結論テキスト
審判費用は、請求人の負担とする。
Trademark Appeal Case
本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。
| 審判番号 | 無効2013−890003(T2013−890003/J3) |
|---|---|
| 審判種別 | 無効 |
| 結論 | 敗訴(請求棄却) |
本件登録第5462487号商標(以下、「本件商標」という。)は、「あじろ」の平仮名を標準文字で表してなり、平成23年6月14日に登録出願され、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、同年11月15日に登録査定、同24年1月13日に設定登録されたものである。
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第22号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)商標法第3条第1項第1号の該当性について
「網代焼」は、煎餅の一種類であり、「あじろ」、「あじろ焼き」、「あじろ煎」、「網代やき」、「網代煎餅」、「あじろせんべい」或いは「網代せん」等とも表示される(以下、これらを総称して「網代焼等」という)。 網代焼等は、「小魚の形をした一口サイズの煎餅」(甲1)であり、主にエビ粉が入ったものが多い。
網代焼等は、新潟県を中心として、明治の時代より使用され、米菓煎餅の一種類を表示する商品名として全国的に需要者にも広く認識され、世界初の機械造り米菓の第一号として誕生したことなどの歴史もあり、米菓の製造販売等を業としている取引事業者であれば、当然に他の煎餅と識別して認識できる一般名称である。
網代焼等の表示において全てに共通するのは「あじろ」と称呼する部分が含まれている点であり、「網代焼」や「あじろやき」の「焼」や「やき」の文字部分は「焼き菓子」又は「焼き煎餅」等の意味を表しているだけであり、「揚げ」や「生」などと同様に米菓の加工方法を意味するものである。
また、「網代煎餅」や「網代せん」の「煎餅」や「せん」の文字部分は「商品の種類」を表示するものである。
そうすると、商標として使用した場合は、「網代」の2文字部分や「あじろ」の平仮名3文字が要部となり、第30類の「菓子及びパン」として使用する本件商標において、菓子やパンを購入する需要者や取引者は、「焼」や「煎餅」の有無にかかわらず、「網代編み」や「漁具」等を観念することはなく、「小魚の形をした一口サイズの煎餅」を想起する。
全国的に見ても静岡、新潟、石川、京都など多くの地方において、「小魚の形をした一口サイズの煎餅」の販売に際しては、「網代焼」の表示のみならず、「網代」や「網代\あじろ」、あるいは「あじろ煎餅」や「網代せん」など、「焼」の文字を含まない使用例がインターネットで検索において多数発見できる(甲1の3)。そして、中には本件商標と同じ平仮名3文字のみの「あじろ」と表記されているものもある(甲1)。
また、漢字2字の「網代」に平仮名で「あじろ」や、「網代焼」に平仮名で「あじろやき」とふりがなが付されたり、商品の説明文に平仮名による「あじろ」と紹介されているなどの使用態様も多く(甲1の2及び同3)、このような使用をしている販売店数も多く、大手有名百貨店やアンテナショップでの販売、或いはインターネットでの宣伝を通じた通信販売が普及していることで、同じ米菓店等で製造された煎餅でも多様な販路を通じて全国に販売されており、その結果、本件商標「あじろ」が菓子に使用される限りにおいては、「網代焼等」と同義語であり、少なくとも煎餅の販売においては普通名称化しているといえる。
「普通名称」に該当するか否かについての判断は、その名称や意味が百科辞典や漢字辞書等に記載されているか否かで決するものではなく、その名称が特定の業務を営む者から流出した商品又は特定の業務を営む者から提供された役務を指称するものとなれるか否か、取引界においてその商品又は役務の一般的な名称であると認識されるに至っているか否かについて判断すべきものである。
乙第5号証に示された「小魚せんべい」に使用されている他の商標、例えば、「いわしの学校」や「えびんちょ」などの商標は、甲第1号証と比較してもわかるとおり、個々の使用例は、各米菓店などが、個別に使用しているものであり、他の米菓店で販売されている煎餅と、自己が販売する煎餅等の差別化を図るために、個性豊かな独白の名称を使用するものであって、これらの個々の使用例こそが、自他商品の識別機能を発揮する商標であり、「あじろ」や「網代」が多数の米菓店等で使用され、一般的な名称であるがゆえに、これと異なった識別力のある商標使用者が散見されるにすぎないものである。
そうすると、本件商標は、主たる需要者にとって、小魚の形をした一口サイズの種類の煎餅を表示する「網代」という一般名称を、単に平仮名で表したものにすぎない。
したがって、本件商標は、指定商品との関係において自他商品等の識別機能を発揮し得えず、煎餅の一品種の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、商標法第3条第1項第1号に該当する。(2)商標法第3条第1項第2号の該当性について
仮に、一般名称とまでいえないとした場合であっても、少なくとも煎餅の一品種について慣用されている商標である。
煎餅業界の取引実情を考慮すれば、「小魚の形をした一口サイズの煎餅」に「あじろ」や「網代」、或いは「網代焼」や、「あじろ\網代」、「網代せん」、「網代煎餅」など、「あじろ」と称呼する部分を含むものが多数使用されていること等から、前記の「普通名称」に該当しないと認定されるような場合でも、商標法第3条第1項第2号に該当し、慣用商標であるといえる。
(3)商標法第3条第1項第3号の該当性について
「あじろ」と称呼される地理的表示には、北海道伊達市網代町、静岡県熱海市南部網代地区(旧田方郡網代町)、かつて岐阜県本巣郡に存在した網代村、鳥取県岩美郡岩美町網代地区(旧網代村)があり、本件商標は、これらの地名の称呼を平仮名表記したものにすぎない。
産地や販売地を示す表示には、著名性や周知性など本号では要件となっていない。例えば、北海道伊達市網代町が伊達市より小さいからといって、網代町内はもとより、これを包含する伊達市の地域住民や勤務地とする人、伊達市に隣接する周囲の市町村の住民等にとっては、地理的表示以外の何ものでもなく、係る地域に流通する商品については、これらの名称が表示されていれば地域を表示するものと認識することは明らかである。このような状況が北海道、静岡県、岐阜県、鳥取県に存在するのであるから、地理的表示に当たるといえる。
また、これらの地域ではレストランや宿泊施設の名称などでは漢字の「網代」のみならず、「あじろ」と平仮名3文字、或いはこれを付記「亭」や「庵」などの表示態様で表したものが多いことからも、「網代」という地名の称呼を平仮名で表記したにすぎない」としてだけではなく、係る地域においては本件商標と同一の平仮名3字による「あじろ」自体が地理的表示といっても過言ではない。
したがって、本件商標は、その商品の産地、販売地等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり商標法第3条第1項第3号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第16号の該当性について
本件商標は、小魚の形をした一口サイズの煎餅を表示するものとして、「普通名称」又は、「慣用商標」であることから、需要者(特に高齢層の需要者)は「小魚の形をした一口サイズの煎餅」を想起し、これ以外の「菓子及びパン」に使用すると、煎餅の種類や材料等において誤認するおそれがあり、また、前記4つの地域以外で生産されたり、他の地域を原産とする材料を使用した煎餅に使用されると、産地や販売地についての誤認を生ずるおそれがある商標であり、商標法第4条第1項第16号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第15号の該当性について
請求人は、昭和38年11月1日に、栃木県宇都宮市清住町にて小磯富雄商店を個人創業し、米菓を主力として一斗缶詰め(量り売り)、袋詰め販売を開始し、「小魚の形をした一口サイズの煎餅」についても、遅くとも昭和39年10月には、煎餅の製造元である有限会社坂本米菓より仕入れをし、「あじろ」の名称を付して、缶詰と袋詰めの形態で卸販売をしてきた(甲11及び甲12)。係る煎餅については、有限会社坂本米菓が、平成18年7月に廃業するまで取引し、その後、平成18年10月から株式会社日新製菓が、同煎餅を製造中止する平成22年8月まで取引を行い(甲14)、平成22年11月からは、有限会社米菓工房和により仕入れをして販売している(甲15及び甲17の3)。
小磯富雄商店は、昭和40年11月1日に有限会社小磯富雄商店として登記され、昭和50年12月株式会社へと改組し、昭和62年7月に、現在の株式会社味の小磯へと社名を変更している(甲16)。また、小磯富雄氏と小磯定勇氏とは同一人であり、改名によるものである。
昭和38年個人創業当時の量り売りにおいて、「小魚の形をした一口サイズの煎餅」の販売に際しては個々の袋詰め用の袋にはラベル等の商標的表示はしていなかったが、陳列棚の脇や量り売り用の容器等、平仮名で「あじろ」と表示していた(甲12)。その後、袋詰め販売の包装用ラベルを昭和52年から株式会社ビクトリアに委託し、数種類の平仮名3文字の「あじろ」を含む商標(「海老粉入りせんべい\あじろ」(色違い2種)。「2匹の海老の図形\あじろ」)を使用している(甲17の2、同3及び甲13)。更には、透明な袋に「伝統のおいしさ\さかなせんべい\海老粉入り\あじろ」と表された包装袋も、他の包装袋製造メーカーに発注して供給を受け、これも利用している(甲17)。なお、請求人が、現実に「あじろ」を自己の店舗内で使用している状態を甲第17号証の3に示す。
係る永年の使用により、宇都宮市を中心とした栃木県内及び隣接県において、本件商標は、請求人の業務に係る煎餅として需要者及び取引事業者の間で広く認識されており(甲20)、他方で被請求人は自己の登録商標である「味代」(登録商標:登録第728837号)及び「味代/あじろ(小さくふりがな的に)」(登録商標:登録第2094891号)を古くから使用していた経緯があるため(甲10)、本件商標「あじろ」は、少なくとも請求人の使用商標「あじろ」の周知性が認められる宇都宮市を中心とした栃木県内及び隣接県においては、請求人の先使用による商標の使用する権利(同第32条)の範囲内で、請求人及び被請求人の双方が「あじろ」を使用すれば、需要者は、被請求人の商品を請求人の商品であると誤って認識し、その出所について混同するおそれがあるといえる。また、請求人と被請求人は、その所在地が栃木県宇都宮市で共通するため、両者が、経済的又は組織的に、何らかの関係がある事業者の業務に係る商品であると誤って認識し、その出所について混同生ずるおそれがある商標であり、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第19号の該当性について
請求人と被請求人とは、同じ栃木県宇都宮市内で菓子(特に煎餅)の取引事業者として昭和30年代後半から同業関係にあった者同士である。そして、その長い間、お互いの使用商標の存在を知りながら、良き競業事業者として認め合い、これまでの長期に渡り、公正な取引関係を保ってきたという経緯がある。
また、被請求人は前記商標登録に係る商標権を有していたにもかかわらず、これまではいずれの権利も主張せずに紛争はなかったが、被請求人が何らかの理由によりその業務を廃止した(甲4)以後、約3年半も後になって、請求人が昭和39年から使用してきた平仮名の商標「あじろ」について商標登録出願をし、その登録を受けた後、異議申立期間が経過した直後に差し止めを求める旨の権利行使をしてきた(甲5、甲6及び甲9)。
そして、商標掲載広報発行日(平成24年2月14日から2月後の同年4月14日)満了の日の直後(6月14日)に最初の通知書が到達し、その通知書の作成依頼は、遅くとも同年5月30日にはされていたこと(甲18)から客観的に見て、請求人への加害目的による出願といえ、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(審判請求人に損害を加える目的その他の不正の目的。)をもって使用をするものであり、商標法第4条第1項19号に該当する。
(7)商標法第4条第1項第7号の該当性について
ア 自己の業務を廃止(甲第4号証)してから約3年半経過後に出願されたものであること。
イ 前記(5)のとおり、登録後の異議申し立てができる期間満了直後に権利行使をしてきたこと(甲18)。
ウ 請求人代理人から、無用な紛争は望まない旨、及びその紛争が双方にとって互いに不利益を生じさせるだけである旨を十分に説明した回答(甲7及び甲8)によっても和解や交渉という手段を採らずに訴訟を提起してきたこと。
エ 被請求人が原告、請求人が被告として商標「海老粉入り煎餅\あじろ(平仮名3字)」等(甲17の1及び同2)の使用停止、販売差し止め等を内容とした訴訟が提起された裁判の訴状に添付された被請求人の自己の使用事実を証明する取引資料等(甲10)をみても、これらのほとんどの資料は昭和から平成に入って数年程度までばかりである。最も現在に近い資料でさえ発行は平成21年の1月であり、現在からは既に約4年近い前の掲載である。そして、当該訴訟においても通知文においても、自己の登録商標「あじろ」を使用していることを証明していない(甲5、甲6、甲9及び甲10)。
オ 更には、最初の通知書が到達する前に、請求人の現在取引をしている事業者等に対し、請求人が被請求人の商標権を侵害している旨を流布されたことにより、一部の取引先との間で出荷量が減少(株式会社関口ではそれまで約50個/1週当たりの取引があったが、10〜20個程度に減少)してしまったこと(甲8及び甲19)。
すなわち、被請求人は、使用の意思もなく現実に使用もしていない「あじろ」について、請求人に対する権利行使のみを目的として商標権を取得し、請求人の営業の妨害行為をしたといえる。例えそれが形式的には正当な商標権の権利主張に見えても、実質的には、パテントトロールの商標権版とも言い替えられるような行為であり、商道徳に反するばかりか、公正な競争秩序をも阻害するものである。
(8)商標法第3条第1項柱書の該当性について
業務廃業後の出願であること(甲4)や、現住所(甲16の2)には、一般住宅が建っているだけであること、宇都宮商工会議所・栃木県米菓協同組合・社団法人栃木県食品衛生協会へそれぞれ問い合わせたところ、いずれの団体からも、現在、営業実態は認められない旨の回答が得られたこと、会費の請求に対し、廃業を理由に支払いを断られたという情報もあること、現在も使用していないこと(甲10)等の事実から、本件商標の出願は、被請求人の業務に関するものではなく、請求人の業務に対する加害目的であったと考えられ、自己の業務に係る商品について使用をする商標とはいえないものである。
したがって、本件商標の出願は、商標法第3条第1項柱書の規定に違反する。
(9)むすび
以上のとおり、本件商標登録は、商標法第3条第1項柱書、同第1号、同第2号、同第3号、同法第4条第1項第7号、同第15号、同第16号及び同19号に該当するものであるから、商標法第46条第1項の規定によりその登録を無効にすべきである。
被請求人は、結論同旨の審決を求め、答弁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証(枝番を含む。)を提出している。
(1)商標法第3条第1項第1号の該当性について
本件商標「あじろ」が米菓煎餅の一種類を表示する商品名として全国的に需要者に広く認識される一般名称であるか否かについて
ア 広辞苑第六版(乙1)によれば、「あじろ」が、米菓の一種類を表示する名称である旨の文言は、何処にも記載されていない。大辞林第三版(乙2)及びウィキペディア(乙3)においても、同様である。したがって、「あじろ」を、「あられ煎餅」や「おかき」、「かきもち」、「柿の種」と同等に考えることはできない。また、全国米菓工業組合のホームページに掲載されているあられ・おせんべいの種類(乙4)によれば、「あじろ」については、何処にも明示されていない。したがって、「あじろ」が、同業者・取引者の間で一般名称として認識されていないことは明らかである。
イ 甲第1号証によれば、「小魚の形をした一口サイズの煎餅」(以下、単に「小魚せんべい」という。)について、静岡県等の一部地域で「あじろ」という商品表示が使用されているが、「あじろ焼」や「あじろ焼き」、「網代焼」、「あじろせん」、「あじろ煎餅」など、「あじろ」とのみ表示する表示態様以外に、種々の表示態様が存在している。よって一様に「あじろ」との表示のみが使用されているものではない。
ウ 請求人は、「焼」や「やき」の文字部分が、「揚げ」や「生」と同様に米菓の加工方法を意味することから、当該文字を省略して残る「網代」・「あじろ」の文字が商標の要部である旨述べている。仮に「あじろ」が請求人の主張する一般名称であったならば、当該「あじろ」の文字部分も要部には成り得ないため、請求人の主張は矛盾している。また、加工方法を意味する文字が一般名称の後部に付加された場合には、全体として意味を為さないか、あるいは、全体として品質・加工方法を意味する文言に変化することとなるため、「焼」などの加工方法を意味する文字部分について、安易に省略することは許されない。「あじろ」が一般名称であったならば、そこへ一般名称あるいはその略称である「煎餅」や「せん」を更に付加して表示することは考え難い。したがって、「あじろ」が、同業者・取引者の間で一般名称として認識されていないことは明らかである。
エ 甲第1号証には、中身が「きんぎょ形のあられ」であるという記載や、「あじろ」との表示に一般名称たる「せんべい」との表示が併記されている表示態様があり、「あじろ」が、同業者・取引者の間で一般名称として認識されていないことは明白である。
オ 乙第5号証によれば、商品「小魚せんべい」について、「黄鮒せんべい」や「いわしの学校」、「えびんちょ」や「つりきち」、「さかなせんべい」、「魚錦」、「金魚」、「いわしせんべい」、「鰹せん」、「こざかなくん」、「こざかな君」、「おさかなまつり」、「おさかなせんべい」、「きっと芽がでるせんべい」など様々な名称が使用されているが、その中身について、「あじろ」を使用している旨の表記は何処にもない。
カ 以上によれば、取引界において、「あじろ」という名称が商品「小魚せんべい」の一般的な名称であると認識されるに至っていないことは明白であり、よって本件商標が商標法第3条第1項第1号に該当しない
(2)商標法第3条第1項第2号の該当性について
辞典・辞書の何処にも「あじろ」について米菓の一種類を表示する名称である旨の記載がないこと、全国米菓工業組合のホームページ上に「あじろ」についての記載が何処にも無いこと、「小魚せんべい」について「あじろ」の名称を使用する地域が一部地域に限定して認められること、そして「小魚せんべい」について「あじろ」以外に様々な名称が使用されていること、といった各事実を総合的に鑑みると、「あじろ」の名称が「小魚せんべい」を表示するものとして広く知れ渡っていると認定するには難があると共に、同業者間において慣用化されたとの共通認識があると認めるに足る事実も存在せず、さらに需要者間において自他商品識別標識としての機能が希釈化して慣用商標化していると認め得るだけの事実も何ら存在しない。
したがって、「あじろ」が「歴史のある広く知れ渡った標章であって、慣用的に使用されていることに、何ら疑念を差し挟む余地がないもの」に該当しないことは明らかである。
以上より、商標法第3条第1項第2号には該当しない。
(3)商標法第3条第1項第3号の該当性について
請求人が地理的表示として列挙した5例についてみると、(ア)北海道伊達市網代町は、行政区画たる「伊達市」よりさらに小さい区画単位の地理的名称であって、該地名の著名性・周知性も認められず、一般にわが国における該地名の認知度は低い。(イ)静岡県熱海市南部網代地区(旧田方郡網代町)は、同様に行政区画たる「熱海市」よりさらに小さい区画単位の地理的名称であると共に、旧田方郡網代町は古く昭和32年に熱海市に編入合併され消滅してより半世紀以上を経過しており、該地名の著名性・周知性も認められず、一般にわが国における該地名の認知度は低い。(ウ)岐阜県本巣郡に存在した網代村は、古く昭和38年に岐阜市に編入合併され消滅してより半世紀以上を経過しており、該地名の著名性・周知性も認められず、一般にわが国における該地名の認知度は低い。(エ)岩手県北西部岩手郡にあった旧町名(安代町)に至っては、そもそも「あしろちょう」と称呼される旧町名であって、「あじろちょう」とは称呼されない。(オ)鳥取県岩美郡岩美町網代地区(旧網代村)は、行政区画たる「岩美郡岩美町」よりさらに小さい区画単位の地理的名称であると共に、旧網代村は古く昭和29年に岩美町として合併され消滅してより半世紀以上を経過しており、該地名の著名性・周知性も認められず、一般にわが国における該地名の認知度は低い。
また、乙第1号証及び乙第2号証によれば、「あじろ(網代)」が地理的名称である旨の文言は、何処にも記載されていない。さらに、本件商標の登録査定時において、上記(ア)(イ)(オ)は市区町村といった行政区画より小さい区両単位であると共に、上記(イ)(ウ)(オ)の旧町村名は消滅して存在していないことから、これら地理的名称が学校教育等で使用される一般的な地図に掲載されていないことは明らかである。
以上から鑑みるに、本件商標が、その指定商品について用いられた場合に、取引者・需要者において、その商品の産地・販売地を想起するものとは考え難く、よって本件商標は商標法第3条第1項第3号に該当するものではない。
(4)商標法第4条第1項第16号の該当性について
本件商標は、「小魚せんべい」についての普通名称でもなければ慣用商標でもなく、かつ、地理的表示にも該当しない。よって、本件商標がその指定商品中、「小魚せんべい」以外の商品について用いられた場合、取引者・需要者において、その商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるとは考え難く、本件商標は商標法第4条第1項第16号に該当するものではない。
(5)商標法第4条第1項第15号の該当性について
ア 請求人は、先に「あじろ」が普通名称、慣用商標又は地理的表示に該当するため、自他商品識別標識としての機能を有さない旨を述べておきながら、自らが「あじろ」を使用していることを理由に、本件商標が本号に該当する旨主張しているが、これは矛盾する主張である。
イ 請求人は、他人の周知商標と同一・類似する商標について登録を排除する旨が10号に規定されているにもかかわらず、当該10号を無効事由とせず、15号についてのみ無効事由としている。請求人は、自ら使用する「あじろ」について、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されるまでには至っていないと自ら理解しているものと思料されるにもかかわらず、請求人の業務に係る煎餅として需要者及び取引者の間で広く認識されている旨並びに請求人の使用商標の周知性が認められる旨述べているが、これは明らかに矛盾する主張であると共に、適用条文を誤っている。
ウ 請求人は、甲第20号証を根拠に、使用商標「あじろ」の周知性を主張しているが、かかる証拠のみでは周知性を認めるには不充分である。
エ 被請求人は、「味代(あじろ)」と表記された「小魚せんべい」を、遅くとも昭和25年には製造・販売し、請求人が「小魚せんべい」を「あじろ」として卸販売を開始したという昭和39年には、被請求人の「味代(あじろ)」が業界を二分するくらいに大量に販売されており、その後昭和40年代に入っても業界をリードしてきた(甲10)。戦時中は一時製造の中断したものの、戦後間もなく製造・販売を再開し、販売地域については、栃木県内はもとより、広く関東一円、東北、東海地方にまで至り、東京の帝国ホテルにも納品した。昭和40年には全国菓子大博覧会において総裁賞の表彰を受け(乙7)、広く全国の同業者に「味代(あじろ)」が被請求人の商品表示として認識されるに至った。
オ 被請求人は、自社の製造工場において「小魚せんべい」を製造していたが、当該工場の立地場所が宇都宮市の区画整理事業区域に該当したため、平成19年に自社工場を閉鎖して上地を明け渡すこととなった。自社製造工場は「食品営業施設」として保健所に登録してあったが、工場の閉鎖に伴い更新の手続を採らなかったため、更新時期の平成19年12月に保健所の方で自動的に「食品営業施設」について「廃業」と扱われるに至った(甲4)。工場を閉鎖して以降については、「せんべいの相馬屋」に「小魚せんべい」の製造を依頼し、それを袋詰め若しくは大缶詰めして、「あじろ/味代」の表示を付して被請求人の商品として販売を行っている(乙9の1ないし5)。
カ 被請求人のかかる名声に便乗し、同業他者が「小魚せんべい」に「味代」や「あじろ」の表示を付して販売を行うことがあった。被請求人は、警告を行って「味代」や「あじろ」の表示の使用差止を当該同業他者に対し要求し(乙10)、希釈化を防ぐ努力をしてきた。
被請求人が、請求人による商標「あじろ」の使用事実を知ったのは、被請求人の代表が某病院に通院中の平成24年4月6日のことであって、当該病院の売店に請求人の商品が陳列されているのを発見してのことである。そこで、今まで同様、発見後の平成24年6月13日付けで、請求人に宛てて使用差止を要求した(甲5)。
キ これらを総合的すると、商標「あじろ」が請求人の業務に係る商品表示として需要者の間に広く認識されてはおらず、逆に被請求人の業務に係る商品表示として需要者の間に広く認識されており、請求人による商標「あじろ」の使用こそが被請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあることは明白である。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
(6)商標法第4条第1項第19号の該当性について
ア 請求人は、被請求人との関係において、長年互いの使用商標の存在を知っていた旨、また、被請求人が前記商標登録に係る商標権を所有しているにもかかわらず、何ら権利主張しなかった旨主張する。しかしながら、請求人による商標「あじろ」の使用事実について、被請求人は平成24年4月6日に初めて知ったからである。
イ 請求人は、甲第4号証を根拠に、被請求人が業務を廃止した旨述主張するが、甲第4号証は、食品営業施設たる製造工場を閉鎖したことを証明するものであって、会社としての事業の廃止を証明するものではない。被請求人の商業登記簿謄本(乙8、甲16の2)によれば、被請求人が現在もなお業務を継続している。また、乙第9号証の1ないし5によっても、被請求人が本件商標の出願時において業務を行っていたことは明白である。
ウ 請求人は、甲第18号証を根拠に、被請求人が異議申立期間を経過して2月後に通知書(甲5)を送付してきた経緯をとらえ、本件商標が図利加害目的の出願である旨主張するが、請求人による商標「あじろ」の使用事実について、被請求人は平成24年4月6日に初めて知ったのであって、その後の同年6月13日に通知書を送付したとしても何ら不思議はなく、且つ、当該経緯のみをもって被請求人に図利加害目的があったことを認定し得るものではない。
エ 上述したように、「あじろ」が請求人の業務に係る商品表示として需要者の間に広く認識されていない。
オ 以上のように、請求人の主張は何れも根拠がなく、本号に該当するための要件も満たしていないことから、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(7)商標法第4条第1項第7号の該当性について
ア 請求人は、甲第4号証を根拠に、本件商標について、被請求人が業務を廃止して以後の出願である旨主張するが、被請求が業務を廃止していない。
イ また、請求人は、甲第18号証を根拠に、被請求人が異議申立期間満了直後に権利行使してきた旨主張するが、被請求人の権利行使時期には理由があると共に、当該経緯のみをもって被請求人に図利加害目的があったことを認定し得るものではない。
ウ さらに、請求人は、被請求人が和解や交渉という手段を採らずに訴訟を提起してきた旨主張するが、商標権者にとって、自己の商標権を侵害する者に対し、訴訟その他の法的手段を探り得ることは、商標法でも認められている当然の権利である。被請求人は、請求人に対し、甲第5号証及び甲第6号証のとおり、商標権侵害である旨及び商標「あじろ」の使用差止を二度にわたって通知し、これに対し請求人は、甲第7号証及び甲第8号証のとおり、回答書により回答している。この一連のやり取りの過程で、被請求人の要求に応じなければ訴訟提起もあり得ることは、請求人にとって容易に予測がつくことである。しかも、請求人は、甲第7号証に係る回答書において先使用権を有する旨述べられ、且つ、該先使用権の立証が容易である旨も付言されており、これに対し被請求人は、甲第6号証に係る通知において、当該先使用権を証明し得る資料の提示を要求したが、請求人は、甲第8号証に係る回答書において、当該資料の提示を拒否していることから、和解や交渉のための判断材料を被請求人に何ら示すことをしなかったのであり、紛争回避を望んでいる旨の主張とその言動とが矛盾している。
エ 請求人は、甲第10号証に基づき、被請求人の使用事実を証明する取引資料等について、昭和から平成に入って数年のものである旨述べ、それを根拠に被請求人に本件商標「あじろ」の使用意思ならびに現実使用がない旨述べている。しかしながら、甲第10号証は、請求人と被請求人とが争っている訴訟において提出された資料であり、当該訴訟において、請求人による不正競争防止法第2条第1項第1号に係る不正競争行為を立証すべく、被請求人の登録商標のいわゆる周知性を証明するために提出されたものである。故に、古くから継続使用され、且つ、業界に認識されていること証明するための資料として提出されたものであって、これをもって被請求人による商標の使用意思ならびに現実使用がないことを主張することは、明らかに失当である。
オ 請求人は、甲第19号証に基づき、被請求人によって請求人の侵害行為を取引業者に流布されたと主張するが、甲第19号証の内容と流布行為との因果関係を示す証拠は提示されておらず、その他の流布行為を証明する証拠も何ら提示されていない。
カ 以上のように、本件商標が本号に該当するとして請求人が挙げた5つの主張全てが根拠のないものであると共に、本件商標が商道徳に反したり、あるいは、公正な競争秩序を阻害するといったその他の特段の事情も存在しないことから、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当しないことは明らかである。
(8)商標法第3条第1項柱書の該当性について
ア 請求人は、甲第4号証を根拠に、本件商標が業務廃止後の出願である旨主張するが、上述したとおり、被請求が業務を廃止していない。
イ また、請求人は、宇都宮商工会議所・栃木県米菓協同組合・社団法人栃木県食品衛生協会のいずれの団体からも、現在における被請求人の営業実態が認められない旨の回答が得られた旨主張するが、請求人は、上記主張を裏付ける証拠について何ら提示していないどころか、請求人が上記回答を得たという宇都宮商工会議所から、被請求人の営業実態の存在が証明されている(乙11)。
ウ さらに、請求人は、廃業を理由に被請求人が会費の支払いを断った旨主張するが、何ら証拠が提示されておらず、何の会費が支払われていないのか不明である。
エ 請求人は、被請求人が宇都宮市保健所に廃業の意思を伝え、その他管轄の各種団体の一部にも廃業したことを伝えた旨主張するが、当該主張についても証拠提示がー切ない。
オ 以上のように、請求人の主張は全く根拠のなく、被請求人が実際に業務を行っていたものであり、本件商標が、自己の業務に係る商品について使用をする商標に該当することは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書に違反するものではない。
(1)商標法第3条第1項第1号及び同2号の該当性について
甲第1号証によれば、「あじろ」に関して、本件商標の登録査定時において、魚の形をした(桜海老の粉入り)煎餅に「あじろ」の標章を使用していることが認められるのは、静岡県に在する見城菓子店(ぷらっとお菓子探検!2003年8月2日号)、高はし屋(ついっぷる 2011年1月7日)及び伊奈せんべい(ふじのくにエコショップ宣言 最新更新日2011年8月30日)の3店舗である(甲1の1)。
また、「あじろ焼」「網代焼き」など、他の文字を含めて使用していたものは見受けられるものの「あじろ」単独での使用は、上記3店舗のみである。
そして、広辞苑(2008年1月11日 第六版第一刷発行:乙1)、大辞林(2006年10月27日 第三版発行:乙2)の「あじろ」の項、Wikipediaおかきの項(乙3)及び全国米菓工業組合のホームページに掲載されているあられ・おせんべいの種類(乙4)には、「あじろ」が米菓の一種類を表示する名称としてはいずれにも掲載されていない。
さらに、職権により調査したところ、新編 日本食品辞典(医歯薬出版株式会社)、総合食品辞典 ハンディ版(株式会社同文書院)、改訂 調理用語辞典(社団法人 全国調理師養成施設協会)及び日本の名産辞典(東洋経済新報社 発行、静岡県及び新潟県を含む菓子欄)には、「あじろ」の表示は一切見当たらない。
ところで、商標法上の普通名称とは、「取引界においてその名称がその商品又は役務の一般的な名称であると意識されるに至っているもの」と解すべきところであるから、「普通名称」は、取引界においてその商品の一般的な名称と認められていることが必要であり、また、その判断にあっては、辞書、事典その他の刊行物で普通名称であるかのように使用されているだけでは足りず、商品自体の名称として普及して使用された事実が認められることが必要である。
これを本件についてみると、「あじろ」は、静岡県内の3店舗において「小魚の形をした一口大のせんべい」を指称するものとして使用されていることがうかがえるが、「あじろ」が煎餅の一種を表す一般的な名称であると意識されるに至っているとする証拠はなく、更に、広辞苑や大辞林のような一般的な辞書、食品に関する辞書、Wikipediaおかきの項及び全国米菓工業組合の米菓の分類等に「あじろ」が煎餅の一般的な名称であるとする表示もないことから、当該標章は普通名称とはいえないものである。
また、前記認定のとおり、「あじろ」は普通名称とはいえないものであって、同業者間において普通に使用されるに至った結果、自己の商品と他人の商品とを識別することができなくなった商標には該当しない。
してみれば、「あじろ」は、慣用されている商標とはいえないものである。
したがって、本件商標は、第3条第1項第1号及び同2号に該当するものではない。
(2)商標法第3条第1項第3号の該当性について
請求人は、「あじろ」と称呼される地理的表示として、北海道伊達市網代町、静岡県熱海市南部網代地区(旧田方郡網代町)、かつて岐阜県本巣郡に存在した網代村及び鳥取県岩美郡岩美町網代地区(旧網代村)の4か所を挙げ、本件商標は、これらの地名の称呼を平仮名表記したものにすぎないから、その商品の産地、販売地等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である旨主張する。
しかしながら、請求人が挙げる地理的表示は、いずれも現存する市町村名等の行政区画名ではなく、市町における地区名称又は過去に存在した村名であって、一般に広く知られているものとは認めがたいところである。
また、「あじろ」の文字が、一般の辞書には「(網の代わりの意)(ア)冬、川の瀬に竹や木を編んだ者を編みを引く形に立て、その端に簀(す)をあてて、魚を捕るのに用いるもの(イ)網漁業を行う漁場」(乙1及び2)などの意味を有する語として表示されているだけであることからも、「あじろ」の表示をもって、いずれの地名であるかを特定することは出来ないとみるのが相当である。
してみれば、本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が本件商標を煎餅の産地、販売地を表示したものと認識するものとはいえず、本件商標は、自他商品の識別標識としての機能を十分に果たし得るものと見るのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものではない。
(3)商標法第4条第1項第16号の該当性について
請求人は、本件商標は「小魚の形をした一口サイズの煎餅」を想起させるから、煎餅以外の菓子及びパンに使用すると、需要者に、煎餅と誤認させるおそれが高い商標であり、また、煎餅に使用した場合でも、「小魚の形をした一口サイズの煎餅」以外の煎餅に使用すると、「商品の種類」を誤認させる旨主張する。
しかしながら、本件商標は、前記(1)及び(2)のとおり、煎餅の普通名称、慣用商標及び商品の産地、販売地を表したものではなく、取引者、需要者が特定の品質を理解するものとはいい難いものであり、本件商標をその指定商品中のいずれの商品に使用しても、商品の品質について誤認を生ずるおそれはないものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するものではない。
(4)商標法第4条第1項第15号の該当性について
請求人提出の証拠(誓約書)によれば、請求人は、小魚の形をした「あじろ」煎餅を、昭和39年10月から平成18年7月までの間には、坂本米菓(甲12 誓約書には、「有限会社坂本米菓」と印刷され、押印には、「有限会社坂本製菓」となっている。)と取引を行い、平成18年10月から平成22年8月までの間には、株式会社日新製菓(甲14)と取引を行い、平成22年11月から現在に至るまで有限会社米菓工房和(甲15)と取引を行っていることが伺われる。
また、平成11年9月度から同24年8月度までの商品名を「特製あじろ」とする例えば、「商品コード(1000012 350)・商品名(特製あじろ)・月度11/9・月度期間11/09/01〜11/09/30)・出庫数(792)」のように記載されている出庫明細書及び上記と同様に商品名を「特製あじろ」「あじろ」「食べきりサイズあじろ」「ざらあじろ」とする入出庫明細表及び名称と住所のみが記載された得意先リスト(甲20)を提出している。
上記の入出庫明細表及び得意先リスト(甲20)によれば、請求人が平成10年9月から本件商標の登録出願時までの間に、商品名を「あじろ」「特製あじろ」等の商標を使用していたと推認することはできる。
しかしながら、請求人と当該得意先リストに記載されている、栃木県及びその他数県の得意先との間での具体的な取引を示す証拠の提出はなく、使用商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時において取引者、需要者の間に広く認識されている商標と認めるに足りない。
その他、使用商標を付した商品の売上高、市場占有率など取引規模は不明であることから、本件商標の登録出願時ないし登録査定時において、使用商標が請求人の業務に係る商品を表示する商標として需要者の間で広く認識され、かつ著名になっていたということは認めることができないものである。
そうとすれば、本件商標をその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者が、請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように連想、想起することはなく、その出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
(5)商標法第4条第1項第19号の該当性について
請求人は、本件商標の出願は、請求人への加害目的による出願といえ、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(審判請求人に損害を加える目的その他の不正の目的。)をもって使用をするものである旨主張する。
しかしながら、前述のとおり、使用商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時において取引者、需要者の間に広く認識されていたものということもできない。
そうとすれば、本件商標は、使用商標に化体した信用や名声等にただ乗りし、またはその信用や名声等を希釈化させることによって申立人に損害を与えるものである等の不正の目的は認められず、他に不正の事実を認めるに足りる証拠の提出はない。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。
(6)商標法第3条第1項柱書の該当性について
請求人は、本件商標が被請求人の業務廃業後の出願であること(甲4)や現在も使用していないこと(甲10)等の事実から、本件商標の出願は、被請求人の業務に関するものではなく、請求人の業務に対する加害目的であったと考えられ、自己の業務に係る商品について使用をする商標とはいえないものである旨主張する。
しかしながら、宇都宮市在のせんべいの相馬屋は、同社製の小魚せんべいを、請求人が「あじろ/味代」の表示を付して販売することを承知して、平成19年12月から同24年1月まで被請求人に納品したことを証明していること(乙9の1)、更に、宇都宮商工会議所発行の平成25年3月7日付け宇商発第1222号営業証明書には、被請求人は営業品目として「米菓製造」を営業していることを証明する旨が記載されていること(乙11)の各事実が認められるから、これらを総合すると、被請求人は自己の業務に係る商品について使用をする商標として本件商標の登録出願をしたというのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項柱書に該当に該当するものではない。
(7)商標法第4条第1項第7号の該当性について
請求人は、「被請求人は、使用の意思もなく現実に使用もしていない『あじろ』について、請求人に対する権利行使のみを目的として商標権を取得し、請求人の営業の妨害行為をしたといえる。例えそれが形式的には正当な商標権の権利主張に見えても、実質的には、パテントトロールの商標権版とも言い替えられるような行為であり、商道徳に反するばかりか、公正な競争秩序をも阻害するものである。」旨主張する。
ところで、商標法第4条第1項第7号でいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、ア.その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、イ.当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、ウ.他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、エ.特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、オ.当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるものである(平成17年(行ケ)第10349号)。
これを本件商標についてみると、前記(6)のとおり、被請求人は、自己の業務に係る商品に使用するものとして本件商標の登録出願をしたものといえるから、前記の請求人の主張は前提を欠くものであり、また、被請求人による請求人の使用する商標の使用差止請求等の行為は、商標権に基づく正当なものといえる。
また、本件商標が、商標法第4条第1項第7号でいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に含まれる前記アないしオのいずれかに該当するというべき事情は見いだせない。
加えて、請求人と本件商標権者との私人間の紛争は、本来、当事者間における契約や交渉等によって解決、調整が図られるべき事項であって、一般国民に影響を与える公益とは、関係のない事項である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項柱書、同第1号、同第2号及び同第3号並びに同法第4条第1項第7号、第15号、第16号及び第19号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきものでない。
よって、結論のとおり審決する。
Next Action
類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。
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