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Trademark Appeal Case

のれん分け商標の無効

本データベースは、特許庁の審決例をAIで解析・要約したものです。拒絶理由通知に対する意見書作成や、審判請求書等の作成時の参考としてお役立てください。

基本情報

審判番号無効2012−890103(T2012−890103/J3)
審判種別無効
結論敗訴(請求棄却)

結論テキスト

本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理由テキスト

第1 本件商標

本件登録第5163342号商標(以下「本件商標」という。)は、「梅光軒」の文字を標準文字で表してなり、平成20年3月21日に登録出願、第30類「中華そばのめん,そばのめん,うどんのめん,そうめんのめん,即席中華そばのめん,即席そばのめん,即席うどんのめん,スープつき中華そばのめん,スープつき即席中華そばのめん,その他の麺状の穀物の加工品,麺類のべんとう」を指定商品として、同年8月8日に登録査定、同月29日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張

請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第5号証(枝番を含む。)を提出した。

1 請求の理由

本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号及び同第10号に該当し、同法第46条第1項第1号により無効にすべきものである。

2 具体的理由

(1)公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)

ア 以下のとおり、被請求人は、本店である請求人ないし請求人の前代表者である会長井上弘之(以下「会長井上」という。)からのれん分けを受け、請求人のグループの一店舗として請求人の知名度を利用して営業していた。しかるに、被請求人は、商標を取得したことを奇貨として、その商標の名称が由来する大本である請求人に対して差し止め請求をしている。かかる一連の被請求人の行為は許されず、ひるがえってかかる目的での被請求人の本件商標の取得自体が公序良俗に違反する。

イ 「のれん分け」とは、奉公人や家人に同じ屋号の店を出させることであり、奉公人らは主人と同じ屋号を使用することが許される一方で、不行跡等があった場合にはそれを取り上げられるものという慣習が存する。

すなわち、「のれん分け」を法的に分析するならば、本店から分店に対しての商号又は商標の使用の許諾及び本店からの統制としての許諾の解約その他の制限条項からなると解される。

ウ 請求人の会長井上は、「梅光軒本店」で営業を行う一方で、被請求人ら請求人にて修行した元店員らに対していわゆるのれん分けを行い、店員らののれん分けした店舗(以下「分店」という。)には、地名を冠した「梅光軒○○店」などと名乗らせており、請求外の者が「梅光軒南店」、「梅光軒東店」、「梅光軒名古屋店」、「梅光軒末広店」「梅光軒永山店」(請求人の支店である旭川ラーメン村店とは異なる店舗。ただし、平成17年閉店。)、「梅光軒東光店」、「梅光軒奈良店」、「梅光軒神居店」を名乗って現在に至っている。

このように会長井上ないし請求人からのれん分けを受けた「梅光軒分店」の「梅光軒」の屋号は、いずれも会長井上又は請求人からの「梅光軒○○店」としての利用の承諾に基づくものである。

エ 被請求人は、昭和51年、会長井上の元で修行し、同年、会長井上からのれん分けを受けて、「梅光軒東店」を開業した。さらに、被請求人は、一旦ラーメン店を廃業した後、昭和60年ころ、請求人から再度のれん分けを受けて、平成23年に請求人に無断で「梅光軒豊岡店」から「旭川梅光軒」に名称を変更するまで、梅光軒の分店であることを示す「梅光軒豊岡店」を名乗っていた(甲4)。被請求人は、梅光軒各店舗共通で使用していた箸袋を使用しており、そこには被請求人の店舗は「梅光軒豊岡店」と記載されている(甲5)。

すなわち、被請求人の「梅光軒」の屋号は、他の梅光軒分店と同様に、会長井上ないし請求人からの「のれん分け」すなわち利用の承諾に基づくものであり、請求人に由来するものにほかならない。そして、請求人からののれん分けとして「梅光軒豊岡店」が承諾されている以上、単なる「梅光軒」や「旭川梅光軒」といった名称については許諾がなければ本来許されないものである。

オ 被請求人は、請求人からの「のれん分け」によって請求人に由来する「梅光軒豊岡店」の名称を使用しているにもかかわらず、被請求人商品に「梅光軒」などと記載して請求人に無断で開発し、販売してきた。

被請求人商品は、請求人とは無関係に販売されるものであるにもかかわらず、被請求人商品の製造者の親会社である永谷園のインターネットサイトですら「昭和44年の創業」「第1回旭川ラーメン大賞最優秀賞受賞」などと請求人の著名性に依拠して販売されている。複数の被請求人商品の販売サイトにおいて、請求人の写真を無断で引用し、「昭和44年の創業」、「第1回旭川ラーメン大賞最優秀賞受賞」、「旭川市で2店舗、北海道内で3店舗、海外で2店舗も展開している有名店です」などと記載されている。

このように、被請求人商品は、請求人の著名性に依拠して販売されているのである。

請求人は、これらの事情を把握していたものの、これまで被請求人と会長井上の妻が姉弟であることや本店と分店であることなどの事情があったため、事を荒立てることを望まず、苦情を言うことを控えてきた。

カ このように、被請求人は、請求人からののれん分けによって使用が許される梅光軒の名称を無断で利用し、請求人の著名性に依拠する形で被請求人商品を販売している。

キ それにもかかわらず、被請求人は、本件商標を取得したことを奇貨として、あたかも「梅光軒」の名称が自らのものであるかのように、そして請求人の著名性に依拠して販売していながら、被請求人の商品と請求人の商品が混同されるなどとして差し止め請求をするに至っている。被請求人のかかる行動からすれば、被請求人の本件商標の取得自体が公序良俗に違反するものとして、許されない。

本件商標の取得は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

(2)著名な略称(商標法第4条第1項第8号)

ア 請求人の商号は、「有限会社梅光軒」である。「梅光軒」は、ラーメン店として著名であり、以下述べるとおり請求人がこれまで築き上げてきたラーメン店としてのブランドを指すものである。そうすると、請求人の略称として著名である「梅光軒」の名称を商標登録することは請求人の承諾なくすることはできず、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。

イ 請求人及び梅光軒本店の成り立ち

請求人の創業は、昭和44年、請求外小川が個人事業として旭川市常盤通3丁目に設立したラーメン店「梅光軒」が始まりである。

請求人の前代表者である会長井上は、昭和46年、請求外小川との間で、梅光軒の屋号、梅光軒の店舗の利用権、什器備品、ラーメンの作り方など含む梅光軒の営業を一体として買い取り、梅光軒の営業を承継した。

会長井上は、その妻とともに「梅光軒」を個人事業として経営し続けた。会長井上は、昭和52年、旭川市5条6丁目に「梅光軒」を移転し、昭和53年、現在の請求人の本店所在地である旭川市2条通8丁目にも出店した。そして、昭和53年、会長井上は、請求人を設立して、個人事業であった「梅光軒」を法人化した。

請求人は、昭和55年、会長井上が旭川市2条通8丁目の店舗に移ったことから、同店を「梅光軒本店」と呼称するようになり、現在に至っている。

ウ 請求人の雑誌・書籍による紹介

請求人は、旭川ラーメンの著名店として、北海道内のみならず日本全国に流通する雑誌・書籍に「梅光軒」として多数紹介されている。

(ア)昭和62年11月30日、主婦と生活社が発行した「別冊angle No.32」は、全国のラーメン店609店舗を紹介する内容であるところ、旭川ラーメンの店舗として請求人を「梅光軒」として紹介している(甲2の1)。

(イ)平成5年10月25日、株式会社メディア出版が発行、株式会社星雲社が発売した「全国ラーメン食歩記」は、全国のラーメン店を紹介する内容であり、請求人を「梅光軒」として紹介している(甲2の2)。

(ウ)平成6年12月20日、株式会社ランダム・プレスが発行した、「ラーメン特選味100店 北海道版」は、請求人を「ラーメン専門店梅光軒」として、会長井上らの写真入りで後記のラーメン大賞受賞店として紹介している(甲2の3)。

(エ)平成12年2月4日、株式会社イエローページが発行した「極旨ラーメン100軒【北海道版】」は、北海道内のラーメン店100店を紹介する内容であるところ、請求人を「梅光軒」として紹介している。ちなみに、同誌において「梅光軒」は、旭川市内に7店舗、名古屋に1店舗とあり、全て本店のマスターの下で修行を終えたスタッフがのれん分けという形で出店していったと記載されている(甲2の4)。

(オ)平成12年12月25日、株式会社クリマコーポレーションが発行した「ラーメン道 2001年度版」は、請求人を「梅光軒」として紹介し、ている(甲2の5)。

(カ)平成15年1月20日、株式会社リクルート北海道じゃらんが発行した「じゃらん北海道発2003 1月号」で旨いラーメン店90軒の1店舗として、請求人を「梅光軒本店」として紹介している(甲2の6)。

(キ)平成16年11月15日、札幌テレビ放送株式会社が企画・監修し、株式会社イエローページが編集・発行した「STVどさんこワイドがラーメンの本を作りました!絶対ハズさないラーメン選び北海道版」は、請求人を「梅光軒本店」として紹介している(甲2の7)。

(ク)以上のとおり、遅くとも昭和62年以降、請求人は、「梅光軒」の名で多数の雑誌・書籍で紹介され、これらの雑誌・書籍に紹介されることで、北海道内だけでなく全国のラーメン愛好家、また道内を訪問する観光客ら需要者の間に広く認知され、著名であった。

エ あさひかわラーメン大賞受賞

(ア)株式会社北海道経済が発行する雑誌「月間北海道経済」は、平成5年4月から「あさひかわラーメン大賞」の企画を行い、「月間北海道経済 平成5年8月号」において、あさひかわラーメン大賞の店として請求人が「梅光軒」として選ばれ、掲載されている(甲3の4)。ちなみに中間発表において、請求人に対し被請求人(梅光軒豊岡店)は、読者からの投票数の差は大きくなっており、認知度の差が示されている(甲3の1〜甲3の3)。

(イ)このように、請求人は「梅光軒」として、「月間北海道経済」の読者をはじめとする旭川市民に広く認知されるとともに、愛好されており、その知名度は非常に高いものがある。また、「ラーメン大賞」受賞によって、さらに請求人の「梅光軒」の知名度が上がり、上記のとおり雑誌等の媒体で「あさひかわラーメン大賞受賞の店」として紹介されるなど、当初から高かった知名度がさらにあがることとなった。このため、請求人は、「梅光軒」として、旭川市を中心とする需要者の間で著名であった。

オ 読者投票による知名度

(ア)株式会社リクルート北海道じゃらんが発行した「じゃらんウェルカム北海道秋・冬編」では、旭川市内在住の読者100人のアンケートの結果旭川市内の人気ラーメン店として請求人が「梅光軒本店」として3位に選ばれたことが紹介されている(甲2の8)。

(イ)株式会社リクルート北海道じゃらんが発行した「じゃらん北海道発2000 12月号」では、読者アンケートの結果、道内のラーメン店で請求人が「梅光軒」として7位に選ばれたことが紹介されている(甲2の9)。

(ウ)株式会社リクルート北海道じゃらんが発行した「じゃらん北海道発2001 12月号」では、読者アンケートの結果、請求人が「梅光軒本店」としてしょうゆラーメンで第2位となるポイントを獲得したことが紹介されている(甲2の10)。

(エ)株式会社角川書店が発行した「北海道ウォーカー 2003 NO.24」にでは、旭川在往者へのアンケートの結果、請求人が「ラーメン専門店梅光軒」として12位及び16位に選ばれたことが紹介されている(甲2の11)。

(オ)株式会社角川書店が発行した「北海道ウォーカー平成16年12月21日号」に掲載された札幌ら〜めん共和国の来場者アンケートでは、札幌以外の店舗548件の中で4位として請求人が「ラーメン専門店梅光軒[本店]」選ばれている(甲2の12)。

(カ)株式会社リクルート北海道じゃらんが発行した「じゃらん北海道発2007新春号」に掲載されたラーメン通ランキングでは、請求人が「梅光軒本店」として第8位に選ばれている(甲2の13)。

(キ)以上のとおり、請求人は、多数の雑誌のアンケートにおいて、旭川市内のみならず北海道内の多くの需要者から「梅光軒」として著名となっており、愛好されていることが明らかである。

カ テレビ等による紹介(甲6)

請求人は、「梅光軒本店」の名前で、(ア)平成6年12月23日北海道放送「4時からワイド一番星」、(イ)平成5年8月7日朝日放送「朝だ!生です旅サラダ」、(ウ)平成9年11月24日東海テレビ「月曜日が待ち遠しい!」、(エ)平成10年8月29日北海道放送「旅コミ北海道」、平成13年11月22日札幌テレビ「どさんこワイド212」で紹介された。

請求人が「梅光軒」の名称でテレビにも多数取り上げられ、著名であることは明らかである。

キ 以上のとおり、請求人は、「梅光軒」として著名であることは明らかである。したがって、被請求人が「梅光軒」を含む商標を取得することはできない。

(3)他人の周知商標(商標法第4条第1項第10号)

ア 上記のとおり、請求人は、「梅光軒」としてラーメンの提供を内容とする役務において、旭川市をはじめ需要者の間では著名であり周知である。

イ 中華麺、即席めんなどの商品とラーメンの提供の類似性

(ア)本件で問題となっている、いわゆる有名店の名称を付した即席ラーメン等においては、店舗にてラーメンを提供するいわゆる有名店が製造・販売した、少なくともその監修の下で作成したことが前提となっており、同一の事業者によって行われていることが一般的である。

(イ)即席ラーメンは、購入者が自宅等でラーメンを食べる、ラーメンの飲食物の提供は来店者が店舗で提供されたラーメンを食べるといういずれも需要者が食するラーメンを提供するという同一の用途である。

(ウ)いわゆる有名店のラーメンにおいては、当該店舗でいわゆるお土産ラーメンとして即席ラーメン等が販売されることが多々あり、同一場所での提供が日常的になされる。

(エ)即席ラーメン及びラーメンの提供はいずれもラーメン愛好家、又は観光客などに対するものであり、同一の需要者を対象とするものである。

そうである以上、中華麺、即席めんなどの商品とラーメンという飲食物の提供の役務は、類似するものである。

ウ したがって、請求人によるラーメンという飲食物の提供において周知である商標「梅光軒」の文字を含み、類似の商品となる中華麺、即席めんなどの商品を目的とする被請求人の本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。

第3 被請求人の答弁

被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第26号証を提出した。

1 前提事実

(1)被請求人の販売商品とそれに関する経緯

ア 被請求人は、自ら経営するラーメン店におけるラーメンの提供だけを業務としていたが、関東圏に百貨店を展開する株式会社高島屋が即席ラーメンを作って販売しないかと依頼してきた。

被請求人は、スープ付きラーメン(生麺、乾麺)を開発しようと思い立ち、株式会社永谷園(以下「永谷園」という。)と藤原製麺株式会社等の全面的な協力を得て、平成16年1月から低温熟成乾燥麺の開発を始め、平成17年1月、商品を完成させ、これを「梅光軒三方麺」と名付けて販売を開始した(乙1、以下「被請求人商品」という。)。

販売を開始してしばらく後、被請求人は、永谷園法務部から、商品名を商標登録するべきであるとアドバイスを受け、本件商標を商標登録した。

イ 現在、被請求人商品は、日本全国で流通販売されており、食品卸会社各社や高島屋、山形屋、井筒屋、イトーヨーカ堂、イオン、ドン・キホーテ、ホクレン、ビッグハウス、ダイエー、旭川西武、西條、コープ旭川、ダイイチ、ふじスーパー等の百貨店・スーパーマーケットでの店舗小売販売、クロネコヤマト等でのカタログ販売などのほか、全道の「道の駅」、旭川駅、旭川空港、旭山動物園等々でも販売されており、さらにアマゾンジャパン株式会社が運営する通信販売ウェブサイト(以下「通販サイト」と呼ぶ。)「Amazon」、楽天株式会社、永谷園や被請求人自らの通販サイトその他複数の通販サイトにおいて通信販売されている(乙7、乙8)。

ウ 被請求人商品の月間売上個数は、約1万1000食、月間売上額は約150万円であり(乙6)、現在までの販売実績が100万食を超える大ヒット商品である。

(2)梅光軒の成り立ち

ア 「梅光軒」は、北海道旭川市に複数の同名店舗があるラーメン店群の名称であり、同市において一定の知名度を有している。

イ 「梅光軒」は、旭川市内の食堂「味一番」を改称・店舗移動したものであり、被請求人の属する管原一族によって開かれたものである。

(ア)管原鶴吉(以下「鶴吉」という。)は多数の職人を雇う板金業の経営者であり、その職人たちの賄いの食事は、その妻である管原タツヨ(以下「タツヨ」という。)が作っていた。この賄いの食事作りが発展して、昭和34年ころ、旭川市内に食堂「味一番」が開かれた(乙22、乙24)。名目上の経営者は鶴吉となっていたが、実質的経営者はタツヨであって、「味一番」のレシピは全てタツヨが考案した(乙24)。

夫婦の二男である被請求人、長女(結婚後は小川姓。以下「長女」という。)、三女(結婚後は井上姓。以下「三女」という。)は、子どものころから母タツヨの店の手伝いをして、自分たちも「味一番」のメニューの作り方などを覚えていった。このタツヨと3人の子(被請求人、長女、三女)が味一番から引き続く梅光軒の担い手であった。被請求人が中学生のとき、鶴吉が不幸な事故が逢い、タツヨも、夫の看護や子の世話のため一時「味一番」を閉店せざるを得なかった(乙22、乙24)。

(イ)しかしほどなく、タツヨと長女は再び食堂を開こうと考え、開店のための費用がないため、鶴吉の一番弟子の職人であり管原家と家族同然に付き合っていた荒に借金を申し込み、荒は、鶴吉・タツヨに多大な恩があったため、返してもらうというつもりもなく、開店費用40万円全額を支払い、さらに店舗物件の口利きから工事の差配までを取り仕切って、旭川市常磐に最初の「梅光軒」(常盤店)を開店させた(乙24)。

「梅光軒」という店の名称は、当時北海道紋別市に「梅光軒」という名のそば屋があり、長女の夫である小川の提案で、それをそのまま取ったものである。

したがって最初の「梅光軒」の出資者は荒、経営主体はタツヨであり、「味一番」と「梅光軒」は経営主体を同じくする同一実体の店である。

(ウ)「梅光軒」常盤店は、5〜6人入れば満席の狭い店であり、調理場も狭く、スペースの余裕がなかったので、「梅光軒」では「味一番」で人気だったラーメンにメニューを絞ったラーメン専門店にすることにした(乙24)。当然、ラーメンのレシピはタツヨの考案によるものであり、長女もこれを教わって、当初は2人で店を切り盛りした(乙24)。なお、長女の夫である小川は、当時タクシーの運転手として勤務しており、時おり出前を手伝っていた以外には全く「梅光軒」の経営に関わっていなかった。

やがてそこに三女が手伝いに来るようになり、店の営業に加わるようになった。さらに、当時旭川市内の会社に勤めていた三女の夫である井上が会社を辞め、店の営業に加わるようになった(乙24)。

このように、「梅光軒」常盤店は、タツヨ、長女、三女が主体になって経営されていたものであり、関係書類上に長女・三女の夫の名が出てくるのは、当時の社会風俗による便宜上のものに過ぎない。

請求人の主張によれば、「梅光軒」常盤店の経営主体が小川家から井上家に移ったということであるが、この時期のことを被請求人は知らないので、経営主体が移ったなどという主張自体認められないが、長女が健康を害した時期があることと関係があるかもしれない。

(エ)被請求人は、学校卒業後は電機会社に会社員として勤めていたが、昭和51年、父鶴吉の死をきっかけに、辞職してラーメン店を開くことにした(乙23、乙24)。

被請求人は、関係者全員の了承のもと、店の名を同じ「梅光軒」ということにし、開店資金を銀行から借りて、旭川市東2条4丁目のパークサイド藤というビルで「梅光軒」東店の開店準備を始めた。会社を退職したのが4月であって、そのとき既に店舗工事が着工されており、「梅光軒」(東店)は、その2か月後の6月に開店した(甲4の1)。

被請求人は、店舗工事の着工と同時に、ラーメン作りの勘を取り戻すため、タツヨ・井上夫婦らがいる「梅光軒」常盤店に一時入り、6月にはタツヨと共に「梅光軒」東店を営業開始した。

つまり、被請求人が常盤店にいたのは僅か2か月にも満たない期間であり、その目的は母タツヨから教わったラーメン作りの方法を思い出すためである。

(オ)「梅光軒」常盤店と東店は、店舗の名称とタツヨの考案を引き継ぐレシピが同じというだけであって、全くの独立経営であって相互に対等無関係であり、それは当時から現在まで変わらない。

関係者が店舗の区別をするために「常盤店」「東店」「○○店」と呼び習わしてはいたが、その後さらに「梅光軒」が増えたときも「本店」「支店」という区別は全くなく、どの店舗も単なる「梅光軒」であった(乙24)。

東店の開店を「分店」と関係者は呼んでおり、いわゆる「暖簾分け」という言葉のイメージと近いものはあるかもしれない。しかし「暖簾分け」という語は法令又は判例上の定まった定義などはないし、その定義がどうあれ、当時から現在まで、請求人が主張するが如きの上下関係などは一切存在しないし、請求人の経営する店舗が「梅光軒」の大本などという事実自体がそもそもないのであって、したがって許諾の必要などがあるはずがない。

(カ)「梅光軒」は、常盤店と東店ができた後、三女の井上家が旭川市二条通8丁目に二条店を開き、さらに旭川市五条通6丁目に五条店(現在は閉店)が開かれたものであり、被請求人は、東店の経営を第三者に譲って五条店の経営を2年間引き継いだ後、現在も経営している豊岡店を開くに至るのであるが、この間、請求人又は井上家の許諾など必要がなく、得てもいない。当然、請求人又は井上家から何らかのクレームが来たことは一切ない。

現在、旭川市内には、被請求人が経営する豊岡店と旭川市九条通13丁目の「梅光軒 お持ち帰りラーメン専門店 三方麺」という店舗、長女の小川家が経営する南店、三女の井上家(請求人)が経営する二条店・永山店のほか、東店、神居店、末広店、東光店の9店舗が存在する。

これら各店舗は、被請求人、長女の小川家、三女の井上家のいずれかから派生したものであり、どの店舗も完全な独立経営である。

そして、請求人が主張するような「暖簾分け」の利用許諾などはなく、これを証する契約書等の書面が存在しないことは請求人が自認している。

(キ)ところが、井上家が二条店を開いた後のあるとき、突然、他の店舗に何らの断りもなく、二条店に「本店」と表記を入れ、自らを勝手に「本店」と自称するようになった。

このとき、長女の小川家と井上家で大きな喧嘩になっているが(乙24)、井上家は態度を改めることなく、結局、そのまま現在まで「本店」を自称し続けている。

二条店は、税金対策のために法人化して有限会社梅光軒となっており、その後、法人名義で開いた複数の店舗がある。

以上のとおり、「梅光軒」のうち、請求人が会社名義で開いた各店舗には本店支店の法律関係があるが、請求人・被請求人・その他第三者の経営店舗は全く独立対等の関係であって相互に上下関係は存在しない。

ただし、「梅光軒」がこのような成り立ちであることは、旭川市民も一般に知るところではなく、漠然と「梅光軒グループ」があるものと認識していると考えられ、後記するように、請求人はホームページなどにおいて、他の独立店舗まで自己の支配下にあるかのような印象を抱かせる記載をして、他店の知名度・風評を自己のために利用している。

(ク)「梅光軒」の提供するラーメンという内実に目を向けると、当初「梅光軒」は加藤ラーメンという業者から麺を仕入れていたのであるが、被請求人が自家製麺を始め、それを「梅光軒」各店舗に配り、長女の小川家に作り方を教えるなど、最初の革新を行い、請求人ら他店舗がそれに追随した。

即席ラーメンについても、被請求人が独自の製法を研究して人気商品を開発した後に、外観を似せた商品の販売を請求人が開始した。

請求人は、観光客への土産物用に、旭川市や周辺市町村で即席ラーメンを販売し始めているほか(乙2、乙3)、請求外株式会社とかち麺工房に製造・販売を委託して、ローソン・サンクスなどのコンビニエンスストアで「梅光軒」と名付けたカップラーメンを売ろうとした(乙3、乙4)。

被請求人が商標権者としてクレームを述べたため、コンビニエンスストア用のカップラーメンは撤去されている。

被請求人は、これまで土産物用の即席ラーメン販売時に請求人や製造元の製麺会社に対してクレームを述べていたが、ことごとく無視されていた。

しかし、コンビニエンスストア用のカップラーメンを被請求人に対して何らの断りもなく販売するに至って、その差し止めを求めて提訴し、訴訟が現在も係属中である(旭川地方裁判所平成24年(ワ)第115号商標権侵害行為差止等請求事件)。

(ケ)即席ラーメンの開発・販売も、梅光軒関係者が誰も行っていないときに、被請求人が最初に始めたものであり、商標登録を行うにあたっても、即席ラーメンの属する第30類だけを範囲とし、第43類の役務「ラーメンの提供」には登録をしていない。ところが請求人は、被請求人が即席ラーメンの属する第30類に商標登録している事実を知るや、他の独立店舗に一切何の断りもなく、突然、第43類「店舗におけるラーメンの提供」について「梅光軒」の商標登録を行った(乙26)。請求人は、本審判において公序良俗違反の主張をなしているが、請求人のかかる第43類への商標登録こそが公序良俗に反するものと言うしかない。

(コ)これまでの「梅光軒」の歴史は、被請求人が自家製麺の開始や即席麺の開発・販売など進取の行動を取ると、請求人が模倣するという歴史であった。

以下に詳述するが、被請求人が自己の商品たる即席ラーメンにつき第30類に商標登録することは、ラーメン店におけるラーメン提供を何ら妨害するものではなく、請求人の主張には理由がない。

2 商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)に該当しないこと

(1)請求人の主張について

ア 前記したとおり、請求人が商標の名称が由来する大本であるという事実はない。

請求外小川らが、請求人ないし会長から暖簾分けを受けたとの主張につき、被請求人は事情を知らないが、暖簾分けの意味が特定されておらず法的に無意味な主張である(暖簾分けに関する書面が存在しないことは請求人が自認しており、各店舗は独立経営である。)。なお、南店は長女の小川家の経営店舗である。

イ 請求人が提出する箸袋(甲5)が共通というのは、各店舗間で共同して使用している物品が幾つかあったというものに過ぎず、請求人の主張の裏付けになるものではない。

永谷園のインターネットサイトにおいて請求人の情報を誤って表示していたことは事実であるが、既に該当ページは削除している。これは、永谷園の通信販売サイトの作成者が梅光軒の成り立ちを知らなかったため、単に勘違いしたものに過ぎないし、指摘を受けるまで被請求人は全く認識していなかったものである。

被請求人は、請求人の著名性になど全く依拠しておらず、事実はその逆であって、被請求人は請求人よりも遙かに著名周知性を獲得しており、請求人が被請求人の著名性に依拠して類似商品を後から販売しているものである。

(2)前記1に詳述したとおり、(ア)被請求人の経営店舗と請求人の経営店舗は全く対等独立であり、(イ)「梅光軒」の祖は「味一番」と「梅光軒」常盤店を開いたタツヨであって請求人ではなく、(ウ)被請求人が「梅光軒」の名称の使用を始めたのはタツヨをはじめとする関係者の了解に基づくものであり、その後この名称を使用するのに第三者の許可などは必要とされておらず、しかもそもそも、タツヨではなく請求人に許可の権限があるとする理由がない。

したがって、商標法第4条第1項第7号が請求人の主張に適用されるべき法条であるかどうかという問題を一旦措くとしても、いずれにせよその主張には理由がない。

3 商標法第4条第1項第8号(著名な略称)に該当しないこと

(1)商標法上の用語である「周知」すなわち「需要者の間に広く認識されている」という状態を超えて、「著名」というには日本国内全域に知れ渡っている状態でなければならない。

(2)請求人の提出証拠について

甲第2号証の3ないし13の雑誌は、せいぜい北海道内でしか発行されていないことが明らかであり、甲第3号証の雑誌「北海道経済」は、北海道旭川市及びその隣接市町村でしか販売されていないローカルな地元誌に過ぎない。甲第2号証の1、2だけは、北海道内を越えて販売されていた可能性が否定できないが、昭和62年、平成5年と発行時期が非常に古く、近時発行されたものは提出されていない。

また、テレビ等での5回の紹介(甲6)中、3回は、北海道内の一部地域でしか放映されていないものであり、2回は、その内容はスポット的なものに留まる。

以上のとおりであり、「著名」とは、全国的に、あるいは世間一般に広く知られているという状態を指すのであるから、提出される証拠から商標法第4条第1項第8号の著名性を認めることは不可能である。

(3)著名周知性の対象の問題

また、著名性(及び周知性)の関係は、そもそも単に「梅光軒」と呼ばれるとき、それが何人を表示するものとして使われているかの問題がある。

いうまでもなく「梅光軒」とは、被請求人の商号そのものであり、登録商標そのものであるし、他の独立経営されている複数の「梅光軒」の商号そのものでもある。

旭川市民をはじめとする一般人は、単に「梅光軒」と名を聞くとき、市内に点在するラーメンチェーンのような存在として認識しているはずであり、同一商号の独立経営店舗複数から成っていると知る者はほとんどいない。

請求人も、広告等においては単に「梅光軒」と称し、他の独立店舗が自己と無関係であるとは一切明らかにせず、かえって自己と上下関係のある支店であるかのように見せている。

そうすると、一般市民は、「梅光軒」という表示に対して、請求人・被請求人・その他の梅光軒一切を含む曖昧架空の「梅光軒グループ」なるものを認識するはずであるから、例え請求人が広告において自己の店舗の所在地等を掲載しているとしても、一般市民の認識は決して請求人の略称ではなく「梅光軒グループ」に向けられるものといえる。

(4)被請求人の著名周知性について

ア 次に指摘されなければならないのは、被請求人が経営する「梅光軒」及び被請求人商品の著名性・周知性が、請求人とは比べものにならないほど大きく、かつ広範囲に及んでいるという事実である。

すなわち、被請求人は、全国的に著名な百貨店高島屋グループや関係百貨店と契約を結び(乙9)、毎年開催の北海道物産展に必ず出展しており、平成16年に日本橋高島屋、平成17年には日本橋、横浜、玉川高島屋及び遠鉄百貨店、平成18年には日本橋、横浜高島屋、平成19年には新宿、高崎、柏、大宮高島屋、平成19年には新宿高島屋で出展し、この際に各百貨店の商圏における各戸に対して折り込みチラシを配布している。また、平成20年10月30日、日本テレビ系の「爽快情報バラエティー スッキリ」において高島屋大北海道店が取り上げられ、その中でも被請求人経営の「梅光軒」は一番最初に紹介されている。なお、被請求人が高島屋に出展するときは、イートインとして被請求人経営の「梅光軒」のラーメンを提供するとともに被請求人商品の販売も行っており、店舗と商品の両方が宣伝広告の対象となっている(乙10ないし乙17、乙21)。

イ 北海道内に限っても、被請求人経営の「梅光軒」及び被請求人商品は、スーパーの折込チラシなどに掲載され、その知名度は、請求人よりも大きい(乙18ないし乙20)。

ウ 少なくとも旭川市内においては、請求人が提出する証拠によって、請求人の著名周知性が獲得されたなどという事実は認めえないものであり、被請求人の得た著名周知性に請求人が依拠するという関係がある。また、旭川市内ないし北海道内という一地域を超えた全国的な著名周知性については、被請求人経営の「梅光軒」又は被請求人商品に向けられたものであることは、前記の全国的宣伝広告状況から明らかなことといえる。

4 商標法第4条第1項第10号(他人の周知商標)に該当しないこと

(1)商品・役務間の類似性の不存在

ア 「即席ラーメン」と「店舗でのラーメン提供」については、これと同じくその商品・役務間の類似が争われた東京高等裁判所平成11年3月23日判決(合議体注:平成10年(行ケ)第236号)は、両者は類似しないと明確に判示しており、これは本件にも先例として適用されなければならない判例である。

イ また、即席ラーメンは、店舗でラーメンを提供する役務とは、用途が同一ではなく、通常の販売場所もことなり、需要者も異なる。

ウ 以上のとおり、本件商標の指定商品と請求人が主張する役務との間には類似性がない。

(2)請求人に係る周知性の不存在

ア 商標法第4条第1項第10号に係る「周知」とは、一地方のものにあっては足らず、全国的、あるいは少なくとも数都道府県にまたがる需要者(一般公衆)の間で広く知られている状態でなければならない(最高裁判所昭和60年9月17日判決(合議体注:昭和58年(行ツ)第100号)等多数)。

そうすると、商標法第4条第1項第10号にいう周知の程度はより強く広範なものでなければならないから、本件に即していえば、北海道内の数市町村の範囲では周知というに足りないことになる。

イ 請求人は、その殆どの店舗が旭川市内にあり、他には札幌市に2件、新千歳市に1件の店舗があるに過ぎない。

店舗におけるラーメン提供(第43類)という役務においては、どれほど宣伝広告しても、実際に店舗がない地域で周知性を獲得するのは不可能である。したがって、正確に言えば、請求人が宣伝広告によって周知性を獲得可能な範囲とは、「旭川市・札幌市・新千歳市」という一地方内の数市町村に留まるのであり、「北海道内全域」であるとさえいえない。

実際に、請求人の提出する証拠は、前記3(2)で述べたとおり、その周知性を何ら証明するものではない。

ウ そして、「梅光軒」と単に呼ばれるときの周知性の対象が、請求人だけを指すものではあり得ないことについては、前記3(3)(著名周知性の対象の問題)で述べたことと同じであるから、本項でも援用する。

また、被請求人の「梅光軒」及び被請求人商品が獲得している著名周知性が、旭川市内又は北海道内においても請求人のそれより大きく、全国的に見れば知られているのは被請求人だけであることは、前記3(4)(被請求人の著名周知性について)で述べたとおりである。

エ 以上のとおりであるから、請求人において商標法第4条第1項第10号にいう周知性の要件を満たすことはなく、その主張に理由がない。

5 結論

以上のとおりであり、請求人の商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号に係る主張のいずれも理由がなく、請求人の請求は成り立たない。

第4 当審の判断

請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号に違反して登録されたものであると主張しているので、順次検討する。

1 商標法第4条第1項第7号について

(1)商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができないと規定しているが、ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合であるばかりではなく、当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合や当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(平成17年(行ケ)第10349号 平成18年9月20日知財高裁判決言渡し 参照)。

請求人は、「被請求人は、昭和51年、会長井上の元で修行し、同年、会長井上からのれん分けを受けて、『梅光軒東店』を開業した。」と主張し、また、「被請求人は、商標を取得したことを奇貨として、その商標の名称が由来する大本である請求人に対して差し止め請求をしている。このような目的での請求人の本件商標の取得自体が公序良俗に違反する。」と主張している。

そこで、以下、本件商標が、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠き登録を認めることが商標法の秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当するかについて、検討する。

(2)本件のれん分け行為について

ア 「梅光軒」の開業と請求人の関係について

被請求人が提出した陳述書(乙24)によれば、要旨以下の陳述があることが認められる。

(ア)「梅光軒」は、陳述者である荒が資金を提供し、板金加工業を営んでいた鶴吉の妻タツヨとその長女により開業されものであること。

(イ)その後、「梅光軒」には、タツヨの三女も加わり、三女の夫であり、請求人の前代表者である会長井上が店に加わったこと。その後、三女夫妻が当該「梅光軒」の営業を引き継いだとの話があること。

(ウ)その後、タツヨの子である被請求人が、勤務していた電機会社を辞めて旭川の別の場所でラーメン店「梅光軒」を開業したこと。

(エ)もともと「梅光軒」に本店も支店もなく、どの店も「梅光軒」として独立してやっていたと記憶していること。

(オ)請求人が「本店」を名乗ったとき、請求人と長女(夫婦)間で争いになったことを耳にしたこと。

(カ)請求人の「梅光軒」が一番上に立つ店であるかのような請求人の主張は違っていること。

イ 請求人による「梅光軒」の開業について

請求人による「梅光軒」の開業について以下の事実が認められる。

ラーメン店「梅光軒」は、昭和44年、請求外小川(菅原タツヨの長女夫妻)により旭川市常盤通3丁目に設立され、同46年、会長井上は、請求外小川から当該「梅光軒」の営業を承継したこと(請求理由の趣旨、乙24、甲4の2)。

会長井上は、「梅光軒」を個人事業として経営し続け、同52年、旭川市5条6丁目に「梅光軒」を移転し、同53年、現在の請求人の本店所在地である旭川市2条通8丁目にも出店した。そして、同年、会長井上は、請求人を設立して、個人事業であった「梅光軒」を法人化し、旭川市2条通8丁目の店舗を「梅光軒本店」と称するようになり、現在に至っていること(請求理由の趣旨、乙24)。

ウ 被請求人による「梅光軒」の開業について

電機会社に勤めていた被請求人は、昭和51年、父の死をきっかけにして、旭川に戻って、昭和51年6月2日に旭川市東2条4丁目においてラーメン店「梅光軒」を開業し、同59年6月に同店を廃業、その後、同60年5月31日に旭川市豊岡7条2丁目において再び「梅光軒」を開業して、平成23年6月に同店名を「旭川梅光軒」に変更して現在に至っていることが認められる(甲4の1、答弁の趣旨)。

エ 請求人の主張について

以上によれば、会長井上は、「梅光軒」の創業者である、請求外小川(タツヨの長女夫妻)ないしタツヨから営業を引き継いだということができるものの、少なくとも請求人(以下、「請求人」というときは、会長井上を含む場合がある。)と被請求人との関係は、被請求人が請求人からのれん分けを受けるような関係にあったとはいうことはできないものである。

なぜならば、被請求人は、昭和51年に父の死をきっかけに、勤務していた会社を辞めて旭川市東2条4丁目において「梅光軒」を開業したのであるが、同店の開店は同年6月2日であり、その開業準備期間も考慮すれば、この短期間に、被請求人が請求人により営業内容について指導を受け修行をした結果、のれん分けを受けるという行為があったということは、いささか不自然であり、むしろ、被請求人の、「(被請求人が)会社を退職したのが4月であって、そのとき既に店舗工事が着工されており、『梅光軒』(東店)は、その2か月後の6月に開店した(甲4の1)。被請求人は、店舗工事の着工と同時に、ラーメン作りの勘を取り戻すため、タツヨ・井上夫婦らがいる『梅光軒』常盤店に一時入り、6月にはタツヨと共に『梅光軒』東店を営業開始した。被請求人が(請求人の)常盤店にいたのは僅か2か月にも満たない期間であり、その目的は母タツヨから教わったラーメン作りの方法を思い出すためである。」との主張に合理性があるものと判断される。

そして、上記の被請求人の主張は、会長井上からのれん分け受けたとされている他者の修行期間が約3年ないし15年であることに比べれば、首肯しうるものである。また、この点、「35年間変わらぬ味を守り続けている老舗の人気店。・・・マニュアルが一切存在せず、それ故にのれん分けも本店で10年以上修行を積んだ者に限り許されるという。」との記事も見うけられるところである(甲2の7)。

他方、当該のれん分け行為があったことを示すものとしての、請求人から被請求人に対する商号又は商標の使用の許諾及び請求人からの統制としての許諾の解約その他の制限条項を約した契約書などの証拠は提出されていない。

よって、「被請求人は、昭和51年、会長井上の元で修行し、同年、会長井上からのれん分けを受けて、『梅光軒東店』を開業した。」との請求人の主張は、採用することはできない。

この点について、請求人は、被請求人は平成23年まで、梅光軒の分店であることを示す「梅光軒豊岡店」を名乗っており(甲4)、梅光軒各店舗共通で使用していた箸袋を使用しており、そこには被請求人の店舗は「梅光軒豊岡店」と記載されている(甲5)と主張している。

しかしながら、乙第24号証の、「もともと『梅光軒』に本店も支店もなく、どの店も「梅光軒」として独立してやっていたと記憶している」旨の陳述があることよりすれば、被請求人が「梅光軒豊岡店」を名乗り、甲第5号証に示された箸袋を使用していたとしても、そのことをもって、被請求人が請求人からのれん分けを受けて営業をしていたとの証左ということはできないものである。

(3)被請求人による本件商標の登録の経緯について

被請求人は、本件商標の登録を受けたことについて、請求外株式会社高島屋(以下「高島屋」という。)から、即席ラーメンを作って販売しないかとの依頼を受けたこと、また、被請求人は、請求外永谷園と請求外藤原製麺株式会社等の全面的な協力を得て、平成16年1月からスープ付きラーメン(生麺、乾麺)の開発を始め、同17年1月、商品を完成させ販売を開始したこと、そして、請求外永谷園法務部から、商品名を商標登録するべきであるとのアドバイスを受け、本件商標を商標登録をした(合議体注:出願日は平成20年3月21日であり、設定登録日は同年8月29日である。)旨主張しているところである。

この被請求人の主張には不自然なところはなく、被請求人と高島屋間の平成16年9月26日付け消化仕入取引契約書(乙9)をも含めて検討すれば、この点に関する被請求人の主張は是認しうるものと判断される。

(4)本件商標の指定商品と請求人の役務

本件商標の指定商品は、前記したように「中華そばのめん」ほか、商品・役務の区分第30類の商品であって、請求人の取り扱いに係る役務「ラーメンの提供」とは異なるものである。

しかも、本件商標登録出願前に請求人が、「中華そばのめん」、「スープ付きラーメン(生麺、乾麺)」などの商品を販売していたことを示す証拠はない。

(5)商標法第4条第1項第7号該当性についての判断

以上によれば、被請求人が請求人からのれん分けを受けたという請求人の主張は採用することはできず、また、被請求人が本件商標の登録を得たのは、請求外永谷園法務部のアドバイスによるものであり、しかも、本件商標の指定商品は、請求人の取り扱う役務とは、商標の使用対象が異なる、商品「中華そばのめん」ほかの商品である。

そうであれば、本件商標の登録出願の経緯に、請求人の営業を妨害する目的や不正の目的など、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあったとすることはできず、本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標ということはできないものである。

そして、仮に、前記の請求人の主張が認められるものとしても、その主張は、請求人と被請求人との間の私的な利害に関わるものであって、商標法第4条第1項第7号のいう、公の秩序の維持に関わる事項とは、関係のない主張というべきである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたということはできない。

2 商標法第4条第1項第8号について

商標法第4条第1項第8号は、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」と規定されているところ、請求人は、請求人は「梅光軒」として著名であることは明らかであるとして、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当すると主張している。

そこで、請求人の提出する甲各号証を検討するに、甲第2号証、甲第3号証及び甲第6号証は、例えば、「ラーメン味と店の大特集」(甲2の1)、「ラーメン特選味100店」(甲2の3)、「決定!!あさひかわラーメン大賞の店」(甲3の4)などとして、請求人店舗若しくは他の「梅光軒」の店舗が紹介されているが、「梅光軒」は、店舗名として記載されているにすぎず、乙第5号証の箸袋に記載されている「梅光軒」についても同箸袋に記載されている各店舗の総称として記載されているものであり、その他各甲号証を見ても「梅光軒」が請求人「株式会社梅光軒」の略称として使用されている事実は皆無である。したがって、「梅光軒」が請求人の略称として著名であるとは認めることができない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。

3 商標法第4条第1項第10号について

請求人は、甲第2号証及び甲第3号証(いずれも枝番を含む。)を提出して、「梅光軒」は、役務「ラーメンの提供」において、旭川市をはじめ需要者の間では請求人の商標として周知である旨主張し、また、中華麺、即席めんなどの商品とラーメンという飲食物の提供の役務は類似すると主張している。

そこで、以下、この請求人の主張について検討する。

(1)「梅光軒」の経営主体と周知性について

ア 上記の甲各号証は、いずれも請求人の営業にかかるラーメン店「梅光軒」についての記事であるところ、甲第2号証の3ないし甲第2号証の13の雑誌の発行元の住所は札幌市であることから、これらの雑誌は、主として北海道内で発行されたものといえ、読者層が全国に及んでいるということはできないものである。

また、甲第2号証の1、2についても、発行元の住所が東京都であるものの、販売地域、販売数、発行数、販売期間等が不明であるうえ、発行時期が昭和62年及び平成5年であり、近年発行されたものは提出されていない。

さらに、甲第3号証(枝番を含む。)の雑誌「北海道経済」も、主として北海道内で販売されたものと判断され、読者層が全国に及んでいるということはできず、ここにおける「ラーメン大賞」の応募も旭川を中心とした北海道内の読者によるものである。

なお、請求人の主張するテレビ番組で「梅光軒」が取り上げられた事実はあるが、平成5年8月、平成6年12月、平成9年11月、平成10年8月及び平成13年11月の5回にすぎず、しかもその内3回は北海道内のテレビ局制作による番組であることから、北海道内で放映されたものである。

イ 以上によれば、「梅光軒」は、請求人の経営するラーメン店の名称として本件商標登録出願前に旭川市を中心とした北海道内において、一定程度の周知性を獲得していたということができる。

他方、本件商標登録出願前の実情を推し量ることができる乙各号証によれば、被請求人も、平成16年10月20日に東京都日本橋の高島屋で行われた催事(乙10)、同18年4月19日に横浜高島屋で行われた催事(乙11)、同年10月4日に日本橋高島屋で行われた催事(乙12)、同月25日に東京の玉川高島屋で行われた催事(乙13)において、役務「ラーメンの提供」を行っており、そのことが同催事のチラシにより宣伝広告されていることよりすれば、被請求人が、役務「ラーメンの提供」に使用する「梅光軒」の商標も、本件商標登録出願前に取引者・需要者間において、ある程度知られていたということができるものである。

そして、請求人及び被請求人の主張の全趣旨並びに提出された証拠によれば、本件商標登録出願当時、旭川市内には「梅光軒」の名称を冠したラーメン店が複数存在していたことが認められるところ、これらの店舗には、請求人の経営にかかる旭川市2条通8丁目の「本店」、請求人からのれん分けを受けたものの請求人の支店ではない店舗(甲2の4、ここには「『梅光軒』は、旭川市内に7店舗、名古屋に1店舗を構える人気ラーメン店だ。計8店とはいえ、フランチャイズは1軒もなく、すべて、本店のマスターの下で修行を終えたスタッフが、のれん分けという形で出店していった店だ。」との記載がある。)、被請求人の経営にかかる「豊岡店」、タツヨの長女夫妻が経営する「南店」、被請求人の妻の妹が経営する「東店」(乙第22号証)などがあり、これらは、互いに経営主体が異なるということができるものである。

また、「ラーメン大賞」の選定を報道した甲第3号証の1ないし3によれば、その対象店舗として、請求人の店舗のほかにも、被請求人の店舗をはじめ、「梅光軒(南3−23)」、「梅光軒(末広東1−4)」、「梅光軒(東2−4)」、「梅光軒(東3−5)」との店舗も、請求人とは別に、「ラーメン大賞」の選定対象店として、ランク付けされていることが認められる。

そして、請求人が「本店」を名乗っていることについて、少なくとも、請求人と被請求人との間及び請求人とタツヨの長女夫妻との間においては、争いがあることが認められるものである(乙24)。

以上によれば、旭川市で営業をしている「梅光軒」との名称のラーメン店は、その全てが請求人の営業にかかるもの、ないしはその支店ということはできないものである。

そうであれば、役務「ラーメンの提供」について使用されている、商標「梅光軒」が獲得している一定程度の周知性は、請求人の店舗の知名度による割合が高いとしても、それをひとり請求人が獲得したということはできないといわなければならない。

したがって、役務「ラーメンの提供」に使用されている、「梅光軒」との商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人のものとして、取引者、需要者の間で広く認識されていたと認めることはできないものである。

(2)商品「中華そばのめん」と役務「ラーメンの提供」との類似性

商品と役務の間には類似の関係があるといえるところ(商標法第2条第6項)、その類似関係を検討するに際しては、(a)商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか。(b)商品と役務の用途が一致するかどうか。(c)商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうか。(d)需要者の範囲が一致するかどうかを基準に、個別具体的に判断するのが相当である。

以下、これに基づき本件について検討する。

ア 商品「中華そばのめん」は、主として製麺業者からラーメン店に譲渡されたり、食料品店を経由して一般消費者に販売されるものである。これに対して、役務「ラーメンの提供」は、ラーメン店において提供されるものであり、商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によることが一般的であるということはできないものである。

イ また、商品「中華そばのめん」の用途は、食品である「ラーメン」の材料として販売されるものであり、役務「ラーメンの提供」の用途は、ラーメン店において顧客に当該役務を提供することであるから、食品の材料としての用途と、顧客に提供する役務の用途において違いがあるといえるものである。

ウ そして、役務「ラーメンの提供」の提供場所において、商品「中華そばのめん」が販売されていることはある程度認められるものであるが、これが一般的な取引の実情ということはできないばかりか、商品「中華そばのめん」の販売場所において、役務である「ラーメンの提供」が行われているという実情が一般的であるとはいえず、商品「中華そばのめん」の販売場所と、役務「ラーメンの提供」の提供場所が一致するということはできないものである。

エ さらに、需要者の範囲は、ともに一般の消費者であるものの、当該需要者は、商品「中華そばのめん」を購入するという目的、役務「ラーメンの提供」を受けるという目的のもと、当該商品及び役務には需要目的をたがえて接しているというのが相当である。

以上によれば、商品「中華そばのめん」と役務「ラーメンの提供」とは、上記した(a)ないし(d)の基準に照らせば、両者間に類似の関係があるということはできず、両者は互いに類似しないというべきである。

この点についての請求人の挙げる理由は、(a)有名ラーメン店の名称を付した即席ラーメンが当該有名ラーメン店により製造・販売されていること、(b)商品「中華そばのめん」と役務「ラーメンの提供」を、「ラーメンを食べる」という用途に限定していること、(c)有名ラーメン店において、お土産ラーメンとして即席ラーメン等が販売されていること、(d)即席ラーメンの販売とラーメンの提供がラーメン愛好家又は観光客という同一の需要者を対象になされていることであるが、それらは、当該商品・役務についての特殊的、限定的な局面におけるものであり、その指定商品・役務全般についての一般的、恒常的な取引の実情を基にしたものではないから、この点に関する請求人の主張は失当である。

(3)商標法第4条第1項第10号該当性についての判断

以上によれば、請求人が役務「ラーメンの提供」に使用する商標「梅光軒」は、請求人の商標として、需要者の間に広く認識されているということはできず、また、商品「中華そばのめん」等と役務「ラーメンの提供」は類似するということはできないものである。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。

4 むすび

以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同8号、同10号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項により、無効とすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

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