意団体「Nature Saves Cambodia ジャパン」(以下「NSCジャパン」という。)として発足し、平成21年6月18日に、「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」と改称、その後、NPO法人して認証されたものである。
(2)NSCジャパンは、設立時から、カンボジアの復興、並びに日本とカンボジアの友好関係の強化に寄与することを目的とした活動を以下のように行っていた。
ア 平成19年10月:請求人の共同代表である「山本賢蔵」がカンボジアの友人たちとカンボジアの復興支援を目的とするNGOであるNSCカンボジアを結成。
イ 平成20年7月:NSCジャパンとして活動を開始。カンボジア訪問などを実施。この頃から、被請求人が主要メンバーとして活動に参加(甲5)。
ウ 平成20年8月22日:非営利団体「ap bank」(甲6)に、NSCジャパンとして融資を申し込む。被請求人はプロジェクト計画書に「Chief Marketing Officer」として名を連ねている(甲7)。
エ 平成20年8月頃:NSCジャパン及びNSCカンボジア間でカンボジアのバッタンバン州の地雷原を綿畑にする活動をはじめることで方針が固まる。この頃から、NSCジャパンの活動スローガンとして「地雪原を綿畑に」という言葉が使われるようになってくる。
オ 平成20年10月頃:被請求人を含むNSCジャパンのメンバー間で「カンボジアの地雷原で活動を展開する」という方針が決定される。その一環として、グーグルが募集していた「project 10 to the 100th」に当時の主要メンバーである船戸覚の名で「世界の地雷原を綿畑に」と銘打ったプロジェクトを応募した。
カ 平成20年12月31日:非営利団体「ap bank」と「金銭消費貸借契約証書」をとりむすぶ。NSCジャパンが任意団体のため契約主体になり得ず、メンバーの一人、船戸覚の名義で4,629,000円を平成20年12月31日に借り入れる。被請求人は、当該契約の連帯保証人となっている。
キ 平成21年4月:NCSジャパンのメンバーである石井麻木が撮影した写真を使ってポスターを作成する。そして、NSCジャパンの活動スローガンとして「地雷原を綿畑に!」の語を前面に打ち出すことを正式に決定し、当該ポスターに印刷することになった(甲8)。
ク 平成21年4月8日:ファッション素材の総合見本市「ジャパンクリエーション」(於:東京ビッグサイト)にて、NSCジャパンの活動のプレゼンテーションを行う。「地雷原を綿畑に! Nature Saves Cambodia!」の入ったポスター2枚をプレゼンテーションのステージの両脇に展示し、さらに小サイズのチラシを配布。プレゼンテーションの司会は、被請求人が担当した(甲9)。
ケ 平成21年5月15日:NHK総合テレビ番組「スタジオパークからこんにちは」で、NSCの活動が紹介、放送される。このなかで活動のキャッチフレーズとして「地雷原を綿畑に」の言葉が司会者によって紹介される(甲10)。
コ 平成21年6月7日:朝日新聞の生活欄の記事に活動が紹介される。そのなかで「地雷原を綿花の畑に変える試み」と紹介される(甲11)。
サ 平成21年6月:「地雷原を綿畑に! Nature Saves Cambodia!」のロゴが完成。ポストカードなどに印刷し、使用が開始される(甲12)。
シ 平成21年6月17日:NSCジャパンを任意団体「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」と改称。新装されたウェブサイトでその旨を告知する。同18日。ウェブサイト内のブログにて、団体名「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」としての挨拶掲載(甲13、甲14)。
ス 平成21年7月4日〜5日:横浜パシフィコで開かれた「グリーンexpo」に参加。活動のシンボルポスター「地雷原を綿畑に! Nature Saves Cambodia!」や、チラシなどを展示、配布。また、ロゴ入りポストカードを販売する(甲15)。
セ 平成21年7月17日〜20日:静岡県嬬恋で開催された「ap bank・fes」に「NPO法入(申請中)地雷原を綿畑に―Nature Saves Cambodia」として出店。ブースに現在使用のロゴ、及び「地雷原を綿畑に! Nature Saves Cambodia!」と書かれた主催者側の作成した看板を使用。また「地雷原を綿畑に! Nature Saves Cambodia!」のポスターを使用、ロゴ入りのポストカードを販売(甲16)。
ソ 平成21年10月24日〜25日:代々木公園で開催された「アースガーデン秋」に「NPO法人(申請中)地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」として出店。「地雷原を綿畑に! Nature Saves Cambodia!」の看板使用。ロゴも使用。ポストカードを販売(甲17)。
タ 平成21年12月25日:雑誌「クロワッサン」に、請求人の共同代表の一人である石井麻木のインタビューが掲載され、NPO法人として請求人の活動が紹介される(甲18)。
チ 平成22年1月4日:毎日新聞夕刊でNPO法人として請求人の活動を紹介する記事が掲載される(甲19)。
ツ 平成22年2月27日:文化放送ラジオ番組「高木美保 close to you」で山本賢蔵のインタビューが放送され、請求人の活動が紹介される(甲20)。
テ 平成22年3月3日及び4月4日:毎日新聞朝刊、公明新聞で石井麻木のインタビューが掲載され、NPO法人として請求人の活動が紹介される(甲21、甲22)。
ト 平成22年4月8日:東京新聞に石井麻木の写真展、原画展の記事が掲載。このなかで、NPO法人として請求人の活動が紹介される(甲23)。
ナ 平成22年4月17日〜18日:代々木公園で開かれた「アースデイ東京2010」において、日本のオーガニックコットン店「メイド・イン・アース」のブースで請求人のコーナーが設けられる(甲24)。
以上のように、「地雷原を綿畑に」の語は、NSCジャパンの頃から現在に至るまで、その活動のスローガンとして継続して使用され、かつ、現在はNPO法人としての名称の一部として採択使用されている。
被請求人は、在京テレビ局の報道番組の委託ディレクターを業とするものであり、平成20年7月頃からNSCジャパンに参加、その主要メンバーの一人として活動していた。
また、NSCジャパンが名称の一部として「地雷原を綿畑に」を採択使用した上で、NPO法人の認可申請をすることも知りうる立場にあった。
なお、仮に被請求人が主導的立場で「地雷原を綿畑に」のフレーズを考案したとしても、それはNSCジャパンの一メンバーとしての行為であり、該フレーズはNSCジャパン、そして、その後継団体である請求人に帰属するべきものであると確信する。
しかし、被請求人は、NPO法人認可申請を準備中の平成21年6月頃から、NSCジャパンを改称した任意団体「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」の資金繰りが困難になると、他のメンバーと対立し、結局、平成21年7月5日に同団体を脱退し、その直後の同月10日に本件商標を当該任意団体に無断で登録出願し、商標登録を受けたものである。そして、平成22年4月20日には、請求人に対し警告書を送ってきている。被請求人は、本件商標のほかに「地雷原を綿畑に」商標を10件登録出願をしており(甲25〜甲34)、本件商標を含めそれらの指定商品・指定役務はいずれも請求人の活動に関連する分野のものであって、被請求人が請求人の活動内容を把握した上で、これらの登録出願を行ったことは明らかである。
さらに、平成22年5月26日、同年6月7日、同年8月28日には、本件商標ほか、出願中の商標をもとに警告書を送付してきている(甲35〜甲37)。
被請求人は、上述のように在京テレビ局の報道番組の委託ディレクターを業とする者であり、本件商標の指定商品について、現在、本件商標を使用して業を行っておらず、かつ、近い将来、当該指定商品などについて業を行う蓋然性も低いものである。
また、本件商標の指定商品及び商標「地雷原に綿畑を」に係る10の商標登録出願の指定商品・指定役務は極めて多岐にわたるものであり、およそ本業を持つ一個人が自己の業務として行いうる範囲を大きく逸脱するものである。
このような状況の下では、被請求人が本件商標をその指定商品の全てについて使用しているか又は近い将来使用をすることについて疑義があるといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備するものではない。
上述したように「地雷原を綿畑に」という語は、被請求人が本件商標の登録出願を行う1年以上前の平成20年10月頃から、請求人の前身であるNSCジャパンでその活動のスローガンとして当該団体内で考案し使われはじめ、登録出願より2ヶ月前の平成21年4月8日以降は、一般に向けて「地雷原を綿畑に! Nature Saves Cambodia!」という態様で使用を開始し現在に至っている。
また、平成22年1月7日にNPO法人として設立登記された請求人の名称の一部としても採択使用しており、その活動やマスコミなどで多数紹介されたことを通じて、「地雷原を綿畑に」という語は、途上国支援・それらに関わるボランティア活動に関心ある層を中心に、請求人、及びその活動に係るものとして広く知られている。
そして、被請求人は、請求人の前身であるNSCジャパンの主要メンバーの一人であり、改称後の任意団体「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」を含め、その後継団体である請求人が、活動スローガンとして「地雷原を綿畑に」を使用して活動していること、その活動の一環としてオーガニックコットンに係る製品の製造、販売などを、協力会社に委託して行うこと、及び請求人が「地雷原を綿畑に」を名称の一部として、NPO法人として申請を行う準備を進めていることを知り得る立場にあった。
このような状況下において、被請求人は「地雷原を綿畑に」が商標登録されていないことを奇貨として、オーガニックコットン製品と関連性の高い第24類、第25類の商品について、本件商標を登録出願し、商標登録を受け、さらに請求人に対し、警告書を送付してきていることを考慮すれば、被請求人が、剽窃的に本件商標を登録出願したのは明らかであると思料する。
以上のことから、被請求人の当該行為は、一般社会の道徳観念に反し、公正な競争秩序を乱すものであるといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
よって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備するものではなく、また、同法第4条第1項第7号に該当するものものであることから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とされるべきものである。
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第15号証を提出した。
(1)「NPO法人えころっこ」との関わり
ア 「一般社団法人 カンボジアコットンクラブ〜地雷原を綿畑に〜」の前身ともいうべき活動は、船戸覚が理事長を務める「NPO法人えころっこ」を日本側の活動主体として始まったものであり(乙2)、これには、船戸覚のほかに、山本賢蔵及び被請求人も所属していた。このNPO法人では、カンボジアのNGO団体が進める「蘇る綿の島」というプロジェクトをコーソチン島というメコン川の中洲で行なっていた。その「コーソチン島・蘇る綿の島」プロジェクトは、山本賢蔵のアイデアで始められたものであり、そこに、被請求人、船戸覚、奥田義徳(タイ在住)も参加した。
その当時の正式な団体は、「NPO法人えころっこ」だけであり、ここを窓口として、コーソチン島で栽培した綿花を紡績会社である「株式会社大正紡績」(以下「大正紡績」という。)に販売し、金銭のやりとりも「NPO法人えころっこ」の口座にて行われていた。大正紡績は、被請求人が営業活動をして販売の交渉先としていた法人である。
イ しかし、「蘇る綿の島」プロジェクトでは、なかなか収益が上がることが難しくなり、そこで、被請求人が提案したのが「地雷原を綿畑に」というプロジェクトである。
この後、「ap bank」からの融資は、船戸覚が保証人となって約500万円を借り入れたが、このときも2つのプロジェクトが同時に存在していた。
山本賢蔵のメールから「地雷原を綿畑に」は、被請求人発案のプロジェクトだということを認識していることがうかがえる(乙3)。
ウ 「地雷原を綿畑に」というプロジェクトが対外的に現れたのは、大正紡績主催のジャパンクリエーションというイベントであり、被請求人に登壇依頼がありこれに応じたものである。そして、このイベント向けに写真を撮影したのが請求人側の石井麻木である。
エ ジャパンクリエーションが過ぎた頃に、プロジェクト全体の資金について、「ap bank」から融資を受けていたため決算をまとめる必要に迫られたが、この時点では「NPO法人えころっこ」、「NSCジャパン」などの複数の組織が立ち上がっていた。
(2)「地雷原を綿畑に」への名称の変更
ジャパンクリエーションが過ぎた頃に、「NPO法人えころっこ」から「地雷原を綿畑に」に名称変更しようという手続きを進めており、名称変更後は「山本賢蔵」が代表を務めると宣言していたので、共同代表という形をとるべきだと説得した。
その後、平成21年7月5日、山本賢蔵と同人が後見人として連れてきた柳田邦男、そ妻の伊勢英子、娘の石井麻木、石井麻木の友人2名、山本賢蔵の友人の野澤敦子、船戸覚及び被請求人が全日空ホテルで話し合いを持ち、そこで決まったことは、新しい団体になったら、寄付で活動を行う支援部と、ビジネスで活動を行う営業部に分けるということであった。
なお、被請求人は、「カンボジアコットンクラブ地雷原を綿畑に」には、その設立時より役員として任命されている(乙4、乙5)。
(3)本件商標登録出願の理由
被請求人は、船戸覚と相談して、ビジネスで行っていくのであれば、商標登録が必要だと考えて本件商標の登録出願をした。
その背景には、船戸覚、奥田義徳及び被請求人は、全日空ホテルでの話し合いを受けて、「地雷原を綿畑に」という商標を第三者に商標登録されると、被請求人の事業や山本賢蔵を含む被請求人らが参加することになる「NPO法人地雷原を綿畑に」(「NPO法人えころっこ」から名称変更予定)の事業に使用できなくなる可能性があるため、その事業を守るために本件商標の登録出願をした。
その当時、被請求人らは、最初に山本賢蔵から提案された「儲け話」ではなく、「寄付ベースの慈善事業にしていきたいのが本心だった」ということを聞いたので、新しく名称変更される「NPO法人地雷原を綿畑に」では、山本賢蔵らの支援部ではなく、営業部を担当すると思っていたが、山本賢蔵は、それまで進んでいた「NPO法人えころっこ」の名称変更の手続きを止めた。
そして、平成21年7月17日には、それまで暫定的な名称で運営していたホームページの寄付金の募集口座担当者が船戸覚から石井麻木へと書き換えられていた。
さらに、被請求人が営業窓口である大正紡績にも、山本賢蔵、石井麻木らが柳田邦男と連れ立って「今度、営業担当が被請求人から石井に変わった」と挨拶に行き、事態が混乱し始めた(乙6)。
その後、山本賢蔵は、「船戸覚氏、奥田義徳氏及び被請求人は、資金繰りが困難になったから逃げた」として、こちらの連絡にも応じることがなくなり、組織改定のための正式な手続きを一切経ないまま、現在に至っている(乙7)。
そして、「NPO法人えころっこ」の名称を変更して「NPO法人地雷原を綿畑に」にするという合意事項を破棄し、新たに「NPO法人地雷原を綿畑に」を立ち上げたのである。なお、2011年5月22日時点の請求人の英語のホームページには船戸覚の住所が会社の住所として残っており、請求人は実質的には「NPO法人えころっこ」の名義を変えて存続させているに近い実態がある(乙9)。
(4)被請求人の事業活動
被請求人は、平成22年6月10日に、実際にカンボジアの地雷原に立てられた綿花の工場を経営する会社から9トンの綿花を購入することを実現している。
また、平成22年10月25日付けの協力準備調査(BOPビジネス連携促進)においても、被請求人は、積極的に参加しており、綿花・ビジネス経験多数と紹介されている(乙10、乙11)。その他、平成21年8月31日締め切りの経済産業省委託事業に関する公募にも応募している(乙12)。
被請求人は、上述のように「綿花・ビジネス経験多数」と紹介されており、自己の業務に係る本件商標の指定商品などについて、本件商標を使用する意思を有している。
また、被請求人は本件商標をその指定商品のいくつかについて既に使用準備を開始している(乙13)。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備するものである。
被請求人と「地雷原を綿畑に」の関わりについては、上述のとおりである。
ところで、平成19年(行ケ)第10391号審決取消請求事件(乙14:平成20年6月26日判決言渡)の判示に照らし、請求人の事例は「すみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合」に該当するといわざるを得ないものであり、また、被請求人と本来商標登録を受けるべきと主張する請求人との間の商標権の帰属などをめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」との特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない。
また、無効2003−35216(乙15:平成16年3月26日審決)にあっては「...その事業で使用する商標を早急に登録出願をし、第三者がその登録を受けることを回避すべきであったことは、当然である。... しかしながら、当事者のいずれが登録出願をしたか、また、その登録出願を当事者の一方に無断でしたか、あるいは、その登録出願についてどのように対応したか、いずれかに背信行為があったかなどは、もっぱら両当事者間に起因した共同事業を巡る私的な事情にとどまるものである。」旨判断している。
そして、本件商標は、それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反するような場合にも該当しないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。
本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないものでなく、また、同法第4条第1項第7号に該当するものでもないことから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とされるべきものではない。
請求人が本件審判請求に関し利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、当審も、請求人は本件審判の請求人適格を有するものと判断するので、以下、本件商標が商標法第3条第1項柱書及び同法第4条第1項第7号に該当するものであるかについて検討する。
商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標」として登録を受けられる商標は、現に使用している商標だけでなく、使用する意思があり、かつ、近い将来において使用する予定のある商標も含まれるものと解すべきである(知的財産高等裁判所平成22年(行ケ)第10005号判決参照)。
被請求人は、自己の業務に係る本件商標の指定商品について、本件商標を使用する意思を有している旨述べるとともに、同人が本件商標をその指定商品の幾つかについて使用準備を開始しているとして提出した乙第13号証によれば、赤色の「地雷原を」の文字と黒色の「綿畑に」の文字とを一連に表したタオル、「地雷原を綿畑にR」(審決注;「R」の文字は、丸内に記載されている。)の表示がされた下げ札やネームタグ、リボンなどが付されているズボン及びシャツが認められる。
そうすると、本件商標は、その指定商品について,被請求人において使用する意思があり、かつ、近い将来において使用する予定のある商標ということができる。
これに対して、請求人は、被請求人が本件商標をその指定商品のすべてについて使用しているか又は近い将来使用をすることについて疑義があると主張する。
しかし、請求人が提出した証拠を徴しても、被請求人が本件商標をその指定商品について使用する意思を有していないことを認めるに足りる具体的な証拠が認められないものであるから、かかる主張は、請求人の憶測の域を出るものではない。
また、請求人は、被請求人は本件商標のほか、商標「地雷原に綿畑を」に係る10の商標登録出願をし、その指定商品・指定役務は極めて多岐にわたるものであるから、一個人が自己の業務として行いうる範囲を大きく逸脱すると主張する。
しかし、被請求人は、本件商標と同様の商標を多岐にわたる指定商品及び指定役務について登録出願しているとしても、このことをもって、被請求人が本件商標の使用をする意思がなく、かつ、近い将来において使用する予定もないという理由にはならない。
したがって、請求人の上記各主張は、採用することができない。
よって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備していないということができない。
(1)認定事実
請求人並びに被請求人の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 請求人は、NPO法人の認証を受ける以前の平成20年8月に、その前身である任意団体「NSCジャパン」として発足し、同21年6月17日に、その名称を「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」と改称(甲13、甲14)、その後、同年8月25日に、東京都に対して「特定非営利活動法人地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」の名称でNPO法人の設立を申請し、同22年1月7日に、当該名称で設立登記されたものであり、登記簿の目的及び事業の欄には、「カンボジアの地雷被害者や高齢者などの貧困層に対して、地雷除去の促進および、有機農法による綿栽培の普及、および綿を中心とした手工芸の技術指導、開発普及に関する事業を行う。」などと記載されている(甲3、甲4)。
請求人の設立当初の理事は、「山本賢蔵」、「柳田麻木」(審決注:甲3によれば、柳田麻木は、石井麻木と同一人物と認められる。)及び「岡野良子」の3名である。
なお、NSCジャパンは、カンボジアと日本のジョイントNGO法人「Nature Saves Cambodia」の業務執行責任を有し、日本でのセールス、マーケティング活動全般の責任を担う団体であり、その参加者は、CEO(Chief Executive Officer)兼COO(Chief Operating Officer)の山本賢蔵、CMO(Chief Marketing Officer)の古澤敦(被請求人)、CFO(Chief Financial Officer)の奥田義徳、NSCジャパン事務局の船戸覚の4名であった(甲7)。
なお、上記NGO「Nature Saves Cambodia」は、カンボジア バッタンバン州をはじめ、地雷原を撤去した跡地にオーガニックコットンを作付けする取組を行っており、被請求人は、そのメンバーとしてカンボジアの地雷原を綿畑に変えるプロジェクトに参画している(乙12)。
そして、請求人が設立登記される前の主な活動は、以下のとおりである。
(ア)2008(平成20)年に、山本賢蔵、古澤敦、奥田義徳及び船戸覚の4名は、カンボジア・コーソチン島で収穫した無農薬コットンを引き取りに同島に訪れた(甲5)。
(イ)2008年8月22日に、NSCジャパンは、非営利団体「ap bank」に融資を申し込む(甲7)。
(ウ)2008年12月31日に、NSCジャパンが「ap bank」から融資を受ける際、NSCジャパンは任意団体のため契約主体となり得なかったため、船戸覚が保証人となって約500万円を借り入れた。
(エ)「地雷原を綿畑に」の文字は、遅くとも2009(平成21)年4月8日に開催された総合見本市「ジャパンクリエーション」において展示されたポスター及び配布されたチラシに表示された(甲9)。
(オ)2009年7月4日及び5日の両日に横浜で開催された「グリーンEXPO」において、「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」は、カンボジアで産出された綿を原料としたストール(クロマー)(以下「ストール」という。)などを販売した(甲15)。
(カ)2009年7月17日から20日までの間に静岡県掛川市で開催された「ap bank fes 09」において、「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」は、「地雷原を綿畑に!」の文字を表示した看板を掲げたブースにおいて、ストールなどを販売した(甲16)。
(キ)2009年10月24日及び25日の両日に代々木公園で開催された「アースガーデン秋」においても、「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」は、「地雷原を綿畑に!」の文字を表示した看板を掲げたブースにおいて、手紡ぎ糸、ストールなどを販売した(甲17)。
イ 一方、2009年7月5日に、山本賢蔵、柳田邦男、同人の娘である石井麻木、野澤敦子、船戸覚、古澤敦(被請求人)らが話合いをした結果、山本賢蔵、石井麻木らと被請求人及び船戸覚の間で事業の進め方についてそごが生じ、山本賢蔵、石井麻木らの活動と被請求人及び船戸覚の活動を分けることになった。
その後、「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」は、寄付口座の名義を船戸覚から石井麻木に変更した(甲15等)。
また、柳田邦男と石井麻木らは、2009年7月31日に、大正紡績の営業部長である近藤を訪れ、「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」の組織替えを伝えた。なお、それまで近藤は、被請求人が営業担当窓口となり、船戸覚の法人から請求書を受けていたと認識していた(乙6)。
さらに、平成20年8月27日に設立登記され、船戸覚、山本賢蔵、野澤敦子ほかが理事を務めていた「NPO法人えころっこ」において、山本賢蔵と野澤敦子は、平成21年9月30日に理事を退任した(乙2)。
ウ 被請求人は、平成21年7月10日、「地雷原を綿畑に」の文字を横書きしてなる本件商標につき、前記第1のとおり、第24類「タオル」及び第25類「被服」を含む指定商品を対象として、商標登録出願をし、同22年1月29日に商標登録を受けた。
そして、被請求人は、前記1のとおり、「地雷原を綿畑に」の文字をタオル、ズボン及びシャツに付している。
(2)判断
ア 商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き、その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、その商標は商標法第4条第1項第7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし、同号が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」として、商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること、及び、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである(東京高等裁判所平成14年(行ケ)第616号判決参照)。そして、同号は、上記のような場合ばかりではなく、周知商標等を使用している者以外の者から登録出願がされたような場合においても、商標保護を目的とする商標法の精神に反するなどとの理由で,適用される事例もなくはない。しかし、商標法は、出願に係る商標について、特定の利害を有する者が存在する場合には、それぞれ類型を分けて、商標法所定の保護を与えないものとしている(商標法第4条第1項第8号、第10号、第15号、第19号参照)ことに照らすと、周知商標等を使用している者以外の者から登録出願がされたような場合は、特段の事情のない限り、専ら当該各号の該当性の有無によって判断されるべきといえる。周知商標等を使用している者が、出願を怠っている場合や他者の出願を排除するための適切な措置を怠っていたような場合にまで、「公の秩序や善良な風俗を害する」ものとして、商標法第4条第1項第7号の適用があり得ると解するのは,妥当ではない(知的財産高等裁判所平成23年(行ケ)第10104号判決参照)。
イ 前記(1)で認定した事実によれば、以下のように判断することができる。
(ア)請求人の前身であるNSCジャパンは、カンボジアの地雷被害者などに対して、地雷除去、有機農法による綿栽培の普及及び綿を中心とした手工芸の技術指導、開発普及に関する事業を行うことを目的として発足した任意団体であり、その参加者は、山本賢蔵、古澤敦(被請求人)、奥田義徳、船戸覚の4名である。そして、NSCジャパンは、「地雷原を綿畑に」の文字を、遅くとも2009(平成21)年4月8日に開催された「ジャパンクリエーション」においてポスター及びチラシに表示した。
その後、NSCジャパンは、平成21年6月17日に、その名称を「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」に改称し、同年7月4日及び5日に、横浜で開催された「グリーンEXPO」において、カンボジアで産出された綿を原料としたストールを販売、同年7月17日から20日までの間に静岡県掛川市で開催された「ap bank fes 09」において、「地雷原を綿畑に!」の文字を表示した看板を掲げてストールなどを販売し、さらに、同年10月24日及び25日に代々木公園で開催された「アースガーデン秋」においても「地雷原を綿畑に!」の文字を表示した看板を掲げて、糸、ストールなどを販売したことが認められる。
(イ)一方、被請求人は、請求人がNPO法人となる前の任意団体「NSCジャパン」に、船戸覚とともに参加し、その名称が「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」に改称された以降も、大正紡績に対する営業窓口となっていたと推認され、NSCジャパン発足から相当の期間、被請求人は、請求人の理事となる山本賢蔵らとともに活動していたということができる。
しかし、請求人と被請求人は、平成21年7月5日の話合いを受けて、請求人の活動と被請求人及び船戸覚の活動を分けることになり、以後、被請求人は、請求人ないしその前身である任意団体「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」であった時期も含めて、その活動に関与しなくなったといえる。
(ウ)上記のような経緯、事情にかんがみれば、請求人の前身である任意団体「地雷原を綿畑に−Nature Saves Cambodia」は、本件商標が登録出願された平成21年7月10日前後において、カンボジアで産出された綿を原料としたストールなどを販売しているにもかかわらず、その販売に係る商品につき、「地雷原を綿畑に」の文字を商標登録出願し得ない特段の理由は見いだせず、また、請求人の理事となる山本賢蔵らと被請求人の活動が分かれた平成21年7月5日前後のいずれにおいても、山本賢蔵らが他人の商標登録出願を排除するための適切な措置を行ったと認めるに足りる証拠も見いだせない。
そうすると、山本賢蔵らは、本件商標の指定商品について商標「地雷原に綿畑を」を自ら登録出願をすることが十分可能であったにもかかわらず、商標登録出願をしていなかったのであるから、かかる商標についての登録出願を怠っていたというべきであり、かつ、他人の出願を排除するための適切な措置も怠っていたといわざるを得ない。
また、被請求人による本件商標の登録出願の経緯に、著しく社会的妥当性を欠くと認めるに足りる証左もない。
ほかに、本件商標は、その構成文字からして、きょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるようなものではなく、これを商標権者が採択、使用しても、他の法律によりその使用が制限又は禁止されるとみるべき事情も認められない。
(3)請求人の主張について
ア 請求人は、被請求人は「地雷原を綿畑に」が商標登録されていないことを奇貨とし、オーガニックコットン製品と関連性の高い第24類、第25類の商品について、本件商標を出願して登録を受け、さらに、請求人に対し警告書を送付してきていることを考慮すれば、被請求人の当該行為は、一般社会の道徳観念に反し、公正な競争秩序を乱すものである旨主張する。
しかし、そもそも「地雷原を綿畑に」の文字につき、請求人の理事となる山本賢蔵らが商標登録出願をし得ない特段の理由は認められないこと、自己の所有する商標権に基づき他人に対して警告する行為は、それ自体何ら違法なものとはいえないことから、被請求人が本件商標の登録を受け、これに基づいて請求人に対して警告をしたことをもって、被請求人のかかる行為が一般社会の道徳観念に反し、公正な競争秩序を乱すとまではいえない。
そして、請求人の理事となる山本賢蔵らが被請求人や船戸覚との間において、「地雷原を綿畑に」の文字の使用や管理について合意などを得ていたことを確証付ける証拠は見当たらず、「地雷原を綿畑に」の文字の発案者が山本賢蔵、被請求人のいずれであるとしても、これが請求人のみに帰属するとの特段の理由は認められない。
そうすると、被請求人と、本来、商標登録を受けるべきと主張する請求人との間の本件商標に係る商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで公の秩序や善良な風俗を害するおそれについて特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当ではない。
してみると、本件商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあるとはいえず、また、被請求人の本件商標を登録出願した行為が一般社会の道徳観念に反し、公正な競争秩序を乱すものであるともいえない。
したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
イ 請求人は、平成20年8月頃からNSCジャパンの活動スローガンとして「地雪原を綿畑に」という言葉が使われるようになり、仮に被請求人が主導的立場で「地雷原を綿畑に」のフレーズを考案したとしても、それはNSCジャパンの一メンバーとしての行為であり、該フレーズはNSCジャパン、そして、その後継団体である請求人に帰属するべきものである旨主張する。
しかし、「地雷原を綿畑に」の文字についての管理や使用などについて、NSCジャパンのメンバーの間で約定が交わされたような事実を認めるに足りる証拠は見いだせず、かかる「地雷原を綿畑に」の文字が請求人の活動スローガンないし団体名称の一部として同人のみに帰属するとの格別な理由も認められない。
したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
(4)小括
以上によれば、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標ということができないから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないものではなく、同法第4条第1項第7号に違反してされたものでもないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
なお、請求人は、平成23年10月26日付けで審理再開申立書を提出して、その理由として、被請求人は、事実関係の歪曲や山本賢蔵に対する根拠のないひぼう中傷をしており、そのような主張をすること自体、本件商標の登録が請求人の活動を阻害し、かつ、不当な利益を受けることを目的として行ったものであることを裏付けるものであると思量するとした上で弁駁書を提出する用意がある旨述べている。
しかし、請求人は、前記1及び2の判断を覆すに足りる証拠を何ら提出していないのであるから、審理再開の必要は認めないものとする。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
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