sokuhyo

Trademark Appeal Case

著名商標の類否

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2011−890028(T2011−890028/J3)
審判種別無効
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5211268号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおり、「flying mouton」の手書き風に書した欧文字よりなり、平成20年8月22日に登録出願、第33類「洋酒,ぶどう酒,その他の果実酒,日本酒,中国酒,薬味酒」を指定商品として、同21年1月26日に登録査定、同年3月6日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張

請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第209号証(枝番を含む。)を提出した。

〈請求の理由〉

(1)請求の利益

請求人は、後述するように、当該著名標章である「MOUTON」の帰属者として、無効審判請求をすることについて、利害関係を有することは明らかである。

(2)無効事由

本件商標は、請求人の著名標章により構成された商標である等各理由により、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第11号、同第15号、同第16号及び同第19号に該当する。

(3)請求人及び「Mouton」の著名性等について

ア 請求人について

請求人「バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド・ソシエテ・アノニム」(BARON PHILIPPE DE ROTHSCHILD SA)は、フランス法に準拠する1931年に設立された株式会社であり、世界中において、また、日本国においてあまねく知られているワイナリー「Chateau Mouton Rothschild」を経営する会社である(甲第9号証、甲第10号証、甲第17号証、甲第20号証及び甲第21号証)。

イ 「Mouton」の著名性について

(ア)ワイナリー「Chateau Mouton Rothschild」(以下「当該ワイナリー」ということがある。)

当該ワイナリーは、1853年、ロスチャイルド・ファミリーの一人でイギリスに渡ったナタニエル・ド・ロスチャイルド男爵が、フランスのポイヤック村(Pauillac)に位置するシャトーを購入しその名を改めた。その後、曾孫のフィリップ男爵がこの経営を引き継ぎ、本格的なワインビジネスをスタートさせ、その類まれなる商才と情熱により、ワイン事業の名声を世界に轟かせた(甲第3号証の2の2及び3並びに甲第10号証)。

当該ワイナリーは、メドック地区にて1973年格付け銘柄で第1級となっている。特に、1973年のボルドー商工会議所主催のコンテストにより、唯一「Chateau Mouton Rothschild」が第2級から第1級に再格付けされたという、記録的な歴史を残している(甲第3号証の1の6ないし8及び12並びに甲第192号証)。

(イ)ワイン「Chateau Mouton Rothschild」

当該ワインは、1853年頃から醸造され、世界のみならず、日本でも著名である(甲第22号証ないし甲第147号証)。

日本では、数十年前にワイン愛好家によって知られる様になり、ワインブーム後には一般に知られ、さらに「神の雫」、「ソムリエール」等様々なコミック、ドラマにより「Mouton」、「ムートン」の露出度が高くなり、遅くても本件商標の登録出願当時には、著名なものになっていた(甲第62号証ないし甲第64号証)。

そして、フランスワインでもボルドー産の赤ワインが代表格であることはいわば常識化しており、当該ワインは、その中の第1級ワインであることから(甲第66号証)、世界の最高級ワインとの評価がされていることは疑いの余地はない。

(ウ)請求人の宣伝戦略による効果

通常ワインボトルには、ブランド名や生産年等が記載されたラベルが貼られているが、1946年以降、当時のオーナーであるフィリップ・ド・ロッチルド男爵により、「Chateau Mouton Rothschild」のラベルは、シャガール(1970年)、ピカソ(1973年)など、著名な画家によってデザインされており、そのほか、サルバドール・ダリや、チャールズ皇太子などがデザインしている。そして、これらのラベル原画展がアメリカ、イギリスなど世界を巡回して行われ、日本においても森美術館で「ムートンロスシルド ワインラベル原画展」が2008年3月に開催されている(甲第3号証の1の6及び12、甲第10号証、甲第20号証、甲第22号証ないし甲第34号証並びに甲第76号証ないし甲第122号証)。このように、ただの標識に過ぎないワインラベルに関して、世界中で原画展が開かれるほど、当該ラベルは、その創作的価が高く、芸術作品として、ワイン愛好家のみならず一般の人々にもあまねく知られているのである。

(エ)「Chateau Mouton Rothschild」としての「mouton」、「ムートン」の著名性

当該ワイナリー、これを経営する請求人、製造販売されるワイン「Chateau Mouton Rothschild」は一体として、「ムートン」ないし「mouton」と広く呼ばれており、これらは、当該ワイナリーないしワインそのもの及び「Mouton」ブランドとして日本のみならず世界中で著名・周知商標である。

また、当該ワイナリーは、ボルドー五大シャトーの一つとして世界に名前を轟かせ、あまりに著名になったため、ワイン及びワイナリーも一般に「mouton」ないし「ムートン」として本人を示す略称として受けいれられる様になった(甲第3号証の1の5、甲第3号証の1の6及び甲第22号証ないし甲第147号証)。

(オ)ワイン「Mouton Cadet」

当該ワインは、1930年頃に世界初のセカンドワインとして発売され、「Mouton」ブランドの一つとして当時のフランスで大好評となった(甲第148号証ないし甲第151号証)。現時点では、世界150カ国以上で販売されているベストセラーワインとして人気を博している。日本においても、アサヒビール株式会社やエノテカ株式会社等を通じて輸入されている。

なお、請求人は、「Mouton Cadet」を含む売り上げにより、年間約2億ユーロの売上高を誇る。因みに、同ワインは、2008年に2億2280万ユーロというワイン界では比類のない売り上げを見せている(甲第49号証)。さらに、同ワインは、1200万本も生産されている(甲第149号証)。

さらに、請求人は、現在ボルドー地方の五大シャトーの一つである「Chateau Mouton Rothschild」をはじめいくつかのシャトーをフランスに有し、様々な「mouton」ブランド(「Mouton Cadet Rouge」、「Mouton Cadet blanc」、「Le Rose de Mouton Cadet」、「Mouton Cadet Reserve Medoc」、「Mouton Cadet Reserve Saint−Emilion」、「Mouton Cadet Reserve Grave Rouge」、「Mouton Cadet Reserve Blanc」、「Mouton Cadet Reserve Sauternes」及び「Le Petit Mouton de Mouton Rothschild」)を構成している(甲第10号証、甲第17号証及び甲第18号証)(以下、これらをまとめて「MOUTON CADET(ムートン・カデ)」ということがある。)。

製造するワインは、フランス・ボルドー地方を代表するワインとして世界中で愛飲されており、ちなみに、請求人のブランドに係るワインの、過去5年間の日本への輸入量は、9リットルケース換算で、2004年:28,300ケース、2005年:23,367ケース、2006年:25,915ケース、2007年:29,242ケース、2008年:40,027ケースであり、これを一般的なワインボトル(750ml)で換算すると、2004年:339,600本、2005年:280,404本、2006年:310,980本、2007年:350,904本、2008年:480,324本である。

(カ)小括

以上のとおり、「Mouton」は、「Chateau Mouton Rothschild」及びそれを筆頭とする使用商標「Mouton」ブランドを表示するところ、第33類の特に「ぶどう酒」、そして「洋酒、その他の果実酒、日本酒、中国酒、薬味酒」等、それらを包括する酒類で取引者の間に広く認識されており、東京など主要都市のみならず全国的、世界的にも認識され著名でもあり、需要者の間に広く認識されている商標である(甲第3号証の1の5ないし11、甲第22号証ないし甲第183号証及び甲第186号証ないし甲第192号証)。

ウ 本件商標と周知・著名商標「mouton」の類似について

本件商標は、別掲1のとおり、「flying mouton」の欧文字よりなるところ、外観的にみたときは「flying」と「mouton」の各文字部分からなるものであり、称呼的にも本件商標自体から生ずる「フライングムートン」は冗長であるのに対して、観念的には両文字の結合により特定の観念や熟語的意味合いを生ずるものではなく、これを指定商品について使用するときには、常に一体のものとしてみなければならないものではない。

そして、前半部の「flying」は、飛行、飛行するなど形容詞的な意味に留まるのに対し(甲第3号証の4の1及び2)、後半部の「mouton」は、上記イのとおり、請求人の商品表示として既に周知性・著名性を獲得しているから、単なる羊毛、羊の意味(甲第3号証の1の1ないし4)を超え、具体的な商品としての請求人の商品の連想作用の方が多く働き、取引者、一般需要者の注意が「mouton」の部分に集中し、この文字から生ずる「ムートン」の称呼をもって商取引に資する場合も多いものとみるのが経験則に照らして相当である。

してみれば、本件商標は、「フライングムートン」の称呼のほかに、「mouton」の文字部分により、「ムートン」の称呼並びに「chateau mouton rothschild」及び「mouton」ブランドの観念をも生ずるものと認められる。

よって、本件商標と周知・著名商標「mouton」とは、その称呼上、外観上及び観念上称呼において類似する商標である。

エ 不正の目的について

被請求人は、ウェブページで商標採択の経緯などを述べているようであるが(甲第5号証及び甲第6号証)、英語が国語であるニュージーランドで、修飾語たる英語「flying」と名詞である英語「sheep」の結合商標ではなく、敢えて、名詞であるフランス語「mouton」の組み合わせによる極めて不自然な結合商標が採択されたのかの疑問がある。

また、被請求人の商業登記簿情報(甲第4号証)をみるに、多業性の業務を行っており、特にワインの製造を行っていたとは考えられない。特に、現在の被請求人のウェブサイトのトップページをみるに、目につくのは不動産事業と農業事業をやっており、中心産業とされるのが不動産事業である(甲第7号証)。そして、前出ウェブページによればもともとは、牧羊地であった土地を購入し、開墾することから始めている(甲第5号証)。そもそもワイン作りは、大規模な投資と土地の醸成期間が必要であり、短期間にできるものではない。

さらに、英文で日本マーケットを魅惑する「羊」に頼るワイナリー(2009年2月22日掲載)とするウェブページでは(甲第8号証)、「日本人はニュージーランドを考えると、羊を考えることからレベルにsheepを使用する必要があったと知っていた」と述べており、前出ウェブページでの商標採択の経緯とは異なるコメントを残しており、一貫性のあるものではなく、ともに信憑性があるものではない。

そして、「mouton」、「ムートン」は、当該ワイナリーないしワインそのもの及び「Mouton」ブランドとして、日本のみならず世界中で著名・周知商標であることを含め総合的に考えると、本件商標を出願し、登録する行為は、不正な利益を得る目的、又は請求人が使用する商標の顧客吸引力を希釈化させる等の不正な目的で使用するものであるといわざるを得ない。

オ フランスワインの「格付け」について

ワインは、ぶどうの品種、ぶどうの育つ土壌、栽培法、気候、収穫時期、製造法、貯蔵法などが相まって、その個性があり、ワインの個性を明確にし、品質を保っていくためには、生産地域を狭く限定して規制していくことが必要になる。そのために作られたのが「ワイン法」であり、そのなかで品質の基準となっているのが「格付け」であり、フランスで造られるワインは4つのカテゴリーに等級分類されている。

ボルドー地方でのAOCワイン(原産地呼称統制ワイン)の規制でも、地方(AOCボルドー)→地区AOCメドック等→村名AOCポイヤックと区域が狭くなるごとに品質が高くなることになっている(甲第192号証)。

そして「Chateau Mouton Rothschild」は、メドック地区にて1973年格付け銘柄で第1級となっている(甲第3号証の1の6ないし8、甲第21号証及び甲第192号証)。

(4)商標法第4条第1項第8号について

上記(3)で述べたように、「Chateau Mouton Rothschild」、「ムートン」ないし「Mouton」ブランドは、日本で著名であり、また、当該ワイナリー、経営する請求人、製造販売されるワイン「Chateau Mouton Rothschild」は一体として、「ムートン」ないし「Mouton」と呼ばれており、今や請求人の別称が「Mouton」、「ムートン」の状態になっている(甲第44号証、甲第53号証及び甲第65号証等)。

よって、「Mouton」、「ムートン」は、請求人を一般的に指し示されている略称として受け入れられている。

なお、葉山孝太郎著「辛口/軽口ワイン辞典」には、205ページ記載のとおり、第一義的な意味すなわち、「Chateau Mouton Rothschild」の略称として「ムートン」を挙げている(甲第3号証の1の6)。

したがって、本件商標は、請求人の著名な略称である「Mouton」を含む商標であり、請求人の承諾を得ていない商標であるから、商標法第4条第1項第8号に該当する。

(5)商標法第4条第1項第10号について

上記(3)で述べたように、「Mouton」は、「Chateau Mouton Rothschild」及びそれを筆頭とする使用商標「Mouton」ブランドを表示するところ、第33類の特に「ぶどう酒」、そして「洋酒、その他の果実酒、日本酒、中国酒、薬味酒」等それらを包括する酒類で取引者の間に広く認識されており、東京など主要都市のみならず全国的、世界的にも認識され著名でもあり、需要者の間に広く認識されている商標である。

また、本件商標と周知・著名商標「mouton」とは、その称呼上、外観上及び観念上称呼において類似する商標であり、これと同様に、本件商標と未登録商標「Mouton」とは類似する商標であり、また、指定商品も類似するものである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。

(6)商標法第4条第1項第11号について

ア 本件商標と引用商標の先後願、指定商品

本件商標の出願日及び指定商品などは、上記第1のとおりである。

一方、引用する登録商標(以下まとめて「引用商標」という。)は、別掲2(1)の登録第999917号商標(以下「引用商標1」という。)、同(2)の登録第1822017号商標(以下「引用商標2」という。)、同(3)の登録第1861670号商標(以下「引用商標3」という。)、同(4)の登録第999918号商標(以下「引用商標4」という。)、同(5)の登録第2363886号商標(以下「引用商標5」という。)、同(6)の登録第2363887号商標(以下「引用商標6」という。)、同(7)の登録第4372838号商標(以下「引用商標7」という。)、同(8)の登録第999916号商標(以下「引用商標8」という。)、同(9)の登録第1983461号商標(以下「引用商標9」という。)、同(10)の登録第3229411号商標(以下「引用商標10」という。)、同(11)の登録第4075092号商標(以下「引用商標11」という。)及び同(12)の国際登録第840397号商標(以下「引用商標12」という。)であり、すべて平成20年8月22日以前に出願され、その後、設定登録され、現在も有効に存続しているものである。

次に、指定商品について検討すると、本件商標の指定商品と引用商標1ないし12の指定商品は、上記第1及び別掲2のとおり、多少の相違はあるものの、多くの引用商標は「日本酒、洋酒、果実酒、中国酒、薬味酒」などを指定しており、相互に類似する指定商品である。

イ 本件商標と引用商標1ないし12の構成

本件商標の構成は、上記第1(別掲1)のとおりである。

これに対して、引用商標1ないし12の構成は別掲2のとおりである。

そして、それぞれ態様は異なるが、フランス語「MOUTON」をその構成中に含んでいる。

ウ 本件商標と引用商標6の類否

上記(3)ウで述べたとおり、本件商標は、「フライングムートン」の称呼のほかに、「mouton」の文字部分より、「ムートン」の称呼並びに「chateau mouton rothschild」及び「mouton」ブランドの観念をも生ずるものと認められる。加えて、本件商標は、英語である「flying」がフランス語である「mouton」を修飾する関係、すなわち、「mouton」の語が主、「flying」が従という関係にあるため、このことからも、「ムートン」の称呼も生じ得るものと考えられる。

一方、引用商標6の構成は、「MOUTON BARONNE」の欧文字よりなるところ、上記(3)イ及びウで述べたと同様に、一般需要者の注意が前半部「mouton」の部分に集中し、この文字から生ずる称呼をもって商取引に資する場合も多いものとみるのが経験則に照らして相当である。そして、観念的にも、「baronne」は、女男爵としての意味をもつに過ぎず、指定商品では格式を表すものとして慣用されるところであり、識別力を有しないないしきわめて弱い部分である。

したがって、本件商標と引用商標6とは、その称呼上、外観上及び観念上称呼において類似する商標であり、また、指定商品も類似する。

エ 本件商標と引用商標5の類否

引用商標5の構成は、「CHATEAU MOUTON BARONNE」の欧文字よりなるところ、前半部の「CHATEAU」は、指定商品からすると枕詞的な意味(甲第3号証の3の2)に過ぎず、特にボルドーワインに使用される場合、識別性を有しない部位である。

してみれば、上記同様に、取引者、一般需要者の注意が「MOUTON」の部分に集中し、この文字から生ずる「ムートン」の称呼をもって商取引に資する場合も多いものとみるのが経験則に照らして相当である。また、観念的にも、「BARONNE」は、女男爵としての意味をもつに過ぎず、その歴史的背景から指定商品では格式を表すものとして慣用されるところであり、識別力を有しないないしきわめて弱い部分である。

したがって、本件商標と引用商標5とは、その称呼上、外観上及び観念上称呼において類似する商標であり、また、指定商品も類似する。

オ 本件商標と引用商標8ないし12の類否

引用商標9の構成は、「MOUTON CADET」の欧文字よりなるところ、上記同様に、取引者、一般需要者の注意が「MOUTON」の部分に集中し、この文字から生ずる「ムートン」の称呼をもって商取引に資する場合も多いものとみるのが経験則に照らして相当である。また、観念的にも、「CADET」は、末っ子、すなわちセカンド酒的な意味合いしかない、指定商品では格式を表すものとして慣用されるところであり、識別力を有しないないしきわめて弱い部分である。ワインを選択する際、ワインの原産地及びそのブランドを最初に確認するものであり、ムートン・カデを選択する際、ムートンブランドであることを確認した上で、そのセカンドワインを購入するのである。

他の引用商標8、10、11及び12についても、目につくのは「MOUTON CADET」の欧文字を横書きしてなる部分であり、同様のことがいえる。特に、引用商標10は、商品を「ボルドー産ロゼワイン」としており、「CADET」は識別が無いに等しい。

したがって、本件商標と引用商標8ないし12とは、その称呼上、外観上及び観念上称呼において類似する商標であり、また、指定商品も類似する。

カ 本件商標と引用商標1、3及び4の類否

引用商標3の構成は、「CHATEAU MOUTON ROTHSCHILD」の欧文字よりなるところ、前半部の「CHATEAU」は、指定商品からすると枕詞的な意味に過ぎず、特にボルドーワインに使用される場合、識別性を有しない部位である(甲第3号証の3の2)。また、上記同様に、取引者、一般需要者の注意が「MOUTON」の部分に集中し、この文字から生ずる「ムートン」の称呼をもって商取引に資する場合も多いものとみるのが経験則に照らして相当である。また、観念的にも、「ROTHSCHILD」は、「ロッチルド」、「ロートシルド」、「ロスチャイルド」など様々な呼称が生じるに至るほど、指定商品内では「MOUTON」との比較において、比較的弱い識別力を有しているに過ぎない。「MOUTON」そのもので、「CHATEAU MOUTON ROTHSCHILD」ないし「Mouton」ブランドを観念される。たとえ、「ROTHSCHILD」の部分が看過できないほど著名であるとしても、その文字部分は、ワイン醸造業を営む請求人の代表的な出所標識として著名な商標として、これと「MOUTON」の文字部分とを一体として一つの商標を構成する場合、「MOUTON」の文字部分は、同社の取り扱う個々の商品の識別標識として機能するものと認めることができる。そして、引用商標中の各文字部分にほぼ文字部分の大きさに等しい間隔が置かれていることに照らせば、これに接する取引者、需要者は、「ROTHSCHILD」の文字部分と「MOUTON」の文字部分とを常に一体としてのみ称呼するものとは限らず、請求人の取り扱う個々の商品の標識として機能すると認められる部分である「MOUTON」の文字部分のみ称呼することもあると認められる。

同様に、引用商標1及び4では、「CHATEAU MOUTON ROTHSCHILD」が目に付くようになっており、同様のことがいえる。

したがって、本件商標と引用商標1、3及び4とは、その称呼上、外観上及び観念上称呼において類似する商標であり、また、指定商品も類似する。

キ 本件商標と引用商標7の類否

引用商標7の構成は、「LE PETIT MOUTON DE MOUTON ROTHSCHILD」の欧文字よりなるところ、当該標章は、「MOUTON ROTHSCHILD」ブランドに関連して「MOUTON」ブランドが存在することを意味し、同ブランドに「小さな」という形容詞を付したものであって、「MOUTON DE MOUTON」の構成にあらわれるとおり、需要者は「MOUTON」ブランドに着目し、「MOUTON」の文字部分は、同社の取り扱う個々の商品の識別標識として機能するものと認めることができる。そして、「MOUTON」ブランドの中の商品を識別させるものとして、「PETIT」が先行するのである。

そして、上記同様に、取引者、一般需要者の注意が「MOUTON」の部分に集中し、この文字から生ずる「ムートン」の称呼をもって商取引に資する場合も多いものとみるのが経験則に照らして相当である。また、観念的にも、「ROTHSCHILD」は、上記のとおり、指定商品内では「MOUTON」との比較において、比較的弱い識別力を有しているに過ぎない。また、「PETIT」も同様であって、該引用商標は、「MOUTON」そのもので「Mouton」ブランドを観念される。

したがって、本件商標と引用商標7とは、その称呼上、外観上及び観念上称呼において類似する商標であり、また、指定商品も類似する。

ク 小括

以上のとおり、本件商標は、引用商標1ないし12とは、その称呼上、外観上及び観念上称呼において類似する商標であり、また、指定商品も類似するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。

(7)商標法第4条第1項第15号について

上記(3)で述べたように、「mouton」は、ワイナリー「Chateau Mouton Rothschild」の略称及びそのワインの略称、そして「mouton」ブランドとして、世界のみならず、我が国においても、遅くても本件商標の登録出願時までには、取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたものと認められる。そして、その度合いは、現在においても継続している。

また、本件商標は、別掲1のとおりの構成よりなるところ、構成全体をもって、普通名称の羊が飛んでいくとの理解があるとしても、指定商品は、上記第1のとおり、「洋酒、ぶどう酒、その他の果実酒、日本酒、中国酒、薬味酒」であり、ワインを購入する際、「flying mouton」を文字とおり認識することは難しい。なぜならば、その構成中に、ワインで広く使用され、我が国においても広く取引者、需要者に認識されている標章と同一綴りなる「mouton」の文字を有しているからである。

してみれば、本件商標は、これをその指定商品について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、「mouton」の文字部分に強く印象付けられ、当該商品が「mouton」、「ムートン」、すなわち「Chateau Mouton Rothshild」こと、請求人又はその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じるおそれがあるものといわざるを得ない。

ちなみに、「MOUTON」は、本来、MORTE DETEW(hillock)に由来し、小高い丘の地形によるもので、いつしか同発音の羊をもじるようになったものである(甲第20号証、甲第21号証及び甲第60号証)。その意味で、著名な標章「MOUTON」は、創造標章であり、いわばハウスマークであるあることを看過してはならない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。

(8)商標法第4条第1項第16号について

本件商標は、「洋酒、ぶどう酒、その他の果実酒、日本酒、中国酒、薬味酒」を指定商品とし、その構成を「flying mouton」とするところ、日本で「mouton」という言葉は、フランス語をイメージさせるものであり、フランス産をイメージさせるものである。特に、ワインの「mouton」は、その著名性からフランス産との印象を与えやすい。

したがって、本件商標は、その要部である「mouton」が産地名等連想させるものであり、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。

(9)商標法第4条第1項第19号について

上記(3)で述べたとおり、他人の周知商標としての「MOUTON」ないし「mouton」は、請求人のワインを表示するものとして日本国内及び外国における需要者の間に広く認識されている商標であり、本件商標「flying mouton」とは類似の商標と認められ、かつ、該周知商標のいわゆる顧客吸引力を利用しようとするもので、この行為は、不正な利益を得る目的、又は該周知商標の顧客吸引力を希釈化させる等の不正な目的で使用するものであるといわざるを得ない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

(10)商標法第4条第1項第7号について

ワイン法及びワインの歴史、終局的にはヨーロッパの食文化と伝統の申し子ともいえる「Mouton」は、フランスの誇りともいえるものであり、関係のない第三者が日本においてワインを含む商品で「Mouton」を登録することは、ワイン法、ワインの歴史、フランスの誇りを徒に傷つけるものである。

日本で起きたワインブーム及び様々な雑誌、コミック、ドラマ、DVD等に出版、放送され、著名になったことに便乗して、「Mouton」というワイン文化の申し子ともいえる著名なワインの名前を自己の利益のために使用しやすいように出願行為を行うがごとき剽窃行為は、断じて許されるものではない。

かかる剽窃行為によって、フランスワインの象徴たる「Mouton」はコンタミネーションされる結果になることは明らかであり、国際公序に逸脱するものであって、「公の秩序」を害するおそれのある商標として、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。

(11)まとめ

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第11号、同第15号、同第16号及び同第19号に該当し、同法第46条第1項第1号に該当するものであるから、本件商標の登録を無効とすべきである。

第3 被請求人の主張

被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第8号証(枝番を含む。)を提出した。

〈答弁の理由〉

(1)商標「Mouton」ないし「ムートン」の周知著名性について

ア 請求人主張の前提

請求人は、商標「Mouton」ないし「ムートン」が日本国内又は外国において請求人の業務に係る商品「ワイン」ないし請求人の名称の略称を表示するものとして需要者の間で周知著名である旨主張しているが、以下のとおり、本件商標の登録出願時はもとより、その登録査定時においても、周知著名性を獲得していた事実は認められないことから、請求人のかかる主張は失当であり、その前提に誤りがある。以下検討する。

イ 甲各号証の日付について

先ず、商標法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号及び同第19号については、商標登録出願時に同号に該当しないものについては適用されないところ(同法第4条第3項)、乙第1号証の1に示す93件の甲各号証は、本件商標の登録出願日である平成20(2008)年8月22日より後に発行又は採取されたものであり、周知著名性の有無を判断するにあたり、その立証証拠としては証拠価値がないため、除外すべきである。

一方、商標法第4条第1項第7号、同第11号及び同16号に該当するか否かの判断基準時は、本件商標の登録査定時であるが、上記で掲げた本件商標の出願後の日付に係る93件のうち、甲第3号証の1の9、甲第42号証、甲第43号証、甲第61号証及び甲第192号証に係る5件を除いた88件の証拠は、すべて本件商標の登録査定後のものである(乙第1号証の2)。また、乙第1号証の2に示す16件の甲各号証については、その作成・発行の日付すら確認することができず、周知著名性の有無を立証するための証拠力がない。

ウ 請求人による商標「Mouton」の使用について

(ア)請求人の使用商標及びその使用態様

甲各号証によると、請求人は、主に「CHATEAU MOUTON ROTHSCHILD(シャトー ムートン ロスシルド)」又は「MOUTON CADET(ムートン カデ)」の文字から構成される商標を商品「ワイン」に使用している事実は認められるが、これらは、すべて商標「Mouton」がその商品名(商標)の一部として使用されているに過ぎず、商標「mouton」が単独で使用されている事実は見当たらない。

したがって、これらの証拠から、商標「Mouton」ないし「ムートン」が単独で、請求人に係る商品「ワイン」ないし請求人の名称の略称として、取引者、需要者の間で周知著名であることを認めることはできない。

また、一部の証拠において、商標「Mouton」ないし「ムートン」がその文中で用いられる例も散見されるが、文中における「Mouton」ないし「ムートン」に係る記載は、自他商品の識別標識としての使用には該当せず、その周知著名性の判断において考慮に入れる必要はない。

さらに、一部のワインに関する漫画本のセリフ中に商標「Mouton」ないし「ムートン」が用いられている事実は認められるが、かかる使用態様は、自他商品の識別標識としての使用とは離れた場面での使用であって、その周知著名性の有無とは関連性がない。

最後に、請求人の主張から理解できる使用態様は、すべて商標「Mouton」ないし「ムートン」を商品「ワイン」の商品名の一部として使用するもの又は請求人が営むワインのシャトー名としての使用であって、「Mouton」ないし「ムートン」が請求人の名称の略称を示す態様で使用されている例は一切見当たらない。

(イ)具体的使用状況

請求人は、主に「CHATEAU MOUTON ROTHSCHILD」又は「MOUTON CADET」の文字から構成される商標の使用に基づき、その周知著名性を主張するが、これら商標を付した商品の販売時期、販売数量、販売額等具体的な販売実績に関する証拠、並びに広告宣伝の回数及びその内容に関する証拠等を一切提出していないため、その使用実績を具体的に裏付ける根拠はない。

しかるに、請求人は、「CHATEAU MOUTON ROTHSCHILD(シャトー ムートン ロスシルド)」が周知著名性を具備する旨の理由として、当該「ワイン」の格付けが高いことを挙げているが、ワインの格付け(品質)と商標の周知著名性の有無とは関連しない。

次に、請求人は、実に膨大な証拠を提出した上、「CHATEAU MOUTON ROTHSCHILD(シャトー ムートン ロスシルド)」商標の広告宣伝の実績として「Chateau Mouton Rothschild」のラベルが世界の偉大な両家や彫刻家によりデザインされたことを主張しているが、ラベルの芸術性は商標の周知著名性とは無関係であり、かかる事実から請求人の製造する「ワイン」のラベルの芸術性の高さを窺い知ることができる場合があっても、この事実をもってその周知著名性を認定することは到底不可能である。

(ウ)請求人に係るワインの売上等について

当該ワインが、2008年に2億2280万ユーロを売上げた事実及び同ワインが1200万本生産された事実があるとしても、ワインの世界的な売上高及びに売上数量と比較しない限り、その売上高及びに売上数量の高低について評価することはできない。

一方、請求人は、同人のブランドに係るワインの2004年〜2008年までの5年間の日本への輸入量について言及しており、これと乙第2号証に示す国内全体のワインの総消費量とを比較すると、請求人に係る商品が各年ごとに占める占有率は2004年が0.113%、2005年が0.088%、2006年が0.102%、2007年が0.115%、2008年が0.159%であって、どの年をとっても、そのシェアはごく僅かであることが容易に理解できる。なお、国内へのワインの総輸入量と請求人のワインの輸入量とを比較した場合であっても、その占有率は2004年が0.169%、2005年が0.143%、2006年が0.157%、2007年が0.174%、2008年が0.236%であり、そのシェアが圧倒的に少ないことに相違ない。

(2)本件商標の採択の経緯について

被請求人(商標権者)は、昭和40年に設立され、主に不動産事業と農業事業を営む会社であり、近年のワイン人気を受け、新事業として自らニュージーランドでのワインの生産に乗り出した。

そして、商標権者は、ニュージーランドで羊が飛ぶように躍動的に動く姿をみた際、「飛んでいる、飛ぶこと」の意をもつ英語「flying」(甲第3号証の4の1及び2並びに乙第4号証)と英語で「ムートン、羊の毛皮」(甲第3号証の1の1及び2、乙第3号証並びに乙第4号証)、フランス語で「羊」の意を有する語(甲第3号証の1の3、乙第5号証及び乙第6号証)であって、両語の意味合いより羊との関連性を深く暗示させることが可能な「mouton」の語を組み合わせた本件商標「flying mouton」を自ら思いつき、その主要マーケット先である日本でも羽ばたけるよう願いをこめ、自らのワインの名称として採択したものであって、決して不正の目的をもって本件商標の登録ないし使用を開始した事実はない(甲第5号証、甲第6号証)。

(3)不正の目的等について

上記(1)のとおり、本件商標の登録出願又は登録査定の時点で、商標「Mouton」自体が単独で、請求人のワインを表示するものとして、日本国内又は外国における取引者、需要者の間に広く知られていたといえないことから、商標「Mouton」ないし「ムートン」に利用又は稀釈化するほど高い価値のある、強い顧客吸引力が備わっていた事実は認めることはできない。

また、上記のとおり、「mouton」ないし「ムートン」の文字は、英語で「ムートン、羊の毛皮」、フランス語で「羊」の意を有する既成語であって、我が国で広く親しまれた語であることから、一般的に商標として採択され得る文字であり、商標「mouton」ないし「ムートン」が本件商標と類似関係にない以上、本件商標の使用を制限して請求人だけに「mouton」をその構成の一部に含む商標の使用をすべて独占させるべき理由は見出せず、請求人のかかる独断的主張も不当である。

さらに、そもそも本件商標と商標「mouton」ないし「ムートン」とは類似するものではなく、別異の商標と理解・認識されるものであるから、商取引の秩序を乱す等といった公序を乱すおそれはないこと及び上記本件商標の採択の経緯の正当性をも考慮すると、本件商標の登録が剽窃行為となるはずもなく、国際公序に逸脱するものでもなく、そして国際信義に反することもない。

(4)商標法第4条第1項第15号について

ア 商標「Mouton」ないし「ムートン」の周知著名性

上記(1)で述べたとおり、本件商標の登録出願時、商標「Mouton」ないし「ムートン」は、商品「ワイン」に関して周知著名性を獲得していたとは認められない。

イ 本件商標と商標「Mouton」ないし「ムートン」との類似性

(ア)本件商標は、別掲1のとおり、「flying mouton」の欧文字よりなるところ、構成各文字は、同書、同大でバランスよく表示されていることから、外観上まとまりよく一連―体的に構成されてなり、また、その構成文字全体より生ずる「フライングムートン」の称呼も9音程度であって格別冗長といえず、よどみなく一連に称呼し得るものである。

そして、その構成前半部の「flying」の文字は、英語で「飛ぶこと、空を飛ぶ、飛んでいる」等の意味を有し、また、後半部「mouton」の文字は、英語で「ムートン、羊の毛皮」及びフランス語で「羊」を意味する語であり、共に我が国においてよく親しまれた語であるため、本件商標からは、「空を飛ぶムートン(羊・羊の毛皮)」なる一連の意味合いを容易に看取することができる。

また、上記のとおり、商品「ワイン」に関して、商標「Mouton」ないし「ムートン」の周知著名性は認められないことから、本件商標は、その構成中「mouton」の文字部分のみが、取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる特段の事情は見いだせない。

そうすると、本件商標は、「フライングムートン」の称呼のみが生じ、「空を飛ぶムートン(羊・羊の毛皮)」なる意味合いを生じさせる一体不可分の商標としてのみ認識、把握されものである。

(イ)一方、商標「Mouton」ないし「ムートン」からは、「ムートン」の称呼が生ずるものであるから、本件商標の称呼「フライングムートン」とは、その称呼が全く相違する。

また、本件商標と商標「Mouton」ないし「ムートン」とは、「flying」の文字の有無という差異により、外観上十分に区別し得るものであり、さらに、上記のとおり、本件商標からは「空を飛ぶムートン(羊・羊の毛皮)」なる観念が生ずる一方、商標「Mouton」ないし「ムートン」からは単に「ムートン(羊・羊の毛皮)」なる観念しか生じないものであるため、両商標は、観念上も明らかに異なるものである。

(ウ)してみれば、本件商標と商標「Mouton」ないし「ムートン」とは、外観、称呼、観念のいずれの点においても、相紛れることのない非類似の商標であるため、本件商標と商標「Mouton」ないし「ムートン」との類似性は極めて低いものと判断されるべきである。

ウ 商標「Mouton」の独創性の程度

上記イで述べたとおり、商標「Mouton」ないし「ムートン」は、「ムートン、羊の毛皮、羊」を意味する語として、我が国においてよく知られた既成語であって、独創性はない。この点、請求人は、「MOUTON」は、本来、MORTEDETEW(hillock)に由来し、小高い丘の地形によるもので、いつしか同発音の羊をもじるようになったものであって、その意味で、著名な標章「MOUTON」は創造商標であり、いわばハウスマークであることを看過してはならない旨主張しているが、標章作成の由来は、本標章に接する取引者、需要者の実際の認識とは無関係であり、かかる主張は需要者等の認識を無視した主張といえる。

エ 出所の混同のおそれ

以上のとおり、商標「Mouton」ないし「ムートン」が、我が国における取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないこと、本件商標とは十分に区別し得る非類似の商標であること、その独創性の程度は低いことによれば、商標権者が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者・需要者をして、商標「Mouton」ないし「ムートン」を連想又は想起させるものとは認められず、その商品が請求人あるいは請求人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのごとく、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものというべきである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

(5)商標法第4条第1項第10号について

上記(1)及び(4)で述べたとおり、商標「Mouton」ないし「ムートン」は、本件商標の登録出願時、我が国において商品「ワイン」に関して周知著名性を獲得していた事実は存せず、また、本件商標とは類似するものでもない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。

(6)商標法第4条第1項第19号について

上記(1)ないし(4)で述べたとおり、商標「Mouton」ないし「ムートン」は、請求人のワインを表示するものとして日本国内又は外国において周知著名性を具備しておらず、また、本件商標とは非類似である。そして、本件商標の採択、使用などが、商標「Mouton」ないし「ムートン」の顧客吸引力にフリーライドする等の意図により、不正な目的をもって行われたものではない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

(7)商標法第4条第1項第7号について

上記(1)ないし(4)で述べたように、そもそも本件商標と商標「Mouton」ないし「ムートン」とは類似するものではなく、別異の商標と理解・認識されるものであり、商取引の秩序を乱す等といった公序を乱すおそれはないこと、並びに本件商標の採択の経緯の正当性をも考慮すると、本件商標の登録が剽窃行為となるはずもなく、また、国際信義に反する等、いわゆる公序良俗を害するおそれがある商標に該当するものでもない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。

(8)商標法第4条第1項第8号について

請求人は、「Mouton」ないし「ムートン」が自己の名称の著名な略称である旨主張しているが、同文字は、あくまで商品「ワイン」の商品名の一部として又は同人が営むシャトー名として使用されているものに過ぎず、仮に同文字が請求人を表示する意味合いで使用される場合があるとしても、これはあくまで請求人の「別称」であって(乙第3号証)、自己の名称の「略称」として使用しているものではない。

また、上記(1)及び(4)で述べたように、「Mouton」ないし「ムートン」の文字に請求人の名称の略称としての著名性はなく、また、同文字は、「ムートン、羊の毛皮、羊」の意を有する語であって、請求人が自ら創造したものでもなく、さらに、本件商標は、「flying mouton」として、一連一体的にのみ認識し把握されるべきことを考慮すると、本件商標の構成中の「mouton」の文字部分が請求人の名称の著名な略称として認識されることはない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。

(9)商標法第4条第1項第11号について

ア 上記(1)のとおり、商品「ワイン」に関して、商標「Mouton」ないし「ムートン」の周知著名性は認められず、本件商標の構成中の「mouton」の文字部分のみが強く印象付けられるとすべき理由はないことから、本件商標は、「フライングムートン」の称呼のみが生じ、「空を飛ぶムートン(羊・羊の毛皮)」なる意味合いを生じさせる一体不可分の商標としてのみ認識、把握されるものである。

イ 一方、引用商標は、すべてその構成中の一部に欧文字「Mouton」ないし「MOUTON」の文字を含むものではあるが、「Chateau\Mouton Baron Philippe」(引用商標1)、「CHATEAU MOUTON BARONNE PHILIPPE」(引用商標2)、「CHATEAU MOUTON ROTHSCHILD」(引用商標3)、「Chateau\Mouton Rothschild」(引用商標4)、「CHATEAU MOUTON BARONNE」(引用商標5)、「MOUTON BARONNE」(引用商標6)、「LE PETIT MOUTON DE MOUTON ROTHSCHILD」(引用商標7)及び「MOUTON CADET」(引用商標8ないし12)といったように、必ず他の文字と結合して同書、同大で一連一体的に表示された構成からなるものである。

また、引用商標の構成中の「Mouton」ないし「MOUTON」の文字に周知著名性はなく、当該文字部分が引用商標の要部とはなり得ないため、引用商標は、それぞれの構成文字に相応した一連の称呼のみを生ずるものであって、特定の観念を生じないものと認められる。

なお、「baronne」や「CADET」の文字が引用商標の指定商品に関して格式を表示するものとして慣用されている事実は立証されておらず、その取引者、需要者がかかる認識をもって取引を行っているとは考えられない。また、請求人は、「ROTHSCHILD」の文字部分は、同人のワインを示す出所表示として「MOUTON」に劣らず十分機能しうる表示であるとする、根拠のない的外れな主張を展開している。

ウ してみれば、本件商標と引用商標とは、その外観及び称呼は相違するものであり、また、観念について比較しても、本件商標から「空を飛ぶムートン(羊・羊の毛皮)」なる意味合いを生ずるのに対して、引用商標から特定の観念は生じないことから、両者は観念も異にする。

以上のとおり、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれの点においても互いに相紛れるおそれのない、非類似の商標である。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

(10)商標法第4条第1項第16号について

上記で繰り返し述べるように、「mouton」の文字は、英語で「ムートン、羊の毛皮」又はフランス語で「羊」を意味する既成の語であって、ある特定の地名や産地名を表示することは決してない。実際、「世界のワイン事典、世界の原産地称呼ブック」(甲第192号証)にも、「mouton」なる文字がフランスの地名又はワインの産地名として記載されていない。

したがって、「mouton」の文字は、商品の産地、原産地を表示するものではなく、また、そのように認識されるおそれも全くないことから、本件商標をそのいかなる指定商品に使用しても、商品の品質に誤認を生じさせるおそれはない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。

(11)まとめ

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第11号、同第15号、同第16号及び同第19号のいずれにも該当しないから、同法第46条第1項の規定により、その登録が無効とされるべきものではない。

第4 当審の判断

請求人が本件審判請求をするにその利害関係を有するか否かについては当事者間に争いはなく、かつ、請求人適格を有するものと認められるので、本案に入って審理する。

本件商標は、前記第1ないし別掲1のとおり、手書き風に「flying mouton」の欧文字を書してなり、第33類「洋酒,ぶどう酒,その他の果実酒,日本酒,中国酒,薬味酒」を指定商品とするものであるところ、請求人は、本件商標が、請求人の著名標章「Mouton」をその構成中に含んでなる商標である等の各理由により、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第11号、同第15号、同第16号及び同第19号に該当する無効事由が存在すると述べているので、その当否について判断する。

1 「Mouton」標章の周知著名性について

本件審判請求において、請求人が本件商標の無効理由に掲げる上記各法条の規定のうち、商標法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号及び同第19号該当の当否については、本件商標が、その登録出願の査定時(審決時)において該各号に該当しなければならないことはもちろんのこと、その出願時においても該当するものでなければならない(商標法第4条3項)。

そして、これに関する周知性ないし著名性の立証方法及び判断については、「実際に使用している商標並びに商品又は役務。使用開始時期、使用期間、使用地域。生産、証明若しくは譲渡の数量又は営業の規模(店舗数、営業地域、売上高等)。広告宣伝の方法、回数及び内容。」のような各事実を総合勘案して判断することが必要と解される。

そこで、請求人提出の証拠(甲各号証)についてみるに、以下の点を認めることができる(アクサン記号は省略した。)。

(1)醸造所ないしワイン銘柄としての「シャトー ムートン ロートシルト(Chateau Mouton Rothschild)」が紹介されている書籍、雑誌の抜粋などについて

ア 「辛口/軽口ワイン事典」(1999年9月27日発行:甲第3号証の1の6)には「ムートン・ロートシルト、シャトー(Chateau Mouton−Rothschild)(略称:ムートン)」の見出しで、「ボルドーの五大シャトーの一つ。...。一八五五年には二級格付けだったが、一九七三年、特例的に一級に昇格。...、ラベルを毎年変える『ムートン方式』はここの発案。なお、畦道を挟んだお隣の一級シャトー、ラフィット・ロートシルトとは仲が良くないらしい。」の記載がされている。

イ 「英和商品名事典」(第3刷1991年:甲第3号証の1の8)には「Chateau Mouton−Rothschild シャトームートンロートシルド」の見出しで、「フランス西部Gironde県Bordeaux市の北、Haut−Medoc地区のPauillac村にあるシャトー、...Cabernet Sauvignon種のブドウを85%以上用いた特徴あるスタイルが売り物の、Pauillac呼称の原産地統制呼称ワインを造っている。」の記載がされている。

ウ 「DEPARTURES」を題号とする雑誌(2008年4月号:甲第28号証)には「...ムートン・ロスシルドの魅力は、いまさら書くまでもなく、味わいと希少性。そしてラベル。年ごとにラベルの上部に、画家や建築家が特別な絵を提供してきた。有名どころでは、ピカソ、シャガール...ムートンの語源になった丘陵地帯にぶどう畑をもち...」ほかの掲載がされている。

エ 「moment」を題号とする雑誌(2008年5/6月号:甲第29号証)の抜粋には、上記と同様の歴史やエピソードなどと共にシャトー・ムートン・ロスシルド2005年ヴィンテージの限定販売の案内が掲載されている。

オ 「Lapita Premium」を題号とする雑誌(2008年5/6月号:甲第30号証)の抜粋には、「伝説のシャトー/ムートン・ロスシルド 魅惑のクラレットを包む芸術家たち」の見出しで、さらに、詳細な歴史やエピソードなどのほか、2005年醸造のボトルや各年のラベルと共に、東京で行われた原画展に来日中のフィリッピーヌ男爵夫人へのインタビュー記事などが掲載されている。

カ その他、インターネット上の辞書「ウィキペディア」(最終更新2010年12月26日:甲第3号証の1の12)、また、題号「Mouton Rothschild/ムートン・ロートシルト 芸術とラベル」(発行日不明:甲第20号証)、題号「ロスチャイルド家と最高のワイン/名門金融一族の権力、富、歴史」(2007年12月10日1版1刷:甲第21号証)、題号「知識ゼロからの/ワイン入門」(2008年4月10日第26刷発行:甲第59号証)、題号「ワインの女王 ボルドー/クラシック・ワイの真髄を探る」(2005年7月31日発行:甲第60号証)、題号「フランスワイン 愉しいライバル物語」(平成12年2月20日第1刷発行:甲第69号証)及び題号「ロスチャイルド家」(2000年3月25日第八刷発行:甲第71号証)とする単行本、そして、「世界の名酒事典 ’82−’83」に「今宵ムートンを語り ムートンに酔う」の見出しでの1979年のラベルを描いた堂本尚郎ほかの「男3人のワイン談義」とする掲載(昭和56年12月8日発行:甲第65号証)、「Winart」を題号とする雑誌の「特集/ボルドー五大シャトー」の見出しでの掲載(2000年春号:甲第66号証)、「家庭画報」を題号とする雑誌の「特級御三家を訪ねて」の見出しでの掲載(1999年11月号:甲第67号証)及び「別冊料理王国/ワイン王国」を題号とする雑誌の「ボルドー/五大シャトー」の見出しでの掲載(1999年1月20日発行:甲第145号証)においても、当該ワイナリーないし銘柄やボトル、その歴史やエピソードなどが掲載されている。また、題号「ワインと外交」(2007年2月20日発行 2010年6月5日5刷:甲第144号証)及び題号「田崎真也のワイン・シアター」(2000年5月1日第一版第1刷発行:甲第147号証)において、ワイン「シャトームートンロートシルト」が紹介されている。

そして、当該ワイナリーは、メドック地区にて1973年格付け銘柄で第1級となっている(甲第192号証等)。

キ 題号「神の雫」とするワインを題材にしたコミック(2005年3月23日第1刷発行、2009年1月16日第12刷発行:甲第63号証の1、2005年5月23日第1刷発行:甲第63号証の2、2006年4月21日第1刷発行、2007年4月25日第4刷発行:甲第63号証の3)において、ワイン「シャトー・ムートン・ロートシルト」が掲載されている。

以上のアないしキの単行本や雑誌などの記述において、「ムートン」と略記されていることは散見できるが、単に「Mouton」などの欧文字による略記は見当たらない。また、当該ワイナリーないしワインと請求人とを関連づける記載も見当たらない。

なお、「新版 ワインの事典」(甲第3号証の1の7)、当該ワイナリーないしワインが記載されている単行本(甲第61号証、甲第70号証及び甲第146号証)、コミック(甲第64号証)及びワインがテーマになっているTV放送されたDVDビデオ(甲第62号証)は、いずれも本件商標の登録出願日以降のものと推認される。

ク 2008年3月1日(土)ないし3月30日(日)に森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)で開催された「ムートン・ロートシルト ワインラベル原画展」に関して、新聞、雑誌及びウェブページで紹介されている。

(ア)新聞各紙には、原画展の案内ほか、名だたる画家が毎年ラベルを描くようになったとの紹介などがされている。しかして、2008年3月15日付「朝日新聞」東京版と名古屋版(甲第22号証、甲第23号証)とするものに、「...ピカソがラベルを描いたムートンを飲んで考えを変えた...」や写真の解説に「...手前はムートンの所有者...」との記載がされているほかは、甲第106号証ないし甲第109号証及び甲第114号証ないし甲第117号証には「ムートン」との略記は見当たらない。

なお、甲第19号証の歴代ワインラベルのポスターとするものに多数のラベルが掲載されているが、その作成時期や頒布された状況は不明である。

(イ)雑誌やフリーペーパーなどでの紹介には、確かに、「SANKEI EXPRESS」(甲第32号証)とするものの見出しに、「ムートンの『顔』を飾った絵画」、記事中に「...ダリ(58年)は雄牛(ムートン)を...」や「...85年のムートンを1杯、味わった...」との記載のほか、甲第24号証ないし甲第27号証及び甲第31号証の記述中に、「ムートン」の略記がされている。

しかして、甲第76号証ないし甲第96号証、甲第98号証ないし甲第100号証及び甲第111号証ないし甲第113号証には、当該ワイナリーないし銘柄やボトル、その歴史やエピソードなどの掲載や「シャトームートン」等の記載があるとしても、その内の甲第76号証ないし甲第80号証、甲第82号証ないし甲第84号証、甲第87号証、甲第90号証、甲第93号証、甲第94号証ないし甲第96号証には「ムートン」との略記は見当たらない。

(ウ)ブログなどのウェブページでの紹介は、「ムートンで昼食を。」を見出しとするブログで(甲第33号証)、写真の解説に「...ムートンのタワーが...」や「いやー、ムートン1985は...」との記載がされているほかは、甲第34号証及び甲第118号証ないし甲第122号証には「シャトームートン」との略記はされているとしても、その内の甲第119号証ないし甲第122号証には、「ムートン」との略記は見当たらない。

ケ ワインに関する新聞記事(読売新聞社インターネットサイト「YOMIURI ONLINE」)

「07ボルドーのトップスコアはムートン・・・タンザー氏」の見出しで、記事中に「...を代表するワインはムートン・ロスシルド。ムートンはワインメーカーの...ムートンは91〜94点...」(2008年6月13日読売新聞:甲第41号証)、記事中に「...このバイヤーは、ムートン・ロッチルド103ケース...」(2008年5月2日読売新聞:甲第124号証)、同じく「...シャトー・ムートン・ロスチルド1945の6本...」(2008年6月5日読売新聞:甲第125号証)の記事以外の甲第36号証、甲第38号証ないし甲第40号証、甲第42号証ないし甲第56号証、甲第123号証、甲第126号証ないし甲第142号証及び甲第175号証の新聞記事は、いずれも本件商標の登録出願日以降のものである。

(2)「MOUTON CADET(ムートン・カデ)」ほか、請求人取扱いワインについて

ア 甲第148号証の「MOUTON CADET/ムートン・カデ/バロン・フィリップ・ド・ロスシルド社を代表的するブランドワイン」の表題からなる広告パンフレットとするものに、「ムートン・カデのはじまりと現在」や「品質」の見出しとその記載、「ムートン・カデ・ルージュ」、「ムートン・カデ・ブラン」及び「ル・ロゼ・ド・ムートン・カデ」についての格付け、ブドウ品種などと共にボトル及びラベルの掲載がされている。

また、甲第149号証の「MOUTON CADET/新発売:ル・ロゼ・ド・ムートン・カデ/Le Rose de Mouton Cadet」の表題からなる広告パンフレットとするものに、「2009年3月新発売」や「ボルドーを代表するブランドワイン」、「ロゼワインの流行」の見出しとその内容、商品についての「格付け」及び「ブドウ品種」等の見出しとその内容と共にボトル及びラベルの掲載がされている。

なお、これら広告パンフレットとするものに、「ムートン」ないし「Mouton」などの略記は見当たらない。

そして、これ以外の「MOUTON CADET(ムートン・カデ)」に係る広告パンフレットの80周年記念とする広告内容(甲第150号証及び甲第151号証)、コミック誌(甲第152号証ないし甲第154号証)と雑誌類(甲第155号証ないし甲第165号証及び甲第167号証ないし甲第173号証)の各発行日及びブログなどのウェブページ(甲第176号証ないし甲第182号証)の記事情報などは、いずれも本件商標の登録出願日以降のものと推認される。

イ ワイン「Le Petit Mouton de Mouton Rothschild」について

甲第186号証は、その抄訳によれば、当該ワインに関する「ザ・ワシントン・ポスト」(2001年5月30日付)の記事であり、「セカンド・ラベル」との見出しで、「...それはおそらく、ムートンがル・プティを5000ケース以下で生産しており...」とのその販売数などが記載されてる。

そのほか、当該ワインに係るウェブページ(甲第187号証ないし甲第189号証)は、その抄訳からすれば、いずれも本件商標の登録出願日以降の情報であるといわざるを得ない。

ウ 輸入販売業者に係るウェブページ、第三者によるブログについて

(ア)「ムートン・カデ」などの輸入販売業者であるアサヒビール株式会社やエノテカ株式会社のウェブページに(甲第12号証ないし甲第16号証、甲第18号証、甲第35号証及び甲第37号証)、「ムートン・カデ」等のワインについての紹介や当該ワイナリーの歴史やエピソードなどが掲載されているとしても、その掲載時期が本件商標の登録出願日前であったと推認することはできない。

(イ)ソムリエによるブログ(甲第73号証及び甲第74号証)や雑誌(甲第166号証)には、「カラバス」や「バロン・ド・ロスチャイルド・シャンパーニュ」などのワインについて、また、「Blank Blanc Blog」とするブログ(甲第75号証)には、エノテカ吉祥寺店でのイベントなどが掲載されているが、その情報は、いずれも本件商標の登録出願日以降のものである。

(3)商品カタログ、世界名酒事典などでの掲載について

ア 請求人の商品カタログ

(ア)甲第10号証は、「請求人のブランド・ガイドブック(2010年5月改訂版、アサヒビール株式会社発行日本語版)」とするものであって、前段は、請求人やフィリップ男爵、醸造所ないしワインとしてのシャトー・ムートン・ロスシルドに関しての歴史、格付け及びラベルのエピソードについての掲載などと、後段には第2(3)イ(オ)で述べている様々な「mouton」ブランドとして掲げてあるワインのほか、カルフォルニア「オーパス・ワン」、チリ「アルマヴィヴァ」や、請求人がフランスに有するシャトーなどにおいて造られる「ボルドー・バロン・フィリップ・ルージュ」、「カデ・ドック・カベルネ・ソーヴィニヨン」及び「ドメーヌ・ド・バロナーク」など多数のワインが掲載されている。

(イ)甲第11号証は、「請求人のブランド・ガイドブック(フランス語)(請求人発行)」とするものであって、オーナーやワイナリー、ムートン・カデやその他のボトル、畑などの写真が掲載されており、その抄訳には「4ページ 1.シャトーワイン/シャトー・ムートン・ロートシルト(1973年に第一級に格付け).../ル・プティ・ムートン・ドゥ・ムートン・ロートシルト/シャトー・ムートン・ロートシルトのセカンドワイン 2.トレードマークワイン/ムートン・カデ・レゼルブ(A.O.Cメドック)...ボルドートレードマークで世界1位 ... 6ページ 3.ムートン・カデ/ボルドーA.O.Cトレードマークで世界1位」などの記載がされている。

(ウ)甲第17号証は、「ASAHI WINE CATALOGUE2009−2010」(アサヒビール株式会社発行)とするものであり、請求人の取扱いワインとして、上記甲第10号証に掲載されたワインと同じのものが掲載されている。なお、この掲載内容は、「2009年4月現在」とされている。

イ 名酒事典など

(ア)前出「世界の名酒事典’82−’83」(甲第3号証の1の10)のフランスのワインとするページの「Bordeaux/A・O・Cボルドー」の項に、「ムートン・カデ Mouton−Cadet」の赤’79と白’78が請求人の製品として、及び「Pauillac/ポーヤック村」の項の中段に、「シャトー・ムートン・ロートシルト Ch.Mouton Rothschild」として、複数年の製品表示やワインに関してのコメントなど、また、下段には「シャトー・ムートン・バロン・フィリッブ Ch.Mouton Baronne Philippe」が掲載がされている。

(イ)「世界のワイン&チーズ事典’87−’88」(甲第3号証の1の11)のボルドーとする25ページの「ポーイヤック村」の項に、「シャトー・ムートン・ロートシルト(一級) Ch.Mouton Rothschild」として、複数年の製品表示や、56ページに「ムートン・カデー Mouton−Cadet/バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド」の赤’82と白’85がコメントなどと共に掲載されている。

なお、「世界のワイン事典2009−10年版」(甲第3号証の1の9)は、その発行が本件商標の登録出願日以降のものと推認される。

(4)外国語による証拠について

ア 甲第57号証の1には、マークされた箇所に「Mouton」の文字、また、その抄訳によれば、「ロスチャイルド・ワインが王室のラベルを獲得」(ジェームズ・バロン、2007年2月27日付ニューヨーク・タイムズ)を見出しとして、「...男爵夫人のワインであるシャトー・ムートン・ロートシルトの新ラベルを特集するニューヨークのサザビーズでの展覧会...」などの記載がされている。

イ 甲第57号証の2には、マークされた5箇所に「Mouton」の文字、また、その抄訳によれば、「ムートン・マニア/ムートン・ロートシルトのラベル芸術の展覧会で、フィリピーヌ・ド・ロスチャイルド男爵夫人の秘蔵セラーから空前のワインオークションも開催予定」(ピーター D.メルツァー、2007年2月27日付ワイン・スペクテーター)を見出しとするものに、展覧会や依頼された画家に係るエピソード、オークションについての話題が記載されている。

ウ 甲第58号証の2には、マークされた2箇所に「Mouton」の文字、また、その抄訳によれば、「お決まりのデキャンタージュは必要なし」(2005年1月14日付ジャパン・タイムズ)を見出しとものであり、マークされた箇所にその旨の記載がされている。

エ 甲第58号証の3には、マークされた11箇所に「MOUTON」や「Mouton」の文字、また、その抄訳によれば、「ワイン・トーク」(1996年2月14日付ニューヨーク・タイムズ)を見出しとして、「...ムートン・ロートシルトでは約20,000ケースで増える見込みはほとんどない。...1930年代、フィリップ・ド・ロスチャイルド男爵はムートン・ロートシルトの名に値しないと思われるワインのために、ムートン・カデという別個のラベルを思いついた...今日の毎年約1,500万本という売り上げによりムートン・カデは世界で最もよく知られたボルドーワインとなり...」ほか、醸造所や請求人の歴史、エピソードなどの記載がされている。

オ 甲第72号証は、その抄訳によれば、「ムートン・ロートシルト」を表題とする「シリル・レイ著 クリスティー・ワイン・パブリケーションズ発行 1974年 新改訂版(1980年)、再版(1982年)」とする単行本と思しきものであり、その文章中の随所に記載されている「Mouton」の文字にマークがされており、また、その抄訳には、「1:ムートンは変わらず」の項に、1855年での二級格付け、その後の一級格付けになったことの記載など、「2:環境と土壌」の項に、原産地規制呼称についての記載ほか、「3:われムートンなり」、「4:1855年の格付け」、「6:カデのラインと他のシャトー」及び「8:ラベル」の項とそれに関する僅かな記載がされている。

カ 甲第190号証の1には、その文章中の随所に記載されている「Mouton」の文字にマークがされており、また、その抄訳には、「Ch.コックス著/ボルドーとそのワイン」との表題のほか、「1868年版完全再版/1987年発行」、「第8版増補改訂版/1908年発行」、「第10版増補改訂版/1929年発行」、「第11版改訂最新版/1949年発行」及び「第12版増補改訂版/1969年発行」や、「ムートン」、「1855年の格付け」ほか、フィリップ・ド・ロスチャイルド男爵についての記載などがされている。

これらの出版物は、ウィキペディア英語版(甲第190号証の2)の抄訳によれば、「...それはボルドーワインに関する古典的な参考書として...包括的な情報源とされている。」との記載がされている。

以上の外国語による証拠の抄訳からは、請求人の表示やその関係についての記述は見当たらない。また、甲第58号証の1は、本件商標の登録出願日以降の記事であり、甲第184号証及び甲第185号証は、2008年度の世界のワイン輸出額及び輸出量に関するウェブページである。

(5)商標権者(被請求人)に係る甲各号証について

ア 甲第4号証は、商標権者(被請求人)の商業登記簿情報であり、目的に「7.果実酒、ジャム等加工食品の製造販売」ほかの記載がされている。

イ 甲第5号証は、「斎藤酒店」とするウェブサイトの「世界が注目/ニュージーランドワイン/〈ホークス・ベイ〉」とのウェブページであり、そこに「Flying Mouton(フライング ムートン)名前の由来」の見出しと、その由来や放牧された羊の群れの写真のほか、「Flying Mouton」を銘柄とする何種かのワイン、羊が飛び跳ねた如き図柄のあるラベル及びボトルなどが掲載されている。

ウ 甲第6号証は、「nzdaisuki.com」とするウェブサイトの「NZニュース」とのウェブページであり、そこに「日本人経営のワイナリーに注目」の見出しの下で、「Hawke’s Bayにある日本人経営の大沢ワイナリーから新しくFlying Sheep pinot noir と Flying Mouton sauvignon blanc が発売された。/この2つのワインのラベルには羊が羽ばたく姿が描かれており、ワイナリーのオーナーは、このデザインされた羊のように主要マーケット先である日本でも羽ばたける事を願っている。/ワイナリーのマネージャーMark Lim氏はフランス語で「羊」を表すムートンは日本でなじみがある言葉であることから、これらのワインは名前が覚え易く、日本のマーケットではニュージーランドのワインが非常に高い品質を持っていると認識し始めている状況から、今後期待が持てると話す。(生活2009年2月7日)」との記載がされている。

エ 甲第7号証は、被請求人(商標権者)のウェブサイトの新旧トップページと会社案内や農場などのウェブページと、表題「OSAWA WINES」とするリンク先のウェブページであり、後者には、「羊が飛び跳ねた如き図柄/FLYING MOUTON/PINOT NOIR 2009」との表示とそのラベルが貼付されたボトルなどの掲載があるもの、「Flying Mouton」の名前の由来との見出しと、その旨の記載と思しき掲載などがあるもの及び「Flying Sheep ...pinot noir2008」、「Flying Mouton...2008 」などの掲載のある、項目を「ワインリスト」とするものが含まれている。

オ 甲第8号証は、その抄訳によれば、「日本市場を惹きつけるため羊頼みのワイナリー」(ザ・ドミニオン・ポスト 2009年2月22日付)を見出しとして、「もし日本人にニュージーランド産ワインを売りたかったら...」との書き出しの下で、要は日本人のニュージーランドに対するイメージが羊であるということ及び羊を意味するフランス語「ムートン」が日本で広く使われているため日本の顧客に認識し易い旨などが記載されている。

(6)その他の甲各号証について

ア 辞書類

(ア)見出し語を「ムートン」又は「mouton」とする甲第3号証の1の1ないし5の辞書類には、「羊の毛皮、羊皮」又は「羊」などの意味が記載されている。なお、インターネット上の辞書「ウィキペディア」(最終更新2010年2月21日)には、「・シャトー・ムートン・ロートシルト−フランスの高級ワインブランド。」との記載がされている。

(イ)見出し語を「ロスチャイルド」とする甲第3号証の2の1、また、同「ナサニエル・ド・ロスチャイルド」及び「Philippe de Rothschild」とする甲第3号証の2の2及び3の辞書類には、当該ワイナリーの歴史などが掲載されている。

(ウ)見出し語を「シャトー」又は「chateau」とする甲第3号証の3の1ないし3の辞書類には、「城、大邸宅」又は「...ボルドーでは特有の意味をもつ。特定の者が畑を所有し、...栽培し、ワインを醸造し、瓶詰めする場合、そのワインに『シャトー』名を冠することができる...」などの記載がされている。

(エ)見出し語を「フライング」又は「flying」とする甲第3号証の4の1及び2の辞書類には、「飛ぶこと、飛行」などの意味が記載されている。

(オ)見出し語を「cadet」とする甲第3号証の5の辞書類には、「次男、末っ子」などの意味が記載されている。

(カ)見出し語を「バロン」又は「baron」とする甲第3号証の6の1ないし4の辞書類には、「男爵」などの意味が記載されている。また、同「baronne」には、「女男爵:男爵領を領有する婦人」などの意味が記載されている。

イ 甲第9号証は、請求人のフランス国商業登記簿謄本写し(ボルドー商事裁判所発行)とするものである。

ウ 甲第193号証は、フランスのロスチャイルト家が札幌地裁に社名の使用禁止などの訴訟を求めたことに関する報道である。

エ 甲第194号証は、「ロスチャイルト家と政府」を見出しとするコラムである。

2 以上よりすれば、次のとおり認定できる。

(1)「シャトー ムートン ロートシルト(Chateau Mouton Rothschild)」について

ア 当該ワイナリーないしワインの周知著名性

当該ワイナリーがフランスのボルドーでの五大シャトーの一つとするワイナリーであり、また、カベルネソーヴィニヨン種のブドウを85%以上用いた特徴あるスタイルが売り物のフランスボルドー産の最高級ワイン(メドック地区にて1973年格付け銘柄で第1級、Pauillac(村)呼称の原産地統制呼称ワイン)の銘柄であって、そのラベルの上部にはピカソ、シャガールなどの有名な画家や建築家が年ごとに特別な絵を提供してきたことの事実などを認めることができる。

しかして、甲各号証における単行本や雑誌、コミックなどでの掲載数は多いとはいえないものであって、かつ、多数のワインを紹介する世界の名酒事典などの書籍にそれらのワインの一つとして取り上げられている程度のものである。そして、「ムートン・ロートシルト ワインラベル原画展」の開催に関して、新聞、雑誌及びウェブページでの紹介も各一回限りであり、東京のみで一ヶ月間開催されたにすぎないものである。その他のワインに関する新聞記事やウェブページ、商品カタログでの紹介情報の多くは、いずれも本件商標の登録出願日以降のものである。

してみれば、当該ワイナリーないしワインが、ワイン輸入販売事業者やワイン愛好家などには相当程度知られているということはできるとしても、本件商標の登録出願時にあって、それが我が国の一般需要者の間にまで広く知られていたと認めることはできない。

イ 「ムートン」、「Mouton」との略称ないし商標

そして、唯一「辛口/軽口ワイン事典」(甲第3号証の1の6)に「(略称:ムートン)」との記載はあるが、その他の甲各号証での各単行本や雑誌などで散見される「ムートン」の記載は、文章の冗長さを避けるため著者が任意に略記するものであり、いずれも当該ワイナリーないしワインを特定するような記述の下での使用であって、当該文章を離れてまで、「ムートン」の表示自体が当該ワイナリーないしワインの固有の略称ないし商標として認識されていると認めることはできない。

また、甲第57号証の1及び2、甲第58号証の2及び3、甲第72号証並びに甲第190号証の1などには、その文章中の「Mouton」の文字にマークがされているが、上記同様に文章の冗長さを避けるためのものであって、当該文章を離れてまで、「Mouton」の表示自体が当該ワイナリーないしワインの固有の略称ないし商標として認識されているとまで認めることはできない。

その他の甲各号証からは、「シャトー・ムートン」や「ムートン・ロートシルト」などの記載は認められるとしても、単に「ムートン」ないし「Mouton」などと略記しているような記述は見当たらない。

そうすると、「ムートン」ないし「Mouton」は、当該ワイナリーないしそこで醸造される最高級ワインに使用する商標として、我が国の取引者、需要者に広く知られているとまでは認めることはできない。また、国外の状況についても、提出された外国語による証拠からは、単に「Mouton」との略称ないし商標として、取引者、需要者に広く認識されているものとするのは困難である。

なお、請求人は、「MOUTON」は、本来、MORTE DETEW(hillock)に由来し、小高い丘の地形によるもので、いつしか同発音の羊をもじるようになったものであり、創造標章である旨述べているが、当該ワイナリー(シャトー)は、1853年にナタニエル・ド・ロスチャイルド男爵が購入する前は「シャトー・プランヌ・ムートン」であるとの記載があり、また、1933年に購入したシャトーも「シャトー・ムートン・ダルマイヤック」であるとの記載がされており(甲第10号証等)、請求人はいかなる者による創造標章であると述べているのか不明である。

(2)「MOUTON CADET(ムートン・カデ)」ほか、請求人の取り扱いに係るワインについて

ア 甲第148号証及び甲第149号証の「ムートン・カデの広告パンフレット」(ハウ社発行)とするものは、その頒布状況が不明であり、また、これら以外の「80周年記念」との記載がある広告パンフレットや、コミック誌、ブログや輸入販売業者に係るウェブページ及び商品カタログなどには、「MOUTON CADET(ムートン・カデ)」に係る掲載を認めることができるとしても、いずれも本件商標の登録出願日以降と推認されるものである。

その他、名酒事典などの書籍に取り上げられているとしても、これらには多数のワインが収録されており、その掲載をして一般需要者がその銘柄を逐一認識しているともいい難いものである。

イ また「Le Petit Mouton de Mouton Rothschild」とするワインにあっては、その販売数がわずかである旨記載があり、その他のウェブページからは、その周知著名性を判断することはできない。

また、その他の請求人の取扱いに係るカルフォルニア「オーパス・ワン」、チリ「アルマヴィヴァ」や、請求人がフランスに有するシャトーなどにおいて造られる「ボルドー・バロン・フィリップ・ルージュ」、「カデ・ドック・カベルネ・ソーヴィニヨン」及び「ドメーヌ・ド・バロナーク」などのワインについては、銘柄中に「Mouton」又は「MOUTON」の文字は含まれていない。

なお、これら広告パンフレットや商品カタログとするものに「MOUTON CADET(ムートン・カデ)」のほか、請求人取扱いワインについて「ムートン」ないし「Mouton」などと総称しているような記述は見当たらないし、請求人や輸入販売業者などが新聞や雑誌、TVなどのマスメディアを用いた広範な者を対象とするような宣伝広告をしているとの証拠も提出されていない。

ウ そして、請求人の取り扱いに係るワインの我が国における輸入量に占める割合は、「2004(平成16)年が0.113%」、「2005(平成17)年が0.088%」、「2006(平成18)年が0.102%」、「2007(平成19)年が0.115%」及び「2008(平成20)年が0.159%」である旨の被請求人が述べる点は是認でき、これよりは、本件商標の登録出願前に輸入された請求人の取扱いに係るワインの数量は、上記ワインの総量に比して、極めて少ないものといわざるを得ない。

そうすると、甲各号証からしては、「MOUTON CADET(ムートン・カデ)」のほか、請求人の取扱いに係るワインの銘柄が我が国の取引者、需要者の間に広く知られているとまでは認めることはできない。まして、単に「ムートン」ないし「Mouton」の文字が既成語としての認識を超えて、請求人に係るワインに使用する商標として、我が国の取引者、需要者に広く知られているとするのは困難である。

(3)請求人「バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド・ソシエテ・アノニム」(BARON PHILIPPE DE ROTHSCHILD SA)と当該ワイナリーとの関係について

当該ワイナリーの所有者と請求人とは密接な関係にあるとしても、上記のとおり、「ムートン」ないし「Mouton」が固有の略称ないし商標として、広く知られているとまでは認められないものであり、また、提出された各単行本、雑誌などからは、当該ワイナリーないしワインと請求人とを関連づけるような記載も見当たらない。そして、そもそも請求人の商号には「Mouton」の文字を含むものではないから、当該ワイナリーないしワインと一体として、「ムートン」ないし「Mouton」を請求人の略称として認めることはできないし、まして、請求人の著名な略称ということもできない。

(4)不正の目的について

請求人は、不正の目的があったことを理由付けるものとして、被請求人に係るワインがニュージーランド産であるのに、本件商標の構成文字が英語「flying」とフランス語「mouton」との不自然な結合商標であること、被請求人は多業性の業務を行っており、中心産業とされるのが不動産事業であり、特にワインの製造を行っていたとは考えられないこと及び「mouton」、「ムートン」は、当該ワイナリーないしワインそのもの及び「Mouton」ブランドとして、日本のみならず世界中で著名・周知商標である旨述べている。

しかして、被請求人は、ニュージーランドのホークベイに、2005年12月には開拓を始めた「大沢ワイナリー」なるものを所有しており、そこから日本に向けてワインを売り出すにあたり、日本人のニュージーランドに対するイメージが羊であることや、「ムートン」の語が、我が国において、「羊、羊の毛皮」を認識する比較的親しまれた言葉であること及び「名前の由来」に記載されているようなエピソードなどとにより、英語「flying」とフランス語「mouton」とを結合させた商標を採択したという点については、信憑性が低いものともいえないし、請求人のかかる主張を裏付ける証拠として提出している甲第4号証ないし甲第8号証によっては、不正の目的をもって使用するものに該当したことを認定し得ない。その他、甲各号証からは、本件商標が「不正の目的」による登録出願であることを具体的に示すものは見出せない。

そして、「ムートン」ないし「Mouton」の文字は、上記で認定したとおり、請求人提出の甲各号証によっては、当該ワイナリー又は請求人の業務に係るワインを表示するものとして、日本国内において、需要者の間に広く認識されていた商標とは認められないことなどを総合すれば、被請求人による本件商標の使用は、当該ワイナリーないしワイン、又は「MOUTON CADET(ムートン・カデ)」のほか、請求人の取扱いに係るワインのいわゆる顧客吸引力等にただ乗りし、また、その出所表示機能を希釈化させたりすることの不正の目的をもってのものとは認めることができない。

3 上記1及び2の各認定に立って、本件商標の無効事由の存否について検討する。

(1)商標法第4条第1項第8号について

請求人「BARON PHILIPPE DE ROTHSCHILD SA」の商号は、「Mouton」の文字を含むものではない。また、当該ワイナリーないしワインと一体として、「Mouton」を請求人の略称として認めることはできないし、まして、その著名な略称ということもできないことは、上記2(3)認定のとおりである。

したがって、「flying mouton」の文字よりなる本件商標は、他人の名称又は他人の著名な略称を含む商標とはいい得ないものであるから、商標法第4条第1項第8号に該当するということはできない。

(2)商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号について

本件商標は、別掲1のとおり、「flying mouton」の手書き風の欧文字からなり、その構成各文字は、全体が一体的にまとまりよく構成されてなり、その全体から生じる「フライングムートン」の称呼もよどみなく一連に称呼し得るものであって、構成全体としては「空飛ぶムートン(羊、羊の毛皮)」のごとき意味合いを容易に認識させるものである。

そして、上記のとおり、「ムートン」ないし「Mouton」の周知著名性が認められないものであるから、本件商標は、その構成中の「mouton」の文字部分のみが強く印象付けられ、これに相応する称呼、観念をもって取引に資されるとはいい難く、そのほかに該文字部分が強く印象付けられる格別の理由は見いだせない。

してみれば、本件商標は、「フライングムートン」の称呼のみを生じ、「空飛ぶムートン(羊、羊の毛皮)」のごとき意味合いを認識させる全体が一体不可分の商標というのが相当である。

一方、甲各号証からしては、「ムートン」ないし「Mouton」が当該ワイナリーないしそこで醸造される最高級ワインに使用される商標、又は請求人の取扱いに係る「MOUTON CADET(ムートン・カデ)」ほかのワインの銘柄を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く知られているものと認めることはできないこと及び不正の目的をもっての使用とも認めることができないことは、上記2(1)ないし(3)で述べたとおりである。

してみれば、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標ということはできないから、本件商標がその登録出願時において、その指定商品について使用されたとしても、当該ワイナリー又は請求人若しくはその関連会社の取扱いに係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生じるおそれがあるものということもできない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に該当するものでなく、また、商標権者(被請求人)が本件商標を採択使用する行為に不正の目的があったものと認められないから、同法第4条第1項第19号にも該当するということはできない。

(3)商標法第4条第1項第11号について

ア 請求人は、本件商標について、「フライングムートン」の称呼のほかに、「mouton」の文字部分より、「ムートン」の称呼並びに「chateau mouton rothschild」及び「mouton」ブランドの観念、加えて、本件商標は、英語である「flying」がフランス語である「mouton」を修飾する関係、すなわち、「mouton」の語が主、「flying」が従という関係にあることから、「ムートン」の称呼も生じ得るものと考えられる旨述べている。

しかして、本件商標は、「フライングムートン」の称呼のみを生じ、「空飛ぶムートン(羊、羊の毛皮)」のごとき意味合いを認識させる全体が一体不可分の商標であること、上記(2)で認定したとおりであるから、請求人のかかる主張は採用できない。

イ 一方、引用商標の構成は、別掲2(1)ないし(12)のとおりであるところ、請求人は、図形要素や欧文字などとを組み合わせた引用商標1の構成は「Chateau Mouton Baron Philippe」、同じく、引用商標4の構成は「Chateau Mouton Rothschild」、同じく、引用商標8の構成は「MOUTON−CADET」、同じく、引用商標10及び11の構成は「MOUTONCADET」及び、同じく、引用商標12の構成は「MOUTON CADET/BARON PHILIPPE DE ROTHSCHILD」と述べているところ、確かにこれらは独立しても識別標識として機能するもの認められるものであって、これ以外の図形要素ないし文字と本件商標との類否は比較し得ないものであるといって差し支えない。

そして、その余の引用商標は、引用商標2が「CHATEAU MOUTON BARONNE PHILIPPE」、引用商標3が「CHATEAU MOUTON ROTHSCHILD」、引用商標5が「CHATEAU MOUTON BARONNE」、引用商標6が「MOUTON BARONNE」、引用商標7が「LE PETIT MOUTON DE MOUTON ROTHSCHILD」及び引用商標9が「MOUTON CADET」の各欧文字によりなるものである。

してみると、引用商標は、いずれもその構成中に「MOUTON」あるいは「Mouton」の文字を含むものではあるが、他の文字と結合してなり、その構成は同じ書体で一連一体的に構成されてなり、その構成中の「MOUTON」あるいは「Mouton」の文字のみが強く印象付けられるとすべき理由は見いだせないから、引用商標は、それぞれの文字に相応した一連の称呼を生ずるものであって、特定の観念を生じないものというのが相当である。

ウ そうすると、本件商標と引用商標とは、逐次その類否について論ずるまでもなく、その外観及び称呼においては、明らかな差異があるというべきであり、また、観念においては比較し得ないものであるから、両者は、その外観、称呼及び観念のいずれの点においても紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものでない。

(4)商標法第4条第1項第16号について

本件商標は、「flying mouton」の手書き風の欧文字からなり、その指定商品は、第33類「洋酒,ぶどう酒,その他の果実酒,日本酒,中国酒,薬味酒」である。

これに対し、請求人は、日本で「mouton」という言葉はフランス語をイメージさせるものであり、フランス産をイメージさせるものであって、特にワインの「mouton」は、その著名性からフランス産との印象を与えやすい旨主張する。

しかして、本件商標は、その構成各文字は全体が一体的にまとまりよく構成されてなり、構成全体として「空飛ぶムートン(羊、羊の毛皮)」のごとき意味合いを認識させるものであって、その構成中の「mouton」の文字部分のみが強く印象付けられ格別の理由は見いだせないこと、上記(2)で認定したとおりである。

また、「mouton」という言葉は、我が国で比較的親しまれた既成語であり、本件商標の構成全体で上記に述べた意味合いを認識させるもの以上になく、かつ、請求人のかかる主張は内心的な事情を述べるにすぎない。

そうすると、本件商標をその指定商品に使用しても、特定の品質などを想起させるものでないから、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるとは認められない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するものでない。

(5)商標法第4条第1項第7号について

本件商標は、「flying mouton」の欧文字からなり、構成全体として「空飛ぶムートン(羊、羊の毛皮)」のごとき意味合いを認識させる一体不可分の商標であり、また、甲各号証からしては、「ムートン」ないし「Mouton」が当該ワイナリーないしそこで醸造される最高級ワインに使用される商標又は請求人の取扱いに係る「MOUTON CADET(ムートン・カデ)」ほかのワインの銘柄を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く知られているものと認めることはできないこと及び不正の目的をもっての使用とも認めることができないこと、上記2(1)ないし(3)で述べたとおりである。

そして、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わいあるいは差別的な印象を与えるようなものでなく、また、本件商標をその指定商品について使用することが社会公共の利益・一般道徳観念に反するものとすべき事実は認められず、他に法律によってその使用が禁止されているものともいえない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものでない。

(6)結び

以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第11号、同第15号、同第16号及び同第19号のいずれにも違反して登録されたものではないから、その登録は、商標法第46条第1項第1号により無効とすることができない。

よって、結論のとおり審決する。

Next Action

次の一手につながるサービス

類似審決の追加調査から中間応答、新規出願の費用確認まで、この審決を起点に次のアクションへ進めます。

次の一歩へ

商標の登録可能性を無料で確認するか、費用の目安を料金表・シミュレーターで把握できます。