sokuhyo

Trademark Appeal Case

「Merck」商標の類否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2010−890055(T2010−890055/J3)
審判種別無効
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5281405号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、平成19年6月28日に登録出願、第35類に属する別掲2のとおりの役務を指定役務として、同21年11月20日に設定登録されたものである。

第2 引用商標

請求人が引用する登録商標は、次の(1)ないし(13)に掲げるとおりであり、(9)を除き、いずれも現に有効に存続しているものである。

なお、以下の引用商標(1)ないし(13)を総称するときは、単に「引用商標」という。

(1)登録496397号商標は、「Merck」の欧文字を横書きしてなり、昭和30年5月31日に登録出願、第1類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和32年2月14日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、平成20年7月16日に、第1類、第2類、第3類、第5類、第10類、第16類及び第30類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品とする書換登録がされたものである。

(2)登録1010985号商標は、「MERCK」の欧文字を横書きしてなり、昭和45年10月16日に登録出願、第3類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和48年5月1日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、平成16年3月10日に、第2類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品とする書換登録がされたものである。

(3)登録1010986号商標は、「メルク」の片仮名文字を横書きしてなり、昭和45年10月16日に登録出願、第3類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和48年5月1日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、平成16年3月3日に、第2類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品とする書換登録がされたものである。

(4)登録2231159号商標は、「MERCK」の欧文字を横書きしてなり、昭和54年10月12日に登録出願、第10類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成2年5月31日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、同22年4月14日に、第1類、第5類、第9類及び第10類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品とする書換登録がされたものである。

(5)登録2261356号商標は、「メルク」の片仮名文字を横書きしてなり、昭和54年11月7日に登録出願、第10類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成2年9月21日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録がされているものである。

(6)登録4053496号商標は、別掲3のとおりの構成よりなり、平成7年7月21日に登録出願、第5類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同9年9月5日に設定登録、その後、商標権の存続期間の更新登録がされているものである。

(7)国際登録第279186号商標は、「Merck」の欧文字を横書きしてなり、2001年(平成13年)9月21日に国際商標登録出願(事後指定)、第3類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成14年5月24日に設定登録されたものである。

(8)国際登録第547719号商標は、「Merck」の欧文字を横書きしてなり、2001年(平成13年)8月24日に国際商標登録出願(事後指定)、第10類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成14年5月24日に設定登録されたものである。

(9)国際登録第734040号商標は、別掲4のとおりの構成よりなり、1999年12月15日にドイツ国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張し、2000年(平成12年)4月17日に国際商標登録出願、第5類、第16類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成13年6月29日に設定登録されたものである。なお、本商標権については、平成22年11月16日付けで存続期間満了による抹消の登録がされているものである。

(10)国際登録第770038号商標は、別掲5とおりの構成よりなり、2001年5月17日にドイツ国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張し、2001年(平成13年)10月12日に国際商標登録出願、第1類、第2類、第3類、第5類、第10類、第16類、第29類、第30類、第35類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成15年11月28日に設定登録されたものである。

(11)国際登録第770114号商標は、別掲6のとおりの構成よりなり、2001年5月17日にドイツ国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張し、2001年(平成13年)10月12日に国際商標登録出願、第1類、第2類、第3類、第5類、第9類、第10類、第16類、第29類、第30類、第35類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成16年3月19日に設定登録されたものである。

(12)国際登録第770115号商標は、別掲7のとおりの構成よりなり、2001年5月17日にドイツ国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張し、2001年(平成13年)10月12日に国際商標登録出願、第1類、第2類、第3類、第5類、第9類、第10類、第16類、第29類、第30類、第35類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成16年3月19日に設定登録されたものである。

(13)国際登録第770116号商標は、別掲8のとおりの構成よりなり、2001年5月17日にドイツ国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張し、2001年(平成13年)10月12日に国際商標登録出願、第1類、第2類、第3類、第5類、第9類、第10類、第16類、第29類、第30類、第35類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成16年3月19日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張

請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第303号証(枝番を含む。)を提出した(なお、甲号証において、枝番を有するもののうち、すべての枝番を引用する場合は、枝番の記載を省略する。)。

〈請求の理由〉

本件商標の登録は、以下の理由により、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第8号及び同第7号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、無効とされるべきである。

1 商標「Merck」及び「メルク」について

(1)商標「Merck」及び「メルク」(これらを併せて、以下「請求人商標」という。)は、以下の(2)ないし(4)のとおり、請求人及びそのグループ企業の略称並びにそれらの商品又は営業を示すものとして、我が国の医薬・医療品、試薬、化学製品、液晶・顔料等の工業製品、栄養補助食品などの分野において、周知・著名である(甲第13号証及び甲第14号証)。

(2)請求人について

ア 請求人は、ドイツに本拠をおく世界的な薬品及び化学品企業である。請求人は、1668年にドイツのダルムシュタットに創業し、その後、1827年に、モルヒネなどのアルカロイドの大量精製に成功し、それを皮切りに、植物抽出物やその他の化成品についても高品質な製品の生産を開始した。また、1850年に、請求人の前身であるE・メルク社をドイツに設立し、同社は、ヨーロッパにおいて本格的に化学品及び医薬品の販売を開始し、ヨーロッパに販売網を確立した。さらに、請求人は、1904年に、世界に先駆けて液晶の販売を開始し、1934年から1942年にかけて、ビタミンCをはじめビタミンB1・E・Kなどの合成生産に、1960年代にはパール顔料の開発に成功した(甲第3号証ないし甲第6号証)。

イ 請求人は、1995年に、メルクグループ組織再編の一環として、ドイツのダルムシュタットに設立され、メルクグループ全事業を統括する中核となった。現在では、請求人及び170社を超えるそのグループ企業は、世界61カ国において、約33000人の従業員を有する巨大規模の製薬及び化学薬品グループに成長している(甲第3号証ないし甲第6号証)。

ウ 請求人は、2005年度の製薬世界大手の医療用医薬品の売上高順位では、世界第20位に位置し、2005年の医薬品メーカーランキングでは世界第25位、2006年でも世界第24位に位置した(甲第8号証の4及び12)。メルクグループ全体の売上高は、2007年が70億6000万ユーロであり、このうち、医薬品事業の売上高は48億8000万ユーロ、化学品事業の売上高は21億5000万ユーロであり、2008年には75億5800万ユーロ(甲第8号証の61及び101)、2009年には77億円(審決注:「77億ユーロ」の誤記と認める。)に達し、年々その業績は伸長し続けている(甲第4号証の3)。

エ 請求人は、1968年に、東京都港区にメルク・ジャパン株式会社(2002年に社名をメルク株式会社に変更した。以下、これらを「日本メルク社」という。)を、メルクグループの日本法人として設立した。日本メルク社は、医薬品・医療品、試薬、化学製品、液晶・顔料等の工業製品、栄養補助食品などの幅広い分野において大規模に事業を展開している(甲第3号証及び甲第4号証)。なお、日本メルク社の総売上高は、国内業種別では常に上位にある(2006年時点では、592社中2位:甲第12号証の1)。

(3)メルク(Merck)ブランドの著名性

ア 医薬・医療品の分野について

前述のとおり、メルクグループの医薬・医療品事業は、同グループ総売上高の大部分を占める主要事業であり(甲第7号証の16、18、20、22、23、31、32、37、40、41、43、46、49、51、52、54、55、65、67、84、86、87、92、94ないし97、甲第8号証の2、3、10、11、14、15、20、22、25、26、29ないし31、33、37、46、47など)、癌、神経及び成長障害、循環器系疾患並びに不妊症治療などの専門医薬品から、一般消費者向けのヘルスケア製品に至るまで、多種多様な医薬品を長年にわたり提供し続けてきた(甲第3号証ないし甲第6号証)。

請求人のグループ会社の一つであるメルクセローノ(2007年上旬に設立)は、現在、150カ国でメルクブランドの医薬・医療品を販売しているところ、これらの商品は、日本において、新聞・専門誌などで大きく取り上げられ(甲第8号証)、また、それら商品について同社がセミナーを主催した(甲第188号証)。

また、一般市販薬についても、請求人のコンシューマー・ヘルスケア事業部が、ビタミン剤、風邪治療薬、インフルエンザ治療薬などを取り扱っている(甲第3号証ないし甲第6号証、甲第8号証の16及び17、甲第189号証)。

日本メルク社は、メルクグループと日本企業や医療機関とのライセンスに関するコーディネートや医療用医薬品原料の輸出入を主として行ってきた(甲第7号証の10ないし12)が、2001年に独自の医薬品事業部を設立し、2003年にハチ刺傷や食物アレルギーなどによるアナフィラキシーショックに対する緊急補助医療薬品を上市した。同製品の売上は、2003年に年間約997万円であったが、その後上昇し、2006年には年間約1億365万円に達した(甲第16号証ないし甲第23号証)。また、鼻炎治療薬も、日本国内で処方されている主要な医薬品である(甲第182号証)。

メルクグループは、1993年にジェネリック品市場に進出し、1998年1月、日本国内のジェネリック品需要の高まりを受けて、メルク・ホエイ株式会社(同社は、2006年7月にメルク製薬株式会社に商号変更され(甲第12号証の2。)、2008年2月に米国法人マイラン・ラボラトリーズに売却された。)を設立した。同社の2006年12月期の売上は、168億4300万円に達し、メルクブランドは、ジェネリック医薬品の分野においても、多大な実績と名声を獲得した(甲第24号証ないし甲第34号証)。

イ 試薬の分野について

メルクグループは、検査・研究・実験用試薬の分野において、1830年代から注力し、現在、同分野における世界のリーディングカンパニーとしての地位は不動である。日本では、1980年代から試薬分野への本格導入を開始し、現在では、クロマトグラフィー関連製品、環境分析・微生物・染色液関連製品、分子生物・細胞生物学の研究用試薬、有機合成用試薬など30,000種類の製品を手がけており、30社以上の代理店と特約を結んで、事業を拡大し続けている(甲第3号証ないし甲第6号証、甲第61号証ないし甲第64号証)。また、日本メルク社は、ユーザー及びディーラー等を対象とした試薬・ライフサイエンスのセミナーを開催し、ユーザー及びディーラーに対する情報提供にも力を入れている(甲第48号証ないし甲第53号証)。

ウ 化学製品・工業製品の分野について

メルクグループは、1904年の液晶材料の販売開始後、1970年代に、液晶材料の日本への輸入販売を行ない、1981年に、厚木の応用研究室において、液晶製品の一部国内製造を開始し(甲第3号証ないし甲第6号証)、多くの研究者等を対象とした液晶セミナーを実施した(甲第36号証ないし甲第47号証、甲第70号証ないし甲第181号証)。

また、メルクグループは、1960年代に成功した無毒性のパール顔料の開発を契機に、小名浜製造センターにおいて、日本国内はもとより、アジア、オセアニア等各国向けの顔料生産を開始し、その後も拡大し続ける需要に対応し、その技術力は高い評価を受けている(甲第3号証ないし甲第6号証、甲第54号証ないし甲第60号証)。

さらに、請求人は、1930年代に、世界で初めてビタミンC、B1、E、Kの合成生産に成功し、その後も様々な化学合成品の開発に力を注ぎ、現在、約1,000以上もの化成品の品目を扱っている。日本においても、化粧品原料(紫外線吸収剤、殺菌剤他、昆虫忌避剤、スキンケア用原料、消炎剤等)、医薬品原料・医薬中間体(ビタミン、ミネラル類、糖アルコール類等)、食品添加物・機能性食品素材などの取り扱いがあり、日本メルク社は、約300以上の品目を化粧品、医薬品、食品の大手メーカーに提供してきた(甲第6号証)。

また、請求人の高い技術力は、真空蒸着材料など、光学分野を始めとする工業技術分野でも活用されており、眼鏡・高機能サングラス・双眼鏡などの反射防止コーティングの多くには、請求人及びメルクグループ製品が用いられている(甲第3号証ないし甲第6号証、甲第65号証ないし甲第69号証)。

以上のように、請求人は、医薬・衣料品などのみならず、液晶、顔料、光学分野などの化学製品・工業製品の分野においても、周知かつ著名な企業である。

(4)宣伝広告・雑誌記事

請求人及び日本メルク社は、日本国内において、上記の製品等について、多数の宣伝広告を行なってきた(甲第190号証ないし甲第248号証、甲第9号証の1ないし19)。また、平成17年及び18年の「日本におけるドイツ年」でも積極的に宣伝を行った(甲第7号証の384・385・387・388等)。さらに、請求人商標は、長年にわたり、多数の新聞・雑誌に、請求人又はそのグループ企業を示すものとして掲載されてきた(甲第7号証ないし甲第8号証)。

2 商標法第4条第1項第11号該当性

(1)称呼類似

本件商標より生ずる「メルクス」の称呼は、商標の識別の際に最も注意の払われる冒頭部分において、引用商標の称呼「メルク」を含むものである。前述のとおり、請求人商標は、医薬・医療品、試薬、化学製品、液晶・顔料等の工業製品、栄養補助食品などの分野において著名であることから、本件商標の「メルク」の称呼部分は、需要者の注意を惹き、請求人を想起・連想させるおそれが非常に高い。

「メルクス」の称呼は、「メルク」の語尾に、音の響きが非常に弱い無声摩擦音「ス(SU)」を伴うものである。そして、母音「U」を伴う音は、他の母音を伴う音に比べて口の開きが小さいから、「ス」は特に聴取しづらいものである。また、「ス」の前音「ク」は、明瞭に発声する破裂音であり、まして、「ク」と「ス」は、共に母音「U」を伴うものであって「クス」を一連に称呼する場合には口の開きの形が変わらないため、弱音「ス」は、前音「ク」に吸収され、聴取しづらい音となる。

語尾の「ス」の有無の差異を有するにすぎない商標を類似と判断した審決等は、極めて多数存在する(甲第250号証ないし甲第280号証)。

(2)過去の経緯

本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)は、本件商標と同一の構成からなる登録第4651353号商標を有している(甲第281号証)。当該登録商標は、審査において、本件審判における引用商標を引用した拒絶理由通知書が発せられたところ、本件商標権者は、引用商標に係る指定商品と類似する商品をすべて削除する補正を行っており、本件商標と同一の構成からなる商標と引用商標とが類似するという拒絶理由を受け入れている(甲第282号証)。このような経緯からみても、両商標は類似するものである。

(3)以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼上類似する商標であることは明らかである。また、引用商標の著名性を考慮すれば、本件商標と引用商標とは、混同が生じるおそれの高い類似商標というべきである。

また、本件商標に係る指定役務中、少なくとも甲第303号証に示す指定役務は、引用商標に係る指定商品と類似するものであることが明らかである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。

3 商標法第4条第1項第15号該当性

(1)最高裁平成10(行ヒ)第85号:平成12年7月11日判決(レールデュタン事件)によれば、「混同を生ずるおそれ」には、「広義の混同を生ずるおそれ」が含まれること、そして、上記判決の判示する「広義の混同のおそれ」の有無の具体的判断基準を前提として、本件商標がその指定役務に使用された場合、請求人及びメルクグループ企業の商品との間で「広義の混同のおそれ」を生じさせることについて、以下述べる。

ア 本件商標と請求人商標との類似性

本件商標と請求人商標とは、前記2のとおり、称呼上類似するものである。

また、請求人は、請求人商標を一部に含む登録商標を多数有している(甲第249号証)。このように、請求人自身が、著名な請求人商標を一部に含む商標を使用している状況において、本件商標がその指定役務に使用された場合には、該役務は、メルクグループに関連する事業・店舗というように認識され、混同を生じさせる蓋然性が高いことは明らかである(甲第13号証の4)。

イ 請求人商標の周知著名性

前述のとおり、請求人商標は、請求人及びそのグループ企業の略称、並びに商品又は営業を示すものとして、我が国の医薬・医療品、試薬、化学製品、栄養補助食品などの分野において著名である。

ウ 請求人商標の独創性

請求人商標は、我が国において、あまり馴染みのないドイツ人の人名に由来するものであるから、その表示の独創性は高いというべきである。

また、請求人商標は、営業主自体を表示するいわゆるハウスマークであり、その混同を生じる範囲は一般的に広いものとして考慮されるべきである。

したがって、本件商標に接した我が国の需要者は、周知著名な請求人商標を想起し、又は、請求人及びそのグループ企業を連想するというべきである。

エ 本件商標の指定役務と請求人の業務に係る商品等との関連性について

本件商標に係る指定役務は、小売等役務に関するものである。一般的に、製薬会社と一般小売店(薬局店・ドラッグストア等)との関係は、薬局店・ドラッグストア等が製薬会社の販売代理店という側面が強く、製薬会社の商標は、薬局店・ドラッグストア等の小売店の看板・暖簾として使用されることが少なくない。また、薬局店・ドラッグストア等においては、医薬・医療品のみならず、様々な生活日用品が一緒に販売されている実情があり、医薬品と生活日用品とは、販売場所、需要者層等を同じくする。したがって、製薬会社の商標は、医薬・医療品・化学製品の小売等役務に限らず、生活日用品等様々な商品の小売等役務についても密接に関連して使用されているのである。

さらに、製薬会社は、医薬・医療品、化学製品のみならず、その技術を応用した栄養補助食品・飲料、化粧品、歯磨き、洗剤・せっけん類などの広範囲にわたる一般生活用品を製造している実情にあり、これらの商品は、製薬会社直営の小売店・オンラインショップやドラッグストアで販売されていることが多い(甲第283号証ないし甲第302号証)。このように、製薬会社が行う業務は、小売等役務と密接に関連しており、製薬会社の商標(特にハウスマーク)は、小売等役務について直接、あるいはそれらと密接に関連して使用されることが非常に多い。

したがって、本件商標に係る指定役務中、特に、請求人が主として扱う医薬・医療品、試薬、化学製品、液晶・顔料等の工業製品、栄養補助食品に類似する商品の小売等役務はもちろんのこと、食品・飲料類、化粧品、洗剤・せっけん類などの生活用品の小売等役務は、請求人商標の使用に係る商品と、現実に、需要者・取引者層及び取引経路を共通にし得るものである。また、本件商標に係る指定役務(少なくとも甲第303号証に示すもの)と請求人商標の使用に係る商品とが、類似の商品役務であることは、類似商品・役務審査基準に照らして明らかである。

(2)以上のとおり、本件商標は、請求人商標との関係において、商標法第4条第1項第15号に規定する「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当することが明らかである。

4 商標法第4条第1項第8号該当性

請求人商標は、請求人の名称の著名な略称である。また、「メルク」は、ドイツ人の人名に由来するものであって、請求人を指し示す名称以外にはほとんど馴染みのない非常に特徴的かつ独創的な名称である。そして、本件商標は、当該「メルク」を含むものである。

したがって、本件商標は、他人の名称の著名な略称を含む商標であって、かつ、請求人が本件商標権者人に対して「メルク」を含む本件商標の登録ないし使用について承諾したという事実はないから、商標法第4条第1項第8号に該当する。

5 商標法第4条第1項第7号該当性

「Merck」は、我が国のみならず世界的に著名な商標である。そして、本件商標は、該「Merck」の日本語表記「メルク」を含むものであるから、前記3に示す商品について、出所の混同を生じさせる商標である。

本件商標は、著名な請求人商標に化体した信用にフリーライドする又はダイリューションを生じさせる商標であるといわざるを得ない。

したがって、本件商標は、公序良俗を害する商標であるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。

第4 被請求人の答弁

被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。

1 商標法第4条第1項第11号について

(1)外観

引用商標は、いずれも「メルク」又は「MERCK」を要部としている。一方、本件商標は、黄色地の背景に赤色の欧文字「MELX」(審決注:「MERX」の誤記と認める。)を書し、その下段に赤色地の背景に白抜きの片仮名文字「メルクス」を書した構成よりなるものである。よって、特異な外観を有する本件商標と、引用商標の構成要素は明らかに相違し、外観上は明確に区別し得るものである。

(2)観念

本件商標中の「MERX」は、ギリシャ神話に出てくるオリンポス12神の中で、最も人々から愛された神「マーキュリー」の略称であり、商売と情報の神様であると共に生活の豊かさを象徴する神の意味する語である。このことは、本件商標権者のパンフレット(乙第1号証)の裏表紙に記載したとおりであり、該パンフレットの表紙及び裏表紙にオリンポス神であるメルクスをイメージしたキャラクターと共に大きく表したとおりである。

一方、請求人商標は、請求人主張のとおり、人名に由来するものである。

よって、オリンポス神を意味する本件商標と、特定の観念を有しない請求人商標は、観念上明らかに相違し、明確に区別し得るものである。

(3)称呼

本件商標は、上述したオリンポス神の観念に相応して「メルクス」とのみ称呼され、引用商標は、その構成文字に相応して「メルク」とのみ称呼される。よって、4音から構成される本件商標と、3音からなる引用商標は、称呼の点においても明らかに相違し、明確に区別し発音、聴取されるものである。

ちなみに、観念を論ずるまでもなく単に語尾の「ス」の有無による称呼の違いが認められて登録となった例も多数存在(例えば、「SOFTEK(ソフテック)」と「SOFTEX(ソフテックス)」:不服2004−25440審決ほか)し、これらの審決例からしても、本件商標と引用商標は、末尾音「ス」の有無において明確な発音の相違があるのであって称呼の点で類似するものではない。

(4)商標法第4条第1項第11号の判断基準について

最高裁昭和39年(行ツ)第110号:昭和43年2月27日(氷山印事件)(商標審査基準の解説第五版の200頁及び201頁)の判決に照らして、外観、称呼、観念のほかに取引の実情においても検討を加えるならば、次のとおりである。

請求人は、製薬・医療品・化学製品のメーカーである(甲第4号証、甲第6号証及び甲第7号証等)。

本件商標権者は、大正14年に創業、昭和55年に商号を「ミスターマックス」と変更し、九州を中心として、中国地方、関東地方を含め、ディスカウントストア45店以上を展開する、東京、福岡の証券取引所に上場する会社(乙第2号証)として広く需要者に知られる企業である。そして、本件商標は、本件商標権者が展開するショッピングセンターのシンボルマークとして使用されているものである(乙第1号証)。

本件商標権者の展開するショッピングセンター「MrMaX」の特徴は、「広い駐車場を持ち、店内はワンフロアで売場レイアウトがすっきりしている。通路が広く買物がしやすい。店に行けば、衣、住生活に必要なものが品揃えされていて、しかもごく短時間で買物を済ませられる(ショートタイム・ショッピングの実現)。この従来のMrMaxの基本思想をさらに広げ一段と大きな構想として展開したのが、『ハイパーモール・メルクス』だ。

これはMrMaxがデベロッパーとなってテナントを誘致したビッグなショッピングモールで、スーパーマーケットをもうひとつの核とし、さらに各種専門店、ファストフードなどの飲食店やゲームセンターといった店舗で構成したのが特徴。革新的なビッグステージだ。もちろん1000台以上を駐車できるスペースを有し、お客様は行きたい店の前で車を降り買いものを済ませるし、時間をかけて様々な店を見て回ることもできる。ここに来ればすべてが満たされる。そんなショッピングワールド」である(乙第2号証の4頁)。

かかる状況から、ショッピングセンターに関連する領域以外での役務の提供又は指定商品の取引においては、本件商標と請求人商標が競合することはあり得ず、本件商標権者の役務と請求人の商品の出所に混同を来すおそれはない。また、ショッピングセンターにおける取引においても、一般の取引者、需要者は、ショッピングセンターのシンボルマークである本件商標に接した場合に、ショッピングセンター内の小売りにおいて提供されるサービス(便益)についての識別標識と認識するのは明らかである。

一方、請求人商標は、商品についての識別標識であることから、請求人商標が付された商品については、請求人の取り扱う商品であることを認識し、商品の出所を区別して取り扱うことは明らかである。

加えて、前記のとおり、「メルクス」がオリンポス神を意味する語であって、その観念を有することを考慮すれば、両称呼は、「ス」の有無により聴別できる相紛れることのないものであるから、引用商標と本件商標とによる出所の混同は生じることはない。

(5)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

2 商標法第4条第1項第15号について

請求人は、請求人商標はハウスマークであり、その周知・著名性により、本件商標中の「メルク」部分が強く印象付けられる旨主張するが、本件商標はそもそも、ギリシャ神話に出てくるオリンポス神を観念するものであるので、「メルクス」とのみ称呼され、請求人商標とは明確に区別し得るものである。

仮に、請求人商標が著名であるとしても、本件商標をシンボルマークとするショピングセンターは、九州地方(福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、宮崎県)、山口県、関東地方(千葉県、群馬県)に全国展開している(乙第2号証の26頁)のであって、本件商標も周知・著名である。

かかる状況から、ショッピングモールのシンボルマークとして周知・著名である本件商標と、製薬会社として周知・著名である請求人商標が使用された場合には、それぞれ明確に区別して認識されるのは明らかであり、両者が経済的又は組織的に何らかの関係があるものと誤認されることはなく、さらに、本件商標が役務についての商標であり、請求人商標が商品についての商標であることを考慮すると、業務上の信用が化体する対象が異なっており、取引者・需要者において「広義の混同」及び「狭義の混同」共に生じるおそれは全くない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

3 商標法第4条第1項第8号について

前述のように、本件商標は、そもそもギリシャ神話に出てくるオリンポス神を観念するものであるので「メルクス」とのみ称呼され、請求人の「メルク」とは明確に区別し得るものである。

したがって、本件商標は、請求人の名称又は略称を含む商標には該当せず、商標法第4条第1項第8号に該当しない。

4 商標法第4条第1項第7号について

前述のように、本件商標は、オリンポス神を観念するものであって、請求人の名称、請求人商標にフリーライドする、あるいはダイリューションを生じさせる商標ではない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。

5 むすび

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第8号及び同第7号に違反して登録されたものではない。

第5 当審の判断

1 商標法第4条第1項第11号について

(1)本件商標

本件商標は、別掲1のとおり、横長長方形の全体の面積のうち、上から約4分の3を黄色地で表し、残余の下部約4分の1を赤色地で表してなり、上部の黄色地の部分の中央に、同書・同大・等間隔で横書きにした「MERX」の欧文字を赤色で大きく表し、さらに、下部の赤色地の部分の中央に、同書・同大・等間隔で横書きにした「メルクス」の片仮名文字を白色でやや小さく表した構成よりなるものである。

そして、本件商標中の「MERX」の文字部分は、我が国で比較的親しまれている英語等の語を表したものではないところからすれば、これに接する需要者が、直ちに被請求人が主張するところの「ギリシャ神話にでてくる商業と情報の神『マーキュリー』の略」を意味する語と理解することは困難であるといわざるを得ない。また、本件商標中の「メルクス」の文字部分は、上段の「MERX」の文字部分の意味が理解できないとしても、該「MERX」の文字部分の読みを表したものとみるのに何ら不自然なものとはいえない。してみると、本件商標は、構成文字全体をもって、「メルクス」とのみ称呼される造語よりなる商標を表したものと認識されるというべきである。

したがって、本件商標は、「メルクス」の一連の称呼のみを生ずる、造語よりなるものといわなければならない。

(2)引用商標

引用商標は、前記第2あるいは別掲3ないし8のとおり「Merck」又は「MERCK」若しくは「メルク」の文字よりなるもの又は「MERCK」の文字を要部とする構成よりなるものである。そうすると、引用商標は、それぞれの構成文字に相応して、いずれも「メルク」の称呼を生ずるものであって、これらの文字自体からは特定の観念は想起されないというのが相当である。

したがって、引用商標は、「メルク」の称呼を生ずる、造語よりなるものといわなければならない。

(3)本件商標と引用商標との対比

ア 称呼

本件商標より生ずる「メルクス」の称呼と引用商標より生ずる「メルク」の称呼とを比較すると、両称呼は、「メルク」の音を同じくし、末尾において「ス」の音の有無の差異を有するものである。そして、該差異音「ス」にしても、上下の歯を軽く閉じ、舌端を下の歯の裏に接して、上下の歯の間から発する無声摩擦音であり、また、前音の「ク」も、「ス」と同様に、上下の歯を軽く閉じ、舌端を下の歯の裏に接して、上下の歯の間から発する音であって、いずれの音も口を大きく開けて発音するものではないが、同程度の大きさで「クス」と発音され、比較的明瞭に鋭く響く音として聴取されるといえる。また、両称呼は4音あるいは3音と短い音構成からなるものである。

そうすると、該差異音「ス」は、末尾に位置するものであるとしても、短い音構成よりなる両称呼全体に及ぼす影響は、決して小さいものとはいえない。

してみれば、両称呼は、これらをそれぞれ一連に称呼するときは、「ス」の音の有無の差異により、称呼全体の語調、語感が相違したものとなるから、互いに聞き誤るおそれはないものといわなければならない。

したがって、本件商標と引用商標は、称呼上類似する商標ということはできない。

イ 観念

前記認定のとおり、本件商標及び引用商標は、いずれも特定の観念を想起させない造語よりなるものと理解されるものであるから、観念上比較することはできない。

ウ 外観

本件商標は、別掲1のとおりの構成よりなるものであるのに対し、引用商標は、前記第2あるいは別掲3ないし8のとおりの構成よりなるものであるから、両商標は、外観上明らかに相違するものであり、これらを時と所を異にして離隔的に観察した場合においても、互いに紛れるおそれはないものである。

(4)以上によれば、本件商標と引用商標は、称呼、観念及び外観のいずれの点においても、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

2 商標法第4条第1項第15号について

(1)請求人商標の著名性について

ア 本件商標の登録出願前に発行されたと認められる甲号証によれば、以下の事実を認めることができる。

(ア)日本メルク社の会社案内(甲第3号証及び甲第4号証)、メルクセローノ株式会社の会社案内(甲第5号証)、「Profile/Merck−Facts Figures−July 2007」(甲第6号証)には、以下の記載がある。

a.請求人の事業は、1668年に、ドイツのダルムシュタットにエンゲルアポテク(天使薬局)を開業したことに始まること、1827年に、アルカロイドの大量生産に成功し、1850年には、ドイツに申立人の前身であるE.メルク社が設立され、1995年に、ドイツのダルムシュタットに、請求人が設立されるまでの間に、1904年の液晶販売の開始、1934年から1942年にかけて、ビタミンC・B1・E・Kの合成生産の成功、1960年代における無毒性のパール顔料の開発などを行い、ヨーロッパに販売網を確立したこと、請求人が設立された1995年以降は、請求人がメルクグループの全事業を統括する中核となる存在となったこと、請求人は、2007年6月30日の時点において、世界63カ国において、約35、000人の従業員を有する世界的規模の製薬及び化学薬品を製造、販売するグループ会社となったこと。

b.請求人及びそのグループ会社の行う事業は、本件商標の登録出願時である平成19年6月の時点において、主として医薬品事業、化学薬品事業であるところ、主要事業といえる医薬品の製造、販売において、癌、神経及び成長障害、循環器疾患並びに不妊症治療などの専門医薬品並びに一般消費者向けのビタミン剤、風邪治療薬、インフルエンザ治療薬などの商品を製造、販売していること(例えば、ビタミン剤には「Femibion」、「Kadibion」の商標が、風邪治療薬には「Nasivin」の商標が、インフルエンザ治療薬には「Sedlmerck」の商標が、それぞれ使用されている。:甲第6号証)、さらに、試薬の分野においても、事業の拡大を図っていること、また、請求人は、後発医薬品市場にも進出し、2007年(平成19年)7月の時点において、請求人の後発医薬品グループは、世界90カ国に約4、500人の従業員を有し、世界9カ国に9箇所の生産拠点を有していること、また、請求人及びそのグループ会社は、化学薬品事業において、液晶材料やパール顔料等の製造、販売を手掛けていること。

c.請求人の我が国おける事業展開は、1968年に、グループ会社として日本メルク社を東京に設立し、その後、パール顔料及び液晶の研究所等を神奈川県や福島県に設立し、これらの商品の製造、販売を開始したこと、また、医薬品の分野では、請求人(及びその前身会社)は、1990年ころから我が国において、高血圧用剤の販売を開始し、2001年には医療品事業部を立ち上げ、2003年にはアナフィラキシー補助治療剤(商標名「エピペン」)を発売、その他抗がん剤や風邪治療薬などの医薬品の販売を行っていること。さらに、1998年1月に設立されたメルク製薬株式会社(旧メルク・ホエイ株式会社)により後発医薬品事業を展開したこと。

(イ)「化学工業日報新聞」、「日刊薬業」、「日経産業新聞」、「日刊工業新聞」などの新聞(甲第7号証の1ないし429、甲第8号証の1ないし17)には、請求人及びそのグループ会社の名称は、これらの行う事業に関連づけて、例えば、「メルク・ジャパン」、「独メルク」、「メルク社」、「メルク」などのように多数掲載されたこと。また、日本メルク社は、「光製品総合データブック2003ー2004」(甲第9号証の20)に、「真空蒸着材料/PATINAL(パチナール)」について、「MERCK」の文字等を表示して広告をしたこと。

(ウ)「日本周知・著名商標検索」(甲第14号証)には、「Merck」の文字よりなる商標(登録第496307号商標)が掲載されていること。

(エ)「日本医薬品集 医療薬 2006年版」及び「同 2007年版」(監修 日本医薬品集フォーラム)(甲第15号証)には、「メルク(株)」及び「メルク・ホエイ(株)」が掲載されていること。

(オ)日本メルク社より2003年に発売されたアナフィラキシー補助治療剤(商標名「エピペン」)に関し、「MERCK」、「発売/メルク製薬株式会社」、「製造販売元/メルク株式会社」の文字が表示された説明資料等が頒布されたと推認されること(甲第16号証ないし甲第23号証)。

(カ)「保険薬事典 平成19年4月版」(甲第24号証)にメルク製薬株式会社が掲載されていること。

(キ)請求人(E.メルク社)ないし日本メルク社は、日本において本件商標の登録出願前までに、その事業に係る液晶材料、試薬等に関するセミナーを開催したこと(甲第36号証ないし甲第46号証、甲第48号証ないし甲第53号証の2)。

(ク)日本メルク社は、「東京国際包装展」(2002年、2004年、2006年)及び「PAINT SHOW」(1994年、1998年、2002年、2006年)において出品社ないし出展者としてリストに掲載されたこと(甲第54号証ないし甲第60号証)。

(ケ)日本メルク社の研究員は、主として液晶に関する様々な研究報告をしたこと(甲第70号証ないし甲第181号証)。

(コ)日本メルク社は、昭和45年3月から昭和55年8月にかけて、雑誌「化学と工業」に、「MERCK」の文字よりなる商標を表示して、主として試薬、化学薬品についての広告をしたこと(甲第190号証ないし甲第248号証)。

イ 前記アで認定した事実によれば、請求人及びそのグループ会社は、液晶、顔料等の化学製品、医薬品等を製造、販売する企業として、本件商標の登録出願前より、我が国の液晶の需要者たるパソコン・携帯電話・テレビ等の製造業者、顔料の需要者たる印刷インキ・塗料・化粧品等の製造業者、医薬品製造業者及び医薬品関連事業に従業する者などの間には、広く認識されていたものと認めることができる。 そして、請求人商標及び「MERCK」の文字よりなる商標(以下「請求人商標」という場合は、「MERCK」の文字よりなる商標も含む。)は、請求人及びそのグループ会社の略称を表示するものとして、本件商標の登録出願前より、上記需要者の間に広く認識されていたことを認めることができ、また、請求人が医薬品、化学製品等のメーカーとして著名であることを考慮すると、請求人商標は、請求人及びそのグループ会社の業務に係る商品「医薬品、化学製品」等を表示する商標として、本件商標の登録出願前より、我が国の上記需要者の間に広く認識されていたものと推認することができる。

しかし、請求人の事業等を表示する請求人商標は、上記認定のとおり、本件商標の登録出願時において、我が国の主として化学製品、医薬品等の専門分野の需要者の間に広く知られていたものであるとしても、請求人及びそのグループ会社の業務に係る商品中、本件商標の登録出願前において、我が国の一般の消費者を対象としたビタミン剤、風邪治療薬、インフルエンザ治療薬などの市販の医薬品の販売に関する具体的な証拠はほとんどなく、わずかにアナフィラキシー補助治療剤(エピペン:甲第16号証ないし甲第23号証)に、「MERCK」の文字よりなる商標が付されて紹介されたのみである。その他、請求人及びそのグループ会社の取扱いに係る商品のうち、一般の消費者を対象とした商品に請求人商標を表示して販売されたと認めるに足りる証拠は見出せない。また、請求人商標が、一般の消費者が日常的に目にする新聞や雑誌等に請求人及びそのグループ会社の略称を表すものとして、頻繁に掲載されたという証拠も見出せない。してみると、請求人商標は、請求人及びそのグループ会社の取扱いに係る商品を表示するものとして、あるいは、請求人及びそのグループ会社の略称を表すものとして、本件商標の登録出願時に、広く一般の消費者の間に浸透していたものとまで認めることはできない。

(2)本件商標と請求人商標との類似性

請求人商標は、「Merck」、「メルク」及び「MERCK」の文字よりなるものであるから、引用商標と実質的に同一のものということができる。そうすると、本件商標と請求人商標とは、前記1で認定した本件商標と引用商標との類否判断と同様の理由により、称呼、観念及び外観のいずれの点についても、相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。

(3)取引の実情

ア 乙第1号証及び乙第2号証を総合すると、本件商標権者は、大正14年10月に創業され、昭和25年1月に、有限会社平野ラジオ電気商会の商号で設立され、その後、九州地方に支店を展開した。昭和53年10月に、ディスカウトストア「MrMax長住店」を福岡県福岡市に開店したのを皮切りに、平成7年1月までに、ディスカウトストア「MrMax」を九州地方を中心に、山口県、関東地方に24店舗を展開し、そのうち、平成7年1月に開店した本城店(福岡県)、綾羅木店(山口県)、松橋店(熊本県)は、「ハイパーモール メルクス」、「HYPER MALL MERX」と称する、いわゆるショッピングセンターであり、ディスカウトストア「MrMax」のほかに、スーパーマーケットや様々な専門店、飲食店等が複合した大型商業施設であることなどを認めることができる(なお、本件商標権者のホームページ(2010年9月8日プリントアウト:乙第3号証)によれば、ディスカウトストア「MrMax」は、九州地方に29店舗、中国地方に8店舗、関東地方に8店舗、それぞれ展開していることが認められる。)。

そうすると、本件商標は、本件商標権者の営業に係るショッピングセンターを表示する商標として、また、主として同ショッピングセンターでの商品の小売において提供される役務を表示する商標として使用されるということができる。そして、本件商標の指定役務の主たる需要者は、一般の消費者と認めることができる。

イ これに対して、請求人の業務に係る商品は、前記認定のとおり、本件商標の登録出願までに、我が国において、一般の消費者を対象とした商品の販売は極めて少なく、医療機関に従事する専門家、医薬品・化学薬品等の製造をする企業のための試薬、電気機械器具等の製造をする企業のための液晶材料、化粧品、塗料等の製造をする企業のための顔料などといった、専門家を対象とした商品が多いといえる。

ウ そうすると、本件商標が使用される役務と請求人商標が使用される商品とは、その需要者を異にするばかりでなく、用途、質・品質等においても大きく異なるものであって、社会通念に照らし、およそ同一の事業者によって提供又は生産される役務・商品とは考えにくいというべきものである。

(4)以上の(1)ないし(3)によれば、請求人商標は、請求人及びそのグループ会社の略称を表示するものとして、また、請求人及びそのグループ会社の業務に係る商品「医薬品、化学製品」等を表示する商標として、本件商標の登録出願前より、我が国の液晶の需要者たるパソコン・携帯電話・テレビ等の製造業者、顔料の需要者たる印刷インキ・塗料・化粧品等の製造業者、医薬品製造業者及び医薬品関連事業に従業する者などの間には、広く認識されていたものと認めることができるとしても、その周知性は、本件商標の登録出願日の時点において、一般の消費者の間に広く認識されていたものと認めることができない上に、本件商標と請求人商標とは、商標において相違するものである。さらに、本件商標が使用される役務と請求人商標が使用される商品は、需要者、事業者、用途等においても大きく相違するものである。そうすると、本件商標に接する需要者は、請求人商標を想起又は連想することはないというべきである。

してみれば、本件商標は、これをその指定役務について使用しても、該役務が請求人及びそのグループ会社又はこれらと営業上何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生ずるおそれがある商標ということはできない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

3 商標法第4条第1項第8号について

本件商標は、前記1認定のとおり、その構成中、同書・同大・等間隔で表された「メルクス」の文字部分は、上段の「MERX」の文字部分の読みを特定したものと理解されるものである。

さらに、前記2認定のとおり、請求人商標は、請求人及びそのグループ会社の略称を表示するものとして、本件商標の登録出願時に、我が国の需要者の間に広く認識されていたとまで認めることはできない。

してみると、本件商標に接する需要者は、「メルクス」の文字中の「メルク」の文字部分のみに格別印象づけられるものではないから、本件商標より「メルク」の文字部分のみを抽出して観察すべきものではない。

したがって、本件商標は、他人の著名な略称を含む商標ということはできないから、商標法第4条第1項第8号に該当しない。

4 商標法第4条第1項第7号について

本件商標は、別掲1のとおりの構成よりなるものであるところ、商標自体が公の秩序又は善良の風俗を害する商標でないことは明らかである。また、本件商標は、請求人商標とは、称呼、観念及び外観のいずれの点においても非類似の商標というべきものであるから、その出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認めることができないような場合にも該当しないというべきである。

したがって、本件商標は、その査定時において、商標法第4条第1項第7号に該当するものではないのみならず、本件商標の登録がされた後において、商標法第4条第1項第7号に該当するものとなっていると認めるに足りる証拠も見出せない。

5 むすび

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第8号及び同第7号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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