sokuhyo

Trademark Appeal Case

著名商標と称呼の類否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2011−890021(T2011−890021/J3)
審判種別無効
結論勝訴(請求認容)

結論テキスト

登録第5294247号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5294247号商標(以下「本件商標」という。)は、「クールボス」の片仮名を標準文字で表してなり、平成21年6月23日に登録出願、第25類「通気機能を備えた作業服、洋服、コート」を指定商品として、同年11月24日に登録査定、同22年1月15日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張

請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第54号証(枝番を含む。)を提出した。

1 無効事由

本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第11号、同第15号及び同第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。

2 具体的理由

(1)請求人等について

請求人たるフーゴ・ボス・トレード・マーク・マネージメント・ゲー・エム・ベー・ハー・ウント・コー・カー・ゲーは、2004年9月に設立された、ドイツ連邦共和国 メツツインゲン デイーゼルストラーセ 12に所在する法人であって、ドイツ最大手のアパレルメーカーであるフーゴ・ボス・アクチエンゲゼルシャフト(以下「フーゴ・ボス」という。)の商標管理会社である。また、ヒューゴボスジャパン株式会社は、フーゴ・ボスの日本法人である。

(2)フーゴ・ボスと「BOSS製品」、「BOSSブランド」について

ア フーゴ・ボスは、1923年ドイツで設立され、現在までヨーロッパ、米国、アジアを含む世界各国で高級紳士服及び高級紳士服用品の製造販売を主として行っている法人である。

同社は、2008年の時点で既にカナダ、スペイン、フランス、香港、イタリア、日本、スイス、イギリス、ブラジル、オーストラリア、トルコ、ルクセンブルク、オランダ、アメリカ等を含む多数の国々で子会社を有するとともに、自社直営の小売ショップ数は世界中で330店あり、また1000店以上のショップがフランチャイズで運営されている。

そして、紳士服等の衣類のみならず、スポーツレジャーウエア、服飾品、眼鏡、香水、かばん類、身の回り品等の多岐に亘る同社の業務に係る製品(以下「BOSS製品」という。)は、現在では、前記の世界各国に所在する子会社や小売ショップを中心とした110ケ国及び約6100の販売拠点で求めることができる。

イ フーゴ・ボスのブランドは、コアブランドの「BOSS」及びトレンデイな「HUGO」ブランドにおける様々なコレクションラインから構成されている。メンズウエアのラインアップは、「BOSS black」、「BOSS selection」、「BOSS Orange」、「BOSS Green」からなる。

すなわち、フーゴ・ボスにあっては、その略称たる「BOSS」をメンズウエアの各ラインナップに共通に使用し、当該略称に他の文字を結合することにより、各ラインナップの特色を明確にしている。したがって、このような使用態様によりコアブランドたる「BOSS」ブランドが確立されると共に、各ラインナップに共通に使用されている略称である「BOSS」が顧客吸引力を発揮するに至っている。

ウ また、BOSS製品には、後記のように「BOSS」、「BOSS/HUGO BOSS」、「HUGO/HUGO BOSS」等のブランドも使用されているが、販売高は甲第22号証の2008年のアニュアルレポートに記載されているとおりである。

エ 日本では、フーゴ・ボス・グループは2008年度も引き続き、戦略的な事業の再編に取り組んだ。

日本の売上高は、経済停滞及びその結果として消費者の信頼が低水準であるため、2008年度は減少した。しかし、日本の小売パートナーとの計算方法の変更により、前年度(決算ベースの売上高は3400万ユーロ)比較では売上高は微増となっている。

オ フーゴ・ボスは、上記のように世界中でBOSS製品を販売するため、世界各国に商標を出願し、権利を取得している。

我が国では甲第1号証で示すように、被服類、眼鏡、かばん類、貴金属製品、運動用具等の各種商品と、ファッション情報の提供、商品の販売に関する助言及び指導等の役務に多数の商標を登録している。これらの商標はBOSS製品に付されて世界中で使用されている。なお、外国における商標の使用の態様は、甲第5号証ないし甲第19号証に示すような我が国での使用態様と同様である。

カ このように世界的に事業活動を行っているフーゴ・ボスにあって、毎年多額の宣伝広告費を費やしているのは想像に難くないものであるが、具体的には、一般日刊新聞紙、業界紙、専門家向け及び一般向けファッション雑誌への広告掲載、テレビ番組で出演者が着用する衣服の提供などを通じてBOSS製品の宣伝広告に努めている。

また、世界中の競技イベント・文化イベントへの協賛、ハリウッド映画やテレビとのタイアップを盛んに行い、積極的なPR活動を続けてきた。例えば、テニスの世界最高峰の大会であるデビスカップ、全米、全仏オープンや、ゴルフのメルセデス ジャーマン マスターズなどのスポンサーのほか、世界中で数千万以上の視聴者数を誇る人気の高い自動車のF1レースのスポンサーも務めている。

BOSS製品は、ダステイン・ホフマン、ロバート・デニーロ、ショーン・コネリーなどのビッグスターにも愛用されており、フーゴ・ボスは、一貫して高級紳士服及び高級紳士用品の製造販売業者としてのイメージの普及、定着、及びBOSSブランドの周知に努めてきた。

キ フーゴ・ボスは、自社の小売ショップの統一されたデザインなどの徹底したマーケティング活動を介して、フーゴ・ボス・ブランドの世界的な認知度やブランドイメージを強化しており、また、世界のファッション都市で開かれる注目度の高いファッションイベントへも参加し、主要なターゲット層に対するフーゴ・ボス・グループのブランドのアピールや認知度をさらに高めるべく積極的に活動し、フーゴ・ボス・ブランドの世界を感動で満たしている。

フーゴ・ボスは、その業務の中核をなすBOSS及びHUGOブランドに関する最大限の広報活動を行い、マスコミや需要者の注目を集めることに成功しており、世界的なファッションリーダーとして認知されているものである。

ク フーゴ・ボスが1993年、1994年、1995年、1996年、1997年及び2000年中に広告宣伝費及び販売促進費として支出した金額は、それぞれ総売上高の約13%、8%、10%、10%、10%及び9%に相当する金額であった。その結果、BOSSブランドは、全世界的な規模で使用され周知となっているブランドとなっている。

ケ 上述の諸点を勘案すると、フーゴ・ボスの広範な宣伝広告活動や積極的なブランド展開により、同社のコアブランドたるBOSSブランドを構成する各ラインナップに共通に使用される「BOSS」は、同社の略称として既に認知されているのみならず、当該「BOSS」はコアブランド中で最も顧客吸引力を発揮し、その結果、「BOSS」商標の付された製品は、同社の業務に係るものとして本国たるドイツのみならず、世界各国の需要者・取引者に広く認識されていることは容易に推認できるものである。

(3)日本における「BOSS」及び「ボス」の著名性について

ア 日本においてBOSS製品の本格的な販売が始まったのは1985(昭和60)年秋であり、当初は商社を通じての販売であったがその後1992(平成4)年5月には、ヒューゴボスジャパン株式会社(旧名称 ヒューゴ・ボス株式会社)(以下「ヒューゴボスジャパン」という。)が設立され、BOSS製品の日本における輸入及び販売を現在まで独占的に行っている。また、ヒューゴボスジャパンは、BOSS製品を直営店及び有名百貨店のみで販売することにより、高級紳士服・婦人服及び高級紳士・婦人用品としてのイメージの維持、定着に努めてきた。

そして、現在、BOSS製品は、甲第5号証ないし甲第19号証に示すとおり、直営店(六本木ヒルズ)、有名百貨店のインショップ等で販売されている。

さらに、ワールド・カップ・サッカー日本代表チーム並びに2007年よりプロサッカーチーム「浦和レッドダイヤモンズ」のオフィシャルスポンサーとして紳士服を提供するなど、一貫して、高級紳士服及び高級紳士用品の製造販売業者としての我が国におけるフーゴ・ボスのイメージの普及、定着、及びBOSSブランドの周知に努めてきた。

イ 上述のように、フーゴ・ボスによる永年に亘るBOSSブランドの宣伝広告活動の結果、フーゴ・ボス・アクチエンゲゼルシャフトの略称でありかつ商標である「BOSS」は、諸外国において既に需要者の間で広く認識されていることは明らかであるが、このことは我が国でも同様であるので、その点について以下に触れることにする。

まず、ヒューゴボスジャパンがすでに行った商標登録異議申立事件のうち1998(平成10)年ないし2002(平成14)年には8件の決定(甲第3号証の1ないし同8)が出された。

ウ ヒューゴボスジャパンは、BOSSブランドについて宣伝広告し、権利侵害者に対してはその度に警告書を送り、類似と思われる出願公告等には異議を申し立て、フーゴ・ボスの著名な略称及び多大な信用の化体する同社の登録商標である「BOSS」、「BOSS/HUGO BOSS」、「HUGO」、「HUGO/HUGO BOSS」、「HUGO BOSS」の保護と管理には膨大な費用と時間を費やしている(甲第6号証ないし甲第21号証)。

エ 甲第6号証ないし甲第21号証における新聞等の紹介、宣伝広告及び販売活動によって、フーゴ・ボスの略称であり商標である「BOSS」及びその片仮名表示である「ボス」は、本件商標の登録出願日である平成21年6月当時には著名であり、そしてこの状態は現在まで継続しているばかりでなく、むしろ、その著名性は増す一方と考えられる。

(4)商標法第4条第1項第8号について

上述のとおり、「BOSS」及びその片仮名表示である「ボス」は、本件商標の登録出願時点である平成21年6月ころにはフーゴ・ボスの著名な略称になり、その状態は現在まで続いていると考えられる。

したがって、本件商標は、フーゴ・ボスの著名な略称「ボス」を含み、かつ同社の承諾を得ていないことから、商標法第4条第1項第8号に該当する。

(5)商標法第4条第1項第11号について

ア 引用商標

請求人が本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する登録商標は、以下の(ア)ないし(ウ)のとおりである。

(ア)登録第695865号商標(以下「引用商標1」という。)は、「BOSS」の欧文字を横書きしてなり、昭和39年3月28日に登録出願、第17類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同41年1月22日に設定登録され、その後、4回にわたり商標権の存続期間の更新登録がなされ、さらにその後、平成18年4月5日に第24類「布製身の回り品、かや、敷布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布」及び第25類「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、水泳帽、和服、エプロン、えり巻き、靴下、ゲートル、毛皮製ストール、ショール、スカーフ、足袋、足袋カバー、手袋、布製幼児用おしめ、ネクタイ、ネッカチーフ、バンダナ、保温用サポーター、マフラー、耳覆い、ずきん、すげがさ、ナイトキャップ、ヘルメット、帽子」を指定商品とする書換登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

(イ)国際登録第773035号商標(以下「引用商標2」という。)は、「BOSS」の欧文字を横書きしてなり、2001年8月16日に国際商標登録出願、別掲(1)のとおり、第9類、第14類、第18類、第24類、第25類及び第28類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成15年2月28日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

(ウ)国際登録第782587号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲(2)のとおりの構成からなり、2001年11月9日にドイツ国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、2002年5月7日に国際商標登録出願、別掲(3)のとおり、第9類、第18類及び第25類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成15年8月1日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

なお、上記引用商標1ないし3をまとめていうときは「引用商標」という。

イ 本件商標は、「クールボス」と書してなるから、前半の「クール」と後半の「ボス」の2つの部分からなっている。

(ア)「クール」の語について

本件商標の前半の「クール」の語は、英語の「cool」の音訳であり、この「cool」の語は「冷たい、冷静な、素敵な、かっこいい、しぶい」などを表す英語として、一般に広く親しまれている。そして、服装業界では「cool」の意味は「素敵な、かっこいい」という意味をする語として当業者及び需要者に浸透した概念であることは、甲第23号証の1ないし甲第25号証の42に示すようにきわめて顕著なところである。

(イ)「ボス」の語について

請求人は、指定商品第25類について、引用商標を所有している。

ウ 上述のように、本件商標の「クール」の文字部分は、顕著性はなく商標の要部を構成しないから、後半の「ボス」の文字部分が類似判断の対象となる。

上記請求人の所有する引用商標の称呼「ボス」と、本件商標の要部の称呼「ボス」は同一であり、指定商品も同一又は類似の関係にあるため、両者は称呼類似である。また、少なくとも本件商標の登録出願時の平成21年6月頃には、観念の点でも「BOSS」「ボス」が、これら指定商品を取り扱う業者や需要者の間では、フーゴ・ボスを連想するものとなっていたと考えられるから、観念上の類似も認められる。

(6)商標法第4条第1項第15号について

ア 本件商標は、前述のとおりフーゴ・ボスの略称の片仮名表記「ボス」を含む「クールボス」である。服装業界、ファッション業界等において指定商品と類似する商品に「紳士服、婦人服及び紳士用品、婦人用品」について広く知られた商標「BOSS」の片仮名表記「ボス」を一部にした本件商標に接した需要者、取引者は、本件商標がフーゴ・ボスあるいはヒューゴボスジャパンと何らかの関係があると感じると思われる。

また、すでに述べたようにBOSS製品の宣伝並びにフーゴ・ボスとヒューゴボスジャパンの記事は、新聞や雑誌にも頻繁に紹介されていることを考え合わせれば、一般需要者が本件商標を付した、洋服、コート、作業服などの商品に接した場合、フーゴ・ボスあるいはヒューゴボスジャパンと経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所につき混同を生じると考えられる。

このことは、上述の特許庁における異議申立事件でも同様の見解が示されており、これらの事案と本件事案とを異にして判断しなければならないとする特段の事情も見出せないばかりでなく、フーゴ・ボスの近年における広範な宣伝広告活動及び積極的な事業展開により、同社の業務に係る「BOSS」商標の周知性は上記各異議申立事件の時点よりもさらに増していることをも考慮すると、本件無効審判でもこれらの事件と同様の見解がなされて然るべきである。

したがって、このような商標の登録を認めるということは、上記の各異議申立事件における判断と整合性が図れないのみならず、法目的たる需要者の利益までも損なわれる結果を招来することとなる。

このことは、本件商標と同じく同書、同大、等間隔で表されている片仮名を含む「ボスキャット/BOSS CAT」商標に係る異議申立事件(甲第3号証の4)からも明らかであり、同事件では、「BOSS」商標がフーゴ・ボスの業務に係る商品「紳士服及び紳士用品」を表示する商標として広く一般に知られている旨が認定されると共に、「ボスキャット/BOSS CAT」なる商標は著名な「ボス/BOSS」を含むものであることから、商標法第4条第1項第15号に該当するとの判断がなされている。すなわち、「ボス」の片仮名も紳士服等の関係ではフーゴ・ボスの業務に係るものとして周知であり、また当該片仮名を含む商標は、たとえこれが同書、同大、等間隔で表わされているとしても、出所の混同を生じさせるおそれがあるとの判断がなされている。

イ 最高裁判所は、本号に係る出所の混同についても広義の混同を含めて解釈すべきであること及びその判断基準について、「平成12年7月11日 最高裁平成10年(行ヒ)第85号」において判示した。

以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。

(7)商標法第4条第1項第19号について

また、商標権者が本件商標を使用した場合、「BOSS」商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等を毀損させるおそれがあることは明らかであるから、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する。

3 まとめ

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第11号、同第15号及び同第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号によりその登録は、無効とすべきものである。

第3 被請求人の答弁

被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第65号証を提出した。

1 商標法第4条第1項第8号について

請求人は、本件商標が、フーゴ・ボスの著名な略称「ボス」を含むものであり、かつ同社の承諾を得ていないので商標法第4条第1項第8号に違反している旨主張している。

しかし、請求人提出の証拠を参照するに、フーゴ・ボスが「ヒューゴ ボス」、「ヒューゴ・ボス」、「ヒューゴ・ボス社」等で呼称されている事実は認められるものの(甲第6号証の2ないし同10、甲第9号証の3及び同6等)、アルファベット表記の「BOSS」や片仮名表記の「ボス」がフーゴ・ボスの略称として用いられている事実は認められない。

一方、請求人提出の証拠からは、請求人が「BOSS」や「BOSS」を含む商標を用いて様々なブランドを展開していることが認められる。しかし、例えば、多機能携帯電話に「iPhone」のブランド名を付して商品展開をしているアップル社を「iPhone社」と呼ぶことはないし、テレビに「レグザ」のブランド名を付して商品展開をしている東芝社を「レグザ社」と呼ぶこともないし、乗用自動車に「カローラ」のブランド名を付して商品展開をしているトヨタ社を「カローラ社」と呼ぶこともないし、携帯型音楽プレーヤに「ウォークマン」のブランド名を付して商品展開をしているソニー社を「ウォークマン社」と呼ぶこともないように、一般に、ある会社がその会社名と異なるブランド名を用いてブランド展開をしており、かつ仮にそのブランド名が著名であったとしても、その会社のことをそのブランド名で呼ぶようなことはあり得ず、請求人が「BOSS」等の商標を用いて複数のブランドを展開しているからといって、請求人のことをブランド名を用いて省略して呼称することはなく、フーゴ・ボスが片仮名表記の「ボス」で略称されているとは認められない。

したがって、「ボス」がフーゴ・ボスの著名な略称であるとは認められないので、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものではない。

2 商標法第4条第1項第11号について

請求人は、本件商標が、請求人の所有する引用商標と類似し、さらに、当該商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるので商標法第4条第1項第11号に違反している旨主張している。

しかしながら、本件商標は、片仮名の「クールボス」よりなり、同書、同大、等間隔で各文字が軽重の差なく一連一体に表示されており、その称呼も格別冗長というものではなく淀みなく一連一気に称呼し得るものである。

さらに、本件商標の構成中には、本件商標を「クール」と「ボス」とに分離して観察すべき特段の事情、例えば、「スペース」、「・」(中黒)、「/」(スラッシュ)、「−」(ハイフン)等は一切存在していないのであり、殊更に「ボス」の部分のみを独立して認識すべき事情は存在しない。

また、本件商標から生じる観念についてみると、「クール」という語は、例えば、クール便、クールビズ、クールタオル、クールカーテン、クールシャンプー等のように服装業界に限らず、様々な業界で日常一般的に用いられている言葉であり、「クール+○○」の構成でいずれも「冷たい○○、冷涼な○○、冷静な○○」等の意味合いで用いられている。

さらにまた、「ボス」という語は、「親分、実力者、上司、親方」等の意味合いで日常一般に親しまれ頻繁に用いられている言葉である。

そうすると、本件商標の構成「クールボス」からは、「冷徹な親分」や「冷静な上司」、「かっこいい親方」等の意味合いが生じるのであって、本件商標の指定商品との関係で当該商品の品質等を具体的に表示するものではないので、その構成全体をもって一体不可分の造語として一連に認識され把握されるものである。

また、意味のある2つの単語の組み合わせ、又はどちらか一方が意味のある単語でもう一方が特定の意味を持たない造語の組み合わせからなる商標について、単語の区切りで当該商標を分離して観察するのではなく、当該商標の構成全体で一体不可分の商標と判断すべきとした特許庁審決例は、例えば、「スーパートランク」、「シルバーレイン」、「ベートクール」等(乙第1号証ないし乙第59号証)多数存在している。

したがって、本件商標は、上述のとおりその構成全体をもって一体不可分の造語として一連に認識され把握されるものであるので、当該構成に従って、「クールボス」の称呼のみが生じるものである。

これに対して、引用商標は、いずれもその構成要素に「BOSS」の文字を有しており、当該文字に応じて「ボス」の称呼を生ずるものであるので、本件商標から生じる「クールボス」の称呼とは、その音構成、構成音数においてきわめて顕著な相違が存在するのであり、称呼上両者が相紛れるおそれは存在しない。

以上より、本件商標と引用商標とは、称呼の点において相紛れるおそれはなく、かつ、外観及び観念の点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であるので、本件商標は商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではない。

3 商標法第4条第1項第15号について

請求人が、本件商標の登録出願時において、「HUGO BOSS」の文字からなる商標、又は「HUGO BOSS」の文字の上段に「BOSS」の文字が大きく表された商標を請求人の業務に係る紳士服等を表示する商標として我が国において使用していたことは認められるものの、片仮名で表記された「ボス」がフーゴ・ボスの著名な略称となっている事実は認められない。

また、請求人は、過去に請求人が行った商標登録異議申立事件の決定(甲第3号証の1ないし同8)に触れ、片仮名表記された「ボス」も取引者、需要者の間で広く知られている旨主張しているが、当該決定が認定するのはあくまでもアルファベット表記の「BOSS」が被服等について需要者の間に広く認識されているということであり、片仮名表記の「ボス」がヒューゴ・ボスの著名な略称として被服等について需要者の間の広く認識されていることまでを認定するものではないので、請求人の上記主張は妥当性を欠くものである。

さらに、上述のとおり、本件商標と引用商標とは十分に区別可能な別個の商標であるとともに、「ボス」という語は、「親分、実力者、上司、親方」等を意味する語として日常一般に極めて親しまれ頻繁に使用されている成語である。したがって、「ボス」という語に接した需要者が請求人の業務に係るブランドであると観念することはない。

ちなみに、請求人は、「BOSS black」や「BOSS selection」等のブランド名を使用して様々なブランドを展開しているが、これらのブランドはいずれも「BOSS+△△△」というようにアルファベットの「BOSS」の後ろに当該ブランドのイメージを端的に表す文字(いずれも英単語)を結合させた名称を使用していることから、仮に、需要者が片仮名で表記された本件商標に接したとしても、本件商標は「ボス」の文字の前に「クール」の文字が結合された構成となっているので、直ちに請求人の業務に係るブランドであると観念することは考え難い。

また、請求人は、高級紳士服等の製造販売を行っている法人であるところ、その主たる需要者はいわゆるブランドものの紳士服の購入を検討している一般の消費者等であり、請求人の業務に係る紳士服等は東京の青山等のいわゆるファッションの中心地と呼ばれる場所にある店舗や、デパート(百貨店)の紳士服売り場等において一般の消費者等を相手に販売されている。これに対して、被請求人は、本件商標を作業服に付して使用しており、その主たる需要者は、建築、建設、土木工事等の現場作業員や建設会社等であり、被請求人の業務に係る作業服は、いわゆるホームセンターや作業服等の専門店、工具や工作機械等の卸売業者等を通じて販売されている。したがって、両者の業務に係る商品の需要者は著しく異なり、それらが重なり合うことは決してなく、出所の混同が生じるおそれはない。

実際にも、被請求人は平成21年6月頃から現在に至るまで約2年間にわたって日本全国で本件商標を左右の腰部に小形ファンを備える溶接作業用の作業服に使用して「クールボス」のブランドを展開してきたが、請求人の業務に係る商品と出所の混同をした事実はなく、「クールボス」といえば作業服の業界では被請求人の商品であると需要者等に広く認識されるにいたっているものである(乙第60号証ないし乙第65号証)。

以上より、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が引用商標を連想又は想起するものとは考え難く、さらに、その商品が請求人あるいは請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、当該商品の出所について混同を生じさせるおそれはないので、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。

4 商標法第4条第1項第19号について

引用商標が請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く知られていたものであったとしても、本件商標と引用商標とが非類似の商標であることは上述のとおりである。

そして、「BOSS」や「ボス」の語は、我が国においても「親分、実力者、上司」等を意味する語として日常一般に極めて親しまれ頻繁に使用されている成語であり、請求人の創作した造語ではなく、被請求人が本件商標をその指定商品について使用した場合に「BOSS」商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等を毀損させるおそれはない。

また、本件商標は不正の目的をもって使用するものでもなく、この点につき請求人は何ら主張も立証もしていない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものではない。

5 結論

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号、同第11号、同第15号及び同第19号に違反してされたものではないので、その登録は維持されるべきものである。

第4 当審の判断

1 商標法第4条第1項第11号について

(1)本件商標

本件商標は、「クールボス」の片仮名を標準文字で書してなるところ、これは同書、同大、等間隔に書され、外観上極めてまとまりよく一体に表されているものであり、これより生ずると認められる「クールボス」の称呼も冗長でなく無理なく一気一連に称呼し得るものである。

そして、「クール」の文字は「涼しい、格好いい、素敵な」といった意味を有し、「ボス」の文字は、「親分、上司」等の意味を有するものであるから、本件商標は、「クールな親分、上司」程度の観念を生ずるものである。

してみれば、本件商標は、その構成中の「クール」の文字が、指定商品の何らかの品質等を表したものであると認識されるというよりは、むしろ、その構成全体をもって「クールな親分、上司」程度の観念を生ずる一体不可分の造語として認識し把握されるとみるのが自然であり、該文字に相応して「クールボス」の称呼のみを生ずるものである。

(2)引用商標

これに対し、引用商標は、「BOSS」の文字よりなるもの及び別掲(2)のとおり、「BOSS」と「HUGO BOSS」の文字からなるものであるから、引用商標からは、その構成各文字に相応して「ボス」若しくは「ヒューゴボス」の称呼を生じ、「BOSS」の商標においては「親分、上司」の観念を生ずるものである。

(3)本件商標と引用商標の類否

まず、外観においては、本件商標と引用商標とは、それぞれ上記のとおりの構成態様からなるものであるから、両者は、判然と区別し得るものである。

次に、称呼においては、本件商標より生ずる「クールボス」の称呼と引用商標より生ずる「ボス」若しくは「ヒューゴボス」の称呼とは、「ボス」の音を共通するものの、構成音数若しくは音構成において著しい差異を有するものであるから、明確に聴別し得るものである。

そして、観念においては、上記のとおり、本件商標からは、「クールな親分、上司」、引用商標からは「親分、上司」の観念が生ずるものであるから、十分に区別し得るものである。

してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼が明らかに相違し、観念においても、十分に区別し得る非類似の商標というべきである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

2 商標法第4条第1項第15号について

本件商標と引用商標とが非類似であることは、上記1のとおりであるところ、引用商標に係る商品の取引実情についてみるに、甲26ないし40、甲41ないし48、甲49(いずれも枝番を含む)及び請求理由の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア フーゴ・ボスは、1923年にドイツで設立され、現在に至るまでヨーロッパ、アメリカ、日本及びその他のアジア各国を含む世界中で高級紳士服及び婦人服や高級紳士用品及び婦人用品を中心とする幅広いファッション関連の製品の製造販売を主な事業内容とする法人であり、2010年の時点で我が国を含む多数の国々で子会社又は関連会社を有しており、フーゴ・ボスに係るブランドの製品のみを取り扱う店舗が世界80カ国で1500以上存在している。

フーゴ・ボスの製品を取り扱う店舗では、フーゴ・ボスの代表的製品である紳士服のみならず、その他の衣類、服飾品、眼鏡、香水、かばん類、身の回り品等の多岐に亘る製品が取り揃えられており、百貨店やショッピングモール内の店舗を加えると124カ国の約6100の販売拠点でこれらの製品を購入することができる。

イ フーゴ・ボスに係るブランドは、「BOSS」及び「HUGO」の2つのコアブランドから構成されており、紳士服のラインナップは、「BOSS Black」、「BOSS Selection」、「BOSS Orange」、「BOSS Green」であって、「BOSS」に他の文字を結合した表示を共通に使用している。

ウ フーゴ・ボス及びその子会社や関連会社から構成されるグループ(フーゴ・ボスグループ)の2010年度の総売上高は、前年比約11%増の17億2900万ユーロに達している(2009年度:約15億6200万ユーロ)。

エ フーゴ・ボスグループの売上高全体に占めるBOSSブランド製品の売上高は、長年に亘ってフーゴ・ボスグループの総売上高の中で毎年90%前後という高い数値を記録しており、BOSSブランドは、同グループ全体の事業戦略上、最も重要なコアブランドとして位置づけられている。

オ フーゴ・ボスは、宣伝、広告として、一般日刊新聞紙、業界紙、専門家向け及び一般向けファッション雑誌への広告掲載、テレビ番組や映画で出演者が着用する衣服の提供等を行っており、毎年多額の宣伝広告費を費やし、宣伝広告・周知に努めている。また、世界中の競技イベントや芸術イベントへの協賛、映画やテレビとのタイアップも盛んに行い、積極的なPR活動を続けてきた。

カ フーゴ・ボスは、BOSSブランド製品を取り扱う店舗における店舗デザインの統一及び包装紙・包装用袋・リボン・シール・タグへの世界的に統一された同一標章の使用等の徹底したマーケティング活動を介して、BOSSブランドの世界的な認知度やイメージを強化しており、また世界の主要都市で開催される注目度の高いファッションイベントへも参加し、自らもファッションショーを開催し、主要な顧客ターゲット層に対するBOSSブランドのアピールや認知度を更に高めるべく積極的に活動している。

キ 我が国においてフーゴ・ボスに係る製品の本格的な販売が始まったのは1985年秋頃であり、当初は商社を通じての販売であったが、その後、1992年にヒューゴ・ボス株式会社が設立され(後にヒューゴボスジャパン株式会社に改称)、同社がフーゴ・ボスに係る製品の日本における輸入及び販売を現在まで独占的に行っている。ヒューゴボスジャパン株式会社(ヒューゴ・ボス株式会社の時代を含む)は、フーゴ・ボスの業務に係る製品を直営店や有名百貨店のインショップ等で販売することにより、紳士服・婦人服及び紳士・婦人用品の製造販売者たるフーゴ・ボス及びBOSSブランドを中心としたフーゴ・ボスに係る製品の我が国におけるイメージの維持、定着に努めてきた。現在、BOSS製品は、六本木の直営店や百貨店のインショップ等で全国的に販売されている。

ク 1990年代初頭からフーゴ・ボス及びBOSSブランド製品が我が国の雑誌や新聞等で頻繁に取り上げられ始め、ヒューゴボスジャパン株式会社は、これらの取材等に協力し、フーゴ・ボス及びBOSSブランド製品の紹介や周知に積極的に関与するとともに、自らも、1990年以降、特に1997年と1998年に集中的に新聞や雑誌に宣伝広告を掲載することにより、我が国の需要者・取引者にフーゴ・ボス及びBOSSブランドを印象付けることに努めた。

ケ フーゴ・ボスの世界中の競技イベントや芸術イベントへの協賛等の積極的なPR活動は、我が国でも新聞や雑誌を通じて広く紹介されている。フーゴ・ボス及びヒューゴボスジャパンは、日本独自の活動として、サッカーワールドカップのフランス大会(1998年)に出場する日本代表チームへのオフィシャルスーツの提供を行い、また2007年より、プロサッカーチーム「浦和レッドダイヤモンズ」のオフィシャルスポンサーとしてスーツを提供するなど、一貫して紳士服及び紳士用品の製造販売業者としてのフーゴ・ボスの我が国でのイメージの普及、定着及び周知に努めてきた。

以上のように、フーゴ・ボスは、その事業の中核をなすBOSSブランドのイメージの普及、定着及びその周知に努め、最大限の宣伝広告等の活動を行い、その結果、マスコミや需要者の注目を集めることに成功し、世界的なファッションリーダーとして認知されている。フーゴ・ボスの業務に係る製品は、世界的な映画スターや一流のスポーツ選手にも愛用されており、フーゴ・ボスは、既に高級紳士服・高級紳士用品の製造販売業者としての確固たる地位を築いているといえる。

よって、「BOSS/HUGO BOSS」商標は、フーゴ・ボスにかかる紳士服及び紳士用品について使用されるものとして、本件商標登録出願時及び現在においても、海外及び我が国で著名となっているものと認められる。

他方、本件商標の取引の実情をみるに、甲50、甲51ないし54によれば、被請求人は、本件商標を付した小型ファン付き作業服の販売をほぼ本件商標の出願と同時期から開始したものであり、そのパンフレット(甲50)には、上方に大書された「クールボス」の文字の下方に、大きな文字で「涼しい」「作業服」との記載があり、「涼しい」の文字と「作業服」の文字は、「涼しい」の文字の下から「作業服」の文字の上にかけて記載された「〜」を反転させた形状の曲線によって区分され2行に表記されている。

そして、「涼しい」を英語で「クール」と称することは一般的な認識であるから、この記載を見る者は、「クールボス」の文字中の「クール」の部分が「涼しい」に対応し、「ボス」の部分が「作業服」に対応するとの理解に誘導されることになるが、「ボス」の文字は、これから生じる「親分、上司」の観念が作業服とは結び付かず、作業服を「ボス」と呼ぶこともないことからすると、本件商標からは、前記のように紳士服及び紳士用品の商品分野において著名な「BOSS/HUGO BOSS」商標を想起する可能性が高いといえる。

してみれば、「BOSS/HUGO BOSS」商標がフーゴ・ボスにかかる紳士服及び紳士用品について使用されるものとして我が国において著名となっていること、作業服の購入者に男性が多いであろうことからすると、本件商標がその指定商品に付されたときは、これがフーゴ・ボス又はこれと営業上何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、出所について混同を生じるおそれがあるというべきである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。

2 結論

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから、その余について判断するまでもなく、商標法第46条第1項の規定により、無効とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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