Trademark Appeal Case
著名名称と普通名称の識別力
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
基本情報
| 審判番号 | 異議2012−900127(T2012−900127/J7) |
|---|---|
| 審判種別 | 異議 |
| 結論 | 勝訴(請求認容) |
理由テキスト
第1 本件商標
本件登録第5471938号商標(以下「本件商標」という。)は、「東京ツリー千枚焼」の文字を標準文字で表してなり、平成23年8月30日に登録出願、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、同24年1月5日に登録査定、同年2月17日に設定登録されたものである。
第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、登録異議の申立ての理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第7号証(枝番号を含む。)を提出している。
1 「東京ツリー千枚焼」の意味
本件商標から生じる「東京ツリー」は、東京都に建設された著名な「東京スカイツリー」を指すものであることは、疑いもない。また、本件商標のうち「千枚焼」の部分は、主にせんべいによく用いられる用語であり、指定商品との関係で識別力が無いかまたは弱い部分であるといえる。
参考として、甲第2号証−2に「Google 日本」「Yahoo!」「Bing」での「千枚焼」の検索結果を示す。「千枚焼」を検索すると、「Google 日本」では856,000件、「Yahoo!」では857,000件、「Bing」では41,900件もの結果が表示される。そして、検索結果から、「千枚焼」という言葉は「浅草千枚焼」「草加千枚焼」「東京千枚焼」「越後千枚焼」等、せんべいやその原材料(米)の生産地名と併せて、主に薄焼きのせんべいに対して多く用いられていることがわかる。
これより、本件商標のうち「千枚焼」の部分は主に指定商品「せんべい」との関係で識別力が無いかまたは、弱い部分である。そして、本件商標から「千枚焼」を除いた「東京ツリー」の部分は著名な「東京スカイツリー」を表すものである。
2 「東京スカイツリー」について
(1)「東京スカイツリー」の概要
「東京ツリー千枚焼」のうち「東京ツリー」が、世界一の高さである著名な電波塔「東京スカイツリー」を指すことはいうまでもない。
「東京スカイツリー」が東京都墨田区にあること、及びその公益性、著名性は、インターネットの検索結果だけではなく(甲2−1ないし甲2−3)、特許庁内の審査、審判においても認められている(甲5、甲7等)。
数多くのマスコミ報道等で紹介されているように、「東京スカイツリー」とは、東京都墨田区押上に建設された電波塔の名称であり、2012年5月22日に開業した。「東京スカイツリー」の事業主体は東武鉄道株式会社及びその関連会社の東武タワースカイツリー株式会社である。
「東京スカイツリー」は、電波塔及び観光施設としての役割だけではなく、その内部及び足元に大規模な商業施設「東京ソラマチ」等を備える一大複合施設の核となることから、墨田区業平橋、押上地区を中心とする東東京エリアの活性化を牽引するとともに国際観光都市東京の実現に貢献することを基本理念の一つとしている(甲3−2)。
「東京スカイツリー」は、2006年11月24日に初めてその特徴的な外形形状のデザイン案、CG画像が公表され、2008年6月10日に名称が「東京スカイツリー」と決定された。また、2009年10月16日に「東京スカイツリー」の最高高さが634mとなる旨及び開業時に世界一の高さとなる旨が発表された(甲3−3)。
これらの発表以後も、「東京スカイツリー」の外形形状、名称及び最高高さがマスコミに全国的に連日報道されており、著名の域に達している。
(2)「東京スカイツリー」の商品化事業及び知的財産の使用について
「東京スカイツリー」の開業前から、事業主体やその許諾を受けた者による商品化事業が幅広く展開されている。
「東京スカイツリー」内部の1階、5階、東京スカイツリー天望デッキ及びオンライン上には、事業主体によるオフィシャルショップ「THE SKYTREE SHOP」があり、お土産物として一般的な商品、たとえば時計(第14類)、文房具類(第16類)、食器類(第21類)、洋服(第25類)、おもちゃ、人形(第28類)、菓子(第30類)、清涼飲料(第32類)等数多くのオフィシャル商品が実際に販売されていることがわかる(甲3−4及び5)。また、商業施設「東京ソラマチ」においても、お土産物としてのオフィシャル商品やライセンス商品が数多く販売されており、その多くは「東京スカイツリー」や「東京ソラマチ」内の店舗でのみ販売される限定商品である(甲3−6)。
実際には、この他にも数多くの「東京スカイツリー」に係るオフィシャル商品及びライセンス商品や様々な役務が展開され、これらの商品、役務には「東京スカイツリー」の名称やその外形形状のシルエットデザイン、完成予想CGが、事業主体の監修のもとで適法に付されている。
甲第4号証−1は、「スカイツリー、ライセンス商品拡充」と表題にあり、「東武タワースカイツリー(東京・墨田)が東京スカイツリー(同)に関する商品開発に必要なライセンス契約を相次ぎ結んでいる。・・・」との記事において、「各社がミニチュア版ツリーなどの玩具を・・・ツリーのPRにも役立てたい考えだ。・・・透明なブロックを積み上げてツリーを作る商品を・・・」などと「東京スカイツリー」を単に「ツリー」と省略して記載している。
そして、「東武タワースカイツリー(東京・墨田)が東京スカイツリー(同)・・・」とあるように、ライセンサーである東武タワースカイツリー株式会社が東京都墨田区にある会社であるとともに、「東京スカイツリー」も東京都墨田区にあるのであるから、「東京スカイツリー」を東京都にあるツリー、すなわち、東京のツリー、「東京ツリー」を想定することが容易に考えられる。
さらに、甲第4号証−3ではその「ご挨拶」において、「・・・ツリーの真正面に新たな取材拠点を・・・『ツリー観察日記』を・・・400メートル以上に育ったツリーの成長過程を・・・ツリー見物のついでに・・・ツリー人気の盛り上がりを・・・ツリーの黒いシルエットでした。完成すれば、ツリーの展望台から・・・たくさんの夢を感じさせるツリーですが・・・ツリー前分室から・・・」などとわずか1頁にも満たない記事中の9ヶ所で「東京スカイツリー」を単に「ツリー」と省略しており、「ツリー」と省略することが常態化されている。
このように、「東京スカイツリー」の事業主体である東武タワースカイツリー株式会社は、墨田区業平橋、押上地区を中心とする東東京エリアの活性化を牽引するとともに国際観光都市東京の実現に貢献するというその基本理念の実施にライセンス料の地元優遇の面からも努めている。また、甲第4号証−1及び3では「東京スカイツリー」はいずれも「ツリー」と省略されている。
3 商標法第4条第1項第7号について
「東京スカイツリー」は、東京都墨田区に建設された電波塔として著名であり、本件商標のうち「千枚焼」の部分は識別力が無いかまたは弱く、「千枚焼」以外の「東京ツリー」が「東京スカイツリー」を認識させるものであって、「東京スカイツリー」の名声名誉にただ乗りするものであり、公益性の高い「東京スカイツリー」の事業主体(東武鉄道株式会社及び東武タワースカイツリー株式会社)と何ら関係のない一私人に指定商品について独占使用を認めることは、公正な競業秩序を害するものであって公の秩序又は善良の風俗に反するものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。
4 商標法第4条第1項第15号について
「東京スカイツリー」は、東京都墨田区に建設された電波塔として著名であり、東京都墨田区業平橋、押上地区の大規模複合開発による東東京エリアの活性化を牽引するとともに、国際観光都市東京の実現に貢献することを基本理念の一つとしており、「東京スカイツリー」の内部及びその足元に大規模な商業施設「東京ソラマチ」が東京スカイツリーの開業に合わせて建設された。そして、「東京スカイツリー」を中核とした商業施設において広範な営業活動がなされているため、著名な「東京スカイツリー」を認識させる「東京ツリー」を含む本件商標の付された商品が、当該出願人に対して他人である「東京スカイツリーの事業主体」または「東京スカイツリーの事業主体と組織的又は経済的に何らかの関連のある者」の事業に係る商品であるかの如く需要者に認識され、出所の混同を生じるおそれがある。
実際に、「東京スカイツリー」の事業主体から正当な許諾を受けて生産された、商品名に「東京ツリー」を含むライセンス商品が「東京ソラマチ」にて販売されていることから、現実に出所の混同を生じる可能性が十分ある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
5 むすび
上記のように、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第15号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により取り消されるべきものである。
第3 取消理由通知
当審において、商標権者に対し、平成24年9月25日付け取消理由通知書をもって通知した本件商標の取消理由は、要旨次のとおりである。
1 本件商標の要部について
本願商標は、前記のとおり、商標の構成を、「東京ツリー千枚焼」とし、第30類「菓子及びパン」を指定商品とするものである。
しかして、その構成中の「千枚焼」の語についてみるに、「千」の語は、「数の名。百の10倍。また、数の多いこと。」、また、「枚」の語は、「紙・板・皿など薄く平たいもの。また、それを数える語。」(いずれも「広辞苑第六版」)を意味し、「焼」の語は、「焼くこと」を意味し、その指定商品との関係においては、せんべいやビスケットなどの焼き菓子を認識させる語であることから、「千枚焼」の文字全体として、「枚数が多い焼き菓子」ほどの意味合いを理解させる語ということができ、該語は、自他商品の識別機能が無いか極めて弱いものというべきである。
このことは、登録異議申立人(以下「申立人」という。)の提出した甲第2号証−2に「浅草千枚焼」、「パリッとした食感が魅力の千枚焼」(2葉目)、「草加千枚焼」(3葉目、4葉目)、「東京千枚焼き」(5葉目)、「越後千枚焼」(8葉目)などとして、「千枚焼(き)」の語とともに商品「せんべい」が紹介されていることからも是認できるところである。
したがって、本件商標の自他商品の識別機能を果たし得る部分は「東京ツリー」の部分であるというのが相当である。
2 「東京スカイツリー」について
(1)「東京スカイツリー」の周知性について
ア 「東京スカイツリー」は、東京都墨田区に建設され、本件商標登録後の2012年5月22日に開業した、高さ634メートルの電波塔の名称であり、その事業主体は、東武タワースカイツリー株式会社である(甲3−1ないし3)。また、「東京スカイツリー」には、展望設備として、展望回廊、展望デッキが設置され(甲3−4)、施設内には、オフィシャルショップが設置され、オフィシャル商品やライセンス商品が販売され(甲3−5)、また、併設されている商業施設である「東京ソラマチ」には、312のレストラン及び店舗が設けられ、ここでは、本件商標の指定商品である「菓子及びパン」を始めとして、時計、文房具類、食器類、被服、おもちや、人形等の土産物や各種商品が取り扱われている(甲3−6)。そして、「東京スカイツリー」に関する商標権等の知的財産権は、「東京スカイツリーライセンス事務局」により管理され(甲3−7)、関連商品にはライセンス契約が結ばれている(甲4−1ないし3)。
イ 甲第2号証−3のウェブ情報には、「東京スカイツリー」について次のように、その内容が紹介されている。
(ア)「東京スカイツリー(とうきょうスカイツリー、Tokyo Skytree)は東京都墨田区押上にある電波塔(送信所)である。2008年7月14日に着工し、2012年2月29日に竣工した。ツリーに隣接する関連商業施設・オフィスビルの開発も行われており・・・」(東京スカイツリー−Wikipedia)
(イ)「22日に開業を控えた世界一の自立式電波塔、東京スカイツリー(高さ634メートル)。ツリーと、周辺施設への来客数は年間2500万人と想定され、タワーがある東京都墨田区だけで年間880億円、東京都全体で同1300億円の経済効果が・・・」(東京ツリーのニュース検索結果、西日本新聞−3時間前)
そして、職権による調査によれば、上記記事は、これに続いて、「・・・見込まれる。だが『タワー効果』を狙うのは、東京だけではない。九州でも、新たなビジネスチャンスを狙い、盛り上がりを見せている企業がある。開業日に合わせ、『東京スカイツリーめんべい』を発売するのは、めんたいこメーカーの山口油屋福太郎(福岡市)。同社では2001年からめんたいこを使ったお菓子『めんべい』を販売。今回はアサリと江戸前のりを使った東京限定商品を開発した。値段はツリーにちなみ、8袋入り634円(税込み)。ツリー周辺の土産店で販売する。同社はまず10万箱を準備。○○社長は『スカイツリーをきっかけに、駅や空港へ販路を拡大したい』と期待を寄せる。」と記載されている(同新聞2012年5月17日付け夕刊1頁)。
なお、この記事は、本件商標登録後のものであるが、「東京スカイツリー」の開設に向けて、本件商標登録前に、関連する様々な経済活動が進行していたことを推量し得る事情ということができるものである。
ウ 「東京スカイツリー」の建設過程を報道した読売新聞社発行のリーフレットによれば、次のような記事が掲載されている。
(ア)「スカイツリー 着工2年 現在398メートル」、「わが町からも」、「宇都宮や筑波山から『見えた!』」、「東京・墨田区で建設されている東京スカイツリーが14日、着工から2年を迎えた。現在の高さは398メートル。完成時の3分の2まで“成長”した姿は、首都圏の広い範囲で望めるようになっている。」2010年7月14日夕刊記事(甲4−3、4葉目)
(イ)「ツリーグッズ 商戦白熱」、「着工から3年 既に350種類」、「東京・墨田区で建設中の東京スカイツリーが14日、着工から3年を迎えた。ツリー人気を反映し、関連グッズは既に約350種類に達するなど、来年5月の開業を前にツリー商戦は白熱している。」2011年7月14日夕刊記事(甲6、3葉目)
(ウ)本件商標権者が登録出願した商標登録出願2011−49454の拒絶理由通知には、「東京スカイツリー」に関連した新聞記事(1)ないし(7)が引用されている(甲5)。
エ 以上の事実によれば、本件商標登録出願時及び登録時には、我が国内において、「東京スカイツリー」は、その名称及び当該施設が建設中であることについて、広く知られ、著名なものとなっていたということができるものである。
(2)「東京スカイツリー」が「ツリー」と省略されていること
ア 日本経済新聞2010年7月22日付け朝刊には、「スカイツリー、ライセンス商品拡充」の見出しのもと、「東武タワースカイツリー(東京・墨田)が東京スカイツリー(同)に関する商品開発に必要なライセンス契約を相次ぎ結んでいる。同社は各社がミニチュア版ツリーなどの玩具を・・・ツリーのPRにも役立てたい考えだ。・・・透明なブロックを積み上げてツリーを作る商品を・・・」の記載がある(甲4−1)。
イ 「スカイツリー 空へ未来へ」との読売新聞社発行のリーフレット(2010Feb.→2010Sep. vol.2) によれば、「ご挨拶」の文章中において、「・・・ツリーの真正面に新たな取材拠点を・・・『ツリー観察日記』を・・・400メートル以上に育ったツリーの成長過程を・・・ツリー見物のついでに・・・ツリー人気の盛り上がりを・・・ツリーの黒いシルエットでした。完成すれば、ツリーの展望台から・・・たくさんの夢を感じさせるツリーですが・・・ツリー前分室から・・・」の記載がある(甲4−3)。
ウ 甲第5号証の拒絶理由通知に引用された、2011年2月26日付け「読売新聞 東京夕刊」8頁 の記事において、「『東京の新名所』地元沸く ツリー わくわく634メートル」と、2010年9月30日付け「読売新聞 東京朝刊」33頁の記事において、「29日に開かれたツリー周辺の町会などでつくる『押上・業平橋地区新タワー関連まちづくり連絡会』で」と、2010年7月27日付け「日刊工業新聞」34頁の記事において、「JR錦糸町駅からツリーまでを道路一本で貫く『新タワー通り(仮称)』の完成は16年度の予定で、ツリー開業から4年も先だ。」の記載がある。
エ 「スカイツリー 空へ未来へ」との読売新聞社発行のリーフレット(2011Feb.→2011Jul. vol.4)である甲第6号証 にも、2葉目の目次部分に「ツリー」との見出しが多数使用され、また、前記「(1)ウ(イ)」に示したように、「ツリーグッズ 商戦白熱」、「着工から3年 既に350種類」、「東京・墨田区で建設中の東京スカイツリーが14日、着工から3年を迎えた。ツリー人気を反映し、関連グッズは既に約350種類に達するなど、来年5月の開業を前にツリー商戦は白熱している。」2011年7月14日夕刊記事(甲6、3葉目)のように、「東京スカイツリー」が「ツリー」と省略して記載されている。
これらは、いずれも簡潔を旨とする新聞記事に用いられているものではあるが、「東京スカイツリー」の報道・紹介記事において、このような頻度で「ツリー」の語が使用されていることから、「ツリー」の語は、「東京スカイツリ−」との関係においては、その略称であると認識されるということができるものである。
3 本件商標における「東京」と「ツリー」の組合せについて
前記2で認定したように、本件商標の自他商品の識別機能を果たし得る部分は、「東京ツリー」の部分にあるといえるところ、この語自体は特定の語義を有するものとはいえず、あえて、「東京」と「ツリー」という互いに関連性のない語を結びつけて本件商標の構成要素とした必然性や妥当性は認め難いといわなければならない。
そうであれば、前記したように、「東京スカイツリー」が電波塔の名称として周知著名となっていること、「東京スカイツリー」との関係でこの語が単に「ツリー」と略称されていることから、本件商標は、周知著名な「東京スカイツリー」表示に依拠して採択されたもの(いわゆるフリーライド)というのが相当である。
このことは、申立人が提出した、甲第2号証−3である「東京ツリー」の語によるインターネット検索において、「ぐるなび−マンゴツリー東京」以外は、検索結果の上位すべて、「東京スカイツリー」関連の情報が検索されていることからも妥当といえるものである。
また、仮に、本件商標がそのような意図とはかかわりなく採択されたものであったとしても、本件商標を採択して使用することは、周知著名表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の有する自他商品・役務の識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とする商標法第1条や同法第4条第1項第15号などの商標法の趣旨に、結果として反することになるというべきである。
4 出所の混同のおそれについて
本件商標は、「東京ツリー千枚焼」の文字よりなるところ、前記したとおり、その構成中の「千枚焼」の文字部分は、指定商品との関係において、自他商品の識別機能が無いか極めて弱い語というべきであるから、その要部は、「東京ツリー」の文字部分にあるといえ、当該「東京ツリー」の文字部分は、本件商標の登録出願時及び登録査定時に東京都墨田区押上に完成間近の電波塔の名称である「東京スカイツリー」を連想、想起させるものであったというのが相当である。
そして、本件商標の指定商品は、「菓子及びパン」であって、前記「3(1)ア」のとおり、「東京スカイツリー」内には、300以上の商業施設が設けられ、菓子類を始めとする各種商品が販売され、オフィシャル商品やライセンス商品も取り扱われているところである。
したがって、本件商標「東京ツリー千枚焼」をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、著名な電波塔である「東京スカイツリー」を連想、想起し、当該商品が「東京スカイツリー」の事業主体又はその事業主体と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
5 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものといわなければならない。
第4 商標権者の意見
商標権者は、取消理由に対する意見を要旨次のように述べている。
1 本件商標の要部について
本件商標中の「千枚焼」部分は、「枚数が多い焼き菓子」の意味合いを有する点は認める。
また、本件商標の自他商品の識別機能を果たし得る部分は「東京ツリー」の部分である点についても認める。
2 「東京スカイツリー」について
(1)「東京スカイツリー」の周知性について
「東京スカイツリー」が、本件商標登録後の2012年5月22日に開業した事実は認める。併設された商業施設や「東京ソラマチ」の開業も2012年5月22日であり、本件商標登録後に営業を開始したものである。「東京スカイツリー」に関する商標権等の知的財産権が、「東京スカイツリーライセンス事務局」により管理されていることは不知であり、関連商品にはライセンス契約が結ばれている点は本件商標とは関係が無い。
取消理由では、本件商標登録出願時及び登録時には、我が国内において、「東京スカイツリー」は、その名称及び当該施設が建設中であることについて、広く知られ、著名なものとなっていたと認定した。建造物の名称として「東京スカイツリー」が東京において地域的な周知性を有する点は認めるが、全国的に著名である点については具体的な証拠もなく、何ら立証されていない。
したがって、「東京スカイツリー」の名称が著名なものとなっていたという点については不知である。
(2)「東京スカイツリー」が「ツリー」と省略されていること
「東京スカイツリー」が「ツリー」と略称されている事実は認めるが、「ツリー」単独で使用されている事実は無く、いずれも文章中に「東京スカイツリー」の語が使用されており、「ツリー」の語から「東京スカイツリー」が連想されるような使用法となっている。
これは「ツリー」が英語の「tree」を示す発音として日本語化して用いられたもので、「木」の意味を有する既成語からなっているから、これを「木」の意味では無く「東京スカイツリー」の意味であることを明確にする必要があるからである。
「ツリー」が単独で使用されている場合には、「ツリー」の語が使用される同じ記事中、または表題に、前提として「東京スカイツリー」又は「スカイツリー」の語が必ずセットになって使用されており、「ツリー」の語だけが、「東京スカイツリー」又は「スカイツリー」と切り離されて単独で使用されている例は見出すことができない。
これは、既成語である「ツリー」を本来の意味である「木」ではなく「東京スカイツリー」又は「スカイツリー」の意味として認識させるために不可欠な用法といわなければならない。
(3)「ツリー」は、「東京スカイツリー」の略称として用いられているが、それ以上に「クリスマスツリー」の略称として全国的に用いられている。
ニフティの新聞記事検索で検索した最近の例を一部挙げるが、全国的には「ツリー」といえば「クリスマスツリー」を連想、直感すると考えるのが自然である。
乙第1号証ないし乙第11号証の新聞記事は、表題に「ツリー」の語が用いられており、本文中の記事から「ツリー」の語が「クリスマスツリー」の語の略称として使用されている。
そこで、命名以前の2005年の新聞記事として「ツリー」の語が「クリスマスツリー」の語と略称として使用されている事実を、乙第12号証ないし乙第16号証に示す。
(4)以上から、取消理由において「『ツリー』の語は、『東京スカイツリー』との関係においては、その略称であると認識される」との点は正しいが、だからといって、「ツリー」の語は必ずしも「東京スカイツリー」を連想させるものではないことが明白である。
3 本件商標における「東京」と「ツリー」の組合せについて
本件商標の要部が「東京ツリー」の部分にあるとして、取消理由では、この語自体は特定の語義を有するものとはいえないと認定している。
本件商標の「東京」は地名であり、「ツリー」は前述の通り日常広く親しまれた英語の「tree」の発音を示す語であることは明らかで有り、取引界では「東京の木」の観念が生じると考えるのが自然である。
ツリーは前述のように「クリスマスツリー」の略称の使用法もあるから、需要者によっては「東京にあるクリスマスツリー」のような意味を感得する者もいるかも知れない。
取消理由では、「「東京」と「ツリー」という互いに関連性のない語を結びつけて本件商標の構成要素とした必然性や妥当性は認め難い」と主張しているが、誤った前提に基づく認定である。
前述のように「東京の木」「東京にあるツリー」の意味を有することは当然で有り、「ツリー」は「クリスマスツリー」の略語としても使用されることから、「東京で飾られるクリスマスツリー」のような意味合いが生じる場合もある。
取消理由においては、「ツリー」が「東京スカイツリー」又は「スカイツリー」の意味を有すると決めつけて、「東京ツリー」が、「周知著名な「東京スカイツリー」表示に依拠して採択されたもの(いわゆるフリーライド)というのが相当である」との誤った判断を下している。
既に繰り返し述べているように、「ツリー」は「木」の意味を有する既成語であり、略語として用いられる場合には「東京スカイツリー」よりも「クリスマスツリー」の方が、永年に亘って全国的に広く使用されている。
また、「東京スカイツリー」を「東京ツリー」と略称したことはなく、「ツリー」又は「スカイツリー」と略称していることからも、需要者は本件商標の「東京ツリー」を「東京スカイツリー」や「スカイツリー」と誤認混同する虞れは一切無い。
4 本件商標の登録性について
商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれ」の判断基準は、最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決(平成10年(行ヒ)第85号)により明らかに示されており、取消理由はこれに基づいておらず違法な判断である。
(1)上記基準は以下のとおりである。
ア 商標の類似性の程度
混同のおそれを肯定するには、商標の類似や商品の類似が絶対的に必要なものではないが、商品・役務が近似していたり、商標が相紛らわしいことは、混同のおそれを肯定する資料となり、商品が乖離していることはこれを否定する資料となる。
イ 他人の表示の周知著名性及び独創性の程度
引用商標の著名度が高ければ混同のおそれのある範囲は広く、著名度がそれほどでもなければ使用商品と同一の産業分野内程度の商品となろう。独創性の程度も同様である。
ウ 商品間の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性その他取引の実情混同のおそれは、商標それ自体についてのみならず、それ以外の取引社会の事情を参酌して判断すべきものとされている(大判大15・5・14民集五巻三七一頁)。
そして、これらに照らして当該商標の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものである。
(2)上記基準に基づき本願の混同の有無について検討する。
ア 類似性の程度
「東京ツリー」は、「東京スカイツリー」の中間部分の「スカイ」の有無で差異があり、称呼上3音、外観上3文字が相違している。
観念上は前述のとおり「木、樹木」を意味する既成語としての「ツリー」と、一種の造語としての「スカイツリー」としての相違があり、称呼、外観、観念のいずれにおいても非類似の商標である。
即ち、前述のように「ツリー」「TREE」は「木、樹木」の意味であり、地名である「東京」と組み合わせても、需要者は「東京のツリー(木、樹木)」の意味を感得する。
これに対して、「東京スカイツリー」は、「スカイ」と「ツリー」を一体に組み合わせることで、本来は「空の木」ほどの意味合いの「スカイツリー」に対して、需要者に「電波塔、鉄塔」の意味合いを感得させるようになったものである。
したがって、「東京ツリー」と「東京スカイツリー」とは、商標上、全く非類似の商標といわなければならない。
「ツリー」部分が共通しているからといって、「ツリー」の略語は「東京スカイツリー」に限らない。
「クリスマスツリー」も「ツリー」と略称されており、この方が長い期間に亘り、全国的に使用されており、周知・著名な略語として使用されている。
イ 周知・著名性及び独創性の程度
「東京スカイツリー」の名称が「電波塔」の名称として周知であることは認める。
特に、「スカイツリー」部分は、一体となって前述のように需要者に「電波塔、鉄塔」を感得させる独創性を有したネーミングとなっている。
一方、「東京スカイツリー」の事業主体である東武鉄道株式会社や東武タワースカイツリー株式会社は、「東京スカイツリー」を略称して「東京ツリー」として広告宣伝している事実は一切見当らない。
また「東京スカイツリー」が、需要者の間で「東京ツリー」と略称されて使用されている事実も一切認めることができない。
ウ 当該商標の指定商品と取引の実情
電波塔の名称である「東京スカイツリー」は、事業主体により観光・商業施設やオフィスビルが併設されており、商業施設の商標は「東京スカイツリータウン」(商標登録第5375049号、同第5386886号及び同第5473577号)であり、「東京スカイツリータウン」を構成する主な商業施設は「東京ソラマチ」の商標(商標登録第5404535号及び同第5404536号)が使用されている。
また、「東京スカイツリー」の事業者は、「東武スカイツリーライン」のように「スカイツリー」と略称して使用することがあるが、「東京ツリー」と略称することは一切ない。
したがって、一般消費者は、電波塔を連想する「スカイツリー」部分に注意を払って商品選考を行うものであり、「東京ツリー」商標から「東京スカイツリー」の電波塔の名称を直感し、または連想することは決して無く、「東京スカイツリー」と「東京ツリー」とを明瞭に峻別することができるものである。
(3)このように「東京スカイツリー」が独立して「東京ツリー」と略称して使用されている事実は無く、また需要者が「東京ツリー」から「東京の電波塔、鉄塔である東京スカイツリー」を連想・想起することは決して無い。
これらを綜合勘案すると、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、その商品が、東京スカイツリーの事業主体である東武鉄道株式会社や東武タワースカイツリー株式会社と経済的、組織的に何らかの関係のある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生じさせるおそれは決して無いもの、といわざるをえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しないものと確信する。
(4)なお、30類において「東京」「ツリー」を含む登録商標の登録例があり、上記出願人の主張を裏付けるものと考える。
5 まとめ
以上のように、本件商標に対する取消理由は理由が無く、本件商標の登録は維持されて然るべきものである。
第5 当審の判断
1 本件商標の取消理由は、前記3のとおりであり、本件商標が商標法第4条第1項第1項第15号に違反して登録されたものであるとした認定、判断は、妥当なものである。
2 これに対して、商標権者は、前記4のとおり意見を述べているが、以下の理由により採用することができない。
(1)商標権者は、「本件商標登録出願時及び登録時には、我が国内において、『東京スカイツリー』は、その名称及び当該施設が建設中であることについて、広く知られ、著名なものとなっていたと認定した。建造物の名称として『東京スカイツリー』が東京において地域的な周知性を有する点は認めるが、全国的に著名である点については具体的な証拠もなく、何ら立証されていない。」旨述べている。
しかしながら、職権による調査によれば、本件商標の登録出願時(平成23年8月30日)には、東京スカイツリーの建設が始まっており(平成20年7月14日着工、同23年3月18日完成時の高さ634mに到達。)、我が国内において、完成すると高さが日本一の建造物、さらには高さが世界一の電波塔という大きな話題性から各種マスメディアで大きく取り上げられていた。また、その名称は、正式名称となるまで、一般公募によって寄せられた1万8,606件の命名案の中から、6つに候補が絞り込まれ、2008年春にインターネットを通じて一般投票を行った結果、最多得票の「東京スカイツリー」に決定したものである(「ウィキペディア」フリー百科事典:インターネット情報)。
そして、新聞記事の調査によれば、全国紙である朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞においては、「東京スカイツリー」の文字を含む記事が、登録出願時以前で1,800件以上も検索されている。
そうとすれば、「東京スカイツリー」は、完成すると高さが日本一の建造物、さらには高さが世界一の電波塔という大きな話題性から各種マスメディアで大きく取り上げられていたものであって、本件商標登録出願時及び登録時には、我が国内において、広く知られていたものというのが相当である。
(2)申立人は、「前述のように『東京の木』『東京にあるツリー』の意味を有することは当然で有り、『ツリー』は『クリスマスツリー』の略語としても使用されることから、『東京で飾られるクリスマスツリー』のような意味合いが生じる場合もある。・・・既に繰り返し述べているように、『ツリー』は『木』の意味を有する既成語であり、略語として用いられる場合には『東京スカイツリー』よりも『クリスマスツリー』の方が、永年に亘って全国的に広く使用されている。また、『東京スカイツリー』を『東京ツリー』と略称したことはなく、『ツリー』又は『スカイツリー』と略称していることからも、需要者は本件商標の『東京ツリー』を『東京スカイツリー』や『スカイツリー』と誤認混同する虞れは一切無い。」旨述べている。
しかしながら、「ツリー」の文字が「木」を意味する語であるとしても、また、該語が「クリスマスツリー」の略語としても使用されることがあったとしても、申立人のいう「東京で飾られるクリスマスツリー」のような意味合いが生じるというよりは、「東京ツリー」の文字は、商標登録出願時には、完成すると高さが日本一の建造物、さらには高さが世界一の電波塔という大きな話題性から、一般に広く知られていた「東京スカイツリー」を連想、想起させるものであったというのが相当である。
そして、本件商標の指定商品は、「菓子及びパン」であって、前記のとおり、「東京スカイツリー」内には、300以上の商業施設が設けられ、菓子類を始めとする各種商品が販売され、オフィシャル商品やライセンス商品も取り扱われているところであって、本件商標「東京ツリー千枚焼」をその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、著名な電波塔である「東京スカイツリー」を連想、想起し、当該商品が「東京スカイツリー」の事業主体又はその事業主体と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
(3)申立人は、「一般消費者は、電波塔を連想する『スカイツリー』部分に注意を払って商品選考を行うものであり、『東京ツリー』商標から『東京スカイツリー』の電波塔の名称を直感し、または連想することは決して無く、『東京スカイツリー』と『東京ツリー』とを明瞭に峻別することができるものである。」旨述べている。
しかしながら、「東京スカイツリー」が一般に広く知られていたことは、上記(1)のとおりであり、一般消費者は、「東京ツリー」の文字から「東京スカイツリー」の電波塔の名称を直感し、または連想することが決して無いということはできないものというべきである。
(4)申立人は、「なお、30類において『東京』『ツリー』を含む登録商標の登録例があり、上記出願人の主張を裏付けるものと考える。」旨述べている。
しかしながら、申立人のいう登録例は、「東京」「ツリー」を含む登録商標であるとしても、その構成、態様は、本件商標とは異なるものであるから、当該事例をもって、本件商標の登録の適否を判断する基準とするのは、必ずしも適切でない上に、商標の登録の適否は、過去の審査例の判断に拘束されることなく、個別になされるべきものであるから、申立人の主張は、採用することができない。
してみれば、上記申立人の主張は、いずれも採用することはできない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、申立人のその余の申立て理由について判断するまでもなく、同法第43条の3第2項の規定に基づき、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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