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Trademark Appeal Case

複合商標の分離観察と類否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2010−890105(T2010−890105/J3)
審判種別無効
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5235615号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成20年5月13日に登録出願、第25類「フランス製の被服,フランスでデザインされた被服,フランス製のガーター,フランスでデザインされたガーター,フランス製の靴下止め,フランスでデザインされた靴下止め,フランス製のズボンつり,フランスでデザインされたズボンつり,フランス製のバンド,フランスでデザインされたバンド,フランス製のベルト,フランスでデザインされたベルト,フランス製の履物,フランスでデザインされた履物,フランス製の仮装用衣服,フランスでデザインされた仮装用衣服,フランス製の運動用特殊衣服,フランスでデザインされた運動用特殊衣服,フランス製の運動用特殊靴,フランスでデザインされた運動用特殊靴」を指定商品として、同21年3月30日に登録査定、同年6月5日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張

請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第30号証を提出した。

1 請求人の引用する商標

請求人が本件商標の無効の理由に引用する商標は、以下のとおりである。(1)登録第4479759号商標(以下「引用商標1」という。)

商標の構成 別掲(2)のとおり

指定商品 第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

登録出願日 平成12年8月21日

設定登録日 平成13年6月1日

更新登録日 平成23年4月19日

(2)登録第4666475号商標(以下「引用商標2」という。)

商標の構成 別掲(2)のとおり

指定商品 第27類「洗い場用マット,畳類,人工芝,敷物,壁掛け(織物製のものを除く。),体操用マット,壁紙」

登録出願日 平成14年10月17日

設定登録日 平成15年4月25日

(3)登録第4984425号商標(以下「引用商標3」という。)

商標の構成 別掲(2)のとおり

指定商品 第18類「かばん金具,がま口口金,皮革製包装用容器,愛玩動物用被服類,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,皮革」

登録出願日 平成18年3月9日

設定登録日 平成18年9月1日

(4)登録第5085281号商標(以下「引用商標4」という。)

商標の構成 別掲(2)のとおり

指定商品 別掲(3)に記載のとおりの商品

登録出願日 平成18年7月13日

設定登録日 平成19年10月19日

(5)登録第5085283号商標(以下「引用商標5」という。)

商標の構成 別掲(2)のとおり

指定商品 別掲(4)に記載のとおりの商品

登録出願日 平成18年7月13日

設定登録日 平成19年10月19日

(6)登録第5095566号商標(以下「引用商標6」という。)

商標の構成 別掲(2)のとおり

指定商品 別掲(5)に記載のとおりの商品

登録出願日 平成18年7月13日

設定登録日 平成19年11月30日

(7)請求人が使用するとする「PARIS」の文字からなる商標(以下「引用商標7」という。)

商標の構成 別掲(6)のとおり

使用商品 「レディス・メンズウェア、ナイトウェア、インナー、ソックス、靴、履物、鞄、袋物、ベルト、革小物、ネクタイ、ネックウェア、ハンカチ、スカーフ、マフラー、メガネ、フレーム、サングラス、アクセサリー、貴金属、時計」等

以下、商標法第4条第1項第11号に該当する旨の主張において引用している引用商標1ないし引用商標6の商標を総称するときには「引用商標」といい、同第10号に該当する旨の主張において引用している引用商標1ないし引用商標6に引用商標7をも含めた商標を総称するときには、便宜上、「請求人使用商標」という。

2 請求の理由

本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同第10号に違反してされたものであるから、その登録は無効にされるべきである。

(1)商標法第4条第1項第11号について

(ア)本件商標

本件商標は、西洋の紋章風の図形を配し、その図形の上に、「PARIS」の欧文字を一連に顕著に配してなるが、当該紋章風図形部分と「PARIS」の欧文字部分とは、視覚上明らかに分離して認識され得る位置にあり、また、観念においても、何ら関連性を有するものではないことから、構成上及び観念上の一体性が全くなく、両部分はそれぞれ分離して認識されるものである。

そして、本件商標の「PARIS」部分は、第1文字目の「P」及び第3文字目の「R」の文字は、それぞれ、左上端部分から細い鉤状の曲線を左上方に延出させてなり、また、第2文字目の「A」は、文字中央部の横線を左上方斜めに向けて細い緩やかな曲線で表すとともに、右上端部分からわずかに細い曲線を突出させてなり、また、第4文字目の「I」は、文字の上端部分に割目を設け、そこから左右上方に細い鉤状の曲線を延出させてなるとともに各先端が内側を向くよう湾曲させてなり、さらに、第5文字目の「S」は、文字の両端部分に細い二又の曲線を表してなるものである。

このように、本件商標の欧文字「PARIS」部分は、全ての文字に施された細い鉤状曲線と文字にメリハリを与える肉厚・肉薄混合の欧文字の直線及び曲線部分とが相俟って、通常一般に用いられることのない特殊な装飾文字で表されており、優雅で、かつ華やかな印象を与える特異なデザイン態様からなる文字部分として認識されるものである。

このような構成にあっては、たとえ「PARIS」という欧文字が「フランスの首都パリ」を表す語であり、本件指定商品との関係において、商品の産地、販売地等を表示するものとして、本来的には自他商品識別力が弱い文字であるとしても、本件商標中の欧文字「PARIS」部分が特異な態様であることから、本件商標に接する需要者及び取引者は、該欧文字「PARIS」部分に着目し、認識して、この欧文字部分でもって取引に資することが大いにあり得るものである。

したがって、本件商標は、取引上、その構成中の該欧文字「PARIS」部分が分離され認識されるものであり、これに相応して「パリス」の称呼及び「フランスの首都パリ」の観念を生じ得るものである。

(イ)引用商標

引用商標は、二重の楕円状輪郭線の内側中央部に特異なデザイン態様の「PARIS」の欧文字を大きく顕著に配し、その下に、「accessories for men」の欧文字を付記的に小さく配し、かつ、外側輪郭線と内側輪郭線の間に「Massachusetts・NewYork・LosAngeles・Chicago・Dallas」及び「Established 1887」の文字及び2つの図形を小さく配してなるものである。

そして、引用商標のいずれも、その構成中の「PARIS」の欧文字部分は、全体の構成中、中央に大きく顕著に表されるとともに、第1文字目の「P」及び第3文字目の「R」は、左上端部分から細い鉤状の曲線を左上方に延出させてなり、第2文字目の「A」は、文字中央部の横線を左上方斜めに向けて細い緩やかな曲線で表すとともに、右上端部分からわずかに細い曲線を突出させてなり、第4文字目の「I」は、文字の上端部分に割目を設け、そこから外方に細い鉤状の曲線を延出させるとともに各先端が内側を向くように湾曲させてなり、さらに、第5文字目の「S」は、文字の両端部分に細い二又の曲線を表してなるものであって、全ての文字に施された細い鉤状曲線と文字にメリハリを与える肉厚・肉薄混合の直線及び曲線部分とが相俟って、一般に用いられることのない特殊な装飾文字で表されていて、全体として優雅で、かつ華やかな印象を与える特異なデザイン態様からなる文字部分として認識されるものである。

他方、この欧文字「PARIS」以外の図形部分や文字部分、即ち、「accessories for men」の文字部分や二重の輪郭線の間に表された「Massachusetts」等の文字部分は、「PARIS」の文字部分とは違って、普通に用いられる書体で、小さく付記的に表されている上、各文字部分の間に観念上の一体性は何ら認められない。

したがって、引用商標の構成にあっては、中央に太字で大きく目立って表された特異なデザイン態様からなる「PARIS」部分が見る者の注意を強く引き、需要者及び取引者は、この欧文字部分に着目し、認識して、該欧文字部分でもって取引に資することが十分あり得るものである。

以上のことから、引用商標は、「PARIS」の欧文字部分に相応して、「パリス」の称呼及び「フランスの首都パリ」の観念を自然に生ずるものというべきである。

(ウ)本件商標と引用商標との類否について

上記したとおり、本件商標と引用商標とは、「パリス」の称呼及び「フランスの首都パリ」の観念が生ずることから、称呼上及び観念上類似の商標である。

また、「PARIS」の欧文字自体は、一般的、普遍的な文字であり、取引者・需要者に対して商品の出所識別標識として特異な印象を与えるものではないが、引用商標の「PARIS」の欧文字部分は、その特殊なデザイン態様により、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであり、また、後述の通り、請求人及びその使用権者が引用商標を使用した指定商品に属する商品を実際に販売している事実が認められ、具体的取引の実情において、「PARIS」の欧文字部分が商品の出所識別標識として使用されている事情が存するものである。そうすると、引用商標は、出所識別標識として機能する「PARIS」の欧文字部分から「パリス」の称呼及び「フランスの首都パリ」の観念が生じるものであり、同一態様の「PARIS」を有する本件商標と称呼上及び観念上類似であるというべきである。

さらに、引用商標の「PARIS」の欧文字部分は、特異なデザインが施された装飾文字で構成されている。この装飾文字は、明朝体やゴシック体といった一般的なフォントではないことは言うまでもなく、カッパープレート体やアンシャル体といったカリグラフィー等で使用される装飾書体のような既存の書体でもない。すなわち、他にない独自の装飾手法を施して表されたものである。このような事情の下、引用商標は、「PARIS」の欧文字部分の特異なデザイン態様によって、全体として、優雅で、かつ華やかな印象を与えるものとなっており、引用商標においてこのデザイン化された「PARIS」部分は強い識別力を発揮するものと言える。

そして、本件商標の「PARIS」部分は、引用商標の「PARIS」部分のデザインをそっくりそのまま模倣したかのように、各文字の書体や細部のデザインの特徴が完全に一致するものであり、該文字部分全体が同一といってよいほど酷似するものである。

そうすると、本件商標と引用商標とは、強い識別力を発揮するデザイン化された「PARIS」部分が同一である結果、時と処を異にして観察した場合、外観において相紛れるおそれは極めて高く、明らかに両者は外観上類似の商標であると言える。そして、本件商標及び引用商標を使用した各指定商品に接した需要者及び取引者は、これらを同一の営業主の製造又は販売に係る商品であると誤認するおそれが極めて高いと言える。

よって、本件商標と引用商標とは商品の出所について明らかに誤認混同を生じさせるものであり、取引の実情を考慮すれば、両者は明らかに類似の商標というべきものである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。

(2)商標法第4条第1項第10号について

(ア)請求人使用商標について

請求人は、平成10年より今日に至るまで、引用商標1ないし6に加え、該引用商標の中央に顕著に表された特異なデザイン態様の「PARIS」の文字のみからなる引用商標7(甲第8号証)を自社及びライセンシーを通じて、鞄、財布及びベルト等、広くファッション関連商品に継続して使用している。

(イ)請求人使用商標の周知性について

請求人使用商標は、本件商標の商標登録出願時及び査定時において、請求人商品を表示するものとして需要者に広く認識されている商標となっていたものである。

請求人は、平成8年に、株式会社アイネス(当時の代表取締役は堀内伸彦)と商標登録第3184321号(甲第10号証、甲第11号証)、第1805136号(甲第12号証、甲第13号証)等について、商標使用許諾契約を締結し、レディスのハンドバッグ、小物、ベルト等にこれら登録商標を使用していた。そして、平成10年3月に、上記登録商標及び同登録商標と同じ態様で指定商品が異なる登録商標11件等を権利者である堀内伸彦から譲り受け、「パリス」ブランド事業の大々的な展開を開始した。

この「パリス」ブランド事業の拡張にともない、請求人は、引用商標1ないし7を「パリス」ブランドの主要態様の一つとし、引用商標1ないし6について商標登録も取得した。そして、今日に至るまで、多くの企業にこれら登録商標を軸としたライセンスを与え(甲第14号証、甲第15号証)、宣伝広告にも多大な力を入れてきた結果、請求人使用商標は広く認知されるものとなっている。

企業調査・市場調査等で有名な株式会社矢野経済研究所(甲第16号証)が発刊する「ライセンスブランド全調査」には、ライセンスマーケットの動向を示すライセンスブランドの売上高ランキングが掲載されている。この売上高ランキングで、「パリス」ブランドは、2001年度は上代ベースで19位(233.3億円)出荷ベースで26位(140億円)(甲第17号証)、2002年度は出荷ベースで19位(150億円)(甲第18号証)、2003年度は出荷ベースで27位(130億円)(甲第19号証)、2004年度は出荷ベースで37位(90億円)(甲第20号証)となっている。ここで記載されている「パリス」ブランドとは、引用商標1ないし7を含む請求人の商標を示すものである(甲第21号証)。

ブランドのライセンシングが盛んに行われているファッション関連業界において、無数に存在するファッションブランドの中で、上述のとおり「パリス」ブランドが何年にもわたって連続して上位にランキングされている事実は、請求人使用商標が広く使用され、需要者・取引者間において広く認識されていることの証左である。

また、ボイス情報株式会社が発行する「ライセンスブランド名鑑」でも、他の有名ブランドと並んで、「パリス」ブランドがリストされており(甲第22号証、甲第23号証)、ライセンシングの対象として取引者等に注目されているといえる。

さらに、請求人は、請求人使用商標の使用開始以降今日に至るまで宣伝広告にも多大な力を入れている。例えば、西日本の中心地とも言える大阪では、特に繁華な場所を選んで広告を出しており(甲第24号証ないし甲第30号証)、このような一例を含め、看板、業界紙、雑誌等において年間8000万円ないし1億円もの費用を費やして宣伝広告活動を行っており、引用商標が需要者・取引者において広く認知されるものとなっている。

(ウ)本件商標と請求人使用商標との類否について

本件商標と引用商標1ないし6との類否については、前記したとおりである。そして、引用商標7は、引用商標1ないし6の構成中の「PARIS」の欧文字と同一のものであるから、本件商標は、引用商標7との関係においても、外観、称呼、観念のいずれの点からしても、互いに相紛らわしい類似の商標というべきものである。

(エ)商品の類否について

本件商標の指定商品は、前記第1のとおり、第25類「フランス製の被服、フランスでデザインされた被服」等々の商品である。

これに対し、引用商標1ないし7は、レディス・メンズウェア、ナイトウェア、インナー、ソックス、靴、履物、鞄、袋物、ベルト、革小物、ネクタイ、ネックウェア、ハンカチ、スカーフ、マフラー、メガネ、フレーム、サングラス、アクセサリー、貴金属、時計等、多岐にわたるファッション関連商品に継続して使用されている(甲第17号証ないし甲第20号証、甲第24号証ないし甲第30号証)。

してみれば、本件商標の指定商品と請求人使用商標にかかる商品とは、同一又は類似の商品といえる。

(オ)したがって、本件商標は、その出願前より登録査定時に至るまで、請求人の商品を表示するものとして、当該商品の需要者の間に広く認識されていた請求人使用商標と類似の商標であって、請求人使用商標が使用される商品と同一又は類似の商品について使用するものであることから、商標法第4条第1項第10号に該当するものである。

(3)むすび

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同第10号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、無効とされるべきである。

第3 被請求人の答弁

被請求人は、請求人の主張に対し、何ら答弁していない。

第4 当審の判断

請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第11号及び同第10号に違反して登録されたものであることを理由に、同法第46条第1項の規定に基づく商標登録の無効の審判を請求している。

1 商標法第4条第1項第11号について

(1)本件商標について

本件商標は、別掲(1)のとおり、西洋の紋章風図形を内部に表した黒枠を有する青色四角形の図形とその上に「PARIS」の欧文字を大きく表した構成からなるものであり、該青色四角形の図形内には、向かい合った獅子と、その獅子の間に赤い置き台のような台に王冠風の幾何図形を乗せ、その下に小さい○が連なったような帯状の図(両サイドは半円状)を、さらにその下に「PARIS」の欧文字を有してなる小さい横長リボンを配してなる西洋の紋章風図形を表したものである。

しかして、上記欧文字部分は、いずれも肉厚の直線や曲線及び細線によってやゝ図案化されており、各構成文字に極く小さな跳ねたひげのような線が付加されていることが認められるが、欧文字(アルファベット)の表現態様には極めて多くの種類のあることは周知の事実であり、また、欧文字(アルファベット)にひげのような線を付加して表すこともしばしば見受けられるところである。

そうとすれば、本件商標における「PARIS」の文字もそのような装飾文字の一類型と理解されるものであって、この程度の図案化がされていたとしても、「フランスの首都パリ」を意味する英語「PARIS」の文字を表したものであることを容易に理解・認識させるにとどまるものというのが相当である。

そして、被服等の取引業界においては、商品に関するファッションをリードする地の一つとしてフランスのパリ(paris)が一般に認識されていること、事業者の取り扱う商品がフランス製であることを表したり、当該事業者の本店等が首都パリに所在する等の事情を示すために、出所表示標識とともに、「PARIS」の欧文字を併記することが盛んに行われていることは、取引上の顕著な実情である。

加えて、本件商標は、前記のとおり、「フランス製の被服,フランスでデザインされた被服」のように、いずれも、フランス製又はフランスでデザインされた商品のみを指定商品とするものである。

そうとすれば、フランス製若しくはフランスでデザインされた商品のみをその指定商品とする本件指定商品に本件商標を使用した場合、これに接する取引者・需要者は、当該「PARIS」の文字部分を商品の属性にかかわる表示、つまり、当該商品がフランスあるいはパリに係わりがある旨の表記として捉えるというのが相当であり、当該部分から生ずる称呼及び観念をもって取引に当たるとはいい難いものである。

してみれば、本件商標は、図形と文字の組み合わせよりなるとしても、図形部分を要部とした商標というべきであって、「PARIS」の文字がやや図案化されているとしても、それによって、上記した一般取引者・需要者の認識を凌駕する程度に至っているものとは認められないから、該「PARIS」の文字部分から、取引上、商品の出所を識別するための「パリ」あるいは「パリス」(フランスの首都パリ)なる称呼及び観念は生じないというのが相当である。

(2)引用商標(引用商標1ないし引用商標6)について

他方、引用商標は、別掲(2)のとおり、二重の楕円状輪郭線の内側中央部に、肉厚の直線や曲線及び細線によってやや図案化された構成文字に極く小さな跳ねたひげのような線を付加した「PARIS」の欧文字を表し、その下に、「accessories for men」の欧文字を小さく表し、かつ、外側輪郭線と内側輪郭線の間に「Massachusetts・NewYork・LosAngels・Chicago・Dallas」の文字及び左右に小さな図形を配して「Established1887」の文字を小さく表してなるものである。

そして、「Massachusetts」、「NewYork」、「LosAngels」、「Chicago」及び「Dallas」の各文字が、いずれも我が国において一般によく知られた地名を表したものであることからすれば、該「PARIS」の文字は、中央に大きく表されているとしても、他の文字と同様に地名を表したとの認識をもって把握されるものとみるのが自然である。

そうとすれば、「PARIS」の文字は、大きく表されており、やや図案化されているとはいえ、そのことから直ちに該文字のみが看者に他の文字と別異の認識を与えるものとはいい難く、引用商標は、その構成全体が密接に結合した一種固有の識別標識というべきものであり、該「PARIS」の文字部分は、商品の属性にかかわる表示、つまり、当該商品がフランスの首都パリにかかわりのある表記として捉えられるものであって、該文字部分から、商品の出所を識別するための称呼及び観念は生じないというのが相当である。

(3)本件商標と引用商標との類否について

以上のとおり、本件商標と引用商標とは、いずれも、その構成中にやや図案化された「PARIS」の欧文字を有するものではあるが、該文字は、取引上、商品の出所識別標識としての機能を果たすとは認められないものである。

そして、本件商標は、図形部分と文字との結合した商標であって、ことさらに、文字部分のみが分離抽出されて取引の場において着目されるものとはいい難く、むしろ、図形部分を主要な構成要素とする商標というべきものである。

他方、引用商標も、二重の楕円状輪郭図形とその内側に配された文字とが密接に結合した一種固有の態様からなる商標というべきものである。

そうとすれば、本件商標と引用商標とは、その構成において著しい差異を有するから、外観において類似するものとはいえない。また、本件商標と引用商標とは、その構成中の「PARIS」の文字部分から商品の出所を識別するための称呼及び観念を生ずることはないものというべきであるから、該文字から生ずる称呼及び観念においては比較すべくもなく、ほかに、両商標が、称呼及び観念において類似するものとすべき理由は見いだせない。

してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。

したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものとはいえない。

2 商標法第4条第1項第10号について

(1)本件商標と請求人使用商標(引用商標1ないし7)との類否について

上記において判断したとおり、本件商標と引用商標1ないし6(引用商標)とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標と認められるものである。

次に、本件商標と引用商標7との類否についてみるに、引用商標7は、別掲(6)のとおり、引用商標構成中の「PARIS」の文字と同じ態様からなるものであって、肉厚の直線や曲線及び細線によってやや図案化された構成文字に極く小さな跳ねたひげのような線を付加した「PARIS」の欧文字からなるものである。

そこで、両商標の類否について判断するに、前記したとおり、本件商標は、図形と文字の組み合わせよりなるとしても、図形部分を要部とした商標というべきものであって、「PARIS」の文字部分は、取引上、商品の出所識別標識としての機能を果たすとは認められないものである。

そうすると、本件商標と引用商標7の「PARIS」の文字が商品の出所識別標識としての機能を果たすことを前提に、その上で、本件商標と引用商標7とが当該文字の外観、称呼及び観念において類似するものとする請求人の主張は採用できない。そして、ほかに本件商標と引用商標7とが類似するとすべき理由は見当たらない。

したがって、本件商標と引用商標7とは、相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。

(2)請求人使用商標の周知性について

上記したとおり、本件商標と請求人使用商標とは非類似の商標と認められるものであるから、本件商標は、既にこの点において、請求人使用商標との関係において、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものとはいえないが、同第10号の該当性を総合的に判断するために、更に進んで請求人使用商標の周知性についても判断する。

請求人は、請求人使用商標の周知性を示す証拠として、甲第14号証ないし甲第30号証を提出している。

しかしながら、以下の理由により、上記甲各号証をもってしては、請求人使用商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品、その中でも、本件商標の指定商品と同一又は類似の関係にある「被服」や「履物」等の商品を表示する商標として、需要者の間に広く認識されていたものとは認められない。

(ア)甲第14号証は、「ライセンシーリスト」と題する書面であり、上段に3種類の商標が表示されており(これは、甲第15号証に記載されている商標と同じものと認められる。)、34社(そのうちの1社は、請求人であるヤング産業株式会社である。)のライセンシーが記載されているところ、各ライセンシーの扱い商品は、本件商標の指定商品と同一又は類似の関係にある「被服」や「履物」等の商品ばかりでなく、「レディスバッグ全般、傘、メガネ、サングラス、メンズアクセサリー、陶器全般」等々多岐にわたるものである。しかも、34社のライセンシーの中には、本件商標の出願時には既に契約使用期間が終了しているものも多く、契約継続中のものであっても、本件商標の指定商品と関係のある商品を扱っているライセンシーはわずか8社に減少している。

(イ)甲第15号証は、請求人が株式会社リオンドールとの間で締結した商標使用許諾契約書と認められるものであり、「メンズ重衣料」等の商品について商標の使用許諾を与えているが、使用許諾した商標のうち、引用商標1(登録第4479759号商標)と事実上の使用を認めている「PARIS」の商標が本件審判において引用されている商標であり、他の2件(登録第1805136号商標及び登録第5074560号商標)は、引用商標1との類否は別にして、引用に係る商標ではない。

(ウ)甲第16号証は、株式会社矢野経済研究所のウェブサイトであり、該社の事業内容やメディア掲載実績等が掲載されているが、これ自体は、請求人使用商標の周知性とは関係のないものである。

(エ)甲第17号証ないし甲第20号証は、株式会社矢野経済研究所発行の「ライセンスブランド全調査<還元資料>」の抜粋であり、甲第17号証は2002年版、甲第18号証は2003年版、甲第19号証は2004年版、甲第20号証は2005年版のものである。これらに掲載されている「ライセンスブランド売上高ランキング(出荷ベース)」によれば、「パリス」商標に係る商品の売上額及びランキングは、2001年度においては約140億円であって26位(甲第17号証)、2002年度においては約150億円であって19位(甲第18号証)、2003年度においては約130億円であって27位(甲第19号証)、そして、2004年度においては約90億円であって37位(甲第20号証)となっていたことが認められる。

しかしながら、これらのデータは、2001年度から2004年度までのものであって、本件商標の出願時である2008年当時の状況を示すものではない。しかも、これらの売上額の中には、具体的な金額は表示されてはいないが、展開アイテムとして「鞄、寝装寝具、インテリア、メガネ、サングラス、アクセサリー、貴金属、時計」等々の商品も含まれており、本件商標の指定商品及びこれに類似する商品のみを対象としたデータではない。

そうすると、甲第17号証ないし甲第20号証をもってしては、本件商標の出願当時(2008年5月)において、かつ、本件商標の指定商品又はこれに類似する商品について、「パリス」商標に係る商品がどの程度販売されていたものであるのか、どれ位の順位にランクされていたものであるのかを確認することができない。

ちなみに、上記証拠によれば、2002年度以降、売上高は年々減少しており、このことは、甲第14号証(ライセンシーリスト)の箇所でも述べたとおり、ライセンシーが減少していることと符合しているものと考えられる。甲第14号証によれば、2002年当時には34社あったライセンシーが本件商標の登録出願時である2008年5月時点には13社に減少しており、しかも、本件商標の指定商品と関係のある商品を扱っているライセンシーに限ってみれば、わずか8社に減少しているのである。

そうとすれば、本件商標の出願時における被服等についての「パリス」商標に係る商品の売上高は、ライセンシーの減少に伴い、相当減少していたものと推認し得るところであるから、本件商標の出願時における被服等についての「パリス」商標が需要者の間に広く認識されていたものと認めるに足る程の売上げがあったかは疑問であるといわざるを得ない。

(オ)甲第21号証は、株式会社矢野経済研究所が平成22年11月4日付けでヤング産業株式会社(請求人)へ宛てた「証明書」と題する書面であり、「2002年版ライセンスブランド全調査<還元資料>」ないし「2005年版ライセンスブランド全調査<還元資料>」に掲載されているブランド名「パリス」は、「ヤング産業株式会社『パリス』商標リスト(添付資料5)」に記載の商標を示すものであることを証明する旨記載されている。添付資料5に表示されている商標は、引用商標と同一の構成からなる商標の外、引用商標構成中の「極く小さな跳ねたひげのような線を付加してやや図案化されたPARIS」の文字部分のみからなる商標及び引用商標構成中の「PARIS」の文字部分の態様を異にした2種類の商標と該2種類の「PARIS」の文字部分のみからなる商標である。

しかしながら、添付資料5は、該ライセンスブランド全調査に掲載されているブランド名「パリス」に代表される個々の商標の態様を示しているにすぎないものであるから、甲第21号証自体は、請求人使用商標の周知性を証明するものではない。そして、添付資料5から、該ライセンスブランド全調査に掲載されているブランド名「パリス」に代表される個々の商標の態様は理解できるが、甲第17号証ないし甲第20号証の調査結果は、「パリス」商標一括の調査結果であり、各態様毎の調査結果が明らかにされているわけではなく、特に「PARIS」商標(引用商標7)に係る売上高がどの程度のものであったかも明らかではない。

(カ)甲第22号証及び甲第23号証は、ボイス情報株式会社のウェブサイトの抜粋であって、甲第22号証は「ライセンスブランド名鑑2009(2008年11月21日)」であり、甲第23号証は「ライセンスブランド名鑑2010(2009年12月11日)」であって、いずれにも、掲載ブランド一覧として記載されているブランドの一つとして「パリス」が掲載されていることが認められる。

しかしながら、該ライセンスブランド名鑑は、「資料概要」の欄に記載されているように、ライセンスブランドのライセンス状況等を掲載したものであって、ライセンスブランド名鑑2009には723件ものブランドが掲載されており、ライセンスブランド名鑑2010には731件ものブランドが掲載されているものであるから、該名鑑に「パリス」が掲載されているからといって、そのことをもって、「パリス」商標の周知性が認められるという性質のものではない。

(キ)甲第24号証ないし甲第30号証は、宣伝広告の事実を示す証拠として提出されているものであり、甲第24号証は近鉄南大阪線あべの橋駅に掲げられている大型ボードの広告の写真(2006年6月1日付け)であり、甲第25号証は地下鉄御堂筋線心斎橋駅の看板面意匠変更報告書(平成18年7月20日付け)であり、甲第26号証は地下鉄御堂筋線ホームの看板制作報告書(平成18年10月30日付け)であり、甲第27号証は大阪市営地下鉄駅看板意匠変更報告書(平成18年11月8日付け)であり、甲第28号証はホワイティうめだプチシャン意匠変更報告書(平成19年1月10日付け)であり、甲第29号証は大阪市営地下鉄谷町線平野駅AEDタイアップ広告(2007年10月1日付け)であり、甲第30号証はホワイティうめだプチシャン意匠変更報告書(平成19年12月28日付け)である。そして、例えば、近鉄南大阪線あべの橋駅に掲げられている大型ボードの広告(甲第24号証)には、中央に引用商標が表示されており、引用商標の左右に3種類の態様からなる「PARIS」の文字が表示されているものである。

しかしながら、駅の構内やホームにおける大型ボードの広告が駅利用客に対して一定程度の宣伝効果のあることを否定するものではないが、新聞や雑誌、テレビ等のマスメディアを用いた広範な者を対象とする宣伝広告に比べれば、駅広告を目にする需要者の範囲は自ずと一定の範囲の者に限定されるものと言わざるを得ない。しかも、上記した駅広告のうち、具体的な商品(被服)との関係をも含めた広告がなされているのは、甲第28号証及び甲第30号証のみである。そして、請求人は、看板、業界紙、雑誌等において年間8000万円ないし1億円もの費用を費やして宣伝広告活動を行っている旨主張しているが、請求人が提出しているのは駅の構内やホームにおける大型ボードの広告についての証拠のみであり、宣伝広告費用についても具体的な証拠は提出しておらず、宣伝広告の事実を示す証拠としては充分なものとはいえない。

(3)以上のとおり、請求人の提出に係る甲第14号証ないし甲第30号証をもってしては、請求人使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品、その中でも、本件商標の指定商品と同一又は類似の関係にある「被服」や「履物」等を表示する商標として、全国にわたるこの種商品の取引者・需要者の間に相当程度認識されていたものとは認め難いばかりでなく、大阪及びその隣接数県における取引者・需要者の間においてさえ、広く認識されていたものと認めることはできない。

してみれば、本件商標と請求人使用商標(引用商標1ないし7)との類似性が認められないばかりでなく、請求人使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品(被服等)を表示する商標として、需要者の間に広く認識されていたものとも認められないものである。

したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号に違反してされたものとはいえない。

3 むすび

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号及び同第11号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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