Trademark Appeal Case
著名商標と役務の混同
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 異議2012−900016(T2012−900016/J7) |
|---|---|
| 審判種別 | 異議 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
理由テキスト
1 本件商標
本件登録第5445660号商標(以下「本件商標」という。)は、「SAVOY」の欧文字を標準文字で表してなり、平成23年4月12日に登録出願、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、同年9月22日に登録査定、同年10月21日に設定登録されたものである。
2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標は商標法第4条第1項第10号、同第15号、同第19号、同第7号及び同第8号に違反して登録された違法なものであるから、同法第43条の2第1号によりその登録は取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第18号証を提出した。
(1)申立の理由
ア 申立人及び申立人による「The SAVOY」について
(ア)申立人は、1889年にイギリスで創立されたホテル「The SAVOY」(通称「SAVOY」)を運営する法人である。
「SAVOY」は、世界の高級ホテルの代名詞として、またロンドンのランドマークとして世界的に著名である(甲第2号証及び甲第3号証)。
(イ)「SAVOY」の幾多の受賞歴(甲第4号証)、及び作家ヨーゼフ・ロートの代表作の一つである「サヴォイ・ホテル」など「SAVOY」をテーマとした著作が多数存在する事実(甲第5号証)は「SAVOY」の著名性を裏付けるものである。
(ウ)「SAVOY」は、ロンドンの観光ガイドブックや雑誌のロンドン特集には必ず登場するなど、日本でも著名である(甲第6号証)。多くの日本人が海外(その旅先の一つにイギリスがある。)に旅行する今日では、海外のホテルであっても国内の有名旅館と同じように、需要者の間で有名になるものといえる。また、インターネットの普及も「SAVOY」の著名性を高める要因となっている。
(エ)英和辞典の「savoy」の項目に「ロンドンのサボイホテルに部屋がとってある」といった例文として用いられている(甲第7号証)。
(オ)「SAVOY」ホテルにおけるJTB、Miki Travelの2社を通して予約が行われた日本からの宿泊客に関する2011年の収益額は、JTB £23,460(宿泊客室数53)、Miki Travel Production £105,000(宿泊客室数304)であり、2011年における日本からの小売売上高総額は、£274,483である(甲第8号証)。
以上の事実から、「SAVOY」には、日本からの観光客が多数訪れていることがわかる。また、実際に宿泊しないものであっても、イギリスに旅行したものは,ガイドブック等で「SAVOY」を目にしたことがあるといえる。
(カ)さらに、「SAVOY」においては国際的なファッションショーが幾度となく開催されており、ファッション雑誌の撮影などに度々用いられている(甲第9号証)など、我が国のファッション愛好家にもその名が親しまれている。
(キ)加えて、「SAVOY」は役務「飲食物の提供」について用いられる商標として需要者に知られている。「SAVOY」ホテル内でバーテンダーを務めたハリー・クラドックが1930年に著した「サボイ・カクテルブック」は、当時世界中でベストセラーとなり、今日においてもバーテンダーのバイブルになっている。「サボイ無しにカクテルは語れず」といわれるほど、「SAVOY」は申立人による飲食物の提供に用いられる商標として我が国において著名となっている(甲第10号証ないし甲第12号証)。
(ク)カクテル以外でも、「SAVOY」はアフタヌーンティーのメッカとして知られ、ホテル「SAVOY」内で提供される紅茶や茶菓子のレシピをまとめた「Taking Tea at The Savoy」といった書籍が発行されるほどである。我が国の雑誌においても「SAVOY」で提供される紅茶は数多く紹介されており、我が国の需要者の間でも著名である(甲第13号証及び甲第14号証)。
さらに、インターネットサイト「ロンドン観光Q」の「ロンドンのレストラン・カフェランキング」において「SAVOY」内のレストラン「サヴォイ・グリル」が「ロンドンを代表すると言ってもいい名店中の名店」と紹介されるなど、「SAVOY」によるレストランも有名である(甲第15号証)。
(ケ)以上の事実から、「SAVOY」が、申立人による役務「宿泊施設の提供」及び「飲食物の提供」について用いられる商標として英国をはじめとして我が国においても周知であることは、本件商標の登録出願時である平成23年4月12日において既に顕著な事実であり、その状況は本件商標の登録査定時である平成23年9月22日から現在に至るまで継続しているものである。
イ 商標法第4条第1項第10号について
(ア)「SAVOY」あるいは「The SAVOY」は、申立人による「飲食物の提供」「宿泊施設の提供」について用いられる商標として我が国の需要者に周知である。
「The SAVOY」を構成する「The」の文字部分は、英語の定冠詞にすぎないものであるから、「The SAVOY」の構成中にあって、特に自他商品役務の識別標識としての機能を強く発揮する部分は「SAVOY」の文字部分にある。すなわち、「The SAVOY」からは「サヴォイ」の称呼も生じる。
本件商標は、標準文字のローマ字で「SAVOY」と横書きしてなるものであって、平成23年4月12日に第43類「飲食物の提供」を指定役務として出願されたものである。
そうとすれば、本件商標は、周知商標たる「SAVOY」、「The SAVOY」と同一もしくは類似する商標であって、本件商標の指定役務「飲食物の提供」と周知商標たる申立人による商標の使用にかかる役務「飲食物の提供」とは同一であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(イ)さらに、判例によれば、商品・役務の類否判断は、「指定商品が類似のものであるかどうかは、商品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判定(判断)すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場合には、たとえ、商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、類似の商品にあたると解するのが相当である」(最高裁 昭和33年(オ)1104号)、「取引の実情、すなわち、商品の生産部門、販売部門、原材料及び品質、用途、需要者の範囲が一致するかどうか、完成品と部品との関係にあるかどうか等を総合的に考慮して判断すべきである」(東京高裁 平成7年(行ケ)第161号)と判示されている。
上記の観点から役務「飲食物の提供」と「宿泊施設の提供」の類否を検討した場合、ホテルサービスでは、単に宿泊施設の提供に止まらず、宿泊客の広範なニーズに応えるため、数々のサービスが併せて提供される。特に、ホテル内において飲食物の提供が行われることは常である。さらに、ホテル事業者は多角経営的にレストランを運営することも多い。
これらの事実から、役務「飲食物の提供」と「宿泊施設の提供」とは、同一の事業者が提供することが多く、需要者の範囲が一致するものであり、役務の提供場所が一致することが多いといえ、これらの役務に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の提供にかかる役務と誤認されるおそれがあると認められる。
(ウ)以上のとおり、本件商標は周知商標たる「SAVOY」、「The SAVOY」と同一もしくは類似する商標であって、本件商標の指定役務「飲食物の提供」と周知商標たる申立人による商標の使用に係る役務「宿泊施設」とは類似するものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
ウ 商標法第4条第1項第15号について
「SAVOY」が著名であるため、本件商標が指定役務に使用された場合には、需要者は申立人と何らかの関係があるものの業務に係る役務であるかのごとく誤認をし、役務の出所について混同の生じるおそれがある。
現実の取引においても、「飲食物の提供」について商標「SAVOY」が用いられた場合において、申立人と何らかの関係があるものの業務に係る役務であるかのごとく誤認され、役務の出所について混同が生じている具体的事例がある(甲第17号証及び甲第18号証)。
以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
エ 商標法第4条第1項第19号について
「SAVOY」は少なくともイギリスでは著名であること明白である。
そして、日本会社である本件商標権者がこの「SAVOY」を自己の商標として採択されることは考え難い。
むしろ、申立人の著名商標である「SAVOY」にただ乗りする意図の下に採択し登録したものと考えられ、本件商標は不正の目的を持って登録されたと考えるのが自然である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであるといわざるを得ない。
オ 商標法第4条第1項第7号について
商標は採択行為であったとしても、商道徳に反して商標を採択されることは許されるものではない。上記のように、本件商標がたまたま採択されたものとは考え難い。少なくとも、「SAVOY」が著名であるが故に顧客吸引力のあることを知った上で採択されたと考えるのが自然である。
商標法第4条第1項第7号の「公の秩序」には取引の秩序を維持する商標法の趣旨からして商道徳も含まれると解すべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。
カ 商標法第4条第1項第8号について
「SAVOY」は、本件商標の出願前に申立人の略称としても著名なものであったことは明らかである。そして、本件商標の登録に際して申立人から承諾を得ていない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものである。
キ まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同第15号、同第19号、同第7号及び同第8号に違反してなされたものであるから、取り消されなければならない。
3 当審の判断
(1)「SAVOY」(The SAVOY)の周知性について
申立人の提出した証拠によれば以下の事実が認められる。
ア 「The SAVOY」(以下「申立人商標1」という。)は、1889年に創立したイギリスのロンドンにあるホテル(なお、当該ホテルをいうときは「サヴォイホテル」という。)であり(甲第2号証、甲第3号証ほか)、同ホテルにおいて、「SAVOY」の文字からなる商標(以下「申立人商標2」という。また、申立人商標1及び2をまとめて「申立人商標」という場合がある。)も使用され(甲第3号証)、さらに「The SAVOY」を「SAVOY」と略して称していることが認められる。
イ 甲第2号証は、「4Hoteliers」と題するホテルや旅行に関するニュースのウェブサイトであり、「Famous Hotels in the World」の項目で、ロンドンにあるホテルとしてサヴォイホテルが紹介されているものであり、甲第3号証は、「Wikipedia」の「Savoy Hotel」のページであるが、いずれも英語で作成されたものであり、我が国の需要者が多く閲覧するものとは認められない。また、どのような証拠に基づいてサヴォイホテルを世界の有名ホテルとしているのか不明である。
ウ 甲第4号証は、申立人の英語によるウェブサイトであり、サヴォイホテルに受賞歴があることは認められるものの、申立人商標の周知・著名性を示すものでない。
エ 甲第5号証によれば、ヨーゼフ・ロート著作の「ヨーゼフロート小説集」に「サヴォイ・ホテル」という巻が1994年翻訳出版され、千代田図書館の蔵書にあることが認められるが、サヴォイホテルが実在のホテルとして認識される内容かどうかは不明である。
また、「サヴォイ・ホテルスキャンダル」と題する書籍が1993年に翻訳出版されたことが認められるが、1923年に起きた事件を題材としたもので、現存するホテル(サヴォイホテル)として認識されるものとは限らないし、また、その発行部数等も不明である。
オ 甲第6号証によれば、「ロンドンのホテル」(2006年出版)に「サヴォイ」が紹介されていることは認められるが、75のホテルの内の一つにすぎない。また、「madame FIGARO japon」に「サヴォイホテル」が紹介されているが当該雑誌の発行日は不明である。
カ 甲第7号証によれば、「研究社 新英和中辞典」中の例文中に「the Savoy」「サボイホテル」がホテル名として扱われているが、辞書を引く者がこれを見ても実在のホテルとして認識するとは限らないし、このような辞書の例文中にあったとしても需要者が目にすることは少ないものといえる。
キ 甲第8号証によれば、旅行会社「MIKI TRAVEL LIMITED」がサヴォイホテルに予約していることは認められるものの、申立人の主張の実績については確認できない。仮に申立人の主張のとおり、2011年における日本からの宿泊客が客室数で357、売上げ総額で£274,483であるとしても、売上額も多いものとはいえないし、しかも連泊客も少なからずいるから、宿泊客も多いものとは認められない。
ク 甲第9号証は、ファッション雑誌、「NumeroTOKYO」(「e」にはアクサンテギュが付されている。)であるが、インタビュー(撮影)場所として「ザ サヴォイ」が紹介されていることは認められるが、その紹介も記事内容に直接的に関係するものではないから、読者がその部分に深く注目するものとはいえない。
ケ 甲第10号証によれば、「サヴォイ・カクテルブック」という、サヴォイホテルのバーテンダーによるカクテルのレシピに関する書籍があることが認められ、また、甲第13号証によれば、紅茶のレシピをまとめた「Taking Tea at The Savoy」という英語による書籍があることが認められるが、このような専門的な書籍は、読者層は限られると考えられるものである。
コ 甲第11号証は、2012年4月9日付けのカクテルという名前の由来に関するウェブサイトであり、甲第12号証は、2012年3月30日付けの東京都中央区所在の飲食店のウェブサイトであり、両ウェブサイトには、「サヴォイホテル」に関する記載があることは認められるものの、これらのウェブサイトの打ち出し日は本件商標の登録査定日以後のものであり、また、閲覧の程度は不明である。
サ 甲第14号証は、「The SAVOY」「ザ・サヴォイ」の記載とともに、サヴォイホテルのアフタヌーン・ティーについて紹介されているものと旅行雑誌のロンドンについて他の名所等とともに紅茶店としてサヴォイホテルが紹介されているものであるが、いずれも雑誌名、発行日及び発行部数が不明である。
シ 甲第15号証は、「ロンドン観光Q」と題するロンドンのレストランを紹介するページであり、複数のレストランの一つとしてサヴォイホテルが紹介されているものである。
ス 以上によれば、サヴォイホテルは、ロンドンにある高級ホテルであり、カクテルや紅茶等に定評があってレシピが紹介されていること、ロンドン旅行に関する雑誌、ウェブサイトに紹介されていることは認められるものの、当該レシピはカクテル等の専門家向けといえるものであり、旅行雑誌等の掲載数もそれほど多いものとはいえず、また、ロンドン旅行に関して複数のホテルレストラン等の一つとして紹介されているものであり、我が国からの宿泊客もそれほど多いものとは認められないことからすると、申立人商標が需要者の間に広く認識されているとまでは認めることはできない。
なお、甲第17号証及び甲第18号証によれば、他人のピザ屋「SAVOY」やレストラン「サヴォイ」にその客がサヴォイホテルとの関係を質問したことが認められるが、一人若しくは二人がサヴォイホテルを知っていたことを示すにすぎず、これをもってしても申立人商標が、周知・著名なものということはできない。
(2)商標法第4条第1項第10号及び同第15号について
本件商標は、「SAVOY」の文字からなり、これより「サボイ」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。
一方、申立人商標1は、「The SAVOY」の文字からなり、これより「ザサボイ」の称呼を生じるものであり、また構成中の「The」の文字部分は、英語の定冠詞であり、識別標識として顕著な部分は後半の「SAVOY」の文字部分にあるといえることから、これより単に「サボイ」の称呼をも生じるものと認められ、特定の観念は生じないものである。
また、申立人商標2は、「SAVOY」の文字からなり、これより「サボイ」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。
そうとすれば、本件商標と申立人商標とは、外観、称呼及び観念において同一又は類似の商標と判断するのが相当である。
しかしながら、申立人商標は、上記(1)のとおり、我が国における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。
してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものということはできない。
また、申立人商標は、我が国における取引者・需要者の間で広く認識されているものと認めることができないものであるから、本件商標は商標権者がこれを本件申立てに係る指定役務に使用しても、これに接する取引者・需要者が申立人商標を連想、想起するものとはいえず、当該役務を申立人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのごとく、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、その構成自体において、公序良俗を害するおそれがある商標に該当しないことは明らかである。
また、申立人商標が著名であり、顧客吸引力を有する財産的価値あるものであることから、本件商標を自己の商標として採択登録することが商道徳に反するものであることの証左は提出されていないし、かつ、他にこれを認めるに足る証拠は見いだせない。
したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標ということはできないから、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第8号について
提出された証拠についてみても、申立人の経営するホテルについて「SAVOY」と称することがあることは認められるが、申立人が「SAVOY」と略称されていたとする証拠は見当たらない。
してみれば、「SAVOY」が申立人の著名な略称であると認めることはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものとはいえない。
(5)商標法第4条第1項第19号について
本件商標は、上記(2)のとおり、申立人商標と同一又は類似する商標と認められるものである。
しかしながら、上記(1)のとおり、本件商標は、日本国内又は外国において、取引者・需要者に広く認識されている商標とは認められないものである。
さらに、本件商標の出願が申立人商標にただ乗りする意図の下に採択された等の不正の目的をもって使用をするものであるとの証左は何ら示されていないし、かつ、他にこれを認めるに足る証拠は見いだせないから、本件商標は、不正の目的をもって使用するものと認めることはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(6)まとめ
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号のいずれにも違反して登録されたものではないから、商標法第43条の3第4項の規定により、その登録は維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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